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佐川・前理財局長が証人喚問で明かさなかった今井首相秘書官の秘密

2018年04月28日 02時15分22秒 | Weblog

週刊朝日 | AERA |  上田耕司,小泉耕平,秦正理 2018.3.27 12:26

 安倍政権の存亡がかかった攻防が国会で始まった。森友学園を巡る一連の問題の“主犯”扱いされた佐川宣寿前国税庁長官が、3月27日午前、参院予算委員会で証人喚問されたのだ。

【写真】窮地に立たされている安倍首相と麻生財務相

 冒頭、改ざんを把握していたのかとの質問に対して、佐川氏は刑事訴追の恐れがあるとして「答弁を差し控えさせていただきたい」と、森友問題の核心部分についての証言を拒否。文書改ざんに財務省官房や政治家などによる関与はなかったのかについては、「官邸などからの指示もございません。理財局の中で対応したということであります」と答えたが、安倍晋三首相夫人の昭恵氏の名前を消すために改ざんが行われたのかと問われると、「刑事訴追の恐れがあるので控えさせていただきたい」と繰り返した。

 国有地取引そのものに安倍晋三首相や妻の昭恵氏の影響があったかという質問に対しては「一切、総理や総理夫人の影響があったとは私はまったく考えていません」と否定。質問者の丸川珠代議員(自民)は、ほかにも菅義偉官房長官、麻生太郎財務大臣らの名前を挙げ、指示があったのか尋ねたが、「ございませんでした」と繰り返し、理財局外の関与を否定した。それを受け、質問者の丸川氏は「少なくとも総理、総理夫人、官邸の関与はなかったという証言が得られました」と質疑を締めた。

 昨年2月の国会で安倍首相が「私や妻が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」と答弁したことが佐川氏の答弁に影響したとの指摘には「(首相答弁によって)答弁を変えたという意識はありません」と回答。これまでの国会で太田充理財局長が答弁した「理財局として政府全体の答弁は気にしていたと思う」との見解と反するものだった。

 その後も佐川氏は弁護士と相談しながら、「刑事訴追の恐れがある」「答弁を差し控えさせていただく」といった答えに終始し、共産党の小池晃書記局長は「これでは証人喚問の意味がない」と憤慨した様子を見せた。

“ゼロ回答”に終始する佐川氏の答弁に、近畿財務局の関係者はこう語る。

「佐川氏の証言は、責任は自分にある、申し訳ないといいながら空虚に聞こえる。われわれの仲間が財務省の指示で改ざんさせられ、それがもとで命を絶ったのに、お詫びもないし、本当に責任を感じているのか疑問。刑事訴追を受けるから改ざんの詳細は話せないというが、それをさせたのは佐川氏。ひどい証言だ」

 改ざん作業では財務省理財局と近畿財務局にはそれぞれ実務的な窓口になる人間がいたという。

「それが3月7日、自殺したAさんで、最終的に改ざんをさせられた。かなり上のレベルから指示があり、削除する作業を何度も何度もやらされた。近畿財務局では森友を『総理案件』と呼び、Aさんは書き換え作業で本省に連絡をとって深夜まで帰れず仕事をしていたようです」(別の近畿財務局関係者)

 Aさんは亡くなる前、家族に向けた数行の遺書と、パソコンで作成されたA4用紙に5~6枚のメモを残したという。

「決済文書の調書が詳しすぎると、書き換えさせられた」などと書かれていたと報じられた。

 安倍首相や麻生財務相、官邸、首相秘書官からの指示はなかったと語る佐川氏。だが、ある自民党幹部はこう語る。

「格安での国有地払い下げ、文書改ざんなど一連の森友案件の“主犯”は安倍さんの懐刀の今井尚哉首相秘書官だろう。彼が理財局の迫田英典氏(売却交渉時の局長)、後を引き継いだ佐川氏と相談し、“実行”させた。昭恵夫人が絡む森友案件の首相答弁は今井氏が財務省と調整し、練り上げていた。もし、佐川氏が今井氏の名前を出したら、安倍政権はもたなくなる。安倍さんは必死で今井氏を庇(かば)っており、代わりに杉田和博官房副長官に責任をとらせるのではないか、という声も出ているほど。首相周辺からは『今井氏を重用しすぎた、ヘタな小細工で墓穴を掘った』という声がしきりだ」

 前川喜平・前文科事務次官も本誌先週号で、「官邸にいる誰かから『やれ』と言われたのだろう。私は、その“誰か”が首相秘書官の今井氏ではないかとにらんでいる」と名指ししていた。だが、自民党国対関係者はこう言う。

「官邸は佐川氏は重要なことは絶対しゃべらないと信じている。佐川氏と今井首相秘書官は東大同期の仲だ。今井秘書官と佐川氏は首相答弁と決裁文書の整合性を持たせるため、必死で書き換えを現場に指示していたようだ。佐川氏は絶対に今井氏や古巣の財務省を裏切らないだろう。彼はまだ60歳で人生も長い。組織を守り通せば、それなりの見返りは得られる」

 官邸は佐川氏を「最終責任者」にしてトカゲのしっぽ切りを断行するかに見えるが、実態は違う。近畿財務局の関係者がこう語る。

「森友学園の事案は『総理案件』と呼ばれていて、幹部の中には籠池(泰典)氏のことを『籠池先生』と呼ぶ人もいたそうだ。籠池氏と担当者の面会の日程など逐一、本省に知らせていた。決裁文書からの削除箇所はマーカーで線を引き、本省が指示。改ざんを拒否した職員もいたが、組織防衛だと押し切られた」

 今や無職の佐川氏は、どんな心境なのか。

 本誌は3月22日、佐川氏に取材を試みようと、東京都内の自宅を訪問した。そこは住宅街の瀟洒な一軒家。庭に植えられた桜の花は七分咲きで、門にはきれいに手入れされた四つの植木鉢が、花を咲かせていた。近所の人はこう言う。

「以前は公用車がお迎えに来ることもありましたね。旦那さんは見かけませんが、奥さんはたまにゴミ出しをしているのを見かけることがあります。お嬢さんがいるようです」

 犬と一緒に自宅から出てきた若い女性に聞くと、「何もお答えできないんです」と足早に去っていった。

 佐川氏や財務省をめぐっては、まだまだ解明されていない話が多数、残っている。勾留中の籠池氏と面会した希望の党の今井雅人衆院議員がこう語った。

「疑惑が発覚した当時、理財局国有財産企画課課長補佐が籠池氏に『10日間ほど雲隠れをしてほしい』と森友学園の顧問弁護士(当時)を通して依頼し、ホテルに彼が隠れた件なども本人から改めて確認しました」

 自由党の森ゆうこ参院議員の調査によれば、国有地売却に当初、別の学校法人が手を挙げた際にはゴミの撤去費用は約8400万円とされたが、森友学園に売却された際には約8億2千万円と、実に10倍の費用が算出された。会計検査院にも指摘されたこの謎もいまだに解明されていないままだ。

 佐川氏の口から真相は語られるのだろうか。(本誌・上田耕司 小泉耕平 秦正理)

週刊朝日  2018年4月6日号より加筆

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以上、( https://dot.asahi.com/wa/2018032700013.html ) より引用

 

 

「理財局が削除部分にマーカーを引いて指示」自殺した近畿財務局職員も関与

週刊朝日 | AERA | 横田一,上田耕司2018.3.25 14:34

 佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問を目前に控え、森友疑惑の構図の骨格がみえてきた。

【写真】接見後の会見 籠池氏は何を語ったのか

「改ざんに関ったのは、財務省理財局と近畿財務局合わせて10人くらい。近畿財務局は当初、理財局の改ざん指示に対し、『そんなことするのか』『国会答弁はそちらの問題だ』などとかなりの拒否反応を示しました。だが、理財局が『近畿財務局がこんなことを決裁書に記すからだ』と反論するなど紛糾。数日間の押し問答が続き、双方の幹部が話し合った末に改ざんを決行することになった」(近畿財務局関係者)

 そして財務省で話し合いがあった後、近畿財務局に具体的な指示があったという。

「14の決裁文書の削除箇所は理財局側がマーカーで線を引いて指示。やり取りはメールで、その分量があまりに多く、『こんなにやるのか』と近畿財務局側が拒否するなど押し問答があったそうだ。だが、最後は『組織防衛のため』と本省が力で押し切った」(同前)

 近畿財務局の中には籠池泰典前森友学園理事長が安倍首相や昭恵夫人と親しいということで「籠池先生」と呼ぶ幹部もいたという。

「それゆえに局内では『何とかうまく進めなければ』というプレッシャーが上から下まであったのは事実。『いい土地だから前に進めて』という昭恵夫人のセリフが文書に記されているが、局内の思いでもあったようだ。何とか前に進めなければいけないと。それが裏目に出過ぎて国会で問題になった」(同前)

 森友文書の改ざん問題の渦中、自殺した近畿財務局職員Aさんの故郷は岡山県だ。地元の岡山4区選出の希望の党・柚木道義衆議院議員(45)はAさんの自殺問題について、国会でも度々、言及してきた。柚木議員は語る。

「公文書って、官僚にとっては命同然だそうです。その命を改ざんしろと言われたから、Aさんは命を絶ってしまったとしたら本当にお気の毒だと思います」

 改ざん作業で財務省理財局と近畿財務局にはそれぞれ実務的な窓口になる人間がいたという。

 

「それが自殺したAさんで、最終的に改ざんをさせられた。かなり上のレベルから指示があり、削除する作業を何度も何度もやらされた。近畿財務局では森友を『総理案件』と呼び、Aさんは書き換え作業で本省に連絡をとって深夜まで帰れず仕事をしていたようです」(別の近畿財務局関係者)

 Aさんは亡くなる前、家族に向けた数行の遺書と、パソコンで作成されたA4用紙に5~6枚のメモを残したという。

「決済文書の調書が詳しすぎると、書き換えさせられた」「首謀者は佐川局長」などと書かれていたと報じられた。

 野党6党が国会で開いた合同ヒアリング(3月15日)で財務省と警察庁の官僚を前に、柚木議員はこう詰め寄った。

「財務省近畿財務局や当局がどこかに遺族をかくまい、遺書を公表しないようにしているということはありませんか」

 この質問に財務省担当者は「答えられません」と言うばかりだった。

 財務省理財局国有財産業務課の30代のB係長も1月29日、自殺していた。理財局は本誌に対し、森友学園に関係する仕事はしていなかったと説明したが、真相は不明のままだ。

「理財局の同じラインではあると思います」(柚木議員)

 東京に雪が降った日、Bさんが亡くなった都内の寮へ行くと、近所の人がこう話した。

「ここは財務省の独身寮で男性の方が住んでます。独身といっても、若い職員だけでなく、けっこう年齢のいった職員もいますね」

 寮から出てきた数人の職員に話しかけたが、両耳にぴったりイヤホンをして応答しなかった。箝口令が敷かれているのか。

「今回の改ざん命令は究極のパワハラですよ。自殺ドミノになりかねない」(同前)

 Aさんの父親は本誌の取材に対し、「うちの息子は何も悪いことをしていない。なのに、なぜ、こんなことになったのか」と怒りを込めて言った。

 一方、昨年夏から約8か月間、獄中にいる籠池前理事長は拘置所内でラジオや新聞で情報収集し、「決裁文書改ざんを知った時はびっくりした」という。

 3月23日に籠池被告と45分間、接見した今井雅人衆院議員(希望の党)と宮本岳志衆院議員(共産党)らはその内容を記者団にこう明かした。

 

「『良い土地ですから前に進めてください』と昭恵さんは間違いなく言った」

「(国有地)貸付のときから(売買)取引をするにあたって、その都度、谷(査恵子)さん(総理夫人付秘書)や昭恵さんに伝えていた」

「土地取引の状況も、谷さんや昭恵さんにその都度、報告していた」

 26日午前は自由党の森裕子参議院議、社民党の福島瑞穂参議院議らが接見予定だ。宮本議員は佐川喚問での連携をこう明かした。

「今日も全員集まった会議をやっている。私達が今日聞いたことは、参院議員側に伝えて、彼女らがそれを引き継いでやる完全な連携プレーになっている」

 記者からの「証人喚問の隠し玉のヒントは?」との問いに「証人喚問を楽しみにして下さい」と詳しくは語らず。

 ただ、記者から「(籠池氏の代理人だった)酒井(康生)弁護士の関与がポイントではないか」と問われるとこう答えた。

「疑惑が発覚した当時、理財局国有財産課長補佐(当時)が『籠池氏は10日間ほど雲隠れをしてほしい』と酒井弁護士を通じて依頼し、籠池さんがアパホテルに泊まっていた。その事実関係も改めて本人から伺った」(今井議員)

 佐川氏の証人喚問でどんな新事実が飛び出すのか。注目したい。(本誌 上田耕司 ジャーナリスト・横田一)

週刊朝日オンライン限定

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以上、( https://dot.asahi.com/wa/2018032500010.html ) より引用

 

 

自殺した近畿財務局職員の遺族「汚いことをさせられた」昭恵夫人の名前が削除されたワケ

週刊朝日 | AERA | 2018.3.12 13:55

 森友学園への国有地売却問題で財務省は12日、国会報告を行い、14の決裁文書を書き換えていたことを認め、約80ページに及ぶ、調査報告書を発表した。

【安倍昭恵さんのFacebookはこちら】

 さらに決裁文書には、安倍昭恵夫人の名前も記載されていたものの、昨年に削除されたという。

 平沼元経済産業相や鴻池元防災担当相、故、鳩山邦夫元法務相ら4人の政治家の名前も記載されていた。

 文書の書き換えは、森友問題が表面化した2017年2月末~4月頃に行われ、森友側との交渉の経緯や、「本件の特殊性」「価格提示を行う」などの表現が国会議員に開示された文書ではなくなっていた。

 財務省は12日、与党関係者への説明で、「文書の書き換えは、財務省全体ではなく、9日に辞任し、当時の理財局長だった佐川宣寿前国税庁長官らの判断で行われたもので、麻生(太郎)財務相、福田(淳一)財務省事務次官らからの指示はなかった」などと説明したという。

 だが、霞が関の局長級の官僚はこう首を傾げる。

「少数の判断でやれるものではない。おそらく野党議員に開示するとき、内容を全部見せたらまずいとなり、佐川理財局長らと本省幹部と相談の上、削除したのではないか。こうした場合、直属の財務相を飛び越え、菅(義偉)官房長官、杉田(和博)官房副長官ら官邸が直接、指示するとは考えにくい。省内のあうんの呼吸で実行されたとみるのが自然。安倍昭恵夫人を“忖度”した結果、危ない橋を渡らされたのでは?」

 7日に自殺した近畿財務局の男性職員Aさんの親族が本誌の取材に応じ、「近畿財務局、本省からの連絡などはない。頭が混乱している」と答えた。さらに絞り出すようにこう続けた。

「Aはハキハキした性格で、実直で世話好き。親に金銭的な負担や迷惑をかけないで、仕事をしながら夜間の大学に通っていました。国鉄の仕事をして、大蔵省に入った。いつも明るくて、声が大きくて。自分が大変なんだということは一切、人に見せるほうではなかった。逆に言えば、それで追い詰められていたんでしょう」

 

 普段は家族に仕事の話をせず、人間関係や担当していた仕事内容などは報道を通して知ったという。

 だが、「悪口やグチ聞いたことない」というAさんの様子がいつもと違うと親族が感じたのは昨年8月、電話でのやり取りだった。

「心療内科に通いだしたと聞きました。職場のことが原因なのか、詳しいことは一切言わなかった。Aは『体調がよくないし、夜も眠れない』『自分の常識を壊された』と言っていた。弱音を聞いたのも初めてかもしれない」

 メールで様子を聞いても「あまり元気じゃない」という返事があり、昨年12月のクリスマス前、心配になって電話したという。

「Aは神戸の自宅にいて、『年明けから仕事に復帰しようと思っている』『心と身体がついてこない』と話していた。私は『自然体のままでいいんじゃないの』と答えた。途中で投げ出さないし、まじめ1本やり。自分には厳しく、人を裏切らないし責めない。親戚付き合いや友達付き合いでも、自分で全部抱えてやってしまうくらいの人だった。そういう性格が裏目に出た。汚いことをさせられていたんじゃないか」

 と、悔しさをにじませた。

 遺書の内容については、「聞いていない」という。

 一方、財務省職員の自殺が報じられた3月9日以後も、昭恵氏の“活動”ぶりはいつも通りだった。9日午後には、自身のfacebookに<昨日は3月8日は国際女性デー。昨年に引き続きHe for She、HAPPY WOMANのイベントに参加しました。大好きなART FAIR TOKYO 2018のオープニングもありました>と書き込み。併せて、イベントの関係者らと笑顔で並んだ記念写真や、木槌を持って日本酒の樽を「鏡開き」する“お祝い”ムードの写真をアップした。

 財務省が書き換えた決裁文書から、昭恵氏の名前が削除されていたことが判明したが、安倍首相は昨年2月17日、国会で「私や妻がかかわっていれば首相も国会議員も辞める」と答弁しており、書き替えはこうした答弁と辻褄を合わせるためだった可能性も考えられる。

 となると、昭恵氏も無関係ではいられないはずなのだが、昭恵氏はこれまで財務省職員の死や文書の書き換え問題について、一言も発信していない。

 また、麻生財務相は発表後の会見で自身の進退については「考えていない」といい、すでに辞任した佐川氏にその責任をこう押し付けた。

「書き換えのトップはその時の担当者で、そんな偉い所じゃないが、最終的な決裁として佐川が理財局長だったから、その意味で理財局長となろうと思う」


 与党関係者がこう危機感を募らせる。

「今後は麻生財務相のみならず、安倍首相の責任問題となるのは必至。野党の反発は収まらず、国会の正常化は当面は難しいだろう」

 立憲民主党の福山哲郎幹事長はこう訴えた。

「誰の指示で、いつ何のために改ざんがなされたのか明らかにすることは不可欠です。財務省だけで判断するなどということは絶対にありません」

 野党は今後、佐川氏、昭恵夫人の証人喚問を求める方針だという。


(週刊朝日取材班)

※週刊朝日オンライン限定記事

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以上、( https://dot.asahi.com/wa/2018031200037.html ) より引用

 

 

佐川国税庁長官は完全“アウト” 昭恵夫人は? 財務省がメールなど300ページ以上の新規文書を公開

週刊朝日 | AERA | 西岡千史2018.2.9 18:43

 これでもまだ言い逃れをする気なのか。

【写真】満面の笑みでインタビューに答える佐川国税庁長官

 財務省は9日、学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却問題で、学園との交渉文書などを新たに20件、計300ページ以上にのぼる資料を国会に提出した。同省の佐川宣寿・前理財局長(現・国税庁長官)は国会で「廃棄した」と説明していたが、答弁の“ウソ”がまたもや明らかになった。

 同省は1月、神戸学院大の上脇博之教授による情報公開請求で5件の文書を開示したことで、約8億円の値引きについて同省と学園側が価格交渉していた疑いがさらに強まっていた。今回開示された資料を見ても疑念は深まるばかりだ。

