制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

厚生労働省の調査で「低所得世帯」と「生活保護受給世帯」の実態が明らかに

2010年04月10日 08時27分05秒 | ベーシックインカム
厚生労働省は、所得が生活保護受給の基準となる「最低生活費」を下回り、貯蓄もない世帯が全国で337万世帯にのぼる可能性があること、その「低所得世帯」のうち、生活保護を受給していない世帯が229万世帯(68%)あるとの推計を公表した。
この推計のもとになったのは、2007年の「国民生活基礎調査」で、総務省が2004年に実施した「全国消費実態調査」の結果(低所得世帯は142万世帯、生活保護を受給していない世帯は45万世帯(32%))とは大きな違いがある。調査と推計の方法の違いによるものと思われるが、ここ数年でいわゆる「ワーキングプア」が増えていること、所得の漸減(年収300万円どころか、「年収200万円時代」も覚悟しなくてはならない現状)が続いていることから、生活実態の厳しさは増しているものと思われる。

水準より低収入でも生活保護未受給229万世帯
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/nation/20100409-567-OYT1T01200.html

年収300万円なら十分“勝ち組”に?給料の「無限デフレスパイラル」が始まった
http://news.goo.ne.jp/article/diamond/business/2010040907-diamond.html

詳細なデータは厚生労働省のホームページをご覧いただきたい(まだ公開されていない)。
推計にあたっての全世帯数は、4800万。そのうち229万世帯(約5%)が最低生活費を下回っている。母子世帯74万世帯の約30%の22万世帯が、単身高齢世帯439万世帯の約10%の44万世帯が最低生活費を下回っている。このブログで何度か取り上げているが、母子世帯などの生活の厳しさが統計的にも裏付けられたといえる。

同時に明らかにされたのは、生活保護受給者の自殺率の高さである。10万人あたりの自殺者数は、全国民平均25.3人に対して生活保護受給者は54.8人と2倍となっている(2008年)。調査結果によると、153万7893人のうち843人が自殺し、その約7割の581人は何らかの精神疾患を抱えていたとのこと。精神疾患があるがゆえに生活に困窮して生活保護の受給、自殺へと進むこともあれば、生活に困窮したことがきっかけとなって精神疾患(たとえば、重度のうつ)を引き起こすこともあると考えられる。

生活保護受給者、自殺率2倍=精神疾患が影響か-厚労省調査
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/nation/jiji-100409X831.html

第1回生活保護受給者の社会的な居場所づくりと新しい公共に関する研究会、開催される

2010年04月06日 09時13分41秒 | ベーシックインカム
厚生労働省は、「生活保護受給者の社会的な居場所づくりと新しい公共に関する研究会」を立ち上げ、第1回会合を開催した。
不況の影響で生活保護の受給世帯・受給者は増加を続けており、昨年12月の統計データによると全国で約181万人。申請の急増で職員・ケースワーカーの対応が追いつかず、自立支援までつながっていないケースが増えている。

生活保護は「セーフティネット」であり、本来は一時的なものであるべき。保護費を支給して当面の生活を支えると同時に「自立」に向けて様々な支援をし、生活保護から抜け出すような運用をしないと、生活保護の受給世帯・受給者は増え続けることになる。しかしながら、市町村の職員は当面の仕事に追われていることに加えて、ケースワーカーとしての専門教育を受けた職員が十分にいないこともあり、必要な自立支援をしようにもできない。その結果として、受給者が地域社会から孤立したり、勤労意欲を失ったりするケースがあると指摘されている。この悪いスパイラルに早く楔を打ち込まないと、状況はさらに悪化していくことになる。
しかし、市町村の職員が手探りで取り組んでいるようでは限界がある(ようやくわかってきた頃にローテーション人事で異動してしまうため、ノウハウを蓄積できない)。また、ホームレスや生活保護の受給者(生活困窮者)を支援する民間の力にも限界がある。

