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特殊相対性理論・電磁気学・数学

物理の暗黒面や面白い問題など。

有限長電線に流れる電流のパラドックス

2019-05-17 14:27:39 | 特殊相対性理論

1.まえがき

 無限長電線に流れる電流という設定を使って、座標系を変換した時、磁界と誘導電界の等価性の
 説明に使わ
れている。このときは、両端が無いので問題ないが、有限長になると、ある種のパラ
 ドックスが指摘されている。そこで有限長電線に流れる電流
について考えてみる。

 2. パラドックスの概要

 まず、長さLの導線(正イオン)が静止した系をS系、速度uの電子に固定した座標系をS’ 系とす
 る。この導線には、垂直に導線が接続されて、電流が流れている。このとき、つぎの疑問がある。
 ここで、γ(u)=1/√(1-u²/c²) とする。

 (1)  S系でそれぞれ、長さLをもつ正イオンの導線部分はS'系では速度(-u)をもつため、L/γに
   短縮し、速度uをもつ電子の部分はS系では短縮しており、S’ 系では停止するため、長さは
   γLに伸長する。すると電子が導線からはみ出てしまう。これはおかしい

 (2)  正イオンと電子の線電荷密度をS系でq、-qとすると、S’ 系では、それぞれ γq、-q/γとな
   る。すると、Lの部分の電荷は、<正イオン>=γqL/γ=qL、<電子の電荷>=(-q/γ)γL=-qL
   となり、電荷は保存されている。しかし、もし電子が正イオンの範囲 L/γにあれば
   <電子の電荷>=(-q/γ)L/γ=-qL/γ²となって、電荷が保存されない

 つぎに、これらのことを実際に計算してみる。


3.
 S’ 系の座標・長さの計算

 図2のように、導体棒(正イオン)の両端A,BのS系の時刻 t=0 における座標 x=0,L はローレ
 ンツ変換により、S’ 系で、それぞれ (x’,t’)=(0,0) および (x’,t’)=(γL,-γLu/c²) である。つま
 り、B'端は x'=γL と伸長しているが、時刻は t'=-γLu/c²<0 であり、A端の時刻 t'=0 以前の

 座標で
ある。S'系では導体棒は -uで運動しているから、B'の座標は t'=0 には x'=
 γL-u(γLu/c²)=L/γ 
のB''端の座標になり(A'端は x'=0 のA''端に移動する)、短縮している
 ことには変わりない。つまり、
2項の(1)は解釈が誤っており、パラドックスは無い

 導体棒の端で起きている現象のイメージは、S'系に停止した電子を -uで運動するB'端が吸い取っ
 ていき、A'端では電子を供給している。


4.S’ 系の電荷保存の計算(1)

 つぎに、電荷保存を考える場合、上のモデルは下側に電流が途切れているので理論的に不備であ
 る。そこで図3のようなループ回路を考える。



 まず、S系で静止しているAB、CD間の正イオンの電荷保存について考える。電荷の線密度をqと
 すると、S系の電荷は2qLとなる。S’ 系での電荷は(正イオンのS系の速度はv=0だから i=qv=0)
 ρ’=γ(q-ui/c²)=γq、長さは L/γになるので、ρ’L/γ=qL と
なって保存されている。 

 つぎに、電子の電荷保存を考えるが、S系では、正イオンと同じ(符号は逆)線電荷密度(-q)を
 持つから、AB、CD間の全電荷は(-2qL)である。S’ 系での電荷密度は(S系で i=-qu だから)
 ρ’=γ(-q-u(-qu)/c²)=-q/γ となるから、全電荷は

    Q₁=(-q/γ)L/γ=-qL/(γ(u))²=-qL(1-u²/c²)・・・・・①
 となり、保存されていない

 つぎに、CD間を考える。S系で電子は速度(-u)をもつ。この電荷は速度変換則により、S' 系で
 速度
    v=(-u-u)/(1-(u)u/c²)=-2u/(1+u²/c²) ・・・・②
 をもつ。速度(-u)の電荷線密度 -qは静止座標で電荷線密度は ρ₀=-q/γ(u)である。この電荷の
 S' 系で
の線密度 ρ' は、ρ₀が速度vの座標に移ったものだから ρ'=γ(v)ρ₀=( γ(v)/γ(u) )(-q)
 である。


