制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

後期高齢者医療制度への反発の根底には...

2009年09月30日 11時48分07秒 | 高齢者医療・介護
いろいろなことが言われているが、個人単位の保険制度になり「保険料を納めなければならなくなった」ことが反発の根底にあるのではないかと思われる(保険料を納めたくないとはダイレクトに言えないので、遠まわしに)。

市町村国保の保険料は、世帯単位で賦課される。
世帯主には納付の義務があるが、被扶養者には義務はない。保険料は、基本的に、1世帯あたりの平等割、人数に応じた均等割、前年度の所得に応じた所得割(固定資産に応じた資産割が残っている市町村もある)を合算した額となる。後期高齢者医療制度が施行されるまでは、人数に応じた均等割の額のみが高齢者にかかる保険料だった。なお、納めていたのは世帯主である。しかし、明細をみてもよくわからない人も、細かいところまでみようとしない人もいただろう。ゆえに新たに保険料を納めなければならなくなった、と受けとめられた。
あまり気づかれていないが、後期高齢者を扶養していた世帯は、市町村国保の保険料が下がったはずである。もし、後期高齢者医療制度を廃止して元に戻すと、市町村国保の保険料が上がることになる。この経済状況下では、保険料の値上げ(元に戻るだけだが)は相当に苦しい。安易な廃止には、反発が出るだろう。

65歳以上を第1号被保険者とする介護保険制度も個人を単位とした保険制度である。これは、「自分が要支援・要介護になったときに介護サービスを受けられるようにする」ためと考えると、個人を単位とすることに違和感はない。
しかしながら、医療保険制度はどうだろうか。後期高齢者と同じ被扶養者である子どもには、保険料を納めるための所得(収入)がない。養育する義務のある親(世帯主)が代表して納める制度=世帯単位とすることが当然のように思える。このように考えると、所得のない高齢者も同じ扱いにしたほうがよいと思える。

となると、後期高齢者医療制度を廃止して、世帯を単位とする保険制度に戻すことになるのだろうか。

問題は、これらの制度設計がなされた頃と現在では、「世帯」が様変わりしていることである。明治時代から続く戸籍制度を見直してもよいのではないかとの議論が始まっているぐらいなので、「会社で働く世帯主が給料を持って帰り、専業主婦の妻と子ども、同居する老いた親を養う=20世紀の標準的世帯」に代わる「21世紀の標準的世帯」のあり方を考えてから、保険制度を再設計すべきだろう。

医療保険制度の地域単位での再編に向けて

2009年09月29日 20時19分45秒 | 高齢者医療・介護
後期高齢者医療制度を「廃止」すると、被保険者を国民健康保険の被保険者や健保組合などの被扶養者に戻すことになる。
現在、国民健康保険(市町村国保)は、ただでさえ、財政状況が危機的な状況にある。後期高齢者医療制度により、75歳以上の被保険者を「切り離した」にも関わらずである。再び被保険者に戻すとなると、財政状況はさらに悲惨なことになる。
1人あたりの医療費は、高齢になればなるほど高額になる。これは仕方ない。「保険料を上回る医療費を使う人たち(保険制度におけるハイリスク者)」が増えるので、「下回る人たち(単純化すると、現役世代)」が支えるピラミッド構造(三角形)が維持できなくなる。

「高齢者の医療を確保する法律(高齢者医療確保法)」で市町村国保の財政を安定させるための基金などを定め、実質的な広域化・リスクの分散化を進めているが、「ハイリスク者」が増え、ピラミッド構造が崩れているので、広域化によりリスク耐性を高めたとしても「社会保険」として成り立たなくなる。

現実的な解決策として、まず、市町村を単位とする国民健康保険制度の広域化(都道府県を単位とする広域組合)を進める。次に、現役世代の比率が高い健保組合などを都道府県を単位として再編する。最後に、この2つの広域保険者を統合してピラミッド構造に戻す、ことになるだろう。

高齢者医療確保法の構想の中には、この「地域医療保険制度のあるべき姿」の道筋が描かれている。
具体的には、同時に改正された健康保険法・附則の

(地域型健康保険組合)
第三条の二 第二十三条第三項の合併により設立された健康保険組合又は合併後存続する健康保険組合のうち次の要件のいずれにも該当する合併に係るもの(以下この条において「地域型健康保険組合」という。)は、当該合併が行われた日の属する年度及びこれに続く五箇年度に限り、第百六十条第十三項において準用する同条第一項に規定する範囲内において、不均一の一般保険料率を決定することができる。
一 合併前の健康保険組合の設立事業所がいずれも同一都道府県の区域にあること。
二 当該合併が第二十八条第一項に規定する指定健康保険組合、被保険者の数が第十一条第一項又は第二項の政令で定める数に満たなくなった健康保険組合その他事業運営基盤の安定が必要と認められる健康保険組合として厚生労働省令で定めるものを含むこと。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/T11/T11HO070.html