そのため、厚生労働省は、研究会を立ち上げ、先進的な取り組みをしている地域や団体から意見をきくなど支援のあり方を研究して夏頃までに提言をまとめるとのこと。状況の悪化を食い止めるために、自立支援の「成功事例」を取り上げ、共有するだけでも意味がある。実効性ある提言を期待したい。

5日の第1回会合では、地元の介護事業者や農家の協力を得て職業体験の機会をつくり、社会参加・就労を促している北海道・釧路市の取り組みとホームレスの自立を支援する東京都・新宿区の取り組みが紹介された。これらを、全国の市町村で実践できるように汎用化し、専門教育を受けていなくてもある程度の生活支援・自立支援ができるように取りまとめていただきたい。

生活保護支援探る研究会 厚労省、民間の力活用
http://www.47news.jp/CN/201004/CN2010040501000799.html

新年金制度に関する検討会、初会合が開催される

2010年03月08日 23時24分24秒 | ベーシックインカム
このブログで取り上げた年金制度改革を議論する関係閣僚会議が8日に開催された。
今日は、後期高齢者医療制度の廃止に向けた第4回高齢者医療制度改革会議も開催されたため、情報の整理が追いつかない。国会対応と2つの会議に追われたためか、情報の事前リークも少なくネタ切れの感があった先週とはうってかわっての忙しさである。

年金制度改革を議論する会議の名称は、「新年金制度に関する検討会」。座長は、鳩山首相で、メンバーは、菅副総理・財務大臣、仙石国家戦略大臣、長妻厚生労働大臣を中心に、平野官房長官、原口総務大臣、川端文部科学大臣、枝野行政刷新担当大臣。事務局長は、古川国家戦略室長(内閣府副大臣)となっている。

新年金制度の基本的な考え方は、民主党がマニフェストに掲げたもので、現行の厚生・国民・共済の各年金制度を一元化し、消費税を財源とする最低保障年金を創設するというもの。今後は、検討会と並行して、古川事務局長を中心に、学識経験者や関係省庁を中心メンバーとする実務者レベルの検討を進める。2013年度の関係法案を目指すとしている。

朝日新聞と読売新聞が、現行の年金制度と民主党案の違いをイメージ図を使って説明している。現行制度は、月額6.6万円の国民年金(基礎年金)があり、その上に所得=保険料に応じて支払われる厚生年金が積み重ねられているイメージ。国民年金の財源は保険料(そのうち、半分は公費=税金)で、保険料を納めていないと、その分だけ減額される。保険料を納めていなければ、支給される額は0円(無年金)になる。対する民主党案は、消費税を財源とする最低保障年金が7万円あり、年齢に到達すれば無条件で支給される。厚生年金分は、保険料を財源とする所得比例年金に置き換えられる。なお、所得比例年金が一定額を超えると最低保障年金が減額され、支給額のカーブはなだらかになる。国民全員に7万円の支給額が保障される低所得者層に手厚い=優しい制度のイメージである。

年金新制度、5月めどに基本原則 参院選にらみ検討会
http://www.asahi.com/politics/update/0308/TKY201003080145.html

「最低保障年金」を柱、参院選向け新制度議論
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100308-567-OYT1T01208.html

5月までに新年金制度の大原則…検討会が初会合
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100308-567-OYT1T00423.html

このブログでも取り上げた「基本原則」については、長妻大臣から「無理なく払え、転職しても変わらず、最低限の受給を保障する」の3原則が提示されている。この3原則をベースに5月を目処に基本原則が打ち出される。なお、6月には、財政収支の見通しを示す「中期財政フレーム」の策定が予定されている。並行して進められている新年金制度に必要となる税と社会保障の共通番号制度の議論、消費税の見直しの議論なども基本的な考え方が出揃うことになる。
参議院選挙の前に、国民の負担が増えたり、財政規律が失われているようにみえたりする案を提示できないのではないかと考えつつも、これらの議論をしっかりすることが国民の安心や制度への信頼につながるとも考えられる。世論調査を見つつ、どこまで出してよいかを見定めてくることになるだろう。

