制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

ライフ・イノベーションの工程表を考える その2

2010年01月05日 10時07分32秒 | 情報化・IT化
昨日に続き、「新成長戦略」の「ライフ・イノベーション」について、このブログに馴染みある項目から紹介していきたい。

P.14の「地域における高齢者の安心な暮らしの実現」では、住み慣れた地域や自宅で生涯を過ごしたいと願う高齢者を支えるために、「医療・介護・健康関連サービス提供者のネットワーク化による連携」と「情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備」などを進めることで、「高齢者が自らの希望するサービスを受けることができる社会を構築する」としている。

まず、「地域の多様なサービス提供者のネットワーク化による連携」は、地域で暮らす高齢者や障害者などに多職種からなる「チーム」でアプローチすること(チームケア)を基本とし、医療・介護・健康等の多領域にまたがる「地域ケアシステム」を構築するということである。高齢者の不安は、医療や介護、健康に関することばかりではない。高齢者にとって、それらの支援やサービスは必要だが、それだけでは十分ではない。例えば、それらのサービスが地域に十分にあったとしても、社会から孤立して「この先、誰とも関わることなく独りで生きていくのだろうか(テレビで報じられる孤独死・孤立死は人ごとではない)」などと思っていれば、いかに住み慣れた地域であっても「安心」して暮らし続けることはできない。
高齢者の「安心」を実現するためには、医療・介護・健康サービスに加えて、生活の様々な場面における支援やサービス(広義の福祉サービス)が必要である。それらは、「高齢者が希望して受けられるサービス(産業として育成できる)」のこともあれば、「地域社会に備わるべきサービス(地域社会づくり、コミュニティの再生など。産業として育成できない)」のこともある。生活を支え、安心を醸成するという観点から、生活に関わる全てのサービスを包含する必要があるだろう。

チームケアや地域ケアシステムの研究と先駆的な実践は積み重ねられているが、どの地域でも簡単に実践できるような方法論としては確立していない。「チームケアに熱心に取り組むキーパーソンがいる」「キーパーソンがリーダーシップを発揮し、ビジョンに共感した事業者が参加した地域ケアシステムが構築されている」といった先駆的な実践は、研究の対象としてはとても興味深いが、あまりに特別すぎる。全国のどこでも、誰でも「チームケアを実践でき、地域ケアシステムを構築できる」という方法論の確立には向かない。
産業育成の制度・政策として展開することを考えれば、「特別なキーパーソン」でなくても実践できるような方法論の確立と、ネットワーク化に必要な「情報」を共有し、活用する環境の整備が必要となる。チームケアを実践するために「チームメンバーのそれぞれが何をすればよいのか、誰から誰に、どの情報を受け渡していけばよいのか、職種や組織をまたがり、連携してケアを提供するとはどのようなことか」という基本的な考え方を整理し、その理解の上で「チームケアを支援する仕組みには、何が必要なのか」を考えるべきだろう。

チームメンバーをつなぎあわせるのは「情報」なのだから、医療・介護・健康にまたがる「情報論」の確立が必要となる。これは、今に始まったことではなく、10年前~20年前から、保健・医療・福祉の連携が必要だとか、地域を単位とする情報共有基盤の構築が必要だとかいった議論が至るところでなされてきた。今日においても同じ問題提起がなされていることからも、これまでの議論が十分であったとはいえないだろう。
なぜそうなったのか、理由は単純である。医療の研究者は、医療を中心に考え、福祉・介護の研究者は、福祉・介護を中心に考える。看護や健康(保健)においても同様である。隣接した領域であるがゆえに、互いの存在を意識でき、議論が重なりあっているにも関わらず、共同で研究する場がなかった。加えて、「ソシュール言語学」的な世界観(エスキモーは雪を区別する多くの言葉を持つ。必要だから語彙が増え、文節化しているのであって、言語そのものに優劣はない。同じように、領域ごとの情報論に優劣はない。つまり、医療中心でも、福祉・介護中心でも、健康中心でもうまくいかない)を基礎に持ってきていないために、互いの考え方を尊重できていない。
そのため、同じことが領域ごとに異なる複数の言葉で表現され、職種をまたがって理解を共有できないし、共有すべき情報の項目を括り出すことすらできていないのである。ここまで読んでいただければ、これは2~3年で解決できる問題ではないし、新成長戦略にあるように「地域医療を再生」すればOKという問題でもないとわかっていただけるだろう。

これまでの研究と実践の経緯を知らなければ、具体的な工程表に展開することは容易でない。
考えられるステップとしては、

1.チームケアの実践や地域ケアシステムの構築の基本的な考え方を整理
  ~領域をまたがった研究を進める~
2.職種や組織をまたがって情報を共有し、活用するための仕組みを検討
  ~標準化やガイドラインの見直しを進める~
3.全国どこでも実践できるような方法論をパッケージに整理
  ~PDCAサイクルをまわして、全国に展開する~

だが、進め方を誤ると、誰も参照しない標準仕様やガイドライン、どこの誰にも使えないパッケージができあがってしまう。そうなると、実証事業から先に進めることはできないだろう。非常に難しい。見当違いなものがでてこないことを祈るのみである。

明日は、もう一つの「情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備」について考えてみたい。