制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

ライフ・イノベーションの工程表を考える その3

2010年01月06日 09時47分27秒 | 情報化・IT化
昨日に積み残しになった「情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備」について書いていきたい。

このブログで書いてきたように、地域で暮らす高齢者の数は、今後も伸び続ける。
なかでも社会システムとして整備が必要となるのは、都市部である。あと5年後の2015年には、首都圏の高齢者数が1000万人を超える。しかも、高齢者数が急増する市町村の多くがベッドタウンである。人口が3000人の村の高齢化率が10%上がると、300人増。対して、人口が3万人の市の高齢化率が10%上がると、3000人増。30万人の市では、3万人増。300人の高齢者が必要とする医療や介護のサービスを提供することは、それほど難しいことではないが、3万人となると話が違ってくる。人口30万人の都市中心部に、これだけの高齢者を受け入れるための病院や介護施設を今から整備することは、まず不可能である。
つまり、都市部の高齢化率が上がるということは、これだけの大きなインパクトがあるということである。

それでは、どうすればよいか。その唯一の解決策は「在宅」である。何かあれば病院にいく、病状が悪化すれば入院することは、都市部では難しくなるだろう。高齢者が増えれば、病床は足りなくなるし、次から次へと介護施設を建築したとしても、高齢者人口の増加には追いつかない。それならば、「できるだけ長い間、自宅で過ごしていただき、本当に必要な時だけ設備の整った病院を使っていただく。医療や看護が必要な場合は、地域の拠点から自宅にサービスを届けるようにする」ことで、限られた社会資源を有効に活用すればよい。
自宅でも、設備が整った病院や介護施設のようなサービスを利用できるようにするためにはどうすればよいのか。そのための技術が「情報通信技術(ICT,IT)」である。ITネットワークを使って、地域の拠点から見守れるようにすればよいし、自宅にいる高齢者からのアクションをトリガーとして必要なサービスが届けられるようにすればよい。できるだけ地域や自宅に留まってもらうための仕組みは、限られた社会資源を有効に活用することを目的としているが、高齢者にとっても、「医療や介護が必要になれば、誰も知っている人がいない郊外の施設に送り込まれる(現代版の「姥捨て山」)」ぐらいならば、「ぎりぎりまで、住み慣れた地域や自宅で生涯を過ごせる」ほうがよいだろう。

ICT=技術としての「生活支援ツール」の開発と並行して、「地域保健・地域医療・地域福祉」への本格的な移行を後押しする必要があるだろう。これまでの理念としての「地域への移行」では十分でない。地域をベースに活動することが通常の状態で、本当に必要な場合のみ、病院や介護施設を使う(病院や介護施設は、地域の拠点としても機能する)ぐらいのパラダイム転換が必要となる。
そうすれば、地域にある様々な拠点(医療や介護の拠点に加えて、高齢者の社会生活を支える様々なサービスを提供する拠点)と自宅を結ぶITネットワークが活きてくるし、1ヶ所で閉じて提供されていたサービスが地域に分散されることになるから、拠点と拠点を結ぶITネットワークも活きてくる。地域の高齢者などを支えるためのITネットワークが張り巡らされ、情報が飛び交い、必要なサービスが必要なときに利用できるようになる。このようなシステマチックな地域ケアシステムを将来像として描くことができる。

実現に向けての考えられるステップとしては、

1.「在宅」や「生活支援」をキーワードとすることの意味を整理
 ~「地域○○」へのパラダイムへの転換を図る~
2.新たなパラダイムにおける生活支援ツールを検討
 ~生活支援を情報通信技術で支えることの理解を進め、サービス開発を促す~
3.全国どこでも実践できるようなパッケージに整理
 ~モデルケースと運用にあたってのガイドラインを整備し、全国に展開する~

となるだろう。また、昨日のチームケアや地域ケアシステムの構想と連動させる必要があるだろう。例えば、遠隔地からのモニタリングが「安心につながる見守り」から「監視」となっては意味がない。必要なサービスが必要なときに利用でき、複数の事業者から提供される複数のサービスがいかにも連携しているかのように提供するためには、高齢者のセンシティブな個人情報を共有しなければならない。かといって、地域に張り巡らされたITネットワークに個人情報が飛び交い、至るところで共有され、「監視」されているかのような社会は誰も望まないだろう。
「都市部で急増する高齢者の医療をいかに支えるか」から展開してきたが、医療さえ何とかなれば、「住み慣れた地域や自宅で生涯を過ごせる」というものではない。基本は、やはり「利用者本位」の「生活支援」であり、「高齢者の生活をいかに支えるか(そのために必要なサービスの一つが医療)」という立ち位置から外れないように注意しなければならない。こちらも、見当違いなものがでてこないことを祈るのみである。

なお、この検討を進めるにあたってのキーワードは「生活支援」と「情報」になるだろう。福祉でも介護でも、医療でも看護でもないことの意味をしっかり考えるべきである。本質を理解ができるか否かで、成否が決まりそうである。