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◇企業システム◇デルがCIOの課題に関する調査結果を公表

2008-10-29 15:39:04 | ユーザー

 【ユーザー】デルは、IDCに委託し「アジア太平洋および日本のCIOの課題に関する調査」を行いこのほどその結果を発表した。この調査は中国、インド、日本およびオーストラリアの大手企業に属する、約40名のIT担当者を対象にしたもの。調査結果の概要は次の通り。①日々変化するビジネス環境において競争力を維持するためには、ITを最大限に活用することが必要であり、そのためにはシンプルなIT環境が不可欠②企業はIT予算の少なくとも70%を現状のインフラストラクチャーの維持に充当せざるを得ず、将来的なビジネスの発展に利用可能なIT予算は30%に過ぎない③今後の企業の競争力を高めることの分野は「グリーンIT」「データーセンターの変革」「新しいメディアの利用」―の3つ。 (08年10月22日発表)

 【コメント】デルの今回のユーザー調査は、デルが企業システム市場にいかに重点を置いているかの反映の現われと思われる。デルは個人ユーザー市場で拡大してきたが、今後も永続的に発展するためにはどうしても企業システム市場に重点を移すことが必要になってくるわけで、そのためには企業ユーザーの動向把握は必須の要件となる。今回の調査結果は、複雑化したこれまでの企業システムをサーバーの仮想化技術などにより、いかに低コストでシンプルなシステムに移行させるかが最重点課題であることが強調されている。このことはデル自体がユーザーとして取り組んできた結果とも合致する。デルは「仮想化によって自社の2万台のサーバーを518台の物理サーバーと5000台の仮想サーバーに削減し、プロセッサーの利用率を30%を高め、アプリケーション展開に必要な期間を45日から4日に短縮し、2900万ドルの経費削減」に成功したという。つまり仮想化によりシステムの統合化を実現させ、開発期間の短縮とコスト削減が可能であることを自ら模範を示したことになる。

 以前からメンテナンスにかかわる費用が全体の半分を超えるということがいわれてきたが、今回の調査でも70%が費やされていることが明らかになったようだ。つまり、新規開発の費用は全体の30%以下ということになる。これはまったくのところ異常な現象で、何とか新規開発70%、メンテナンスを含んだシステム運用管理30%の比率に逆転が必要となる。この切り札として仮想化が浮上してきているわけである。そのほかの手段としては、SOAやクラウド・コンピューティングなどが挙げられてはいるが、現時点ではどれほどの効果を企業ユーザーにもたらすかは、いまいち分かりにくい部分がある。SOAはいまあらゆるITベンダー、SI企業が取り組みを強化しているが、数年後に企業システムに具体的成果、すなわちコスト削減、開発期間の短縮をどれほど及ぼすものなのかを明言しているところはほとんど見当たらない。つまり、一企業ユーザーごと実践で試さなければ、効果の程は分からないというのが本音ではなかろうか。このことはSaaS、すなわちクラウド・コンピューティングにもいえそうだ。確かに初期投資コストの削減と開発期間の短縮という効果は生み出すが、ランニングコストはどうなるのか。水道やガスなどのレベルまでランニングコストを抑えられれば効果は出ようが、そうでない場合は企業システム全体のコストを上げてしまう。

 今回の調査結果では、今後の企業競争力を高めることができる分野として「グリーンIT」「データセンターの変革」「新しいメディアの利用」の3つが挙げられている。「グリーンIT」は全世界的なCO2削減の流れの中に位置づけられるが、今一番問題視されているのがITのエネルギー消費の大きさである。IBMが今必死に「グリーンIT」に取り組んでいるのは槍玉に挙がらないうちに問題を何とか解決したいという意思表示だ。この流れは将来、企業の情報システム部門にも押し寄せてきそうだ。昔、情報システム部門は“金食い虫”と揶揄されたが、これからは“エネルギー食い虫”といった中傷を受けかねないので、事前に手を打っておいた方がよさそうだ。これと連動するのが「データセンターの変革」である。仮想化などによってサーバーの数を削減することは当然として、クラウド・コンピューティングの導入などによって、自社のデータセンターのスリム化を図らねばならないだろう。「新しいメディアの利用」は明確なイメージがわきにくいが、例えばユーチューブなどのようなものを企業システムに採用してみることも必要になってこよう。(ESN)