制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

「貧困ビジネス」大手、数年間で3億円の報酬 法改正による規制強化が急がれる

2009年12月30日 13時17分40秒 | ベーシックインカム
 生活保護の受給者を「食いもの」にする悪徳な事業者による「貧困ビジネス」に注目が集まっている。
 「貧困ビジネス」とは、ホームレスなどに住まいや食事を提供する代わりに生活保護費から高額な料金を請求する「ビジネス」のことで、今月の16日に大阪市が調査結果を明らかにしたことから、実態が明るみになってきた。
 大阪市によると、「月12万円の生活保護費から家賃や弁当代、諸経費として10万円を徴収。手元に残るのは2万円」「住宅扶助の4万2千円と同額の家賃を一律に徴収。実際の家賃は2万円少々と、4万2千円を下回ることもある」「弁当代名目で月に3万円、手続き代行などの名目で月に5万円」といったケースが明らかになり、これでは生活保護受給者の自立につながらない、月に2万円では生活保護から抜け出せないなどと「貧困ビジネス」の広がりには大きな問題があると指摘している。
 しかしながら、生活保護受給者(ホームレス)と不動産管理業者(悪徳な「貧困ビジネス」業者)との「民と民の契約」であり、現行法では、生活保護費を支給した後のことまで行政がこと細かに立ち入ることはできない。とはいえ、現に、生活保護受給者の自立を阻害している(生活保護費は上がる一方)のだから、民と民のことだからと放置しておくこともできない。

生活保護費12万円から10万円徴収 貧困ビジネス調査
http://www.asahi.com/national/update/1217/OSK200912160128.html

 「貧困ビジネス」に注目が集まるなか、関東圏と愛知県で「貧困ビジネス」を展開する、「業界2位」のFISが名古屋国税局から告発された。入所者1人あたり月々9万円を家賃や食費として徴収。年間の「売り上げ」は、約20億円にのぼるという。経営者と幹部2人の3人は、2007年までの数年間で約5億円の所得を得ていたこと、経営者は約3億円、幹部2人は約1億円の所得を申告せずに脱税したとされている。
 なお、FISは、社会福祉法の「第二種社会福祉事業」を行うとして届出がなされている。これだけの巨額の利益を上げていることが明らかになったことから、事業の認可の取り消しにつながる可能性がある。大阪市の実態調査の結果を受けて、大阪府が調査と指導にあたるべきだろう。「貧困ビジネス」の業者は、確かにホームレスに住まいや食事を提供しているという側面もある。しかしながら、ホームレスから搾取して大きな利益を上げる「ビジネス」としての側面もある。「ビジネス」の側面の強い悪徳業者を野放しにしておくと、ホームレスの支援に頑張っている多くの人たちも同じように見られてしまう。大阪府は、大阪市の実態調査を受けて早急に動くべきだし、法改正が必要ならば、厚生労働省は、早急に手をつけるべきである。

「貧困ビジネス」大手、脱税容疑2億円 国税告発へ
http://www.asahi.com/national/update/1228/TKY200912280466.html

社会福祉法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S26/S26HO045.html

第二種社会福祉事業に関しては、第二条の3。社会福祉事業については、第七章を参照のこと。
都道府県知事は、第七十条に基づいてFISを調査し、改善命令や許可の取消し等を行うことができる。


※年末年始の期間中は、更新をお休みします。

社会保障調査で「食料が買えないことがあった」が15.6%、暮らし向き悪化

2009年12月25日 09時53分55秒 | ベーシックインカム
国立社会保障・人口問題研究所が2007年に実施した「社会保障調査」の結果が明らかになった。調査結果は、以下のURLから探せるので、参照していただきたい。

国立社会保障・人口問題研究所(更新履歴)
http://www.ipss.go.jp/site-ad/updated/j/whatsnew.html

社会保障実態調査のページ(調査の概要)
http://www.ipss.go.jp/ss-seikatsu/j/jittai2007/gaiyou.html

調査は、2007年7月に実施され、1万7466人から回答が得られた。「過去1年間にお金が足りなくて家族が必要とする食料が買えないことがあったか」との問いに、よくあったが2.5%、ときどきあったが4.5%、まれにあったが8.6%の合計15.6%。「7人に1人」が食料が買えない経験をしていることが明らかになった。このブログでも取り上げているが、母子家庭など「ひとり親世帯」に限って算出すると、38.4%と倍以上に跳ね上がる。「衣服が買えないことがあったか」との問いには20.5%、ひとり親世帯では46.8%と「5人に1人」や「2人に1人」となる。病気になっても医療機関に行かない人も多く、11.5%に達している。自己負担が高くて払えない、医療保険に未加入だからなど、病院に「行きたくても行けない」実態が明らかになった。