 佐川氏は、昨年4月の国会で「パソコン上のデータは短期間で自動的に消去されて復元できないようなシステムになってございます」と答弁。メールについても、送受信から60日が経過したメールを自動削除していると同省は説明していた。

 ところが、今回公開された資料の中には、2014年9月1日付で近畿財務局の職員が局内の関係者に送ったメールも含まれていた。その内容は、学園との賃貸借の契約書案などに関するもので、文書の添付ファイルとともに、同省の統括法務監査官に向けて「素人が考えたものですので、これをたたき台にして、ご指導がいただければと思います」と書かれていた。

 同省は、公文書管理法の規定に基づいて保存が必要なメールは残しているとも説明している。だが、なぜ、添付ファイル以外にこのメールが「保存が必要」と判断されて残っていたのかは不明だ。ほかにも交渉過程に関係するメールが残されているのではとの疑問も残る。

 これだけではない。学園が小学校建設後に生徒が集まらず、経営が行き詰まることも想定して交渉方法を検討していた。 

 2015年2月6日付の「定期借地契約の想定問答等について(1統)」と題された文書には、「校舎は完成したものの、生徒が集まらないなどの理由で学校経営が立ち行かなくなり、森友学園が校舎を取壊して更地返還ができなくなった場合に国はどのように対応するのか」など、森友学園が債務不履行になった場合のことを近畿財務局内で議論していた。

 

 同年4月2日には、学園側が軟弱な地盤を理由に貸付料の減額を求めてきたことに対し、同省が法務担当者への法律問題の照会文書として、「『無理に本地を借りていただくなくてもよい』と投げかけることも考えている」と、学園側に契約破棄も選択肢に入れた強気の交渉をしていたことが記述されている。これに対して同省の法務担当者は「行政府の裁量の範囲」と、法律上は問題ないと回答している。

 ところが、安倍昭恵首相夫人が同年9月5日に小学校の名誉校長に就任したころから同省の対応が変化しはじめる。同年11月には、昭恵夫人付の政府職員が財務省に問い合わせをしていたことがすでに明らかになっているが、12月には交渉内容が一変している。

 同年12月1日には、賃貸契約から売買価格の交渉に変化していて、近畿財務局は法務担当者に対して、事前に「売買価格を学校法人に提示して買受けの可否を判断させるなどの調整が必要」と書いている。

 もはや財務省は言い逃れはできない状態だ。与党からも財務省批判が出ている。参院予算委員会の石井準一・与党筆頭理事(自民党)は、「廃棄した」とされた文書が新たに提出されたことについて「委員会の権威を傷つけるもの」と批判。これまで与党は佐川氏の国会招致に否定的だったが、このまま拒否を続けられるかは見通せなくなっている。

「財務省が公表した一連の資料で佐川氏の”虚偽”答弁は明白です。森友事件で大阪地検に近畿財務局の資料は押収されているので、逃れられないと判断し、自発的に出したのでしょう。与党は昭恵夫人に飛び火しないよう、国会に佐川氏を呼び、幕引きを図るシナリオも考えているようです」(霞が関関係者)

 まもなく確定申告もスタートする。9日には、中小・零細企業の団体である全国商工団体連合会(全商連)が主催となり、財務省前への抗議が行われた。約30人が集まり、森友疑惑の解明や佐川氏の罷免を求める要請書を財務省に提出した。全商連関係者は怒りをこうあらわにする。

 

「これまで消費税問題などでも要請書を出したことがあるが、その時は職員がきちんと対応して、回答ももらえた。それが今回は『回答はできない』とあらかじめ言われた。こんなひどい対応ははじめてです」

「納税者一揆」を掲げたデモも予定されている。

 市民団体「森友・加計問題の幕引きを許さない市民の会」は、確定申告が始まる16日に、国税庁周辺で佐川氏の罷免を求める集会を開く。市民の会は、昨年に佐川氏の罷免を求める2万筆の署名を集めた。

 今年に入っても批判の声がやまず、デモを開催することになった。同日には、札幌、大阪、神戸でもデモや抗議行動が予定されているという。

 市民の会の発起人である醍醐聡東大名誉教授(会計学)は、こう話す。

「すでに佐川氏がウソの答弁をしていることは明らかでしたが、今回の文書公開は“ダメ押し”です。佐川氏は、16日までに罷免されるのが当然ですが、安倍首相がそれでも『適材適所』と言っています。こんなことは許してはならず、国民が行動で示すしかありません」

 醍醐氏のもとには、すでに参加希望者やマスコミからの問い合わせが殺到しているという。

 一年のうちで最も税金が身近になる季節になり、納税者を欺き続ける佐川氏に対し、国民の怒りは爆発寸前だ。(AERA dot.編集部・西岡千史)

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以上、( https://dot.asahi.com/dot/2018020900107.html ) より引用

 

 

前川氏が激白「加計、森友問題では共通の司令塔が存在 菅官房長官への刑事告訴も検討」

週刊朝日 | AERA |    2017.6.13 11:30

「週刊朝日」6月23日号で、文部科学省の「内部文書」以外にも、苛烈な「官邸支配」を示す数々の新証言を明かした前川喜平・前文科事務次官。前川氏は、さらに自身に降りかかる“人格攻撃”への対応と、加計学園問題と森友学園の問題に共通する司令塔の存在を明らかにした。

 次々と驚くべき証言を続ける前川氏に対し、執拗な「ネガティブキャンペーン」が行われている。

 まず不可解だったのは、5月22日、読売新聞が朝刊で突如として報じた前川氏の「出会い系バー通い」だ。実は、前川氏にはこの前日に意味深な“打診”があったという。

「報道で内部文書が出る直前の5月21日、文科省の後輩からメールで、『和泉(洋人首相補佐官)さんが話がしたいと言ったら会う意向はありますか』と、婉曲的な言い方のメールが来た。同じ日の少し前に、読売新聞から出会い系バーの件で『明日の朝刊に書こうと思っているけど、コメントが欲しい』とメールが来ていた。推測の域を出ませんが、タイミングからして『お前の振る舞いによっては読売を抑えてやるぞ』という話なのかと受け取りましたが、和泉氏に会うつもりはまったくありませんでした」

 菅義偉官房長官は繰り返し、前川氏に対し、“人格攻撃”した。天下り問題ですぐ辞任せず「地位に恋々としがみついた」とも発言している。

 6月5日の国会答弁でも、前川氏が3月まで定年を延長したいと打診してきたこと、天下り問題への世論が厳しい状況になって初めて(1月20日に)辞任したことなどを主張。

 だが、これらは前川氏自身の認識とまったく食い違う。

「私が辞任せざるを得ないとはっきり考えたのは1月4日、御用始めの日です。5日には松野(博一文科)大臣に意思を伝え、一両日中には杉田官房副長官にも報告し、ご了解をいただいた。天下り問題の報道が出たのは1月18日ですから、世論が騒いだから辞めざるを得なかったというのは事実に反します。定年延長をしてほしい、定年延長ができないならせめて3月末まで次官を続けさせてほしいなどと言ったことは断じてありません。地位に恋々としてクビを切られたと言われるのは、極めて不本意です」

 前川氏はメディアを通じてこうした主張を再三、公表したが、菅官房長官が発言を訂正する気配はないので、前川氏は法的措置も検討しているという。

 

「私が反論をした後にも、菅官房長官は同じことをおっしゃっている。出会い系バーの話もそうですが、私の信用を落とす意図があるのではないか。事実に基づかない個人攻撃には、名誉毀損(きそん)で刑事告訴という対応もあり得ます。私の辞任の経緯を知る人はたくさんいますから、法廷で事実関係が明らかになると思います」

 菅官房長官らが強固に否定しても文科省内部からの情報漏えいが相次ぎ、ついには松野文科相が再調査を宣言する事態となったが、前川氏はこう振り返る。

「出てきた資料の性質などからして、情報はおそらく(省内の)3人くらいから、それぞれ別のルートで出ていたのではないか。今は官邸の力が圧倒的に強いわけで、文科省は本当のことを言えない状態がずっと続いていて、そのことに省内は皆、耐えられなくなっていた。大臣、副大臣を含め、文科省の現役の皆さんの苦衷は想像以上のものだと思います」

 前川氏は自分が関わった加計学園問題と同じく首相の“おトモダチ案件”として疑惑を呼んでいる森友学園問題について、ある共通性が見いだせると話す。

 それは、共通の「司令塔」の存在だ。

「森友問題も加計問題も地方と国が同時に関わり、国の中でも複数の省庁にまたがる案件。そういった多くのプレーヤーをうまく組み合わせて全体を調整する司令塔がいないと、うまくいかない。役所のどこを押せばどう動くかということを熟知した人間がいなければなりませんし、そういう才能を持った人なんて、そう多くはいません。官邸の中でも、私には今井尚哉首相秘書官(叔父は安倍首相と近い今井敬経団連名誉会長)、和泉首相補佐官くらいしか思い当たりません」(前川氏)

 そして、今回の産業遺産なども含め、安倍政権下で続出する「ゴリ押し案件」の本質をこう分析した。

「加計学園の件にしても産業遺産の件にしても、大がかりな仕掛けの中で、一見正当な手続きを踏んだかたちをとって、実態としては特定の件を特別扱いすることを正当化する。こういう手法がものすごく増えてきているように感じます」

加計学園の獣医学部は国家戦略特区の指定を受けているものの、設置の認可は受けていない。前川氏はこう提言する。

「たとえ設置審議会で認可相当と結論が出ても、文科省はすぐに認可せず、もう一度国家戦略特区諮問会議にかけるよう内閣府に求めるべきではないかと思います。加計学園が特区での特例を認めた際の『4条件』に合致しているのかは、未だにきちんと検証されていないと私は思います。文科省としては責任を負いかねる状態なのです」

(本誌・小泉耕平、亀井洋志)

週刊朝日 2017年6月23日号より抜粋、加筆

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以上、( https://dot.asahi.com/wa/2017061200060.html ) より引用

 

 

 

 室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。自らの子育てを綴ったエッセー「息子ってヤツは」(毎日新聞出版)が発売中。

 室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。自らの子育てを綴ったエッセー「息子ってヤツは」(毎日新聞出版)が発売中。

室井佑月「森友、もっともヤバいこと」

連載「しがみつく女」

週刊朝日 | AERA |   室井佑月2018.4.5 07:00

 安倍昭恵首相夫人の関与に焦点が再び当たる森友問題。作家・室井佑月氏は、そこに潜む問題を指摘する。

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 3月23日付の毎日新聞朝刊「布施広の地球議」に、「昭恵氏招致は劣情?」というコラムが載っていた。

 安倍昭恵・総理夫人の関与が疑われる森友問題。共同通信の世論調査では65%の国民が、彼女の国会招致を望んでいる。しかし、ある番組に出ていた解説委員は、そのことを、

「総理夫人を国会に呼んできて公開裁判みたいにいじめて泣かしたいという劣情ですよ」

 そういったんだとか。番組の司会者が、「野党の?」とたずねると、

「国民の、ですよ。憂さを晴らしたい(という)」

 と答えたんだって。

 布施さんはそれを見て、「耳を疑った」という。

〈その解説委員は日ごろ安倍政権寄りの発言が目立つが、「国民の劣情」とはいくら何でも乱暴だ〉

 だよね。乱暴だし、野蛮だ。メディアでリンチされた、ベッキーさんのときとはわけが違う。

 森友問題で、昭恵さんが疑われていることは、国の持ち物、しいていえば国民の財産を、自分の知り合いに横流ししようとしたのかどうかである。

 昭恵さんを、無垢だとか、悪意がない人だとか、庇(かば)おうとする人がいる。そうか? 自分の知り合いにいい顔をしたかったら、自分の金でしたらいいじゃん。

 

 旦那さんもそう。海外にいっては意味がない金をばら撒いてくる(中国包囲網どうなった? 北方領土返還どうなった?)。この夫婦はそっくりだ。

 その一方で、守るべき弱者には冷たい。生活保護費は年間160億円削減だって。ユニセフからもこの国の子どもの貧困を心配されているのにさ。

 財務省によって改竄された決裁文書、森友学園が購入しようとしていた国有地について昭恵さんが「いい土地ですから、前に進めてください」と発言したとする記載が消されていた。

 詐欺を働く人物(by安倍総理)の発言だから関係ない? 安倍総理も応援団もそうしたいみたいだけど、それはちょっと無理があるだろ。

 籠池さんの素性をなぜ官僚が調べなかったのか。てか、いっときは籠池さんは安倍応援団だったのだ。そして、昭恵さんは森友学園の名誉校長を引き受けた。

 昭恵さんは、森友学園が運営する塚本幼稚園に何度も講演にいった。その幼稚園は、教育勅語を教育に取り入れている学校だった。教育勅語押しの人は良いとこどりで、都合の悪いところは黙っているけど、あれって、天皇陛下のために死ねという教育でしょうが。

 安倍政権になってから、陛下をいじめ、その力を削いでいった。だとすれば、我々はなんのために死ねといわれようとしているのか? 権力の私物化が行われている今、国=あの方々なんじゃねーの。

 森友問題、そこが露(あらわ)になってほしい。明治時代を美化する安倍総理。教育勅語を素晴らしいというそのお仲間たち。彼らは国民を、本音ではどうしたいのか?

週刊朝日 2018年4月13日号

以上、( https://dot.asahi.com/wa/2018040400008.html ) より引用

 

室井佑月「問題はやはりアベよ」

連載「しがみつく女」

週刊朝日 | AERA |   室井佑月 2018.2.8 11:30

 国会で行われた安倍晋三首相に対する各党の代表質問。作家・室井佑月氏は、共産党・志位和夫委員長の質問を称賛する。

【この記事のイラストはこちら】

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 1月25日に行われた衆議院本会議での代表質問。共産党の志位委員長の質問が、素晴らしかった。40分間足らずという短い時間に、国政私物化、暮らしと経済、原発、沖縄、憲法について、すべてをわかりやすく取り上げた。

 難しい言葉なんて一切使わない。例題にあげる話も、一般国民の目線に沿ったもの。ほんとうに頭の良い人なんだなぁと思う。

 矛盾をつくときに、これは言い訳できないだろ、というような、高度に意地の悪い質問の仕方も素敵。

 たとえば、政府は生活保護費の削減を決めたが、その理由を「生活保護を利用していない低所得世帯の生活水準が下がったから」としている。

 そのことについて志位さんがつっこんだ。

「総理は『安倍政権になって貧困は改善』と宣伝してきたが、『低所得世帯の生活水準が下がった』なら、『貧困は改善』は嘘で、アベノミクスは失敗と自ら認めることになりませんか?」

 そして、こうつづける。

「今回の生活保護削減予算は160億円。米軍への『思いやり予算』など米軍経費の来年度の増加分195億円をあてればおつりがきます。政府がまず思いやるべきはどちらなのか?」

 安倍政権は米国の顔色ばかりみている。トランプ大統領にいわれるまま武器の大人買いをしたりして。その結果、この国の弱者の救済がおろそかになっているといわれても、反論できなかろう。高齢化で社会保障費が増えているといっても、防衛費もありえないくらい増えているのだ。

 

 そして、この国の弱者の命と生活を守る生活保護費を削るといえば、あれだけうまくいっていると豪語していたアベノミクスがうまくいっていないことを吐露することになる。

 いやぁ、志位さん、見事。蟻地獄のような質問だわ。

 ズバッということはズバッというしな。政府の進める「働き方改革」は、労働者側ではなく、財界側の立場に立った「働かせ方大改悪」だ、とかさ。廃炉の費用、「核のゴミ」の処理費用など子々孫々まで巨額の費用を押し付けるのが原発だ、とか。

 年明けに立てつづけに起きた沖縄での米軍機事故については、学校、保育園、病院などの上空は一切飛行しないことを厳重に約束させるべき、そうはっきり言い切った。米軍の言い分をうのみにし、飛行再開を容認しつづけてきたことに対しては、「総理、これで主権国家の政府といえますか!」と。

 志位さんの質問に対し、安倍総理は始終、ごまかし回答。ま、いつものこと。

 NHKは安倍さんと仲良しなんだから、安倍さんに登場していただいて、質問にきちんと答えさせる番組をやってよ。国民のために。

 その際、今回の志位さんの質問は、短くて的確で、使いやすいと思う。使わせてとお願いしたら、気軽に「どうぞ」といってくれるんじゃないか。……問題は、やはりアベだな。

週刊朝日 2018年2月16日号

以上、( https://dot.asahi.com/wa/2018020700012.html ) より

 

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接待汚職事件から権力奪還にひた走った「沈黙の軍隊」財務省

2018年04月19日 23時40分12秒 | Weblog

 2018年4月11日 横田由美子 :ジャーナリスト

森友学園をめぐる公文書の改ざん問題で揺れる財務省。自らの責任を認めたことで、幹部の一掃は不可避となり、解体の危機にひんしている。「官の中の官」と呼ばれる財務省はどこで間違い、これからどこに向かうのだろうか。DOL特集「財務省解体の危機」第1回は、財務省とはどのような組織だったのか、歴史を振り返りながら論じていく。(ジャーナリスト 横田由美子)

組織としての力が
圧倒的だった財務省

今年で財務省の取材を始めて15年になる筆者が駆け出しの頃、超ベテランの経済記者が財務省について話したことを、今も覚えている。彼は、経済産業省の記者クラブから財務省のクラブに移ってきて間もなかった。

「経産省を10年以上取材してきたけれど、財務省を取材してみて改めて、その凄さが分かった。経産官僚の能力だって、決して財務官僚と比べて引けを取らない。にもかかわらず、なぜ経産省は財務省の後塵を拝し続けているのか不思議でならなかったが、今は納得できる。組織としての力が圧倒的に違うんだ」

 その頃の筆者は、記者としての知識も能力もつたなすぎて、彼の言う意味が理解できなかった。そして、彼の言葉の中に、今、財務省に巣食っている「病理」が潜んでいたことには、まったく気づいていなかった。

 筆者の取材先は、同世代の30代になったばかりの財務官僚たちで、まだ現場の最前線に立ったばかり。本当の意味での政治のしがらみや、組織の不文律を知っていたわけではなかった。

 彼らは、ほんの少し国家権力中枢に関する仕事をしているとの機微に触れるような経験はしていたが、むしろ、その部分だけで全体を理解したかのような気になっていた。自分が、「国家を動かしているような気持ち」になっていた人もいただろう。だが、それも致し方ない話だ。取材者である筆者でさえも、彼らのそうした熱い空気に触れ、自分もその“一員”になったかのような錯覚を覚えたのだから。

接待汚職事件で
権力をそがれていく

 筆者と同世代である平成ひと桁入省の財務官僚は、バブルの残り香を感じつつも、大蔵省接待汚職事件(1998年)の余波で、歴史ある「大蔵省」の看板を失い、証券局や銀行局が分離されるなど、巨大な権力を大きくそがれていくという実体験を持っている。

 また、その後に吹き荒れた官僚バッシングの嵐にさらされながら、「天下り」という最高級の“人参”を始めとする、将来受けられるはずだった特権を次々と失っていく様を、目の当たりにしてきた世代だ。

