たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

からす天狗の恩返し (2)

2011年04月27日 17時13分26秒 | カラス天狗の恩返し

 

 

 

 

仁翔が薄汚れた衣の袖から針金のようにやせ細った腕を伸ばし、傍らに置いてあった小枝を手に取り“ポキリ、ポキリ”折って囲炉裏にくべると、辺りに“ぼんのり”とした温かい灯が戻り二人を照らした。

 

そして仁翔は黙り込んだまま囲炉裏を見つめていた、勇翔を諭すように静かな口調で話し始めた。

 

「わしがこの洞窟に住むようになって、もう、かれこれ七十年なる。若いころは、里に下りては、村人をからかい、いたずらし、驚かせたこともあった。

そのため村人からは、嫌われ、恐れられることもあった。しかし、わしは、身を隠しては里に下りて、人々を見守り、村人の平穏な暮らしを祈ってきた」

 

そこまで言うと、仁翔は、また小枝を取って囲炉裏にくべて話を続けた。

 

「自然の摂理というものは、わしの長い経験や知識を持ってしても、想定外の事態が起こるものだということを身に沁みて知らされた。

自然を甘く見たわしの負けじゃ。そのため、冬の備えも間に合わず、お前にはひもじい思いをさせてしまった。

わしは老いて、もういくばくも生きられぬと思う。勇翔、お前は、まだ若い、僅かな食料しか残っていないが、何としてもこの試練を乗り越え、わしの志を継ぎ、里の人たちの平穏な暮らしを見守るのだ!」

 

仁翔の言葉には、即身成仏の悟りでも開眼したかのような、穏やかで深みに満ちた響きがあった。

 

うつむいたまま、黙って仁翔の話を聞いていた、勇翔の眼からは大粒の涙が滝のように流れ落ち囲炉裏を濡らした。

 

「おじいちゃん、おじいちゃん、おじいちゃんがそんなことを言ったら、僕だって生きていけないよ!」

 

勇翔が声を詰まらせ、仁翔の薄い胸板にすがりつくように泣き崩れると、仁翔は勇翔の肩を、やさしく包み込むように抱きしめてたしなめた。

 

その夜、勇翔は寝床に入ってもまんじりともせず、どうしてこの苦悩と試練をのり越え、恩義ある仁翔の命を守ろうかと頭を巡らしている中に朝を迎えてしまった。

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カラス天狗の恩返し (1)

2011年04月25日 11時25分57秒 | カラス天狗の恩返し

伯耆の国、中国山脈にそびえる大山の山ふところの渓谷の元谷に、若い勇翔(ゆうしょう)と年老いた仁翔(じんしょう)という二人のカラス天狗の住む洞窟があった。 

 

ある年のこと、神無月に入り、山々の紅葉もようやく色づき始めたころ、例年になく早い初雪が降った。

 

いつもの年なら、すぐに消えてしまう初雪が、この年は何日も降り続いて、野山をすっぽりおおってしまった。

 

この大雪には、焚き木や食料などの冬越しの準備をしていなかった、カラス天狗は大変に困った。

 

こんなに早い、そして大量の初雪は、年老いた仁翔でさえ、これまで一度も経験したことのない出来事であった。

 

一夜のうちに、数十里を駆け巡ることの出来る、超人的な力を持つカラス天狗といえども、この大雪にはなすすべもなく、しだいに食料も底をついていった。

 

そんな、ある日の夕暮れ、勇翔と仁翔がロウソクの炎のように、さびしそうに燃える囲炉裏を挟んで座っていると、仁翔が囲炉裏に掛けた、鍋の底にわずかに残った雑炊をさらうように掬い、勇翔の椀に盛った。

 

「勇翔、今夜の食べ物はこれだけしかない、我慢してくれ!」

 

と言って勇翔の前に置いた。

 

「おじいちゃん、おじいちゃんの分は残ってないだろう。これ、分けて食べようよ!」

 

勇翔が仁翔の椀に、雑炊を半分わけて入れようとすると 

 

「わしのことは心配せんでもいい、食べろ!」

 

と勇翔を睨みつけるように言った。

 

勇翔は椀には箸もつけず、消えかかった囲炉裏の炎を見つめたまま黙り込んでしまい、二人の間に長く重苦しい沈黙が続き、囲炉裏の炎は途絶え辺りは暗くなっていった。

 

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私のアグリライフ 4/25(山菜の王様タラの苗木)

2011年04月25日 11時04分22秒 | 私のアグリライフ

先日、農協の直売場に出掛け、店内を回っていて珍しいものを見つけました。

それは、タラの苗木。

苗木の入った袋には「山菜の王様タラの芽」と書いてありました。

長さ10㎝くらいの苗木が5本入って950円。

少し高いかな? 