新年金制度の議論スタート=5月に基本方針提示へ-政府
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-100308X541.html

消費税めぐり意見分かれる 年金改革で与野党
http://www.47news.jp/CN/201003/CN2010030801000728.html

失業者の国保保険料、4月から半分程度に

2010年03月06日 09時50分24秒 | ベーシックインカム
長妻大臣は、5日の閣議後、倒産や解雇などで職を失った人の国保保険料の減免措置を発表した。
市町村国保の保険料は、前年度の所得に応じて決まる(所得割)。失業したら市町村の窓口で国保への加入手続きをしなければならないが、保険料の高さゆえに滞納したり、手続きをしない=未加入になったりすることが多く、問題になっていた。

今国会に、国民健康保険法施行令の改正案(国保料)と地方税法の改正法案(国保税)が提出されており、それらが成立すれば、4月から開始される。厚生労働省の試算によれば、本人と家族を含めて、87万人が軽減措置の対象となり、「多くの人の国保保険料が半分程度になる。それ以下になる人もいる(長妻大臣)」とのこと。

なお、軽減措置は、「倒産・解雇などによる離職(特定受給資格者)」や「雇い止めなどによる離職(特定理由離職者)」に限られる。あくまで「非自発的」な失業者に限っての措置であり、「自発的」な失業者は対象外なので注意していただきたい。また、再び就職して健保に加入すると軽減の対象から外れる。

軽減措置の具体的な内容は、前年度の所得を3割とみなして保険料を計算すること(所得割のみ。均等割・平等割・資産割の軽減はなし)。例えば、給与所得が500万円の3人世帯の場合、国保保険料は34.7万円から14.8万円に、300万円の単身世帯の場合は、18.5万円から7.6万円に軽減される(平均的な保険料率による試算)。

失業者の国保保険料、4月から軽減(読売新聞)
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100305-567-OYT1T01133.html

失業者の国保保険料、4月から軽減(朝日新聞)
http://www.asahi.com/politics/update/0305/TKY201003050526.html?ref=goo


軽減措置をうけるためには市町村での手続きが必要になる。軽減の開始は、失業した日の次の日から翌年度末までの期間で、1年間分の保険料が軽減される。その翌年度からは、所得が下がっているため保険料が下がるため、軽減措置は必要ないとの考え方。詳しくは、厚生労働省のホームページをご覧いただきたい。
法案が成立すれば、ハローワークや市町村の窓口でリーフレットの配布やポスターの掲示が始まる。情報が届かず軽減措置がうけられなかったとならないように、ハローワークの窓口で対象者に伝えるようにするなどの周知を徹底していただきたい。

厚生労働省
倒産などで職を失った失業者に対する国民健康保険料(税)の軽減措置の創設及びハローワーク等での周知について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000004o7v.html

年金制度改革の3原則 今週にも関係閣僚による会議を設置か

2010年03月02日 09時52分02秒 | ベーシックインカム
鳩山首相、仙石大臣、長妻大臣が首相官邸で会談し、今週にも年金制度改革を議論する関係閣僚会議を設置することで一致した。会議のトップは鳩山首相で、事務局長は古川内閣副大臣(国家戦略室長を兼務)。また、会談後の記者会見で次の3原則が明らかになった。

