たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

からす天狗の恩返し (6)

2011年06月25日 17時14分06秒 | カラス天狗の恩返し

透き通るような日差しが燦々と白銀の世界に降り注いで、誠輝と礼香の目の前に神秘的な情景が広がり、真空地帯にでも迷い込んでしまったような感覚に襲われ呆然と立ちすくんだ。

 

しばらくたって、ようやく我に返った二人が、眼前に広がる大野池の岸辺へと下りて行くと、池には白く氷が張り、まわりは深い雪に覆われていた。

 

「お兄ちゃん、椿、どこにも見えないじゃない」

 

「そうだネー・・・・」

 

礼香が“じ~っと”自分の顔を見ているのに気づくと、誠輝は具合悪そうにそっと視線をそらした。

 

それでも誠輝は、何とか寒椿を見つけようと眼を凝らして、覗き込むように池の周りを探した。

 

すると、対岸の断崖で雪崩でも起きたのか、雪がはがれ落ち、断崖と池の狭間で針葉樹が顔をのぞかせ、雪がこんもりと盛り上がっていた。

 

「礼香、あそこを見てごらん」

 

礼香は誠輝の指先に視線を移した。

 

「お兄ちゃんはあそこを見てくる。礼香はここで待っていて!」

 

「礼香、一人で待っているのは寂しい、私も連れていって」

 

礼香は誠輝の着物の袖をつかんで離そうとしない。

 

「それなら礼香も一緒に行こう」

 

誠輝は静かに池に下りると、氷の厚みを確かめるように“トントン”と、足で氷を踏みつけた。

 

「礼香、大丈夫、カンジキを外して下りておいで!」

 

雪面に手をおき、土手をすべり台でも滑るように下りてくる礼香の身体を、誠輝は“ギュッ”と抱きしめた。

 

礼香は“ホォ-”と頬を赤らめ、ふざけたように誠輝の額に“チュ”とキスをした。

 

「こら、何する!」

 

誠輝の顔も、ほんのりと赤らんだ。

 

二人が氷の張った池を、手を取り合って断崖下に見えていた針葉樹の近くまで来ると

 

「ウ・ウ・ウ・ウ・・・・・・・」

 

得体に知れない呻き声が微かに聞こえ、二人はギョとして立ちすくんだ。

 

「お兄ちゃん、何の声だろう?」

 

「何だか、雪の中から聞こえてきたようだったな~」

 

誠輝は断崖の下に、茶碗を被せたようにこんもりと盛りあがった小さな雪山に近づくと、小鳥のさえずりでも聞くように耳をそば立てた。

 

「何の声も聞こえないよ。礼香、確かに、このあたりから声がしたよな?」

 

誠輝が雪山の中を確かめるように、恐る恐る上に登ろうとすると

 

「ウ・ウ・ウ・ウ・・・」

 

と、また奇妙なうめき声が聞こえた。

 

「もしかしたら、人が雪の中に埋まっているのかもしれない?」

 

誠輝の身体から血の気が引き、心臓は“ドキドキ”高鳴り、早く助け出さなくてはとの思いに駆られ、必死で小山の雪を掘りはじめた。

 

しかし、日陰で凍み、固くなった雪は、忍耐力と腕力に自信を持っていた誠輝にも、容易に掘り進むことはできなかった。

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夜明けまへ

2011年06月18日 11時39分31秒 | 雲雀のさえずり

今は夜明けまへ ただそれだけ

あたりには 鳥のさえずりが聞こえる

ただそれだけ ただそれだけ

きのうの 約束 もう忘れてしまった

 

今は夜明けまへ たった一つだけ

夢のなかで ささやいた女(ひと)の顔

だけれども その女はいない

その女は どこかに消えたしまった

 

今は夜明けまへ 陽がさしてきた

私は お地蔵様に 手お合わす 

人びとは 朝日のなかに 笑みをかわすだろう

そして また あたらしい 一日がまわりだす

 

私も ・・・・・・・ ただそれだけ  ただそれだけ

 

【なつかしい味のする 野イチゴ】

 