 先輩官僚たちは、20代で地方の税務署長として赴任し、その土地で一番の料亭で高級接待を受けていた。それが居酒屋になり、割り勘が常識となっていった。

 それでも、財務省は「官の中の官」であり続けた。財務官僚たちは、表向きは身を潜め、しかし水面下では、警察官僚をも凌駕する一糸乱れぬ統率力と、寝技を駆使した政治力を使い、しぶとく、そしてしたたかに自分たちの既得権益を取り戻していった。

小泉政権時に
陰に日向に奔走

 その最たるものが、発足時こそ、「日銀の地位を一気に押し上げた」と言われていた「金融庁」を、最終的には財務省が支配したことであろう。また、かつての元次官の天下りポストの定番で、1度は失った日本たばこ産業(JT)の会長職も2014年に取り戻し、丹呉泰健・元財務次官が就任した。

 そして、接待不祥事で壊滅的な危機に陥っていた財務省が再び攻勢に出たのは、“影の大蔵族”といわれた小泉純一郎政権時代だ。官邸の意思を具現化する形で、財務官僚たちは陰に日向に奔走した。

 小泉元首相が「聖域なき構造改革」の一貫として、「三位一体改革」を推進していた際にも、小泉元首相の強い意志に沿いながら、財務官僚はその宿願である「財政健全化」に関連した政策を次々と実現させていった。

 その時、総理を筆頭事務秘書官として5年間も補佐し、官邸のあるじ的な存在だったのが丹呉・現JT会長である。丹呉の同期には、杉本和行・現公正取引委員会委員長がいた。2人の優秀さは入省時から群を抜いており、それまでの慣例だった「1期に1人次官」がこの期で崩れることは早くから予期されていた。そして予想通り、2人とも次官を務めた。

 当時を知る官僚は次のように振り返る。

「丹呉さんが官邸から戻ってきたとき、ポストが空いていなくて一時的に理財局長に据え置かれた。理財局長から次官になるのは、今も昔もあり得ないのですが、もし今回、丹呉さんが理財局長だったら、もっと違う結果になったのではないかと時々思います。もちろん歴史に“もし”はないのですが…」

個人プレーの経産省
組織プレーの財務省

 そうした丹呉と、現在、安倍晋三首相の政務秘書官である今井尚哉とをダブらせる人も少なくないだろうが、両者が決定的に異なるのは、官僚としてのスタイルだ。この2人の秘書官としての生き方からも、財務省と経産省とのカラーの違いが見てとれる。

 丹呉は確かに小泉元首相に忠実であったが、それと同じぐらい、否、それ以上に「財務省」に忠実だった。それに対し、今井はあくまで安倍首相に忠実だ。それは、真偽は別として「安倍政権に骨を埋める」と言ったという今井の言葉からもうかがえる。丹呉は財務省に戻って次官まで勤め上げたが、今井は安倍政権の終焉とともに、霞が関を去るだろう。かつての江田憲司(橋本龍太郎政権時の政務秘書官)がそうだったように。

 そんな2人に象徴されるように、霞が関では昔から、「個人プレーの経産省、組織プレーの財務省」と比較されてきた。「俺が、俺が、というタイプは経産官僚に多い」というのが、霞が関官僚の共通認識であることは、もはや言うまでもないだろう。

 そうした経産省の特徴を、如実に表した話がある。

 小泉政権の目玉政策の一つに「構造改革特区」があったのを覚えているだろうか。鴻池祥肇・参議院議員が初代特区担当相に就くなど華々しくスタートしたものだ。

 少し話はそれるが、小泉政権の終焉とともに存在意義を失いかけていた構造改革特区は、第二次安倍政権の発足と同時に「国家戦略特区室」として再始働。加計学園問題の舞台となって、世間の耳目を集めたのは記憶に新しい。

 こうした構造改革特区だが、2003年頃、筆者が取材していた時、「実は、俺が中心人物としてやった」と、打ち明けた経産官僚が5人ほどいたことを、今も強烈に覚えている。そんなにいるわけがないにもかかわらずである。

 一方の財務省は、チームプレーを得意とするだけあって、外に対し「あの政策は俺がやった」とは決して言わない、まさに「沈黙の軍隊」だった。

 森友学園との国有地取引に関する公文書改ざん問題は、未だ全容が解明されていないが、本省理財局内部で行われ、近畿財務局への不適切な指示や、省内の不自然な“忖度文化”が、大阪地検の捜査で明らかになりつつある。だが、仮に捜査のメスが入らなかったら、決して外部には漏洩しなかったのではないかと思う。

財務省の権力を取り戻すことに
寄与した官僚はみんな次官に

 小泉政権時、“チーム財務省”は、官邸では丹呉が、本省内では杉本が背後で動き、現場の最前線で指揮を執っていたのは、「最後の大物次官」との異名を取った勝栄二郎・元次官(現IIJ社長)だった。

 勝の脇を固めていたのが真砂靖・元次官と、「花の54年組」と呼ばれた木下康司・元次官、田中一穂・元次官、香川俊介・元次官だった。54年組からは、同期で3人もの次官を輩出し、彼らが群を抜いて優秀だったのはもちろんのこと、省への貢献ぶりがいかに高かったかについてもよく分かる事例として語り継がれている。

 だが、筆者のような取材者の力不足かもしれないが、あくまで積み重なった事実からうかがい知る推論に過ぎず、そうした布陣や各々の役割を、メディアに事細かに話す官僚は財務省にはいなかった。

 先に名前を挙げた、財務省を再び「官の中の官」に戻すことに大きく寄与した官僚たちは、皆、次官を務めた。だが、「本当の最後の大物次官は勝さんではなく、香川さんだった」(財務官僚)と言われる。そんな省内で尊敬をもって語られている香川は、2015年、がんが再発して死去した。

 そしてこの日から、財務省の落日は目に見えて始まった。

 次回以降、財務省が朽ちていく過程を、詳しく紹介していくことにする。

(敬称略)

以上、DIAMOND,Inc. All Rights Reserved. より引用 

(http://diamond.jp/articles/-/166641)

 

以下、参照

福田財務次官のセクハラ疑惑で混迷極める財務省の行く末

2018年4月18日 横田由美子 :ジャーナリスト

DIAMOND,Inc. All Rights Reserved.

(http://diamond.jp/articles/-/167611) 

 

 

以下、Copyright 2018 Asahi Shimbun Publications Inc. より引用  

森友文書“改ざん”疑惑で二階幹事長が財務省批判 新たな「第三の文書」を検証

横田一,西岡千史2018.3.6 16:43dot.#森友問題
 
参院予算委で、自由党の山本太郎共同代表の質問に対する財務省の太田充理財局長の答弁を聞く安倍晋三首相(左)と麻生太郎財務相=5日撮影 (c)朝日新聞社
参院予算委で、自由党の山本太郎共同代表の質問に対する財務省の太田充理財局長の答弁を聞く安倍晋三首相(左)と麻生太郎財務相=5日撮影 (c)朝日新聞社
【資料写真】写真左と写真中は、昨年2月に国会議員に配布された決裁文書。写真左は、数字部分などの確認後に入れたと思われる「・」(黒ポツ)のチェック印があるが、朝日が「書き換えた」と報じた写真中の「調書」の記述部分には、チェックを入れた形跡がない。一方、5日に近畿財務局が提示した決裁文書(写真右)の「調書」部分には、「/」(スラッシュ)印でチェックが入っている(赤字のマルは財務省職員が付けたチェック印と思われる部分で、編集部による追記)
【資料写真】写真左と写真中は、昨年2月に国会議員に配布された決裁文書。写真左は、数字部分などの確認後に入れたと思われる「・」(黒ポツ)のチェック印があるが、朝日が「書き換えた」と報じた写真中の「調書」の記述部分には、チェックを入れた形跡がない。一方、5日に近畿財務局が提示した決裁文書(写真右)の「調書」部分には、「/」(スラッシュ)印でチェックが入っている(赤字のマルは財務省職員が付けたチェック印と思われる部分で、編集部による追記)
 
 朝日新聞が放ったスクープが、政界を激震させている。

【資料写真】これは文書“改ざん”の痕跡? 疑惑の3つの決裁文書の違いはこちら

 学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却をめぐり、朝日新聞は3月2日、財務省が省内で作成した決裁文書が書き換えられた疑いがあると報じた。報道を受けて財務省は6日午前、調査状況を参院予算委員会理事会で報告。ところが、「(文書は)捜査の対象になっており、すべての文書を直ちに確認できない状況だ」と文書の存否すら明らかにせず、疑惑はさらに深まっている。

 これには与党からも異論が噴出。二階俊博自民党幹事長は同日、財務省の説明に「我々もちょっと理解できない」と疑問を呈した。

 一方、現時点で改ざん前の文書を確認しているメディアは朝日だけ。そのため、読売、毎日、産経などの新聞各紙は、国会での与野党議員の攻防が報道の中心となっている。

 はたして、文書の改ざんは真実なのか。ある全国紙記者は、朝日が連日一面でこの問題を取り上げていることから「かなり自信を持った報じ方をしている」と分析する。一方、原本となる改ざん前の文書について、記事では「入手」ではなく「確認」と書かれていることや、原本の写真が掲載されていないことから、記事の真贋をめぐって場外戦もはじまっている。

 新たな疑惑も飛び出した。改ざんが疑われている文書には、書き換えの痕跡と思われる記述も残されていたのだ。

 民進党の小西洋之参院議員は、5日に国会内で開かれた財務省などへのヒアリングで、財務省の職員が決済文書の内容を確認するために付けたと思われる「・」(黒ポツ)のチェック印が、改ざん疑惑がある文書には存在していないことを指摘した(資料写真参照)。

 小西議員はこう話す。

「私は官僚出身なのでよくわかるのですが、決裁文書を作成する際は、数字や文章の内容に間違いがないよう、職員が一つずつチェックします。国会議員に配布された決裁文書にある『・』はペンなどで付けた確認済みのチェック印と思われます。しかし、朝日の報道で改ざんの疑いが指摘された計6ページの『調書』の部分だけ、『・』でチェックされた形跡がありません。おそらく、急いで作成したため、そこまで作業ができなかったのでしょう」

  小西議員ら野党は、国会議員に提出された文書の原本の確認も財務省に求めている。

「本当に文章が書き換えられたのなら、作成から1年以上経った後と思われます。1年あれば紙は経年劣化するので、差し替えられたページだけ新しくなる。他のページと色が違っている可能性もあります」

 一方、5日、野党の調査団の訪問を受けた近畿財務局は、朝日が原本を「書き換えた」と指摘した国会議員への配布文書とは、異なる「第三の文書」を提出した。

 この第三の文書は6日、自由党の森ゆう子参院議員が国会で公表したが、「決裁文書のコピー」として同局から提供されたものだという。

 本来であれば、この文書は昨年2月に国会議員に提出されたものと同じなはずだが、森氏が入手した文書は、少し異なっていた。

 文章の内容は改ざん疑惑のある文書と同じだが、小西氏が「ない」と指摘したはずのチェック印が書き込まれていたのだ。

 しかも、そのチェック印は「・」ではなく、「/」(スラッシュ)で書き込まれている(資料写真参照)。昨年2月、国会議員に一部を”改ざん”した文書を提供した後、何者かが数字や文書の確認をして「/」のチェックを入れた可能性もある。

 この疑惑について財務省は「情報公開請求に答える中でチェック印を入れるなど、何種類かのバージョンの文書があるのかもしれない」と説明している。

 安倍晋三首相は、今国会で森友学園についての一連の朝日の報道を「間違い」「裏取りがない」と繰り返し“口撃”していた。ところが、文書の改ざん疑惑が報道された後は、麻生太郎財務相が「事実であればゆゆしき事態」と述べるにとどめている。

 それもそのはず、有印公文書の偽造は、懲役10年以下の重大な犯罪だ。似た事件としては、過去に厚生労働省の郵便不正事件で、大阪地検特捜部が証拠品を改ざんした事実が明らかになり、担当検事やその上司ら3人が逮捕され、懲戒解雇された。さらに、検察庁のトップである検事総長の大林宏氏も引責辞任した。森友学園の問題では、昭恵夫人の関与も指摘されていることから、政権に与える打撃は大阪地検特捜部の証拠改ざん事件の比ではない。
 
 だが、自民党も反撃に出ている。和田政宗参院議員はツイッターで「今回と同様の文書は、決済印を押す紙の後の2枚目以降は決裁途上で差し替えることがあり、朝日が見た文書は決裁途上の文書の可能性も」と、記事に説明不足の部分があると指摘した。

 時事通信(電子版)も3日、政府関係者のコメントとして、財務省では「資料をまとめる過程で多少削るなどした部分はあるが、改ざんには当たらない」との説明で乗り切る案が浮上していると報じている。

 ただ、この説明で野党が納得するとは考えにくい。朝日の記事によると、文書の原本と、昨年2月の問題発覚以降に国会議員に配布された改ざん疑惑の文書では、1枚目にある文書番号や起案日、決済完了日が同じだと報じている。文書を一部差し替えたのなら、決済は最初からやり直す必要があるが、その形跡はないようだ。

 そのほかの説明としては、財務省職員の単純ミスとして「作成途中の文書が誤って決済された公文書の中に入り込んでしまった」と理由付けすることも考えられる。

 しかし、この説明にも無理がある。朝日の報道では、原本では「学園側の提案に応じ」や「価格提示を行うこととした」といった記述があるという。「単純ミス」で説明すると、原本の文書と記述内容の存在を認めることになる。佐川宣寿・前財務省理財局長(現国税庁長官)は、学園側と「事前の価格交渉はしていない」などと国会で答弁しているので、原本の存在を認めることは、結果として佐川氏の虚偽答弁が確定させることになってしまう。

 希望の党の古川元久幹事長は「事実であれば、内閣総辞職に値するくらい極めて重大な問題だ」と述べ、報道をきっかけに政局が動き始めている。

 文書改ざんが真実なら、安倍内閣への批判が高まることは必至。国会での審議の行方に注目したい。(横田一/AERA dot.編集部・西岡千史)

 

 

 森友問題、“昭恵夫人”削除の公文書改ざんでちらつく「官邸の影」

以下、2018.3.12 13:55週刊朝日#安倍政権#森友問題 より

自殺した近畿財務局職員の遺族「汚いことをさせられた」昭恵夫人の名前が削除されたワケ

以上、表題のみ(https://dot.asahi.com/wa/2018031200037.html?page=1)参照

 



 森友問題、“昭恵夫人”削除の公文書改ざんでちらつく「官邸の影」

以下、上田耕司2018.3.19 16:00週刊朝日#安倍政権#森友学園

近畿財務局ノンキャリAさんの他にも 自殺者が相次ぐ財務省の箝口令

以上、表題のみ(https://dot.asahi.com/wa/2018031800020.html?page=1)参照

 

 

以下、Copyright 2018 Asahi Shimbun Publications Inc. より引用

財務省で2人目の“自殺” 理財局国有財産業務課職員で森友案件との関係は不明

2017年4月、衆院財務金融委に出席した佐川宣寿・財務省理財局長(当時)。左は麻生太郎財務相(C)朝日新聞社
2017年4月、衆院財務金融委に出席した佐川宣寿・財務省理財局長(当時)。左は麻生太郎財務相(C)朝日新聞社

財務省が14の決裁文書を書き換えていたことを認めた調査報告書

財務省が14の決裁文書を書き換えていたことを認めた調査報告書

 森友学園への国有地払い下げに関する文書改ざん問題で、財務省は同省理財局の職員18人(2015年4月当時に在籍)が決裁に関わったという記録を野党に開示した。

【財務省が書き換えを認めた調査報告書はこちら】

 理財局次長らが中心となり、安倍晋三首相の妻、昭恵夫人や鴻池祥肇元防災担当相や平沼赳夫元経済産業相ら複数の政治家の名前が記載されていた改ざん前の決裁文書を書き換えたという。

 国有地売却を担当する職員が3月7日に自殺した近畿財務局だけでなく、本省理財局でも森友案件が多くの職員に共有されていたことがうかがえる。

 その理財局の職員が1月末、“不慮の死”を遂げていたことが本誌の取材で明らかになった。

「亡くなったのは、国有財産業務課のA係長で1月29日、自殺したそうです。佐川宣寿前理財局長の国会での答弁作りなどを手伝ったという噂が出ていますが、箝口令が出ており、詳細はわかりません。係長は残業で過労気味で亡くなる前は仕事を休んでいたという話です」(財務省関係者)

 財務省理財局国有財産業務課課長に真相を尋ねた。

──どうして1月29日にAさんが自殺されたのか?。

「亡くなったのは事実ですが、職員のフライバシーのことでございますので、私からはお話を差し控えさせていただきたい」

──森友担当だったのか?

「課は国有財産の制度を担当しているところで、個別の案件を担当しているわけではございませんし、森友学園の担当をしているわけではございません。そちらとは関係はございません」

──書き換え業務に携わっていたわけではない?

「はい。森友学園など個別の案件を担当しているわけではございません」

──近畿財務局で自殺した職員と、今回の職員とはつながりがあったんでしょうか。

「それはまったくないと思います」

──一緒の職場だったことはない?

「まったくないと思います」

──仕事上のことで亡くなったのでは?

