制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

第3回ナショナルミニマム研究会が開催される

2010年01月21日 10時06分13秒 | ベーシックインカム
先週末に、第3回ナショナルミニマム研究会が開催されていたようである。
これまでと同様、長妻大臣を囲んでの1時間程度の研究会。配布資料は、以下のURLで公開されている。

第3回ナショナルミニマム研究会
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/01/s0115-10.html

配布資料から、どのような議論がなされたのかを推測してみたい。
今回は、ナショナルミニマムをどう考えるかについて。「貧困社会への処方箋 ―新たなセーフティネットの構築―」と題して、委員からの発表があった。データによる裏づけがなされているが、これまでも様々な場所で繰り返し語られてきたこと。しかし、4部構成の最後の「政策提言」には、現政権の考え方が大きく取り入れられているので、ぜひともご覧いただきたい。
なかでも「生活保護への負担軽減」への取り組みが急がれるだろう。具体的には、国と地方の役割分担と、現物給付部分とケースワーク(生活支援サービス)部分の切り分け、ケースワーカーの専門性の確立と向上、ハローワークと福祉事務所の連携などの政策に展開されている。

昨年の11月の産経新聞の記事だが、生活保護の申請の急増に対応するために、大阪市が100名あまりの任期付き職員を募集している(1月頃と書かれているので、そろそろ募集がかかっているかもしれない)。大阪市の被保護世帯は、10万世帯を突破し、申請件数は、前年同月比で1.9倍。大阪市の配置基準に照らすと、昨年9月現在で、172人のケースワーカーが不足しているとのこと。正規職員の採用と別枠なので、福祉の現場に配置される職員は相当な数になる。逆にいえば、それだけの体制をとらないと、生活保護制度が機能しない状況だということである。

生活保護10万世帯!大阪市、足りぬケースワーカー100人超を募集
http://sankei.jp.msn.com/politics/local/091130/lcl0911301338001-n1.htm

今さらだが、任期付き職員としてケースワーカーを配置するぐらいならば、社会福祉士会に協力を求めてはいかがだろうか。社会福祉士が「社会福祉士事務所」を立ち上げ、大阪市がケースワーク部分を委託すればよい。
社会福祉士の資格は、持っているからといって社会的に何ら有利になることがない。「士業」の一つでありながら、弁理士や弁護士、建築士のように事務所を立ち上げてやっていけるだけの専門性が社会的に認められているとは思えない。
それならば、行政職員ができることと、社会福祉士でなければできないことを切り分け、社会福祉士が生活支援サービスの提供を集中して担うことで、生活保護のケースワーカーとしての専門性の確立と向上が期待できる。

「政策提言」では、「生活保護への負担軽減」に加えて、「最低所得保障体系の立て直し」として、生活扶助基準・給付設計の見直し、最低賃金の引き上げや住宅手当、給付付き税額控除、最低保障年金の導入、失業扶助制度の導入、非典型労働者向け給付、「社会保険のアクセス保障」として、雇用保険の適用拡大や応能負担型の社会保険料体系への移行などが挙げられている。

「貧困社会への処方箋」は、いまや公的扶助=生活保護だけでは不十分で、総合的な対策が必要だということなのだろう。
最低賃金の引き上げなどの様々な制度・政策の手直しが必要になることはわかるが、最低賃金を引き上げると、企業の競争力が損なわれるかもしれないし、かえって失業者が増えるかもしれない。「貧困社会の処方箋」の枠を超えた影響が、どこに、どのようなかたちで出てくるのかを考えること、それらを踏まえた上で、制度・政策を適切に組み合わせて実行に移さなければならない。

派遣労働者も企業も混乱必至
規制強化狙う派遣法改正の愚
http://diamond.jp/series/closeup/10_01_16_001/

厚生労働省、アフターサービス室を設置 民間人4人程度を公募(予定)

2010年01月20日 10時13分00秒 | その他
厚生労働省が導入予定の、新事業や制度改正を外部の視点から評価する仕組み、改善努力を続けるための仕組みの概要が明らかになった。このブログでは、1週間ほど前に取り上げているので、そちらもお読みいただければ幸いである。

厚労省アフターサービス室設置へ 長妻氏が指示
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010011901000668.html

