制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

審査支払機関の在り方に関する検討会、開催予定が明らかに

2010年04月01日 21時09分02秒 | 情報化・IT化
このブログで何度か取り上げているが、日本の審査支払機関には、47都道府県ごとに1つずつの国保連とそれらを中央で取りまとめている国保中央会(国民健康保険分)、47都道府県ごとに支部を置く支払基金(被用者保険分)の2種類がある。
後期高齢者医療制度の廃止に向けて、市町村国保を広域化・都道府県単位化すれば、全国で保険者数は47となる。被用者保険は、健保組合がどれほど残るかわからないが、解散して協会けんぽに加入する傾向が続けば、残る健保組合と共済組合をすべてをくっつけて協会けんぽを47の支部にわけることも視野に入ってくる。
医療保険者を都道府県単位でまとめていくとすれば、国民健康保険分と被用者保険分の2種類ある審査支払機関は1つにしても十分ではないかということになる。

現状は、そこまで至っていないが、厚生労働省は「審査支払機関の在り方に関する検討会」を立ち上げ、

・審査支払機関の組織の見直し
・審査支払機関の競争の促進
・審査支払業務の効率化、民間参入の促進

の3点について話し合うことにしたようである。

審査支払機関の在り方に関する検討会の開催について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000005hil.html

組織の見直しについては、これまで紙が大半を占めていたレセプト(請求書)は、オンライン請求の原則化によって電子化が進んでおり、ITシステムによる審査(機械的に実施できる単純なもの)が増えている。今後も電子化を進めていくことになれば、審査支払機関はかなりスリムな組織となる。これは、隣の国=韓国の医療ITの取り組みをみれば明らかである。

次の競争の促進については、これまでも支払基金が市町村国保から審査支払を受託できるようにしようとか、その逆もできるようにしようといった話はあり、法的にはできるようになっているが、実際に委託先を変えたというニュースはみたことがない。2種類の審査支払機関はあるけれども、両者間で競争はないといえるのではないか、という指摘から議論が始まると思われる。

最後の効率化や民間参入の促進については、なかなか簡単ではないだろう。単純な効率化は、電子化を進めてITシステムで行う審査を増やす、専門的な判断を必要とする疑わしいレセプトから順番に並べるといったことが考えられるが、これまでのように日本医師会が反対にまわるだろう。効率的に審査をしている国保連や支払基金の支部がもつノウハウを展開するといったことはすぐにできそうだが、その程度では効率化に入らないと指摘されそうである。
また、民間参入の促進については、少々無理があるだろう。レセプトには診療科や病名などが記載されているため、センシティブな個人情報と位置づけられる。いくら審査のノウハウがあり、請求支払の間にはいる財務力があるとしても、民間企業がレセプトを処理することは、そう簡単には認められることではないと思われる。「規制・制度改革に関する分科会」のテーマとしてあがってもおかしくないと思うが、個人情報であることを疎かにはできないだろう。

4月8日(木)に第1回、22日(木)に第2回が開催される。その後は月に1度程度の開催で、年内に提言をまとめる予定。国保連や支払基金は、国民にそれほど知られている組織でない。事業仕分け・第2弾で大々的に取り上げられるぐらいのことがなければ、新聞各社はそれほど報じないだろう。厚生労働省のホームページに公開される情報をしっかり追いかけていきたい。

レセプト請求の審査の効率化も協議―厚労省が検討会
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-27049.html

社会保障・税に関わる番号制度に関する第3回検討会で住民票コードの利用の可能性が高まる

2010年03月31日 23時26分39秒 | 情報化・IT化
春休みの間に、社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会の第3回会合が開催されていた(3月15日)。
議事録は公開されていないが、総務省と内閣官房IT担当室へのヒアリングのため、技術的な議論が多かったものと思われる。社会保障と税の共通番号を国民に付与するのかといった本質的な議論が待たれる。

第3回会合・配布資料
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokkasenryaku/image/20100315_syakaihosyou_3_haihu.pdf

総務省の資料から、いままで見落としていたことに気づいた。第2回会合の後に、このブログで外国人をどうするのかと書いたが、訂正しなければならない。
具体的には、昨年の7月に成立していた「住民基本台帳法の一部を改正する法律(平成二十一年七月十五日法律第七十七号)」と「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する等の法律」である(この頃は麻生政権の行く末が気になって、成立した法案を一つひとつチェックしている余裕はなかった)。

外国人住民に係る住民基本台帳制度について
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/zairyu.html

これらの法律は、従来の外国人登録の制度を見直して、外国人住民も住民基本台帳に登録しようというもの。2009年7月15日に公布されており、2012年7月までに施行されることになる。施行後は、日本に居住する外国人に空港などで在留カードが公布されるようになり、そのカードをもって居住する市町村に住民登録することになる。転入・転出などの手続きは、日本人と同様となるため、現行制度のようにいつの間にかどこかに行ってしまったということはなくなる。

