たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

砂電車の冒険 (8)

2008年11月28日 16時23分52秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 1-8)

「海人、今日は晴れてよかったね~」
陽朗さんは空を見上げながら言いました。
「みんなで“てるてる坊主”にお願いしたおかげかもね?」
海人君は“ニコニコ”しながらはしゃいでいます。
しばらく進むと車内が急に暗くなり、エステマはトンネルに入りました。
「このトンネルどのくらいあるのかな~」
海人君が呟きました。
「いくつで出るか数えてみたら?」
陽朗さんに促された海人君は
「1・2・3・・・・・56・57・58パパ、58もかかったよ!」
長いトンネルを抜けて白兎海岸に近づくと、道は二車線から一車線となり急に車が混みはじめました。
「パパ、あと何キロ位あるの?」
陽朗さんはカーナビに目をやりました。
「2キロ位かな?」
大海さん一家の乗るエステマを尻目に、対向車は“スイスイ”流れていきます。
「これなら歩いたほうがよっぽど早いかも?」
海人君は落ち着かない様子です。
「あの先のトンネルを抜けると白兎海岸なんだけどな~」
陽朗さんの“イライラ”した様子に、子供たちは急に静かになりました。
その時、砂千子さんが奈美ちゃんに
「白兎海岸には、因幡の白うさぎのお話があるのを知っている?」
「知らない!お話して」
奈美ちゃんは砂千子さんの顔をのぞきこむように急かせています。
「むかしむかし、隠岐ノ島に一匹の白うさぎが住んでいました。白うさぎは因幡の国が見たくてたまりません。そこでワニ(さめ)をだまして・・・・・」
子供たちが夢中になって話に聞き入っているうちに、最後のトンネルに入りました。
「みんな、このトンネルを抜けると白兎海岸だよ!」
陽朗さんは“ほっ”とした様子で “ぐるぐる” と首を二三度まわしました。
出口が近づくにつれて、前方に見えていた白い光に固まりがしだいに大きくなり“パッ”と明るくなりました。
「わ~、すごい!きれい、きれい!」
眼下に真青な海、打ち寄せる白波、眩しいばかりの砂浜が大海さん一家を歓迎するかのように広がっていました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

砂電車の冒険 (4)

2008年11月13日 17時30分33秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 1-4)

いよいよ明日は楽しみにしていた潮干狩りに出かける日です。
学校から帰った海人君が窓越しに外を見ると、鉛色の空からは小雨が降り続いています。
「ママ、明日の天気は大丈夫かな~」
キッチンに立って夕食の準備をしていた砂千子さんは、海人君を振向き
「明日は晴れるって、予報には出ていたわよ!」
それでも心配そうな海人君は
「“てるてる坊主”をつくってお祈りしようかな~」
海人君は居間の押入れから古新聞を出しました。
「ママ“てるてる坊主”をつくる布はない?」
砂千子さんは包丁をまな板の上に置くと、居間のタンスからハンカチくらいの白い布切れ出しました。
「海人、これでどうかしら?」
「ママ、ありがとう」
海人君が“てるてる坊主”作りに取りかかろうとすると
「渚も手伝う」
渚君は海人君が居間に置いていた古新聞を“バリバリ”破って遊んでいます。
「渚、早くその新聞ちょうだい!」
海人君がやさしく言っても渡してくれません。
「渚、言うことをきかないと潮干狩りに連れて行かないぞ!」
海人君がいらついたように大声を出すと、渚君は驚いたように
「お兄ちゃん、ど~じょ」
古新聞を海人君に渡しさみしそうにうつむきました。
海人君は新聞をちぎって丸め“てるてる坊主”の頭を作ろうとしますが、なかなか思ったような形にはなりません。何度も作り直しようやくピンポン玉くらいの“てるてる坊主”ができあがりました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

砂電車の冒険 (3)

2008年11月12日 18時27分29秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 1-3 )

