制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

子ども手当から、未納給食費の天引きを検討 実現は困難か

2010年01月31日 10時01分29秒 | 子ども手当・子育て
「子ども手当てから小中学校の給食費の滞納分を充当したい」という地方自治体からの要望に対して、鳩山首相は前向きに検討する姿勢を示した(山梨県で行われた意見交換にて)。給食費の滞納分のうち、3分の2ほどは「払えるにも関わらず、払いたくないから払わない」という理由。全国市町村会は、給食費や保育料のうち、悪質な未納分を相殺できる仕組みの検討を求めており、これらを実現するためには、子ども手当の差し押さえ=充当するための条文を「こども手当法案」に盛り込むことが必要になる。

国会に提出済みの「子ども手当法案」では、給付金の譲渡や差し押さえなどはできない。厚生労働省としては、法案の差し替えはしたくないだろうし、法律で禁止していることを省令や通知などで可能とすることはできないので、調整は難航するものと思われる。

子ども手当を未納給食費に充当、首相が検討
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100130-567-OYT1T00794.html

給食費の滞納分、子ども手当から天引き検討 鳩山首相
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2010013002890.html

給食費滞納問題「首長には切実」30日の鳩山首相
http://www.asahi.com/politics/update/0130/TKY201001300309.html

地方自治体の認識としては、「給食費を払いたいけれども、経済的な理由から払えない」親よりも「住民税支払っているのでなどと理由をつけて、払いたくないから払わない」親のほうが多いということなのだろう。このような悪質な滞納者は、いわゆる「モンスターペアレント」。どこまで本当なのかわからないが、国のレベルまで要望を上げなければならないほどの教育現場の実態があるのだろう。
また、法案を差し替えて実現できるようにしても、運用するのは大変である。学校が保護者に説明して同意を得て、福祉課などに連絡して差し押さえの手続きをするよりも、保護者を説得して払ってもらったほうが早い。保護者に「払いたくない(払う必要がない)から払わないという理由なら、最終手段として子ども手当を差し押さえる」と言える(最終通告できる)だけでも十分効果的と思われる。

モンスターペアレント実態赤裸々 無理難題と理不尽全18例掲載
・子供と親の分、保育所で朝食を用意して欲しい
・保育料も、教材費も、遠足のバス代も払わない
http://www.j-cast.com/2008/04/12018756.html

給食費滞納9万9000人、原因の6割が「親のモラル」
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20070125ur04.htm

文部科学省の全国調査で、2005年度の滞納総額が22億円。子ども100人に1人の割合との実態が明らかになっている。この記事においても言及があるが、「払いたくても払えない」人がいるのも確か。その場合には、保護者から事情をきき、各種制度の情報提供や減免などの手続きの支援をしっかりと行うべきだろう。

「子ども・子育てビジョン」閣議決定、数値目標が明らかに

2010年01月30日 10時04分57秒 | 子ども手当・子育て
29日の閣議で、今後5年間で取り組む少子化対策を取りまとめた「子ども・子育てビジョン」が決定された。目新しい取り組みはないが、その代わりに数値で約40の目標が定められており、実現する「方法」の議論から始めることができる。子ども・子育ての「あり方」や目新しい取り組みの是非について議論するよりも、現実的な目標を定めて着実に進めていく必要があるからだろう。

「子ども・子育てビジョン」について
~子どもの笑顔があふれる社会のために~
http://www8.cao.go.jp/shoushi/vision/

ビジョンに盛り込まれた主な数値は、今後5年間で認可保育所などの定員を215万人から26万人増(年間5万人程度×5年間)の241万人に、3歳未満児の保育所利用率を24%(75万人)から35%(102万人)に、学童保育の利用者を81万人から111万人に、保育所などでの一時預かりの利用を348万人から3952万人(年間延べ人数)に、「認定子ども園」を358ヶ所から2000ヶ所以上に、地域子育て支援拠点を7100ヶ所から中学校区に1つ=1万ヶ所にすることなど。
この施策により必要となる予算は、年間7000億円ほど(2014年度)。来年度は、子ども手当の国庫負担が重くなるだけに、それだけの予算を確保できるかわからないことに加え、その予算に見合った社会資源整備ができるのかもわからない。実効性に乏しいとの批判を跳ね除けるためにも、実現する「方法」の具体化を進めてほしい。

認可保育所の定員25万人増…子育てビジョン
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100129-567-OYT1T00530.html