 結局、C’ D’ 間の全電荷は
    Q₂=ρ'L/γ(u)= -( γ(v)/γ²(u) )qL  ・・・・・・・③
 となる。ここで、②を使って
    1/γ(v)²=1-v²/c²=1-(4u²/c²)/(1+u²/c²)²=(1-u²/c²)²/(1+u²/c²)²
        =1/{γ⁴(u)(1+u²/c²)²}
 つまり、γ(v)=γ²(u)(1+u²/c²) 
となる。これを③に代入すると Q₂=-qL(1+u²/c²) となる。
 ①からS' 系でのA’ B’ 、C’ D’ 間
の全電荷は
    Q₁+Q₂=2qL
 となって、S'系でも回路全体として保存されている。そして、S'系では正負の電荷を考えると回
 路の上側は+に下側
は-に帯電する。

 5.S’ 系の電荷保存の計算(2)

 以上でS'系ても回路全体として、電荷保存することを示したが、上下の電線で電荷が偏っている。
 これについて、少し考察する。簡単にするため、帯電していない(ρ=0)ループに電流 i だけが流
 れ
ているとする。 

 図4のようにS’ 系に静止した四角枠コーナB'の➃⑤の出入りの部分で(ρ=0, ui=-ui, i(//)=0)
     i’=γ(i-uρ)=γi , ρ’=γ(ρ+ui/c²)=γui/c²・・・・④
     i’=i(⊥)=i , ρ’=γ(ρ-ui(//)/c²)=0・・・・・・・⑤
 となる。

 ここで、B'の部分での電流を考えると、➃で電流γiが流出し、⑤で i が流入するため、電流の
 連続
が満たされていないように見えるが、⑤の部分では電線の断面が1/γに短縮している。結
 局、電
流の差は
     γi – i/γ=γi(1-1/γ²)=γi(u/c)²・・・・・⑥
 となる。また、➃の部分の電荷密度は γui/c²>0 であるが、この部分は -u で移動して、単位
 時間
当たり (γui/c²)u の電荷が消失している。つまり、⑥のの電荷が流出していることと
 致して、電流連続ではなく、電荷保存則(div i=-∂ρ/∂t)が成立している。

以上


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無限直線電流を異なる座標で見たときの電磁界

2019-05-17 14:24:56 | 特殊相対性理論

1.まえがき

 無限長電線に電流が流れている時、電線と平行に運動する電荷には(狭義の)ローレンツ力が働
 く。このとき、
運動する電荷に固定した慣性系では、電荷の速度は0なので、(狭義の)ローレ
 ンツ力は働かない。これは、慣性系を変えるだけで力が無くなるという非常識な結論を導く。

 つまり、電磁気学において、電荷に働く力はローレンツ力F=q(E+v×B) のみであるから、こ
 の理論に矛盾が無く、理論として閉じているならば、電界が
発生するしかない。このことについ
 て、いくつかの計算をしてみる。以下では力の方向はy方向(電流の方向に垂直)のみとなる。


2.無限直線電流を異なる座標で見たときの電磁界

 まず、無限長の断面積Aの導線に電流I(電流密度はi=I/A)が流れており、これより、dだけ離れ
 た位置で導線に対して平行に速度uを持つ電荷Qがある。当然、導線は帯電しておらず、電荷密度
 は ρ=0であり、電荷はない。このとき、電流の方向をxとして、導線に固定した慣性系をSとし、
 S系に対して、x方向に速度vを持つ慣性系をS'とする(当然、dとAは系により変化しない)。

 

 S系では、電流Iによる磁界B=μ₀I/(2πd) により、ローレンツ力 F=-QuB のみが電荷Qに働く。
 γ=1/√(1-v²/c²) として、S’ 系ではローレンツ変換により、
    i’=γ(i-vρ)=γi、ρ’=γ(ρ-vi/c²)=-γvi/c²
 となる。つまり、単位長の電荷はρ’A=-γviA/c²=-γvI/c² となり、これによる電界は、
    E’=ρ’A/(ε₀2πd)=-γvI/(ε₀2πdc²)=-γvIμ₀/(2πd) =-γvB
 となる。

 すると、電荷不変の原理より、S’ 系でも電荷Qは変わらず、電界による力Fe' は
    Fe’=QE’=-γQvB
 となる。

 つぎに、S'系で速度は速度変換式より u'=(u-v)/(1-uv/c²) 、電流は I'=γI、磁界は
 B'=μ₀I'/(2πd)=μ₀γI/(2πd) をもつから、磁気力は
    Fm’=Qu’B'=-μ₀Qu’(γI)/(2πd)=-γQu’B
 となる。したがって、S'系で電荷Qに加わる力は(いずれもy方向)
    F’=Fe’+Fm’=-γQB(v+u’)=-γQBu(1-v²/c²)/(1-uv/c²)=-QuB(1/γ)/(1-uv/c²)
     =F/{γ(1-uv/c²)}
 となる。これは、垂直方向の力の変換式 F⊥’=F⊥/{γ(1-uv/c²)} を満たしている。

