たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

砂電車の冒険 (18)

2009年01月30日 16時32分56秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 2-7)

白いひげのお爺さんは海人君に近づくと、優しく手を握りながら言いました。
「海人君、何か願いがあれば叶えてあげるよ!」
あまりにも突然の出来事に海人君はお爺さんの顔を、まばたきもせず覗き込みました。
「本当に願いを叶えてくれるの?」
お爺さんは“ニッコリ”笑みを浮かべ
「叶えてあげられる願いは一つだけだよ!」
海人君はとっさに壊れた砂電車を思い出しました。
「お爺さん、僕、砂の電車が欲しい!」
海人君が答えると、お爺さんは担いでいた大きな袋の中から、小さな砂時計を取り出しました。
「海人君、砂電車が欲しい時は、目を閉じ、願いを込め、この時計を3回振ってごらん」
そう言いながら、お爺さんは海人君の掌に砂時計を“そ~と”載せました。
「ただし願いが叶うのは、この時計の砂が反対側の胴に落ちるまでの時間だけだよ!」
お爺さんは海人君の頭に手を置き
「この約束を破ると大変なことになるからな~、気をつけるんだよ!」
と少し強い口調で言いました。
海人君はさっそく海に向かうと、お爺さんに言われたとおり目を閉じ、新幹線700系に願いを込め
「 1回 ・2回 ・3回 」
“ゆっくり”と砂時計を振りました。
目を開けた海人君が後ろを振り返り、お爺さんを“きょろきょろ”探しますが、先ほどまで目の前にいたはずのお爺さんの姿は煙のように消えていました。

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砂電車の冒険 (17)

2009年01月26日 15時31分11秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 2-6)

その時、奈美ちゃんが東の空に浮かんだ雲を指差しながら
「ママ、あの雲、マンボーみたいよ!」
みんなが奈美ちゃんの指先を見つめると、まるで海の中を泳ぐマンボーのように、白い雲が“ぽっかり”と浮かんでいました。
「あ!あそこにイルカ雲もあるよ」
今度は海人君が、西の空を指差しました。
渚君は真上の大きな雲を見つけ
「ママ、あの雲、何に見えるかな~」
砂千子さんは少し考えながら
「大きくて白い、クジラに見えない?」
みんなは“きょろきょろ”空を見上げながら、雲の魚を探し始めました。
「あれは、小さくて頭でっかちの細長だから、ウツボ雲かな?」
「あの小さな雲のかたまりは、ハタハタに似ている?」
「あそこにヒラメ雲のあるよ!」
海人君たちは、空に浮かんだ魚を夢中になって探しました。
「何匹浮かんでいるか数えてみようか?」
砂千子さんが雲を指差しました。
「一匹・二匹・三匹・・・」
海人君たちが空に浮かんだ魚を、声を合わせて数えていくと、空はしだいに白い雲に覆われ、灰色の空へと変わると急に暗くなってしまいました。
「海人君、海人君」
誰かが呼ぶ声がします。
海人君が立ち上がって後ろを振り向くと、そこには白いひげを生やした優しそうなお爺さんが、背中に大きな袋を担いで立っていました。




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砂電車の冒険 (16)

2009年01月16日 15時59分35秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 2-5)


砂千子さんはバスケットから、おにぎり、サンドイッチ、バナナ、お茶などを出してシートの上に並べました。
「みんな、お弁当が遅くなってゴメンネ!」
大海さん一家の遅い昼食がようやく始まりました。
「お腹へったでしょう、たくさん食べてね!」
砂千子さんが弁当のふたを開けると、海人君と渚君は待ちかねていたように、おにぎりを口に運びました。
奈美ちゃんは弁当を眺めているだけで、手を伸ばそうとしません。
「奈美ちゃんもお腹へったでしょう?」
砂千子さんは玉子入りのサンドイッチを奈美ちゃんに渡しますが、口に入れようとはしません。
海人君と渚君は、おにぎりを美味しそうに“パクパク”食べています。
「海人、いなばの白うさぎの歌を聴いたことある?」
突然、砂千子さんが海人君にたずねました。
「僕、聴いたことないよ!」
海人君は答えました。
「パパは知てるよね!一緒に歌わない?」
砂千子さんが陽朗さんに目で合図をすると、二人は声を合わせて歌いだしました。
「♪大きな袋を肩にかけ、大黒さまがきかかると、そぉ~こにいなばの白うさぎ・・・」
陽朗さんの低音の温かい声、そして砂千子さんの透きとおるような澄みきった歌声が砂浜に響いていきました。
「パパ、ママ、すてき!」
海人君も奈美ちゃんも歌に合わせ手拍子をはじめました。
歌い終えた砂千子さんは、奈美ちゃんに優しいまなざしを注ぎながら
「奈美ちゃんもお弁当を食べてネ!」
ようやく奈美ちゃんは、手にしていたサンドイッチを口に入れました。
「おにぎり、バナナ、チョコもあるわよ!」
砂千子さんは奈美ちゃんを元気づけようと一生懸命です。
「お腹いっぱい!」
海人君は両手のこぶしを天に突き上げ、満足そうに大きく深呼吸をしました。
「みんな、少し休みましょう」
砂千子さんが弁当の片づけをしながら言いました。
陽朗さんはすでにシートに寝転んでいます。
海人君、奈美ちゃん、渚君が頭を並べて、仰向けにシートに横になると、青く澄んだ空に、白い雲が“ぽっかり、ぽっかり”浮かび静かに流れていきます。
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砂電車の冒険 (15)

2009年01月07日 18時03分56秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 2-4)

荷物の置いてある高台に着いた陽朗さんは、奈美ちゃんを青いシートに座らせ服の砂を“ポンポン”はたきますが、濡れた砂は服にへばりつき落ちません。
「ママ、子供たちの着替え持ってきている?」
陽朗さんは砂千子さんを振り返りながら尋ねました。
「パパ、エステマに載せたままなの!」
「ママ、パパが取ってくるから子供たちを頼むよ!」
「パパ、ポリタンクに水も汲んできてね」
陽朗さんは道の駅に停めたエステマに向かうと、右手に重そうなポリタンク、左手に服の入ったバック提げて帰ってきました。
「ママ、持ってきたよ!」
陽朗さんはポチタンクを砂の上におくと、バックを砂千子さんに渡しました。
「奈美、こっちにおいで!」
砂千子さんが奈美ちゃんの服を脱がせると、陽朗さんはポリタンクの水を奈美ちゃんの頭から“そ~と”かけました。
「ワ~、冷たい」
奈美ちゃんは小さな体を小刻みに震わせました。
「奈美、寒い?」
陽朗さんは奈美ちゃんの体をバスタオルで拭くと、花柄の服に着替えさせています。
その間に砂千子さんは、砂まみれになった渚君と海人君の服を脱がせました。
奈美ちゃんの服を着せ終えた陽朗さんは、再びポリタンクを持つと
「渚も洗ってあげるからここにおいで!」
陽朗さんは砂で白くなった、渚君の肩から水をかけ、砂を洗い流しました。
「つぎ、海人おいで!」
陽朗さんは中腰になった海人君の頭に、かるく手をのせ
「海人、砂電車を踏んでしまってゴメン!」
そう言うと、砂電車をつくっていた浜辺を見つめました。
高台から眺める日本海は、今までの出来事がまるで嘘のように、波は美しい波紋を描いて押し寄せていました。


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