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自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

京極氏の論文無断引用が発覚、業界に動揺が広がる

2010年01月08日 09時52分23秒 | その他
社会福祉の権威で、多くの審議会や委員会の座長や委員を歴任されている京極高宣氏(現在は、国立社会保障・人口問題研究所所長)が、論文の盗用や使いまわしをしていたと朝日新聞がスクープした。

国立研究所長が論文盗用、使い回しも 社会福祉の権威
http://www.asahi.com/national/update/0107/TKY201001060438.html?ref=goo

国立研究所長が論文を無断引用 厚生省時代に社会福祉分野
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/nation/CO2010010701000426.html

中央法規出版から2003年に出版した著作集(全10巻)のうち、第6巻に収録された「海外の社会福祉」。社会福祉・医療事業団(WAM)の広報紙に連載した内容をまとめたもので、フランスの社会福祉政策について論じた部分の約7割が、国会図書館の調査員の論文「フランスにおける社会福祉の法制と行政組織」から引き写されており、他の4カ国分の論文も内容を参考にしたとのこと。また、その内容を、1987年と1992年の2回にわたって、別の研究事業の報告書として提出していたことが明らかになった。

論文無断引用の国立研究所長「盗用ではない」
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/nation/20100107-567-OYT1T01194.html

京極氏は、厚生労働省で開かれた記者会見で「結果的に無断引用になったが、自分の視点で書き直しており、盗用ではない」「当時は報告書が未公開だったので、あえて引用元を明示しなくてもいいと上司に言われた」などと釈明しているが、社会的信頼の失墜は免れないだろう。
信頼の失墜は、京極氏に限らない。最近では、介護保険制度を始めとする多くの政策の立案に関わられているし、社会福祉学の学問としての創成期から長きに渡って研究領域をリードされてきたことからも、社会福祉研究の土台を揺るがしかねないスクープといえる。

税制と社会保障の一体的な改革は、今からの数年でグランドデザインが描かれ、着実に進められる。「国民の生命、生活を守る」ための政策を論ずるにあたっては、社会福祉学から大きな声を上げていく必要がある。権威と称されてきた京極氏の事件をきっかけに、何がどう変わるのか注視していきたい。

社会福祉学の研究者は、研究者倫理に反することをしていても気づかない(現場を知っていれば、教授になれるから)などと思われがち。実際には、そのような研究者は一部かもしれないが、相対的にみて「甘い」ことも確か。今回の事件を研究領域全体の問題として捉え、いかに信頼回復を図っていくかを関連する学会や研究者一人ひとりが考えるべきだろう。
また、これだけ社会福祉学の研究成果が望まれている時代なのだから、「空白期間」をつくらないようにしなければならないし、社会に発する声が小さくならないようにしなければならない。「次の世代」や「次の次の世代」へのバトンタッチを急ぎ、現在の社会福祉学的な問題に対応するためにも、学問としての建て直しが必要になるだろう。