ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「同志少女よ、敵を撃て」

2022年02月28日 | 書籍関連

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独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナ他、村人達が惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。

「戦いたいか、死にたいか。」。そう問われた彼女は、イリーナが教官務める訓練学校で、一流の狙撃兵になる事を決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するに。

同じ境遇で家族を喪い、戦う事を選んだ女性狙撃兵達と共に訓練を重ねたセラフィマは、軈て独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラード前線へと向かう。夥しい死の果てに、彼女が目にした“の敵"とは?
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第11回(2021年)アガサ・クリスティー賞の大賞を受賞した小説同志少女よ、敵を撃て」(著者逢坂冬馬氏)。賞は2010年に創設された歴史の浅い“長編推理小説公募新人賞”で在るが、「同志少女よ、敵を撃て」は選考委員4人全員が5点満点を付けた、史上初の受賞作。だとか。其れだけでも凄いが、文壇デビューを果たした此の作品が、第166回(2021年下半期)直木賞の候補作になった(受賞はしなかったが。)というのだから、本当に凄い

独ソ戦が激化する時代、ドイツ軍と戦う赤軍の女性狙撃兵達を描いた作品で、時代背景や銃撃シーンの描き方、ストーリー展開、登場人物達のキャラ立ち等、とても新人作家とは思えない達者さ。「デビュー作にも拘らず、直木賞候補に選ばれた。」というのも当然か。

ゲーム感覚で描かれる戦闘シーンが“小説の世界”でも少なからず在るけれど、「同志少女よ、敵を撃て」での其れは、非常に生々しくてぞっとする。幾つかの名が登場するけれど、ロシアによるウクライナ侵攻」が現在進行形の今だからこそ、ソ連ウクライナに触れた部分は、過去を描いているとはいえ、寒々しい気持ちになってしまった

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復讐を遂げるという目標によって生きる理由が生じる。そして過酷な戦闘を戦う意義が生まれる。思えば無数のソ連人民の動機もまた、復讐にある。それが国家に基づくものであれ、家族に基づくものであれ、復讐を果たすという動機が、戦争という、莫大エネルギーを必要とする事業成し遂げ、それを遂行する巨大国家を支えているのだ。
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「他国の脅威怯える余り、自国の戦力増強に走る。」という事を、自分は100%否定はしない。でも、「戦力増強こそが、自国を守る唯一の手段。」とも思わない。戦力増強競争は結局の所、“無限ループ状態”に陥るだけで、際限が無い事だから。重要なのは「何れの国家で在っても、『自らの事しか考えず、自らに対して少しでも異を唱える存在を、力尽くで排除する様な指導者。』を生み出さない努力を怠らない。」という事だと思う。そういう指導者が生み出されてしまったら、世界は破滅の道に進むだけだから。

面白くて、一気に読み終えてしまった。総合評価は、星4つとする。


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2 コメント

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Unknown (悠々遊)
2022-02-28 17:19:34
こんにちは
giants-55さんが高評価のこの作品、ジャンルとしてはあまり食指の動かない分野ですが、読んでみたくなり、早速図書館に予約。
戦力増強つまり軍拡は無限ループ状態に陥るだけならまだしも、結局は経済規模が小さいく弱い方が先に破綻してしまい、戦わずして経済戦争で国を失うことになると思っています。
一方今回のロシアのように大きな戦力と核兵器を背景に、強引な外交を押し通してくる相手にどう対処するのが正解なのか、日本も近隣に難しい外交相手を抱えているだけに、悩ましいところですね。
表舞台で脚光を浴びるようなことは無いけれど、相手国の内情を揺さぶり弱体化させるような、したたかな外交術が国力の弱い国には必要なのかもしれません。
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>悠々遊様 (giants-55)
2022-03-01 01:58:40
書き込み有難う御座いました。今回は、此方にレスを付けさせて貰います。

表紙のイラストが“少女漫画風”だった事も在り、読むのを躊躇していたのですが、高い評価を目にする事が多く、手に取った次第です。

強かな外交術、古今東西を問わず、国家にとって最も必要とされる要素だと思います。「座して死を持つ。」というのは論外ですが、だからと言って「戦力増強に汲々とする。」というのは、結局の所“国家の自滅”に繋がると思うんです。

今回の“ロシアによるウクライナ侵攻”を受け、「だから憲法改正をすべきなのだ!」とか、「日本も核兵器を持つべきだ!」という主張をする人達が出て来ている。「本当に必要なのかどうかを議論する。」事は否定しないけれど、「生意気な国には、ミサイルを撃ち込んで黙らせれば良い。」といった短絡的思考は、非常に危険。
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