ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「楽園のカンヴァス」

2012年10月24日 | 書籍関連

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ニューヨーク近代美術館(MoMA)学芸員ティム・ブラウンは、スイスの大邸宅で在り得ない絵を目にしていた。MoMAが所蔵する、素朴派巨匠アンリ・ルソー大作」。其の名作と同じ構図、同じタッチの作が目の前に在る。持ち主の大富豪は、真贋を正しく判定した者に作品を譲ると宣言、ヒントとして謎の古書を手渡した。

 

真贋を見極めるライヴァルは、日本人研究者の早川織絵(はやかわ・おりえ)。タイム・リミットは7日間。ピカソとルソー。2人の天才画家が生涯抱えた秘密が、今、明かされる。

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「ルソー」という名前から、思い浮かぶ人物は?「哲学」を 学んだ方ならば真っ先に思い浮かぶのは、「社会契約論」等を著し政治哲学者のジャン=ジャック・ルソー氏だろう。高校時代に履修した「倫理社会」の授業で、自分も彼の名を知った。

 

そして絵画に造詣の深い方ならば、20数年間、パリ税関で職員として働いていた、素朴派の画家アンリ・ルソー氏の名前が真っ先に思い浮かぶ事だろう。

 

中学だったか高校だったか忘れてしまったが、美術の教科書を開いた時、印象に残った作品が幾つか在った。点描画のジョルジュ・スーラ氏、美人画竹久夢二氏、抽象絵画ワシリー・カンディンスキー氏、キュビズムのパブロ・ピカソ氏等々の絵がそうだが、「鬱蒼とした森の中、ソファーの上に全裸で横たわる1人の女性。そして、そんな彼女を草木の間から見詰める動物達。」という構図の不思議な絵「夢」もそんな1つ。此の「夢」を描いたのがルソー氏。

 

【「夢」】

 

絵心が全く無い自分が言うのも不遜極まり無いけれど、ルソー氏の絵は決して上手いとは思わない。巨匠と呼ばれる他の画家達の技法からすれば、見劣りする部分が在るのは否めない。でも、彼の絵には何とも言えない魅力、見ている者の心をグッと惹き付ける何かが在るのも、又、事実なのだ。

 

スイスで生まれ、フランスで育ったルソー氏は、其れ以外の国を訪れた事が無いと言われている。そんな彼が異国情緒たっぷりで、幻想的とも言える「夢」を想像力で書き上げた訳だ。自宅に乍らインターネット等で溢れ許りの情報に接せられる現代ならいざ知らず19世紀終盤から20世紀初頭を生きた彼ならば、相当な想像力が必要だったろう。

 

1枚の絵の真贋を見極める“闘い”を軸にして、ルソー氏、そして彼と同時代を生きたピカソ氏や市井の人の姿を描いた小説「楽園のカンヴァス」(著者:原田マハさん)。此の作品は第25回(2012年)山本周五郎賞を受賞し、第147回(2012年上半期直木賞の候補作にもなった。又、「2012年に上梓された作品で、No.1の内容!」等、高い評価をネット上等で良く見掛ける。「そんなにも読み応え在る作品なら、読まないといけないな。」と、読む事にした。

 

卑弥呼平清盛徳川家康ガイウス・ユリウス・カエサルナポレオン・ボナパルト等々程の“距離感”は無いだろうけれど、ルソー氏やピカソ氏と言えば一般的には「歴史上の人物」というイメージは在るだろう。そんな歴史上の人物で在る彼等の“息遣い”が聞こえて来そうな程、此の小説では彼等の日常が触れられている。大学卒業後に美術関連の仕事に従事し、MoMAでも働いていたという著者(フリーキュレーターでも在る。)、当然の事として美術関連の知識は豊富だろうし、だからこそ、恰も目の前で彼等の生活を見て来たかの様な文章が書けるのだろう。

 

生前は高い評価を得られなかったが、没後に高い評価が得られる様になった芸術家というのは少なく無い。ルソー氏の場合も生前はピカソ氏等少数の理解者は居たものの、一般的には全く評価されていなかった。そして没後、彼の作品を高く評価する人達が多く出て来たけれど、其の技量を「稚拙」と評価しない者も少なく無いと言う。好き嫌いがハッキリ分かれる画家の1人と言っても良いだろうけれど、そんな彼の不遇時代を暗く描くのでは無く、1人の女性(『夢』のモデルと思われる女性・ヤドヴィガ。)との関係を絡め、サラッと描いているのが良い。

 

、「物語の中の物語(古書の中の物語)」という事も在って、ルソー氏と其の周りの人達との関係の描かれ方は、どうしても浅く感じてしまう。又、ミステリーとしての観点からすると、謎解きは余り面白く無い。

 

絵画、そして画家への関心を高める小説では在るが、巷間言われている程には、自分は高い評価を与えられたなかった。総合評価は、星3つ


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