15%の世帯、食費足りぬ経験=「10年で暮らし悪化」3割-厚労省
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/nation/jiji-091224X230.html

また、生活水準を聞いたところ、37.3%が大変苦しい、やや苦しいと回答。10年間で暮らし向きがどのように変化したのかを聞いたところ、31.5%が悪化と回答。よくなったの12.4%を上回っている。


内閣府が公表した「高齢者の生活実態に関する調査」も同じような結果となっている。高齢者3398人に現在の暮らし向きを聞いたところ、「4人に1人」の26.4%が苦しい、ひとり暮らしに限って算出すると32.3%と「3人に1人」が苦しいと回答している。また、大変苦しいと答えた人に「必要な衣類が買えないことがあったか」ときいたところ、19.3%がある、「食料が買えないことがあったか」には15.6%があると答えている。
また、「病気など困ったときに頼ることができる人がいるか」にいないと答えた人は、全体の3.3%だったが、ひとり暮らし世帯に限って算出すると、男性が24.4%、女性が9.3%と大きく上回る。なかでも「ひとり人暮らしの高齢者(男性)」に社会的に孤立している人が多いことが明らかになった。

独居老人男性の24%孤立際立つ 内閣府調査
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/politics/m20091223026.html

高齢者の4人に1人「暮らし向き苦しい」 内閣府調査
http://www.asahi.com/national/update/1223/TKY200912230104.html?ref=goo


これらの数値は、厚生労働省が公開した相対的貧困率の数値15.7%とほぼ一致する。3つの調査は別のことを聞いており、結果を単純に比較して評価できるものではないが、国民の「7人に1人」が生活に困窮した経験があり、ひとり暮らしやひとり親などの社会的に弱い立場にある人たちにおいては「3~4人に1人」が経験している。生活の苦しさが統計的にも裏付けられたこれらの結果からは、もはや、個人の責任に帰することはできない水準であり、社会的に弱い立場にある人たちを支える何らかの仕組みが必要だとわかる。

子ども手当の財源問題、生活保護の母子加算などの事項要求問題など、まとめて調整中

2009年12月24日 09時54分43秒 | 子ども手当・子育て
税制改正大綱の閣議決定を受け、次年度予算の編成に必要な積み残しの問題についての大臣間の調整が続いている。
これまでは、各大臣の足並みが揃っているとはいえないような状況で、「政治主導」でものごとが決められているようには思えなかった。1日でこれだけ決められるのだから、ある程度の論点出しが終わった時点で「関係閣僚が集まって、どうするか決める場」を設ければよかったのではないかとも思える。逆にいえば、何をするにも財源の裏づけが必要となり、そこが決まらないと何も決められないということなのだろう。

子ども手当の財源確保の問題についても、暫定的に「児童手当を存続させる」ことで、総務省や地方自治体の反発を抑え込もうとしている。現行法が形式的であれ残り、その部分についての負担と位置づけられたのだから「財政負担を拒否」や「支給事務を拒否」という声を上げづらくなる。また、同時に、地方交付税を1.1兆円増の16兆9千億円として地方自治体にも「配慮」して、マニフェストの目玉政策の実現に向けての環境を整えようとしている。

地方交付税は16・9兆円 09年度より1・1兆円増
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/politics/CO2009122301000377.html

長妻大臣と原口大臣の合意内容は、児童手当を1年間に限り存続させ、この額に子ども手当を上乗せして支給額を1万3千円にする。児童手当に相当する分については、地方自治体と事業主の負担割合をそのままとするというもの。1年間の暫定措置としての合意であり、2011年度から必要となる財源の確保については、今後の検討(先送り)となった。

地方と事業主も負担=子ども手当、10年度は1万3000円-政府
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/business/jiji-091223X124.html

児童手当の上にかぶせることになった子ども手当法案を厚生労働省にて検討(これまで用意していた法案を修正)し、次期通常国会に提出する。法案成立を経て、2010年4月から6月にかけて支給が始まる。参議院選挙に何とか間に合わせることができたと、ほっとしているだろう。
また、事項要求に留めていたことについても、藤井大臣・長妻大臣の話し合いで次々と決まった。今日は、記事へのリンクを並べるに留めたい。なお、高校の授業料無償化の実現方法も子ども手当と同様。都道府県が実施中の低所得層の減免をそのまま残し、不足分を国が予算化するというもの。都道府県は国に全額負担するよう求めるだろうから、2011年度からどうするかは、今後の検討となるだろう。

