遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「日記的」

2010-09-27 | 現代詩作品
日記的ー古い読書ノートから



紙魚が死んだ日


冬の日の
市電通りの古書店で、男は
時々、我を忘れて
美しい活版の手触りに吸い込まれながら
とつじょ、紙魚になった
一度、淋しい歓びをおぼえると
明治大正文学全集の
某作家のペン先をなぞり
頁に食い入りながら
はたきで追い払われても快感だった
今朝、
男は市電通りの古書店の前で
とつじょ、紙魚の死をしる
店じまいの文字が突風でちぎれそうだった
お互いに、紙を喰ってつないだ命よ



妄想


死ぬ前に
会いたいひとがいる
と、いう男の切なる願望は
誰に話をしても
取り合ってもらえない
その人の名前を聞けば当然のはずだ


晩年好まなかったと述懐している
命名者自身が
一番驚くことだろう
「充実と静謐が
 殆ど同義語の主人公の人生」は*
明治末の恋愛小説の枠組みをこえて
今もその名を保っているのか


おなじ妄想とはいえ
小説「それから」の代助(と、三千代)に
会いたいという、
男の切なる願望が可笑しいくらい愛しくて
口蹄疫のように
伝染しないことを願うだけだ *(「日本文学全集・夏目漱石Ⅱ」作品解説中村光夫を引用)



空言の雫


この部屋がすこし広く感じるようになってもう六ヵ月がたった。
あれから鉢植えの鉢を二個増やしたが夕べは元気がないのに気
づいて今日アンプルを注入した。日当たりだけは抜群の南側の
出窓に鉢植えを並べながら、あなたの笑顔を思い浮かべた……。
   

雨あがりの今朝は
無花果の葉上を転がり
肉厚の歓喜に躍る緑の声が
不意に小川の背を射く
光の棒に遮られて。


懐かしい幻影が降りる
休日出勤の通行人の頭上に
突如落下する巨大なクレーンを
緑の蝸牛も夢みているか
宇宙の雫のように。


………わたしはあいかわらず時間にしばられながら時間を追い
かけるように日々を繰り返している。その鎖からときはなされ
たあなたはどんな自由を手にしたのか。あれっきり虫の知らせ
も届かず背中に突き刺さる視線を感じることもなくなって……。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