住民票コードは、日本人に加えて日本に居住する外国人にも付与されることになり、2013年度には納税者番号として使うことができるようになると考えられる。内閣府IT担当室の資料にあるように、住民票コードから生成される一意の番号を「本人と関係行政機関以外の第三者も容易に知りうるような性格の番号」である納税者番号として使い、住民票コードを医療保険者・介護保険者・年金保険者などが名寄せなどの目的で使う「本人と関係行政機関のみが知りうるような性格の番号」として使えるということである。

巨大なネットワークシステムの構築が必要になるが、技術的な課題は、それほど苦もなく解決できるだろう(セキュリティを担当する技術者は別の見方をするだろうが)。
最大の課題は、これらの番号の必要性を国民が納得できるように説明することである。内閣府IT担当室の資料にあるような「引越しポータル」では納得できない(年中引っ越している人でもないかぎり、利便性を享受できない)。国民から社会保障制度への信頼を取り戻すために必要な「国として備えておくべき社会基盤=インフラ」だと説明しないと迫力はでないし、納税者番号を導入する目的においても民主党が掲げる様々な政策を実現するために必要になるものだと説明すべきだろう。

個人的な意見だが、社会保障番号は、国民にとって意識することのない番号になるだろう。この番号を使うのは行政機関であり、たとえば、子ども手当の支給額を一律にするのではなく世帯の所得に比例させたり、真に困っている人たちの給付に使ったり、医療と介護の自己負担額を世帯で合算できるようにする(所得に比例させた限度額を上回る分を償還する)といった説明をする。医療や介護、年金の番号は現行どおりとすれば、国民にとって「プライバシーの侵害」や「国による管理(国民総背番号制)」といった見え方にはならないのではないだろうか。

高度情報通信ネットワーク社会推進本部(IT戦略本部) 鳩山政権下で再始動

2010年03月20日 09時33分13秒 | 情報化・IT化
鳩山政権が発足して半年、ようやくIT戦略本部の会合が開かれた。
半年もの間、何の動きもなかったために、これまで民主党はITのことがよくわかっていないのではないかなどと噂されてきた。しかし、鳩山首相が「半年たつまで戦略的なことを決めていなかったが、やはり戦略性が重要だと認識し、遅ればせながら立ち上げた」と述べるなど、これから数ヶ月で大きく動きそうである。関係省庁の副大臣・政務官からなる企画委員会が新設され、「政治主導」で政策の立案が進められる。具体的なスケジュールは、

4月
・新IT戦略を決定
5月
・必要な法整備や予算措置、目標年次や担当省庁党を明記した工程表を策定
6月~
・新成長戦略に反映

で、ITの利活用を阻む既存制度などを徹底的に洗い出して抜本的に見直すとのこと。前政権との違いは、「政府・提供者主導から、国民主導の社会への転換のためにITを活用する」ことにあり、そのためにITが果たす役割が大きいとの認識。多少の焼き直し感はあるが、今後の詳細化に期待したい。
新IT戦略は、「国民主権」の観点から、次の3つの柱=重点戦略に絞り込むことになる。

(1)国民本位の電子政府の実現
・政府CIOを設置して、行政の効率化を推進するとともに業務を見直し、共通基盤を整備する
・行政が保有する統計情報を匿名化して、インターネットで容易に入手できるようにする
・行政が保有する情報の公開を進め、民間部門の新事業を創出する
・便益の高い行政サービスをオンライン/オフラインでいつでも利用できるようにする
・国民ID(共通番号)制度、自己の情報活用を本人が監視できる制度等を整備する

(2)地域の絆の再生
・市民メディア(地域SNS)の全国展開など、地域主権をITで実現する
・双方向でわかりやすい授業の実現など、21世紀にふさわしい学校教育の環境を整備する
・国民が自らの健康・医療情報を電子的に活用可能な全国レベルの情報サービスを創出する
・独居高齢者の安否確認や在宅医療・介護などでITを積極活用する

(3)新市場の創出と国際展開
・ITの研究開発を重点的に推進し、早期に市場に投入する
・デジタルネイティブの能力を活かし、新事業を創出する
・クラウドコンピューティングサービスを推進する
・スマートグリッドや人やモノの移動のグリーン化などにより低炭素社会を実現する
・戦略分野についてオールジャパン体制を整備し、国際標準を獲得する


診療情報活用、全国で受診可能に…IT戦略案
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100319-567-OYT1T01037.html

共通番号制のシステム整備 政府の新IT戦略骨子
http://www.47news.jp/CN/201003/CN2010031901001004.html

政府のIT戦略本部が始動 企画委新設、5月に工程表
http://www.asahi.com/politics/update/0319/TKY201003190530.html?ref=goo

診療履歴をデータベース化=IT新戦略骨子を決定-政府
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-100319X995.html



なお、政権交代後の初会合となった第52回の資料は、すでに公開されている。詳細は、配布資料をご覧いただきたい。

高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(第52回)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai52/gijisidai.html

津波の避難情報「災害弱者」に伝わらず 課題が改めて明らかに

2010年03月01日 20時18分52秒 | 情報化・IT化
南米チリ沿岸の大地震による津波が日本を襲った。最悪の事態を考えて三陸沿岸一体に「大津波警報」が出されたが、人的な被害を出すことなく、1日の午前中にすべて解除された。青森県・岩手県・宮城県の36市町村のうち、34市町村が「避難勧告」よりも強く避難を促す「避難指示」を出したものの、指定の避難所などに避難してきた住民は6%に留まったとのこと。指定の避難所でなくても、高台に避難するなどの何らかの行動をとった住民も多くいると思われるため、6%の是非を問うことはできないが、災害時の情報提供の難しさが改めて浮き彫りになった。

避難所利用は6% 津波到達予想時刻にサーフィンも
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20100301-OYO1T00591.htm?from=top

最悪の事態を考えて強めの情報提供をすると、住民は「この前は3メートルの津波が来るといっていたが、1メートルぐらいで被害も出なかった。今回も避難しなくても大丈夫」と判断して避難しなくなってしまう。「狼が来た」と叫び続けると、本当に狼が来たときに逃げ遅れてしまうようなものである。かといって、弱めの情報提供を続けると、本当に3メートルの津波が来たときに大きな被害を出してしまう。

避難住民「すごく怖い」=50年前思い出す-津波観測で宮城、岩手
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201002/2010022800312

被害にあった記憶があると、受け取る情報は同じであっても行動は異なる。50年前のチリ地震の津波で41人が亡くなった宮城県南三陸町では、防災行政無線で大津波警報のアナウンスが響き、町内の志津川漁港近くでは、避難所へ向かう人や車が慌ただしく行き来したとのこと。

このようななか、避難情報が届かない「災害弱者」の課題も明らかになった。今回は人的な被害が出なかったとはいえ、避難情報が届かない人たちが逃げ遅れるおそれがあった。これらの課題は、以前から指摘されてきたことであり、国としてもITを活用するなどの対策を講じてきたことである。報じられているのは、次の2つのニュースである。

1つめは、宮城県が外国人向けにメールで地震や津波などの情報を伝える「県災害時外国人サポート・ウェブ・システム」の英語版で、「A tunami will not occur after this earthquake(津波は起こらない)」と配信していたことを伝えるニュース。英語版の登録者数は92人。原因は、システム管理者がメッセージ(文章)の選択を誤ったためという。

【津波警報】「津波は起こらない」 宮城県が外国人向けメールで誤配信
http://sankei.jp.msn.com/affairs/disaster/100228/dst1002282331062-n1.htm

「津波の心配ない」と誤配信 宮城県の外国人向け情報
http://www.asahi.com/national/update/0228/TKY201002280310.html

2つめのニュースは、1日の「障がい者制度改革推進会議」で聴覚障害者の委員らが「テレビの定時ニュース以外はまったく字幕がない。不安といらだちの一日で、一体どうなっているか全くわからなかった」と訴えたことを伝えるニュース。厚生労働省と総務省、NHKあてに手話通訳や字幕放送の拡充を求める要望書が出されたとのことだが、今回が初めてではないだろう。例えば、10年ほど前の「東海村JCO臨界事故」においても、東海村がサイレンを使って事故を知らせ、防災無線を使って屋内退避などを呼びかけたが、聴覚障害者に対する誘導などが行われなかったことが大きな問題となった。それから何も変わっていないということである。

津波避難「聴覚障害者への情報不十分」 政府が対策検討
http://www.asahi.com/national/update/0301/TKY201003010338.html

なお、情報が届かずに「災害弱者」となりうる者は、聴覚障害者のみではない。字幕や文字放送があれば解決できる課題でないことは言うまでもない。

社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会、第2回検討会開催される

2010年02月23日 09時31分13秒 | 情報化・IT化
22日に、税と社会保障の共通番号制度の第2回検討会が開催された。
第2回検討会で明らかになった方針は、以下のとおり。

・既存の番号と共存させる
医療保険の被保険者番号や基礎年金番号などの既存の番号を残し、それらを束ねる「共通番号」を導入する。
既存の番号を共通番号で置き換えると、他制度の情報を紐付けてみられるようになる。メリットもあるが、情報の漏洩や他目的での使用などのデメリットのほうが大きいとの判断なのだろう。
被保険者番号を廃止して、共通番号に置き換えるとすれば、何らかのサービスを利用するたびに、その番号を他者に知らせなければならなくなる。多くの情報を引き出せる番号が流通することに国民は不安を抱くだろう。プライバシーに配慮すると、裏で束ねる番号として使ったほうがよい。
このような議論の結果、1つの番号に集約しない方向で意見が一致したとのこと。