保育所定員5年で26万人増 子育てビジョン閣議決定
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012901000220.html

保育所定員5年で27万人増、政府の子育て支援策
http://www.asahi.com/national/update/0129/TKY201001290185.html?ref=goo

なお、これらの数値目標は、Output指標。子ども・子育てビジョンの成否を問う数値目標は、Outcome指標であらねばならない。子ども手当や高校授業料の実質無料化に加えて、これだけの子育て環境整備を行うのだから、「出生率がどれほど上向くのか」「子どもの数がどれほど増えたのか」などの政策のOutcome=効果を評価しなければならない。

また、ビジョンには「子ども家庭省(仮称)」の検討が明記された。このブログでも取り上げているが、厚生労働省と文部科学省の縦割り行政を解消するための法整備などを進めていく模様。省庁再編=子ども家庭省の実現がどれほど必要なのかわからないが、それよりも先に取り組むべきことは、Input=財源の確保とOutput=社会資源の整備の具体化、Outcome=出生率の低下や子どもの数の減少に歯止めをかけ、それらの数値を上向かせることだろう。

「子ども家庭省」の検討明記 政府が子育てビジョン
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20100130ATFS2903S29012010.html


なお、具体策を協議する「子ども・子育て新システム検討会議」の設置が決まっている。幼保一元化を含む子育て支援のための「包括的・一元的なシステム」の構築について検討し、6月をめどに基本方針を取りまとめるとのこと。

政府「幼保一元化」に着手、参院選前に基本方針
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100129-567-OYT1T01216.html

建設国保の徳島県支部、東京都と厚生労働省が事情聴取

2010年01月29日 09時32分46秒 | 高齢者医療・介護
このブログで取り上げた建設国保の徳島県支部の内部調査の結果を受けて、東京都と厚生労働省関東信越厚生局は、27日から事情聴取を始めた。これまで、徳島県内の自治体や企業の退職者が「保険料が安い」と誘われて加入していたことがわかっており、支部の資格審査においても建設関連業に就いているかチェックしていなかったらしい(審査の手続きには、雇用や就労の証明書が必要になる)。
その結果、支部の組合員1905人のうち、60歳以上が1307人で69%を占め、全国平均の27.7%を大きく上回っている。しかも、60歳以上になってから加入した人の割合が45.4%であまりに不自然。銀行や電力会社などの別業種の退職者を組織的に勧誘して加入させた疑い(不正への組織的な関与)があるとのこと。組合員への加入の経緯などの聴き取り調査がなされているので、実態は明らかになるだろう。

建設国保の無資格加入で事情聴取 組合員に都と厚労省
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012701000464.html

この問題が発覚してから、建設国保を脱退して、市町村国保に移るケースが相次いでいるとも報じられている。建設関係の仕事を廃業して被保険者資格を喪失したとの証明書を市町村に提出しているが、問題となっている無資格者である可能性もあるとのこと。このブログでも書いたが、もし建設国保への加入資格がなかったとすれば、市町村国保の加入日は、建設国保に加入する前(正確にいえば、その前に加入していた医療保険の資格喪失日の翌日)まで遡ることになる。つまり、そこまで遡った資格取得日から手続きを行った日までの市町村国保の保険料が未納になっているから、その額を納めなければならない。建設国保に納めた保険料は戻ってくるが、「保険料が安い」から加入していたのだから、市町村国保の未納分には足りない。しかも、加入期間が長ければ大変な額になる。

全建国保の脱退相次ぐ 徳島支部、大半無資格者か
http://www.asahi.com/national/update/0125/OSK201001250148.html

もし、このことをわかっていて、徳島県支部の職員が、無資格者に「組合発行の資格喪失証明書」を最近の日付で出していたとすれば、大問題である。本当に建設関係の仕事に従事していたか、廃業したから手続きしたのか、「本当の資格喪失日」がいつだったのかをしっかり調べる必要がある。もし、資格喪失日を偽って証明書を出していたと判明すれば、職員には何らかの処罰があってしかるべき。調べなかった、知らなかったでは済まされない。加えて、無資格での加入者には、市町村国保と連携して、未納分となっている市町村国保の保険料を請求すべきだろう。もちろん、加入者数に応じて国から建設国保に出されている補助金のうち、無資格者の分は過去に遡って返納すべき。このように考えると、単なる事情聴取では済まないとわかるだろう。