・年金制度の一元化
転職したとしても加入する年金制度が変わらないようにする

・年金制度の持続可能化
若者も無理なく保険料を払える、持続可能な制度とする

・最低保障年金の創設
国民年金を充実させ、月額7万円の最低保障年金制度とする

3原則は、現時点で明らかになったもので、会議開催までに新たな原則が追加になる可能性がある。

なお、これらの実現には、相当に大きな財源が必要となる。「無理なく払える保険料」で「月額7万円の最低保障年金が受給できる」との間には、何らかの「からくり」が必要になる。例えば、保険料は低く抑えられているけれども、消費税や所得税の増税分を合わせると、実質的には保険料が引き上げられているなど。からくり=仕組みがないと、現実的な議論にならない。そのため、関係閣僚会議での議論には、消費税を目的税化して最低保障年金の財源に充てるなどの「財源論」も含まれることになるだろう。
年金制度の一元化には、医療保険者の一元化・地域保険者への再編とは比にならないほどの困難さが待ち構えている。これまで保険料を納めてきた被保険者は、それなりの年金を受給できる権利を有する。年金制度を一元化するからといって、納付履歴を「クリア」することはできない。権利を保ったうえで一元化しようとすると、制度があまりに複雑なものとなり、破綻するのは間違いない。そもそも、制度を寄せ集めただけでは「一元化した」とはいえない。戦前から始まる年金制度を総括し、「新たな年金制度」のあるべき姿を議論する、その上で、現行制度をどう移行させるかを考えなければならない。また、最近の支持率低下からも、いつまでも民主党政権が続くとは限らないと考えるべきである。政権交代のたびに「新たな年金制度」に手を入れていくことになれば、どうしようにもならない制度になりかねない。超党派で議論する必要がある。

年金制度改革のターゲットも、このブログで取り上げてきた様々な制度改革と同じ2013年度。まだまだ年金制度改革への関心は低いが、しっかり拾っていきたい。

<年金改革>月内に閣僚会議設置 消費税増税含め財源議論
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100301-00000101-mai-pol

閣僚会議、年金改革で3原則 首相と長妻氏ら確認
http://www.47news.jp/CN/201003/CN2010030101000723.html

湯浅誠氏、内閣府参与を辞任の意向

2010年02月20日 10時07分49秒 | ベーシックインカム
昨年10月に内閣府参与に起用された湯浅誠氏が「仕事に一区切りがついた」と辞任の意向を示していることが明らかになった。
朝日新聞によると、17日、湯浅氏から鳩山首相に辞任の意向の申し出があり、了承されたのこと。このことが公になったのは、19日午前の菅副総理・大臣の閣議後の記者会見で。菅氏は、「貧困問題は状況が改善されていない。同じような立場で協力してもらいたい」や「もともと、年内まではやるが、その後のことは白紙にしてほしいと言われていた。継続してほしいと私も首相も話している。近々、最終的な気持ちを確かめたい」などと述べ、慰留する考えを示している。

湯浅氏は引き続き協力を=菅副総理
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-100219X587.html

元「年越し派遣村」村長の湯浅氏、辞任意向
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20100219-567-OYT1T00563.html

湯浅誠氏、内閣府参与を辞任 「一区切りつけたい」
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2010021805270.html

昨日のブログで、「湯浅氏を事務局長に迎え」と書いたばかりなので、この時点で「一区切り」とは、いささか残念。
昨年11月のワンストップサービスの施行後、政府は、生活困窮・貧困者対策と連動させた「自殺対策100日プラン」を発表している。失業者対策ならば、支援を必要とするのは、年末よりもむしろ年度末。「一区切り」というなら、ぜひとも年度末まで頑張っていただきたいと思う。このまま辞任してしまうと、年末年始の「年越し派遣村」に約8億円の国費を使い、その成果を総括せず、反省を活かすことなくいなくなってしまった... と評価を落とすことになりかねない。

自殺対策緊急戦略チーム
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/senryaku/index.html

おそらく、このように思われかねないということをわかったうえでの決断だったと思う。第三者からはわからない苦労が多くあったのだろう(参与とはいえ、自分が思い描いていたことが何ひとつ実現できないとか、実現するためにものすごく大きなエネルギーを必要とするとか)。辞任の気持ちが変わらないなら、後任選びをしっかりしていただきたい。

自分を湯浅氏の立場に置き換えて考えてみると、この仕事の難しさがよくわかる。現実的な「第2のセーフティネット」とはどのようなものか。どこに働きかければ、それを実現できるのか。厚生労働省や地方自治体などがまともに取り合ってくれるのか。おそらく取り付く島もないだろう。
現実的にできることから手をつけていくしかないが、貧困問題の状況を大きく改善するものでないことは最初からわかっている。抜本的な解決を目指すためには、雇用保険を始めとする社会保障全体をどう再構築するかという議論は避けられない。