父子家庭にも児童扶養手当 予算折衝で合意、来年度から
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/politics/CO2009122301000291.html

診療報酬、10年ぶりプラス改定 薬価は引き下げへ
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2009122302260.html

低所得障害者の利用は無料=父子家庭にも児童扶養手当
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091223-00000092-jij-pol

<高校授業料>私立は年収別で助成 公立徴収せず 文科相
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091223-00000055-mai-pol

協会けんぽ救済に組合から900億円=保険料率は9.3%に圧縮-財務、厚労両省
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091223-00000088-jij-pol

児童扶養手当、父子家庭に拡大 生活保護の母子加算継続
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20091223AT3S2300R23122009.html

税制改正大綱を閣議決定、納税者番号制度が重要テーマに

2009年12月23日 10時02分00秒 | ベーシックインカム
民主党の重点要望を受けて、最後の最後まで調整が続いた税制改正大綱がようやく閣議決定された。
大綱には、扶養控除の一部廃止や特定扶養控除の圧縮など、このブログで取り上げてきたことが盛り込まれ、ようやく「控除から手当へ」の基本的な考え方を実現することができた。ガソリン税の暫定税率廃止の取りやめや1本あたり3.5円のたばこ税の増税(販売価格では1本あたり5円)など、結果的に増税となったが、これで次年度予算の編成に目処が立ったのではないかと思われる。

「家計支援」の公約後退 税制改正大綱を閣議決定
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/business/CO2009122201000569.html

藤井大臣が閣議決定後の記者会見で、今後の税制調査会の重要なテーマの一つとしに納税者番号をあげ、納税の管理だけでなく社会保障の給付から落ちた人を救うことにも利用できる、低所得者などを所得税の減税と給付金を組み合わせて支援する「給付金付き税額控除」を行うためにも必要と述べた。

来年度税制改正大綱を閣議決定―政府
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-25714.html

今後4年間の消費税引き上げはないが、財政状況がこれだけ逼迫してくると、消費税を目的税化したうえで、社会保障の財源にあてるために税率を引き上げることは避けられないだろう。問題になりそうなのは、生活に必要なものにまで高い税率の消費税をかけると、低所得層ほど税負担(収入に対する税の割合)が重くなってしまう。社会保障を充実させるために消費税率を引き上げた結果、給付の対象となる人たちの税負担が重くなるようでは何のための税率引き上げかわからなくなってしまう、ということである。
消費税の逆進性を解消するための仕組みには、次の2つがある。ヨーロッパ諸国の仕組みは、食料品など生活に必要なものの税率を軽減することである。この仕組みには、軽減するものとしないものの線引きが難しいこと、事業者の事務負担が重くなること、逆進性の解消にそれほどつながらないことなどの問題があるとされている。もう一つのカナダなどの仕組みは、低所得層に消費税相当分を還付(給付)することである。家計調査などから生活に必要なものにかかる消費税を計算し、その額を所得税から控除する。所得税額が控除額よりも低い低所得層には差額を給付するという「給付付き税額控除」の仕組みそのものである。この仕組みにおいては、国民一人ひとりの所得額を正しく把握する必要があり、かつ事務負担が重くなりすぎないようにしなければならない=納税者番号制度が必要になるという問題がある。

これまでの報道を合わせて読むと、納税者番号の導入で所得を把握できるようになれば、子ども手当などに所得制限を設けることもできるし、逆進性を解消しつつ消費税率を引き上げることもできる。給付付き税額控除の水準を引き上げて生活保護をはじめとする福祉制度を取り込み、一部機能を代替させることもできる。民主党は、このように考えているのではないだろうか。

社説 納税者番号 問題点の洗い出しから(12月21日)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/206508.html

納税者番号14年に 税制大綱、消費増税4年間凍結
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20091216AT3S1503115122009.html

日経新聞の報道によると、2011年度中に納税者番号制度に関する法律を整備、14年1月からの運用開始を目指すとのこと。消費税率の据え置きは「今後4年間」とされている。その期間が明けると同時に「給付付き税額控除」が始まることになるだろう。