「税の詐取、厳正対処を」 全建国保検査
http://mytown.asahi.com/tokushima/news.php?k_id=37000001001260002

徳島県の飯泉知事は、定例会見で「組合が資格のない加入者を集めていたとすれば、国税を詐取するもの」と指摘。監督官庁の東京都に「厳正対処」を求めている。

「幼保一元化」の実現に向けて、省庁再編に着手か

2010年01月28日 09時56分03秒 | 子ども手当・子育て
鳩山首相が参院予算委員会で、「省庁の体制が古くなっているので、できれば参院選の後、省庁全体の在り方を見直していきたい。しっかり研究する必要がある」と述べた。文部科学省が所管する「幼稚園」と厚生労働省が所管する「保育所」を統合する「幼保一元化」についても「2011年度ということで考えている」と述べ、参議院後に検討を開始し、2011年度の通常国会に関連法案を提出する考えを示した。
その後の記者会見では、「幼保一体化の話は子どもの立場というものを重視していく必要がある」などと、国民の視点の視点を採り入れた「新しいあり方」の検討を始めるべきだとの考えを改めて述べ、厚生労働省を分割して文部科学省と一緒にするといった「旧来型の省庁再編」を想定しての発言でないことがわかった。

参院選後に中央省庁再編、首相が表明
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100127-567-OYT1T00584.html

首相、参院選後に省庁再編の考え 幼保一元化法案提出も
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2010012701730.html

民主党は、マニフェストで「子ども家庭省」の設置を検討すると掲げている。まずは「子ども家庭局」を立ち上げて、厚生労働省と文部科学省などから子どもに関する部局を集めて「省」に昇格させる考えだった。切り離される側の省庁側も分割・再編が進むことになり、その結果として、省庁再編が機動的に行われることになる。
このような再編構想が「旧来型」だとすれば、参議院選挙後に始められる検討は、そもそも「幼稚園」と「保育所」の機能の違いは何か、目的が違うものを一緒にできるのか、一元化にしたときに子どもや親、地域社会にどのようなメリットが生まれるのかということだろう。その検討を進めて、そもそも「幼保一元化」がなぜ必要なのか、どのように進めるべきなのかを検討し、厚生労働省と文部科学省の一部を再編すべきならばする、ということだろう。これが、国民視点・子ども視点の「現代型」の構想だろう。

国民視点・子ども視点での議論は簡単ではない。例えば、「延長保育」は、子育て中の親にとってメリットがあるといえるが、夜遅くまで、なかなか来ない迎えを待つことになる子どもにとっても同じメリットがあるかといえば、そうともいえないだろう。親が大変だから延長保育を広めよう、「待機児童」が減らないから幼保一元化しようという考え方は、どちらかといえば、行政視点・親視点。説明にあたって、国民視点・子ども視点が足りないともいえる。様々な立場からメリット・デメリットを出しあい、総合的に捉えて評価していく必要があるだろう。また、省庁再編に踏み込まなくてもできることは多くある。「目的」と「手段」を考えれば、省庁再編が先にあってはならないだろう。


なお、「幼保一元化」の検討は、仙石行政刷新担当大臣を中心に既に進められている。子育て支援の目玉政策として、幼稚園と保育所を一元化した「認定こども園」の認定基準の緩和や手続きの簡素化などを行政刷新会議にて検討。必要ならば、文部科学省と厚生労働省の縦割りや二重行政の解消にも踏み込むことになっている。

鳩山内閣「幼保一元化」を加速へ 子育て支援の目玉に
http://www.47news.jp/CN/200910/CN2009101101000415.html

今回の鳩山首相の発言を受けて、「幼保一元化」の検討が一段と加速するものと思われる。まずは、行政刷新会議における「認定子ども園」の検討を注視していきたい。

最低保障年金制度の創設などの年金制度の抜本改革、検討を前倒し

2010年01月27日 10時15分53秒 | ベーシックインカム
先週、税・社会保障の共通番号制度の検討を前倒しの方針が出されたばかりだが、年金制度の抜本改革においても検討を前倒ししてスタートすることが明らかになった。