太陽が西にかたむき夕凪の日本海が紅色に染まっていきます。
庭の鯉のぼりは風もなく“だら~ん”とうなだれるようにたれさがっています。
陽朗さんと海人君が鯉のぼりを下ろしていると
「パパ、海人ご飯ですよ~」
砂千子さんの声がしました。
陽朗さんと海人君は大急ぎで鯉のぼりを片付け、水道で手を洗うとキッチンに向かいました。
大海さん一家のキッチンテーブルは細長です。正面に陽朗さん。右側に砂千子さん。その横の子供椅子に渚君が座りました。
海人君が椅子に座ろうとすると
「海人、手は洗ったの?」
砂千子さんが尋ねました。
「今洗ったよ!今日はコロッケか?」
海人君がうれしそうに右側のいすに座ろうとすると、砂千子さんのお手伝いをしていた奈美ちゃんが
「パパ、潮干狩はどこに連れて行ってくれるの?」
うれしそうに尋ねました。
海人君も
「パパ、どこ、どこに行くの?」
二人は陽朗さんの顔をのぞきこむように見つめました。
「まだ決めてなよ。ママと相談してみるね!」
陽朗さんは渚君にコロッケを細かくして食べさせている砂千子さんに
「ママ、何処かいいところはないかな~」
「そうね~。鳥取砂丘、それとも山陰松島、そうそう白兎海岸あたりはどうかしら?」
陽朗さんは頭に手をやりながら考えていましたが
「因幡の白うさぎで有名な白兎海岸にしようか。海人、奈美どう?」
「パパ、僕、白兎海岸でいいよ」
海人君が答えると
「ぼくもいく、ぼくもいきたい」
渚君はうれしそうに、ハンバーグを“パクリ”と口に入れました。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

砂電車の冒険 (2)

2008年11月11日 17時48分59秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 1-2 )

五月のさわやかな風が吹き抜ける穏やかな日曜日のことです。
居間のソファーに腰掛けテレビを見ていた陽朗さんが、渚君を寝かせ横で洗濯物をたたんでいた砂千子さんに向かって
「ママ、来週の土曜日みんなで潮干狩りに行ってみない?」
砂千子さんはソファーの陽朗さんを振り返ると
「子供たちもきっと大喜びすると思うわ!」
“ニッコリ”答えました。
砂千子さんはキッチンテーブルで、電車のペーパークラフトを作っていた海人君に
「海人、来週の土曜日、パパが潮干狩りに行かないかって、どうする?」
作りかけのペーパークラフトをテーブルの上に置いた海人君は
「僕も潮干狩りに行きたいよ!」
はずんだ声で答えました。
海人君はさっそく奈美ちゃんに知らせようと、家の中を探しますが姿が見えません。
「ママ、奈美は何処にいるか知らない?」
「さっきまで人形を持って、おもちゃの部屋で遊んでいたわよ」
海人君は外に出ると家の周りを探しました。
すると奈美ちゃんは庭の赤いチューリップの前に座り、もみじのような可愛い手で、チューリップの花びらを包み込むようにして眺めていました。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

砂電車の冒険 (1)

2008年11月11日 17時48分25秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( Ⅰー1 )

私たち日本人が古くから親しみ愛してきた山桜は、バラのようなあでやかさはありません。

しかし、心の底に沁いるような気品と品格をそなえた花です。一方、ヨーロッパの人達に愛されてきたバラの花は、美しさの陰にトゲを隠し持っています。

私は日本人が古くから持ち続けている素朴で温かみのある、山桜のような家族愛を大海さん一家のお話をとおして表現できたらと考えています。

では、さっそく大海さん一家の紹介をします。

大海さん(オオミ)の住まいは山陰の片田舎、海の近くのなだらかな高台にあります。

白い2階建の家からは、東に秀峰大山が四季折々に美しい姿を見せてくれます。

また西には日本海が広がり、晴れた日には遠く隠岐諸島も望むことができ、家の周りは緑におおわれ、春には近くの公園に咲く、美しい桜も眺めることができる閑疎な住宅地です。

白い玄関の前には四季の折々の花を植えた花壇があり、その右側に陽朗さんと砂千子さんの車庫、奥にチロの犬小屋があります。

花壇の左奥に芝生の庭があり、その横に陽朗さん手作りの小さな砂の遊び場があります。

家族は、お腹が少し“ふっくら”してきたパパの陽朗(カゲロウ 父37歳)さん、丸顔で“ぽっちゃり”と笑顔が似合うママの砂千子(サチコ 母35歳)さん、色白で“ノッポ”の海人(カイト 一男7歳)君、ポニーテールがよく似合う瞳が“パッチリ”と可愛い奈美(ナミ 一女5歳)ちゃん、イガグリ頭で“きかん坊”の渚(ナギサ 二男3歳)君、そして子供のアイドル、柴犬チロ(4歳)の五人と一匹の六人家族です。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする