制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

第4回高齢者医療制度改革会議 資料公開 保険者は都道府県か

2010年03月13日 10時13分37秒 | 高齢者医療・介護
8日に開催された第4回高齢者医療制度改革会議の資料が公開された。
以下のURLからご覧いただきたい。

第4回高齢者医療制度改革会議
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/03/s0308-10.html

17時20分から19時20分の3時間にわたる議論の様子はわからないが、基礎資料や参考資料などから厚生労働省が考える2013年度の姿がみえてくる。配布資料からの推測になるが、第5回目以降の揺り戻しがなければ、以下のようになるのではないだろうか。

新しい制度の骨格としては、市町村国保と高齢者医療を一体的に運営すること、財政基盤の安定化を図るために市町村国保を都道府県単位化すること、65歳の年齢到達により被用者保険の被保険者は市町村国保に加入すること、になるだろう。
これまでは4案が並列に扱われてきたが、「65歳以上は全員市町村国保に加入し、高齢者の医療給付費を公費・高齢者の保険料・若人の保険料で支える仕組みとした場合の財源構成(平成22年度予算案ベース)・宮武委員御依頼資料」に基づく議論が大きく報じられたり、「被用者保険の被保険者本人及び被扶養者の取扱いについて」の資料に「65歳以上の高齢者の医療制度と国保の一体的運用を図る場合、~」と書かれていたりすることを考えると、他の3案よりも宮武委員案が一歩先に出ている感がある。

そうすると気になるのは、市町村国保の都道府県単位化である。
都道府県が保険者になるのか、後期高齢者医療制度と同様に広域連合が保険者になるのかについての言及はない。しかし、「各委員の主な意見の概要」の「(3)運営主体のあり方」のまとめ方をみると、都道府県が一歩先に出ている感がある。例えば、「都道府県が担うべきとするご意見」には、都道府県はこれまで保険事務を担ってこなかったことに対して、「都道府県と市町村で人事交流をすればよい(安部委員)」、「広域連合は、市町村からの派遣職員で運営しており、人事異動は2年単位であることから、スキルの積み上げが困難(岡崎委員)」などとポジティブな意見が並ぶ。これらと比べて、「広域連合等が担うべきとするご意見」には、「現在の後期高齢者医療広域連合をベースに、運営主体を検討すべき(斉藤委員)」との1行はあるものの、ポジティブ・ネガティブともに取り上げられる意見が少ない(広域連合には、都道府県にはつかない「等」がついている)。

あくまで推測だが、「都道府県が運営主体となるのが理にかなっている(鎌田委員)」などの意見が並んでいることからも、都道府県が市町村国保を束ねる保険者となり、住民との接点を担うのは市町村。後期高齢者医療の広域連合は新制度への移行により解散となるのではないかと思えてくる。これだけ大きな保険制度の運営にはITシステムが欠かせないが、都道府県が住民の情報を管理するITシステムを運用するとはなかなか思えない。国保連合会に委託することになるのではないだろうか。

以上は、前政権下の「高齢者医療制度に関する検討会」でも議論されてきたこと。自民・民主の2つの政権下の検討資料を読み合わせてみれば、厚生労働省が思い描く姿はほとんど変わっていないとわかるだろう。

「高齢者医療制度に関する検討会」議論の整理について
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/03/s0324-13.html

第4回高齢者医療制度改革会議 開催される 高齢者医療制度の骨格が明らかに

2010年03月09日 21時08分10秒 | 高齢者医療・介護
8日に開催された第4回高齢者医療制度改革会議に出された「厚生労働省案」から、後期高齢者医療制度を「廃止」した後の姿がおぼろげながらも見えてきた。基本的には、日曜日のリーク記事と同じで、都道府県単位化した市町村国保と高齢者医療を一体的に運営することとし、年齢の区分を65歳とするもの。被用者保険の被保険者者は、退職して資格を失うか65歳の年齢到達によって、市町村国保の被保険者となる。
なお、新たに明らかになったことは、65歳以上の高齢者医療の枠を75歳で区切ること。年齢による区切りを被保険者が意識することはない。主に財政面での帳尻合わせのためである。

国保65歳以上加入なら、公費負担1・2兆円増
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100308-567-OYT1T00972.html

現行の後期高齢者医療制度と同様に、75歳以上の医療給付費の50%を公費=税金で賄うとすると、公費は9千億円の減。市町村国保は8千億円の増。市町村国保の増分は、最終的には税金で補填することから、差し引き1千億円の減。その分は、健保組合の2千億円の増と協会けんぽの1千億円の減の差し引き1千億円の増で帳尻をあわせられる。
医療給付費の50%を公費で賄う年齢を65歳に引き下げた場合は、公費は1兆2千億円の増。市町村国保は5千億円の増。合わせて1兆7千億円の増となる。健保組合は7千億円、協会けんぽは8千億円の減になるが、公費で賄う分が増えることから、それだけの税収=国民の負担が必要になるということである。そのため、65歳に引き下げる案は国民の理解が得られないとして、選択肢からは外れた模様。

後期医療見直し、新たに最大1.2兆円必要 厚労省試算
http://www.asahi.com/politics/update/0308/TKY201003080377.html?ref=goo

この試算結果を受けてどのような議論がなされたのかはわからないが、新たな制度の基本的な方針は、ほぼ定まったとみてよいだろう。具体的には、市町村ごとに運営している国保を都道府県の単位にまとめて財政基盤を安定させ、後期高齢者と前期高齢者の2つの制度を一体化する。高齢者医療分には、現行制度とほぼ同じ額の公費を投入するとともに、被用者保険からの拠出金をあてるというものである。一体的な運営=地域保険化が進められたようにみえるが、結局のところ、現行制度をつなぎあわせて体裁を整えただけの感が否めない。
ゼロベースで新たな制度をつくりあげるには、じっくりと検討する時間が限られている。この「体裁を整えただけのようにみえる案」ですら、実現性を問われると厳しい。制度の再設計は、それだけの難しさがあるということだろう。いくら「政治主導」といっても、制度・運用設計の素人では手が出せないこともある。

<解説>高齢者医療、厚労省が新制度案 財源、めど立たず
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20100309ddm002010024000c.html

<高齢者医療>65歳以上は国保加入 財政は現役と別建て--厚労省が新制度案
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20100309ddm001010004000c.html

このブログでも書いたが、市町村国保の財政基盤を安定的なものとするために都道府県単位化することは容易ではない。病院がないために医療給付費が低く抑えられてきた市町村、住民の健康づくりに熱心に取り組んできた市町村にとって、広域化のメリットよりもデメリットのほうが大きい。市町村合併が進まなかったのと同じ理由で、広域化に乗れない市町村が多く出てくるだろう。厚生労働省は都道府県をブロックに分けて保険料率をそれぞれ定めることを認める方針だが、それでも容易ではないだろう。
また、拠出金の負担が増す健保組合・共済組合も反対に回るだろう。今国会に提出されている法案が成立すれば、健保組合・共済組合の保険料が引き上げられる(その分は、協会けんぽの保険料の引き上げ幅の圧縮のために使われる)。3年後には再び引き上げられるとなれば、財政的に限界に達する健保組合が続出することになるだろう。

費用負担、公費めぐる意見多数-高齢者医療制度改革会議
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-26688.html

次回は、4月14日。「保険料・給付・医療サービスのあり方」について議論する予定となっている。

新たな高齢者医療制度のあり方の政府案、明らかに

2010年03月07日 09時30分04秒 | 高齢者医療・介護
第4回高齢者医療制度改革会議(3月8日)の前日の7日、共同通信社が「新制度案、65歳以上は国保加入 高齢者医療で厚労省」と報じた。

新制度案、65歳以上は国保加入 高齢者医療で厚労省
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/politics/CO2010030601000756.html

今回報じられた「65歳以上は市町村が運営する国民健康保険に原則的に加入」のように厚生労働省が考えているとすれば、第3回の会議資料における「宮武委員案」をベースに検討が進められていると考えられる。これまでの検討を踏まえると、2013年度の後期高齢者医療制度の廃止前に市町村国保の広域化=都道府県単位化を進めて財政運営の安定化を図る。その上で、被用者保険の65歳以上を切り離し、都道府県単位で運営される市町村国保に加入させることになる。
運用上は、65歳の年齢到達とともに加入している被用者保険の資格を喪失、市町村の窓口に行って、市町村国保の被保険者の資格を取得する。市町村国保では、高齢者の扱いとなるが、被用者=所得があると思われるので、医療費の自己負担などに変わりはない。市町村国保に加入を続けて75歳の年齢到達と同時に新たな被保険者証が送られてきて、医療費の自己負担が下がるということになるだろう。