長妻大臣が、昨日の記者会見にて、最低保障年金の創設などを含む年金制度の抜本改革について、「内閣全体で幅広い議論を始めてはどうか」「財政の問題を含めて、かなり大きな課題になる」などと延べ、長妻大臣と管副総理・大臣、仙石大臣を中心とする関係閣僚会議を設置する方針が明らかにされた。
共通番号制度の検討部会に並行して、関係閣僚会議にて年金改革についての大きな方針を議論するとともに、厚生労働省内に大臣直轄の検討チームを立ち上げ、具体化していくとのこと。

例えば、現行の年金制度をいったん「清算」して、新しい制度に移行するとなるとかなり大掛かりな制度改革になる。また、保険料だけでは賄えないとなれば、消費税率の見直しも必要になるだろう。これまでの「常識」に照らし合わせて考えると、できそうにないことに取り組むのだから、議論する時間はいくらあっても足りない。検討を前倒しして、議論する時間を確保しようという考えなのだろう。また、検討を前倒しすることで、「参議院選挙のマニフェスト」として国民に問うこともできる。
このブログで、年金記録の照合を進めて「宙に浮いた年金記録問題」の解決に注力することも大事だが、それだけでは、国民の不安や不信は払拭できないだろうと書いた。民主党がマニフェストに掲げた新しい年金制度の検討を前倒しして、具体的なものとしてわかりやすく提示し、「将来、確実に年金がもらえる」「年金制度が破綻することはない」「老後の資金の心配をしなくてもよい」といった制度への安心感や信頼感が国民の間に生まれないと、「宙に浮いた年金記録問題」から始まった年金に関する不安や不信は払拭できないだろう。

新たな年金制度の設計は今年開始…厚労相
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100126-567-OYT1T01113.html

年金改革 長妻厚労相、関係閣僚会議の設置検討
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100126-00000608-san-soci

具体的な検討テーマとして、「現行制度の問題点」「国民が望む制度の姿」「諸外国での制度改革の進め方」「新制度の原理・原則」の4つが示されている。検討テーマや関係閣僚会議の進め方については検討中とのことだが、これらは、大きな方針を決めるにあたっての前提を揃えるにあたって必要となる、
年金制度の具体的な議論に入る前の「地ならし」にあたる検討で、年金制度改革の第一歩としてとても重要になる。このブログでもしっかりと追いかけていきたい。

長妻大臣閣議後記者会見概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/2r98520000003y0j.html

日本年金機構(旧社会保険庁)の年金システムは、あまりの複雑さのため、運用に膨大な費用が必要となっている。ベンダーを切り替えようにも、つぎはぎだらけの年金制度に対応するための完全なドキュメント(仕様書)を書き下すことができる職員はいないといえる。
思い切って年金制度をゼロからつくり直すぐらいのことをすれば、過去の膨大な資産を引きずっている年金システムをゼロから再構築できるだろう。逆にいえば、それぐらいの思い切りが必要になるということである。

長妻大臣は、「宙に浮いた年金記録問題」への取り組みを通して、年金制度を支えるITシステムの重要性がわかっていると思う。新制度を検討するにあたっては、どのようなITシステムが新たに必要になるのか、現行のITシステムに手を入れることになってさらに複雑怪奇なものにしてしまわないかをしっかり考えるべきである。また、新制度の具体化にあたっては、これらが制約条件になる。早めにIT面や運用面からの検討と評価を行うべきである。おそらく、このブログで改めていうことでもないが。

介護報酬改定(3%増)で介護従事者の給与8~9千円増 目標の半分に届かず

2010年01月26日 09時40分50秒 | 高齢者医療・介護
厚生労働省は、社会保障審議会介護給付費分科会調査実施委員会を開催、2009年4月の介護報酬改定(3%増)の後に、介護従事者の給与が8~9千円増加した(速報値)と報告した。舛添大臣(当時)は、「増額分がすべて処遇改善に回れば給与は2万円アップする」と期待を込めて説明していたが、その半分に届いていないことが明らかになった。

介護職員賃上げ月9千円どまり 目標の半額に届かず
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/politics/CO2010012501000608.html

介護報酬改定後、月9千円賃金アップ―厚労省が速報値
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-26034.html

介護従事者の処遇の調査方法で議論―給付費分科会調査実施委
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-26053.html