子ども手当、「所得制限なし」で決着 後は財源の確保

2009年12月22日 10時08分33秒 | 子ども手当・子育て
21日、鳩山首相が、子どもは「社会全体で育てはぐくんでいくもの」と考え、「所得制限は、基本的に設けない」という方針を出し、ここ数日の議論に決着をつけた。右往左往した感はあるが、これからは財源確保のための調整。国債発行額に44億円のキャップがかかっているのだから、どこかから捻出しなければならない。長妻大臣は、所得制限を設けるべきでないと主張し続けたのだから、厚生労働省から何とか財源を捻出しないと他省庁からの協力を得られないだろう。こちらも「政治主導」で決着をつけてほしい。

子ども手当の所得制限なし、タバコは増税 首相が表明
http://www.asahi.com/politics/update/1221/TKY200912210330.html?ref=goo

子ども手当の財源、地方・企業も負担で調整 鳩山内閣
http://www.asahi.com/politics/update/1222/TKY200912210453.html?ref=goo

たばこ、1本5円増税の方針 1箱100円値上げ見通し
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2009122104400.html

このブログでも書いたが、民主党が所得制限を設けるように求めたことから、800万円から2000万円まで様々な基準額と意見が出された。しかし、結局のところ、所得を正しく把握することが難しく、把握しようとすると事務経費がかさむことから見送られることになったようである。管副総理が所得の把握のためには納税者番号の導入が不可欠と述べていたことが思い出される。藤井大臣が納税者番号の導入時期について「4年間の任期の後半の仕事」と述べていたが、検討が加速する可能性も出てきた。
また、読売新聞社の調査結果では、子育て世代の30歳代で所得制限を設けるべきが75%、全体でも72%と多数を占めている(反対は22%)。高所得層にも配るのか、バラマキではないかとの批判に対しては、自治体に寄付する制度を設けるとしているが、定額給付金のように申請しないようにするだけでも十分かと思う(定額給付金は、先日、予算の1%にあたる190億円が国庫に返納された)。国庫に返納されると、どう使われるかわからない。それならば、自治体に寄付するという積極的な行動を選択することで、自分の住む地域の子育て環境の充実などに使うことができる。自治体は、子ども手当を寄付することの意義を積極的にアピールすべきだろう。

子ども手当に所得制限「賛成」72%…読売調査
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091219-567-OYT1T01242.html


電通が子ども手当が支給されることになる世帯の500人にインターネットを使って調査したところ、子ども手当の使途は「将来のための貯金(6636円)」「子どもの塾や通信教育など(1485円)」「通園料・授業料の補填(1429円)」となった。1万3千円の半分ほどが貯蓄にまわることになり、経済効果としてはそれほど大きくならないことが明らかになった。

経済波及効果は2.4兆円=子ども手当、半分が貯蓄に-電通調査
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/business/jiji-091221X766.html

子ども手当は、景気対策・経済対策を目的とするものではない。貯蓄にまわった分が、将来、子どものために使われるならば、それでもよいかと思う。生活費にまわってしまうかもしれないが、各家庭のお金の使い方にまで国が口を出すこともないだろう(子ども手当法の目的には、しっかり書き込まれると思うが)。

第2回ナショナルミニマム研究会が開催される ~配布資料のURLはこちら

2009年12月21日 09時58分17秒 | ベーシックインカム
議事が非公開のため、マスコミに取り上げられていないが、11日の第1回に続き、16日に第2回の会合が開催された。時間は1時間、場所は大臣室で、そもそも「貧困」とは何か、「ナショナルミニマム」とは何かを長妻大臣にレクチャーする場になっているようである。
配布資料は、以下のURLで公開されているので、ご覧いただきたい。

第1回ナショナルミニマム研究会
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/12/s1211-11.html

第2回ナショナルミニマム研究会
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000378g.html

厚生労働省の仕事の仕方への批判が強まっている。なかには、「長妻大臣からの指示がない限り、情報を入れない(どこで何をしているのか報告していないので、指示はない)」「指示がないから、何をやってもよい(ただし、睨まれないように目立たないことを心がける)」という姿勢で政策を進めようとしている役人もいるとかいないとか。

厚労省に葬られた民主党マニフェスト
http://www.jiji.com/jc/v?p=foresight_1701&rel=y&g=phl

それならば、1時間ずつでもよいから民間の有識者が集まって大臣と意見交換し、基本的な知識と情報を得られるようにする。その場で基本的な考え方を整理した上で、制度・政策の具体化を役人に指示するという「大臣室主導」の流れをつくりだしたほうがよい。このような研究会をテーマ別に次から次へ立ち上げてはどうだろうか(大臣は大変になるが、これこそ、民間の知恵を活用し、政治主導で動かすための仕組みになる)。

