たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

砂電車の冒険 (7)

2010年07月17日 08時49分02秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 1-7)


必死で吠え、叫ぶ、チロの様子を見ていると、海人君はチロがいじらしくなってきました。

「パパ、チロも連れて行こうよ!」

海人君が懇願するように、陽朗さんと砂千子さんの顔をのぞきこむように見つめると

「そうだな~。 チロだけ残しておくのもかわいそうだ、連れて行こうか?」

陽朗さんは車庫に置いてあった段ボール箱にチロを入れると、最後部の荷台に乗せました。

「出発するよ!みんな車に乗って」

陽朗さんのかけ声で、大海さん一家はエステマに乗り込みシートベルトを締めました。

運転手は陽朗さん。ナビゲーターは海人君、後部座席には砂千子さんと奈美ちゃん、そしてチャイルドシートに渚君が座りました。

陽朗さんはみんなのシートベルトを確認すると、海人君に指示を出します。

「海人、左側を見て!」

「左、OK」

海人君が答えます。

「右よし、左よし」

陽朗さんが左右の確認をしアクセルを踏み込むと、大海さん一家を乗せたエステマは白兎海岸に向け静かに走り出しました。

エステマは左手の日本海の青い海を眺めながら順調に進み、北条砂丘へとさしかかりました。

「パパ、今何時?」

海人君がたずねました。

「もうすぐ9時30分になるよ!」

「あ!風車が見える」

奈美ちゃんが叫びました。

しだいに近づくと、風車は三枚の大きな羽を空に向かって広げ、そそり立つように並んでいます。

「お兄ちゃん、何機あるか数えてみようよ」

海人君と奈美ちゃんは、エステマの横を流れていく風車を数えはじめました。

「いち、にい、さん、・・・・・きゅう」

「ママ、9機もあったよ!」

奈美ちゃんがうれしそうに後ろを振り返って眺めていると、風車はしだいに小さくなり、エステマは山陰道の急な上り坂へとさしかかりました。

高台から眺める日本海はコバルトブルーに輝き、無限の波の粒が白波となり、まぶしく浜辺に押し寄せていました。



  作 嵯峨風流    絵 高那ひつじ

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砂電車の冒険 (6)

2010年06月12日 12時49分06秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 1-6)

カーテン越しに春のやわらかな陽ざしが、海人君の顔に降り注いでいます。

“パッ”と飛び起きた海人君が二階の窓を開け外を眺めると、空は青く晴れ渡り、頬を流れる風は少し肌寒ささへ感じさせます。

「ママ、おはよう!」

海人君がキッチンに降りると、砂千子さんはお弁当づくりをしています。

「今日はよく晴れそうよ!よかったわね~」

砂千子さんは“ニッコリ”と海人君を振りかえり

「パパと奈美は潮干狩りに行く準備をしているわよ!」

海人君が大急ぎで着替えを済ませ外に出ると、陽朗さんは愛車の白いハイブリッドカー(トヨタ・エステマ)に、黄色なパラソル、青色のシート、クーラーボックスなどを積み込んでいます。

「パパ、バケツとスコップ持ってきたわよ!」

奈美ちゃんは潮干狩りの道具を陽朗さんに渡しています。

「パパ、僕もお手伝いしようか?」

海人君が声をかけると

「ママに車に載せるもの、残っていないか聞いて」

海人君はキッチンに引き返しました。

「ママ、車に載せる荷物は残ってない?」

砂千子さんは居間のバッグを指さしながら

「そのバッグに着替えが入れてあるから載せておいて!」

海人君はバッグをエステマに運びました。

「パパ、これも載せておいて!」

陽朗さんはバッグをエステマの荷台に載せると、ドアーを“バシー”と閉めました。

「荷物の積み込み、完了」

陽朗さんは海人君と奈美ちゃんを振り返ると、いつくしむように見つめました。

朝のあわただしい時間はまたたく間に過ぎ、大海さん一家がエステマに乗り込もうとすると

「ワンワン。ワンワン」

愛犬チロが、リードが引きちぎれんばかりの勢いでエステマに向かって吠えはじめました。


作 嵯 峨 風 流  絵 高 那 ひ つ じ

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砂電車の冒険 (最終回)

2009年05月09日 16時41分20秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-8)