調査は、2009年10月1日時点で、全国の7141の施設を対象に実施。回答があったのは、5034施設。従事者の数は、4万2311人。
平均給与(1ヶ月分のボーナスを含む)は23万1366円。1年前が22万2308円なので、9058円の増。ここには、定期昇給分を含むとのこと。しかも、他の業界との給与水準の差は依然として大きく、まだまだ介護従事者の給与水準は低い。
職種別でみると、生活相談員・支援相談員が1万2291円増の29万6349円、看護職員が8393円増の30万6511円。施設別でみると、特別養護老人ホームが1万2052円の増加の28万1800円、訪問介護事業所が5868円の増加の13万9473円となっている。しかも、大手と零細では、職員の給与にまわせる「原資」の大きさが違うので、事業所の規模別に違いがあるかをみるなど、詳細な分析の結果が待たれる。

また、給与の引き上げ状況をきいたところ、「定期昇給を実施」が43.7%、「介護報酬改定を踏まえて引き上げ」が23.4%、「介護報酬改定に関わらず引き上げ」が21.0%。「給与などの引き上げを行っておらず、今後も引き上げ予定なし」は13.1%となった。舛添大臣(当時)の期待どおりとはいかずに、赤字解消などの経営改善に回った分も多かったことが明らかになった。

なお、日本介護クラフトユニオンの調査結果では、6475円の増に留まっている。手取りで介護報酬のプラス改定を実感できている職員は、もっと少ないと思われる。現在、「福祉・介護の仕事」は、「きつい」「給料が安い」「結婚できない」などと「K」がいくつ並ぶのかといわれるほど、イメージが悪くなっている。結婚するにあたって、いかに福祉・介護の仕事が好きで続けたくても、経済的な理由から「寿退職」しなければならない現状があるのも事実。しかし、このような偏向した報道の影響もあってか、福祉・介護職に就きたいという学生の減少が続いている。多くの専門学校や一部の大学では定員割れとなっており、高校に説明にいっても、関心をもってきいてくれる学生は少ない。福祉・介護系の大学に進学したいと言うと(大学・大学院で学んでから就く仕事としては、待遇が悪すぎるなどと)教師や親が反対にまわることもある、とのこと。

2012年の介護報酬改定では、さらに大胆な見直しが必要となるだろう。

社会保障審議会介護給付費分科会
調査実施委員会(第3回)議事次第
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/01/s0125-6.html

「貧困ビジネス」大手、無届け施設を開設 規制の網にかからず

2010年01月25日 10時12分52秒 | ベーシックインカム
昨年末に「貧困ビジネス」の大手=業界2位の「FIS」の経営者と幹部の2人が、2007年までの数年間で約5億円の所得を得ていたにも関わらず、所得を申告せずに脱税したと報じられた。このブログでは、社会福祉法の「第二種社会福祉事業」として「無料低額宿泊所」を届け、運営していたことから、都道府県(愛知県)が改善命令を出すのではないかと書いた。

<無料低額宿泊所>名古屋と千葉、新たに無届け2施設 行政監視及ばず--「FIS」
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20100122dde041040003000c.html

今回の報道は、昨年末の告発から始まった調査でわかったことだと思われる。FISは、関東圏と愛知県で20あまりの「宿泊所」を開設しているが、「任意団体」のため、実態がよくわからない。今回、明らかになったのは、「社会福祉事業として運営する宿泊所」ではない「アパートとして運営する宿泊所」。社会福祉事業として届出がなされていれば、都道府県が改善命令を出したり、許可を取り消したりできるが、今回、明らかになった3つの施設は届出がなされていないため、都道府県も市町村も手が出せない。脱税容疑で告発したにも関わらず、この3つの施設から、どれだけの利益が計上されているのかもわからない、調べられないとのこと。

FISが展開する「貧困ビジネス」は、ホームレスに声をかけて「宿泊所」に連れてきて、住まいや食事を提供する代わりに、生活保護費12万円のうち9万円あまりを家賃や食費として請求するもの。ホームレスに最低限の生活を保障するサービスを「アウトリーチ」しているともいえるが、ホームレスに声をかけるのは、FISが利益を上げるためで、自立を目指して支援する「ケースワーク」を実践しているわけではない。
ホームレスの自立支援のために使われるべき生活保護費が、任意団体の利益になっている(ピンハネ)との指摘は、以前からあった。もっと悪質な団体は全国各地にあるとの指摘もあるが、実態がまったくわからなかった。今回の告発で、実態が少しずつわかってきているが、都道府県や市町村が「貧困ビジネス」を規制することの難しさも同時にわかってきた。