である。この規定を緩めて本格的に運用すれば、地域型健康保険組合(地域型健保)が財政的に立ち行かなくなっている健保組合の受け皿になる。全国健康保険協会(旧・政管健保、通称:協会けんぽ)を都道府県別に分割して地域型健保と一緒にする、職種別の国保組合などや市町村国保の広域連合を統合すると、都道府県を単位とする医療保険制度ができあがる。

医療保険者の自主性に任せていては、この再編には10年から20年はかかるだろう。なぜならば、保険者の利害が一致しないからである。例えば、職種別:医師などが加入する医師国保組合の財政状況はすばらしい。同じ「国保」でも、市町村国保とは天と地ほどの差がある(目立たないように隠しているが...)。

「政治主導」で指導力を発揮し、地域単位での再編を後押しして欲しいものである。

後期高齢者医療制度を「廃止」する?

2009年09月28日 20時19分38秒 | 高齢者医療・介護
今週は、後期高齢者医療制度を「廃止」するとの方針について考えてみたい。
後期高齢者医療制度は、「高齢者の医療の確保に関する法律」の第四章、第四十七条から第百三十八条により規定されている。

高齢者の医療を確保に関する法律(旧・老人保健法)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S57/S57HO080.html

この第四章を改正・改題前の条文に戻すと、施行前の老人保健制度に戻すことができる(実際には、他の章や法律にも手を入れなければならない)。75歳以上の多くは「現役世代」でない。国民健康保険法の適用除外の八を削除することで、国民健康保険の被保険者になる。

(適用除外)
第六条  前条の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する者は、市町村が行う国民健康保険の被保険者としない。
(省略)
八 高齢者の医療の確保に関する法律の規定による被保険者

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S33/S33HO192.html

この法律が施行される前まで国民健康保険の被保険者や健保組合などの被扶養者として管理されていたので、市町村や健保組合などのITシステムを元に戻せば対応できるだろう(追加・改修した機能を取り除く手間は必要だが、それほど難しくない)。

ただし、制度を「廃止」して施行前に元に戻すことは、後期高齢者の医療費(人口増に伴う自然増を見越して)をいかに確保するか、ただでさえ危機的な状況にある国民健康保険制度をいかに持続可能にするかなどの難問に再び取り組まなければなければならないことでもある。
「廃止」によって一時的な満足は得られるかもしれない。しかし、2~3年ほど前に戻って再検討しなければならないとなると、かなり憂鬱である。

自立支援法の廃止~新法のあり方 その2

2009年09月27日 10時52分48秒 | 自立支援法・障害
自立支援法では、市町村から障害程度区分の認定を受けてから、サービスの利用に進むことになる。
手帳制度と連動していないため、それぞれの台帳(データ)を突き合わせられない市町村もある。手帳を持っているけれども、自立支援法の福祉・介護サービスを利用していない人もいるし、手帳を持たずにサービスを利用している人もいる。障害があっても、手帳も持っていないし、サービスも利用していない人もいる。制度が縦割りになっているため、地域の障害者の実態を正確に把握できていない市町村も多い。

「社会参加カード(仮称)」を、すべての支援・サービス利用の「パスポート」とすることで、実態の把握は進むだろう。カードの交付時にしっかりとアセスメントできれば、把握したニーズ=事実を根拠に社会資源の整備などを進められるようになる。議会などでの説明にも説得力が増す。
しかし、受けとめ方によっては、「地域で暮らす障害者の登録制度」ではないかとも思える(自分でも偏った見方だと思うが)。正確に把握するメリットとデメリット、曖昧なところを残すメリットとデメリットを比べ、冷静に考えてみたい。

自立支援法の廃止~新法のあり方 その1

2009年09月26日 13時59分39秒 | 自立支援法・障害
ここまでのまとめに代えて、「新法」における利用方法(理想像)を考えてみたい。

「社会参加カード(仮称)」を持っていることが何らかの支援やサービスを利用するにあたっての要件になるとすれば、市町村の窓口にて、どのような「障害」があり、社会参加カードを必要としているのかを申請することになろう(医師の診断書などを添えて)。
新聞記事などで報じられているように、3障害の区別を無くして「制度の谷間」を無くす、障害の範囲と定義を見直して広く自立生活を支えることなどを実現しようとすると、サービスの要否の判断はかなり難しくなる。
現在の自立支援法の「障害程度区分」は、介護保険制度の要介護認定の応用版で、介護サービスの要否を判断するためには使える仕組みである(判定結果への批判はあるが)。しかし、障害の範囲・定義を見直すとの考え方に転換すると、「介護を必要とする時間(1分間タイムスタディ)」を尺度=基準とする、この仕組みは使えなくなる。