新たに導入する仕組みは、厚生労働省の政策評価を担当する部署に設置する「アフターサービス室」。社会保障分野に通じた民間の人材を4人程度公募し、2年間の任期付きで配置するとのこと。長妻大臣の「2010年年頭所感」には、厚生労働省に不足している能力として「実態把握能力」「制度改善能力」「コミュニケーション能力」の3つがあると書かれている。新たに設置される「アフターサービス室」は、制度改善能力の強化を主な目的とするもの。誰がどこで、なぜ困っているのかなどの「実態を把握」すること、対応する新しい制度をつくり、新しい事業を始めた後に、きちんと機能しているか、改善が必要かなどを把握して「制度を改善」すること、国民に対して、的確に「情報を発信」することが必要だという一連の能力=活動の「核」にあたる。

いかに優れた制度・政策であっても、万人のニーズに対応することはできない。対象とするニーズから外れるものが出てしまうのは仕方ないことだし、むしろ外れてしまうニーズを拾って新たな制度・政策につなぐことが必要とされる。いかに優れた制度・政策であっても、動き始めた直後から、少しずつ「手直しが必要な制度・政策」へと近づいていく。動き始めたことで新たなニーズが掘り起こされることもあれば、構想時には想定していなかった新たなニーズが見えてくることもある。それらの現行の制度・政策では対応できないニーズを把握し、現状に合わせて手直ししていくことが必要とされる。このように、すべての制度・政策には、「不断の改善努力」が義務付けられているといえる。

民間では当たり前の「アフターサービス」というよりも、より多くの顧客に受けいれられるように製品やサービスの改善の努力を続ける企業活動そのものといえる。企業においては、市場=顧客の声をきき、どう応えればよいかを考え抜き、具体化して市場に新しい製品やサービスを投入する。市場=顧客の声を再びきき、適切だったか評価する。このサイクルをまわして、新たな市場=顧客を獲得することが企業の使命といえる。長妻大臣の言葉を言い換えると、「制度・政策を考え、実行に移すところまではよいとしよう。しかし、今の厚生労働省は、実行しっぱなしで、評価と改善ができていない。それでは、PDCAサイクルのPとDしかないようなもの。厚生労働省でも民間と同じ努力をしてPDCAサイクルをきっちり回そう」ということになる。

アフターサービス室の立ち上げは、7月を予定しているとのこと。PDCAサイクルのCとAを担うことになるアフターサービス室の活躍を期待したい。

全国児童福祉主管課長会議が開催、子ども手当の事務概要が明らかに

2010年01月19日 09時36分02秒 | 子ども手当・子育て
厚生労働省は、地方自治体の児童福祉担当者を集めた会議(全国児童福祉主管課長会議)にて、子ども手当の支給時期などの具体的な事務手続きを説明した。

9月末までに市町村へ申請 子ども手当で厚労省
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010011801000875.html

基本的には、先週末に報じられたとおり(このブログでも取り上げている)。新たに明らかになったことは、児童手当を受給中の世帯は、申請が免除されるということ。児童手当は、小学生修了までの児童がいる世帯が対象(所得制限あり)。暫定的に児童手当を存続させることになったことから、前年度の受給決定を継続できるとしたのだろう。本来ならば、現況確認が必要だが、いずれにせよ子ども手当の額は同じなのだから、少しでも事務を軽減しようという考えである。

なお、現在、児童手当を受給しているから申請しなくても大丈夫というわけではないので、注意が必要である。例えば、小学生と中学生の2人の子どもがいる世帯においては、小学生の子ども分の申請は免除されるけれども、中学生の子ども分は申請しなければならない。別の市町村に引っ越した場合も申請が必要になる。児童手当の事務は、市町村ごとになされているため、引っ越した先で改めて申請しないと情報が引き継がれない。このような申請が必要になるケースを整理して、「うっかり忘れがないように」と注意を促す必要があるだろう。