FISのように任意団体を立ち上げて「アパート」や「社員寮」だ、社会福祉事業における「無料低額宿泊所」ではないと主張すれば、何の規制もかけられない。もし行政が規制を強化すれば、そちらに流れるのは間違いない。そうすれば、ますます実態がわからなくなるし、何かあったとしても立ち入り調査ができず、改善命令も出せなくなってしまう。
だからといって、さらに規制を強化して、いわゆる「貧困ビジネス」を展開できなくすれば、困るのは「宿泊所」の利用者。生活保護制度を充実させておかないと、民間の「受け皿」がなくなって、ホームレスに逆戻りしてしまうだろう。解決策が見つからない。

子ども手当の市町村向け説明会、準備期間が足りないなどの意見が相次ぐ

2010年01月24日 10時09分13秒 | 子ども手当・子育て
厚生労働省が実施した課長会議を受けて、全国の都道府県で、市町村の担当職員向けの説明会が実施されている。このブログで紹介した配布資料よりも詳しい情報がないのだから当然かもしれないが、市町村側からは厳しい意見や注文が相次ぎ、都道府県側も質問に答えられないなど、不安を残すスタートとなった。
厚生労働省が、全国の説明会で出された意見や注文(要望)、質問を集約していると思うので、「子ども手当に係るQ&A(VOL.2)」の公開を待ちたい。

子ども手当説明会 「財政負担増」「時間ない」 市町村、県に意見や注文
http://news.goo.ne.jp/article/nishinippon/region/20100122_local_FT_003-nnp.html

福岡県での説明会では、システム経費の補助に質問が集中したとのこと。「システムを早期に業者に発注したいが、補正予算成立前でも契約してよいのか」の質問は当然だが、そもそも、これだけの情報しかないのに業者は見積もりを出せるのだろうか。

子ども手当 岐阜で説明会(岐阜県)
http://www.kyt-tv.com/nnn/news8625481.html

「子ども手当に係るQ&A(VOL.1)」をみると、

・子ども手当として申請を受けて、児童手当+子ども手当として、一括して支給
・子ども手当てのうち、児童手当に相当する分の付記は不要
 6月の定期支払においては、児童手当(2010年2月・3月分)も合わせて支給する
 この場合は、児童手当分を明示する必要がある
・申請にあたっての書類には、所得額は不要。被用者・非被用者の年金種別は必要
・子ども手当の支給者は、主たる生計維持者で、児童手当の受給者と同じ
・監護の要件や被用者・非被用者の区分などを確認するため、子ども手当においても現況届は必要
・子ども手当の現況届は6月。ただし、4月5月に新たに申請した者は不要

となっている。
市町村の負担増にならないように交付する「子ども手当及び児童手当地方特例交付金」のことを考えなければ、事務処理やITシステムを簡素化できそうである。
現在の資料から読み取れるITシステムの主な機能は、

・適用システム
 子ども手当の支給者を管理する台帳システム
 窓口での各種申請を受け付ける
 申請書や現況届から、支給の対象者(主たる生計維持者と監護している子ども)と金融機関の情報などを登録する
 申請書や現況届などから、子ども手当の支給の開始および停止、市町村への寄付などを決定する
 児童手当システムの受給者台帳から、必要な情報を取り込む(申請免除者の移行作業)
 住民基本台帳や外国人登録などのシステムから、異動情報(転入・転出・出生・死亡など)など、事務に必要な情報を取り込む(日次)
 子ども手当を受けられるにも関わらず、申請がなされていない世帯の情報を出力する(案内などの送付)

・給付システム
 適用システムに基づき、子ども手当を支給するシステム
 子ども手当の台帳データを使い、金融機関向けの口座振替データを作成する
 金融機関からの戻ってきたデータを使い、消込を行う
 支払状況報告などに必要なデータを作成する

・統計システム
 適用システムと給付システムのデータを使い、都道府県および国への報告資料を作成するシステム
 子ども手当て交付金の概算交付申請や清算交付申請などに必要なデータを作成する
 その他の交付金の申請に必要なデータ(児童手当からの増加分など)を作成する

である(要確認)。
一見すると単純な機能にみえるが、事務には例外的な事項が多くあり、それらをITシステムの機能として取り込んでいくと、かなり複雑になる。例えば、住民基本台帳上の世帯と実際が違ったり、主たる生計維持者が世帯主とは違ったりというのはよくあることだし、住民票を移していない(移せない理由がある)人も多くいる。決定の通知を出すにも、標準的な漢字コード表には含まれない字(外字)を別の字で置き換えられないので、市町村ごとに作成している字形に対応させなければならない。
住民基本台帳などとのインタフェースも開発しなければならないなど、地方自治体向けのITシステム開発は簡単な仕事ではない。