第2回研究会の配布資料からの推測になるが、生活保護制度のあり方に留まらず、貧困やナショナルミニマムの基本的な概念について話し合っていると思われる。大学・大学院の講義資料のようだが、改めて勉強になる。なかでも「非金銭的な貧困指標(資料3)」は良い資料である。所得や消費によって貧困か否かを判断することについての問題点を指摘し、「相対的剥奪」の概念を紹介している。また、必要最低限の生活に絶対に必要な項目(例えば、病気になったときに医者にいくことができる)をあげて、必要性を社会的に合意できるだろうかという議論を展開している。その結果、相対的剥奪=貧困に陥ることが多い人たちは、低所得の人たちに留まらず、20歳代の若者、70歳以上の高齢者、配偶者がいない人たち、単身世帯の人たちなど広範囲に渡るとしている。つまり、所得が一定以下だから貧困で、それ以上だから貧困ではないとは単純に割り切れない(有力な1つの指標であるけれども)と理解すればよいのだろうか。

最後に参考資料として「社会的排除」の考え方も紹介している。ブレア政権下では、さかんに取り上げられた概念だが、最近はどうなのだろうか(ヨーロッパ諸国の基本的な考え方として定着したようにも思える)。

研究会といいつつ、大臣へのレクチャー的な会かもしれないが、とてもおもしろい内容である。第3回研究会に期待するとともに、日本社会における具体的な制度・政策に落とすための研究会も並行して立ち上げてほしくなってきた。厚生労働省の役人も、民間の有識者に負けないように、しっかり勉強して提案すべきである(結局のところ、民間の有識者に頼ることになるのは同じだけれども)。
大臣からの信頼が得られないようでは、おしまいである(逆もまた真だが)。自民党政権のように数ヶ月で交代してしまう大臣ではないと思って「公僕」らしく尽くすべきだろう。

10年後には単身世帯の割合がトップに、高齢世帯の割合は3割超に

2009年12月20日 09時58分57秒 | 高齢者医療・介護
国立社会保障・人口問題研究所が取りまとめている日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)で、10年後の2020年には、単身世帯の割合が全都道府県でトップ(約1733万世帯で全世帯の34.4%。2030年には37.4%に達する)になり、世帯主が65歳以上の「高齢世帯」の割合が3割を超えることが明らかになった。高齢世帯は増加を続け、2030年には約4割。また、高齢世帯のうち、ひとり暮らしの世帯が21の道府県で15%以上、夫婦のみの世帯が10%以上(合わせて25%超)を占めることも明らかになった。

厚労省の「将来推計」 単身世帯がトップに 平成32年、非婚化進行が影響
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/m20091219034.html

高齢者の一人暮らし15%以上に=2030年に21道府県-厚労省推計
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/nation/jiji-091218X393.html

世帯主が75歳以上の「ひとり暮らしと夫婦のみの世帯」は、2025年には10%を超え、2030年には、鹿児島県や宮崎県など5県で20%を超える。75歳というと、医療や介護のサービスを必要とする人が増える年代である。地域によっては、世帯の2~3割が何らかのサービスを利用しないと、日々の生活を安心しておくることが難しくなると考えられる。世帯の小規模化(2030年には、1世帯あたり2.27人となる)も進むために、子どもが生活を支えることは現実的でなくなる。
晩婚・非婚化で未婚率が上昇して世帯の規模が小さくなることに加え、人口の減少に伴って、世帯数の伸びも鈍化する。関東地方ではしばらくは世帯数は増加を続けるが、若い世代が働きに出てしまう地方では既に世帯数の減少が始まっている。地理的に離れてしまっては、親の生活を子どもが支えるにも限界がある。子どもの世帯も余裕はない。夫婦で働かなければ、暮らしていけない時代になっている。

これから先、「結婚せずに働き続け、単身世帯のまま高齢者の仲間入りをする」ことも珍しいことではなくなる。地域社会とのつながりも薄い。「高齢者の問題は、家族で何とかする問題。何ともならなくなれば地域で引き受ける問題」とは言っていられない。家族の支え、地域社会の支えは、今日でも期待できなくなっている。
それでは行政サービスに頼ることはできるだろうか。ここ20年ほど「行政はスリム化が必要」「職員を減らせ」と叩き続けているのだから、いざというときに動ける職員はいないだろう。行政サービスとして提供するには、それなりの財源が必要になるが、日本全体が高齢化していくのだから、その頃には「経済大国」ではなくなっている。財源の捻出は、ますます苦しくなるし、行政サービスに従事する若者はいなくなっている。このようにまっとうに考えると、打ち手がない、悲惨な未来が待っている。だからといって、諦めてよいのだろうか。

