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はたらく魔王さま!6 (電撃文庫) 価格:(税込) 発売日:2013-03-28 |
読了。
面白さはまだまだ継続中!
3巻での落ち込みが嘘のように、4巻以降の展開からは目が離せません。
6巻では、ついに真奥の職場がマッグカフェとしてリニューアルオープンし、そこを舞台に熱い労働(バトルと読む)が繰り広げられる――わけではなく、ちーちゃんが自らの決意を行動に移し、それによって生まれた変化を中心にした顛末が描かれました。
個人的にウマイなーと思ったのは、魔王と勇者を取り巻く情勢が変わっていく中で、当然のごとく読者が抱くであろう疑問点と、その疑問に対する回答を、そのまま物語にしてしまっているところです。
どういうことかというと、
魔王や勇者に干渉しようとする勢力が現れる→千穂が魔王と勇者の関係者だとバレる→千穂が事件に巻き込まれる
こういう構図自体は、他のラノベなどでもよく用いられるんですね。
ようするに、主人公たちの影響力を私欲のために利用しようとする連中が、主人公に近しい人物を人質に取る、といった展開です。この手の構図が用いられるときって、大抵は主人公たちが後手に回ることになってしまうのがお約束でして、人質として攫われたヒロインを助けに行ったりするところまで含めてテンプレという感じなんですが。
最終的には『はたらく魔王さま!』でもそういう展開になるんですけど、他の作品と大きく違う点があります。それは、「千穂が危険な目にあう」というのを十分に想定した上で対策を講じるところです。
6巻は千穂が鈴乃からイデアリンクを習おうとするところから始まりますが、身も蓋もない話、ここまで危機意識のしっかりしたヒロインってすげぇ珍しいですよね。僕は古典と理解したうえで、今の時代、コメディ以外で「何度もクッパに攫われるピーチ姫」というテンプレを用いるのはどうかと思っているので、たとえ最終的に攫われることになろうとも、キチンと対策を講じておくというのは、人として当たり前の思考回路をトレースしているように感じられて好感が持てます。なにぶん最近のラノベでは、この「人として当たり前の思考回路」ってのを持ち合わせていないキャラが多いですからね……。
なんつーか、読者としては、千穂がすでに攫われて人質にされたことがある以上、作中の登場人物たちがそのことを考慮せず、軽率な行動ばかりしていたらツッコミたくなっちゃうじゃないですか。なので、そうしたツッコミに対するエクスキューズを最初から用意して、かつ、ウマイことそれを物語の中に組み込むというのは、おそらく僕が想像しているよりはるかに難しいことだと思うのですよ。
6巻は、そういった作家さんの巧みな技が光る一冊でした。
以下雑感。
・上にも書いたように、千穂がイデアリンクを学ぼうとするのは、たしかに理に適っているので納得のいく展開だったと思う。この手の一般人にありがちな「不思議パワーを自分でも使ってみたい」という欲求ではなく、緊急時の連絡手段を確保したいという、あくまでも自己防衛(というより、できるだけ魔王たちに迷惑をかけない手段)として力を手に入れたいというのは、千穂というキャラクターを考えた場合にもまったく矛盾がない。お見事。
・そして、千穂自身が非常に魅力のあるキャラクターとして描かれているので、彼女に協力的な姿勢を崩さなかったサリエルにも好感を抱けるようになったのは、すごくソツがないまとめかただったと思う。作中でも何度も触れられているように、1巻~3巻あたりの事件を振り返ると、疑問を差し挟む余地なく「教会と天界側がクズ」となってしまうのだが、『はたらく魔王さま!』の作風と、おそらく今後向かっていくであろう結末を考えた場合、特定の〝悪者〟をでっちあげてソイツを倒してめでたしめでたしというのはあまりにもそぐわないものになってしまう。なので、今回サリエルを千穂の協力者として描いたことは、悪者だからといって悪いことばかりするわけではない、ということを示すうえで非常に重要だったのではなかろうか。
・このへんの、単純に一方を悪役として扱うわけではないというのは、6巻に登場したファーファレルロとイルオーンの立ち振る舞いにも表れていて、両者がシリアスな戦闘を経ることなく説得に応じてエンテ・イスラに帰還したというのは、3巻あたりまでと比べると物語の質そのものが変わっているように感じられる。うーん、続きが楽しみ。
・そして、ファーファレルロを説得する流れの中で、恵美に告白じみたことを言う魔王と、照れまくる恵美がとてもよかった。ぶっちゃけ『はたらく魔王さま!』でなければ、恵美は1巻の終わりの時点でデレてたと思うが、父親の敵としての憎しみと実際に接する真奥のギャップに葛藤を抱いていたからこそ、真実を知って憎しみのもとが消滅してしまったときの恵美の喪失感というものに説得力が出てくるし、そうした経緯があるからこそ、今回の本格デレの予兆みたいなものにニヤニヤしてしまうわけで。ひとつひとつ丁寧に描写を積み重ねて、6巻の最後まで持ってきた作家さんの手腕には手放しで賞賛を送りたい気分。
・あ、あと何気に、5巻のとき物語の展開と千穂母の心情をオーバーラップさせていたのと同様、6巻では物語の展開と木崎の心情をオーバーラップさせていたが、こういう手法をさらっとやってのけるのもスゲェと思う。ことラノベでは、単一の展開は単一の意味しか持たないのが当たり前になっているので、こういうべつの意味を含ませた描写は一工夫加えられているのがわかって実に好み。
つーわけで、すげぇ作品としてのクオリティが上がってますねということで一つ。
驚きますわー。