税と社会保障の共通番号制度、検討を前倒し GWまでに論点整理

2010年01月23日 10時11分53秒 | 情報化・IT化
昨年末の税制改革大綱の閣議決定後、藤井財務大臣が、今後の税制調査会の重要なテーマの一つとして「納税者番号」の導入をあげ、1年以内を目処に結論を出すと述べた。2011年度中に納税者番号制度に関する法律を整備し、2014年1月から運用を開始するというスケジュールが示されたが、盛り上がりに欠け、その後は、産経新聞が「前倒しの可能性がある」と報じたきりで、動きがなかった。

昨日の峰崎副大臣の記者会見で、今秋の臨時国会の法案提出を目指し、5月のGWまでに論点を整理するとの方針が示された。管副総理・大臣の指示によるもので、早々に作業部会を立ち上げることも明らかになった。なお、検討が進められるのは、納税者番号ではなく、税・社会保障の「共通番号」で、その用途としては、社会保障の給付と保険料などの徴収、納税、市民サービスとされている。

税・社会保障の共通番号制度「秋にも法案提出」 財務副大臣
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20100122ATFS2102L21012010.html

共通番号が導入されると、何が変わるのだろうか。例を使って、少し考えてみたい。
例えば、講義や講演などに呼んでいただき、謝礼をいただくときには、住所と氏名、電話番号などを書いて押印している。共通番号制度が始まると、それらの情報に加えて「共通番号」を書くことになる。講義や講演の依頼元は、その番号を使って税務当局に報酬を支払ったことを通知し、こちらは、いろいろなところから送られてくる支払調書を納税申告書に整理し、税務当局に提出する。それらの書類は「共通番号」で名寄せされ、突合されることになる。

「番号制度」を税務面で利用する場合のイメージ
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/nouzei/n03.htm

約1年間に公表された、この資料によると、共通番号には「固有性」と「可視性」が必要だとのこと。何らかの収入を得る可能性がある国民には番号が付与され、生涯に渡って、その番号が使えること(番号が変わったとしても、最新の番号と過去の番号が紐付けできること)。取引先に提示できることが求められる。社会保障カードのように「見えない番号」では駄目。住民基本台帳番号は目的が制限されているため、税・社会保障などの目的で使うための番号が新たに付与されることになる。

なお、勤務先にも「共通番号」を知らせることになるから、税務当局は、勤務先からの給与収入と、いろいろなところからの報酬のすべてを「共通番号」を使って名寄せ・突合できるようになる。この仕組みにより所得の捕捉率は高まり、「トーゴーサン」といわれる不公平感も小さくなる。このように把握した所得を、社会保障の給付にも使えるとなれば、事務は大幅に軽減できる。
共通番号制度が既に始まっていたとすれば、例えば、子ども手当の事務も大幅に簡素化できる。支給申請にあたって「共通番号」を書くようにとすれば、その番号をつかって前年度の所得や年金種別などを簡単に把握できる。申請にあたって自分で調べなくてもよくなるし、提出が求められる現況届を簡素化できる。子ども手当によって新たに支給対象になった世帯を機械的に抽出できるので、市町村の特例交付金の申請事務なども簡単になる。

このように効率化を進められるので、税や社会保障にかかる何かをするときに、必ず「共通番号」を書くようになるだろう。ITシステムがどこかでつながっていて、事務に必要な情報があちらからこちらへと自動的に伝えられるようになる。原口大臣の考える「クラウド化された納税システム」は、このようなものなのだろうか。

平成21年度 第26回税制調査会議事録
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/pdf/21zen26kaia.pdf

「クラウド化された納税システム」からイメージされるシステムは、住民基本台帳ネットワークに接続された共通番号の管理システムが中心にあり、それを所得把握のシステム、税や保険料の賦課・収納のシステム、社会保障サービスや市民サービスの給付のシステムなどが層をなして取り巻いているような「クラウド(もやもやとした雲)」。住民基本台帳ネットワークよりも大きなネットワークシステムが次から次へと整備されることになるかもしれない。

