たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

砂電車の冒険 (27)

2009年04月18日 17時38分39秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-6)

大スリバチの谷底に近づくにつれ砂はしだいに軟らかくなり、前を歩いていた渚君の歩みが急に止まりました。
「お姉ちゃん、砂に足が埋まって歩けないよ~」
渚君は必死でもがいています。
奈美ちゃんが大急ぎで駆けよってみると、渚君の足首が砂に沈み込んでいました。
「渚、お姉ちゃんの手を握って!」
奈美ちゃんが渚君の手を握り引き上げようとしますが、渚君の足はしだいに砂の中に沈んでいきます。
「お兄ちゃん助けて~、お兄ちゃん助けて~」
奈美ちゃんは大声で叫びました。
海人君が砂丘駅にようやく着いた時には辺りは薄暗くなっていました。
慌てて砂電車の運転席に乗り込んだ海人君が砂時計を見ると、時計の砂はもう殆んど残っていませんでした。
「もう白兎駅に帰れないかも?」
海人君は不安を振り払うように、恐る恐る発進レバーを引きました。
“ググーグー”砂電車のモーターの音はしますが動く気配はありません。
「日が沈んで太陽電池が発電しなくなったのかな?」
海人君が独り言をいいながら何度も何度も発進レバーの操作を繰り返しているうちに、モーターの音さえしなくなってしまいました。
その時、チロが砂電車に“ゴン、ゴン”体当たりしながら、けたたましい声で吠えはじめました。
海人君が砂電車の外に飛び出すと、チロは大スリバチの谷底に向かって転げ落ちるように走って行きます。
「これは大変だ!」
海人君がチロの駆け出した先を見ると、奈美ちゃんと渚君が必死で何かを叫んでいる姿が目に映りました。
「奈美、渚、今行くから待っていろ~」
海人君はチロの後を追うと大スリバチの急な斜面に足を取られ、何度も何度も転びながらようやく奈美ちゃんと渚君のいる谷底に着きました。
「奈美、チロのリールを外して!」
渚君はすでに膝のあたりまで砂に埋まっています。
「お兄ちゃん助けて~」
「渚、両手をまっすぐ上にあげて!」
海人君はチロのリールで作ったワッパを渚君の頭をめがけて投げました。
ワッパは渚君の両手を“スポン”と通り抜け体の中におさまりました。
「渚、両手を下ろして!」
海人君がリールをゆっくり引くと、リールは渚君の両脇にガッチリとかかりました。




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砂電車の冒険 (26)

2009年04月15日 16時00分22秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-5)

「奈美、渚、早く砂電車まで帰ろう!」
海人君が渚君の手を引き、奈美ちゃんがチロのリールを握り砂電車に向かって速足で歩きだすと、砂丘の砂は“ひんやり”と冷たくなっていました。
「お兄ちゃん、もう歩けないよ~」
渚君は砂の上に座り込んでしまいました。
「渚、もう少しだ、ガンバレ、ガンバレ」
海人君は砂電車を気にしながら奈美ちゃんと励ましますが、渚君は立ち上がろうとしません。
「奈美、お兄ちゃんは砂電車まで先に帰るから、足跡を辿って後から渚を連れて帰って!」
海人君は奈美ちゃんの様子を覗き込むように言いました。
「渚、大丈夫? 後から奈美と帰ろうね!」
奈美ちゃんは不安を打ち消すように、砂の上に座り込んでいる渚君に優しく手を差し伸べました。
「お兄ちゃん、チロを連れて行ってね!」
海人君はチロのリールを握ると、砂電車の停まっている砂丘駅に向かって走り出しました。
お城の見えた峠まで帰ると、大スリバチの頂に砂電車の姿が見えてきました。
「間に合った!」
海人君は“ほっと”胸をなでおろしました。
「もう少しだ、ガンバロウ!」
海人君は“ハ~ハ~”息を弾ませながらも、自分に言い聞かせるように再び走り出しました。
奈美ちゃんが渚君の手を引きながら大スリバチの頂の見える峠までさしかかると、山頂に砂電車の姿がみえました。
渚君は山頂の砂電車を見つけると少し元気を取り戻したように
「お姉ちゃん、こっちを通って帰ろうよ!」
渚君は大スリバチの山頂に向かって真っすぐ歩いて行こうとします。
「渚、ダメ!お兄ちゃんに言われた通りに帰らなくては!」
奈美ちゃんは海人君の足跡を辿って帰ろうとしますが、渚君は勝手に歩き出していきました。
「渚、しょうがないわね!」
奈美ちゃんはしかたなく渚君の後を追って歩き出しました。