「2013年」にとされているが、あと3年のうちに市町村国保を都道府県単位に統合できるかはわからない。市町村によって保険料の格差は大きい。市町村のなかに大きな病院があり、住民が多く入院しているようなところでは保険料は高いし、病院がなくて入院できなければ保険料は安い。これを都道府県単位で統一するとなれば、不公平感が増す。都道府県をブロックに分けて、ブロック別の保険料を設定するなどの方法も考えられなくはないが、調整が難航することは間違いない。住民が納得して保険料を払うように説明するのは簡単ではない。
また、市町村によって保険事務の方法はばらばらである。例えば、ある市では国民健康保険料としているけれども、その隣の市では国民健康保険税である。道路一本はさんで、保険料が違う。基準も計算方法も違う。年間の保険料を何回に分けて支払うか(期数)も、それぞれの納期限も違う。このような状態では、統合などできるわけがない。これらはすべて条例で定められているので、都道府県下の市町村が集まって標準的な方法を定め、条例を改正し、段階的に統一を図っていかなければならない。
条例で定められたこれらのことは歴史的な経緯があって、そのように定められたもの。どれが正しく、どれが間違いというものでもない。そのため、都道府県下の合議体で「標準」を検討することすら難しいのではないだろうか(例えば、都道府県の職員が、国民健康保険税として徴収している市町村の職員らに「保険料にしてください」といったとしても、そう簡単には切り替えられない)。

次に、報じられている「国保負担を抑えるため財政運営の仕組みは高齢者と現役世代を別にする。公費の50%負担は現行のまま75歳以上に限定し、財政力が豊かな健康保険組合に負担を求める方針」のようになるとすれば、「高齢者医療を市町村国保と一体的に運営する」としつつも、抜本的な改革ではなく、高齢者医療確保法の前期高齢者(65歳以上75歳未満)と後期高齢者(75歳以上)の医療制度をそのまま残し、都道府県単位化した市町村国保で包んだような制度になる可能性が高いと思われる。
協会けんぽの保険料はかなり上がっている(保険料率は、4月納付分から全国平均で現在の8.2%から9.34%になる)し、これから財政力の弱い健保組合から順に解散して協会けんぽに統合されることになる。弱っているものどうしがくっつくのだから、市町村国保と財政調整ができるほどの余裕はないと思われる。こちらも調整が難航するのは間違いない。

協会けんぽ、保険料負担大幅増 4月から月収30万円、2170円増
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20100222ATFS1903220022010.html

明日の第4回高齢者医療制度改革会議のテーマは「費用負担のあり方」。65歳未満の被用者保険から市町村国保(その中に取り込まれた高齢者医療)への拠出金のあり方、公費=税金の投入のあり方などが議論されるものと思われる。続報を待ちたい。

新たな高齢者医療制度のあり方の4つの意見、運営者の2つの意見

2010年02月25日 10時10分40秒 | 高齢者医療・介護
昨日に続き、「第3回高齢者医療制度改革会議」の資料を整理しておきたい。第4回は、3月8日に開催される予定で、議論のテーマは、費用負担のあり方となる。逆にいえば、第3回のテーマである制度の基本的な枠組みおよび運営主体のあり方については、結論が出るまで検討を進めるものの、議論は先に進める=方針は、ほぼ固まったものと思われる。

新たな制度の4つの考え方は、以下のとおり。

○池上委員案
医療保険者を都道府県単位で一元化する案。年齢による区別をしない。
・市町村国保を都道府県の単位で統合し、広域連合が運営する
・被用者保険(健保組合・共済組合)を都道府県の単位に分割・統合する
・都道府県の単位で、市町村国保と被用者保険を統合する
・後期高齢者医療制度は廃止する

○対馬委員案(健保連)
65歳以上を「別建て」の保険とする案。
・都道府県の単位で、65歳以上の高齢者が加入する医療保険者を立ち上げる
・後期高齢者医療制度の「前期・後期」の区別をしない

○小島委員案(連合)
国保は国保、被用者保険は被用者保険という「突き抜け」の保険とする案。
・被用者保険加入者が退職後も継続して加入できる「退職者健康保険制度(仮称)」を立ち上げる
・市町村国保を都道府県の単位で統合する
・市町村国保と後期高齢者医療広域連を一体的に運営する