「すいません、私からはお答えはできませんので。ご遺族のことを考えていただけたらと思います。静かにしていただきたいということは当然、思うところでありまして…」

 今月に自殺した近畿財務局職員の遺族によると、森友案件で月100時間以上の残業を強いられていたという。

 理財局のAさんの死と森友問題の関係は不明だが、来週には佐川前国税庁長官の証人喚問が国会で行われる。最強の官庁と呼ばれる財務省の権威は地に堕ち、戦々恐々の様子だ。

「疑惑が国会でさらに拡大したら、また死人が出る大変な事態になるかもしれない」(財務省関係者) (本誌・上田耕司)

※週刊朝日オンライン限定記事

【関連記事】

   加計学園 , 安倍政権 , 森友学園 をもっと見る

(https://dot.asahi.com/wa/2018031500078.html?page=1)

 

 以下、Copyright 2018 Asahi Shimbun Publications Inc. より引用

森友問題の“司令塔”は「今井総理秘書官」前川喜平・前文科事務次官が推測

松岡かすみ2018.3.19 08:41週刊朝日#森友問題

前文科事務次官・前川喜平氏 (c)朝日新聞社
前文科事務次官・前川喜平氏 (c)朝日新聞社
 
森友学園問題の一連の流れ
森友学園問題の一連の流れ

 “キーパーソン”の佐川宣寿前国税庁長官がようやく国会で証人喚問される。前文科事務次官の前川喜平氏が「森友疑惑」について直言する。

【図表で見る】森友学園問題の一連の流れはこちら

*  *  *

 国政調査権のある国会に提出された文書が改ざんされていたとは、民主主義が崩壊する事態で犯罪的行為だ。こんな悪事を、真面目で小心な官僚が、自らの判断でできるなど、到底考えられない。文書改ざんは、官邸との間ですり合わせがあって行われたとしか思えない。官僚が、これほど危険な行為を、官邸に何の相談も報告もなしに独断で行うはずがない。文書の詳細さを見れば、現場がいかに本件を特例的な措置と捉えていたかがわかる。忖度ではなく、官邸にいる誰かから「やれ」と言われたのだろう。

 私は、その“誰か”が総理秘書官の今井尚哉氏ではないかとにらんでいる。国有地の売買をめぐるような案件で、経済産業省出身の一職員である谷査恵子氏の独断で、財務省を動かすことは、まず不可能。谷氏の上司にあたる今井氏が、財務省に何らかの影響を与えたのでは。今回の問題は、財務省の凋落を象徴しているともいえる。かつての財務省といえば、官庁の中の官庁。官邸内でも、財務省出身者の力が強かった。だが今、官邸メンバーに財務省出身者がほとんどいない。経産省を筆頭に、他省庁の官僚出身の“官邸官僚”の力が増す一方で、財務省は官邸にNOが言えない状態なのだろう。

 佐川氏は今、政治の新たな“犠牲者”になりつつある。彼は“誰か”を守り通すという選択肢以外持ち得ていないようだが、今や一民間人であり、自由人。もう誰にも忖度する必要はない。もし本当のことをしゃべり始めたら、官邸からとんでもないバッシングを受けるかもしれない。しかし私自身がそうだったように、そのバッシングが、身動きの取れない呪縛を解く道につながることもある。

 私も加計学園問題より以前、文科省の天下り問題で国会に参考人招致されたときは、まだ役人体質を引きずっていた。政権を守るために忖度もしなければならないと思っていた。でも、そうした一切の未練が吹っ切れたのが、(加計学園の獣医学部の新設の認可に関して、前川氏が会見を開く3日前に掲載された)読売新聞の記事。「官邸はこういうやり方をするのか。ならばもう何の気遣いもいらない」と、逆にすっきりした。だから佐川氏も本当のことを言えば、楽になれる。

(本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2018年3月30日号

(https://dot.asahi.com/wa/2018031800021.html?page=1)

 

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安倍首相、4月辞任の公算か…自民党が恐れる「影のキーマン・今井秘書官」証人喚問

 森友問題をめぐる財務省内の決裁文書書き換え問題で、窮地に追い込まれている安倍内閣。先週末にマスコミ各社が行った世論調査で内閣支持率は軒並み30%台に低下、危険水域に達した。そんななか、財務省が国土交通省にも文書の書き換えを依頼していたとも報じられた19日、国会では森友問題に関する集中審議が行われ、政府・与党が、書き換えを指示したとされる当時の財務省理財局長、佐川宣寿元国税庁長官に全責任を負わせる姿勢を見せた。これから永田町はどう動くのか。政治ジャーナリストの朝霞唯夫氏に話を聞いた。

――現在の永田町の最新状況について教えてください。

朝霞唯夫氏(以下、朝霞) 自民党のなかでも、国民の世論は厳しいという意見が出ています。予想通り週末の世論調査で内閣支持率が30%台へ下落し、このままいけば佐川氏の証人喚問も免れず、麻生太郎財務相の辞任ですむはずもない、という声が出ています。

 19日の集中審議では、自民党の和田政宗議員が財務省の太田充理財局長に対して、「民主党政権時代の野田総理の秘書官も務めておりまして、増税派だからアベノミクスを潰すために、安倍政権を貶めるために、意図的に変な答弁をしているのではないですか」と、とんでもない質問をしました。かえってこの質問は自民党への批判を生むことになり、自民党としては、国民に対して「これ以上党を追い詰めないでほしい」と懇願している状態です。自民党の西田昌司議員は「佐川事件」と呼んでいますが、無理筋です。すでに外国ではウォーターゲート事件ならぬ「安倍ゲート事件」と報じられています。

――自民党が連立政権を組む公明党の動向について教えてください。

朝霞 公明党の本心は「野党に下野したくない」の一心です。しかし、自民党を全面バックアップすれば、創価学会の収拾がつかなくなると聞いています。是々非々で物事に臨むのが公明党の立場です。今回は、公明党の石井啓一国土交通大臣が森友問題にかかわっていますが、同省は外務省同様に霞が関では“下の省庁”になってしまったので、同省にしてみれば今回の財務省の失態に溜飲を下げる思いでしょう。石井大臣は目立たないように、火の粉が飛んでこないように振る舞っています。

倒閣運動の可能性

――安倍内閣の4月辞任説が飛び交っています。

朝霞 4月の内閣総辞職は真実味を帯びてきています。麻生氏の立ち振る舞いがポイントです。ずっと安倍首相を支える立場とともに、次の首相を決めるキングメーカーという裏の顔もあります。実は、麻生氏は先週末も「もう財務相を辞めたい」と弱気になって、周囲に辞意をもらしたという話も伝わっています。これで麻生氏が辞意を漏らすのは2回目です。

――自民党内は、安倍内閣総辞職を見据えて動き出しているということでしょうか。

朝霞 このままいけば、内閣支持率は下がる一方です。自民党が恐れているのは、党への支持率も下がっていくことです。今まで野党がダメなので自民党政権は維持できました。しかし、野党が連携して本格的な倒閣運動をした場合、どうなるか。国民の世論は「野党にやらせてみよう」となるかもしれない。そうならないうちに、自民党内で倒閣運動は出てくる可能性があります。

影のキーマン

――自民党や野党の倒閣運動は、どのようなかたちで行われますか。

朝霞 昔の派閥原理のように露骨に引きずり下ろすというかたちではなく、公明党のように是々非々の議員が増えてくるでしょう。自民党の村上誠一郎議員のように「安倍首相はダメだ」と声を上げるような倒閣ではなく、「安倍内閣は1回責任を取るべき」という声が出てくるでしょう。

 石破茂元防衛大臣、岸田文雄党政調会長が候補になっていますが、安倍首相ほど人気が取れなかったとしても、自民党を持ち直すことが可能だというのが党内の意見としてあります。これから二階俊博党幹事長がどう動くか。内閣の要であり、安倍首相の側近である麻生氏、菅義偉官房長官が、「もう支えるのは無理だ」となる時期がポイントです。

 また、財務省の官僚が今後、どのような国会答弁するかも注目点です。私は安倍首相夫妻がこの問題に露骨に関与したとは思いませんが、官僚が「昭恵夫人が名誉校長なので、このように判断しました」と言う可能性もあります。

――影のキーマンが存在するという話もあります。

朝霞 この問題でキーマンは、今井尚哉内閣総理大臣秘書官だと聞いています。重要な局面でいろんな状況を目にしているはずだという声があります。今回の森友問題は、事務ではなく、政務の問題です。答弁書を作成する際、官邸の政務関係で合議(あいぎ)が開かれますが、政務秘書官が政治的な問題で立ち会ったりしますので、今井秘書官は指示はしないまでも、あうんの呼吸で口を出していたのかがポイントです。野党の間では「今井秘書官を引きずり出せるかが重要だ」という声すらあります。

 経済産業省職員だった谷査恵子氏を、安倍首相夫人の昭恵氏付きの政府職員にしたのも今井秘書官です。佐川氏や今井秘書官を国会で証人喚問をすれば、安倍包囲網は狭まってきます。そうなると安倍首相ももたなくなります。これが4月辞任説の真実味を帯びてきている真相です。

――安倍首相は、どのような挽回策を想定しているのでしょうか。

朝霞 米朝協議と日朝協議により、支持率アップの巻き返しを図ろうと狙っています。以前は、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮の脅威を煽ることで支持率を維持してきましたが、今はそれができない。要は安倍首相の得意の外交で打開していこうと考えていると聞いています。
(構成=長井雄一朗/ライター)

(http://biz-journal.jp/2018/03/post_22710.html)

 

 

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今井直哉首相秘書官こそ改ざん問題で喚問すべきキーマン

今井尚哉首相秘書官は谷査恵子氏の上司にあたる(C)日刊ゲンダイ

今井尚哉首相秘書官は谷査恵子氏の上司にあたる(C)日刊ゲンダイ

2018年3月23日

 

闇が深い森友学園への国有地売却をめぐる決裁文書の改ざん問題。


 国税庁の佐川前長官の証人喚問が27日にあるが、真に喚問すべきキーパーソンは他にいる。

「恐らく、全容を知っているのは政務の首相秘書官を務める今井尚哉氏だろうね」(自民党ベテラン議員)

 安倍首相の信頼が厚く、官邸を取り仕切って“陰の総理”とも呼ばれる今井氏。佐川氏とは、省を超えて親しい同期入省組でもある。

「官邸関係者に聞いたのですが、森友問題は政務案件なので、今井氏と佐川氏が国会答弁をすり合わせていたはずだという。場合によっては、官邸内で安倍首相も同席して行われたといいます。改ざんについても何か知っている可能性が高い。国有地売買の経緯でも、今井氏の関与が感じられる。昭恵夫人付だった谷査恵子氏の上司が今井氏なのです。真相究明には、今井氏の証人喚問が不可欠でしょう」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)

 

 谷氏は、98年にノンキャリアとして経産省に入省。13年から15年末までの3年間、「内閣総理大臣夫人付」として昭恵夫人の“秘書役”を務めたが、昨年の国会で森友疑惑がはじけると、在イタリア日本大使館の1等書記官に異動してしまった。

 15年、森友学園の籠池前理事長が昭恵夫人の留守番電話に国有地取引に関するメッセージを残したところ、谷氏から電話があり、要望を書面で送るよう言われたという。籠池氏が払い下げに関する要望を書いた手紙を送ると、谷氏がファクスで回答してきた。そのファクスが、昨年の証人喚問で示されたものだ。〈財務省本省に問い合わせた〉〈予算措置を行う方向で調整中〉〈昭恵夫人にもすでに報告している〉などと書かれていた。

「谷さんが財務省国有財産審理室の田村室長に問い合わせて回答をもらったと書いてありましたが、霞が関の常識からいって、ノンキャリの彼女が格上の室長に直接問い合わせるなんてあり得ない。谷さんの上司にあたる今井氏の力が働いていると考えるのが普通です」(経産省関係者)

 今井氏も谷氏も公務員だから、証人喚問に支障はなかろう。 

 昭恵夫人と常に行動を共にしていた谷氏は、森友学園での講演にも同行している。昭恵夫人が本当に100万円を寄付したのかどうかも、彼女なら知っているはずだ。

(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/225566/1)

 

 

以下、★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995 より引用

いよいよ、今井 尚哉内閣総理大臣秘書官の存在 が炙り出される!

http://www.asyura2.com/18/senkyo241/msg/656.html
投稿者 天橋立の愚痴人間 日時 2018 年 3 月 20 日 15:27:10:

     

国土交通省にも公文書改竄の依頼があったという事である。

国土交通省へ文書の改竄を依頼するなどは、両省の局長クラスの判断ではできない。
当然、財務省事務次官かた国土交通省事務次官経由でなければ国土交通省の職員は動かない。

事務次官同士が、このような不正に加担するとは考えられない。
もう一つのルートとしては、麻生財務大臣が政治的に石井国土交通大臣へ依頼したと言う事が考えられる。

この場合は、大臣同士の話し合いの時に、承諾か否かが決まる。
国土交通省大臣が承諾すれば国土交通省は改竄に応じたであろう。

今になって、国土交通省へも改竄の依頼があったと言うリークは、この場合にも当てはまらない。

最期に考えられるのは、今井総理秘書官が動いたという事である。

今井は国土交通省事務次官を通さず、直接に国土交通省の局長あたりを呼びつけて交渉したのであろう。
官僚の人事まで口をだし、恐れられている今井ならではの事である。

これが成立すれば、財務省へのプレッシャーもすべてが今井が元凶である事が解る。
今回の事件は、加計学園問題、山口のレイプ事件もみ消しも全て安倍の意を受けた今井総理秘書官が企んだ事になる。

100%官邸主導の事件である事が証明される。
今井が一連の事件の司令塔である事は今までからも言われてきた。

今回の国土交通省へ文書の改竄を要求したのが誰かと言う事が解れば、ついに今井、安倍の尻尾を掴んだ事になる。
このようなリーク(国土交通省へも文書改竄の依頼があった)などは、国土交通省内の職員が、直接リークしたか、大阪地検にリークしたか以外に考えられない。

大阪地検のターゲットは大きいようだ。
今井を炙り出すタイミングも、絶妙と言える。
既に公文書改竄が明らかになり、内閣も認めざるを得なくなり、既に崩壊寸前の今、とどめを刺す武器である。

麻生、安倍も、もはや言い訳の言葉を失うであろう。


>今井 尚哉 内閣総理大臣秘書官。

●誰もが一目置く安倍の側近

《政局対応、官邸広報、国会運営、あらゆる分野の戦略を総理の耳元で囁く。決断するのは総理だが、その影響力は計り知れない》(「プレジデントオンライン」より)

《今井には何より『総理独り占め』のカードがある。首相のアポは思いのまま、入れたい情報は耳打ちし、入れたくない情報は握りつぶす》(「FACTA」より)

《安倍総理の右腕とも言われ、スケジュールを一手に握っていることから、大物政治家も一目置いている。一方で今井氏の機嫌を損ねると、面会を取り次いでもらえないとの悪評も多い》(「週刊文春」より)

《『戦後70年談話』の草稿は、首相と今井氏らごく少数で作成したという》(「フライデー」より)

 さまざまなジャーナリストが揃いも揃って「安倍と今井は特筆するくらい親密であり」「安倍が今井を頼っている」旨を強調しているのがわかるだろう。

では、なぜ今井氏はこれほどまでに安倍の信頼を得たのだろうか?

「元経団連会長・今井敬と元通産事務次官・今井善衛を叔父にもつ今井ですから、もともと財界との太いパイプがありました。安倍がまず目論んだのは、今井を介して財界をバックにつけることでの票集めでしょう。財界をバックにつけるとなれば、そのツケとして、財界にとって得になる政策を打ち出さねばならなりません。その結果、人事、法案、アベノミクス……すべてが、今井中心のもと、財界が得をする(=後押ししてくれる)シナリオが形成されていきました」(政府情報筋)

 情報筋によると、“今井氏との折り合いが悪い”という理由により、外務省・斎木昭隆事務次官が財務省・田中一穂事務次官とともに退任に追い込まれた可能性があるそうだ。「NHK人事」での冷徹さと「伊勢志摩サミット」での秘密主義ぶりをみれば、この退任人事が今井氏の身勝手な意向によるものだとしてもおかしくはない。

「外務省事務次官であれば普通なら駐米大使を終えてから退任するはず。にもかかわらず斎木氏がこのタイミングで退任したのには、安倍首相を囲い込み、直接交渉ができない状況を作った今井の存在が関係している可能性があると囁かれています。田中氏に関しては、軽減税率をめぐる騒動の影響が大きいかもしれないですが」(政府情報筋)

 増税を延期すれば、延期した分だけ将来にツケがまわる。だが、我々が背負った将来のツケで今まさに甘い汁を吸っているのは大企業だけ。中間層以下には何の利益もないアベノミクス……。この大企業だけが得をする“今井政治”は果たしていつまで続くのだろうか? 日本のラスプーチンが暗躍する陰謀政治の動向を今後も注意深く見ていきたい。

安倍晋三との関係

第1次安倍内閣にて内閣総理大臣秘書官となったことから、安倍晋三の知遇を得た。ともに内閣総理大臣秘書官を務めた井上義行は、今井の叔父の今井善衛と安倍の祖父の岸信介とが商工官僚同士だった縁から両者が接近したと述べている。また、井上は、安倍の姻族である牛尾治朗が今井の活用を進言していたと述べている。

第1次安倍改造内閣退陣後も、長谷川榮一とともに安倍を高尾山登山に誘うなど、今井と安倍は交流を深めた。第46回衆議院議員総選挙直前、安倍の事務所ではベテランの政策担当秘書が突然辞任し人材が払底していたため、安倍は今井に着目し、新政権にて政務担当の内閣総理大臣秘書官に就任するよう要請した。これを受け、今井は第2次安倍内閣発足とともに政務担当の内閣総理大臣秘書官に就任した。

 

 

以下、https://yuruneto.com/moritomo-imai/ より、一部抜粋引用

森友事件の”黒幕”として、ついに今井尚哉首相秘書官の名前が本格的に浮上!前川氏「司令塔は今井秘書官だと思っている」

森友事件の究明がかつてなかったほどの山場を迎えている中、一連の国有地取引から文書改ざんまでを主導していたキーマンとして、「陰の総理」こと今井尚哉首相秘書官の名前が次々取り沙汰されている。

・今井秘書官は安倍政権において、安倍夫妻の親戚であるだけでなく、安倍政権のあらゆる重要案件を主導しているキーマン中のキーマンであり、従来までほとんどその存在や情報が大手メディアで触れられてこなかった存在だっただけに、安倍政権にとっても生死を分けるような重要な展開になっている。


一部のメディアでしか伝えられてこなかった今井尚哉首相秘書官の名前が、ついに各メディアで続々浮上!”ステルス化”しながら安倍官邸を支配してきた「黒幕」の証人喚問を求める声も増加中!

出典:最後のジャーナリズム

これも、安倍政権の終焉を感じさせる動きなのでしょうか。
今までごく一部のメディアでしか伝えられてこなかった、「陰の総理」との異名を持つ今井尚哉秘書官の名前が、森友事件の”黒幕”として、いよいよ本格的に取り沙汰されるようになってきました。

森友疑獄において、今井秘書官が重要なキーマンであることは、当サイトでもかなり前に紹介(下記参照、2017年3月28日)しており、この話自体は特に目新しいものではないんだけど、何より、この話が今頃になって表に続々出てきたことが大きいね。

(過去参考記事):【森友事件】民進・江田氏が今井尚哉首相秘書官の証人喚問を要求!「影の総理」と言われる日本の支配者、安倍家とも親戚関係!

