goo blog サービス終了のお知らせ 

ブログよりも遠い場所

サブカルとサッカーの話題っぽい

【小説】みをつくし料理帖 想い雲

2010-04-25 | 小説
想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫) 想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)
価格:¥ 600(税込)
発売日:2010-03

 読了。同シリーズの第三巻にあたる作品。

 とにかく面白かった!!
 というか、この作品って一巻がすごく面白くて、かつすごくまとまっていたんですよね。で、こういう一巻がまとまってた作品って、二巻以降尻すぼみになって、「結局、一巻が一番面白かったなあ」となるのが定説みたいなもんだと思ってたんですが、巻を重ねても面白いままってすっごいよなあ。コレは快挙と言っても過言ではないと思う。

 今回は、澪とその周囲の人たちの移り変わっていく日常を料理というキーワードに基づいて描くというベースはそのままに、一巻から続く「主人公・澪が生き別れになった幼なじみと徐々に距離を縮めていく」、「澪の保護者である芳の息子さんの探索」という二つの大きな流れがじわじわと前進した感じでしたが、この両方を過不足ないバランスで配置できるのはマジですげーや。
 や、こういうのって長編小説の理想型だと思うんですけど、なかなか実現するのは難しいと思うのですよ。小さな流れ(=日常描写)のほうに傾きすぎて大きな流れを疎かにすれば中だるみしてしまいますし、逆に大きな流れのほうを意識しすぎると「作者の見えざる手」が視界に入ってしまってあまりにも物語が作り物めいてしまう。ですから、ここまで見事にミクロな展開とマクロな展開をバランスよく配置し、読者を飽きさせず、かつプロットの通りに物語を収束させていくという手腕に舌を巻いてしまいました。

 個人的に、『想い雲』で一番気に入ったのはハモの話。
 澪が野江と僅かながら邂逅するという展開はもちろんのこと、女料理人を舐めていた人たちが澪の卓越した料理の腕を目の当たりにして、何も言えなくなって しまうというのが実に痛快でした。コレって俺TUEE要素なのよね。でもさ、ぶっちゃけハモってそんなに美味くねーよなwwww
 あと、うまいなと思ったのは、「かつての芳さんとこの奉公人が実は悪い人でした」という伏線に、包丁の手入れがずさんだったというネタを仕込んだあたり。僕は『みをつくし料理帖』って一本ピンと軸が通った作品だと思っているんですけど、その要因ってやっぱ「料理」というメインテーマをあらゆるところで土台にするところなんだろうなと。
 いやー、でもホント面白かった。続きが楽しみです。
 この作品を教えてくれたQQQさんにはいくら感謝してもし足りないわ。

 最後はどうでもいい話。
 なんていうか、この作品に登場する美緒さんみたいな「鼻持ちならないお嬢様なのに、どこか憎めない」というキャラを上手く書ける人は、たぶんキャラクター描写の能力にもすごく長けていると思う。ようするに、いわゆるツンデレキャラを上手く書ける人は実力のある作家さんだと思う。だから逆に、ツンデレを暴力的だったり、単なるワガママだったり、そういう風に極端にしか書けない人は、キャラクター描写の能力が欠けているから、たぶん何を書いてもつまんねーんじゃないかなと思うのです。
 つまり、腕のある作家かどうか見分けたいときは、ツンデレキャラに注目してみればいいんじゃないですか、という持論でした。
 コレって結構当てはまると思うんだけどなー。どうかなー。


【小説】マタタビ潔子の猫魂

2010-03-21 | 小説
マタタビ潔子の猫魂(ねこだま) (ダ・ヴィンチブックス) マタタビ潔子の猫魂(ねこだま) (ダ・ヴィンチブックス)
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2010-01-20