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砂電車の冒険 (25)

2009年04月15日 15時57分03秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-4)

海人君が手を差しのべると、砂ネズミたちが“ちょこちょこ”と近づき指を“ペロペロ”と舐めはじめました。
「奈美、渚、こっちにおいで!」
海人君が小声で囁くように呼ぶと、奈美ちゃんはチロを柱につなぎ渚君と静かに近づいてきました。
「奈美もやってみる!」
奈美ちゃんは腰をかがめると、砂ネズミの中に入り手を伸ばしました。
すると砂ネズミは手のひらから、肩、背中へと“スルスル”と登ってきます。
「ワ~くすぐったい!」
奈美ちゃんは“ニコニコ”しながら、肩に乗った砂ネズミを手に取り、優しく撫でてやりました。
渚君の周りにもたくさんの砂ネズミが集まり、渚君がホールの中を走ると一斉に後を追いかけていきます。
三人が砂ネズミとすっかり仲良しになり楽しく遊んでいると、回廊の横にある部屋の砂ネズミたちも次々に集まり、ホールは海人君たちと砂ネズミの運動場のように騒がしくなっていきました。
そのうちに砂ネズミは二本足で立ち、前足を頭まで持ち上げ輪になると、ネズミのダンスを踊りだし、海人君たちもネズミの動きに合わせ、手拍子をしながら一緒になって踊りました。
チロだけは前足を“だら~ん”と投げ出しおとなしくこの様子を眺めています。
あまりの楽しさに時間のたつのもすっかり忘れ遊んでいると、砂ネズミたちは一匹、また一匹と姿を消し、ホールは“シーン”と静まり海人君は我に帰りました。
「ワー大変だ、早く砂電車に帰らなくては!」
海人君たちが慌ててお城の外に飛び出すと、太陽は西に傾き、空は茜色に染まっていました。



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砂電車の冒険 (24)

2009年04月01日 17時31分06秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-3)

海人君はお爺さんとの約束をすっかり忘れ、再びお城に向かい歩きだしました。
しだいにお城に近づいていくと、幾何学的に柱が建ち並ぶギリシャ宮殿風の砂のお城が見えてきました。
ようやくお城に辿りついた海人君たちが砂丘を振り返ると、ここまで歩いてきた足跡が砂の上にくっきりと残っていました。
「お城に入ってみようか?」
海人君はお城の様子を“そ~と”窺がうと、柱の陰に隠れるように恐る恐る中に入っていきますが人の気配はありません。
「奈美、もっと奥に入ってみようか?」
三人は海人君を先頭に柱の陰に身を隠しながら、おくへ奥へと進んでいきました。
アーチ型の薄暗い回廊の横には、小さな部屋がいくつもいくつも並んでおり、さらに奥に進んでいくと広いホールが見えてきました。
「奈美、何か動いているよ!」
海人君が声を殺し囁くように言いました。
「奈美、渚、ここで待っていて!」
海人君は柱の陰に隠れながら静かにホールに近づいていきました。
するとホールには体長15cmくらい、茶褐色の砂ネズミたちが滑り台、車輪、ブランコなどで楽しそうに遊んでいます。
海人君は奈美ちゃんと渚君を振り返り手招きをしました。
奈美ちゃんはチロの首輪を“ギュウー”と掴み、渚君の手を握って近づいてきました。
「ほら、あそこにたくさんの砂ネズミガいるよ!」
海人君がホールの砂ネズミを指差しました。
「わ~、可愛い!」
ホールに駆けだそうとする渚君の腕を、海人君がようやく掴み静止しました。
「渚、ちょっと待ちなさい!」
海人君は奈美ちゃんと渚君をその場に残し、腰をかがめながら砂ネズミのいるホールの中に静かに入っていくと、砂ネズミたちは一斉に動きを止め“キョトン”とした顔で海人君を見上げました。



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