正直なところ、誰が後任になっても、手に負えない問題だと思う(誰が後任になるのかを楽しみにしつつ、参与はしばらく空席になりそうな気もする)。

年末年始の「生活総合相談」に要した国費が明らかに 5535人に7億9000万円

2010年02月19日 09時26分51秒 | ベーシックインカム
年末年始に194の自治体が実施した「生活総合相談」に訪れた求職者などは5535人、仕事探しや生活保護などを中心とする相談件数は6135件。それに要した国費は7億9000万円だったことが、政府の貧困・困窮者支援チームによる全国の実施状況の取りまとめにより明らかになった。

宿泊場所1万7000人分提供=年末年始の困窮者対策実績-政府
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-100217X242.html

時事通信社の記事をどう読めばよいかわからないが(ひどい文章なので、7億9000万円の内訳がわからない)、かかった費用を窓口に訪れた人数で割ると、1人あたり14万2728円。これを高すぎるとみるか、安いとみるか。ハローワークの職員に加えて市町村や社会福祉協議会の担当職員などの人件費(これまでの報道を合わせ読むと、延べ1万7654人の宿泊費などを含むと思われる)と考えると、経費としては妥当な金額。コストパフォーマンスを論じるならば、生活総合相談に訪れる人数を増やす努力がどれほどなされたのか、自立に向けてどのような働きかけを行ったのか(プロセス)、生活総合相談により貧困・困窮者層から抜け出すことができたのは何人なのか(アウトカム)を問うべきだろう。
時事通信社が報じた数値(インプットとアウトプット)を、貧困・困窮者支援チームの会合で報告しておしまいにしてはならない。きちんとプロセスとアウトカムを検証し、支援策として妥当であったのかを評価していただきたい。

年末年始の生活総合相談の実施状況
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kinkyukoyou/suisin/Hdai6/siryou2.pdf


それよりも心配なのは、政府の貧困・困窮者支援チームの動き。第6回会合(1/13)の資料7「ワンストップ・サービス・デイ、年末年始対策の実施を受けた課題と今後の対応について」をみると、あまりにも現実感・切迫感がない。

緊急雇用対策本部推進チームの活動状況
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kinkyukoyou/suisin/

ワンストップ・サービス・デイ、年末年始対策の実施を受けた課題と今後の対応について
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kinkyukoyou/suisin/Hdai6/siryou7.pdf

今後の対応についての1つめに「景気の回復による雇用機会の確保・拡大」があげられている。景気の回復を目指し、国として様々な手を打とうとしているのはわからないでもないが、生活困窮・貧困状態にある人たちへの対策としては、いささか「他力本願」的にも思える。また、「第2のセーフティネットの改善等」や「第2のセーフティネット等のサービスを日常的にワンストップで提供でき、切れ目のないセーフティネットを実現するための体制整備」においても、生活困窮・貧困状態にある人たちに1分1秒も早く手を差し伸べるには、ほど遠いようにも思える。事態はもっと切迫していることは、言われなくてもわかっているはず。役人がつくるような、しっかり書かれているけれども中身がない文書で「今後の対応」とまとめているようでは、残念である。

生活保護受給者、10年で2・3倍…大阪市財政圧迫
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20100218-OYO1T00980.htm?from=top

大阪市の生活保護受給者の急増(2010年度予算における生活保護費は2863億円で、一般会計の16.9%を占める)の記事からも、あまり積極的な対策をとると財政面への跳ね返りが大きくなること、そのために支援策を抑え気味にしなければならないとの事情もわからないでもない。しかしながら、湯浅氏を事務局長に迎え、「生活を守る」ことをスローガンに取り組んでいるのだから、「絵に描いた餅」になるかもしれないけれども、(厚生労働省からの圧力を排して)真にあるべき第2セーフティネットの姿を堂々と論じていただきたい。