子ども手当は、所得制限がなく、支給年齢も中学生修了までに引き上げた。そのため、支給者数が、児童手当の1239万人から1735万人へと、500万人ほど増える。4月1日には、子ども手当システムに、児童手当システムの受給者データを移行して申請免除者を決定(支給対象者の約2/3)。その次に、住民基本台帳などから住民データを取り込んで、子ども手当の申請が必要な者を抽出(約1/3)。それぞれに対して、子ども手当の支給開始と手続きについての案内を郵送するということになるだろう。
新たに導入する子ども手当用のITシステムには、既存の児童手当システムとのインタフェース、住民基本台帳などとのインタフェースを実装する必要がある。児童手当システムからのデータ移行は1度きりだが、住民基本台帳などからの異動データ取り込みは、これからも使い続ける必要がある(支給資格を連動させるため)。
インタフェースの実装は、それほど難しくはない。問題は、残された時間が2ヶ月少々ということと、作業できるSEを確保できるかということ。既存の児童手当システムに、移行用データを出力する機能があるか、そのデータは、新たに導入を決定する子ども手当システムに取り込めるか、正しく取り込めたことを確認する試験期間を確保できるか(市町村向けシステムには「外字」を正しく処理することが求められる。文字化けしていないことを確かめる必要がある)などを一つひとつチェックしていかなければならない。
しかも、現時点で明らかになっている情報では、子ども手当システムの発注もかけられない。IT業界も、子ども手当システムを設計できない。4月1日に、子ども手当システムの導入が間に合わない(業者決定できていない)市町村が続出するおそれがある。
それでも、4月から申請を受け付けなければならないし、6月には支給を開始しなければならない。遅くともそれまでには、支給対象者のデータファイル(金融機関向け)が必要になるということなので、担当者は大変である。

子ども手当法案と厚生労働省から出された資料をみてみないと、これより先は何ともいえない。詳しい情報が入れば、このブログで紹介したい。

2010年度政府予算案をざっとみると... その2

2010年01月18日 10時02分09秒 | 予算・事業仕分け
昨日に続き、2010年度政府予算案の社会保障関連費(27兆2686億円)の内訳をみていきたい。

平成22年度社会保障関係予算等のポイント
http://www.mof.go.jp/seifuan22/yosan010.pdf

年金が10兆3207億円で2.7%増、医療が9兆46694億円で4.3%増、介護が2兆803億円で1.1%増、福祉等が5兆4081億円で16.2%増。前年度と比較すると、福祉等の伸びの大きさが目立つ。
さらに福祉等の内訳をみてみると、子ども手当の創設が大きい。その内訳は、給付費が2兆2554億円、事務費の国庫負担が166億円、システム経費の助成が123億円となっている。その他にも、母子保健対策等総合支援事業が81億円と76%増。地域の子育て支援が総額3836億円、母子家庭等対策が1678億円、自立支援給付が5719億円などと、いずれも5~10%程度の増。

子ども手当は2兆2843億円と、福祉等の半分ほどを占めている。それでも、2010年度は半額給付で、児童手当を暫定的に残したために、児童手当の地方負担分の5680億円と事業主負担分の1790億円は含まれていない。マニフェストどおりに全額国庫負担すると2兆3345億円が必要になるとの説明だったことを考えると、2011年度には、福祉等に2兆3千万ほどが上乗せになり、7兆7千億円ほど(約40%増)になる。

これまで、日本の社会保障費は他国と比べて、年金が占める割合が大きすぎ、福祉等が少なすぎるとされてきた。ようやく他国並みに福祉等=現役世代への給付が大きくなったようにも思えるが、伸びの大半が手当(現金給付)であり、子育て支援などのサービスの給付(現物給付)はわずか。手当にまわす予算を子育てしやすい環境整備に充てるべきとの批判も、もっとものように思える。

雇用に関しても大きく伸びている。雇用保険の国庫負担が1602億円から3010億円とほぼ倍増。貧困・困窮者支援も14億円から34億円と額は小さいものの倍増。雇用維持費(事業主が、休業や出向などにより雇用を維持した場合に支給される助成金)が581億円から7452億円と大幅に増加している。現政権に求められていることは、雇用を守り、国民の生活を支援することであり、それを反映させた予算案といえる。

とはいえ、このペースで社会保障費が伸びていくと、2011年度には、年金と医療が10兆円ずつ、福祉等と介護を合わせて10兆円と、総額で30兆円に近づくことになる。税収が37兆円(よほど景気が上向かないと、2011年度にはさらに下がるおそれもある)ということを考えれば、現行の諸制度を維持できるとは思えない。社会保障費の分配が高齢者に偏っているからといっても、年金給付や高齢者医療を絞ることはできないだろうし、消費税をいくら引き上げたとしても賄えないかもしれない。

