たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

砂電車の冒険 (28)

2009年05月03日 16時44分17秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-7)

 「奈美、手伝って!」
 海人君と奈美ちゃんは力を合わせてリールを引っ張りますが、渚君を砂の中から引き上げることができません。
「渚、足首をまっすぐにして!」
 怒鳴るように海人君が叫ぶと、渚君は砂に埋まった足を必死で動かします。
 「いち、にい、さ~ん!」
 二人が後ろにのけぞるように再びリールに力をこめると、渚君の足が“ズズズ~”砂から少しずつ抜け始めました。
「奈美、もう少しだ、ガンバレ!」
 二人は尻もちをつくように砂の上に倒れ込みました。
「渚、大丈夫?」
 海人君は渚君に一声かけるのが精一杯で、その場に座り込んでしまいました。
 しばらくしてようやく気を取り直した海人君は、渚君の身体に着いた砂を払い落しながら大スリバチの頂に目をやりました。
 すると先ほどまであった、砂丘駅も砂電車の姿も見えなくなっていました。
「お兄ちゃん、砂電車が見えないよ!」
 奈美ちゃんは心配そうに海人君の顔を覗き込みました。
「奈美、大丈夫、大丈夫、大スリバチの頂上まで帰れば、きっと砂電車は待っていてくれるから」
 海人君は不安を振り払うように、力強く立ち上がりました。
「奈美、渚、早く帰ろう!」
 海人君が渚君のお尻を押し、奈美ちゃんはチロに引きずられるように、大スリバチの急な砂山を登っていきました。
 三人はようやく山頂にたどり着きました。
しかし、そこには砂丘駅も砂電車の姿もありません。
 薄暗くなった頂には、“ザザザ~、ザザザ~”、寂しく響く日本海の波音が聞こえるだけです。
「お兄ちゃん怖いよ~、早くパパ、ママに会いたいよ~」
 渚君は大粒の涙を流し泣き出してしまいました。
 海人君は渚君と奈美ちゃんを両脇にしっかり抱え空を見上げました。
すると薄暗くなった夜空に輝く一番星が涙でかすみ、ぼんやり浮かんで見えていました。


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