陽朗さんの運転する白いエステマは、紅に染まる日本海を右手に見ながら静かに家路に向かって走り続けています。
「海人、もうすぐ家に着くよ!」
陽朗さんが助手席で眠っている海人君を起こそうとすると、目にうっすら涙を浮かべています。
「海人、海人、起きなさい!」
陽朗さんが海人君の体をゆすると“パッ”と目を覚ましました。
「渚、奈美、どこにいるの?」
海人君は周囲を見渡しながら叫びました。
あまりに突然の大声に、砂千子さん後部座席から身を乗りだし、海人君の顔を覗き込みました。
「渚も奈美も、後ろでよく眠っているわよ!」
砂千子さんが優しく声をかけると、海人君は後ろをふりかえり“ほっと”したように、右手で“そ~と”涙をふきました。
次の日の夕ぐれ時、海人君がチロを散歩させながら裏の砂場をのぞくと、砂の中で何かが“キラ”と光りました。
海人君が砂を掘ると、そこから小さな砂時計が出てきました。
「海人、ご飯よ!」
海人君が砂千子さんの声につられるように台所に目をやると、台所のカーテン越しに、陽朗さん、砂千子さん、奈美ちゃん、渚君たちが楽しそうに食卓を囲んでいるシルエットが浮かびあがっていました。
海人君は砂時計を両手で包み込むように拾い上げると、目を閉じ、呟くように静かにふりました。
「いち、にい、さん~」
砂時計は夕日を浴び紅色に染まっています。
海人君は砂時計を空にかざすと、宝物を慈しむようにズボンのポケットにしまいました。
「ママ、いま帰るから~」
海人君は急ぎ足で、家族の待つ家の中へと入っていきました。

                            おわり

         (御拝読いただきありがとうございました)


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砂電車の冒険 (28)

2009年05月03日 16時44分17秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-7)

 「奈美、手伝って!」
 海人君と奈美ちゃんは力を合わせてリールを引っ張りますが、渚君を砂の中から引き上げることができません。
「渚、足首をまっすぐにして!」
 怒鳴るように海人君が叫ぶと、渚君は砂に埋まった足を必死で動かします。
 「いち、にい、さ~ん!」
 二人が後ろにのけぞるように再びリールに力をこめると、渚君の足が“ズズズ~”砂から少しずつ抜け始めました。
「奈美、もう少しだ、ガンバレ!」
 二人は尻もちをつくように砂の上に倒れ込みました。
「渚、大丈夫?」
 海人君は渚君に一声かけるのが精一杯で、その場に座り込んでしまいました。
 しばらくしてようやく気を取り直した海人君は、渚君の身体に着いた砂を払い落しながら大スリバチの頂に目をやりました。
 すると先ほどまであった、砂丘駅も砂電車の姿も見えなくなっていました。
「お兄ちゃん、砂電車が見えないよ!」
 奈美ちゃんは心配そうに海人君の顔を覗き込みました。
「奈美、大丈夫、大丈夫、大スリバチの頂上まで帰れば、きっと砂電車は待っていてくれるから」
 海人君は不安を振り払うように、力強く立ち上がりました。
「奈美、渚、早く帰ろう!」
 海人君が渚君のお尻を押し、奈美ちゃんはチロに引きずられるように、大スリバチの急な砂山を登っていきました。
 三人はようやく山頂にたどり着きました。
しかし、そこには砂丘駅も砂電車の姿もありません。
 薄暗くなった頂には、“ザザザ~、ザザザ~”、寂しく響く日本海の波音が聞こえるだけです。
「お兄ちゃん怖いよ~、早くパパ、ママに会いたいよ~」
 渚君は大粒の涙を流し泣き出してしまいました。
 海人君は渚君と奈美ちゃんを両脇にしっかり抱え空を見上げました。
すると薄暗くなった夜空に輝く一番星が涙でかすみ、ぼんやり浮かんで見えていました。

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砂電車の冒険 (27)

2009年04月18日 17時38分39秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-6)