・住民基本台帳ネットワークを活用する
検討会の終了後、古川内閣府副大臣(事務局長)は「住基ネットが一番幅広く付いている番号であることは事実」や「外国人は入っていない」と述べ、住民基本台帳ネットワークを使う方向で検討していること、検討課題が残っていることを明らかにした。
峰崎財務副大臣も個人的な意見と前置きしつつ、「住民基本台帳ネットワークが適していると思う」と述べている。財務副大臣=納税者番号として、住民票コードそのものを使うか、住民票コードと連携する新たな番号を付与するかという議論がなされたものと思われる。
このブログで何度も取り上げているが、住民票コードの利用目的の拡大(報酬を受け取る相手に知らせる、その相手が番号をデータベース化するなど)には住民基本台帳法(第四章の二 第四節 本人確認情報の保護)の改正が必要となる。
住基ネットの最高裁判決において「行政機関が住基ネットにより住民の本人確認情報を管理、利用等する行為は、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできず、当該個人がこれに同意していないとしても、憲法13条により保障された上記の自由を侵害するものではなく、自己のプライバシーに関わる情報の取扱いについて自己決定する権利ないし利益が違法に侵害されたとする被上告人ら(原告ら)の主張にも理由がない」とされていることからも、住民票コードを納税者番号として広く流通させることは難しいと考えられる。

住民基本台帳法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S42/S42HO081.html


新聞各紙の情報を総合すると、社会保障の分野においては、既存の被保険者番号をそのまま使い、保険者や市町村などの内部で共通番号を持ち、表に出ている個別の番号と裏で紐づけられるようにすること。税の分野においては、広く使われる納税者番号を国民全員と外国人に付与すること(その番号が、住民票コードと同一になる可能性も検討する)。社会保障の分野の番号と税の分野の番号は同一か簡単に紐付けられるようにすること。複数のITシステムの連携の核に住基ネットを置くことという、共通番号制度の概観がおぼろげながら見えてくる。

社会保障と税の共通番号、既存番号と併存へ
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100222-567-OYT1T01145.html

複数分野束ねる「基礎番号」検討=社会保障と税の共通制度で-第2回検討会
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/business/jiji-100222X012.html

共通番号に住基ネット最適 峰崎財務副大臣
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100222-00000583-san-bus_all

社会保障の給付や所得税の決定などの事務に住民票コード=共通番号が使われることに関して、国民の理解は得られやすい。しかし、その番号を国民全員が持ち運び、会社にも知らせ、何らかの報酬を受け取る際には、第三者にも知らせなければならないとなれば、理解は簡単に得られないだろう。住基ネットの最高裁判決もあることから、納税者番号を新たに付与し、その番号と住民票コード=共通番号と紐付けられるようにしておく、というのが現実的な「落としどころ」になると思われる。
外国人は住民票コードを持っていないため、この仕組みに乗せるならば、外国人登録制度の見直しが必要になる。外国人登録をしていない人たちが多くいるし、市町村が引越しや帰国などの異動情報を把握できていないなどの問題があり、新たな在留管理制度へと移行しないと対応できないと思われる。

税と社会保障の共通番号制度の検討開始 5月までに複数案を整理

2010年02月10日 10時05分18秒 | 情報化・IT化
8日のことになるが、政府が「税と社会保障の共通番号制度の導入に向けた検討会」の初会合を開催し、検討を本格化した。
明らかになったスケジュールに関しては、菅副総理・大臣のインタビューから推測したものよりも、さらに前倒しの印象がある。試案の作成に2~3ヶ月、年内に方向性を出し、複数の試案作成が5月。来年度の通常国会での法案提出。導入と利用開始は早ければ2013年度から(前年度の1月からの利用開始)となっている。

政府、納税者番号制度の検討開始 5月めどに試案
http://www.47news.jp/CN/201002/CN2010020801000880.html

「社会保障番号」議論を本格化…検討会が初会合
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/business/20100208-567-OYT1T01109.html

共通番号制度、11年に法案 政府検討会、5月メドに複数案
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20100209ATFS0803G08022010.html

あくまで「目標」としているが、明らかになったスケジュールを整理すると、

2009年度
・「番号制度に関する検討会」などの検討体制を立ち上げ
・基本的な方向性を議論
2010年度
・5月までに、基本的な考え方(3類型、利用範囲など)を整理。年末までに絞り込み
・年内に基本的な方向性を出す(基本的な方針の策定)
・1月に関連法案の提出
2011年度
・関連法案の成立
・共通番号の付与やITシステムの改修などの準備
2012年度
・共通番号の付与やITシステムの改修などの準備(継続)
・制度の導入
・2013年1月から利用開始
2013年度
・制度の本格利用