さっそく買って帰り、畑に植えました。

さて、何時になったら

山菜の王様の味覚を楽しめることやら。

(平成23年4月24日)

  

「 ジャガイモの芽が大きくなり始めました。これから摘心、根元に土盛をします。」

 

「 露地栽培のイチゴに、白いかわいい花が咲き始めました。」

 

「花壇に咲く花々」

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私のアグリライフ 4/21 (初めての家庭菜園)

2011年04月21日 16時18分54秒 | 私のアグリライフ

私は三年前に定年を迎えたのを機に、耕作放棄地の畑を借りて家庭菜園を始めました。

耕作放棄地には、背丈くらいの雑草が生えていましたが、それをツルハシ、スコップ、クワなどを用いて、人力で開墾を始めたのです。

一年目は15坪ほど開墾して、初めての野菜作りから始めましたが、三年を過ぎた今では、300坪くらいの広さに、20種類ほどの野菜を作っています。

もちろん自然農法で栽培し、家で食べる野菜は冬場の一時期を除いては、ほとんど自給自足しています。

あまりにも畑を広げすぎて、今は手に負えず、四苦八苦の日々。

この、折々の様子を、野菜、花木などの発育状況と合わせ「私のアグリライフ」で掲載していきたいと思っています。

「どうなることやら、いつまで続くやら?」

【私が開墾した畑の全景です。種蒔き、苗の植付け準備中】

「少し芽が出ているのはジャガイモです」

 

 【手前から、夏豆・えんどう豆・玉ねぎ・大根・イチゴの順に植えています】

【青色のネットの中にはトウモロコシを300本植えました】

 

【ここはくだもの畑の風景です】

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お地蔵さんは百面相 その一

2011年04月19日 17時01分46秒 | 朝の散歩

 

日本海はうす藍色に輝いている。 

朝陽を浴びた白波が、銀板の上でもすべるように眩しく打ち寄せる。

 

おはようございます。

今日も一日よろしくお願いします。

 

赤い毛糸の前だれを掛けた、お地蔵さんに手を合わせた。

お地蔵さんは、やさしく微笑んでいる。

 

子供たちが里帰りをする。

お地蔵さんは、嬉しそうに笑っている。

 

仕事につまずいた。

お地蔵さんは、睨みつけるように励ます。

 

子供が風邪をひいた。

お地蔵さんの、慈愛に満ちたまなざし。

 

妻と喧嘩した。

お地蔵さんは、怒り顔。

 

父が亡くなった。

お地蔵さんも、寂しそう。

 

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お地蔵さんって百面相?

 

 

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幻の“はまぼうふ” その一

2011年04月15日 15時39分13秒 | 雲雀のさえずり

私は昭和45年ごろの数年間、鳥取県東部の岩美町に住んでいたことがある。

卯月から皐月のころになると、海辺の砂浜に“はまぼうふ”を採りに出かけたものである。

当時でも、“はまぼうふ”は貴重な植物で、生息している場所も限られ、なかなか収穫するのは難しかった。

それでも“はまぼうふ”が持つ、独特の陽春の香りを求めて探しまわったものである。

しかし、乱獲や、環境悪化などにより、生息場所が狭められ、次第に姿が見えなくなってしまった。

もう、山陰の海辺からは、自然に生息する“はまぼうふ”は絶滅してしまったのでは、とも思っていた。

ところが、昨年、たまたま遊びに出掛けた山陰の某浜辺で、偶然 “はまぼうふ”を発見。

まさか、まさか、半信半疑で周辺を探してみると、かなり広範囲にわたり生息しているではないか。

この場所、まだ誰にも知られていない様子。

40数年ぶりの大発見、誰かに知らせ喜びを共有したい。

自慢もしたい、そんな思いに耐え、私だけの秘密の城にすることにしている。

先日、その浜辺で40数年ぶりに、自然に生息している“はまぼうふ”を収穫し、陽春の香りを満喫した。

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しののめの日本海

2011年04月10日 17時25分41秒 | 朝の散歩

しののめの日本海、島根半島が蜃気楼のようにかすんで見える。

朝の陽をうけて、淡いさくら色に耀く沖合には、五・六隻の白い舟が海鳥のように浮かんでいる。

そのなかを、一隻の漁船が白波をたてながら沖合へと消えて行く。

近くでは、ワカメりょうをする海人たちの桶が、大きな口をあけ“ゆったり、ゆったり”浮かび、海鳥がよりそうように泳いでいる。

“サァサァサァ~、サァサァサァ~、サァサァサァ~”岸辺に波が囁くように寄せ、シャボンのような泡を立て戯れている。

大震災以来、くらい話題ばかりの日々。

こんなに穏やかで平穏な朝を、被災された方々と分かちあうことができたらどんなに心が安らぐことだろう。

 

 

 

 

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