○宮武委員案
市町村国保と高齢者医療を一体的に運営する案。
・市町村国保を都道府県の単位で統合する
・市町村国保と後期高齢者医療広域連を一体的に運営する

市町村国保を広域化し、都道府県の単位で一体的に運営する案が有力視されているとのこと。宮武委員案=一定年齢以上の独立保険方式とする案を中心に検討していくことになるだろう。
また、その場合に、運営者を広域連合とするか、都道府県とするかは意見が分かれるところだろう。広域連合は、後期高齢者医療制度で実績があり、事務や市町村との連携への不安はないが、市町村からの出向職員の集まりのため、最終的な責任が不明確であったり、住民からみれば遠いように思えたりなどのデメリットがある。都道府県は、それらのデメリットはないが、保険運営のノウハウがないために事務面での不安がある、市町村の住民への関わりが薄くなるのではないかなどの不安があるなどの、広域連合のメリットを裏返したデメリットがある。
保険者となることを都道府県が受け入れるか、市町村(広域連合)が受け入れるか、引き受ける代わりのインセンティブに何を提示するかという政治的な駆け引きもあるので、メリット・デメリットを単純に比較して決められるものではない。調整がつかなければ、広域連合を基本としつつ、都道府県の関わりを大きくするという折衷案も考えられる。
いずれにせよ、都道府県が医療計画(P)を策定して医療体制を整える(D)。都道府県を単位とする保険者が給付した医療費を分析する(C)。都道府県と保険者が分析結果を評価し、医療体制の見直しなどの対策を講じる(A)という「PDCAサイクル」をまわすことができるようになる。
PDCAサイクルをまわすことで、医療の質を向上させるとともに医療費を抑制することができる。例えば、安い後発薬があるにも関わらず使っていない被保険者や調剤薬局に保険者から通知を出したり、何度も同じ検査を受けていたり、そのたびに同じ薬を処方されていたりする被保険者などに通知を出すといった計画(P)を立て、実際にやってみる(D)。被保険者の受診行動がどのように変わったか、医療費をどこまで適正化できたかを評価し、取り組みを総括する(CA)。保険者の規模を大きくし、医療機関などとの力関係を健全なものとすることで、日本の医療を変えることができるかもしれない。

市町村国保の広域化に向けての「広域化等支援計画」の概要が明らかに

2010年02月24日 10時11分30秒 | 高齢者医療・介護
今月9日に開催された「第3回高齢者医療制度改革会議」の資料が公開されている。今日は、その資料から、市町村国保の広域化に向けた動きを取り上げたい。

第3回高齢者医療制度改革会議
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/s0209-6.html

資料2:本日の議題に関する基本資料
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/dl/s0209-6b.pdf

資料2の参考資料によると、国は、都道府県が市町村と協議しつつ市町村国保の都道府県単位化を進められるようにしたいと考えている模様。そのため、都道府県が以下のことを実施できるようにする(インセンティブをつけて)。

・保険財政共同安定化事業の拡大
・「広域化等支援計画(仮称)」の策定

なお、広域化等支援計画は3~5年程度の支援計画で、その内容は、

・事業運営の広域化
 収納対策の共同実施、医療費適正化策の共同実施、広域的な保健事業の実施、保険者事務の共同化など
・財政運営の広域化
 保険財政共同安定化事業の拡充、都道府県調整交付金の活用、広域化等支援基金の活用など
・都道府県内の標準設定
 保険者規模別の収納率の目標、赤字解消の目標年次、保険料算定方式、応益割合などの標準設定

となっている(案)。
また、都道府県を単位とする「地域保険としての一元的運用」のあり方については、高齢者医療制度の見直しに合わせて議論するとしている。

この資料からは、高齢者医療と市町村国保の運営のあり方の議論が終わるまでの間は、現行制度の枠組みのなかでできることに取り組み、実質的な広域化を進めようとしていることがわかる。これまでの議論をみていると、どこが地域保険者になったとしても、住民に近い市町村が引き続き事務処理を担うことは、ほぼ間違いない(国民年金や後期高齢者医療制度の事務・役割分担が参考になる)。それならば、保険者再編の議論に先行して、保険者事務の共同化を進めておいたり、保険料の格差の問題に取り組んだりしておいても無駄にならないとの判断だろう。
その前のページ「高齢者医療と市町村国保の運営のあり方について」から論点をピックアップすると、