となる。自民党政権下でも検討を続けてきたが、結論を出すに至っていない。現政権でも簡単に結論を出せるとは思えない。検討が長引いたり、共通番号の付与などに時間を要したりということなら、1年間の後倒しとすればよい(それでも当初の計画どおり)との計算だろう。
検討会は、国家戦略室を中心とした省庁横断型。メンバーは、平野官房長官、仙谷国家戦略大臣、原口総務大臣、長妻大臣と関係各省の副大臣らで、菅副総理・大臣が会長を務める。社会保障カードや電子私書箱のような「学識経験者(各省庁の御用学者)」を座長に据えて役人が仕切る検討会ではなく、「政治主導」といえるもの。これまでとは違う結論が出そうとの期待感が高まる一方で、この分野に知見のあるメンバーが入っていないことには不安を感じる。「障がい者制度改革推進本部」の下に「障がい者制度改革推進会議」があるように、この検討会の下か各省庁の下に、実務面の検討を担当する委員会を設置することになるだろう。そうしないと、新聞各紙が報じている「プライバシー面の不安(社会的なベネフィットとのバランス)」などの難問を整理できない。政治主導で大きな方針が固めておき、その方針に基づいて、プライバシーなどの難問の解決と制度運用などの詳細化・具体化を進める。このような「トップダウン」の進め方を描いているのではないだろうか。

初会合で、菅副総理・大臣は、「色々なサービスを公平に効率よく受けるための基礎的なインフラだ」と説明。所得が捕捉できれば、手当に所得制限を設けたり、所得ごとに給付額を変えることができる。給付つき税額控除や最低保障年金の実現には欠かせない社会インフラだとのメリットを前面に出していくことが明らかになった。この社会インフラがないと、消費税の引き上げができない。公にはあまり出ていないが、民主党はそのように考えているのではないだろうか。

このブログでも何度かに分けて、これらの考え方を取り上げている。合わせてご覧いただければ幸いである。

税と社会保障の共通番号の関連法案、2011年に提出か

2010年02月02日 10時06分59秒 | 情報化・IT化
先月の中頃に、税・社会保障の共通番号制度の検討を前倒しの方針と報じられたが、管副総理・大臣へのインタビューで具体的なスケジュールが明らかになった。

2009年度
・「番号制度に関する検討会」などの検討体制を立ち上げ
・基本的な方向性を議論
2010年度
・夏頃までに、基本的な考え方(3類型)を整理。年末までに絞り込み
2011年度
・関連法案の提出、成立
2013~2014年度
・共通番号の付与やITシステムの改修などの施行の準備
・2014年1月から制度導入

2011年度に関連法案を提出してから、共通番号の導入までに1~2年は必要になると述べているので、検討の開始から法案の提出までを1年間ほど前倒しすることになる。税と社会保障の制度にかかる全国民(外国人を含む)に番号を付与し、本人に通知したり、勤務先に知らせたりするための「準備期間」には、1~2年は必要になる。国や地方自治体のITシステムだけでなく、民間企業などにおいてもITシステムの改修・機能追加が必要になるし、社員・職員から共通番号などを集め、管理するための事務処理も必要になる。2014年度から導入しようとすると、検討の前倒しが必要になるとの判断なのだろう。

全国民に番号が付与する仕組みとしては、既に住民基本台帳ネットワーク(住民票コード)がある。しかし、国民は付与された番号を知らなくても構わないし、住基カードを持っていなくても何のペナルティもない(残念ながら、持っていたとしても、大きなベネフィットがない)。しかし、今回の共通番号は、知っていないと報酬を受け取れないし、社会保障の給付を受けられないかもしれないというような日常生活に直結する番号である。いつ、どこで必要になるかわからないので、常に携帯していなければならないし、書くように求められたときに書けるようにしておかなければならない。日常生活に直結する番号だけに、全国民に漏れなく番号が付与したことを確認してからでないと制度を導入できない。準備期間の大変さは、これまでの諸制度とは比にならないだろう。

なお、共通番号の基本的な考え方の3類型は、以下のとおり。

1)新しい番号を付与
 共通番号として、国民一人ひとりに番号を付与していく。このブログでも取り上げているが、住民異動との連動性が求められるので、既存の番号制度とのインタフェースを持つことになると思われる。

2)基礎年金番号を活用
 基礎年金番号をそのまま使う。しかし、基礎年金番号を持っていない国民も多く、所得の把握や社会保障給付に支障が出るおそれがある。年金制度に未加入であっても共通番号が必要になれば、基礎年金番号を付与するような運用になると思われる。

3)住民基本台帳(住民票コード)を活用
 全国民に付与済の住民票コードをそのまま使う。外国人登録は別なので、日本国内にいて、国内の企業などから報酬を得ている外国人労働者には新たに番号を付与する必要がある。また、住民票コードの利用にあたっては、厳しい制限が加えられている。日常生活に直結する番号として使うことを想定していなかったため、法改正は困難を極めると思われる。