民主党の石川議員の逮捕により、政府予算案の議論はしばらく空転しそうである。野党となった自民党は、小沢幹事長の進退を巡って「4億円」の疑惑を追及する暇があったら、税収の落ち込みと社会保障費の伸びを整合性あるものにするためにどうするつもりなのかを追及してほしい。国民のためを思うならば、与党・野党の立場をこえて「日本社会をどちらの方向に持っていくべきか」「民主党が考える『第3の道』とは、具体的にどのようなものか」を徹底的に議論してほしい。

2010年度政府予算案をざっとみると... その1

2010年01月17日 09時41分06秒 | 予算・事業仕分け
日経BPのホームページに、昨年末に公表された2010年度(平成22年度)政府予算案について整理し、解説した記事が掲載されている。
この記事を足がかりに、このブログでは、社会保障政策の観点から見直してみたい。

小宮一慶の「スイスイわかる経済!“数字力”トレーニング」
22年度予算で日本の景気は良くなるのか?
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100107/204004/?P=1

なお、財務省のホームページに詳細な情報が掲載されている。何かあれば、こちらで確認していただきたい。

平成22年度予算政府案
http://www.mof.go.jp/seifuan22/yosan.htm

まず、日経BPの記事(表)を使って、ざっとしたところを掴んでおきたい。
歳出の規模は、92兆2992億円。今年度と比べて3兆7512億円も増加している。「コンクリートから人へ」や「控除から手当へ」などの基本的な考え方に基づく予算の組みなおしや「事業仕分け」がなされたが、いったい何にいくら使われていて、政権交代に伴って何を削ったのかは、よくわからない。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100107/204004/?P=3

上記のページに2つの表がある(いずれも、財務省の「平成22年度予算のポイント」より)。

平成22年度 一般会計予算フレーム「歳出」
主要経費の分類による予算の変化「コンクリートから人へ」

2つの表をみると、前年度比で大きく伸びているのは、社会保障関連費。24兆8344億円から27兆2686億円で、2兆4342億円(9.8%)の伸びである。伸び率だけでみれば、食料安定供給関連費が33.9%が最も大きいが、増減額は、2940億円に留まっている。
社会保障費は、高齢化の進展に伴い、今後も増えていくことは確実である。そのため、歳入に合わせて歳出を抑えるためには、どこかでどこかで2兆4千億円ほど削らなければならない。そうしないと、歳出はさらに膨らみ、歳入との差を賄うために国債を発行し続けなければならなくなる(これ以上の国債発行は、金利の上昇を招き、日本経済を崩壊させかねない)。

もっとも大きく削られているのは、公共事業関連費。7兆701億円から5兆7731億円で、1兆2970億円(18.3%)の削減である。他にも恩給関連費や経済協力費、エネルギー対策費が削減されているが、とうてい2兆4千億円とバランスさせるに至らず、歳出の規模が過去最大になってしまったということだろう。

なお、歳入については、下記のページをみていただきたい。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100107/204004/?P=1

平成22年度 一般会計予算フレーム「歳入」

この表のポイントは、税収が37兆3960億円と8兆7070億円も減少していること、公債金(国債発行額)が44兆3030億円と税収を上回っていること、税収の落ち込みを、その他収入(いわゆる埋蔵金)の10兆6002億円で賄っているけれども2011年度予算でも同じことはできないだろうということである。

このような財政状況をみると、医療・介護の給付費をはじめとする社会保障費の伸びを抑制する政策は良くないとばかり言っていられないことがわかる。明日は、財務省のホームページに掲載されている「各予算のポイント」をみていきたい。

各予算のポイント
・社会保障関係予算
http://www.mof.go.jp/seifuan22/yosan.htm

建設国保の徳島県支部、無資格加入の実態を公表

2010年01月16日 09時38分41秒 | 高齢者医療・介護
建設国保(全国建設工事業国民健康保険組合)の内部調査で、組合員の多くが建設関係の仕事に従事していない=加入の資格を喪失していることが明らかになった。今回、問題が発覚したのは徳島県支部。組合員1888人を対象に、建設関係の仕事に従事しているかのアンケート調査を行ったところ、1297人から回答があった。そのうち約4割の518人が「従事していない」と回答。591人から回答が返ってきてこないことから、資格を喪失している組合員は、700や800ぐらいになるかもしれない。