・市町村国保では、保険料額にばらつきがある。どのように保険料の基準・額の統一を図るべきか
・市町村が収納率の向上に積極的に取り組む仕組み(インセンティブ)をどのように設けるべきか
・市町村が保健事業の推進に積極的に取り組む仕組み(インセンティブ)をどのように設けるべきか

となる。これらは、広域化等支援計画の策定にあたって、都道府県が市町村の意見を聞きつつ検討していく内容そのものである。
1つめの論点は、保険料額などが都道府県平均よりも下回っている市町村にとって、広域化は保険料額の引き上げにつながる。デメリットのほうが大きい住民にどのように説明すれば理解が得られるのか、保険料の格差を段階的に小さくするための具体的な方策をどのように定めるのかという問題である。市町村合併が「破談」になった原因の一つ(住民税の引き上げと住民サービスの低下を懸念する市町村が反対にまわる)と同じであり、簡単に解決できる問題ではない。
2つめ・3つめの論点は、地域保険者のあり方がどうなったとしても、市町村の役割はこれまでどおりであるとしっかり明記することから始めるべきことである。インセンティブ・ディスインセンティブの仕組みはその後に考えればよい。

チーム医療の推進に向けて「特定看護師」を創設 モデル事業を実施

2010年02月21日 10時17分23秒 | 高齢者医療・介護
厚生労働省の「チーム医療の推進に関する検討会」にて、医師の「包括的指示」のもと、特定の医療行為ができる「特定看護師」の創設について話し合われた。厚生労働省は、2010年度からモデル事業を実施し、報告書を取りまとめた後、特定看護師の要件の作成などに着手する方向で検討を進めている。

高度な医療行為できる看護師資格新設へ 厚労省が素案
http://www.asahi.com/national/update/0218/TKY201002170511.html?ref=goo

医師の指示で高度医療、「特定看護師」導入へ
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/nation/20100219-567-OYT1T01085.html

特定看護師の要件は、
・看護師免許を保有
・看護師としての一定期間以上の実務経験(例えば5年以上)
・新たに設立する第三者機関が認定した大学院の修士課程を修了
・修士課程修了後、第三者機関による知識・能力の確認及び評価
の4項目(素案)。
モデル事業にて検証し、問題がなければ、保健師助産師看護師法を改正し、法律上で明確に位置づけるとしている。

特定看護師ができる医療行為は、
・検査など
 患者の重症度の評価や治療の効果判定などのための身体所見の把握や検査
 動脈血ガス測定のための採血など、侵襲性の高い検査の実施
 エコー、胸部単純エックス線撮影、CT、MRIなどの実施時期の判断、読影の補助など(エコーについては実施を含む)
 IVR時の造影剤の投与、カテーテル挿入時の介助、検査中・検査後の患者の管理など
・処置
 人口呼吸器装着中の患者のウイニング、気管内挿管、抜管など
 創部ドレーンの抜去など
 深部に及ばない創部の切開、縫合などの創傷処置
 褥瘡の壊死組織のデブリードマンなど
・患者の状態に応じた薬剤の選択・使用
 疼痛、発熱、脱水、便通異常、不眠などへの対症療法
 副作用出現時や症状改善時の薬剤変更・中止
となっている(素案)。

看護師の業務範囲拡大の要件で議論
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-26011.html

「特定看護師」創設、モデル事業実施へ
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-26421.html

今後、都市部では、医療を必要とする高齢者が急増する。患者を病院がすべて引き受けることはできなくなるだろう。介護と同様、医療においても「施設から地域へ」の動きを加速させなければ、医療は「崩壊」してしまう。そうならないように、医師の負担を減らし効率化を進めること、医療の地域化を進めることが求められている。今回の看護師ができる範囲の拡大は、第一歩。他のメディカルスタッフの役割の拡大、組織と職種をまたがっての連携・役割分担など、検討しなければならないことは山積している。

目指すべきは、医師法第17条「医師でなければ、医業をなしてはならない」による縛りの見直しである。

医師法
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=2&H_NAME=&H_NAME_YOMI=%82%A2&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S23HO201&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

国民健康保険法等の改正法案のURL

2010年02月08日 09時11分15秒 | 高齢者医療・介護
国会に提出された2つの法案の概要と要綱が掲載された。
いずれも、このブログで取り上げてきたもので、そちらも合わせて読んでいただきたい。

