胃生検の小部屋 Cottage for Gastric Biopsy

胃生検からはじまる消化管病理の美しい世界

日韓の診断基準

2008-08-11 | 胃腺腫
 韓国の消化管病理のニューリーダーが1週間私のところに滞在し、胃腺腫と分化型腺癌の診断基準について討論した。彼女の主たる目的は私の胃型(幽門腺型)腺腫(PGA)コレクションをみることであった(4月には加国のリデル先生が来られて、PGAコレクションをみて感激してもらった)。PGAにとどまらず、最近韓国で経験された胃腺腫、早期胃癌、再生異型などの症例を100例ほど持参され、日常業務や外勤を後回しにして、徹底的に討論した。彼女は現在、韓国を代表する企業が経営する巨大メディカルセンターの病理医であるが、その病院には韓国中から胃癌患者が集中し、胃外科切除が昨年度は1800例、ESDも数百例あるようで、その経験数は半端ではない。ESD標本も大変美しい。
 韓国の消化管病理ではこれまで米国の診断基準が普及しているが、彼女のように早期胃癌や腺腫を日本並みあるいはそれ以上に経験しているとその診断基準では間に合わなくなってきているように思えた。たとえば、ソウルでGastric adenoma with high-grade dysplasia (HGD)と生検診断され、1-2年の経過観察後、ESDや外科手術されたものをみるとかなりの確率で粘膜下層に浸潤しているか、少なくとも明らかな粘膜固有層内浸潤が観察できるのである。このような生検標本をノーヒントで多数見せられた(試された?)が、我々の基準ではほとんどが初回生検で分化型腺癌と比較的簡単に診断できた。
 したがって、韓国の消化管腫瘍の診断基準は米国基準からかなり日本基準にシフトしてきている。実際一緒に鏡検していると、「日米良いとこ取り」という感じであった。
 私が採用している胃腺腫の診断基準は、近年箱根を越えて、日本のなかでも「東京基準」でかなり幅の狭いものになってきた。つまり、表面は平坦、直線的管状構造、基底側に配列する細長い紡錘形核、トップダウンの増殖パターンを基本的に全て満たすもののみを腺腫にしている。これを少し外れると癌ということに対しては異論も多いと思うが、実際そのようなものをESDして詳細に観察すると浸潤像に遭遇する確率が、日韓いずれの症例でも高いのである。
 現時点、彼女の診断基準で感じたのは以下の様なことである。
1) 絨毛腺腫の存在をある程度認めている。以前、絨毛腺腫と診断していたものでも、現在は乳頭腺癌と考えるようになった症例も多いようである。
2) 多少核が丸みを帯びていても腺腫と診断する(但しHGDと記載)。しかし、極性の乱れが目立ち始めると癌にしている。
3) 絨毛腺腫やHGDが日本で癌と診断されることはよく知っている。このような症例では、粘膜固有層内浸潤を懸命に探される。
4) 胃型(幽門腺型)腺腫の存在は認めているし、ソウルでも最近多数経験されている(いくつか見せてもらった)。しかし、アブラハムのいう腺窩上皮型腺腫(日本では胃型腺癌と診断されることが多い)も一応認めている。
5) 手繋ぎ癌(横這い癌、低異型度小腸型腺癌)も完全に理解している。
「日韓診断合戦」の症例写真も撮りためたので、今後アップしていきたい。
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