【甘酸っぱい味のする 桑の実】

 

 

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幻の“はまぼうふ” その二

2011年06月15日 17時32分09秒 | 雲雀のさえずり

 車の往来もない曲がりくねった海沿いの道

 

岬の向こうに砂浜がみえる

 

荒れ茂った雑草の中から

 

ぼんやりと小さな白い花がさみしそうに囁いている

 

誰かを待つ田舎娘のかすり姿のように

 

波は心臓の鼓動のように

 

浜辺に波紋をえがく

 

砂浜は生きている

 

はまぼうふも生きている

 

わたしも雑踏の中を生きてきた

 

静かな浜辺だ

 

彼方に遠く水平線がみえる

 

わたしは追憶の中に少年の顔をみる

 

母の顔 16歳で亡くした父の顔がくっきりと浮かぶ

 

 【浜辺に生息する野生のはまぼうふ】

 

                         

                         

                         

                         

 

                        

                        

 

                       

                 【ここはどこでしょう】

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私のアグリライフ (2011.06.10)

2011年06月10日 14時05分41秒 | 私のアグリライフ

私の家庭菜園には欠かせない大切な相棒が、心臓を患い倒れました。

 

彼が姉の家から我が家に嫁いできた時は、とっくに平均寿命を過ぎた高齢でした。

 

彼はいつも軒先での生活、体にはシミやシワが目立ち、古傷の痕も痛々しくなっていましたが、風雪に耐えながら私に協力してくれていました。

 

しかし、天候の悪い時などには、時々機嫌をそこね

 

「ご主人様、俺も早く雨風のしのげる家に住まわせてもらえまいか」

 

と無言の抵抗をしているようでした。

 

私は彼の願いを無視し続けていましたが、相棒の重大事、これは医師に見せなくてはと訪問診療を依頼しました。

 

医師

「胃に大きなガンができて、食物の消化不良で血液の流れが滞って、心臓が悪くなっています」

 

「どうすれば治してやれることができますか?」

 

医師

「胃の全摘出、取り換え手術が必要です」

 

「費用はどのくらいでしょう。費用が嵩むようなら手術は諦めます」

 

医師

「4・5万円は掛かるでしょう」

 

「こんな安っぽい胃に4・5万も?」

 

 

「おい、お前。もう十分に生きただろう、観念して墓場に行くか?」

 

「ご主人様、これまで風雪・雨風に耐え一生懸命働いてきたのに、それは酷というものですよ!」

 

「でもな~ お前、手術してももうそんなに長くは生きられないぞ!」

 

医師

「大丈夫ですよ、胃の手術さえすれば心臓も治りますし、他はいたって健康ですよ」

 

「お前、ホントにまだそんなに生きたいのか?」

 

彼」

「そりゃぁ~そうですよ、いくつになっても死にたくはありませんよ」

 

「治ったら、本当に一生懸命に働くだろうな~」

 

「はい、ご主人様、死んだ気になって働きますから助けてくださいよ!」

 

「こんな老いぼれ、5万も賭けて手術する価値があると思います?」

 

医師

「手術さえすれば、足腰はしっかりしていますから、まだまだ働きますよ」

 

「それではしかたない、手術してやってください」

 

ということで、私の相棒、耕運機君の燃料タンクの取替とシリンダー等の修理をすることにしました。

 

その後、耕運機君のための小屋を1週間がかりで建ててやると、耕運機君は大変喜び、前にも増してよく働くようになりました。

 

                                                おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修理代4万700円なり。

燃料タンクって、なぜこんなに高いの?