1つめは、「医療保険制度の安定的運営を図るための国民健康保険等の一部を改正する法律案(仮称)」である。
国民健康保険法の改正は、
・財政支援措置を4年間延長する
・市町村国保の財政安定化のため、都道府県単位による広域化を推進する
・保険料滞納世帯であっても医療を現物給付で受けられる子どもの対象を拡大する(中学生以下→高校生世代以下)

健康保険法等の改正は、
協会けんぽの逼迫した財政状況に鑑み、保険料の大幅な引上げを抑制するための3年間の特別措置で、
・国庫補助割合を13%から16.4%に引き上げる
・単年度収支均衡の特例として、21年度末以降の赤字額について、24年度までの償還を可能とする
・後期高齢者支援金について、被用者保険グループでの負担能力に応じた分担方法を導入する(高齢者医療確保法)

高齢者医療確保法の改正は、
・財政安定化基金を、保険料の引上げの抑制に活用できるようにする
・サラリーマンに扶養されていた方の保険料の軽減措置を延長する

となっている。多くは、これまで報じられてきたことで、後期高齢者医療制度の「廃止」につながる「市町村国保の都道府県単位による広域化推進」には注目していきたい。要綱では、

二 広域化等支援方針等に関する事項
1 都道府県は、国民健康保険事業の運営の広域化又は国民健康保険の財政の安定化を推進するための当該都道府県内の市町村に対する支援の方針(以下「広域化等支援方針)という。)を定めることができるものとすること。(国民健康保険法第六十八条の二第一項関係)
2 広域化等支援方針においては、国民健康保険事業の運営の広域化又は国民健康保険財政の安定化の推進を図るため、都道府県が果たすべき役割、事務の共同実施や医療費の適正化等その推進のための具体的な施策等について定めるものとすること。(国民健康保険法第六十八条の二第二項関係)

となっている。概要にある「市町村国保における高額医療費共同事業・保険財政共同安定化事業」の拡大で留まるのか、地域保険化に向けて、広域連合に移行する道筋を示すのかでは、大きな違いがある。要綱にある「事務の共同実施や医療費の適正化等その推進」を、国保連合会の役割を大きくすると読むのか、それとも広域連合を立ち上げると読むのかによって、将来像はまったく違ったものとなるからである。

医療保険制度の安定的運営を図るための国民健康保険等の一部を改正する法律案(仮称)の概要
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/kaigi/2010/02/dl/s0202-1b.pdf

医療保険制度の安定的運営を図るための国民健康保険等の一部を改正する法律案要綱
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/kaigi/2010/02/dl/s0202-1c.pdf

(カテゴリーを分けるため、2つに分けて投稿する)

介護保険の事務手続き見直しの意見募集中

2010年02月05日 09時51分49秒 | 高齢者医療・介護
厚生労働省は、介護保険制度の事務手続きを見直すための意見の募集を始めた。期間は2月3日から3月31日まで。電子メールまたは郵送・FAXで、厚生労働省老健局振興課に。

介護保険制度に係る書類・事務手続の見直しに関するにご意見の募集について
http://www.mhlw.go.jp/public/bosyuu/iken/p100201-1.html

介護保険最新情報 Vol.130
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/NR/rdonlyres/FCEF71E9-6D80-41AF-A2F7-B36B16617FA0/0/ki_v130.pdf

今回の意見募集の背景には、長妻大臣が今国会の予算委員会で「申請する書類が大変だ」という介護事業者の声を紹介し、見直しのための意見を募集する意向を示したことがある。意見は分析・検討したうえで、具体的な見直し策に反映させる方針。厚生労働省は、介護保険制度上の提出書類に記載する項目や様式、書類の提出頻度などの見直しを想定しているとのこと。

介護保険の事務手続き見直しで意見募集―厚労省
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-26182.html

2000年度の介護保険制度の施行前から、提出しなければならない書類の様式の多さや煩雑さはわかっていた。以下ような構造になっていて調整がつかなかったこと、施行前だったため「現場が大変になる」という意見に説得力を持たせることができずに「見切り発車」となった経緯がある。法改正や細かなルールの改正の積み重ねで複雑さが増し、さらに事務が肥大化しているのも確か。様式の廃止や項目の見直しといった小規模かつ現実的な見直し(現場の負担軽減につながる見直しなら歓迎なのだが)に留まることなく、大胆な見直しにも取り組んでいただきたい。