消費税率の引き上げを含む議論、3月から開始か

2010年02月18日 09時42分45秒 | ベーシックインカム
菅副総理・財務大臣が、14日の記者会見および15日の衆院予算委員会で、「法人税、消費税、環境税などの税制全般の議論を本格的に始める」と述べ、2010年度予算案の衆議院通過後に議論を始めること、消費税率の引き上げなどの大きな税制改革となる場合には「国民に信を問う」と衆議院選挙の争点とすることを明らかにした。

菅財務相「消費税含めた税制議論、3月に開始」
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/business/20100214-567-OYT1T00753.html

消費税上げ「国民に信を問う」=予算の衆院通過後に議論-菅財務相
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/business/jiji-100215X813.html

このブログで何度か取り上げているが、税と社会保障の共通番号制度は、消費税率の引き上げと同時に実施することになると思われる低所得者層への給付に必要な仕組みである。この議論を先行させていることからも、周到な準備の上での発言と思われる。

消費税率4年間は上げず 首相、重ねて強調
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/politics/CO2010021501000501.html

在任中の消費税上げ、重ねて否定=議論は容認-鳩山首相
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-100215X851.html

並行して鳩山首相からは、4年間の在任期間中には消費税率を引き上げないこと、これから伸び続ける社会保障費を賄うために財政論は避けて通れず、いずれは消費税率の引き上げと低所得者への給付(所得の再分配)に踏み込まざるを得ないこと、そのための議論をすることは大いに結構、との意見が出されている。菅副総理・大臣の発言を打ち消すものではなく、どちらかといえばサポートする発言とも思われる。

消費税論議 菅財務相がやっと腰を上げた
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/nation/20100215-567-OYT1T01449.html

上記の記事を、このブログで取り上げてきたことを合わせて読んでいただきたい。このシナリオどおりに進むとすれば、現在の社会保障論の至るところをアップデイトしなければならなくなる(果たして、研究者や教員は世の中の動きについていけるだろうか)。

「3月から税制論議」に閣僚相次ぎ同調
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/business/20100216-567-OYT1T01094.html

消費税、参院選で堂々と議論を=与野党に注文-同友会代表幹事
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/business/jiji-100216X023.html

2013年度の衆議院選挙が近づくと、国民の負担増につながる検討はどうしても腰が引けてしまう。誰もが負担増になることを掲げるのは避けたいと思うものである。もし、民主党のマニフェストに「消費税率の引き上げ」が掲げられ、対する自民党のマニフェストに「消費税率の現状維持」が掲げられていたとすれば、いくら日本の将来を思ったとしても、目先の利益を考えて自民党に票を入れたくもなる。民主党が「これでは選挙に負ける」と思えば、マニフェストに掲げることへの反対論が出て、財政の健全化=税率の引き上げは先延ばしになってしまう(その結果、昨年の某党のようなバラマキばかりになる)。
選挙の争点とするならば、今から国民に対して、国の財政・地方の財政をどうするのかと具体的な数値を用いて問いかけていく必要があるだろう。国民はそれほど馬鹿ではない(バラマキには冷ややかな対応しかしない)。国の財政状況をきちんと説明し、これから先の社会保障費の伸びは避けられないこと、どこかで誰かが負担しないと国として破綻してしまうこと、消費税率の引き上げによって何が解決するのかを論理的に説明することから始めてはいかがだろうか。
おそらく、霞ヶ関の役人は、そのようなことは何度も説明していると反論したくなるだろうが、残念ながら国民には届いていない。国民が、それらを自分たちのことと受けとめ、自分たちや子どもの将来のことをしっかり考え、国全体を巻き込むような議論を巻き起こしていかないと、どうしても負担の重さにばかり目が行ってしまうだろう。