それならば、市町村の窓口にケアマネジャー(ソーシャルワーカー)を配し、障害の程度や充たされないニードをきちんとアセスメントする、必要に応じて情報を提供したり、代弁したりする。その上で、障害の認定に進む(社会参加カードを交付する)とするのはどうだろうか。

障害分野のケアマネジメントの研究と実践はなされているが、まだまだ「高齢者介護の応用版」に留まる(分野特有の難しさがあるため、仕方ないが)。全国の市町村窓口にケアマネジャーを配するためには、よほど力を入れて養成しないと難しい。流行言葉のように使われている「制度設計」と並行して「業務設計」をしないと、やはり現実感が出てこない(制度はよくても運用がついていかない)。

すぐにでも自立支援法を廃止し、手続き方法も負担方法も見直して新法に切り替えたいなら、上記のような議論と現実的な方策の検討を始めるべきだろう。

障害者の「情報保障」 その3

2009年09月25日 11時55分47秒 | 自立支援法・障害
昨日の「その2」に続いて、この条文について考えていきたい。

厚生労働省から出される文書(今日においても紙が基本。一部はイメージで取り込んでPDFで公開されるようになったが、検索対象にならない。何とか改善して欲しい)が、必要とする人たちには「届かない」と書いた。
それならば、支援者が間に入って、「国から情報が出てきたよ」と知らせる、さらに次の支援者が「わかりやすく、かつ具体的に言うと、こうなるよ」と知らせる、自分たちにとっての情報へと「通訳」すればよい。「わからない」を「わかる」にする、通訳モデルである。

情報を「届ける」ならば、この通訳モデルで十分だろう。しかし、地域で自立した生活をおくるために必要な情報を得られるようにするとの理念まで立ち返って考えると、このモデルでは不十分に思える。

まず、この通訳モデルは「国から障害者本人」への一方向の流れを保障するのみである。支援者が「通訳」するならば、双方向。本人の望みを第三者がわかるように具体的に言い換える、場合によっては「役人向けの言い回し」にすることが必要だろう。つまり、双方向の流れを保障するための「代弁(アドボケイト)」を支援者の機能に含める必要がある。

双方向の通訳モデルが実現できれば、その先に、参加して共に創り上げるモデル(参加モデル?共創モデル?)が見えてくるだろう。福祉・介護分野における「情報論」の研究と実践を期待したい。

障害者の「情報保障」 その2

2009年09月24日 16時43分15秒 | 自立支援法・障害
第十一条の「障がい者が国及び地方公共団体の事務に関する情報を容易に入手できるようにする」とは、具体的にどのようなことだろうか。自立支援法の施行前後の「混乱」を繰り返さないためにも何ができるのかを考えていきたい。
自立支援法が成立してから、サービスの利用方法や自己負担額の算出方法を始めとする事務の検討がなされ、情報の提供がなされてきた。しかし、施行の直前になって「こんな法律は知らない。認めない」とばかりの運動がなされたのは、それらの情報が「届かなかった」、あるいは届いたとしても、自分たちに向けられた情報でないために「どのようなことを意味しているのかわからなかった」からである。
確かに、厚生労働省が省令や通知を出したとしても、ホームページにすら掲載されない(現に、検索しても何も出てこない)、都道府県や市町村を通して情報は流したといっても、それらを「自分たちのこと」と受けとめられるように言い換えたり、具体的な例をつかって考えたりするような工夫がなされていたかというと、かなりの疑問が残る(施行日の前にならないと決まらないことも多かったし、「役人向けの言い回し」は一般の人にはわかりづらい)。

厚生労働省には、自立支援法の反省を踏まえ、「情報を容易に入手できるようにする」ために、どのようなことをすればよいのかを考えていただきたい。

このブログでは、厚生労働省に任せきりになっている「制度設計」や「成文化」に直接的な利害関係者(障害当事者など)が参画できるように支援していきたい。いくら当事者団体が声を大きくして厚生労働省と折衝したとしても、事務をどのように回していくのか、法律の条文や省令・通知に何を書くのか(あるいは書かないのか)の検討と決定はすべて厚生労働省にお任せ。最後の最後になって「こんなはずじゃなかった」と気づいても手遅れ、となっては困る。「このような条文にしたい」「通知で流す前に当事者団体で問題がないかの検討をしたい」ぐらいまで踏み込みたい。