これは、遠い未来の話ではない。10年後、20年後に確実に訪れることである。安心して暮らせるような社会サービスをいかに提供するかを今から考えていかなければならない。何か新しいことを始め、全国の地域で定着するまで育てるには、10年では足りない。深刻な社会問題として浮上する10年後から考えて始めていては遅い。将来を見据えて今からできることは何かを探すべきである。

社会の「効率性」を優先すれば、地域に点在する高齢世帯を中心部に集めて、限られた社会資源を有効に活用する「コンパクトシティ構想」が有望に思える。しかしながら、住み慣れた地域を離れて、ゼロから人間関係をつくりなおさなければならない「移住者」にとって、この提案は魅力的とはいえない。充実した医療や介護のサービスは利用できるし、少し歩けば何でも揃っているスーパーがあるという生活の一部を切り出せば魅力的だが、近くに誰も知りあいがいない、気軽に相談できる人もいない、することもない... では、移り住もうとは思わないだろう。現役世代とは違うと考えるべきである。
今日のわれわれにとっては想像できない社会が到来するかもしれない。東北地方の一部などの「人口構成・世帯構成では、20年後の社会を先取りしている」といえる地域をしっかり調査し、全国に展開できるように類型化・汎用化し、解決方法を導き出す必要があるだろう。

子ども手当の所得制限 年収2000万円 ほとんど意味なし?

2009年12月19日 10時10分04秒 | 子ども手当・子育て
政府・与党で、子ども手当の所得制限額の調整が続いている。これまでの所得制限を設けない方針からの転換は「規定路線」かのようである。

「年収2000万円」浮上=子ども手当の所得制限
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-091218X284.html

もっとも有力な案が「2000万円」である。年収2000万円となると、子ども全体の0.1%程度。これでは、所得制限をかけていないようなものであり、削減できる額も20~30億円程度。所得把握の経費が必要となるため、トータルの予算額は、所得制限なしの場合を上回ることになると思われる。これでは、「鳩山由紀夫首相のお孫さんに差し上げるのが適当か」が発端であるかのようである。
昨日のブログに書いたが、児童手当の事務と同じことを子どもがいる世帯すべてに対して実施すると、大変なことになる。原口総務大臣は、さっそくと「イニシャルコストやシステムのコストまで入れると大きい。1.5倍かかるという話もある」と述べ、厚生労働省が補正予算に計上しているとされる(所得制限なしで見積もった)約120億円では足りない、もっと積み増さないと足りないとの考えを示している。どう考えても、捻出した額を上回ってしまう。
年収2000万円というと、東京都港区のような高所得層が多く住む一部の地域を除いて、いちいち確認しなくてもよい水準である。住民税のITシステムから取り込んだ年収の確認に留めるなど事務の簡素化をはかり、「性善説」的に支給するほうがトータルの予算額を抑えられるかもしれない。性善説で組み立てておいて、もし不正が見つかれば、支給額の何倍ものペナルティを課せばよい。年収2000万円を上回る世帯なのだから、それぐらいのことをしても大丈夫だろう。

子ども手当所得制限「事務経費に配慮を」 原口総務相
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091218-00000551-san-pol

その一方で、児童手当並みの「800~860万円」との案も出されている。民主党の重点要望は、次年度予算を圧縮するために出された「助け舟」であり、それに乗るべきとの考えである。この額でも、小学校卒業までの全児童の約9割に支給できるし、削減できる額も2000億円を超える。しかし、支給対象にならない約1割は、扶養控除の廃止に伴って負担増となる。子ども手当は、児童手当の名称を替えて支給額を増やしたものに過ぎず、中・高所得層にとっては負担が増えるようなものだったのかとの失望が広がるだろう。これではマニフェストからの後退感はぬぐえず、来年の参議院選挙に支障が出るとの反対意見が強い(民主党は、これを覚悟の上で重点要望のトップに持ってきたにも関わらず、政府=鳩山首相と長妻大臣が理解していないとの不満があるらしい)。

子ども手当 所得制限、年収2000万で調整 首相、公約実施固執せず
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091218-00000071-san-pol