今井秘書官は、東芝の原発政策を主導した(&破綻させた)黒幕である疑惑もあったり、加計学園疑獄についても重要な役割を演じていたことも伝えられている状況だけど、今まではマスコミにとってアンタッチャブルな存在だったにもかかわらず、ここに来て、にわかに彼の存在が報道されるようになり、野党間でも彼の証人喚問を求める声がにわかに盛り上がってきたことを見ても、安倍政権の国内での権力は著しく下がってきていることが分かるね。

前川氏も上記のように語っている上に、その他の日本の政治の内部を知る関係者からも、今井秘書官が森友疑獄で非常に大きなウェイトを占めていた声が続々出てきているし(しかも、昭恵夫人付の谷査恵子氏の上司が今井秘書官)、彼が、安倍総理と綿密にコミュニケーションを取りながら、文書改ざんも土地取引も主導していた可能性が非常に高いね。






 

 

 


郷原信郎が斬る 投稿日: 2017年7月9日

2018年04月17日 19時03分35秒 | Weblog

加計問題での”防衛線”「挙証責任」「議論終了」論の崩壊

 投稿日:

昨日(7月8日)放映のBS朝日「激論!クロスファイア」(司会田原総一朗氏)に、元大蔵官僚の高橋洋一氏とともに出演した。

森友学園問題・加計学園問題に関して、安倍内閣の不誠実な対応、疑惑の高まりで、安倍内閣への支持が大きく低下し、都議選でも自民党が歴史的惨敗したことなどを受けて、加計学園問題が、改めて取り上げられた。

山本大臣の「挙証責任」「議論終了」論

当初、菅官房長官が「怪文書」等と言っていた「総理のご意向」文書の存在が、文科省の再調査の結果、否定できなくなった後、山本地方創生担当大臣は、

今回の話というのは、(国家戦略特区)ワーキンググループで議論していただいて、去年の3月末までに文科省が挙証責任を果たせなかったので、勝負はそこで終わっているんですね。もう1回、延長戦で9月16日にワーキンググループやってますが、そこで議論して、もう「勝負あり」。その後に何を言っているのかという気がして、私はなりませんけども。

などと述べている。【山本幸三・地方創生相、加計学園問題の「勝負は終わっている」】

このような「挙証責任」「議論終了」論による文科省批判は、高橋氏が、朝日新聞が「総理のご意向」文書をスクープした時点から行っている。その後、前文科省次官の前川喜平氏が記者会見で、加計問題で「文科省の行政が捻じ曲げられた」と発言するようになって以降は、高橋氏の前川氏批判の根拠にもなっている。

高橋氏の主張は、単なる個人的な主張というだけではなく、今では、担当大臣による安倍内閣の「公式な主張」にもなっている。そればかりか、現在の状況からは、加計学園問題での安倍内閣の防衛線が、この「挙証責任」「議論終了」論だと言っても過言ではない。

そのような状況を踏まえて企画されたのが、加計学園問題についての「安倍政権の主張」の提供者とも言える高橋氏と私との討論番組だったものと思われる。

獣医学部の認可に関する国家戦略特区での議論の経過は、以下のように整理できる。

2014年7月18日 第1回新潟市区域会議:新潟市追加要望項目の1つに獣医学部新設

8月  5日 WG:文科省・農水省ヒアリング(7/18要望獣医学部新設について)

8月19日 WG:文科省・農水省ヒアリング(8/5WGの続き)

2015年6月  8日 WG:文科省・農水省ヒアリング

6月30日 閣議決定:獣医学部新設の4条件が明示される

12月15日 第18回諮問会議:「広島県・今治市」特区指定が決まる

2016年3月24日 第8回関西圏区域会議:京都府が獣医学部の設置提案

9月 9日 第23回諮問会議:重要6分野の1つとして獣医学部新設の「岩盤規制」が挙がる。安倍首相が「残された岩盤規制」への加速的・集中的対応を要請

9月16日 WG:文科省・農水省ヒアリング(安倍首相の指示を受け、獣医学部新設について議論)

9月21日 第1回今治市分科会:獣医学部提案

10月17日 WG:京都府(京都産業大構想の説明)

11月9日 第25回諮問会議:「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を直ちに行う」ことを 決定

「激論!クロスファイア」での高橋洋一氏との“激論”

高橋氏は、

需要見通しについて文科省に『挙証責任』がある

2016年3月末の期限までに挙証責任を果たせなかったことで『議論終了』

文科省の『負け』が決まり、『泣きの延長』となった2016.9.16時点でも予測を出せずに完敗

文科省文書はそれ以後のもので、文科省内の『負け惜しみ』

という従来からの自説を展開したが、その「挙証責任」「議論終了」の論拠は全く示せなかった。

獣医学部の認可については、2014年の8月に、新潟市の提案に関連して2回のワーキンググループ(以下、「WG」)が開かれ、文科省・農水省からのヒアリングが行われている、そこで、小動物、産業動物、公務員獣医師という既存の獣医師の分野の需給に大きな支障が生じることはない、という説明がなされ、一応議論は終わっている。

そして、2015年6月8日のWGで、今治市からの提案を受けて、「ライフサイエンスなど獣医師が新たに対応すべき分野」に関して議論が行われ、ここで、「新たな分野」についての対応方針を文科省が示したのを受けて、「ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要」を前提に、獣医学部の新設を検討するとの閣議決定が行われているのである。

このような経過からも、「ライフサイエンスなどの新たな分野」が議論の核心であることは明らかだが、それを高橋氏は全く認識していなかったらしく、私からの反論の冒頭で、高橋氏が「挙証責任」の対象としている「需要見通し」とは、獣医師のどの分野の見通しなのか、と質問したのに対して、高橋氏は「全体の見通し」と答えた。その時点で、高橋氏との議論はほぼ終了したに等しかった。

その後、「9月16日WGで議論が終了した」という高橋氏の主張の誤りを、諮問会議やWGの議事録に基づいて指摘したが、これに対して、高橋氏は、

文科省が挙証責任を果たせなかった時点で終わっている

終わっていなかったら、課長レベルではなく、上のレベルで話をする

などと譫言のように繰り返すだけであった。なぜ、ライフサイエンス等に関して具体的かつ充実した説明をした京都産業大学ではなく、加計学園が認可の対象に選定されたのかという疑問に対して、

申請した順番で決まる

と答えたことには、唖然とせざるを得なかった。

番組では、高橋氏が無理解を露呈し、「閣議決定により文科省に挙証責任がある」と譫言のように繰り返したため、そもそも高橋氏の「挙証責任」「議論終了」論が成立するのかという点についての議論はできなかった。

担当大臣の山本氏も、この高橋氏の主張の「受け売り」で同じように述べており、もはや公式の主張になっているので、明日(7月10日)国会で開かれる加計学園問題での「閉会中審査」でも、主要な論点となるものと思われる。それだけに、高橋氏が説明できなかったところも含め、この「挙証責任」「議論終了」論の是非について、検討をしておくことが必要であろう。

「4条件」の閣議決定から「挙証責任」は生じるのか

ここで、まず問題になるのは、2015年6月30日の獣医学部認可に関する「4条件」(いわゆる「石破4条件」)の閣議決定の趣旨である。以下に、正確に閣議決定の内容を引用する。

現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し、ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになり、かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。

ここで書いてあることは、①「現在の提案主体」つまり、国家戦略特区で獣医学部の新設を提案していた「主体」(この時点では新潟市と今治市)から、「既存の獣医師養成でない構想」が具体化されることが大前提であり、それは、文科省が行うことではない。そして、そのような構想が具体化した場合に、次に、②ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになること、③既存の大学・学部では対応が困難な場合、という2つの条件が充たされることで、次の、④「獣医師の需要の動向を考慮して」、「全国的見地から《本年度内に》に検討を行う」ということになるのである。

したがって、この閣議決定からは、まず「構想の具体化」がなければ、文科省としては、義務は何も生まれないのであり、文科省としては、閣議決定を受けて構想が具体化した場合に備えて、「獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要」や、「既存の大学・学部での対応状況」などについての調査検討を一応行うであろうが、「需要見通し」についての「挙証責任」などという話が出てくる余地はない。

したがって、この閣議決定の文言を見る限り、

文科省が「挙証責任」を負い、2016年3月末の期限までに「挙証責任」が果たせなければ、自動的に「文科省の負け」となって、告示の例外を認めて獣医学部の設置認可をせざるを得なくなる

とは全く言えないのである。

それに加え、この閣議決定に関しては、当時の担当大臣の石破茂氏が、最近になって自らのブログのインタビュー動画で、以下のとおり説明している。

(1)獣医学部は50数年作ってこなかった。それにはそれなりの理由があるが、新しく作るということにするとすれば、今まで認めてこなかったわけだから、新しい原則がいる。「石破4原則」というが、閣議決定しているので、安倍内閣全体の方針。新しく今まで認めてこなかった獣医学部・獣医学科を認めるとするならば、新しいニーズ、新しい必要性が生まれた、たとえて言うと感染症対策・生物化学兵器対策とか。アメリカには獣医の軍人がいる。軍馬だけでなく、いわゆる生物化学兵器に対処するためには獣医の軍人がいるだとか。そういう新しいニーズが生まれた、というのが一つ。もう一つは、新しいニーズに対応するだけの立派な教授陣、立派な施設とかがある。東京大学農学部獣医学科でもできないし、北海道大学農学部獣医学科でもできない、この新しい学校でなければできない、というのが3つ目の条件。今獣医さんが足りないわけではなく、犬や猫のお医者さんはいっぱいいる。だけど産業用動物と言われる牛とか豚とか、そういうお医者さんは足りない。新しく獣医学部を作っても、獣医全体の需給のバランスに悪い影響を与えないよね、ということ。さらに進めて言えば、牛や豚のお医者さんが充足されるようになる。

(2)つまり、新しいニーズができ、それに対応できるだけの立派な教授陣、立派な施設がある、今ある獣医学部ではできない、全体の獣医さんバランスに悪い影響を与えない、という4つの条件をクリアしたら、今までダメと言ってきたのを認めようという原則・条件を内閣全体として決めた。だから、石破4条件というのは、私は心外で、安倍内閣4条件と言ってほしい。

(3)獣医は全国いくつもの大学で養成しているが、大体充足しているということになっている。自由競争に任せればいい、いっぱいライセンス持った人を作って需給は市場が決める、というのも一つの考え方だが、今まで政府・文科省としては、せっかくライセンス持ってても仕事がない人いても大変だし、どんどん給与が下がっていってもそれは畜産業全体のためにもよくない、という色んな配慮があって、獣医さんの数を増やさないようにしてきた。獣医学部は従来4年だったのが、1980年代から6年に伸ばして高い能力を持つようになった。人間の病気と一緒で治療方法間違えたら大変なことになる。蔓延したらその地域の畜産業全体がすごいダメージを受ける。最近でも、狂牛病、鳥インフルエンザとかがある。それは、酪農家や畜産家だけの対応では限界があって、きちんとした能力を持った獣医さんが適切に対処するというのが畜産業全体、酪農全体のために大事なこと。

石破氏は、(2)で、 (ア)「新しいニーズができ」、(イ)「それに対応できるだけの立派な教授陣、立派な施設がある」、(ウ)「今ある獣医学部ではできない」、(エ)「全体の獣医さんバランスに悪い影響を与えない」とわかりやすい表現で、4つの条件を説明しているが、このうち、(イ)が上記①に、(ア)が②、(ウ)が③、(エ)が④に対応するものと解される。

いずれにせよ、当時の担当大臣が、閣議決定の内容について明確に説明しているのであり、上記のとおりの趣旨であることに疑いの余地はない。

しかも、石破氏は、(3)で、従来、獣医の数を増やさないようにしてきた政府・文科省の政策の理由について、「十分な能力を持った獣医が適切に対処するのが畜産業全体、酪農全体のために必要」と説明している。

獣医学部の新設を一律に認めてこなかった従前の告示には相応の理由があり、基本的にそれを維持していく方針の下で、「新しいニーズ」「それに対応できるだけの教授陣・施設」「既存の獣医学部では対応できない」「獣医全体の需給関係に影響を与えない」という4条件が充たされた場合に限って獣医学部の新設を認める趣旨であることは、石破氏の説明からも明らかだ。

結局のところ、現在の担当大臣の山本氏が、そのまま受け売りしている「高橋氏の主張」のように、《期限までに「需要見通し」を示さなかったら自動的に「文科省の負け」になって議論が終了して、告示の例外を認めざるを得なくなる》ということではないことは、閣議決定の文言からも、石破氏の説明からも、疑いの余地のないところである。

上記のような「挙証責任」「議論終了」論は、その「期限」として設定されたとする「2016年3月末」の前後の、この問題の動きからも明らかだ。もし仮に、そのような期限が設定されていて、文科省側が挙証責任を果たさない限り告示改正ということになるのであれば、内閣府側でも、国家戦略特区WGのヒアリングを開いて、期限までに文科省がどのような検討を行い、どのようなことを「挙証」できたのかを確認するのが当然であろう。

しかも、高橋氏の主張どおり、期限までに挙証責任を果たさなかったため「議論終了」になったのであれば、同年4月から5月にかけて開催された国家戦略特区諮問会議で、そのことが議題に上がるはずだが、全く議題にはなっていない。

これらのことからも、「平成28年3月末の期限までに需要見通しを示さなかったら自動的に文科省の“負け”になって議論が終了する」というような話ではなかったことは明らかだ。

国家戦略特区で獣医学部の新設が認められた経過

その後、獣医学部の認可の問題が国家戦略特区諮問会議で取り上げられたのは、9月9日で、民間議員の八田達夫氏が岩盤規制の一つとして「獣医学部の設置」の問題を挙げ、最後に安倍首相が、総括の中で

本日提案頂いた「残された岩盤規制」や、・・・をこれまで以上に加速的・集中的にお願いしたいと思います。

と発言し、それを受けて、獣医学部の認可をテーマに開かれた9月16日のWGの冒頭で、内閣府の藤原氏が

先週金曜日に国家戦略特区の諮問会議が行われまして、まさに八田議員から民間議員ペーパーをご説明いただきましたが、その中で重点的に議論していく項目の1つとしてこの課題が挙がり、総理からもそういった提案課題について検討を深めようというお話もいただいておりますので、少しそういった意味でこの議論についても深めていく必要があるということで今日はお越しいただいた次第でございます。

と発言し、その時点から、改めて獣医学部の認可の問題について「議論を深めていく」とされている。そのWGの最後で、藤原氏は、

今まさに、提案の具体化なり提案者の今後の意向みたいな話がありましたけれども

今治市の分科会は21日に開催させて頂きまして、まさに提案自治体である今治市、商工会議所の方と委員の先生方も含めて、そのあたりのまた詰めがございます。

今治市だけではなく、この要望は今、京都のほうからも出ていまして、かなり共通のテーマで大きな話になっておりますので、WGでの議論もそうですが、その区域会議、分科会のほうでまた主だった議論をしていくということになろうと思います。

と発言して、議論を締めくくっている。このことからも、9月16日のWGで「議論終了」などとは到底言えないことは明らかである。

この時点では、閣議決定の「4条件」からすると、文科省の告示を改正して獣医学部を認可するべき条件は一つも充たされていない。しかも、それは、文科省側の問題ではなく、「現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化」という前記「4条件」の①の条件が充たされていない状況だったことから、藤原氏は、上記のように締めくくって、さらに今治市分科会や今後のWG等で議論を継続していくと述べたのである。

そして、藤原氏が述べたとおり、その後、今治市分科会が開かれて、今治市側から市長や商工会議所顧問の加戸氏が出席して、特区構想についての説明がなされるが、獣医学部の新設については従来どおりの抽象的な構想にとどまっていたので、10月17日のWGで京都産業大学関係者のヒアリングを行い、ここで初めて具体的かつ充実した資料に基づき「ライフサイエンス等の新たな獣医師の分野」についての具体的な説明が行われた。 ここで、閣議決定の「4条件」のうちの①の条件を充たす可能性のある「具体的な構想」が明らかにされたのであるから、本来であれば、この後、さらにWGで、文科省、農水省のヒアリングを行って、それを踏まえて、②のニーズについての検討、③の既存の大学で対応可能か否かの検討を行って、最終的に、④の獣医師全体の需給動向を考慮して、告示の改正の是非を議論するということになるはずである。

ところが、そのようなプロセスは全くなく、その後WGの議論が全く行われないまま、11月7日に、安倍首相も出席した国家戦略特区諮問会議が開かれ、そこで、「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とするための関係制度の改正を直ちに行う」ことが決定された。その際の山本担当大臣の説明は

文科大臣がおっしゃったように、この件については、今度はちゃんと告示で対象にしようということになったので、改正ができるようになった

ということだった。

要するに、この諮問会議で決定した獣医学部の認可は、WGの議論の結果ではなく、それとは別のところで、文科省が、自主的に「獣医学部の設置を一律に認めない告示の例外を認める」と決定したということなのである。

このような国家戦略特区諮問会議やWGでの議論の経過を見る限り、「挙証責任」「議論終了」説とは真反対のことが言える。文科省告示改正によって獣医学部新設を認めることの文科省の決定は、WGの経過に基づくものとは考えられない。むしろ、その枠組みによることはできない事情(結論を急がざるを得ない事情)があったため、内閣府と文科省との非公式の接触が繰り返され、その結果、文科省が自主的に告示改正を受け入れたということなのである。そして、その経過に関して、既に明らかになっている文科省の内部文書の存在は、重要な傍証になるということなのである。

規制緩和による「新たな利権」の防止を

国家戦略特区によって、不当な規制を正し、新たな事業領域を拡大していくこと自体は、決して間違っていない。しかし、それが、権限を有する側とそれに近い人達の意向に強く影響された場合には、一部の人や組織を優遇する「新たな利権」を生むことになりかねない。それだけに、規制緩和の手続の中立・公正がとりわけ重要である。

そのような観点からすると、2015年6月30日の閣議決定で「4条件」が明示されて以来、議論されることがなかった獣医学部新設の問題が、2016年9月9日の国家戦略諮問会議での八田議員の発言で取り上げられ、安倍首相が、加速的・集中的に対応するよう要請したことを契機に、にわかに国家戦略特区の重要な課題になり、その僅か2ヶ月後の、諮問会議で、事実上今治市での新設を認めることになる決定が行われた経過は、あまりに性急であり、重大な疑念を持たざるを得ない。

国会閉会中審査での原氏、加戸氏に対する参考人質疑

明日(7月10日)、国会で開かれる閉会中審査で、前川氏のほか、午前の衆議院では、国家戦略特区WGの民間議員で獣医学部の認可の議論にも終始関わってきた原英史氏、午後の参議院では、前愛媛県知事で、今治市商工会議所顧問として、事実上獣医学部新設提案の代理人的役割を果たしてきた加戸守行氏の参考人質疑が行われる。

原氏は、高橋氏が会長を務める「株式会社政策工房」の社長であり、高橋氏と利害を共有する人物である。WGの場で、「挙証責任」という言葉を持ち出したのは原氏であり、高橋氏が早くから「挙証責任」「議論終了」論を主張してきたことに原氏が関わっていることが強く疑われる。「挙証責任」論が、少なくとも、「4条件」の閣議決定の文言や趣旨からは到底導けるものではないことは、既に述べたとおり、石破氏が個人ブログで説明しているところからも明らかだ。原氏は、何故に、無理な「挙証責任」論を展開し、それを極めて近い関係にある高橋氏が、「議論終了」論まで付け加えたのか、それを、特区の担当大臣の山本氏がそのまま「受け売り」したのか。そこには、9月9日の諮問会議での安倍首相の加速的・集中的対応の要請を契機として獣医学部新設問題が動き始めたことを「隠ぺい」しようとする意図が働いているのではないか。私は、今回の獣医学部新設問題での「政策工房」の高橋氏、原氏の動きを見て、東芝の会計不正事件における、会計監査人の新日本監査法人と新日本の監査への対策を指導していたデロイト・トーマツ・コンサルティングの動き(【最終局面を迎えた東芝会計不祥事を巡る「崖っぷち」】)を思い出した。デロイトの指導がなければ、東芝が新日本の会計監査を潜り抜けて、会計不正を継続することはできなかったのと同様に、高橋氏、原氏の動きは、公式の政策立案機関でもある文科省を「岩盤規制保護官庁」と見立て、国家戦略特区における官邸・内閣府で、それを「打破」していくことの原動力になっていたのではないか。