3類型ごとにメリットとデメリット、費用、実現可能性などを評価して絞り込みがなされることになる。個人的には、社会保障カードの導入にあたって検討したことが使えると思いつつ、政権も変わったことだし、体制を一新してゼロベースで検討してほしいと思う。また、全国規模のITシステムを前提とした制度になると思われるので、実務的な検討をする委員会のメンバーには、現実的な検討と他分野の専門家と正面から議論ができるIT業界の代表(専門家)を探し出して加えてほしい。

税と社会保障の共通番号制度、検討を前倒し GWまでに論点整理

2010年01月23日 10時11分53秒 | 情報化・IT化
昨年末の税制改革大綱の閣議決定後、藤井財務大臣が、今後の税制調査会の重要なテーマの一つとして「納税者番号」の導入をあげ、1年以内を目処に結論を出すと述べた。2011年度中に納税者番号制度に関する法律を整備し、2014年1月から運用を開始するというスケジュールが示されたが、盛り上がりに欠け、その後は、産経新聞が「前倒しの可能性がある」と報じたきりで、動きがなかった。

昨日の峰崎副大臣の記者会見で、今秋の臨時国会の法案提出を目指し、5月のGWまでに論点を整理するとの方針が示された。管副総理・大臣の指示によるもので、早々に作業部会を立ち上げることも明らかになった。なお、検討が進められるのは、納税者番号ではなく、税・社会保障の「共通番号」で、その用途としては、社会保障の給付と保険料などの徴収、納税、市民サービスとされている。

税・社会保障の共通番号制度「秋にも法案提出」 財務副大臣
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20100122ATFS2102L21012010.html

共通番号が導入されると、何が変わるのだろうか。例を使って、少し考えてみたい。
例えば、講義や講演などに呼んでいただき、謝礼をいただくときには、住所と氏名、電話番号などを書いて押印している。共通番号制度が始まると、それらの情報に加えて「共通番号」を書くことになる。講義や講演の依頼元は、その番号を使って税務当局に報酬を支払ったことを通知し、こちらは、いろいろなところから送られてくる支払調書を納税申告書に整理し、税務当局に提出する。それらの書類は「共通番号」で名寄せされ、突合されることになる。

「番号制度」を税務面で利用する場合のイメージ
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/nouzei/n03.htm

約1年間に公表された、この資料によると、共通番号には「固有性」と「可視性」が必要だとのこと。何らかの収入を得る可能性がある国民には番号が付与され、生涯に渡って、その番号が使えること(番号が変わったとしても、最新の番号と過去の番号が紐付けできること)。取引先に提示できることが求められる。社会保障カードのように「見えない番号」では駄目。住民基本台帳番号は目的が制限されているため、税・社会保障などの目的で使うための番号が新たに付与されることになる。

なお、勤務先にも「共通番号」を知らせることになるから、税務当局は、勤務先からの給与収入と、いろいろなところからの報酬のすべてを「共通番号」を使って名寄せ・突合できるようになる。この仕組みにより所得の捕捉率は高まり、「トーゴーサン」といわれる不公平感も小さくなる。このように把握した所得を、社会保障の給付にも使えるとなれば、事務は大幅に軽減できる。
共通番号制度が既に始まっていたとすれば、例えば、子ども手当の事務も大幅に簡素化できる。支給申請にあたって「共通番号」を書くようにとすれば、その番号をつかって前年度の所得や年金種別などを簡単に把握できる。申請にあたって自分で調べなくてもよくなるし、提出が求められる現況届を簡素化できる。子ども手当によって新たに支給対象になった世帯を機械的に抽出できるので、市町村の特例交付金の申請事務なども簡単になる。

このように効率化を進められるので、税や社会保障にかかる何かをするときに、必ず「共通番号」を書くようになるだろう。ITシステムがどこかでつながっていて、事務に必要な情報があちらからこちらへと自動的に伝えられるようになる。原口大臣の考える「クラウド化された納税システム」は、このようなものなのだろうか。

平成21年度 第26回税制調査会議事録
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/pdf/21zen26kaia.pdf

「クラウド化された納税システム」からイメージされるシステムは、住民基本台帳ネットワークに接続された共通番号の管理システムが中心にあり、それを所得把握のシステム、税や保険料の賦課・収納のシステム、社会保障サービスや市民サービスの給付のシステムなどが層をなして取り巻いているような「クラウド(もやもやとした雲)」。住民基本台帳ネットワークよりも大きなネットワークシステムが次から次へと整備されることになるかもしれない。

ライフ・イノベーションの工程表を考える その3

2010年01月06日 09時47分27秒 | 情報化・IT化
昨日に積み残しになった「情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備」について書いていきたい。