国保組合は、「同種の事業か業務に従事する者で組合員を組織する」と定められており、建設国保においては28の業種が定められている。そのいずれにも従事していないにも関わらず、「保険料が安い」「給付が充実している」などと建設国保に加入したり、資格を喪失しても継続したりといった実態があるものと思われる。なお、「従事していない」との回答のなかには、この建設不況で失業中の加入者もいると思われ、仕事の切れ目ごとに市町村国保と建設国保を行ったり来たりさせる必要があるのかは議論の余地があると思われる(法に照らし合わせると、行ったり来たりが原則で、議論の余地はないのだが)。

なお、建築関係の仕事に就いていないにも関わらず「保険料が安い」からと加入していた組合員は、加入時に遡って資格喪失の手続きがなされるようである。被保険者資格がないのだから、保険料が返ってくるけれども、資格を偽って給付を受けていた分についての支払いが求められる。このブログで取り上げたように、建設国保では付加給付が充実しており、その分を含めて支払えといわれると大変である。加えて、建設国保の資格を偽って取得した日に遡って「医療保険未加入」になるため、市町村国保の資格取得の手続きと、その日=市町村国保の資格を取得した日から今日までの保険料を納付するように求められる。人によって異なるが、上記をプラス・マイナスすると、そう簡単には支払えない額になるだろう。今回、無資格加入が明らかになった500人余りの扱いを注視していきたい。
国保組合の財政にも影響を与える。例えば、約半数の組合員が無資格だとすると、受け取った国庫補助を半分ほど返納しなければならなくなる。このブログでも取り上げているが、国保組合(特に建設においては)の国庫補助率はかなり高い。剰余金を一気に吐き出さなければならなくなるかもしれない。

半数近い組合員が無資格というのは、建設国保の徳島県支部だけの問題ではないと思われる。残り46都道府県の支部においても調査すべきだし、監督官庁の東京都や厚生労働省による立ち入り検査も必要になるだろう。また、他の国保組合でも同じような問題が発覚するかもしれない。そうなると、「国保組合とは何だろう」と国民の関心を集めるようになるだろう。

国保組合の問題については、朝日新聞の報道が詳しい。このブログでも取り上げているが、国保組合の実態を明らかにして外堀を埋めておき、世論を味方につけて広域化した市町村国保と一気にくっつける計画でもあるのではないかと邪推したくもなる。

加入者の4割が無資格状態 全建国保が徳島支部調査
http://www.asahi.com/national/update/0115/TKY201001140489.html

500人超が無資格加入か 建設国保の徳島県支部
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010011501000892.html

子ども手当の事務処理の概要が明らかに

2010年01月15日 09時34分42秒 | 子ども手当・子育て
厚生労働省は、18日に召集される通常国会に提出される「子ども手当」の法案(児童手当法改正法案)の概要をまとめ、各都道府県などに示した模様。毎日新聞がその内容を報じている。

<子ども手当>年3回分割支給、市町村に申請必要 法案概要
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100114-00000110-mai-pol

子ども手当の財源確保には、紆余曲折があった。そのため、今国会に提出される子ども手当法案は、1年限りのものとなった。支給額は、半額の1万3千円で、6月以降に支給される(児童手当を受給している世帯は、2月・3月の2ヶ月分の児童手当を合わせて支給)。6月の支給額は、4月・5月の2ヶ月分の2万6千円。その次の支給額は10月で、6月から9月までの4ヶ月分の5万2千円、来年の2月にも同額の5万2千円が支給される(いずれも子ども1人あたり)。

子ども手当を受け取るには、市町村の窓口での申請手続きが必要となる。所得制限がないため、住民であることを確認できれば、支給が開始される。窓口で現金を支給するとなるとかえって大変になるので、口座振込を基本とする市町村が多くなると思われる。子育て応援特別手当を支給するにあたっての検討事項に、DV被害者への対応などがあったが、子ども手当を支給するにあたっても同様の対応策が求められることになるだろう。

子育て応援特別手当の申請・支給事務フローのイメージなどは、厚生労働省のホームページにそのまま残されている。参考にしていただきたい。子育て応援特別手当は、政権交代に伴って執行が停止された手当。定額給付金と同様、景気対策のための1度きりの支給だが、所得制限がなく、世帯主に支給するという点で子ども手当に近い。子ども手当の事務処理や必要となるITシステムの基本的な考え方は、子育て応援特別手当と児童手当を足して2で割ったようなものと考えてよいのだろうか。

