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ブログよりも遠い場所

サブカルとサッカーの話題っぽい

【ラノベ】はたらく魔王さま! 6

2013-05-23 | ライトノベル
はたらく魔王さま!6 (電撃文庫) はたらく魔王さま!6 (電撃文庫)
価格:(税込)
発売日:2013-03-28

 読了。

 面白さはまだまだ継続中!

 3巻での落ち込みが嘘のように、4巻以降の展開からは目が離せません。
 6巻では、ついに真奥の職場がマッグカフェとしてリニューアルオープンし、そこを舞台に熱い労働(バトルと読む)が繰り広げられる――わけではなく、ちーちゃんが自らの決意を行動に移し、それによって生まれた変化を中心にした顛末が描かれました。
 個人的にウマイなーと思ったのは、魔王と勇者を取り巻く情勢が変わっていく中で、当然のごとく読者が抱くであろう疑問点と、その疑問に対する回答を、そのまま物語にしてしまっているところです
 どういうことかというと、

魔王や勇者に干渉しようとする勢力が現れる→千穂が魔王と勇者の関係者だとバレる→千穂が事件に巻き込まれる

 こういう構図自体は、他のラノベなどでもよく用いられるんですね。
 ようするに、主人公たちの影響力を私欲のために利用しようとする連中が、主人公に近しい人物を人質に取る、といった展開です。この手の構図が用いられるときって、大抵は主人公たちが後手に回ることになってしまうのがお約束でして、人質として攫われたヒロインを助けに行ったりするところまで含めてテンプレという感じなんですが。
 最終的には『はたらく魔王さま!』でもそういう展開になるんですけど、他の作品と大きく違う点があります。それは、「千穂が危険な目にあう」というのを十分に想定した上で対策を講じるところです。
 6巻は千穂が鈴乃からイデアリンクを習おうとするところから始まりますが、身も蓋もない話、ここまで危機意識のしっかりしたヒロインってすげぇ珍しいですよね。僕は古典と理解したうえで、今の時代、コメディ以外で「何度もクッパに攫われるピーチ姫」というテンプレを用いるのはどうかと思っているので、たとえ最終的に攫われることになろうとも、キチンと対策を講じておくというのは、人として当たり前の思考回路をトレースしているように感じられて好感が持てます。なにぶん最近のラノベでは、この「人として当たり前の思考回路」ってのを持ち合わせていないキャラが多いですからね……。
 なんつーか、読者としては、千穂がすでに攫われて人質にされたことがある以上、作中の登場人物たちがそのことを考慮せず、軽率な行動ばかりしていたらツッコミたくなっちゃうじゃないですか。なので、そうしたツッコミに対するエクスキューズを最初から用意して、かつ、ウマイことそれを物語の中に組み込むというのは、おそらく僕が想像しているよりはるかに難しいことだと思うのですよ。
 6巻は、そういった作家さんの巧みな技が光る一冊でした。
 以下雑感。

・上にも書いたように、千穂がイデアリンクを学ぼうとするのは、たしかに理に適っているので納得のいく展開だったと思う。この手の一般人にありがちな「不思議パワーを自分でも使ってみたい」という欲求ではなく、緊急時の連絡手段を確保したいという、あくまでも自己防衛(というより、できるだけ魔王たちに迷惑をかけない手段)として力を手に入れたいというのは、千穂というキャラクターを考えた場合にもまったく矛盾がない。お見事。

・そして、千穂自身が非常に魅力のあるキャラクターとして描かれているので、彼女に協力的な姿勢を崩さなかったサリエルにも好感を抱けるようになったのは、すごくソツがないまとめかただったと思う。作中でも何度も触れられているように、1巻~3巻あたりの事件を振り返ると、疑問を差し挟む余地なく「教会と天界側がクズ」となってしまうのだが、『はたらく魔王さま!』の作風と、おそらく今後向かっていくであろう結末を考えた場合、特定の〝悪者〟をでっちあげてソイツを倒してめでたしめでたしというのはあまりにもそぐわないものになってしまう。なので、今回サリエルを千穂の協力者として描いたことは、悪者だからといって悪いことばかりするわけではない、ということを示すうえで非常に重要だったのではなかろうか。

・このへんの、単純に一方を悪役として扱うわけではないというのは、6巻に登場したファーファレルロとイルオーンの立ち振る舞いにも表れていて、両者がシリアスな戦闘を経ることなく説得に応じてエンテ・イスラに帰還したというのは、3巻あたりまでと比べると物語の質そのものが変わっているように感じられる。うーん、続きが楽しみ。

