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準大手飲料メーカー・シガビオの御曹司、志賀成功(しが なりとし)が、何者かによって別荘に監禁された。彼は取締役就任と、意中の女性・山科早恵里(やましな さえり)との交際を目前にしていた。
半年後、絶望の中で解放された成功が会社に行くと、社内の状況は一変し、嘗ての彼のポストには突如現れた異母兄・玉手実行(たまて さねゆき)が入れ替わっていた。そして実行は、早恵里にも近付こうとしている。
「奪われた物は、奪い返さなければ。」。成功は、事件の真相と自らの復権を賭けて奔走するが・・・。
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雫井脩介氏の小説「互換性の王子」は、「準大手飲料メーカーを舞台に、トップの座を目指して張り合う異母兄弟の姿を描いた作品。」だ。飲料メーカーの内幕が描かれていたりしていて面白いのだけれど、従来の雫井作品とは大分“毛色”が異なり、雰囲気的には“池井戸潤氏の作品”を彷彿させる。
唯、池井戸作品程に魅了されなかったのには、2つの理由が在る。1つは、内容面での“粗さ”。其の最たる部分が、成功が監禁されるという設定。後になって“監禁の目的”が明らかになるのだが、“諸々の状況を好意的に考え合わせても”、「社長の御曹司が、半年もの間“不明”な状態で居続ける。」というのは無理が在る。
そしてもう1つは、登場人物達に余り感情移入出来ない点。「此の手の作品は概して、“良い者”と“悪い者”が明確に描かれ、其の事が結果的に爽快感を生み出したりする。」物だけれど、「互換性の王子」の場合はキャラクター設定が稍“中途半端”なので、どうしてもモヤモヤ感が残ってしまう。
トップとして必要な“非情さ”というのは理解出来るが、そういう部分でもモヤモヤ感が残ってしまうし、「“親子3人の関係性”が、もっと良い方向で終わったら良かったのになあ。」という残念さも在る。実行の“最後の言葉”が無かったら、もっと残念さは募ったろうけれど・・・。
「世の中に“取り換えが効かない(互換性の無い)物”なんて、そうは無い。」というのは、長きに亘る社会人生活で判ってはいるが、改めてそう認識させられた作品では在る。
総合評価は、星3つとする。