そもそも、これだけ迷走しているのは、厚生労働省の予算規模が膨れ上がっていて、他省ではできている圧縮に失敗しているからである。「政治主導」を標榜するなら、長妻大臣は、無理を承知の上で、全ての予算をさらに一律1割カットすること、カットできない予算は局のなかで調整すること(できないとは言わせない)、確保した財源をマニフェストの実現に充てたうえで予算額の圧縮にまわすことを命じ、すぐに報告を求めるぐらいの覚悟=強権発動が必要だろう。国土交通省にできて、厚生労働省にできないわけがない。
このまま財源確保の決着をつけてしまうと、やりたい放題が止まらない厚生労働省の役人の高笑いが聞こえてきそうである。厚生労働省の予算は無駄だらけ。押しに押せば、いくらでも圧縮できるはず。次年度予算は仕方ないにしても、その次は、民間の知恵をどんどん入れて「官僚主導」を排すべき。長妻大臣には、ピエロで終わってほしくない。

「子ども手当」所得制限で最終調整 参院選対策か 財源捻出か
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091219-00000058-san-pol

民主党の重点要望を受けて、子ども手当と高校無償化の調整が続く

2009年12月18日 09時54分55秒 | 子ども手当・子育て
昨日は、民主党の重点要望のうち、関連するものについてざっと書いた。後からの振り返りのため、このブログで取り上げてきたことを転載しておく。

1 重点要望
(1)子ども手当
 子育ての心配をなくし、社会全体で子育てを応援するため、「子ども手当」は、初年度、子ども1人当たり、月額1万3千円とし、地方には新たな負担増を求めない。所得制限については、その限度額は予算編成にあたり政府与党で調整し決定する。

(2)高校無償化
 みんなに教育のチャンスを与えるため、公立高校生の授業料を無償化し、私立高校生には年額12万円(低所得者世帯は24万円)を助成する。また、所得制限は設けない。

(9)診療報酬の引き上げ
 全国で発生している医療崩壊を防ぐため、地域医療を守る医療機関の診療報酬本体の引き上げが必要である。
 特に、救急医療や不採算医療を担っている大規模・中規模病院の経営環境を改善するため、格段の配慮を求める。また、医療を現場で支えている看護師の待遇、生活の医療である歯科医療についても診療報酬の引き上げが必要である。

(10)介護労働者の待遇改善
 介護の必要な高齢者に良質な介護サービスを提供する必要があり、とりわけ介護労働者の待遇改善が図られるべきである。

(11)障害者自立支援法廃止
 障害者自立支援法の廃止に際して、障害者の負担が増加しないよう配慮すべきである。

http://www.asahi.com/politics/update/1217/TKY200912170004.html?ref=goo


子ども手当に所得制限を設けることに関して、納税者番号がないと市町村の事務負担が重くなり過ぎるとして反対の立場をとってきた管副総理が「不可能ではない」「技術的に可能」と述べたと報じられている。このブログでも書いたとおり、児童手当では、決定に際して所得を把握しているのでできなくはない。申請者が正しい所得を申告してくれたならば、受理して決定するだけで済む。それでは不正受給を防げないので、市町村の職員がきちんと確認しなければならない。技術的に可能かというよりも、市町村のその事務負担をどうするかという問題である。児童手当から子ども手当に切り替えるにあたって要件を緩めて支給者数が増えれば、事務負担も比例して増える。市町村は職員数を減らしており、限られた職員数でどのように運用するか=所得を正しく把握するかという問題が急浮上することになるだろう。市町村に配慮して支給者数を現行並みとすると、児童手当の名称を替えただけになってしまう。不正が増えるのも困る。管副総理の発言を受けて、市町村がどのように動くか、注視していきたい(児童手当の廃止で財政負担は軽くなるが、子ども手当の事務負担が重くなる。どう評価するか?)。

子ども手当の所得制限は可能=菅副総理が前向き姿勢
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091217-00000092-jij-pol

また、子ども手当と同時に廃止になる扶養控除については、年齢と所得を制限して「成年控除」として存続させる方向で調整が進んでいる。このブログでは、障害者を対象とする新たな控除を創設すべきかと書いたが、「○○控除」として創設するには対象者が少なすぎるとの反対があったことから、23~69歳までの「成年控除」を残すことになったようである。

成年控除、課税所得400万円以下は存続 政府税調
http://www.asahi.com/politics/update/1216/TKY200912160452.html?ref=goo