障害者の「情報保障」 その1

2009年09月23日 08時51分47秒 | 自立支援法・障害
民主党の「障がい者制度改革推進法(案)」の第十一条から、本人が必要とする「情報」をいかに届けるかについて考えてみたい。

第十一条(情報の入手、利用等)
 障害の種類に応じた方法により、障がい者が国及び地方公共団体の事務に関する情報を容易に入手できるようにするとともに、障がい者に対し公共分野におけるサービスの利用に係る情報を積極的に提供するための措置を講ずるものとする。

自立と社会参加を実現するためには、実に様々な「情報」が必要となる。しかし、「情報」が本人や家族などに届かなければ、ニードを充たすために利用できる支援やサービスがあると気づかない。つまり、「情報」が得られるようにする仕組みは、自立と社会参加を支える社会基盤になる、ということである。
国や市町村がホームページから公的な支援やサービスを始めとする「制度情報」を提供する(あとはご自由にどうぞ。必要なサービスを見つけられない=お使いにならないのは「自己責任」です)は、「情報保障」としては十分ではない。「公共分野におけるサービスの一覧表」では、本人の「必要なサービスを利用する(ニードを充たす)ためには、どうすればよいのか?」との問いに答えられないからである。提供者側の視点から、利用者側の視点へ。情報提供のあり方を考えると、きちんとニードをきき、必要かつ適切な情報を提供する。本人が利用するか否かを決められるように支援するという、本人に寄り添った「情報保障」が求められる。

サービス利用までの手続き方法について

2009年09月22日 11時00分47秒 | 自立支援法・障害
民主党の「障がい者制度改革推進法(案)」の第十四条の三から、サービス利用のあり方を考えていきたい。

第十四条(障害福祉サービス等)
三 障がい者に対する給付の支給決定に関する手続について、障がい者の意思が真に尊重されたものとするとともに、当該給付の内容について、障がい者が地域社会において自立した生活を営むのに十分なものとすること。

支給決定にあたっては、「障がい者の意思が真に尊重されたものとする」と、本人の意思が第一に、「障がい者が地域社会において自立した生活を営むのに十分なものとする」と、自立した生活に必要な種類と量を確保することが第二に掲げられている。
支給を決定する市町村は、生活の全てに渡る広範なアセスメントをして必要な情報を集め、分析し、根拠に基づいて必要なサービスの種類と量を決める必要がある。つまり、支給を決定する前に「本当のケアマネジメント」をすることが必要になる(行政職員にできるだろうか?)。
高齢者介護の分野でケアマネジメントの考え方が導入されているが、障害者分野においては、介護サービスに限らずに生活全体を見て、様々な社会資源間をコーディネイトしなければならないこと、障害ごと・本人ごとの違いが大きく一般化された基準を適用できないことから、ケアマネジャーには高いスキルが求められる。

いかに手続きを見直したとしても、行政職員や民間のケアマネジャーのスキル向上と必要量の確保が伴わないと機能しない。

「社会参加カード(仮称)」を前提とした事務のあり方

2009年09月21日 19時06分30秒 | 自立支援法・障害
民主党の「障がい者制度改革推進法(案)」の第十四条にある「障がい者に対する給付の支給決定に関する証明書」が「社会参加カード」であるとして、どのような利用方法になるか考えてみたい。

第十四条(障害福祉サービス等)
二 現行の障害の種類ごとの手帳制度を廃止し、障害の種類にかかわらず、障がい者に対する給付の支給決定に関する証明書を交付する制度を設けること。この場合において、現行の手帳制度からの移行が円滑になされるようにすること。

サービスを利用するにあたっては、社会参加カードが前提になること、障害の種別によらず交付されるカードであることから、カードの表面には最低限の情報のみを記載、詳細情報はICチップ内に格納する方法が考えられる(ICカード)。
プライバシーを確保しつつ、ICチップの読み書きができる事業所などでは詳細情報を利用できるようになる(例えば、公共交通機関の割引のために、詳細情報を晒さずに済む)。
サービスを利用したい、手帳を所持したい場合には、市役所に申請してカードの交付を受ける(障害種別などが書き込まれる)。サービスを利用する場合は、ICチップに利用するサービスの種別や給付額などのデータを書き込む。ケアマネジャーや事業所などは、ICチップ内のデータにアクセス(照会・追記)してサービスを提供する、といった運用方法になる。
社会参加カードをうまく使うと、認定情報の履歴を管理したり、事業者間の申し送りができるようになる。

住民基本台帳カードや「社会保障カード(どうなるかわからないが)」と共用したいところだが、カードの表面だけで障害者手帳と同じように「社会参加カード」とわかる必要があるので、カードは専用になる。読み書き装置を共用としたいので、ICチップの仕様は他のカードと同じにすることになるだろう。