・そして、ファーファレルロを説得する流れの中で、恵美に告白じみたことを言う魔王と、照れまくる恵美がとてもよかった。ぶっちゃけ『はたらく魔王さま!』でなければ、恵美は1巻の終わりの時点でデレてたと思うが、父親の敵としての憎しみと実際に接する真奥のギャップに葛藤を抱いていたからこそ、真実を知って憎しみのもとが消滅してしまったときの恵美の喪失感というものに説得力が出てくるし、そうした経緯があるからこそ、今回の本格デレの予兆みたいなものにニヤニヤしてしまうわけで。ひとつひとつ丁寧に描写を積み重ねて、6巻の最後まで持ってきた作家さんの手腕には手放しで賞賛を送りたい気分。

・あ、あと何気に、5巻のとき物語の展開と千穂母の心情をオーバーラップさせていたのと同様、6巻では物語の展開と木崎の心情をオーバーラップさせていたが、こういう手法をさらっとやってのけるのもスゲェと思う。ことラノベでは、単一の展開は単一の意味しか持たないのが当たり前になっているので、こういうべつの意味を含ませた描写は一工夫加えられているのがわかって実に好み。

 つーわけで、すげぇ作品としてのクオリティが上がってますねということで一つ。
 驚きますわー。


【ラノベ】はたらく魔王さま! 5

2013-05-21 | ライトノベル
はたらく魔王さま!5 (電撃文庫) はたらく魔王さま!5 (電撃文庫)
価格:(税込)
発売日:2013-03-28

 読了。

 うひょおおおおお面白ぇええええ!!!

 4巻に引き続き、尻上がりに面白さを増していました。
 今回は真奥たちが労働から少し離れ、魔王上にテレビを導入しようとするところから物語が始まります。強行にテレビの必要性を主張する真奥と、できるだけ余計な出費を抑えたい芦屋の思惑が衝突する間抜けなやり取りがコメディチックに描かれるギャグ回……と思いきや、恵美の同僚で芦屋に片思いしている梨香が絡んできたりと、人間関係に進展も見られる一冊でした。
 以下雑感。

・4巻のときも思ったが、構成が抜群によくなっている。凝った伏線こそ見られないものの、ひとつの事件がまた次の事件の引き金になっていたりするので、物語に連続性があってどんどん先を読みたくなる作りになっているのはお見事。特に今回は、芦屋と梨香の関係に読者の目を向けさせておいて、いきなり大規模な事件が発生し、そこからちーちゃんが謎の昏睡に陥るという怒濤の展開だったため、最初から最後まで息をつかせぬ面白さだった。

・というか、梨香かわええ。ぶっちゃけ、真奥とのファーストコンタクトのときの謎の上から目線がかなり感じ悪かったので(恵美にとっては大切な友人だというのは理解したうえで)、あまり良い印象は持っていなかったが、芦屋を前にしたときの反応でようやくチャラになったかなという感じ。僕は基本的にサブカプにまったく興味を持てないのだが、芦屋と梨香に関しては素直に応援したくなるように書かれているのが新鮮だった。このへんは、あまりラブコメを前面に押し出さず、真奥に女キャラの好意が集中するような作品ではないからなのかなと思う。……ハーレム学園ラノベとかでサブカプを書き始める作家さんは何か勘違いしているんだろうなあ

・エンテ・イスラの秘密がじわじわと明かされていくのにワクワク。恵美にとっては魔王を殺す理由になっていた部分を覆されたりもして、いよいよ話が大きく動き始めた印象。ちーちゃんマジ天使になっちゃったりもして、絵面を想像するとあまりシリアスな感じはしないのだが、このへんのさじ加減も個人的には好み。ただまあ、今後ずっとこういうヌルい展開のままでは済まないだろうから、そこをどういうふうに乗り切るつもりなのか、期待半分不安半分といったところ。

・ひとつ余談を語ると、今回は恵美の母親らしきキャラクターが暗躍していることが明るみに出て、ちーちゃんを媒介に真奥たちのピンチを救っていたが、こういう「すべてお見通しよ」みたいなキャラは物語に絡ませすぎると興ざめする要素なので危ういかなと。ただ、このあたりも上手くて、「おいおい母親なんだったらもっとやりようがあるだろう」みたいな読者の気持ちを、恵美自身がそれなりに代弁してくれるおかげで、腹に溜まるストレスが最低限に留められるというのは間違いなくある。ちーちゃんの母親の苦悩なんかとオーバーラップさせる演出なども踏まえると、こういうストレスが溜まりそうなデリケートな要素を書くときはかなり気を遣っている様子が見て取れるのは、昨今のラノベにあまり見られない丁寧さなので、これからも頑張って頂きたい。

 つーわけで、続きが楽しみですということで一つ。

 あ、最後にもうひとつ余談。
 1巻の阪神大震災トークのときも思ったんですけど、東日本大震災についてあとがきで注意書きをする必要はなかったんじゃないですかねえ。
 こういうのってホントにデリケートな話ですよねー。


【ラノベ】はたらく魔王さま! 4

2013-05-17 | ライトノベル
はたらく魔王さま!4 (電撃文庫) はたらく魔王さま!4 (電撃文庫)
価格:(税込)
発売日:2013-03-28

 読了。

 すげー面白かった!