このブログで書いてきたように、地域で暮らす高齢者の数は、今後も伸び続ける。
なかでも社会システムとして整備が必要となるのは、都市部である。あと5年後の2015年には、首都圏の高齢者数が1000万人を超える。しかも、高齢者数が急増する市町村の多くがベッドタウンである。人口が3000人の村の高齢化率が10%上がると、300人増。対して、人口が3万人の市の高齢化率が10%上がると、3000人増。30万人の市では、3万人増。300人の高齢者が必要とする医療や介護のサービスを提供することは、それほど難しいことではないが、3万人となると話が違ってくる。人口30万人の都市中心部に、これだけの高齢者を受け入れるための病院や介護施設を今から整備することは、まず不可能である。
つまり、都市部の高齢化率が上がるということは、これだけの大きなインパクトがあるということである。

それでは、どうすればよいか。その唯一の解決策は「在宅」である。何かあれば病院にいく、病状が悪化すれば入院することは、都市部では難しくなるだろう。高齢者が増えれば、病床は足りなくなるし、次から次へと介護施設を建築したとしても、高齢者人口の増加には追いつかない。それならば、「できるだけ長い間、自宅で過ごしていただき、本当に必要な時だけ設備の整った病院を使っていただく。医療や看護が必要な場合は、地域の拠点から自宅にサービスを届けるようにする」ことで、限られた社会資源を有効に活用すればよい。
自宅でも、設備が整った病院や介護施設のようなサービスを利用できるようにするためにはどうすればよいのか。そのための技術が「情報通信技術(ICT,IT)」である。ITネットワークを使って、地域の拠点から見守れるようにすればよいし、自宅にいる高齢者からのアクションをトリガーとして必要なサービスが届けられるようにすればよい。できるだけ地域や自宅に留まってもらうための仕組みは、限られた社会資源を有効に活用することを目的としているが、高齢者にとっても、「医療や介護が必要になれば、誰も知っている人がいない郊外の施設に送り込まれる(現代版の「姥捨て山」)」ぐらいならば、「ぎりぎりまで、住み慣れた地域や自宅で生涯を過ごせる」ほうがよいだろう。

ICT=技術としての「生活支援ツール」の開発と並行して、「地域保健・地域医療・地域福祉」への本格的な移行を後押しする必要があるだろう。これまでの理念としての「地域への移行」では十分でない。地域をベースに活動することが通常の状態で、本当に必要な場合のみ、病院や介護施設を使う(病院や介護施設は、地域の拠点としても機能する)ぐらいのパラダイム転換が必要となる。
そうすれば、地域にある様々な拠点(医療や介護の拠点に加えて、高齢者の社会生活を支える様々なサービスを提供する拠点)と自宅を結ぶITネットワークが活きてくるし、1ヶ所で閉じて提供されていたサービスが地域に分散されることになるから、拠点と拠点を結ぶITネットワークも活きてくる。地域の高齢者などを支えるためのITネットワークが張り巡らされ、情報が飛び交い、必要なサービスが必要なときに利用できるようになる。このようなシステマチックな地域ケアシステムを将来像として描くことができる。

実現に向けての考えられるステップとしては、

1.「在宅」や「生活支援」をキーワードとすることの意味を整理
 ~「地域○○」へのパラダイムへの転換を図る~
2.新たなパラダイムにおける生活支援ツールを検討
 ~生活支援を情報通信技術で支えることの理解を進め、サービス開発を促す~
3.全国どこでも実践できるようなパッケージに整理
 ~モデルケースと運用にあたってのガイドラインを整備し、全国に展開する~

となるだろう。また、昨日のチームケアや地域ケアシステムの構想と連動させる必要があるだろう。例えば、遠隔地からのモニタリングが「安心につながる見守り」から「監視」となっては意味がない。必要なサービスが必要なときに利用でき、複数の事業者から提供される複数のサービスがいかにも連携しているかのように提供するためには、高齢者のセンシティブな個人情報を共有しなければならない。かといって、地域に張り巡らされたITネットワークに個人情報が飛び交い、至るところで共有され、「監視」されているかのような社会は誰も望まないだろう。
「都市部で急増する高齢者の医療をいかに支えるか」から展開してきたが、医療さえ何とかなれば、「住み慣れた地域や自宅で生涯を過ごせる」というものではない。基本は、やはり「利用者本位」の「生活支援」であり、「高齢者の生活をいかに支えるか(そのために必要なサービスの一つが医療)」という立ち位置から外れないように注意しなければならない。こちらも、見当違いなものがでてこないことを祈るのみである。

なお、この検討を進めるにあたってのキーワードは「生活支援」と「情報」になるだろう。福祉でも介護でも、医療でも看護でもないことの意味をしっかり考えるべきである。本質を理解ができるか否かで、成否が決まりそうである。

ライフ・イノベーションの工程表を考える その2

2010年01月05日 10時07分32秒 | 情報化・IT化
昨日に続き、「新成長戦略」の「ライフ・イノベーション」について、このブログに馴染みある項目から紹介していきたい。