複雑さ、煩雑さの根本には、保険制度として必要になる事務処理(報酬の請求に必要なもの)と、ケアマネジメントから始まる利用者の自立生活支援に必要となる事務処理(ケアプランやサービスを提供する事業者間でやりとりされるもの)が混在していて、切り分けられていないことがある。
保険制度なのだから、被保険者が介護を必要としていて、サービスを利用することが適切であると認められなければならない。そのための専門職として介護支援専門員がいて、作成したケアプランに基づいてサービスが提供されるという構造になっている。この基本構造は崩すことはできない。
事務手続きが煩雑だからといって、サービスの質が低下するような見直しでは駄目。サービスの選択権を利用者に渡す(利用券方式)などの見直しを行い、この構造を崩してしまうと、サービスを利用・提供する目的が不明確になり、サービスの質=得られる効果・便益は低下してしまう。やはり、この構造を基本として、いかにスムーズに情報を流すかを考えるべきだろう。
例えば、介護報酬の請求は、基本的にIT化されている。しかし、事業者間のやりとりは、依然として紙とFAX、電話であり、標準化がなされていないためにIT化できない。介護報酬系とサービス提供系の事務が連動していないために、紙台帳をみてコンピュータに入力していたり、標準化がなされていないために、市町村や事業者ごとに作成する様式がばらばらだったりする。思い切って事務処理を見直すとともに、事業所ごとにばらばらに作成している書類・情報項目を標準化する取り組みに着手してはどうだろうか。そうすれば、一般企業がすでに実現しているEDIのノウハウを介護保険分野に取り入れられる。かなりの事務効率化が期待できる。日々のやりとりで蓄積されるデータから、介護報酬の請求に必要なデータが作成できるようになれば、多重の管理は不要になる。

電子データ交換
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%AD%90%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E4%BA%A4%E6%8F%9B

また、ケアマネジメントの理論において、サービスを提供するにあたっての目標を明確にすることはとても大事なこととされているが、実際の現場は、そうでなかったりする。ニードがあり、目標があり、それらを実現する方法としてのサービスがあるという順で考えるよりも、利用したいサービスがある、サービスを利用することで充たされるニードがあると考える「サービスオリエンテッド」が実際には残っている。理論と実際が離れすぎているために、情報項目の枠を埋めること(手段)が目的化してしまっている。現場に役立つ現実感あるものとし、少しずつ「ニードオリエンテッド」に近づけるような戦略性があってもよいと思う。

建設国保の徳島県支部、東京都と厚生労働省が事情聴取

2010年01月29日 09時32分46秒 | 高齢者医療・介護
このブログで取り上げた建設国保の徳島県支部の内部調査の結果を受けて、東京都と厚生労働省関東信越厚生局は、27日から事情聴取を始めた。これまで、徳島県内の自治体や企業の退職者が「保険料が安い」と誘われて加入していたことがわかっており、支部の資格審査においても建設関連業に就いているかチェックしていなかったらしい(審査の手続きには、雇用や就労の証明書が必要になる)。
その結果、支部の組合員1905人のうち、60歳以上が1307人で69%を占め、全国平均の27.7%を大きく上回っている。しかも、60歳以上になってから加入した人の割合が45.4%であまりに不自然。銀行や電力会社などの別業種の退職者を組織的に勧誘して加入させた疑い(不正への組織的な関与)があるとのこと。組合員への加入の経緯などの聴き取り調査がなされているので、実態は明らかになるだろう。

建設国保の無資格加入で事情聴取 組合員に都と厚労省
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012701000464.html

この問題が発覚してから、建設国保を脱退して、市町村国保に移るケースが相次いでいるとも報じられている。建設関係の仕事を廃業して被保険者資格を喪失したとの証明書を市町村に提出しているが、問題となっている無資格者である可能性もあるとのこと。このブログでも書いたが、もし建設国保への加入資格がなかったとすれば、市町村国保の加入日は、建設国保に加入する前(正確にいえば、その前に加入していた医療保険の資格喪失日の翌日)まで遡ることになる。つまり、そこまで遡った資格取得日から手続きを行った日までの市町村国保の保険料が未納になっているから、その額を納めなければならない。建設国保に納めた保険料は戻ってくるが、「保険料が安い」から加入していたのだから、市町村国保の未納分には足りない。しかも、加入期間が長ければ大変な額になる。

全建国保の脱退相次ぐ 徳島支部、大半無資格者か
http://www.asahi.com/national/update/0125/OSK201001250148.html