大スリバチの谷底に近づくにつれ砂はしだいに軟らかくなり、前を歩いていた渚君の歩みが急に止まりました。
「お姉ちゃん、砂に足が埋まって歩けないよ~」
渚君は必死でもがいています。
奈美ちゃんが大急ぎで駆けよってみると、渚君の足首が砂に沈み込んでいました。
「渚、お姉ちゃんの手を握って!」
奈美ちゃんが渚君の手を握り引き上げようとしますが、渚君の足はしだいに砂の中に沈んでいきます。
「お兄ちゃん助けて~、お兄ちゃん助けて~」
奈美ちゃんは大声で叫びました。
海人君が砂丘駅にようやく着いた時には辺りは薄暗くなっていました。
慌てて砂電車の運転席に乗り込んだ海人君が砂時計を見ると、時計の砂はもう殆んど残っていませんでした。
「もう白兎駅に帰れないかも?」
海人君は不安を振り払うように、恐る恐る発進レバーを引きました。
“ググーグー”砂電車のモーターの音はしますが動く気配はありません。
「日が沈んで太陽電池が発電しなくなったのかな?」
海人君が独り言をいいながら何度も何度も発進レバーの操作を繰り返しているうちに、モーターの音さえしなくなってしまいました。
その時、チロが砂電車に“ゴン、ゴン”体当たりしながら、けたたましい声で吠えはじめました。
海人君が砂電車の外に飛び出すと、チロは大スリバチの谷底に向かって転げ落ちるように走って行きます。
「これは大変だ!」
海人君がチロの駆け出した先を見ると、奈美ちゃんと渚君が必死で何かを叫んでいる姿が目に映りました。
「奈美、渚、今行くから待っていろ~」
海人君はチロの後を追うと大スリバチの急な斜面に足を取られ、何度も何度も転びながらようやく奈美ちゃんと渚君のいる谷底に着きました。
「奈美、チロのリールを外して!」
渚君はすでに膝のあたりまで砂に埋まっています。
「お兄ちゃん助けて~」
「渚、両手をまっすぐ上にあげて!」
海人君はチロのリールで作ったワッパを渚君の頭をめがけて投げました。
ワッパは渚君の両手を“スポン”と通り抜け体の中におさまりました。
「渚、両手を下ろして!」
海人君がリールをゆっくり引くと、リールは渚君の両脇にガッチリとかかりました。




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砂電車の冒険 (26)

2009年04月15日 16時00分22秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-5)

「奈美、渚、早く砂電車まで帰ろう!」
海人君が渚君の手を引き、奈美ちゃんがチロのリールを握り砂電車に向かって速足で歩きだすと、砂丘の砂は“ひんやり”と冷たくなっていました。
「お兄ちゃん、もう歩けないよ~」
渚君は砂の上に座り込んでしまいました。
「渚、もう少しだ、ガンバレ、ガンバレ」
海人君は砂電車を気にしながら奈美ちゃんと励ましますが、渚君は立ち上がろうとしません。
「奈美、お兄ちゃんは砂電車まで先に帰るから、足跡を辿って後から渚を連れて帰って!」
海人君は奈美ちゃんの様子を覗き込むように言いました。
「渚、大丈夫? 後から奈美と帰ろうね!」
奈美ちゃんは不安を打ち消すように、砂の上に座り込んでいる渚君に優しく手を差し伸べました。
「お兄ちゃん、チロを連れて行ってね!」
海人君はチロのリールを握ると、砂電車の停まっている砂丘駅に向かって走り出しました。
お城の見えた峠まで帰ると、大スリバチの頂に砂電車の姿が見えてきました。
「間に合った!」
海人君は“ほっと”胸をなでおろしました。
「もう少しだ、ガンバロウ!」
海人君は“ハ~ハ~”息を弾ませながらも、自分に言い聞かせるように再び走り出しました。
奈美ちゃんが渚君の手を引きながら大スリバチの頂の見える峠までさしかかると、山頂に砂電車の姿がみえました。
渚君は山頂の砂電車を見つけると少し元気を取り戻したように
「お姉ちゃん、こっちを通って帰ろうよ!」
渚君は大スリバチの山頂に向かって真っすぐ歩いて行こうとします。
「渚、ダメ!お兄ちゃんに言われた通りに帰らなくては!」
奈美ちゃんは海人君の足跡を辿って帰ろうとしますが、渚君は勝手に歩き出していきました。
「渚、しょうがないわね!」
奈美ちゃんはしかたなく渚君の後を追って歩き出しました。





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砂電車の冒険 (25)

