「ぐるくん」のひとりごと

大好きな海のこと、沖縄のこと。 また今関心を持っている韓国語の学習、韓ドラ・レビューなど気ままな雑記

ひとりごと<124> 『弧 将』 読後・・・  

2005年12月26日 | 韓国・韓国語
 北朝鮮に拉致されると言う数奇な体験をされた蓮池薫さんが初めて翻訳に挑戦された小説『弧将』を読んだ。

 韓国で50万部を超えるベストセラーになった本だ。

 原作の金薫(キム・フン)氏の他の本を読んだことが無いので、なにがどうと言う事はできないが、不思議な感覚の小説だった。


 主人公は韓国の英雄と謳われる李舜臣(イ・スンシン)と言う実在の武将である。

 時代は16世紀末。 豊臣秀吉が朝鮮出兵をした「文禄の役」「慶長の役」のまさにその対戦相手の武将だった。

 訳者の蓮池さんも敵として登場する日本の事をおもんばかって、日本で受け入れられるか案じておられたようだ。

 武人を取り上げた小説となれば、血沸き肉踊る勇ましい武勇の数々が満載されているのかと思っていた。

 しかし、この本では優れた指導力で軍をまとめ上げ、作戦を練り遂行する名将の武勇ではなく、その心中、心情を淡々と描いていた。


 1592年李氏王朝14代宣祖王の世、朝鮮に入貢を求めた豊臣秀吉は朝鮮王から拒否されると約15万の大軍で攻め入った。(文禄の役=壬辰倭乱)

 釜山を陥落し、あっと言う間に首都漢城(現ソウル)を落とし、平壌も落として朝鮮王朝を窮地に陥れた。

 そこで明国に援軍を要請した朝鮮王であった。

 一方、水軍の将であった李舜臣の活躍で制海権を朝鮮に確保された日本軍は、補給路を断たれた事などもあって、明国を介して講和を結ぶ。

 しかし、その内容を良しとしない秀吉は再度兵を1597年送る。(慶長の役=丁酉再乱)

 ちょうどこの頃、李将軍は朝廷の派閥抗争に巻き込まれ失脚し投獄された。

 彼の功績をねたんだ元均(ウォン・ギュン)が絡んでいて、李将軍が義禁府に捕らえられると、後任は元均となった。

 李将軍が築き上げたと言っても過言でない朝鮮水軍の8割にあたる装備を引き継いだ元均は半年も経たぬうち、巨済島(コジェド)の海戦で破れ、全滅させてしまう。

 この敗戦によって、制海権は日本側に握られた。

 物語は李将軍が一兵卒として従軍する事を命ぜられ獄を出るところから、回想を交えて進んでいく。
 

 朝廷は弾劾を真に受け李将軍を投獄し厳しい杖刑に処しながら、この危機を救う英雄として再び水軍将軍へと任命する。

 しかし、彼の再出発の装備は戦船12隻と兵120。

 まともな軍服を着ている者は無く、すでに滅亡を体験した兵達は無気力でただの避難民と変らない有様だった。

 李将軍は自分自身に起きた事、水軍の現状、沿岸の村々の荒廃と疲弊しきった民の事、そして敵の事・・・自分を取り巻くむごく悲惨な現実に苦悩しながらも静かにそしてひたむきに受け止めていく。

 全体をベールのように被う無常観が読み手にも伝わる。

 李将軍の心の葛藤、苦悩は根源的な哲学の領域まで至り、ずっしりとした命題を手渡されたような感じだった。

 それに重ねて、自然の描写が繊細で且つ正確で、海を知る人間として、まるで李将軍と並んで海辺に立っているような気さえした。

 読んでいて潮の匂い、浜風を感じた。

 私が不思議な感覚を覚えたのは、おそらく深く内向する思念の描写と現実として体感を共有できる自然の描写の二重構造によるものだろう。

 涙もろい私が涙を流す事無く読み終えた。

 涙を流すより重い読後感であった。

 民族的英雄と崇められている李舜臣将軍の心の内面は一人の生身の人間である事を訴えていた。


 KBSテレビの大河ドラマ『不滅の李舜臣』になっているそうなので、いつの日か視聴できるかもしれない。


過去記事2005/12/26
 


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