 いや、見事に持ち直しましたね。3巻のつまらなさと比べると雲泥の差です。一体あれはなんだったんだよと。

 そんなわけで、4巻では舞台を笹塚から銚子に移したエピソードが描かれます。間が悪いことにアパートの建て直しと職場の改築が重なったことで、一時的に居所と職を失うことになる真奥でしたが、大家の計らいにより海の家に住み込みで働くことになり――というのが今回の導入。
 ぶっちゃけ少し「魔王が労働に勤しむ」というモチーフがマンネリになっていたので、目先を変えたのは大正解だったんじゃないかなと。真奥がこれまでに培ったノウハウを用いて海の家を繁盛させるという筋書きは面白かったですし、新鮮味もありました。海の家で働くにあたり、芦屋や漆原だけではなく恵美たち女性陣が能力の高さをいかんなく発揮していたのも実に爽快。
 また、これら日常のエピソードと並行して、いわば本筋であるエンテ・イスラ側の要素も新展開を見せたのは嬉しい誤算と言えるでしょう。
 オルバの暗躍から始まった今回の事件は、単純に次巻以降に向けての伏線を張るだけではなく、側近であるアルシエルよりも魔王の真意を理解しているカミーオが登場したのが大きいですね。なんというか、『はたらく魔王さま!』という作品の落としどころがどこにあるのか垣間見えた気がします。
 いやもう、4巻は本当に最初から最後まで目の離せない展開で、一気に読み終えてしまう面白さがありました。
 以下雑感。

ちーちゃんの母ちゃん器デケエエエエ! 娘を甘やかすのではなく、厳しく理不尽を押しつけるだけではなく、なんていうか押し引きの加減が理想の親御さんって感じ。ラノベ、アニメに出てくる親って基本的にカスなので、こういう親御さんを見かけるのってすっげー珍しいかも。思えば最初に真奥たちを保護してくれたのがちーちゃんの親父さんだったわけで、この親にしてこの子ありって感じだよなあ。

・んで、大家さんの頼りがいはガチ。これまでもなにか特別な力を持っていることは示唆されていたけど、姪である天祢と関わったことで何らかの思惑を持って真奥たちと接触していることが明らかに。天祢の言葉をそのまま受け取ると、エンテ・イスラには危機が迫っていて、それを知った大家さんは魔王と勇者を導くことで救おうとしているのかな。このへんは、ずっと曖昧にされている「魔王がエンテ・イスラを支配しようと思った理由」とも関わってきそうなので、どういう裏があるのか楽しみ。

・漆原が社会復帰しつつあってワロタ。ニートからフリーターにクラスチェンジなんて書くとギャグ以外の何物でもないのに、アラス・ラムスのことを気遣ったり、魔王の側近として頼れるところを見せたり(相変わらず扱いは軽いけど)と、好感の持てるキャラクターへと変貌しつつあるのが面白い。恵美との接し方ひとつ取っても、真奥や芦屋とはまた違った趣があることを強調して描かれているので、オチ担当ではなく重要なポジションを担っているのがよくわかる。

・オチ担当といえば、今回ベルさんはやや不遇だったかも。砂の城はすごいけど地味だし、全編通して放置気味だったような。めちゃくちゃ有能なのに勿体ないというか、このへん1、2巻の恵美に通じるところがあって、つまり安定して扱いのいいちーちゃんがメインヒロインってことでよろしいでしょうか?(謎の敬語)

・しかしながら、大家さん(天祢)の存在をはじめ、作中での描かれ方を見ていると、「おいおいファンタジー世界の住人様方よ。あんま地球ナメんなよ?」みたいなノリがチラ見してる印象を受けるのは僕だけではないハズ。少し構造論的な話をすると、「現代にファンタジー設定をミックスした作品」というのは大きく二つに分けることができるんだけど、ひとつは「ファンタジー世界>現代世界」、もうひとつは「ファンタジー世界<現代世界」と、それぞれ不等号の向きが逆になるような力関係のどちらかが用いられているんだよなー。前者であれば「超能力すごい! 魔法すごい! 一般人は無力!」みたいな描かれ方をするし、後者であれば逆になると。で、『はたらく魔王さま!』はどちらかというと後者の様式を取っていると考えられるっつーわけで。