子育て応援特別手当(21年度版)の申請・支給事務フローイメージ
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/juyou/kosodate/pdf/info_090618c.pdf

平成21年度支給実施要綱(例)
http://www.mhlw.go.jp/za/0828/d23/d23-01.pdf

なお、6月の支給に間に合わせようと申請者が列をなすと市町村の事務処理能力を超えてしまうおそれがある。申請の時期を分散させるために、できるだけ早くから申請を受け付けるようにする(子ども手当に移行する)とか、9月末までに申請がなされたら4月に遡って支給されるようにするといった方法が考えられているようである。


子ども手当の支給に必要な費用は、2兆2554億円。そのうち、国の負担は1兆4556億円。来年度は、この倍の4兆5千億円となる。児童手当を残して、その上に子ども手当をかぶせるという「苦肉の策」は、2010年度の1年限り。その翌年度には、児童手当法分がなくなるので、その分の財源を確保しなければならないし、さらに2兆2千億円余りを確保しなければならない。民主党は、予算の組み替えを進めるとしているが、4兆5千億円は簡単に捻出できる額ではない。2000年度からスタートして少しずつ伸びてきた介護保険制度の給付額が5兆8369億円(利用者の自己負担額を除く。なお、国の負担は1/4)であることを考えると、その額の大きさをわかっていただけると思う。

平成19年度 介護保険事業状況報告(年報)
http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/06/tp0624-1.html


6月・10月・2月に分割して支給するのは、現行の児童手当と同じ。4月からの2ヶ月のずれは、前年度の所得の確定が6月であるため。子ども手当には所得制限を設けていないが、児童手当を残しているために、支給開始が6月になったのだと思われる(参議院選挙を意識してのこともあろうけれども)。

障がい者制度改革推進会議が初会合、夏頃までに基本方針を取りまとめ

2010年01月14日 09時43分11秒 | 自立支援法・障害
内閣府は、12日に「障がい者制度改革推進会議」の初会合を開いた。この推進会議は、鳩山首相を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」の下部組織で、メンバー24人のうち、14人は障害がある人やその家族。自立支援法が当事者不在のまま検討が進み、法案成立時には気づかなかったことに施行直前になってようやく気づき、抗議が広がったことへの反省からの当事者参加となった。
障害者施策を担当する福島大臣が「改革の具体的な検討を進めていくための、いわばエンジン部隊」との位置づけを表明するなど、まずまずのスタートである。

当面の方針として、今年の夏頃までに自立支援法を「廃止」した後の制度の骨格を示すこと、障害者の差別を禁じた障害者権利条約を批准するための法整備を目指すことなどが明らかになった。具体的には、障害者基本法を抜本改正すること、自立支援法を廃止して「障がい者総合福祉法(仮称)」に改正・改題すること、障害を理由とする差別などの禁止を定めた法制度を検討することの3点である。また、障害者の教育や雇用などについても議論していくことになった。

内閣府参与の東俊裕室長(事務局トップ)が提示した論点は、障害者制度の基本的な在り方、差別の禁止、虐待の防止、教育、情報の入手・利用、地域社会での自立した生活、保健医療など100項目近く。議論すれば簡単に解決策がみつかるものばかりではない。論点のなかには、いくら議論を重ねたとしても出口が見つからないものも、多様な障害当事者の全てから同意が得られるような解決策が見つからないものもあるだろう。当面5年間とされる改革の集中期間は、あっという間に過ぎ去ってしまいそうである。
論点として、すべてを洗い出すことは大事なことである。網羅性を確保できるし、これだけの課題が山積しているとアピールできる。しかし、重要度と優先度が高いもの、具体策を講じられるものなどの基準を設けて絞り込まないと、議論を繰り返すばかりで何も決められない、貴重な時間が過ぎ去り、実際に困っている障害当事者に必要な支援を届けることができない(遅れる)ということになってしまいかねない。かといって、対症療法的・パッチワーク的な対策では、推進会議で議論する意味がない。(おそらく、このようなことをわかってのうえでの約100の論点の提示だと思うが)現実的なアジェンダのセッティングをお願いしたい。