高橋氏は、以前同じラジオ番組に出演した際に、「政策工房という会社では何をされているのですか」と聞いたら、「政策や法律の立案をやっています」と答えていた。「政策・立法」は、これまでは各省庁が行ってきたものだったが、それを「打ち破ること」が彼らの生業のようだ。原氏の参考人質疑では、そのような彼らが、安倍内閣とどのような関係にあり、どのような利益を得て「政策立案」に関わってきたのかも明らかにする必要があるであろう。

また、加戸氏も、今治市での獣医学部新設において、重要な役割を果たしてきた人物である。昨年9月21日の今治市分科会で獣医学部新設が議題になった経緯と、そこでの加戸氏の説明では「ライフサイエンスなどの獣医師の新たな分野」について、何ら具体的な言及がなく、その点は、その後10月17日の京都産業大学のヒアリングで初めて具体的かつ充実した資料に基づく説明が行われた。この時点で、加計学園には、京都産業大学のような「ライフサイエンス」等についての具体的な構想が存在したのか、存在したのであれば、なぜ、分科会で、それを資料化して提示しなかったのか。

そして、膨大な財政負担が生じる今治市での加計学園の獣医学部の新設が、果たして今治市の将来にとってプラスになるのか、加戸氏は愛媛県知事という公職にあった人であり、当然そのあたりのことは、十分に検討し確証をもって、この話を進めてきたはずであるが、加戸氏が強調する「四国で公務員獣医が不足している」という理由が、今治市での加計学園の獣医学部新設の必要性の根拠になるのか。

52年前に、最後に獣医学部の新設が認められた青森県(番組では「秋田」と言ったが、訂正する)の北里大学の現状は、120人定員の卒業生のうち、青森県に残留する者が3人、そのうち公務員獣医師は僅か一人だそうである。

しかも、加計学園が経営する大学の運営に関しては、銚子市での千葉科学大学が、学生が集まらず定員割れの状況になり、銚子市への経済的効果が少ない割に、市に膨大な財政負担を生じさせることになったことの反省を十分に踏まえて今治市での獣医学部新設を進めてきたのであろうか。特に、同じ国家資格取得を目的とする同大学の薬学部では、設立当初の定員150人(その後120人に減員)で、国家試験合格者がわずか二十数名であり、2015年で見ると、出願者87人、受験者40人、合格者25人となっている。受験者が出願者の半分以下ということは、資格取得希望者で合格の見込みがない人間の受験を断念させて合格率を実質的に「水増し」しているとの見方もできる。(【本当に獣医学部設置は妥当?加計学園系列大学(偏差値30台)の薬剤師国家試験合格実績がひどい】)このような事実を踏まえても、本当に今治市で獣医学部を新設することが今治市民の利益になると言えるのか。

明日の参考人質疑では、前川氏に対する質疑に注目が集まるであろうが、原氏、加戸氏の質疑も、国民にとって、そして、今治市民にとって極めて重要である

https://nobuogohara.com/2017/07/09/

 

 千葉県銚子市、加計学園のために払った補助金のせいで「第2の夕張」級の借金地獄に


国家戦略特区での加計学園獣医学部新設経緯

2018年04月14日 21時09分47秒 | Weblog

https://cdn.mainichi.jp/vol1/2018/04/13/20180413hpj00m010008000q/9.jpg?1

https://cdn.mainichi.jp/vol1/2018/04/13/20180413hpj00m010009000q/9.jpg?1%22

 

以下、すべて「http://inorimashow.blog.fc2.com/」よりの抜粋引用です

目次

 1、国家戦略特区での加計学園獣医学部新設経緯

2007年5月31日 農水省「獣医師の需給に関する検討会報告書」公表

2011年5月23日 文科省「今後の獣医学教育の改善・充実方策について」意見のとりまとめ

2013年5月8日 第7回 教育再生実行会議:加戸発言:国家戦略特区資料
2013年5月10日 第1回国家戦略特区ワーキンググループ
2013年7月8日 愛媛県、全国知事会議にて「えひめ発の規制緩和提言」
2013年10月11日 構造改革特別区域の第23次提案等に対する政府の対応方針
2013年11月18日 首相動静
2013年12月13日 国家戦略特別区域法施行

2014年2月25日 「国家戦略特別区域基本方針」の閣議決定
2014年6月17日 首相動静
2014年6月25日 文科省、獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議「議論のまとめ」
2014年7月15日 愛媛県、全国知事会議「えひめ発の分権改革提言2014」
2014年7月18日 第1回新潟市区域会議:新潟市追加要望項目の1つに獣医学部新設:国家戦略特区資料
2014年8月5日 国家戦略特区WG 文科省、農水省「獣医師養成系大学・学部の新設」:国家戦略特区資料
2014年8月19日 国家戦略特区WG 農水省、文科省「獣医師養成系大学・学部新設の解禁」:国家戦略特区資料
2014年12月18日 首相動静
2014年12月21日 首相動静
2014年12月26日 国家戦略特区WG 文科省「獣医師養成系大学・学部新設の解禁議事要旨」:国家戦略特区資料

2015年1月9日 国家戦略特区WG 農水省、文科省「獣医師養成系大学・学部新設の解禁」:国家戦略特区資料
2015年1月28日 教育再生実行会議 第27回:国家戦略特区資料
2015年2月3日 国家戦略特区WG 農水省、文科省「獣医師養成系大学・学部新設の解禁」:国家戦略特区資料
2015年2月9日 愛媛県「獣医師確保対策事業費」(資料)
2015年4月2日 今治市職員、内閣府と官邸へ:今治市
2015年5月5日 首相動静
2015年6月4日 中村時広愛媛県知事 平成27年度四国知事会議
2015年6月5日 国家戦略特区WG 提案ヒアリング「愛媛県・今治市」:国家戦略特区資料
2015年6月8日 国家戦略特区WG 文科省農水ヒアリング「国際水準の獣医学教育特区」:国家戦略特区資料
2015年6月30日 「平成27年6月30日日本再興戦略改訂2015-未来への投資・生産性革命-」石破4要件:国家戦略特区資料
2015年8月15日 首相動静
2015年8月16日 首相動静
2015年9月9日 第15回国家戦略特区諮問会議(安倍発言のみ抜粋)
2015年9月19日 安倍昭恵「御影インターナショナルこども園」訪問
2015年9月21日 首相動静
2015年10月20日 第16回 国家戦略特区諮問会議(安倍発言抜粋)
2015年11月27日 第17回 国家戦略特区諮問会議(安倍発言抜粋)
2015年12月10日 国家戦略特区ワーキンググループ提案に関するヒアリング:国家戦略特区資料
2015年12月15日 第18回諮問会議:「広島県・今治市」特区指定決まる:国家戦略特区資料
2015年12月15日 石破茂内閣府特命担当大臣記者会見
2015年12月17日 全国知事会議にて「えひめ発の地方創生実現に向けた提言」
2015年12月24日 中村時広愛媛県知事定例記者会見
2015年12月24日 「男たちの悪巧み

2016年1月29日 広島県・今治市を国家戦略特区に追加指定(政令改正):国家戦略特区資料
2016年3月24日 第8回 関西圏 国家戦略特別区域会議:京都府・獣医学部:国家戦略特区資料
2016年3月30日 広島県・今治市 国家戦略特別区域会議 第1回:国家戦略特区資料
2016年4月26日 石破茂・衆院・地方創生委員会:国家戦略特区資料
2016年9月9日 第23回 国家戦略特別区域諮問会議:国家戦略特区資料
2016年9月16日 国家戦略特区WG 農水省、文科省「獣医学部の新設」:国家戦略特区資料
2016年9月21日 国家戦略特別区域会議今治市 分科会 第一回:国家戦略特区資料
2016年9月30日 国家戦略特別区域会議 東京圏(第13回)・福岡市・北九州市(第8回)・広島県・今治市(第2回):国家戦略特区資料
2016年10月4日 第24回国家戦略特別区域諮問会議:国家戦略特区資料
2016年10月17日 国家戦略特区WG提案に関するヒアリング:京都府・京産大:国家戦略特区資料
2016年10月21日 「10/21萩生田副長官ご発言概要」:文科省資料
2016年11月8日 文科省内メールと「加計学園への伝達事項」:文科省資料
2016年11月9日 1 第25回国家戦略特別区域諮問会議:国家戦略特区資料
2016年11月9日 2 「国家戦略特区における追加の規制改革事項について」:「広域的に」「限り」:国家戦略特区資料
2016年11月17日 山本幸三と日本獣医師会の意見交換:国家戦略特区資料
2016年11月18日 告示改正(案)パブコメ:国家戦略特区資料

2017年1月4日 1 告示改正(案)のパブコメ結果:国家戦略特区資料
2017年1月4日 2 告示改正:国家戦略特区資料
2017年1月4日 3 公募開始:国家戦略特区資料
2017年1月12日 国家戦略特別区域会議今治市分科会 第二回:国家戦略特区資料
2017年1月12日 加計学園の応募の公表:国家戦略特区資料
2017年1月20日 愛知県(第4回)・広島県・今治市(第3回)合同区域会議:国家戦略特区資料
2017年1月20日 第27回国家戦略特別区域諮問会議:国家戦略特区資料
2017年3月3日 今治市議会1 定例会:今治市
2017年3月3日 今治市議会2 国家戦略特区特別委員会:今治市

2、森友問題(2017年2月17日~)

番外編 2013年10月22日 衆議院 予算委員会の安倍答弁:森友問題

2017年
2月17日 衆院予算委員会
 福島伸享(安倍答弁1,2):森友問題

2月24日
1 衆議院予算委員会
 1 福島伸享1(安倍答弁3~7):森友問題
 1 福島伸享2 番外編 佐川の「迫田」隠し:森友問題
 2 玉木雄一郎(安倍答弁8):森友問題
 3 今井雅人1(安倍答弁9):森友問題
 3 今井雅人2(安倍答弁10-13):森友問題

2 財務金融委員会
 1 伴野豊(安倍答弁14):森友問題
 2 財務金融委員会2 今井雅人(安倍答弁15):森友問題
 3 財務金融委員会2 丸山穂高(安倍答弁16-18):森友問題

2月27日 衆院予算委員会
 1 福島伸享1(安倍答弁19-21):森友問題
 1 福島伸享2(安倍答弁22):森友問題
 2 今井雅人(安倍答弁23-25) :森友問題
 3 大西健介(安倍答弁26-28):森友問題

2月28日 参院予算委員会
 1 小川敏夫(安倍答弁29-32):森友問題
 2 小川勝也(安倍答弁33、34):森友問題
 3 舟山康江(安倍答弁35-37):森友問題

3月1日 参院予算委員会
 小池晃1(安倍答弁38):森友問題
 小池晃2(安倍答弁39-40):森友問題
 小池晃3(安倍答弁41,42):森友問題
 小池晃4(安倍答弁43-44):森友問題
 小池晃5(安倍答弁45-47):森友問題

3月2日 参院予算委員会
 1 小池晃(安倍答弁48):森友問題
 2 山本太郎1(安倍答弁49-51):森友問題
 2 山本太郎2(安倍答弁52-54):森友問題
 2 山本太郎3(安倍答弁55-57):森友問題

3月6日 参議院予算委員会
 1 西田昌司1(安倍答弁58):森友問題
 1 西田昌司2 番外編・取引は適正説明:森友問題
 2 福山哲郎(安倍答弁59):森友問題
 3 蓮舫(安倍答弁60):森友問題
 4 辰巳孝太郎(安倍答弁61):森友問題
 5 森ゆうこ(安倍答弁62,63):森友問題

3月7日 答弁書

 


3月8日 参院本会議
 古賀之士(安倍答弁64):森友問題

3月13日 参院予算委員会
 1 小川敏夫1(安倍答弁65-66):森友問題
 1 小川敏夫2(安倍答弁67-68):森友問題
 1 小川敏夫3 番外編・稲田答弁:森友問題
 2 川合孝典(安倍答弁69):森友問題
 3 小西洋之1(安倍答弁70-71):森友問題
 3 小西洋之2 (教育勅語・稲田):森友問題
 3 小西洋之3(安倍答弁72):森友問題
 3 小西洋之4(安倍答弁73,74):森友問題
 番外編 2013年10月22日 衆議院 予算委員会の安倍答弁:森友問題
 4 山下芳生(安倍答弁75,76):森友問題
 5 福島みずほ1(安倍答弁77):森友問題

3月14日 衆院本会議
 1 升田世喜男1(安倍答弁82):森友問題
 番外編 3月14日 稲田答弁撤回経緯概観1:森友問題
 番外編 3月14日 稲田答弁撤回経緯概観2:森友問題


3月14日 答弁書



3月16日
 3月16日の動向-付説:森友問題

3月17日 衆院外務委員会
 福島伸享1(安倍答弁83,84):森友問題
 福島伸享2(安倍答弁85,86):森友問題
 福島伸享3(安倍答弁87,88):森友問題

3月17日 答弁書


3月23日
 籠池氏証人喚問(衆参両院で同日に):森友問題

3月24日 参院予算委員会
 1 西田昌司(安倍答弁89-91):森友問題
 1 西田昌司2(安倍答弁なし):森友問題
 2 福山哲郎1(安倍答弁なし):森友問題
 2 福山哲郎2(安倍答弁92,93):森友問題
 3 大塚耕平1(安倍答弁94):森友問題
 3 大塚耕平2(安倍答弁95,96,98):森友問題
 4 小池晃1(安倍答弁なし):森友問題
 4 小池晃2(安倍答弁99,100):森友問題
 4 小池晃3(安倍答弁101-103):森友問題
 4 小池晃4(安倍答弁104,105):森友問題
 5 福島みずほ1(安倍答弁106):森友問題
 5 福島みずほ2(安倍答弁107):森友問題

3月27日
1 参院予算委員会
 1 桜井充(安倍答弁108-110):加計学園
 2 森ゆうこ(安倍答弁111):森友問題
 3 白眞勲1(安倍答弁112):森友問題
 3 白眞勲2(安倍答弁113,114):森友問題
 4 山本太郎(安倍答弁115,116):森友問題

2 参院財政金融委員会
 1 白眞勲(安倍答弁117,118):森友問題
 2 風間直樹(安倍答弁119,120):森友問題

3月28日 参院決算委員会
 1 大島九州男(安倍答弁121):森友問題
 2 斎藤嘉隆(安倍答弁122,123):森友問題
 2 斎藤嘉隆2(安倍答弁124):森友問題
 3 大門実紀史(安倍答弁126,127):森友問題
 4 又市征治(安倍答弁128):森友問題
 5 行田邦子(安倍答弁129):森友問題


3月28日 答弁書
 内閣衆質193第132号 逢坂誠二:夫人の政府専用機使用:森友問題答弁書
 内閣衆質193第133号 逢坂誠二:政務三役の関わり:森友問題答弁書
 内閣衆質193第134号 逢坂誠二:夫人:森友問題答弁書
 内閣衆質193第141号 宮崎岳志:夫人の活動:森友問題答弁書
 内閣衆質193第52号 有田芳生:政府専用機:森友問題答弁書

3月30日 衆院地方創生特別委員会
 今井雅人(安倍答弁なし) 番外編:森友問題

3月31日 参議院本会議
 小西洋之(安倍森友答弁130):森友問題

3月31日 答弁書
 内閣衆質193第144号 初鹿明博:教育勅語:森友問題

4月4日 答弁書
 内閣衆質193第160号 逢坂誠二:総理夫人付き職員:森友問題答弁書
 内閣衆質193第164号 緒方林太郎:「関係」してたら辞める:森友問題答弁書
 内閣衆質193第166号 逢坂誠二:9月5日の昭恵講演会:森友問題答弁書
 内閣衆質193第167号 初鹿明博:谷から財務省への問い合わせ:森友問題答弁書


4月4日 答弁書
 内閣衆質193第160号 逢坂誠二:総理夫人付き職員:森友問題答弁書
 内閣衆質193第164号 緒方林太郎:「関係」してたら辞める:森友問題答弁書
 内閣衆質193第166号 逢坂誠二:9月5日の昭恵講演会:森友問題答弁書
 内閣衆質193第167号 初鹿明博:谷から財務省への問い合わせ:森友問題答弁書

4月6日 衆院本会議
 逢坂誠二(安倍森友答弁131):森友問題

4月7日 答弁書
 内閣衆質193第175号 逢坂誠二:昭恵の外交旅券:森友問題答弁書
 内閣衆質193第180号 逢坂誠二:昭恵のハワイ訪問:森友問題答弁書
 内閣衆質193第181号 逢坂誠二:辻元:森友問題答弁書
 内閣衆質193第184号 宮崎岳志:2015年9月-11月の昭恵の公務:森友問題答弁書
 内閣衆質193第185号 宮崎岳志:谷の行動と内閣官房:森友問題答弁書

4月12日 衆議院厚生労働委員会
 柚木道義(安倍森友答弁132):森友問題

4月13日 参議院外交防衛委員会
 藤田幸久:森友問題

4月14日 答弁書
 内閣衆質193第196号 逢坂誠二:総理夫人付きの選挙活動支援:森友問題答弁書
 内閣衆質193第198号 小宮山泰子:夫人付きの異動:森友問題答弁書
 内閣衆質193第206号 宮崎岳志:教育勅語使用:森友問題答弁書
 内閣衆質193第210号 宮崎岳志:選挙応援同行:森友問題答弁書
 内閣参質193第77号 山本太郎:「やめる」答弁:森友問題答弁書

4月18日 答弁書
 内閣衆質193第213号 初鹿明博:歴代首相夫人の選挙応援同行:森友問題答弁書
 内閣衆質193第214号 逢坂誠二:昭恵外交旅券:森友問題答弁書
 内閣衆質193第219号 長妻昭:教育勅語:森友問題答弁書
 内閣衆質193第220号 宮崎岳志:昭恵への職員同行:森友問題答弁書
 内閣衆質193第221号 宮崎岳志:昭恵への職員同行:森友問題答弁書
 内閣衆質193第222号 宮崎岳志:昭恵・職員の働きかけ:森友問題答弁書

4月21日 答弁書
 内閣衆質193第223号 仲里利信:教育勅語の道徳教育:森友問題答弁書
 内閣衆質193第224号 逢坂誠二:昭恵付きのハワイ同行:森友問題答弁書
 内閣衆質193第225号 逢坂誠二:昭恵の地位:森友問題答弁書
 内閣衆質193第227号 逢坂誠二:厚労委員会での発言:森友問題答弁書
 内閣参質193第79号 福島みずほ:昭恵付きの応援同行:森友問題答弁書


安倍政権の「生産性革命」が、また日本をおかしくする

2018年03月26日 13時09分28秒 | Weblog

2018年2月20日 金子 勝 :慶應義塾大学経済学部教授

 安倍政権は、掲げた政策目標を達成できないまま、すぐに別の政策目標を次々と掲げる。こうしたやり方を続けていくと、政策の失敗を検証されずにすむからだ。今国会で関連法案が審議される「働き方改革」や、「生産性革命」も同じだ。

「経済優先」を掲げるのはいいが、間違った政策を繰り返すのでは、日本社会がおかしくなるだけだ。

次々打ち出される新政策
失敗の上塗りはどこまでも続く

 安倍政権での政策目標の「存在の限りない軽さ」を象徴するのが、デフレ脱却を掲げた「物価目標」だろう。

 5年前の2013年4月に掲げた「2年で2%」という消費者物価上昇の目標は6度目の延期となった。にもかかわらず、最近では、政権はもはや「デフレではない」状況を作り出したと言い出している。