2009年04月15日 15時57分03秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-4)

海人君が手を差しのべると、砂ネズミたちが“ちょこちょこ”と近づき指を“ペロペロ”と舐めはじめました。
「奈美、渚、こっちにおいで!」
海人君が小声で囁くように呼ぶと、奈美ちゃんはチロを柱につなぎ渚君と静かに近づいてきました。
「奈美もやってみる!」
奈美ちゃんは腰をかがめると、砂ネズミの中に入り手を伸ばしました。
すると砂ネズミは手のひらから、肩、背中へと“スルスル”と登ってきます。
「ワ~くすぐったい!」
奈美ちゃんは“ニコニコ”しながら、肩に乗った砂ネズミを手に取り、優しく撫でてやりました。
渚君の周りにもたくさんの砂ネズミが集まり、渚君がホールの中を走ると一斉に後を追いかけていきます。
三人が砂ネズミとすっかり仲良しになり楽しく遊んでいると、回廊の横にある部屋の砂ネズミたちも次々に集まり、ホールは海人君たちと砂ネズミの運動場のように騒がしくなっていきました。
そのうちに砂ネズミは二本足で立ち、前足を頭まで持ち上げ輪になると、ネズミのダンスを踊りだし、海人君たちもネズミの動きに合わせ、手拍子をしながら一緒になって踊りました。
チロだけは前足を“だら~ん”と投げ出しおとなしくこの様子を眺めています。
あまりの楽しさに時間のたつのもすっかり忘れ遊んでいると、砂ネズミたちは一匹、また一匹と姿を消し、ホールは“シーン”と静まり海人君は我に帰りました。
「ワー大変だ、早く砂電車に帰らなくては!」
海人君たちが慌ててお城の外に飛び出すと、太陽は西に傾き、空は茜色に染まっていました。



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砂電車の冒険 (24)

2009年04月01日 17時31分06秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-3)

海人君はお爺さんとの約束をすっかり忘れ、再びお城に向かい歩きだしました。
しだいにお城に近づいていくと、幾何学的に柱が建ち並ぶギリシャ宮殿風の砂のお城が見えてきました。
ようやくお城に辿りついた海人君たちが砂丘を振り返ると、ここまで歩いてきた足跡が砂の上にくっきりと残っていました。
「お城に入ってみようか?」
海人君はお城の様子を“そ~と”窺がうと、柱の陰に隠れるように恐る恐る中に入っていきますが人の気配はありません。
「奈美、もっと奥に入ってみようか?」
三人は海人君を先頭に柱の陰に身を隠しながら、おくへ奥へと進んでいきました。
アーチ型の薄暗い回廊の横には、小さな部屋がいくつもいくつも並んでおり、さらに奥に進んでいくと広いホールが見えてきました。
「奈美、何か動いているよ!」
海人君が声を殺し囁くように言いました。
「奈美、渚、ここで待っていて!」
海人君は柱の陰に隠れながら静かにホールに近づいていきました。
するとホールには体長15cmくらい、茶褐色の砂ネズミたちが滑り台、車輪、ブランコなどで楽しそうに遊んでいます。
海人君は奈美ちゃんと渚君を振り返り手招きをしました。
奈美ちゃんはチロの首輪を“ギュウー”と掴み、渚君の手を握って近づいてきました。
「ほら、あそこにたくさんの砂ネズミガいるよ!」
海人君がホールの砂ネズミを指差しました。
「わ~、可愛い!」
ホールに駆けだそうとする渚君の腕を、海人君がようやく掴み静止しました。
「渚、ちょっと待ちなさい!」
海人君は奈美ちゃんと渚君をその場に残し、腰をかがめながら砂ネズミのいるホールの中に静かに入っていくと、砂ネズミたちは一斉に動きを止め“キョトン”とした顔で海人君を見上げました。



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砂電車の冒険 (23)

2009年03月29日 17時55分04秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-2)

