今更留学記 Family medicine

家庭医療の実践と、指導者としての修行も兼ねて、ミシガン大学へ臨床留学中。家庭医とその周辺概念について考察する。

前立腺がんと肺がん検診への厚生労働省の見解

2007-09-10 01:27:17 | けんしん
「前立腺がん検診としてのPSA検査は推奨しない」という厚生労働省研究班の発表がありました。

当たり前なので何を今さら・・・なのですが、この「推奨しない」というニュアンスは気になりました。

欧米のガイドラインでは推奨度をA,B,C,D,Iと分けています。
 Aは推奨する
 Dは推奨しない
 Iは根拠が不十分なので結論が出ない

米国のガイドラインなどは現在2つほどのRCTが進行中であるためか、推奨度をIとしています。

Iというのは、「ちゃんとした研究結果がないから分からない」ということなのですが、これとは違いDというのは「害が利益を上回るから勧められない」ということです。

今回の発表のニュアンスはどっちのなのでしょうか?Dの語調のようにも見えますが。そもそも、IとDを区別して考えているのでしょうか??

こういったところもあり、泌尿器科学会が噛み付いているのでしょうね。


話しは変わりますが、実は前立腺がん検診の発表の陰でこっそりと

「肺がん検診、年1回適当の見解」

http://www.cabrain.net/news/article.do?newsId=11860

という厚生労働省検討会の発表があったのをご存知でしょうか?

だいたい、この元となったまとめでも肺がん検診が有効などという結論は出ていないはずなのですが・・・

そもそもDo no harmという原則に則れは、結論が出ていなければ、よけいなことはやらないというのが基本のはずです。

つまり、「現状で行われている肺がん検診をやめるためには、有効でないと証明しなければいけない」のではなく、

「有効かどうかが証明されていない間は肺がん検診をやってはいけない」のであり、
「肺がん検診を推進するサイドにその有効性を証明する義務がある」のです。


逆だと思うんですけどね~・・・


家庭医、総合診療、総合内科の違いとニーズ主義

2007-09-08 00:27:56 | 家庭医療
家庭医、総合診療、総合内科などなど、ジェネラリストには色々な呼称があります。

誤解を恐れずにそれぞれを大まかに定義すると以下のようになります。

家庭医(family medicine)=新生児のケアから小児、出産、老人のケアまで年齢、性別にかかわらず外来を中心に診療し、家族や地域を意識した診療を行うジェネラリスト

総合診療(general medicine)=総合診療医学会が定義しているのは「総合診療には家庭医療、総合内科を診療の範囲とするジェネラリストが広く含まれ、医学教育、臨床研究も視野に入れている」

総合内科
(general internal medicine)=内科を中心に診療するジェネラリスト

ただ線引きはクリアカットではなく、家庭医が入院診療をする事もありますし、総合内科医は小児科、産科はやらないとしても心理社会面へ踏み込んだアプローチをとったりもします。

そして、総合診療が一番広い定義のようです。

それぞれ定義はあるのですが、線引きが曖昧になっている理由にジェネラリスト全てに共通する「ニーズ主義」という考えがあります。

ジェネラリストは自分がおかれた周囲のニーズに自分の診療範囲を対応させます。

家庭医療が専門科として確立されている米国でも、家庭医は最初にお産のトレーニングを一律しっかり受けますが、全員が産科診療を続けているわけではありません。産婦人科医がたくさんいる都会で、必ずしもお産を続ける事が必要とされていないというのが一つの理由です。

自分が働く環境のニーズが診療範囲を決める一因となるのです。

アメーバを想像してみて下さい。

ジェネラリストは周囲のニーズに応じてアメーバのように自分の診療範囲を変形させるのです。

大学の総合診療部で小児診療は求められませんが,地域に行けば小児診療は当たり前のように必要となります。

これを可能にするには、質の高い最初の研修も必要ですが、生涯にわたり学習し続ける姿勢こそが一番求められる資質なのです。

つまり常に新しい事と出会い続け、診療をしながら学習していくReflective Practitioner(反省的実践家)という姿が肝要なのです。

家庭医、総合診療、総合内科という大枠の違いこそあれ、ジェネラリストの診療範囲は自分の周りのニーズに対して自分を対応させた結果はじめて決まるものなのです。

ここまで、ジェネラリストには「ニーズ主義に対応するための反省的実践家」であるという共通する姿がある事を述べました。

しかし線引きが曖昧であるにせよ、家庭医と総合内科医には診療範囲に大きな隔たりがしばしば生じていることも確かです。

そこで、自分が将来直面すると予想される診療環境に応じて、最初の研修を組み立てる必要があります。

その研修をどれだけ質の高いものに構築するかという事をふまえると、家庭医療と総合内科は共通項も多いのですが、やはり別々の研修プログラムや認定医を設定する事が望ましいと思います。

この辺のところは後日書く「3学会合併の動き」の部分でも述べたいと思います。

ジェネラリストとスペシャリスト

2007-09-07 00:25:27 | 家庭医療
総合診療部にいると、「先生は何の専門ですか?」とよく聞かれます。

詳しく説明するとあまりにも長くなるので、

「内科系の問題は殆どみます。広く診ることが専門です。」と答えています。

いまいる大学での総合診療部の診療範囲からいえばある程度あたってはいるのですが、正確ではありません。

 正しくは「あなたの専門です」と答えたいのです。

 「あなたがかかえている健康問題の全てに責任を持つ姿勢でいることを専門としている」ということです。

当然、必要に応じて専門医に紹介する事にもなるのですが、紹介した後も患者さんのことを一番把握している医師としてサポートを続けます。

「うちの病気ではないですね」という言葉は一番いいたくない言葉です。

「臓器毎に専門が存在する」という分かりやすい既成概念にしばられると、目に見える臓器で境界線をひけませんので、「結局なに?」と言われてしまうのですが・・・

「専門を決めるのに、まず臓器を限定しなければいけない」という概念をまず打ち捨てて下さい。

 臓器を絞って自分を極める人をスペシャリストと表現するなら、広く診ること、目の前の患者さんの全ての問題に対応しようとする事を自分のアイデンティティとする私たちはジェネラリストです。

ジェネラリストには家庭医、総合診療、総合内科などが含まれるのですが、「違いがよくわからん」というご意見を頂きます。

これについては次回掘り下げてみたいと思います。