山井政務官(厚生労働省)からは、自立支援法の違憲訴訟を巡って7日に原告団・弁護団と基本合意に至ったことの報告があった。具体的には、住民税非課税世帯には利用者負担をさせないこと、介護保険の優先原則を廃止すること、実費負担を早急に見直すことなどの原告からの要求事項を厚生労働省が検討していくことである。今後は、当事者が参加して十分に議論し、新たな制度に移行するまでの間の措置を講じていく方針も明らかにされた。ただし、今回の内閣府が開催する推進会議などでの議論と、厚生労働省でなされる議論との関係性が十分に整理できているとは思えず、2つの検討結果を合わせ読んで、今後の動きを追いかけなければならなくなるだろう。

「障がい者制度改革推進会議」が初会合-夏めどに基本方針
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-25879.html

なお、推進会議は、月に2回程度のペースで開催される。事務局の資料準備は大変だろうが、これだけの期待が集まっているのだから、頑張っていただきたい。また、傍聴のために内閣府まで行かなくて済むように、会議の模様をインターネットで配信することになった。詳細が判明したら、このブログでも紹介したい。

障がい者制度、改革会議が初会合 障がい者や家族も参加
http://www.asahi.com/politics/update/0112/TKY201001120481.html?ref=goo

行政刷新会議、今年度前半の重点を選定 そのうちの1つが医療・介護

2010年01月13日 09時41分08秒 | 予算・事業仕分け
行政刷新会議が12日に開催され、今年6月までに取り組む規制・制度改正の重点分野として、(1)環境・エネルギー、(2)医療・介護、(3)農業、(4)保育・職業能力開発などの雇用・人材の4分野が選ばれた。今後、4つの分科会が設定され、議論が進められる。
また、事業仕分けの結果が新年度の予算案にどのように反映されたかが報告された。議員からは、「横串の入れ方が不十分」「今回限りで終わっては、同じことの繰り返しになる」などの意見が出された。

事業仕分けの結果が予算案にどのように反映されたのかについては、しっかり見ていく必要がある。このブログで取り上げた経済産業省の「安心ジャパン・プロジェクト」を例に、いかに役人が「面従腹背」でやり過ごそうとしているかをみていきたい。

安心ジャパン・プロジェクトの要求額は、32億円。民間が創意工夫を凝らしているのだから、わざわざ国が手掛ける必要はない、厚生労働省と重なっているなどの意見が出されて「廃止」となっている。経済産業省は、その通りに「廃止」しているが、その代わりに「規制改革の検討に必要なデータ収集・分析、新たな制度構築の検討等のための調査研究事業として20億円を計上」としている。調査研究事業に20億円も必要なのだろうか。しかも、内容は、行政刷新会議が重点的に取り組む4分野のうちの1つと同じである。大いに疑問が残る。
直島大臣には「政治主導」を発揮していただいて、この予算の使い道をしっかり監視してほしい。いつの間にか執行されていて、役にも立たない調査ばかりしている(名目上は)コンソーシアムに億単位のばらまきがなされているようなことにだけはしてほしくない。

平成22年度経済産業省予算案の概要
http://www.meti.go.jp/press/20091225013/20091225013.html

平成22年度経済産業省関連予算案のPR資料(一般会計(製造産業局、商務情報政策局、商務流通G))
医療・介護等関連分野における規制改革・産業創出調査研究事業(P.35)
http://www.meti.go.jp/press/20091225013/20091225013-13.pdf

経済産業省でも厚生労働省に見習って、政策の評価をしてはいかがだろうか。「医療・介護・保育等の分野への民間サービス事業者等の参入を阻害している規制や制度等の見直しを進めるため、大規模データ収集・分析等の調査研究を行う事業を実施」する必要があるとは思えない。そもそも、民間の参入を阻害しているのは何か、それを経済産業省が主導して見直すことができるのか、見直した場合にどれほどの市場が創出されるのかなどについて何も考えることなく、いきなり大規模な調査をするのは、あまりにも無謀。
それでも20億円の予算を投じるとすれば、数十億円~百億円規模(年間)の新規市場を創出できるものと期待したい。1年後に評価して、もしその見通しが立たないということならば、サービス政策課には、類似の事業は手掛けさせないぐらいの厳しいハードルを設定すべきである。