 読了。

 どっかで面白いって評判を見かけたので購入。
 や、結構面白かったです。帯によると、第四回ダ・ヴィンチ文学賞の大賞を受賞した作品らしいですね。軽いあらすじを説明しますと、「地味な派遣OL潔子28歳が日常生活で鬱屈を溜めていく。そして限界が訪れたとき猫使いとしての能力が発言し、ストレス解消する」という感じのお話。

 個人的に、この話の良点は、わかりやすさにあると思いました。

 構成に関しては、「潔子(読者)がストレスを溜めるパート」と「潔子(読者)がストレスを発散するパート」を明確に分けたのは実に見事。こうやって構成をザックリと割り切ってシステム的(いわば日本人が受け容れやすい"水戸黄門的システム"とでも言うべきもの)に配することで物語のわかりやすさとテンポのよさを両立しています。
 んで、「潔子がストレスを溜めるパート」で描かれる障害が、これでもかってくらいわかりやすい「ウザイヤツ」というのがまた上手い。実生活において、潔子と同じように言われるがままなのか、ある程度否定の意思表示をしているのか、という差はあると思いますが、ホントは反発したいけどできなくて心の内に鬱屈を溜め込むってのは、現代人であれば誰でも経験があることでしょう。そういったものを描きつつ、「潔子がストレスを発散するパート」で、ピシャリと「ウザイヤツ」に仕返しをしてみせる様子を描くのは、カタルシスを演出するための最もシンプルな方法のうちのひとつだと思いました。
 しかも、ここで忘れてはならないのは、猫魂という超常的な方法を用いてはいますが、潔子の仕返しの仕方がすっげーガキっぽいところ。この場合のガキっぽいってのは決して悪い意味ではなくて、エグすぎないという意味なんですけど。
 なんつーか、某『笑うせぇるすまん』なんかも調子に乗った人が痛い目にあうタイプの話ですが、仕返しの仕方が陰湿でエグくて、しかも結末が超常的すぎるんですよね。例えば、怠けてた人が本当に動物のナマケモノになってしまうとか。そういったオチはホラーじみていてインパクトはあるし、ブラックユーモアとしては称えられるべきなのかもしれないけれど、カタルシスを感じたりはしないのです。
 その点、潔子の仕返しは、どれもこれも爽快。無理矢理呑みに付き合わせて好き勝手飲み食いした挙げ句ワリカンにするとか、自分の潔癖症を他人に押しつけてグダグダうるさいとか、結婚と出産の正当性を盾に憂さ晴らしをするとか、そういうやり方をしてくる「ウザイヤツ」に、自分がされたのと同じ方法を用いて正面から堂々と仕返しをしてみせる。これは、本当に爽快だ。
 まあ、相手の人が結果として精神を病んでしまったり、離婚したりといったエグさはやりすぎの感はありましたけど(そういう意味じゃ最初のエピソードが一番面白かった)、このへんもわかりやすさを重視したうえでの選択なんだろうな、という感じで。

 とまあ、サクッと読めてそこそこ面白いので、値段が気にならない方は機会があったら手にとってみてください、ということで一つ。


【小説】スペース

2010-01-21 | 小説
スペース (創元推理文庫) スペース (創元推理文庫)
価格:¥ 672(税込)
発売日:2009-05-05

 読了。

 既に『ななつのこ』と『魔法飛行』は忘れかけてるんですけど、『スペース』を読み始めたら「ああ、そういえばこんな感じだった」と思い出しました。
 感想としては、うーん。
 面白かったといえば面白かった。でも微妙といえば微妙。
 どちらかというと微妙寄り。
 ぶっちゃけハードカバーで買うほどではないというか、買わなくてよかったというか。
 そんなラインにある一冊。
 ……正直なところ、これは別に僕が読みたい類の話ではなかったなあ。内容というか、方向性的な意味で、期待したのと全く異なったベクトルの物語ではないんだけど、味噌ラーメンを食いたいときに塩ラーメンを食わされた、みたいな、そういう拍子抜け感。