 

 

 

ホームセンターから材料を購入し、家内と二人で建てた農機具小屋です。

材料費132,000円なり

 

 我が家の愛犬 チャピーです。よろしく

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からす天狗の恩返し (5)

2011年06月08日 16時56分07秒 | カラス天狗の恩返し

厚く空を覆っていた雪雲が東の空に去り、冬の短い太陽が、雲の合間から顔をのぞかせた。

 

鋭い日差しが、深い雪に埋もれていた田畑に降り注ぎ、プリズムのように反射して、白銀の雪原へとしだいに塗り変えていった。

 

その中を、藁ぐつにカンジキ姿の、誠輝(せいき)と礼香(あやか)の二人の兄妹が、大野池の岸辺に咲く寒椿を探しにやってきた。

 

兄の誠輝は15歳、まだ、どこかに少年のような面影は残していますが、何事にも動じない勇気と胆力を備え、精悍な引き締まった顔立ちは、紀州犬を思わせる清々しくて誠実実直な若者で、肩にロープをタスキに掛け腰には鉈を差しています。

 

また、妹の礼香は丸い大きな瞳、スミレのような素朴な香りの中に幼年の面影を残し、チワワのように可愛いく心やさしい11才の女の子です。

 

雪原の中にカンジキを放り出すようにして “グイ、グイ、グイ”と力強く歩く誠輝の後を、必死に、追いすがる礼香の姿は、まるで親ペンギンの後を追う、よちよち歩きの、赤ちゃんペンギンのようにぎこちなく可愛そうにも見える。

 

誠輝が礼香の手を引いてやろう近寄ると、大きなカンジキがそれを阻む、誠輝は礼香を気遣ってゆっくり歩いているつもりでも、体力差は歴然としており、二人の距離は瞬く間にひらいてしまう。

 

「お兄ちゃん、待ってよ~~、もう少しゆっくり歩いて!」

 

礼香は距離がひらくたびに、怒ったように大声を張り上げて誠輝を呼びとめる。

 

「ゴメン、ゴメン、もう少しゆっくり歩くから、お兄ちゃんの足跡を伝っておいで」

 

こんな会話を何度も何度も繰り返しながら、二人はようやく雪原を抜けて、クヌギやナラの木などの生い茂る雑木林に入って行った。

 

クヌギやナラの木には、大小の雪玉が綿菓子のようになって積もり、枝先では、雪が蒼白く凍りつき、晩冬の日差しを受けてキラキラと美しい氷の花を咲かせていた。

 

二人が雑木林の中を歩いていると、枝に積もった雪がパウダーのよう砕け散り“パラパラパラ”と頭上から降り注ぎ、霞のように流れていく。

 

 さらに雑木林の奥深く進むに従い、木々が両側から覆い被さるように迫って渓谷へと入って行った。

 

深い雪に埋もれた谷底をしばらく上っていると、突然、小山のような大岩が渓谷を塞ぎ行く手に立ちはだかった。

 

「礼香、この大岩を越えると大野池はすぐ近くだよ!」

 

誠輝が言った。

 

「お兄ちゃん、こんな大岩どうやって登るの。礼香、とっても登れそうにないよ・・・・・」

 

礼香は不安そうに誠輝の顔を覗き込んだ。

 

「礼香、お兄ちゃんが先に大岩の上に登ってロープを下ろすから、それをつかんで登れば大丈夫だよ!」

 

誠輝はいとも簡単そうに言い残すと、渓谷の斜面に生えた木々の枝をつかみながら“スイスイ”と大岩を迂回して斜面を登り頂に立った。

 

「礼香、ロープを下ろすからしっかりつかむんだ~」

 

「お兄ちゃん、怖いよ~」

 

「礼香~、お兄ちゃんがついている、信頼して登っておいで~」

 

誠輝は礼香がロープを握ったのを確かめると、ロープの片方を近くの木にくくりつけ、“ゆっくり、ゆっくり”引き上げ始めた。

 

「礼香~、ロープを放すんじゃないぞ~」

 

礼香は岩に積もった雪に足を取られながらも、誠輝の引くロープに導かれ、一歩、一歩、また一歩、足場を固めながら登りはじめ、どうにか大岩の頂までたどり着いた。

 

「礼香、よく頑張ったな」

 

誠輝は固く握っていたロープを手から放し、礼香の手を取って大岩の頂上に引き上げた。

 

「ほら、礼香、あそこを見てごらん」

 

礼香が誠輝の指先に目をやると、白く輝く雪原の中に、二人の暮らす村の家々の屋根がマッチ箱のように浮かんで見えた。

 

 

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