まずは有識者を集めて現状の確認と議論をしっかりし、簡単なプレ調査をして仮説を検証する。その上で本格的な大規模調査をするという現実的な進め方に転換してほしい。20億円の予算を「民間事業者等」に渡し(コメントでいただいた癒着が疑われるような怪しげな会社とは契約しないように!)、そこを通して全国数ヶ所のコンソーシアムに再委託(=ばらまき)。1年後に報告書が上がってくるので、それをホームページに掲載しておしまいにするという、仕分けられてしまった某案件のような進め方は撤回してほしい。

このブログ(制度改正Watchは、始めたばかりのとても小さいブログだが、ようやくGoogleサジェストの検索キーワードに登場するまでになった。閲覧いただいている方々には感謝したい)を使って、この案件をしっかり「監視」していきたい。国民は、調査研究に20億円を注ぎ込むことには納得しないだろうし、実施を望まないだろう。
これ以外にも「廃止」したはずの交付金を名目をかえて継続しているなどと報じられている。事業仕分けの結果を監視する第三者機関を設置しないと、巻き返しを許し、派手なだけの「パフォーマンス」になってしまう。ぜひとも検討していただきたい。

厚生労働省、新事業・制度改正を外部評価する仕組みを導入

2010年01月12日 10時05分35秒 | その他
日経ネットが、2010年夏に、厚生労働省が実施した新事業や制度改正を外部の視点から評価する仕組みを導入する、と報じている。
詳しくは、以下のURLをご覧いただきたい。

新事業・制度改正、外部に評価組織 厚労省
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20100111AT3S0600K10012010.html

省内に有識者で構成する外部評価組織を立ち上げること、評価組織は、事業や制度の実態把握を通じて、無駄がないか、制度が有効に機能しているかなどを評価し、効果がないと判断した場合には、廃止や見直しに踏み切るとのこと。きちんと運用されていること=アウトプットに加えて、運用することで所期の効果が上がっていること=アウトカムを確認し、評価することは、とても良いことだし、外部の目をきちんと入れることも大事なことである。また、その結果を事業の継続など=翌年度のインプットに反映する「フィードバックループ」をつくることが、外部評価組織の第1のポイントである。

子ども手当を例にすると、何人に支給したのかがアウトプット。子育て世帯の経済的な負担をどれほど軽減できたのか、子育てへの不安は解消されたのか、出生率の引き上げにどれほど寄与したのかがアウトカム。インプットが子ども手当の支給に必要な予算(事務経費を含む)。評価すべきはアウトカム=成果で、子ども手当の支給を始めるまでに、何を、いつまでに、どのレベルまで引き上げるのかをコミットすべきである。なお、子ども手当の成果を誰にでもわかるように評価するために、できるだけ定量的かつ客観的に把握すべきである。また、インプット=経費と比較して、そのアウトプット=成果を得るために最適な方法だったのかを評価すべきである(コストパフォーマンス=投資効果)。
なお、子育ての不安は、多くの領域に渡るものであり、手当により解消できる不安は、その一部である。アウトカムに「安心して子育てできる社会(子育て中の世帯にアンケートし、定量化する)」や「合計特殊出生率」を持ってくると、子ども手当がどれほど寄与したのかわからなくなる(言ったもの勝ちになってしまう)。政策目標から具体的なサブ目標に展開し、それをどのように実現し、評価するのかを考え、新事業や制度改正の前後で所期の効果が上がっているか否かを確かめる。このような考え方が自然にできる委員を招聘していただきたい。


このブログでは、公知の情報から、厚生労働省や経済産業省などが実施しようとしている事業や制度改正に対する意見を書いてきた。自立支援法や後期高齢者医療制度の「廃止」の検討は、これから本格化する。このブログにとって、これまでの3ヶ月少々は「助走期間」のようなもの。これからも、しっかり評価し、意見を書いていきたい。
長妻大臣および厚生労働省には、有識者からなる外部評価組織に加えて、このブログのようなインターネット上の評価も合わせて活用していただければと思う。

なお、厚生労働省の役人に、省の意図を汲み取ることに長けた「御用学者」で外部評価組織を固められたら、この仕組みの意味がない。外部評価組織の人選が第2のポイントである。長妻大臣が人選に責任を持ち、厚生労働省にとって都合のよい人選(省の制度・政策に批判的でなく、コントロールしやすい人ばかり)になっていないか、外部から意見をきいて確認する必要があるだろう。