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サブカルとサッカーの話題っぽい

【小説】スペース

2010-01-21 | 小説
スペース (創元推理文庫) スペース (創元推理文庫)
価格:¥ 672(税込)
発売日:2009-05-05

 読了。

 既に『ななつのこ』と『魔法飛行』は忘れかけてるんですけど、『スペース』を読み始めたら「ああ、そういえばこんな感じだった」と思い出しました。
 感想としては、うーん。
 面白かったといえば面白かった。でも微妙といえば微妙。
 どちらかというと微妙寄り。
 ぶっちゃけハードカバーで買うほどではないというか、買わなくてよかったというか。
 そんなラインにある一冊。
 ……正直なところ、これは別に僕が読みたい類の話ではなかったなあ。内容というか、方向性的な意味で、期待したのと全く異なったベクトルの物語ではないんだけど、味噌ラーメンを食いたいときに塩ラーメンを食わされた、みたいな、そういう拍子抜け感。

 今作『スペース』は、前半の「スペース」と後半の「バック・スペース」の二部仕立てになっていて、「スペース」では物語のあらましを「駒子視点」でおおざっぱに語り、「バック・スペース」では「駒子以外の視点」で背景説明をする形になってるわけですけど、こういうのはどうも肌に合いません。
 ぶっちゃけてしまうと、こうやって途中で視点を変えてしまう手法というのは、とてつもなく安っぽい。言うまでもなく、本を読むときには行間というものが存在するわけですけど、僕はそうした「行間を読む」という行為が本を読むときのひとつの楽しみだと思っているし、また、そうやって「行間が読」めるように書くのは筆者の腕の見せ所でもあると思っているのです。
 ようするに、文章に描かれている表現(人物の言動)から、文章に書かれていない表現(人物の内心)を推しはかることが楽しく、同時に、推しはかれるように上手く表現してあると「この作家さん、やるなあ」と感心するんですけど。

 乱暴な言い方をすると、途中で視点を変える手法は、この楽しみを完全に奪います。

 推理小説で例えるなら、探偵役の視点で進んでいた物語を、ネタバラシだけ犯人役の視点でするようなものです。実はこういうのってエロゲでもよくある手法で、主人公の一人称で進んでたと思ったら、いきなりヒロイン視点になり、ユーザーに向けて心情を語り出したりするのですよ。僕はねー、こういうのすっげー萎えるんすわー。興ざめなんすわー。
 でもまあ、こういう手法を使ってしまう心情というのはすごくわかるというか、単純に楽ってことなんでしょーね。ずっと主人公の一人称で描く場合、「このキャラクターは、今こういうことを考えていますよ」ってのを相手の仕草や台詞で仄めかすことしかできないわけで、直接書けないから間接的に読者に報せるための工夫が必要になります。対して、視点を変えてしまえば、「私(このキャラクター)は、今こういうことを考えていますよ」って直接書けちゃう(読者に報せることができる)わけですから。そこに文章力は必要なくて、ただ単にプロットが用意されていればいいということになります。

 話を『スペース』に戻しますが、正直、どんな手法を使っても面白ければそれでいいんです。ところが『スペース』には、手法の安っぽさを誤魔化せる(ねじ伏せる)だけの面白さは感じませんでした。
 まず、前半の大半が手紙で埋められてるってのは、何事かと思いました。
 しかもこれがまたつまんねーのな。内容を読んでいくと、瀬尾さん(読者)向けのミスリードが仕組まれていたり、「バック・スペース」への伏線だったりってのがわかるんですけど、女学生が家族に当てた手紙(という体の文章)をずらーっと何十ページにも渡って読まされたら退屈なだけだっつーの。こっちとしちゃあ最初から駒子が書いてる手紙のわけがないって思いながら読んでるのでミスリードにはなりませんし、そうなると「これは一体誰が書いてるんだ?」って疑問を抱えたまま読むハメになるわけです。
 この手紙も見方によっちゃあ、

・手紙の端々に表れる書き手の不安定さを表現している
・今作のテーマでもある、多角的なものの見方についての表現が巧み

 等々、特筆すべき点はあるんですが、だからといって面白いか? と言われると答えはノー。読み返すと面白さがわかる類の物語だと理解したうえで、読み返すほど面白くないという感想を抱く、ある意味詰んだ作りになってるんだよなあ。
 後半の「バック・スペース」に関しても、双子がそれぞれ抱える心の悩みという手垢がついた題材を穿てるほどのパワーがないので、どうしても「ご都合主義だなあ」という思いのほうが強くなってしまう。そもそも、まどか視点で語られる種明かしというのが、駒子と瀬尾さんをメインに据えた物語を期待していた僕にとって、その時点で期待からかけ離れたものになってしまっているので、かなりのどうでもよさを放っておりました。なので、まどかとくっついた青年が「ななつのこ」の作者の弟だとかって伏線も、えー今さらー? という感じで。

 振り返ってみると、二冊目の『魔法飛行』はトンデモすぎましたし、僕好みの北村薫テイストを保った日常の謎系の話としては、一冊目の『ななつのこ』がピークで、あとは尻すぼみなシリーズでした。
 ということで一つ。


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