 このことから、u=vのときは F⊥’=γF⊥であり、u=0のときは、F=F’=0となる。これは、当
 然であり、S’ 系では電荷Qの速度は u’=-vとなり、磁気力の方向が反対になり、F’=Fe’+Fm’
 =0となるためである。

4.電磁界のローレンツ変換による計算

 以上の計算は、電磁界のローレンツ変換を使えばもっと簡単になる。S系でz方向に一様な磁界
 Bがある。すると、S系では電荷Qにかかる力はy方向のみで F=-QuB。 このとき、S'系では
 B'=γB , E'=γ(-vB) だから、S'系での力は
    F'=Q(E'-u'B')=QγB{-v-(u-v)/(1-uv/c²)}=-QγBu/{γ²(1-uv/c²)}
     =-QBu/{γ(1-uv/c²)}=F/{γ(1-uv/c²)}
 となって、上の結果と同じになる。

5.導線内の正負電荷密度モデルによる説明

 いくつかの書籍では、電線の格子構造のモデルを使って上のことを説明している。これによる
 と
格子のローレンツ短縮によって、正負の電荷の密度差が生ずることによって電荷が発生
 ている。

 電線の構造として、S系で、静止した正イオンが電荷密度qで分布し、電荷密度 -qの電子が速
 度uで運動している電流モデルで考える。電線からdだけ離れたところに、導線と平行に速度v
 で運動する電荷Qに働く力を考える。当然、S系で導線の合計電荷は0である。上の例と同じく、
 導線の断面積と導線と電荷Qとの距離をそれぞれA, dとする。これらの値は系によらず変わら
 ない。

 S系に対して、速度vを持つ慣性系S’ 系での現象を考える。つまり、S'系は電荷Qに固定した座
 標系となる。これは考察を簡単にするためである



 S系では電子の電荷密度ρ_=-q、電流密度i_=-quにより、電流をI=i_A=-quAとして、磁界は
 B=μ₀I/(2πd)となるから、電荷Qにはたらく磁気力は F=Qv×B=-QvB のみとなる。
 γ=1/√(1-v²/c²) として、

  (1)  S’ 系では電子について
    電荷はρ’_=γ(ρ_-vi_/c²)=γ(-q+vqu/c²)=-γq(1-vu/c²)、
    電流は i'_=γ(i_-ρ_v)=-γq(u-v) となる。
  (2)  S’ 系の正イオンについて(ρ₊=q、i₊=0)
    電荷はρ’₊=γ(q₊-vi₊/c²)=γq、電流は i'₊=γ(i₊-ρ₊v)=-γqv となる。

 従って、S’ 系ではQは停止しているから、上の(1)(2)を加えた、全電荷
 ρ’=ρ’_+ρ’₊=γqvu/c²=μ₀ε₀γqvu による電界
の力のみが働く。すると、E’=ρ’A/(ε₀2πd)=
 μ₀γqvuA/(2πd)= -μ₀γvI/(2πd)= -γvB  つまり、
F’=QE’= γF となる。

 ゆえに、S’ 系で電界が発生する原因は、正イオンの密度がローレンツ短縮により大きくなり、
 電子密度はS系で速度を持ち、元々密度が短縮しているところにS’ 系で速度が遅くなるので伸
 長して密度が小さくなることにある。結局、これらの電荷密度差により、電界が発生する

 なお、vが小さい場合、ローレンツ変換により、電流値がさほど変わらないのは、正イオン
 荷が逆方向に運動するので同程度の電流が発生するためである。

 注意)5項の(1)の式 ρ’_=-γ(v)q(1-vu/c²) の電荷を求める方法として、下記の文献に載っ
   ている次の考え方もある。-qがuで運動しているから、S系に対して、-uの速度を持つ -q

   の静止系S₀での電荷は-q/γ(u)。これがu’ のS’ 系になった時の電荷は-qγ(u’)/γ(u) とな
   る。このとき、γ(u’)= γ(v)γ(u) (1-vu/c²) の関係があるから、結局、
   -qγ(u’)/γ(u)= -qγ(v) (1-vu/c²) が得られる。