P.14の「地域における高齢者の安心な暮らしの実現」では、住み慣れた地域や自宅で生涯を過ごしたいと願う高齢者を支えるために、「医療・介護・健康関連サービス提供者のネットワーク化による連携」と「情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備」などを進めることで、「高齢者が自らの希望するサービスを受けることができる社会を構築する」としている。

まず、「地域の多様なサービス提供者のネットワーク化による連携」は、地域で暮らす高齢者や障害者などに多職種からなる「チーム」でアプローチすること(チームケア)を基本とし、医療・介護・健康等の多領域にまたがる「地域ケアシステム」を構築するということである。高齢者の不安は、医療や介護、健康に関することばかりではない。高齢者にとって、それらの支援やサービスは必要だが、それだけでは十分ではない。例えば、それらのサービスが地域に十分にあったとしても、社会から孤立して「この先、誰とも関わることなく独りで生きていくのだろうか(テレビで報じられる孤独死・孤立死は人ごとではない)」などと思っていれば、いかに住み慣れた地域であっても「安心」して暮らし続けることはできない。
高齢者の「安心」を実現するためには、医療・介護・健康サービスに加えて、生活の様々な場面における支援やサービス(広義の福祉サービス)が必要である。それらは、「高齢者が希望して受けられるサービス(産業として育成できる)」のこともあれば、「地域社会に備わるべきサービス(地域社会づくり、コミュニティの再生など。産業として育成できない)」のこともある。生活を支え、安心を醸成するという観点から、生活に関わる全てのサービスを包含する必要があるだろう。

チームケアや地域ケアシステムの研究と先駆的な実践は積み重ねられているが、どの地域でも簡単に実践できるような方法論としては確立していない。「チームケアに熱心に取り組むキーパーソンがいる」「キーパーソンがリーダーシップを発揮し、ビジョンに共感した事業者が参加した地域ケアシステムが構築されている」といった先駆的な実践は、研究の対象としてはとても興味深いが、あまりに特別すぎる。全国のどこでも、誰でも「チームケアを実践でき、地域ケアシステムを構築できる」という方法論の確立には向かない。
産業育成の制度・政策として展開することを考えれば、「特別なキーパーソン」でなくても実践できるような方法論の確立と、ネットワーク化に必要な「情報」を共有し、活用する環境の整備が必要となる。チームケアを実践するために「チームメンバーのそれぞれが何をすればよいのか、誰から誰に、どの情報を受け渡していけばよいのか、職種や組織をまたがり、連携してケアを提供するとはどのようなことか」という基本的な考え方を整理し、その理解の上で「チームケアを支援する仕組みには、何が必要なのか」を考えるべきだろう。

チームメンバーをつなぎあわせるのは「情報」なのだから、医療・介護・健康にまたがる「情報論」の確立が必要となる。これは、今に始まったことではなく、10年前~20年前から、保健・医療・福祉の連携が必要だとか、地域を単位とする情報共有基盤の構築が必要だとかいった議論が至るところでなされてきた。今日においても同じ問題提起がなされていることからも、これまでの議論が十分であったとはいえないだろう。
なぜそうなったのか、理由は単純である。医療の研究者は、医療を中心に考え、福祉・介護の研究者は、福祉・介護を中心に考える。看護や健康(保健)においても同様である。隣接した領域であるがゆえに、互いの存在を意識でき、議論が重なりあっているにも関わらず、共同で研究する場がなかった。加えて、「ソシュール言語学」的な世界観(エスキモーは雪を区別する多くの言葉を持つ。必要だから語彙が増え、文節化しているのであって、言語そのものに優劣はない。同じように、領域ごとの情報論に優劣はない。つまり、医療中心でも、福祉・介護中心でも、健康中心でもうまくいかない)を基礎に持ってきていないために、互いの考え方を尊重できていない。
そのため、同じことが領域ごとに異なる複数の言葉で表現され、職種をまたがって理解を共有できないし、共有すべき情報の項目を括り出すことすらできていないのである。ここまで読んでいただければ、これは2~3年で解決できる問題ではないし、新成長戦略にあるように「地域医療を再生」すればOKという問題でもないとわかっていただけるだろう。

これまでの研究と実践の経緯を知らなければ、具体的な工程表に展開することは容易でない。
考えられるステップとしては、

1.チームケアの実践や地域ケアシステムの構築の基本的な考え方を整理
  ~領域をまたがった研究を進める~
2.職種や組織をまたがって情報を共有し、活用するための仕組みを検討
  ~標準化やガイドラインの見直しを進める~
3.全国どこでも実践できるような方法論をパッケージに整理
  ~PDCAサイクルをまわして、全国に展開する~

だが、進め方を誤ると、誰も参照しない標準仕様やガイドライン、どこの誰にも使えないパッケージができあがってしまう。そうなると、実証事業から先に進めることはできないだろう。非常に難しい。見当違いなものがでてこないことを祈るのみである。

明日は、もう一つの「情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備」について考えてみたい。