 今作『スペース』は、前半の「スペース」と後半の「バック・スペース」の二部仕立てになっていて、「スペース」では物語のあらましを「駒子視点」でおおざっぱに語り、「バック・スペース」では「駒子以外の視点」で背景説明をする形になってるわけですけど、こういうのはどうも肌に合いません。
 ぶっちゃけてしまうと、こうやって途中で視点を変えてしまう手法というのは、とてつもなく安っぽい。言うまでもなく、本を読むときには行間というものが存在するわけですけど、僕はそうした「行間を読む」という行為が本を読むときのひとつの楽しみだと思っているし、また、そうやって「行間が読」めるように書くのは筆者の腕の見せ所でもあると思っているのです。
 ようするに、文章に描かれている表現(人物の言動)から、文章に書かれていない表現(人物の内心)を推しはかることが楽しく、同時に、推しはかれるように上手く表現してあると「この作家さん、やるなあ」と感心するんですけど。

 乱暴な言い方をすると、途中で視点を変える手法は、この楽しみを完全に奪います。

 推理小説で例えるなら、探偵役の視点で進んでいた物語を、ネタバラシだけ犯人役の視点でするようなものです。実はこういうのってエロゲでもよくある手法で、主人公の一人称で進んでたと思ったら、いきなりヒロイン視点になり、ユーザーに向けて心情を語り出したりするのですよ。僕はねー、こういうのすっげー萎えるんすわー。興ざめなんすわー。
 でもまあ、こういう手法を使ってしまう心情というのはすごくわかるというか、単純に楽ってことなんでしょーね。ずっと主人公の一人称で描く場合、「このキャラクターは、今こういうことを考えていますよ」ってのを相手の仕草や台詞で仄めかすことしかできないわけで、直接書けないから間接的に読者に報せるための工夫が必要になります。対して、視点を変えてしまえば、「私(このキャラクター)は、今こういうことを考えていますよ」って直接書けちゃう(読者に報せることができる)わけですから。そこに文章力は必要なくて、ただ単にプロットが用意されていればいいということになります。

 話を『スペース』に戻しますが、正直、どんな手法を使っても面白ければそれでいいんです。ところが『スペース』には、手法の安っぽさを誤魔化せる(ねじ伏せる)だけの面白さは感じませんでした。
 まず、前半の大半が手紙で埋められてるってのは、何事かと思いました。
 しかもこれがまたつまんねーのな。内容を読んでいくと、瀬尾さん(読者)向けのミスリードが仕組まれていたり、「バック・スペース」への伏線だったりってのがわかるんですけど、女学生が家族に当てた手紙(という体の文章)をずらーっと何十ページにも渡って読まされたら退屈なだけだっつーの。こっちとしちゃあ最初から駒子が書いてる手紙のわけがないって思いながら読んでるのでミスリードにはなりませんし、そうなると「これは一体誰が書いてるんだ?」って疑問を抱えたまま読むハメになるわけです。
 この手紙も見方によっちゃあ、

・手紙の端々に表れる書き手の不安定さを表現している
・今作のテーマでもある、多角的なものの見方についての表現が巧み

 等々、特筆すべき点はあるんですが、だからといって面白いか? と言われると答えはノー。読み返すと面白さがわかる類の物語だと理解したうえで、読み返すほど面白くないという感想を抱く、ある意味詰んだ作りになってるんだよなあ。
 後半の「バック・スペース」に関しても、双子がそれぞれ抱える心の悩みという手垢がついた題材を穿てるほどのパワーがないので、どうしても「ご都合主義だなあ」という思いのほうが強くなってしまう。そもそも、まどか視点で語られる種明かしというのが、駒子と瀬尾さんをメインに据えた物語を期待していた僕にとって、その時点で期待からかけ離れたものになってしまっているので、かなりのどうでもよさを放っておりました。なので、まどかとくっついた青年が「ななつのこ」の作者の弟だとかって伏線も、えー今さらー? という感じで。