・これはべつにどちらが良いとか悪いという話ではなく、例えば某『ゼロの使い魔』だと基本的に魔法文明最強の世界で、サイトが現代の武器を持ち込んで(というか用いて)無双したときには爽快感を感じるような構造を上手く運用していて、それと同様にファンタジー世界で最強の魔王様と勇者様が「地球人ハンパないわー」とか言ってるのを見るとニヤニヤしてしまう要素があるということ。昨今、魔王や勇者をモチーフにしたラノベが一気に増えたが、その中でもこの作品が異彩を放っているのは、このへんに理由があるんだろうなあ。設定が設定のみで完結するのではなく、キチンと物語の中で意味を持たせることができている作品は、やはり完成度が高くなると思う。

 つーわけで、非常に楽しい一冊でしたということで一つ。


【ラノベ】はたらく魔王さま! 3

2013-05-09 | ライトノベル
はたらく魔王さま!3 (電撃文庫) はたらく魔王さま!3 (電撃文庫)
価格:(税込)
発売日:2013-03-28

 読了。

 言葉を選ばずに言うと、なんか一気に微妙になったなーという感じ
 たぶんこれ、今回のメインでもある「アムス・ラムスを可愛いと感じるかどうか」、「アムス・ラムスに振り回される面々を楽しめるかどうか」というのが踏み絵になっていて、僕はこの部分をあまり面白いと感じなかったので、読み進めているときにかなり目が滑ってしまいました。
 すげー身も蓋もない話、この話ってもうちょい巻数を重ねてからやったほうがよかったんじゃありませんかねえ
 僕はこの作品を1巻2巻と読んできて、真奥と恵美をはじめとしたキャラクターたちの絡みが気に入ったからこそ絶賛していたわけです。ところが、ある程度固まりかけていたキャラたちの人間関係にアムス・ラムスが投入されたことで、それらすべての人間関係がアムス・ラムスを介したものになってしまったんですね。
 これには正直、悪い意味で意表を突かれたというか、個人的にはすごく期待外れな展開だったと言わざるを得ません
 ぶっちゃけ、キャラクターたちの人間関係も、まだ完全に固まった(=作中で掘り下げられた)とは言い難いわけですよ。それなのに、集団におけるパワーバランスを一気に覆しかねないキャラを投入してしまうというのは、僕は愚策だと思います。これってマンネリになってきた作品にテコ入れするときに使う最終手段じゃないですか。
 や、某『IS』を例に挙げると、アムス・ラムスって楯無姉みたいな存在なのですよ。アレは初登場が5巻でしたが、それでも違和感というか、浮きっぷりがすごくてなかなか受け付けませんでした。だというのに、アムス・ラムスの場合は、3巻でそういう「これまでのパワーバランスをぶっ壊すキャラ」を投入しちゃったわけですよね。
 なんかこう、僕としてはもう少し、真奥を中心にして恵美とちーちゃんが互いを窺うとか、それをベルさんが遠巻きに眺めているとか、そういうシチュエーションを楽しみたかったんですけど、いきなり子育て奮闘記がはじまっちまうんだもんなあ……
 誤解を恐れずに言うと、子育て奮闘記そのものは大いに結構なんです。ただ、どうしてもそれが最優先になってしまうため(ただでさえ『はたらく魔王さま』の登場キャラは常識的な判断をする連中ばかりですし)、いうなれば「アムス・ラムスという新要素を活かすために、その他のこれまでウリだった要素の大半を犠牲にしている」ような状態になっているんですね。
 で、僕としては「これまでウリだった要素>アムス・ラムスという新要素」という不等号が成立してしまうため、3巻はすっげーつまんなかったですわーと\(^o^)/

 まあ、話に聞くところによると3巻はファンの間でも微妙な評価で、4巻からまた右肩上がりに面白くなっていくということなので、続きに期待したいと思いますっつーことで一つ。


【ラノベ】はたらく魔王さま! 2

2013-04-28 | ライトノベル
はたらく魔王さま!2 (電撃文庫) はたらく魔王さま!2 (電撃文庫)
価格:(税込)
発売日:2013-03-28

 読了。

 ……1巻と同じ水準を維持!(結論を先に書くのは分かりやすい文章の基本)