児童扶養手当改正法案のURL

2010年02月08日 09時14分02秒 | ベーシックインカム
2つめは、「児童扶養手当法の一部を改正する法律案」である。こちらは、母子家庭に支給されてきた児童扶養手当を父子家庭にも支給しようというもので、母子家庭・父子家庭の状況などを説明した資料が添付されている。平成18年度全国母子世帯等調査によると、父子家庭の「困っていること」の1位が「家事(平成15年 34.6%→27.4%)」から「家計(平成15年 31.5%→40.0%)」へと入れ替わっている。また、それを裏付けるように、相対的貧困率においても、一人親世帯が 58.7%と、OECD加盟国30カ国中30位(最下位)となっていることが示されている。

児童扶養手当法の一部を改正する法律案の概要
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/kaigi/2010/02/k0202-1.html

児童扶養手当法の一部を改正する法律案要綱
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/kaigi/2010/02/dl/s0202-1e.pdf

悪質な家賃取り立ては懲役、賃借人保護法案の概要が明らかに

2010年02月06日 09時45分17秒 | ベーシックインカム
敷金・礼金が不要のいわゆる「ゼロゼロ案件」で、少しでも滞納があると、暴力的に取り立てようとしたり、督促状を貼り付けたりする、合鍵を使って家のなかに入り込み家財道具を処分したり、鍵を交換して締め出したりするといった「追い出し屋」の被害が相次いでいる。
これらは、誰がみても違法行為と思うが、いわゆる「追い出し屋」は不動産会社や家主でないため、宅建業法や借地借家法などでは規制できない。そのため、どこも取り締まることができず、被害にあった入居者が裁判に訴えるしかなかった。国土交通省の民間賃貸住宅部会・不動産部会などでも「追い出し屋」の被害と法の不備が取り上げられており、業界団体の「自主規制」では被害が止まらないだろうとの判断から、「追い出し屋」をターゲットとする「賃借人保護法(仮称)」が整備されることになったのだろう。

賃借人保護法では、具体的には、大家や賃貸保証業者が、滞納を理由として、無断で鍵を交換したり、家具類を持ち出す、深夜や早朝に家賃を払えと訪問したり電話したりすることを禁止。これらの追い出し行為をすると告げることも禁止。違反した場合には、懲役2年または300万円以下の罰金。悪質なケースには両方を科すこともできるようになる。また、賃貸保証業者は登録制となり、悪質な業者は排除されることになる。
2月下旬に法案を閣議決定。今国会での成立を目指すとしている。

悪質な家賃取り立て行為は懲役 賃借人保護法案の全容
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/nation/CO2010020501000716.html


賃貸保証業者のここしばらくの動き方は、正直なところ適切とはいえなかった。業界としての「自主規制」では不十分で、法規制を強化すべきとの判断につながったのではないかと思う。このような検討がなされているなか、大きな批判を集めていた家賃滞納データベースの運用を開始したことは、注目に値する(さらに批判を集めるようなもの)。
家賃滞納データベースとは、連帯保証会社でつくる「全国賃貸保証業協会(LICC=リック)」が入居者の信用情報を登録し、一元管理しようとするもの。家賃の保証委託契約を結ぶ際に、生年月日や電話番号などの個人情報を収集。家賃の滞納があれば、その事実と金額、返済状況を登録していく。滞納があれば、データは消えない。このデータベースに滞納の履歴があるなどの理由から保証契約を拒まれたら、入居に必要な審査が通らなくなる。「ブラックリスト」として使おうとしているのは間違いないと日本弁護士連合会などが反対していたが、2月1日から加盟13社で運用を開始。1年後には約100万件の登録を見込んでいるとのこと。

家賃滞納データベース1日運用開始 日弁連など反対の中
http://www.asahi.com/national/update/0130/OSK201001300075.html?ref=goo

日本弁護士連合会
「民間賃貸住宅政策について(意見募集)」に対する意見書
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/100129.html

家賃滞納データベースが「ブラックリスト」として使われているとの告発が相次ぎ、社会問題化すれば、(まだ国会にも提出されていないが)賃借人保護法が強化され、賃貸保証業者による個人情報と信用情報の収集と一元管理が禁止されることになるだろう。個人情報保護の観点からも、このデータベースのあり方を注視していきたい。