6.おわりに

 以上のように無限直線電流による電磁界を異なる慣性系から見たときの計算は、色々ある。
 そのうち、2項によるものは、誘導電界の発生は電線に生ずる電荷の発生と対応していること
 がわかる。また、5項の説明は導線を構成する正負の電荷の密度差によって電荷が発生するこ
 とを示している。

[文献] MIT物理 A.P.フレンチ、特殊相対性理論、1991

以上


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ロケットと隕石がすれちがう時間

2019-03-15 22:22:31 | 特殊相対性理論
1. まえがき
 
 あるサイトに、ロケットと隕石がすれ違う時間の問題があった。典型的な計算問題と
 思われるので紹介する。
 
 地上S系において、固有長さL(固有長さとはロケットに固定した慣性系におけるロケ
 ットの長さ)のロケットが+x方向に速度 v(>0)で、隕石の長さが無いとしてが -x方
 向に速度 -u(<0)ですれ違う時、S系、ロケットに静止した慣性系S'、隕石に静止した
 座標系S''における各すれ違い時間を求めよ。
 

2. 地上、S系の計算

 S系でのロケットの先端と後端の座標をx₁,x₂とし、隕石の座標をx₃とする。簡単のた
 め、t=0で、x₁=x₃=0とする。このときは、t'=t''=0で、x₁'=x₁''=x₃'=x₃''=0 でも
 ある。まず、S系で各座標の運動は
   x₁=vt , x₂=x₀+vt , x₃=-ut ・・・・①
 となる。x₀は定数。当然、x₁,x₂のS'系での座標x₁',x₂' は定点であり、
     x₁'=γ(v)(x₁-vt)=0, x₂'=γ(v)(x₂-vt)=γ(v)x₀
 となる。ここで、(x₁'-x₂')は定義から Lなので、x₀=-L/γ(v) となり、①は
   x₁=vt , x₂=-L/γ(v)+vt , x₃=-ut・・・・①'
 となる。

3.  ロケット、S'系における通過時間

 ロケットの先端を隕石が通過する時刻は t'=0と合わせたので、ロケットの後端の通過時
 刻t'がS'系でロケットを通過する時刻となる。➀'から
   x₂'=γ(v)(x₂-vt)=γ(v)(-L/γ(v)+vt-vt)=-L (当然)
   x₃'=γ(v)(-ut-vt)=-γ(v)(u+v)t
 そして x₃'=x₂'(=-L) のとき、隕石は後端を通過するから、
   t=(L/γ(v))/(u+v)・・・・②
 である。

 この時の x₂'=-L においてのS系での時刻は
   t=γ(v)(t'+vx₂'/c²)=γ(v)(t'-vL/c²)
 ➁に入れて
   t'=vL/c²+L/{(u+v)γ(v)²}=L(1+uv/c²)/(u+v)
 となる。これが求めるロケットの通過時間となる。

 ちなみに、S'系における隕石の速度は(速度の加法定理から)-(u+v)/(1+uv/c²)となり、
 これを使って、S'系のロケットの長さLを割ったものになっている。

4. 地上、S系における通過時間

 t=0 で先端を通過するから、後端で x₂=x₃となる時刻が通過時間となる。➀'から
   t=L/{γ(v)(u+v)}
 である。

 これは、S系でのロケット長L/γ(v)を相対速度(u+v)で割ったものになっている。

5. 隕石、S''系での通過時間

 このときも、隕石とロケットの先端が一致する時刻は t=t''=0 だから、後端の時刻を求め
 ればよい。➀'から
   x₃''=γ(u)(x₃+ut)=0 (当然)
   x₂''=γ(u)(x₂+ut)=γ(u)(-L/γ(v)+vt+ut)=γ(u){-L/γ(v)+(v+u)t}
 これも x₂''=x₃''(=0) となる時刻に、後端をロケットの通過する。これを解くと
   t=L/{γ(v)(v+u)}・・・・・③
 S''系の時刻は(x''=0での)
   t=γ(u)(t''-ux''/c²)=γ(u)(t''-u・0/c²)=γ(u)t''
 となり、➂から
   t''=L/{γ(v)γ(u)(v+u)}・・・・④
 が、S''系でのロケットを通過する時間となる。

 ちなみに、S''系から見た、ロケットの速度は w=(v+u)/(1+uv/c²)
 となり、γ(v)γ(u)=γ(w)/(1+uv/c²) を使うと④は
   t''=L/{γ(v)γ(u)(v+u)}=(L/γ(w))/w
 となるので、S''系でのロケット長 L/γ(w) をロケットの速度 wで
 割ったものになっている。

以上

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