もし、このことをわかっていて、徳島県支部の職員が、無資格者に「組合発行の資格喪失証明書」を最近の日付で出していたとすれば、大問題である。本当に建設関係の仕事に従事していたか、廃業したから手続きしたのか、「本当の資格喪失日」がいつだったのかをしっかり調べる必要がある。もし、資格喪失日を偽って証明書を出していたと判明すれば、職員には何らかの処罰があってしかるべき。調べなかった、知らなかったでは済まされない。加えて、無資格での加入者には、市町村国保と連携して、未納分となっている市町村国保の保険料を請求すべきだろう。もちろん、加入者数に応じて国から建設国保に出されている補助金のうち、無資格者の分は過去に遡って返納すべき。このように考えると、単なる事情聴取では済まないとわかるだろう。

「税の詐取、厳正対処を」 全建国保検査
http://mytown.asahi.com/tokushima/news.php?k_id=37000001001260002

徳島県の飯泉知事は、定例会見で「組合が資格のない加入者を集めていたとすれば、国税を詐取するもの」と指摘。監督官庁の東京都に「厳正対処」を求めている。

介護報酬改定(3%増)で介護従事者の給与8~9千円増 目標の半分に届かず

2010年01月26日 09時40分50秒 | 高齢者医療・介護
厚生労働省は、社会保障審議会介護給付費分科会調査実施委員会を開催、2009年4月の介護報酬改定(3%増)の後に、介護従事者の給与が8~9千円増加した(速報値)と報告した。舛添大臣(当時)は、「増額分がすべて処遇改善に回れば給与は2万円アップする」と期待を込めて説明していたが、その半分に届いていないことが明らかになった。

介護職員賃上げ月9千円どまり 目標の半額に届かず
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/politics/CO2010012501000608.html

介護報酬改定後、月9千円賃金アップ―厚労省が速報値
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-26034.html

介護従事者の処遇の調査方法で議論―給付費分科会調査実施委
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-26053.html

調査は、2009年10月1日時点で、全国の7141の施設を対象に実施。回答があったのは、5034施設。従事者の数は、4万2311人。
平均給与(1ヶ月分のボーナスを含む)は23万1366円。1年前が22万2308円なので、9058円の増。ここには、定期昇給分を含むとのこと。しかも、他の業界との給与水準の差は依然として大きく、まだまだ介護従事者の給与水準は低い。
職種別でみると、生活相談員・支援相談員が1万2291円増の29万6349円、看護職員が8393円増の30万6511円。施設別でみると、特別養護老人ホームが1万2052円の増加の28万1800円、訪問介護事業所が5868円の増加の13万9473円となっている。しかも、大手と零細では、職員の給与にまわせる「原資」の大きさが違うので、事業所の規模別に違いがあるかをみるなど、詳細な分析の結果が待たれる。

また、給与の引き上げ状況をきいたところ、「定期昇給を実施」が43.7%、「介護報酬改定を踏まえて引き上げ」が23.4%、「介護報酬改定に関わらず引き上げ」が21.0%。「給与などの引き上げを行っておらず、今後も引き上げ予定なし」は13.1%となった。舛添大臣(当時)の期待どおりとはいかずに、赤字解消などの経営改善に回った分も多かったことが明らかになった。

なお、日本介護クラフトユニオンの調査結果では、6475円の増に留まっている。手取りで介護報酬のプラス改定を実感できている職員は、もっと少ないと思われる。現在、「福祉・介護の仕事」は、「きつい」「給料が安い」「結婚できない」などと「K」がいくつ並ぶのかといわれるほど、イメージが悪くなっている。結婚するにあたって、いかに福祉・介護の仕事が好きで続けたくても、経済的な理由から「寿退職」しなければならない現状があるのも事実。しかし、このような偏向した報道の影響もあってか、福祉・介護職に就きたいという学生の減少が続いている。多くの専門学校や一部の大学では定員割れとなっており、高校に説明にいっても、関心をもってきいてくれる学生は少ない。福祉・介護系の大学に進学したいと言うと(大学・大学院で学んでから就く仕事としては、待遇が悪すぎるなどと)教師や親が反対にまわることもある、とのこと。

2012年の介護報酬改定では、さらに大胆な見直しが必要となるだろう。

社会保障審議会介護給付費分科会
調査実施委員会(第3回)議事次第
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/01/s0125-6.html