全国児童福祉主管課長会議資料のURL 子ども手当の事務処理は煩雑か

2010年01月22日 09時13分32秒 | 子ども手当・子育て
WAM-NETで、1月19日に開催された全国児童福祉主管課長会議の資料が公開されている。

全国児童福祉主管課長会議資料(平成22年1月19日開催)
http://www.wam.go.jp/wamappl/bb16GS70.nsf/vAdmPBigcategory60/FEFB6F19CA78CE38492576B000058C07?OpenDocument

子ども手当の事務処理について、どの程度の情報が公開されているかみていきたい。

子ども手当ての円滑な実施(システム経費)
http://www.wam.go.jp/wamappl/bb16GS70.nsf/0/fefb6f19ca78ce38492576b000058c07/$FILE/20100119_1shiryou1-7~10.pdf

まずは、第二次補正予算に計上された、システム経費123億円について。人口規模に応じた補助金となるとのこと。基準額が300万円で、それからは、1人あたり65円から30円の単価をかけた上乗せ額を積み上げ。上限は、7000万円となる。人口15万人の市においては、1175万円とのこと。この金額ではITシステムを導入できないと思われるので、市町村においても予算の確保が必要になるかもしれない(ITベンダーが補助金を計算して、その額に合わせて見積もってくるかもしれない)。

次に、子ども手当の事務処理について。「子ども手当に係るスケジュール例」をみると、児童手当に子ども手当を上乗せしたことから煩雑な仕組みとなっているようである。別々に支給を決定するのではなく、子ども手当として一括して支給を決定するなど、事務の簡素化・効率化を進めないと大変になるかもしれない。
例えば、小学校修了前の子どもに関しては、児童手当の支給対象になるかを確認し、1万3千円との差額を子ども手当とするといった事務処理だとすると、市町村の窓口では、これまでと同じように現況届を出すように求め、児童手当の支給額を求め、差額を求めて子ども手当の支給額とし... などと煩雑さが増すことになる。

スケジュール例の6月あたりに「現況届」と書かれている。また、子ども手当に係るQ&A(VOL.1)の問5~問8に書かれていることからは、子ども手当として1万3千円を支給するが、その内訳に児童手当が入っているか否かを市町村は把握しておかなければならないように読める。子どもの数の掛け算で世帯あたりの支給額を計算すればよいとの単純な考え方ではなさそうである。

事務処理を支援するITシステムも複雑さを増す。最初は、住民基本台帳システムと外国人登録システムから住民のデータを持ってきて、子ども手当の支給申請データをつくればよいと考えていた。児童手当の支給者は基本的に申請が免除されることが明らかになったので、児童手当システムから支給者のデータを移行して申請がなされたものと扱えばよいと考えていた。そのため、このブログでは、それほど難しくないだろうと書いた。
しかし、児童手当の事務(児童手当支給者の管理と児童手当支給額の計算、現況届の管理など)がそのまま残り、1万3千円との差額として支給される子ども手当の事務(子ども手当支給者の管理と子ども手当支給額の計算など)が上乗せされるとなれば、ITシステムのつくり込みは大変になる。

既存の児童手当システムがそのまま使えればよいが、そのシステムを開発したITベンダーが1年間限りの子ども手当システム(既存システムへの機能追加分として)の開発に着手しないかもしれない。そうなった場合は、子ども手当システムを開発しているITベンダーに切り替えざるをえなくなる。児童手当システムを動かし続け、新たに導入する子ども手当システムに支給決定データを取り込むようにするのか、新たに導入する子ども手当システムに児童手当システムの機能を丸ごと取り込むようにするのか。
1年後には、子ども手当システムを入れ替えなければならないことを考えれば、それほど費用をかけたくないし、この1年をどのように乗り切るかを検討する時間はあまりない。4月には申請受付が始まるので、すぐに決めて着手しなければならない。

少なくとも、今回の課長会議で明らかになった情報だけでは、子ども手当システムの発注はかけられないだろう。小学校修了前の子どもがいる世帯から、新たに子ども手当の申請があった場合に、児童手当の支給分があるか否かを確認するための事務が必要か。児童手当を支給している世帯においては、子ども手当の支給開始後も現況届を出す必要があり、2010年度の子ども手当の支給にあたって児童手当の支給分があるか否かを確認するための事務が必要か(スケジュール例をみると、どうも必要になりそうである)。この2点だけでも明確になると、検討を進められる。課長会議の場で、どのような説明がなされたのかを知りたい。