 この作品って1巻の完成度がワリと高かったというか、この設定を用いて書けるエピソードをあらかた出し切ったという印象があったので、続きをどうするのかというのはすごく気になっていました。身も蓋もないことを言うと、あそこから話を膨らませるのが難しそうだな、と感じたんですよね
 真奥が労働に勤しむ日常→力を取り戻してのバトルという流れを恒常化させるにせよ、一度力を取り戻してしまった以上は意外性が薄れるというのは否めません。異世界からの刺客が現れるという展開は何度も繰り返すと飽きそうですし、毎度毎度、刺客が魔王と勇者を狙う理由付けをどうするのかという問題もあります。
 そんなわけで、2巻では真奥の立場を変える(店長代理に格上げする)ことで日常パートにテコ入れをしつつ、新たな刺客の目的を「勇者の持つ聖剣を奪う」という今後に向けての伏線として使える内容にしたのは、なるほどな、という感じでした。
 エンテ・イスラでの魔王の境遇を考えれば、新キャラが勇者(教会)側の人間というのは納得ですし、漆原が魔王陣営に加わったことで男女のバランスも偏らずに進行しているので、非常にバランスのよい構成になっていると思います。
 以下雑感。

・とはいえ、相変わらず色々と勿体ないところが目につくのも事実。文章に関しては改善しているというか、慣れた部分があるのであまり気にならなくなったのだが、やはりテンポはよくない。あと、全体的にすごく淡々と描写されるので、盛り上がりそうなシーンをサラッと流してしまうのが引っかかる。具体例を挙げると、恵美やちーちゃんが鈴乃の存在を認識したときは、「おいおいこれからどうなっちゃうんだよ」とワクワクしたのに、どちらもあまり盛り上がらずに「なーんだ、そういうことか」となってしまったので、かなり拍子抜け。

・結局これは、キャラクターが善人すぎるという部分に帰結する問題なんだろうなと。善人というと少しニュアンスがズレるので、この場合はキャラクターたちが「物わかりがよく、短絡的でない」と言うべきか。コレは個人的にすごく好感が持てるキャラクター描写だし、ラノベなどにありがちな「物わかりがよくなくて、短絡的」なキャラは見ていてイライラするのだが、あまりにキャラクターたちが〝大人〟すぎると、面白そうなトラブルが起こる前に沈静してしまうという皮肉な形になる好例だと思う。正直、コレ単体ならスルーできるのかもしれないけど、上記した「淡々とした描写」との食い合わせが最悪なんだよなあ……。

・で、〝大人〟なキャラクター造型というのは今作のウリの一つだと思うので、やはり手を入れるべきは文章と構成のほうだと思う。恵美が鈴乃に正体を明かされるシーンなどは、内容は悪くないのに、文章のテンポが悪いせいでどうしてもスベっているように見えてしまう。あそこはアニメで見るとすごく笑えるだろうなーと思えてしまうあたり、もう少しポンポンと台詞が飛び交うような書き方ができれば、もっと面白い作品になると思う……んだけどなあ。

・ただまあ、何度も書いているように内容は面白い。特に中盤~終盤にかけてのネタ明かしの中で、魔王軍の面々が翻弄されているように見えるのは表面だけで、鈴乃の思惑などにもキチンと気づいていたりするのは、軽い俺TUEEネタで実に好み。しかし魔王は、エンテ・イスラの人間にはすげー容赦ないのに、人間界の知り合いにはめっちゃリスペクトを持って接するのが興味深いというかなんというか。

 つーわけで、良いところも悪いところも1巻を引き継いだような印象でした。
 できれば次の3巻では、良いところを維持しつつ、悪いところを改善するようにして頂きたいですねということで一つ。

 そういえば、今回のラストバトルの舞台は都庁の屋上でしたが、あれがイマイチぴんとこなかったのは僕が東京在住じゃないせいなんでしょうか。
 頭の中では、なんとなく『Fate』でセイバーが最初にエクスカリバーを使ったビルのようなものをイメージしていましたけど、いきなり異世界パワーを使って結界を形成してしまうので、前半の日常パートとの乖離がすごすぎて戸惑います。
 このへんは、1巻のときも感じたことなので、もうちょい日常パートとの摺り合わせを行って欲しいというか、一般人に目撃されたら大変なことになるのは分かるんですけど、安易に便利な結界などを使うのではなくて、もう一捻りした『はたらく魔王さま!』ならではの舞台装置を見てみたいですね。
 最初はマクド(違)とケンタ(違)の代理戦争みたいになると思ったら、そこを掘り下げるわけでもなかったしなあ。うーん、拍子抜け。