 昨年12月の生鮮食品を除く消費者物価上昇率は0.9%だが、生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価上昇率は0.3%にとどまっている。

 つまり消費者物価の上昇は金融政策の効果というより、ほぼ石油などエネルギー価格に左右されている。しかも、2017年の実質賃金はマイナス0.2%になった。緩やかな物価上昇が人々の消費を増やしていく経済の好循環をもたらしているとは、とても言える状況にはない。

 そもそもデフレ脱却が達成できたというなら、なぜ日銀は大規模な金融緩和を続ける必要があるのか、説明がつかない。

「異次元緩和」を推進してきた黒田東彦日銀総裁は再任が固まったと言われているが、金融政策は出口のない「ネズミ講」のようになっている。

 金融緩和をやめようにも、国債の購入を急激に減らせば、国債価格が下落して金利が上昇し、国債利払い費が増加して財政が破綻に向かう。日銀を含む金融機関が巨額の含み損を抱え込む。そして金利の上昇に加え、日銀の株購入の減少ないし停止は株価の急落をもたらすだろう。

 失敗は明らかなのだが、もはややめられないのだ。

生産性上昇で陥る「罠」
GDPが停滞すれば労働強化に

 こうした中で、また政策目標のすり替えが起きている。

 昨年12月8日に、「人づくり革命」と「生産性革命」を両輪にした「新しい経済政策パッケージ」なるものが打ち出された。

 この「生産性革命」も極めて効果の怪しい政策だ。

 そもそも「労働生産性」とは何か。

 分子が「GDP(国民総生産、1年に作り出す付加価値の合計)」で、それを分母の「就業者数×労働時間」で割ったものだ。

 つまり労働生産性を上げるには、分母を小さくするか、分子を大きくするか、どちらかになる。

「生産性革命」の基本となっているのは「働き方改革」で、残業時間規制とともに高度プロフェッショナルという残業代ゼロの裁量労働制を導入しようとしている。

 つまり、「働き方改革」は、分母を小さくすることで生産性を上げようとする動きである。

 残業時間を規制し、能力と成果に応じて働く裁量労働制を入れれば、表面上、労働時間を減らすことができる。さらに、「人づくり革命」による教育無償化でラーニング効果(学習効果)をもたらせば、働き手の能力が上がって生産性が上昇するというわけだ。

 ところが、事はそう単純ではない。

 就業者1人当たりの生産性で見れば、低賃金の非正規雇用の増加は労働コストを下げても、必ずしも、実際の仕事の生産性を上げるとは限らない。

 一方で、労働時間当たりの生産性で見れば、裁量労働制などでサービス残業を「合法化」してしまえば、表面上の残業時間が減り生産性は上がる。

 他方、国民1人当たりの生産性を考えれば、生産年齢人口(15~64歳)が減るだけで生産性は落ちてしまう。

 そこで、政府は「人生100年時代」と称して、高齢者にもリカレント教育を行って働いてもらおうということで、「人づくり革命」なる政策を唱えるわけだが、一方でそのことは、年金支給年齢の引き上げによる「財政赤字削減」政策のほうに重きがあるように思われる。

 分子のGDPが増えない中で、労働生産性を上げるため分母を小さくすることは、分母の残業規制がゆるいと、企業は賃金引き下げとブラック労働を引き起こすだけになりかねないのだ。

「失われた20年」は、まさにそうした事態が起きてきた。そして雇用や労働が壊れることになった

「経営者精神」忘れた企業トップ
投資せずに賃金抑制

 転換点は、1997年11月に北海道拓殖銀行や山一證券が経営破綻してバブル崩壊の影響が本格化してからである。

 この時期を境にして、名目GDPの伸びは見られなくなり、代わって財政赤字(長期債務)が急速に伸びることになった。(図1

◆図1:名目GDPと政府長期債務残高の推移

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(出所)名目GDPは内閣府「国民経済計算」、長期債務残高は財務省「我が国の1970年以降の長期債務残高の推移」より作成。

 つまり、財政赤字を出し、借金の返済は次世代に負担を先送りして未来の需要を先食いしながら、何とか「現状維持」をしてきたのが、実態だ。その結果、今や日銀は出口のない金融緩和に突っ込んで、経済を持たせるのが精一杯の状態に陥っているのである。

 企業は企業防衛を優先し、法人税減税や繰延欠損金を使って負債を返し、潰れないよう動いた。

 国際会計基準の導入とともに、M&A(企業買収)が行われるようになってから、こうした傾向は一層加速した。

 それまで家計が貯蓄主体となって、その資金が金融機関を通じて、企業の設備投資資金として提供されるパターンが崩れた。図2が示すように、賃金低下と高齢化に伴って家計の貯蓄は低下し、企業(非金融法人部門)が新たに貯蓄主体となって、内部留保をため込むようになってきた。

◆図2:家計と企業(非金融法人)の資産、預金、現金の動向(フロー)

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(出所)日銀「資金循環表」より作成
https://www.stat-search.boj.or.jp/
https://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/cgi-bin/famecgi2?cgi=$nme_a000&lstSelection=FF

 つまり、企業は貯蓄主体となって内部留保をため込むことを優先して、設備投資や技術開発投資を積極的にせず、賃金支払い総額を抑えてきた。

 GDPが伸び悩み、デフレ圧力が加わる下で、企業は収益を上げるために、図3が示すように賃金支払いを抑制し、非正規雇用を増やして、労働分配率を低下させてきた。

◆図3:月間給与総額

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 労働組合(連合)も、経営者の「企業防衛」に協力し「正社員クラブ」の利益を確保するために非正規雇用の拡大を黙認した。

 これが、企業の「生産性上昇」の取り組みの中心だった。

 だがこうした動きがデフレを定着させることになった。これでは投資も消費も伸びず、分子のGDPは伸びなかった。

 就業者の1人あたり総労働時間は減少してきたが、それで、表向き生産性が上がったとして、雇用や働き方が改善されたわけではない。

 とくに、労働集約的なサービス産業を中心に雇用の非正規化が進み、いくら働いても残業代は同じという「固定残業代」に基づいてブラック労働が横行してきた。

 要するに、分子のGDPが増えない下で、企業が収益を高めようとすれば、表面上の残業時間を削り、賃金支払い額を抑制するのが最も手っ取り早い手段だからである。

「高度プロ」制度は
長時間労働を「合法化」する

 安倍政権が打ち出した「働き方改革」は、こうした状況を転換するものではない。それどころか、状況をひどくする面を持っている。

 まず裁量労働制をとり、能力や成果に基づいて賃金を支払う「高度プロフェッショナル」を設ける。これはノルマの設定次第で、勤務時間内に仕事ができなければ、それは本人の能力が足りないとされ、残業代ゼロになってサービス残業が「合法化」される。

 安倍首相と加藤厚労相は「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均か平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」という国会答弁をしたが、結局、間違いだと撤回した。実際には裁量労働制のほうが長く、その残業代をゼロにする範囲が拡大されることになる。

 残業時間規制も導入されるというが、規制といっても、通常は月平均80時間、例外的に月100時間というと、過労死ラインギリギリである。

 結局は、「名ばかり管理職」のように、職場を非正規雇用で回し、ごく少数の正規雇用に「責任」を追わせる現行のサービス産業の労働実態を追認することになる。

 そして、この残業時間に少しでも満たなければ、たとえ過労死してもそれは「合法化」されることになるのだ。

同時に考えるべきは
まともな成長戦略

 労働生産性の問題は、分子のGDPを伸ばす成長戦略に大きく依存する。分母を少なくすること以上に、より問題なのは、安倍政権では成長戦略も間違ったやり方で行われていることだ。

 昨年12月に閣議決定された「人づくり革命」と「生産性革命」を両輪とする「新しい経済政策パッケージ」にも、労働生産性を直接、引き上げる効果を持つものとして、自動走行や小型無人機を軸にしてICTやAIやロボット化などの「第4次産業革命」が掲げられている。

 しかし、問題を産業政策全般に広げてみれば、これまでの成長戦略は、世界の最先端とはずれたものとなっている。

 例えば、自動運転にしても、旧来の自動車メーカーに替わるようにテスラやグーグルのようなIT企業が中心になっている米国に比べて、日本では自動車メーカーが中心だ。また自動車メーカーが日本のIT企業と組んで大規模な自動運転の技術開発を行っているわけではない。

 世界的に進む電気自動車への転換に対しても、日本ではコストの高い水素ガスステーションをまだ推進している。

 さらにひどいのは脱原発と再生可能エネルギーへの転換だ。

 東京電力の事故処理・賠償費用が膨らみ、アメリカで相次ぐ原発の建設中止・中断によって、米国の原発産業に参入した東芝が経営危機に陥っているにもかかわらず、政府は、総額3兆円という日立のイギリスへの原発輸出プロジェクトを推進している。

 政府系金融機関を動員して出資させ、メガバンクの融資については国民の税金を使って政府保証をする方針を出している。

 国内では、電力会社は原発再稼働を前提に、再生可能エネルギーの系統接続を拒否したり、多額の接続費用を要求したりしているために、再生可能エネルギーへの転換で世界から遅れをとっている。電力使用量が3倍のリニア新幹線も明らかに時代遅れだ。

古い産業と「お友達」に
おカネを注ぎ込む時代錯誤

 安倍政権の「成長戦略」は、実際には新しく伸びる産業に向かわず、後ろ向きの古い産業の救済ばかりにお金を注ぎ込むだけである。

 しかも、安倍首相の「オトモダチ」に資金をばらまく縁故資本主義(クローニー・キャピタリズム)のような様相だ。

 ペジー・コンピューティング社のスーパーコンピュータの補助金詐取問題は、首相と親しいとされる元TBS記者が媒介したとされる。生命科学とバイオ産業の分野では、加計孝太郎理事長の加計学園に対する不透明な認可が問題になった。

「原発輸出」の中西宏明・日立製作所会長、リニア新幹線での「談合」疑惑では、葛西敬之・JR東海名誉会長など、安倍首相と親しい間柄の人物が、“登場”している

 事業を受注した際の手続きには、公正さや透明性が欠けている。こうしたやり方がまかり通るのでは、GDPを押し上げる効果や生産性上昇は期待できない。

 結局、バブルを引き起こして分子のGDPを上昇させるしかない。

 日銀の出口のない金融緩和もその一環としか思えない。もちろん、それでも労働生産性は表向き、上昇はするが、何の意味もないことだ。

 いまの「働き方改革」や「生産性革命」が分母の労働時間のことだけを議論しているあり方そのものが問題なのだ。

 分子のGDPを増やす成長戦略が間違っていれば、かえって残業がひどくなり残業代ゼロが拡大しかねない。労働生産性を問題にするなら、分母の労働時間とともに分子を増やすまともな成長戦略も同時に議論すべきである。

(慶應義塾大学経済学部教授 金子 勝)

http://diamond.jp/articles/-/160513

 

 

2018年1月10日 熊倉正修 :明治学院大学国際学部教授

日本の円安志向が危険な「習慣病」である理由

 アベノミクス開始から約五年間が経過した。

 その特徴は超金融緩和で株高、円安の流れを作り、輸出大企業などを中心に景気を牽引しようというものだ。

 日銀の異次元緩和は公式にはデフレ対策だが、円安誘導(あるいは円高阻止)を意識していることは公然の秘密だし、実際に円は2012年末から2015年半ばにかけて大幅に安くなった。しかし、肝心の景況と物価は一時的に上向いただけで、政府の経済成長目標やインフレ目標は達成されていない。

 政府・日銀の円安誘導策は本当に望ましいのだろうか。なぜ日本では「円高恐怖症」が根強いのだろうか。

官民に共通する円安志向は
見直すべき時期に

 自民党を政権に復帰させる一助になったのは、円高だった。

 民主党政権の末期には輸出企業の間でに円高に対する“怨嗟の念”が蔓延しており、それが「デフレ・円高脱却」のためなら、日銀に政府の言うことをきかせるようにする日銀法改正や、円を売って外貨で運用する官民外債ファンドの設立も厭わないとした自民党が、多くの有権者の支持を得ることになった。

 いまも、円安政策の弊害を指摘する声は今一つ盛り上がらない。官民に共通する円安志向の背後には、日本経済の構造問題と、目先のことしか考えない国民性が潜んでいると思われる。

 だがそれは根本的に見直すべき時期に来ている。

アベノミクス開始時には
「円高」は解消していた

「円高」という言葉は、「円の価値が高すぎる」という「水準」の意味で使われることもあるが、「円の価値が高まっている」という「変化の方向」の意味で使われることもある。

 日本ではこれらの区別がついていない人もが多いが、両者を区別しない為替政策はあり得ないえない。

 足元で円が強くなっていても、それが適正水準(均衡為替レート)への回帰である場合、それを無理に押しとどめようとする政策に正当性はないからだ。

 図1は、円の均衡為替レートを推察するために、輸出物価の国内物価に対する比率を算出してグラフに描いたものだ。参考として、円・ドルレートの推移も示している(日本で生産されている商品の中には外国にまったく輸出されないものが少なくないので、ここでは輸出物価指数と国内企業物価指数に共通する品目だけを抽出し、輸出物価指数のウェイトを用いて二つの指数を再集計した上で両者の比率をとるという作業を行った)。

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 この比率が上昇することは、同じ商品の輸出価格が国内販売価格に比べて高くなっていること、すなわち輸出の収益率が改善していることを意味している。ただし国内価格と国際価格はいずれ収斂するので、そうしたことが永遠に続くことはない。

 図1を見ると、民主党政権時代(2009年9月~2012年12月)の一時期には、円は水準として高すぎると言える水準にあった。

 しかし安倍政権発足直後までに、名目円ドルレートは、輸出物価の国内物価に対する比率の変化がほぼ長期的な平均値に戻っており、その時点で為替レートがほぼ適正水準に戻っていたことがわかる。

 黒田日銀総裁は、その後も「一般論ですが、金融緩和した国の通貨は弱くなる」などと発言して円安を煽っていたが、そうした態度が適切だったかは疑問である(なお、均衡為替レートを推計する方法は色々あるが、のちに示すように、どの方法を用いても結果はあまり変わらない)。

日本はなぜ円高に対して脆弱なのか
本来は為替変動の影響は少ないはず

 政治家の間で「円高アレルギー」が根強いのは、これまでは円高になると景気が悪化して国民が反発することを経験的に知っているからだろう。

 しかし日本経済がなぜ円高に対してこれほど“脆弱”なのかは、もっと真剣に議論されてよい問題だ。

 日本の貿易の中には円建てで取引されるものと、外貨建てで取引されるものがあり、為替レートの変動によって円貨での受け取り額や支払い額がただちに変化するのは外貨建ての分である。

 しかし、原油に代表されるように外貨建て取引に関して日本は大幅な輸入超過なので、円高が輸出代金を減らす効果より、輸入代金を節約する効果の方が大きいはずだ。

 自民党政権は農業者の票を気にして農産品の輸入を厳しく制限しているが、こうした政策を止めれば、円高のメリットはもっと大きくなるだろう。

 諸外国と比べても、日本の経済構造は本来なら為替変動に翻弄されにくいはずなのだ。

 世界の国々の中で本来、外需の増減や為替変動の影響をもっとも受けやすいのは、輸出に対する依存度が高く、国際市場で決まる価格をそのまま受け入れざるを得ない国々である。

 しかし図2を見ると分かるように、日本の輸出・GDP比率は、世界でもっとも低い部類に属する。

 輸出側が価格交渉力を持たない一次産品や軽工業品が輸出総額に占める比率もきわめて低い。日本ではオンリーワンの製品を作っていると自負する企業が多いが、それが本当なら、これほど為替変動に一喜一憂する必要はないのではないか。

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 しかし輸出企業の間で「円高恐怖症」が根強い主たる本質的な理由は、おそらく別のところにある。

 それは、これらの企業がもともとあまり儲かっていないことだ。

 最近は日本の企業も配当性向や株価収益率に気を配るようになり、売上高利益率も上昇している。しかし過去にも円安期には利益率が上昇していたので、それが持続的なものかどうかは分からない。

 ここで図3を用いて簡単な思考実験をし試みてみよう。

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 いま、日本と欧米の企業が、いずれも自国と外国で事業を営んでいて、国内と海外で同じ量の製品を販売しているとする。

 日本企業はおしなべて薄利なので、売上高利益率は国内でも外国でも3%だとする。欧米企業の売上高利益率は内外ともに6%だとしよう。また、どちらの企業も外国では現地通貨建てで価格を固定して販売しているとする。

 上記の状態で、自国通貨が増価すると、収益にどのような影響が出るだろうか。

 日本の場合、3%の円高が生じると外国市場における利益が消失し、それ以上円高が進むと赤字になる。国内販売分は為替レートの影響を本来は受けないが、円高が6%以上進むと、国内の利益が海外の損失によって相殺され、事業全体が赤字になってしまう。

 一方、欧米企業の場合、自国通貨の増価が6%に達するまで海外事業は赤字化せず、自国通貨高が12%を超えるまで事業全体の赤字化を避けることができる。

 上記の例から分かるのは、市場シェア確保や雇用の維持を優先して十分な利益を確保できない企業が多い国は、必然的に外的ショックに対して脆弱になるということである。

 日本のように、輸出企業が設備投資の牽引役になりやすい国ではなおさらである。

 なお、日本では対内直接投資が著しく低迷しており、またいったん進出した外資系企業が日本に見切りをつけて他国に拠点を移してしまうケースが後を絶たない。

 しかし、こうした企業の利益率を調べてみると、平均的な日本企業の利益率を上回っていることが多い。

 このことは、多くの日本企業が海外では許されないような「低収益」に甘んじていること、それが日本経済の円高に対する脆弱性の一因になっていることを示唆している。

警戒すべきは過度の円安
製造業の縮小は避けられない

 それでも円高で不況になるのは困る、円安によって株価や景気が改善するのは望ましいことではないかと言う人もいるだろう。

 しかし円高が進むたびに政府と日銀が財政支出や金融緩和によって対応し、一方で円安時には、財政緊縮や利上げをせずに静観するのでは、不況期にだけ無計画に景気対策を乱発するのと同じことだ。

 今の日本経済が置かれた状況を考えると、政府と日銀がもっとも警戒すべきなのは「方向としての」円高ではなく、「水準としての」円安が進みすぎることだ。

 円安によって景況が一時的に好転すると、本来必要な経済構造の調整が先送りされ、のちの痛みが大きくなるためである。

 一方で成熟した経済に移る中で産業構造の変化も考える必要がある。

 日本に限らず、先進国では製造業が縮小してサービス業が拡大するのが必定だからだ。

 ものづくりの国の製造業が海外に流出するのはおかしいと言う人がいるが、国内の賃金が上昇すれば企業が海外に生産拠点を移すのは当然だし、国内生産を維持するために賃金を切り下げるのは本末転倒だ。