また、高校の無償化の所得制限と特別扶養控除の縮減についても動きがあった。高校の無償化について、民主党の重点要望で所得制限を設けないことが明記されたため、その方向で調整が進むようである。特別扶養控除の縮減についての結論は出ていないが、文部科学省が縮減するとメリットが半分になるとの試算結果を出しているため、何らかの巻き返しがあるかもしれない。

所得制限、見送り強まる=高校無償化で-政府
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-091216X940.html

<高校無償化>特定扶養控除縮減ならメリット半分に 文科省
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091216-00000128-mai-pol

民主党が政府に18項目の重点要望、子ども手当に所得制限か

2009年12月17日 10時06分22秒 | 子ども手当・子育て
16日に民主党の小沢幹事長らが首相官邸を訪れ、18項目の重点要望を申し入れた。
子ども手当は、マニフェストに掲げられているにも関わらず、財源が確保できていないために実現の目処が立っていない。民主党としての申し入れによって事態を打開しようとの狙いか、子ども手当に関しては、所得制限を設けること、地方に新たな負担を求めないこと、所得制限の方法や具体的な数値は政府・与党で調整して決定することなどが盛り込まれている。
子ども手当に所得制限を設けると、現行の児童手当に近くなる。地方の財政負担がなくなったとはいえ、事務の負担はかなり重くなる。さらに、扶養控除を廃止すると、高所得層は結果として「増税」になると思われる。実現の目処が立たないぐらいならば、現実的な解として、利害関係者のバランスをみながら妥協点を探るタイミングなのではないか、そうしないと年内に固められないという「助け船」とも受けとめられる。
「政治主導と言いながら、本当に政治主導じゃないじゃないか」「政治主導でこうした要望について実現するよう最大限の努力をしてもらいたい」などと、「官僚主導」のままの動きを続ける役人を牽制するなど、揺らぎ始めた政権の立て直しも図っているようにも受けとめられる。

予算18項目重点要望、民主が首相に申し入れ
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091216-567-OYT1T01313.html

この申し入れに前後して、鳩山首相が「国民の世論も所得制限があってしかるべきだという思いが強いと思う」と述べるなど、政府・与党間での調整が本格化していると思われる。なお、議論と説明が十分でないと、これまで「所得制限を設けないというのが基本理念だ」や「裕福だとか、裕福ではないという発想ではない」、「マニフェストでは所得制限は付けないという方向で一応決まっている」などのこれまでの発言との整合性を問われるおそれもある。

子ども手当、所得制限を検討=「世論見極め判断」-首相
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/business/jiji-091216X732.html

政府・与党、子ども手当に所得制限で調整
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091216-567-OYT1T00638.html

このブログでも書いたが、子ども手当に所得制限を設けるか否かは、財源を確保できるか否かによって決めるものではない。所得によって差をつける「選別主義」的な考え方に基づく政策にするのか、所得などに関わらず子育て支援に必要=差をつけない「普遍主義」的な考え方に基づく政策にするかという「理念=基本的な考え方」に関わる問題だからである。しかしながら、現実をみると「裕福だとか、裕福ではないという発想ではない」とは言っていられないのも事実だし、普遍主義的な考え方を述べてきた鳩山首相が何もないのに前言を撤回して逆方向に走り始めるわけにはいかない(民主党からの申し入れは、方向を転換する理由として使える)。

長妻大臣は、「わたしとしては所得制限なしで要求しているので、ご理解いただく努力をしたい」「最終的には内閣全体で決すべきことだ」と述べるに留まっている。また、所得制限を設けるにあたっては、申請と相談の窓口となる市町村の事務負担を軽減する方法を考えなければならないとも述べている。

「所得制限なし」へ努力=子ども手当-長妻厚労相
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-091216X908.html

なお、所得制限を設けるか否かで市町村の事務処理を支援するITシステムの仕様が異なる。今回の申し入れのインパクトは大きい。
来年の参議院選挙の前には支給を始めたいとの思惑があることから、法案の提出から成立、施行までの期間がかなり短くなるおそれがある。
支給対象者の抽出から通知まで、申請の受理から手当の支給までの全ての業務は、ITシステムの助けなしにできなくなっている。調整の結果、所得制限の方法が複雑になれば、構築と移行が間に合わなくなるおそれもある。
そのため、制度と事務の詳細を検討するにあたっては、業務に必須の「道具」を提供するITシステム業界にも声をかけ、全国の市町村が対応できるように積極的に情報提供すべきだろう。また、このブログでも書いてきたように、事務負担が重くなるため、経費120億円への上乗せが必要になるだろう。