【ユーザー】ウルシステムは、東邦チタニウムの生産管理システムを構築し、08年4月に竣工した新工場を皮切りに、順次3工場で予定通り稼働したと発表した。ウルシステムは知的資産「ULBOK」をベースとした独自のコンサルティング手法で、チタンインゴット生産管理システム構築を包括的に支援し、同プロジェクトを成功させた。これは①ユーザー部門とIT部門が協働して業務モデルを再定義して課題解決を行う手法を推進②アジャイル開発の手法を用いて、1カ月単位で細かく構築し、発生した要望を継続的に取り入れていくことで、業務とのズレのないシステムを実現―したもの。これにより、営業・購買・運輸・品質保証・製造・技術などの各部門に必要な業務情報の一元化や、リアルタイムな可視化が可能になった。 (08年9月11日発表)
【コメント】企業システムの構築は、単にITのノウハウがあっただけでは駄目であり、また、経営ノウハウだけでも駄目なのである。この辺が分かっているようで、まだまだ分かっていない企業が多い。最近になりようやくCIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)への関心が高まるなど、実際に経営に役立つシステムづくりへの取り組みが強化されようとしている。何故こんな自明なことを今頃になって言わなければならないかというと、IT部門と業務部門が水と油みたいな関係にあったからである。これまでIT部門は“ITおたく”みたいな社員が多く、一方、業務部門には“アナログ社員”が多く存在していた。しかし、社会のIT化の急速な流れはこのような状況を一変しつつある。そろそろアナログ人間であると、社会生活もままならない時代に入りつつある。銀行の手続きも自宅のPCから行うことになりつつあるし、各自治体への書類の申請も自宅のPCから行うことが当たり前になってこよう。
アナログ人間は、好むと好まざるを得ず自然淘汰で急速に減少するから問題ないが、意外に厄介なのが“ITおたく”の存在だ。つまり、関心があるのはITだけで、企業経営にはさっぱり興味がないという社員の存在である。しかし、これも状況は急変している。原因は情報システムが企業や公共機関の中枢を担い始めてきたからだ。大昔は企業の情報システム部門は“不要不急部門”といわれ、あればあったでいいが、なければなくてもいい、といった存在であった。ところが、最近の企業システムのトラブル―東証や全日空の事例―を見れば明らかなように、一旦企業システムがトラブルを起こせば社会活動がストップしてしまうまでになっている。
今回、東邦チタニウムのシステムを構築したウルシステムは、ユーザーの要求定義について長年取り組んできた数少ないソフト企業で、IT部門と業務部門が徹底して意見を出し合い、経営に役立つシステムづくりを成功させた。これからの企業システム構築は、あくまで業務改革(BPM)が中心で、システム思考ができなければいくらITに長けていても、その存在意義はだんだん薄くなろう。また、今回アジャイル開発手法を選択したことも注目される。最初からシステム全体を厳密定義するウオーターフォール型開発でなく、徐々に開発していくことにより、最終的には最適なシステムを開発しようという試みだ。船も最初から航路ががちっと決まっているわけでなく、いろいろな条件を解析しながら最適航路を決めていく。これと同じように、企業システムもいろいろな条件を煮詰めながら、最適システムに行き着くアジャイル開発手法を、もっと取り入れてもいいのではなかろうか。(ESN)