 振り返ってみると、二冊目の『魔法飛行』はトンデモすぎましたし、僕好みの北村薫テイストを保った日常の謎系の話としては、一冊目の『ななつのこ』がピークで、あとは尻すぼみなシリーズでした。
 ということで一つ。


【小説】みをつくし料理帖

2009-11-05 | 小説

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫) 八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)
価格:¥ 580(税込)
発売日:2009-05
花散らしの雨 みをつくし料理帖 花散らしの雨 みをつくし料理帖
価格:¥ 600(税込)
発売日:2009-10

 友人がお勧めしてくれたんで読んでみたんですがコレ面白い!
 ザックリ内容を説明すると、料理人の女性が主人公の江戸時代を舞台にした小説、って感じでしょうか。主人公「澪」が様々な不幸に見舞われつつも、自身の持つ料理への熱意で創意工夫を重ね、新メニューを開発して街の人々とともに生活していく、というのが話の軸になっています。澪と言っても決してスケッチブックに『あのね』ではありません。別にタクティクスをディスってるわけじゃないよ!(´ω`)w
 それはさておき、この話のなにがスゴイかって、テンポがスゴクいいです。一巻、二巻とも250ページほどの中に四編の物語が収録されているんですが、「・ひとつひとつの話がそれほど長いわけではない」のに「・決して食い足りないとは感じない」ので、サクサク読めるワリに中身が詰まってるように感じるんですよね。基本的に短編連作の形を取っているため、それぞれの話の中で起こる問題を解決しつつ(サブ)、大きなストーリーの流れ(メイン)が少しずつ進んでいく感じなんですけど、このメインとサブの話が展開していくバランスが絶妙なんすわ。特に、続きが出るか定かではなかった一巻に比べ二巻はコレが顕著で、今後絡んでくるであろう登場人物を最初のうちからチラチラ顔見せさせていたり、澪が様々な方面への人脈を着々と構築していたりと、かなり計算されて書かれているような気がします。
 このへん、物語の構成力が高いのかなと。構成力が低いと、メインの話を書くのにイッパイイッパイになってしまって、サブの話の中身が疎かになってしまったり、その結果としてキャラクターが"物語を展開させるための駒"になってしまいがちなんですけど、キチンと両立できているのは見事の一言。
 あとはまあ、構成力が高いとかって要素を脇に置いておくとしても、純粋に話が面白いですね。や、個人的にこういう「主人公の発想で周囲を驚かせる」的な話、大好きなんすよ。エロゲで言うと、最近やけに多い「庶民の主人公がセレブなヒロインたちの暮らしに飛び込んで行かざるを得なくなる」という設定みたいな感じ。アレは中身まで満足いくことは少ないですが、取っかかりとしてはかなり好きな部類ですハイ。
 『みおつくし料理帖』の場合、(今のところは)発想がすべて料理に向かってるところがいいんだろうなあ。料理バカという澪のキャラ立てにも合致しますし、たとえば経営の仕方とかに発想力が発揮されたりして、ヘンに読者の視点がブレないようにしているというか。澪が関西出身で、江戸の人たちに馴染みのない料理を振る舞い、そして受け容れられるっていうのは、読んでいるほうとしても納得のいく設定ですし。うーん、本当に見事。
 つーわけで面白い小説を求めている人は是非とも読んでみてください。この作品、書店側からもかなりプッシュしているので、ひょっとすると目立つところに平積みで置いてあるのを見たことがある人もいるかも。こういう、一巻がめっちゃまとまってたのに好評だったから続編を書きました、みたいな話って、二巻以降が尻すぼみになることが多いんですけど、コレは二巻も相当面白かったです。
 しかし表紙の絵は下がり眉っていうレベルじゃなくて、軽く妖怪入ってるよなあ。一巻の表紙は地味目の色使いだったので気にならなかったけど、二巻はピンクがキツいせいで浮いてて怖いもの……(´ω`)