砂丘駅は高い砂山の頂にあり、右側は大きく落ち込んだスリバチ状の谷になっています。
砂丘の砂は太陽の熱を浴びてパウダーのようにやわらかく、まるでスポンジの上を歩いているようです。
「お兄ちゃん、足が砂に埋まってうまく歩けないよ~」
そういいながらも渚君は、楽しそうにチロとじゃれながら走り回っています。
奈美ちゃんは砂丘をあちこちと歩き回っていましたが、砂丘の窪みで、黄色い小さな花を見つけ眺めています。
「お兄ちゃん、可愛いお花が咲いているわよ!」
食い入るように花を眺めていた奈美ちゃんが小さな足跡を見つけました。
「お兄ちゃん、これ何の足跡かしら?」
海人君が奈美ちゃんの指先を見ると、美しい風紋の上に、小さな動物の足跡が残っていました。
海人君は足跡を眺めているうちに、どうしても足跡の正体を突き止めたくなりました。
「奈美、この足跡の正体知りたくない?」
海人君は風紋の上に点々と続く足跡を眺めながら言いました。
「お兄ちゃん、奈美も知りたいけど時間は大丈夫?」
奈美ちゃんは海人君に言われた砂時計のことが気になりました。
「向こうに見える砂山あたりまで行って急いで帰れば大丈夫だよ!」
海人君たちは足跡の正体を突き止める探索に出かけることにしました。
海人君が渚君の手を引き、奈美ちゃんがチロのリールを握り歩きはじめました。
しかし、砂丘を歩くのはなかなか大変で思ったように進むことができませ。
一歩踏み出すたびに靴が半分くらい砂に埋まり、砂が靴に入り重くなっていきます。
靴を脱ごうとしても砂が太陽の熱で火傷しそうに熱く、素足になることもできず歩みはしだいに遅くなっていきました。
それでも海人君たちは汗と砂にまみれながらも、ようやく砂山の頂にたどり着きました。
その時、山頂から谷間を眺めていた奈美ちゃんが叫びました。
「お兄ちゃん、あそこにお城が見える!」
海人君が奈美ちゃんの指さす方に目をやると、砂の中に、お城が蜃気楼のようにかすんでみえています。
「渚、お城が見えるよ!」
よろめくように歩いていた渚君はお城を見るなり
「お兄ちゃん、あそこまで行ってみたい!」
急に元気を取り戻すと、弾んだ声で言いました。
小さな足跡も、谷間のお城に向かって真っすぐに続いているようでした。



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砂電車の冒険 (22)

2009年03月14日 17時08分04秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-1)

砂電車がようやく岬を過ぎると急に視界が広がり、前方に白い砂におおわれた砂丘が太陽の光を浴びて眩しく輝いて見えてきました。
砂電車はなだらかな浜辺を過ぎ起伏にとんだ砂丘へと進み、いくもの峠を越えると今にも崩れそうな大きな砂山の麓にさしかかりました。
すると“バラバラバラ”と乾いた砂が電車の屋根に落ちてきました。
「お兄ちゃん怖いよ!」
奈美ちゃんが椅子にしがみつきました。
海人君は電車のスピードを落とし“ゆっくり、ゆっくり”通り過ぎていきました。
“ドスン!”大きな音とともに電車は“グラグラ”左右に大きく揺れ、倒れそうになりました。
海人君が驚いて振り返ると、砂のかたまりが雪崩のように線路に覆いかぶさっていました。
海人君はその場から逃げるようにスピードを上げさらに行くと、遠くの砂山の頂に蜃気楼のように駅が見えてきました。
「ナミ、渚、もうすぐ砂丘駅に着くよ!」
海人君が砂丘駅を指差すと、二人は待ちきれない様子で“ソワソワ”動き始めました。
「お待たせ。砂丘駅に着いたよ!」
砂電車が静かに砂丘駅のホームに滑り込むと、渚君と奈美ちゃんは飛び跳ねるように椅子から降りました。
海人君が砂時計に目をやると、時計の砂はすでに半分近くまで減っています。
「奈美、渚、ちょっとココにおいで!」
海人君は二人に運転席の砂時計を見せながら言いました。
「この時計の砂が下の胴に落ちるまでに白兎駅に帰らないと、パパ、ママに会えなくなるから遠くに行ってはダメだよ!」
奈美ちゃんと渚君は不思議そうに海人君の顔を見つめながら頷きました。
「さぁ~砂丘に降りてみよう」
「ワァ~広い、広いな~」
チロは奈美ちゃんにリールを外してもらうと勢いよく砂丘を走りだし、チロの後を追うように、美しい続く風紋を眺めている海人君の頬を涙が濡らしていました。



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