 より重要な点として、日本のように少子高齢化が進む国が工業部門の縮小にいつまでも抵抗していると、高齢者向けの社会福祉サービスなどを担当する人材が不足してしまう。

 したがって先進国が警戒すべきなのは、製造業が縮小すること自体ではなく、それが一時期に集中することによって、産業調整の社会的コストが必要以上に大きくなってしまうことだ。

 ここで図4を見てみよう。

 図の上段のグラフは、円ドルレートの実勢値(現実の為替レート)と輸出企業の採算レートの推移を描いたものだ。

 

 この採算レートは内閣府のアンケート調査によるもので、「これ以上円高が進むと平均的な輸出企業が赤字になる」という損益分岐点に当たる円ドルレートを表している。

 それによると、過去30年間の実勢レートの採算レートに対する比率の平均値を計算すると約1.03になる。つまり企業の採算レートより、実勢レートが3%ほど「円安」になっているのが、長期的に見て正常な状態だということだ。

 このことは、輸出事業の長期的な利益率が約3%であること、すなわち前述の図3の例が現実的な想定だったことを示している。

 海外に生産拠点を持つ企業は足元の為替変動に応じて国内外の生産量を調整することが多いため、短期的には実勢レートが先に動き、それに応じて採算レートも変化する。しかし長期的には国内の賃金や生産性の変化に応じて輸出価格と採算レートが決定し、それに対して現実の為替レートが調整すると考えることが自然である。

 そこで、採算レートのデータから実勢レートの短期変動の影響だと思われる分を取り除き、それに上記の比率を乗じることにより、平均的な輸出企業にとって適正だと思われる円ドルレートを計算してみた。

 それが上段のグラフの青い点線である。

 これを見ると、現実の円ドルレートが適正レートを上回っている(あるいは下回っている)期間が、前述の図1で、輸出物価・国内物価比率が点線を上回っている(下回っている)時期とほぼ一致していることに気づく。

 このことからも例えば、民主党政権時に円は明らかに過大評価されていたが、安倍政権発足直後までに「水準としての」円高はほぼ解消していたと思われる。

工業縮小は80年代でもおかしくなかった
円安の「下駄」依存から卒業を

 図4の下段のグラフは、日本のGDPに占める製造業の付加価値と、就業者総数に占める製造業従事者の比率を示している。

 諸外国の経験に鑑みると、日本では1980年代から工業部門の縮小が始まってもおかしくなかった。

 だが1980年代前半のドル高や後半のバブル経済によって収益が押し上げられたため、企業の淘汰や雇用調整が進まなかった。

 しかしその反動によって、1993年ごろから2000年代初頭にかけて急激に雇用が減少し、製造業が集積集中する地域において社会問題化した。

 2000年代半ばにも旺盛な外需と円安によって輸出企業の業績が著しく好転し、産業調整が停止したため、リーマンショック後の大不況をいっそう深刻なものにしてしまった。

 本稿の執筆時点で、円ドルレートの実勢値が1ドル=112円前後なのに対し、上記の方法で算出した適正水準は1ドル=98円程度である。

 これだけ「円安」の下駄を履かせてもらっている以上、輸出企業の業績が好調なのは当然だ。

 だが円安が進むたびにそれを日本経済の実力だと勘違いし、その後に円高が進むと天災に見舞われたかのような大騒ぎになることは過去に何度も繰り返されてきた。

 私たちはそろそろ、そうしたことから卒業すべきではないか。

 そして政府や日銀はが目先の経済成長率やインフレ率の目標を達成するために、長期的に望ましくない今のような政策に傾倒することを、再考すべきではないだろうか。

(明治学院大学国際学部教授 熊倉正修)

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【第8回】 2017年10月19日 熊倉正修 :明治学院大学国際学部教授

「アベノミクス」「異次元緩和」は太平洋戦争と同じ過ちを繰り返す

Photo:首相官邸HP

アベノミクスを担う日銀の異次元緩和が始まって4年半がたつが、「2%物価目標」は実現しないまま、さまざまな「副作用」が目立ち始めた。日銀が大量の国債などを買い取り、資金をばらまけば「インフレ期待」が生まれ、物価が上がるというシナリオに成算があったわけでもなかった。後戻りできないまま、泥沼に入り込んだのは、太平洋戦争当時の状況と同じだ――。日銀特集「砂上の楼閣」8回目は、熊倉正修・明治学院大学教授が異次元緩和の行く末を論考する。

「アベノミクスと日銀の異次元緩和は、かつての太平洋戦争のようなものだ」

 冒頭から物騒なことを言って恐縮だが、筆者はこのように考えている。アベノミクスと、その中心的な役割を担う日銀の異次元緩和は、もともと勝算も必要性もないのに、いったん始めてしまったために簡単には後戻りできなくなっている。そういう点が太平洋戦争と似ているからだ。

 事態が悪化すると為政者はますます過激な政策にのめりこんでいくが、それを永遠に続けることはできず、最終的には国民に甚大な被害が及ぶことになる。アベノミクスと異次元緩和も、そうなってしまう可能性が否定できないと考えている。その理由を論じていきたい。

非現実的な政策目標
高成長期の慣性で成長追求

 政府と日銀が2013年に現行の政策を始めた目的は「デフレと経済停滞からの脱却」だった。

 私は当時この目的の意味がよく分からなかったし、今もって分からない。

 確かに日本の経済成長率は、図1(a)のように、G7諸国の中でも、90年代以降、かつてに比べて大きく下落した。

 だがその原因の一部は、労働人口が減少に転じたことに伴って、国民の労働時間全体が減ったことによるものだ。

 G7の国々に関して、、実質経済成長率から国民の総労働時間の伸び率を引いた「労働生産性の上昇率」(図1(b))を比較すると、日本は今でもトップクラスだ。

 その日本において、アベノミクスや異次元緩和が不可欠だとしたら、他国はもっと過激な政策が必要だということになるのではないか。

◆図1:G7諸国の実質経済成長率の推移


(注)赤が日本、青がその他のG7諸国(米、英、独、仏、加、伊)。ドイツとイタリアのマンアワー当たり実質GDPの成長率は1990年以降のみ
(出所)OECDと世界銀行のデータをもとに筆者集計 拡大画像表示

 それでも日本の政界や経済界に不満や停滞感が漂っているのは、欧米へのキャッチ・アップ過程にあった過去の高成長が忘れられないからだろう。

 安倍政権は年率2%超の実質GDP成長率を目指しているが、日本の労働時間は 今後20~30年間に、年率平均で1%程度減少する可能性が高い。その中で年率2%の実質GDP成長率を維持するためには、年率3%程度の労働生産性上昇率が必要となる。

 しかし図1(b)を見ると分かるように、G7の中でそのような高成長を維持している国は存在しない。

 政府は「そのためにできることは何でもやる」などと言って財政支出を膨らませているが、そうしたことを続けると、すでに破綻状態にある財政が崩壊したときの被害がいっそう大きくなってしまう。

「デフレ」は起きていない
物価下落はCPI統計の要因

 デフレに関する政府と日銀の認識も誤謬に満ちている。

 日本のCPIの上昇率は確かに1990年代半ばから低迷しているが、「物価水準の持続的下落」という本来の意味のデフレはなかったといってよい。

 1990年代末から2010年代初頭にかけてCPIが下落傾向にあったのは、IT機器の品質改善を考慮して統計上の物価を大幅に下方修正することが頻繁に行われていたからである。

 それを考慮すると、日本の物価は驚くほど安定しており、ここ数年はむしろ上昇傾向にある。(図2

◆図2:日本のCPIの推移(2010年=100)

(注)いずれも季節変動と消費税率改訂の影響を調整している
(出所)総務省統計局のデータをもとに筆者集計 拡大画像表示

 黒田東彦日銀総裁は「CPI上昇率が年率2%未満なら実質的にはデフレ」と主張するだろうが、国民は本当にそうした物価上昇を望んでいるだろうか。

 百歩譲ってそれが望ましいとしても、それを阻んでいるのは当の日本政府である。

政府の規制価格がむしろ
物価や賃金を抑えている

 日本のCPIが1990年代初頭まで上昇基調にあったのは、相対的に生産性上昇率の高い製造業の賃上げが他産業に波及する効果が機能していたからだ。

 しかしその後に製造業の雇用縮小が本格化すると、そうした効果が働かなくなった。

 今の日本で、唯一強力な雇用吸収力を有しているのは、介護や医療等の高齢者向け社会福祉業である。

 しかし社会福祉は、典型的な規制産業であり、サービスの価格も従業員の賃金も厳しく統制されている。

 政府が高齢者福祉にとめどなく税金を投入して価格を抑え込むことを止め、従業員の賃金も自由化すれば、人員の奪い合いが生じて、他の産業にも賃上げと物価押し上げ効果が波及するはずだ。

 それをせずに異次元緩和だけで物価を引き上げようとするのは、アクセルとブレーキを同時に踏むのと同じ愚行と言ってよい。

問題は日銀の債務超過でなく
財政の持続性に責任持たない政府

 このまま異次元緩和が続けばどうなるか。

 最近、欧米諸国が量的緩和の手じまいに向かう中で、学者やアナリストの間で、「異次元緩和からの出口段階で日銀のバランスシートが棄損する」とか「政府と日銀が事前に負担の分担を決めておくべき」といった議論が行われている。

 確かに、「出口」の利上げ局面になれば、日銀の収益悪化、さらには「債務超過」といったことも考えられる。一方で政府と日銀が一体の「統合政府」と考えれば、債務超過は大きな問題ではないし、最終的には政府が公的資金を日銀に投入すればいいという反論もあり得る。

 だが、この種の議論は本質的なものでない。

 中央銀行は究極的には政府の子会社にすぎないのだが、政府が財政の持続性に責任感を持っていない場合、中央銀行がどのように金融政策を運営しても最終的な結果は同じになる。

 したがって財政破綻状態にある日本の異次元緩和と欧米諸国の量的緩和は、もともと似て非なるものなのだ。

 このことを理解するために、ここで図3を見てみよう。

 これは異次元緩和によって政府と日銀のバランスシートがどのように変化するかを示したものだ。

◆図3:異次元緩和と統合政府のバランスシート

 上段の(a)は異次元緩和前の正常な状態である。

 日本政府は圧倒的な債務超過であり、国債を発行してその大半をファイナンスしている。日銀は現金(とわずかな法定準備金、ここでは省略)に見合う分の国債を保有している。政府・日銀間の債権債務を相殺すると、右端の統合政府(広義の政府部門)のバランスシートになる。

 一方、下段の(b)は日銀がすべての国債を購入して超過準備が膨れ上がった状態を表している。

 右上と右下の統合政府の債務残高は同一であり、異なるのは債務の内訳だけである。

 ここで注意したいのは、国債の多くが固定金利の長期債務であるのに対し、日銀の超過準備は随時引き出し可能な超短期債務であり、量をコントロールするためには利率を変化させざるをえない変動金利負債であることだ。

 このことから分かるように、異次元緩和は、借り手である政府にとって望ましいはずの長期・固定金利負債を不安定な短期・変動金利負債に置き換えているだけで、財政管理の観点からするとむしろ有害である。

 ただし、(a)と(b)の違いは究極的には必ずしも重要なものでない。

 正常な金融政策が行われている(a)の状態において政府が国債の借り換えに行き詰まった場合、デフォルト(債務不履行)を宣言することはせずに日銀に支援を求めるだろう。

 日銀が国債買い入れを拒否した場合は、日銀法を改正してそれを強制すればよいだけのことだ。

 すなわち、日銀が事前に異次元緩和を行っていなくても、財政に対する信頼が失われた時点で統合政府のバランスシートは(b)のそれに移行するわけだ。

 ただ今日のように、日銀が自発的に国債を買い入れたのちに財政破綻や金融危機が表面化した場合、政府がそれを日銀の不手際だと主張することは必定だろう。

 その意味で、特に日銀にとって異次元緩和がきわめてまずい政策であることは事実である。

資本逃避や超インフレ止められず
太平洋戦争当時と同じに

 なお、(b)では日銀のバランスシートに負債と同額の国債が資産として計上されているが、統合政府のバランスシートを見ると、それが政府の債務を日銀の債務に置き換える役割しか果たしていないことが分かる。

 このことは、日銀の負債が資産の裏付けを持たない純粋な借金であること、すなわち、日銀が発行する円という通貨が無価値であることを意味している。

 いま、(b)の状況において、国民がそのことに気づいたと しよう。

 円が無価値になった以上、早くそれを外貨や実物資産に取り換えた者の勝ちである。したがって、現金や預金を外貨や実物資産に替える動きが広がるだろう。

 そうして国民が民間銀行の預金を引き下ろしに来れば、民間銀行は日銀の準備預金を引き下ろしてそれに応じざるをえない。

 ハイパーインフレや海外への資本逃避を恐れる日銀は準備預金の引き出しを制限するかもしれないが、そのためには国民が民間銀行預金を引き出すことも制限する必要がある。それでも物価が上昇しない保証はないので、政府が価格や賃金を直接的に統制することも必要になるだろう。

 実はこうした事態は以前に起きていた。まさに先の大戦時に起きたことなのである。

 日中戦争開始以降、戦争債券の乱発や公債の日銀引き受けによって通貨量が急増していったのに対し、物価の上昇は相対的に緩慢だった。

 これは軍需に押されて生活物資が不足する中、政府が物価と賃金の統制を強めていったためであり、ヤミ価格は上昇していた。

 しかしいくら統制を続けて表面を取り繕っても、財政の持続性喪失と過剰流動性という本質的な問題は解決しない。

 図4で、正常な状態が回復した1950年代半ばと日中戦争開始時を比較すると、生産量はほぼ横ばいで、通貨量と物価だけが300倍近く上昇している。いうまでもなく、その間で政府と日銀を信じて財産を国債や現金の形で保有していた人々はそのほとんどを失った。

◆図4:太平洋戦争前後の日本の通貨流通高と物価

(注)鉱工業生産指数は1937年の値が100、通貨流通高と卸売物価指数は1937年の値が1になるように調整した
(出所)日本経済研究所編(1958)『日本経済統計集-明治・大正・昭和』等をもとに筆者集計 拡大画像表示

財政破綻の実態を隠す
財政健全化指標は「大本営発表」と同じ

 安倍首相は「今日の状況は太平洋戦争時とまったく異なり、財政の持続性は維持されている」と言うだろうが、それを信じる人は相当おめでたいと言わざるをえない。

 最近、政府は安倍政権発足時に自ら設定した「2020年までのプライマリー・バランスの黒字化」の代わりに「政府債務のGDP比」を財政健全化計画の指標として重視しつつある。

 だがこれは事実上、自分の任期中は財政再建を放棄すると宣言するのに等しい行為である。

 プライマリー・バランスの影響を別とすると、「政府債務のGDP比」が上昇するか下落するかは、既発債の平均利率と名目GDP成長率のどちらが高いかに依存しており、後者の方が高ければ下落する。

 正常な状況では経済成長率が高まれば金利も上昇するため、両者は本来、連動しているが、今の日本では日銀が長期金利を0%に固定してしまっている。

 したがって実質GDPが増えるか、インフレが進むかすれば、「政府債務のGDP比」は下落して財政健全化が進んだように見える。そして恐ろしいことに、既存の債務残高が大きいほどその効果が大きくなる。

 昨年にはGDPの集計方法が変更され、統計上のGDPが5%以上増えている。

 2019年の消費税率引き上げによって物価が上がれば、その分も「政府債務のGDP比」の引き下げに寄与する。

 こうした統計上の詭弁を弄して「財政は盤石」と主張するのではかつての「大本営発表」と同じである。

「最後通牒」は海外から
日本国債や円預金は見放される

 今後どのような形で現行の政策の矛盾が露呈するかは分からないが、国内に「王様は裸だ」と叫ぶ気概を持つ人が少ないことを考えると、先の戦争の時と同様に、「最後通牒」は海外からやってくる可能性が高い。

 日本国債の格付けはすでに先進国にあるまじき水準にまで下落しているが、あと一、二段階引き下げられると、まともな海外投資家は日本国債や円預金を保有しなくなるだろう。

 日本の民間企業が日本国債以上の格付けで社債を発行することは不可能だから、その後、事業会社や金融機関の外貨調達が困難になり、貿易や国際投資にも甚大な影響が及ぶ可能性が高い。

 そうした事態が発生した場合、政府と日銀は経済の混乱を「海外投機家」のせいにして自らの責任を回避しようとするだろう。

 太平洋戦争を惹き起こした人々も「あれは自衛戦争だった」「日本は戦争に巻き込まれた」などといって戦後すぐに政界や官界に復帰し、現在はその子孫が戦前の社会体制の復活に執念を燃やしている。

 突然の衆議院解散によって政局が流動化しているが、ここまで財政状況が悪化してしまうと、まともな政治家や政党が責任ある政策を掲げて選挙に勝利することは不可能である。

 太平洋戦争末期にも大本営発表が嘘っぱちであることに薄々気づいていた人は多かったと思われるが、軍と政府がズルズルと既定路線を続けるのを許したことにより、二度の原爆投下を含む甚大な被害を発生させてしまった。

 今回も同じ顛末になりそうだが、そのことは私たち日本人が歴史から学び合理的に行動することができない国民であることを意味しているのではないか。 

(明治学院大学国際学部教授 熊倉正修)

http://diamond.jp/articles/-/146165


 

2018年3月2日 松浦裕子 :朝日新聞経済部記者

財政健全化計画、達成不能で「やり直し」が早くも漂流の気配

 日本経済は、高度経済成長期の「いざなぎ景気」(4年9ヵ月)を超え、「戦後2番目」の長さになるとみられる景気拡大を続けている。そんな好況下にもかかわらず、安倍政権が先送りを続けてきたのが、国と地方で1000兆円超の借金をかかえる財政を健全化する取り組みだ。

 国債の利払いなどのためにまた国債を発行している「サラ金財政」にどう歯止めをかけるのか。この問題にいよいよ安倍政権も向き合うことになる。

 だが議論は早くも漂流の気配だ。

「今夏までに」新健全化計画表明
消費増税使途変更で目標断念

 1月22日に開会した通常国会での施政方針演説。

 安倍首相は「この夏までに、プライマリーバランス(基礎的財政収支=PB)黒字化の達成時期と、その裏付けとなる具体的な計画をお示しいたします」と財政健全化計画の作り直しを改めて明言した。

 PBは、社会保障や公共事業などの政策経費を、国債発行でなく、主に税収でどれだけ賄えているかを示す指標だ。

 PBが均衡し、さらに金利が成長率を上回らないという条件の下で、辛うじてGDPに対する債務残高の比率は上昇せず、債務の発散に歯止めがかけられる。

 もともとこの「PBの20年度までの黒字化」目標は、旧民主党政権が策定した「財政運営戦略」だ。

 日本の債務残高は主要国でも突出しており(図1)、当時の菅直人首相がカナダであったG20で説明し、事実上、「国際的な約束」とみなされてきた。

 それを政権交代後も安倍政権が引き継いだ形だが、そもそも成長を重視する「上げ潮派」である上に、自ら作った目標でないためか、目標達成に向けた安倍首相の意気込みは希薄だったと言わざるを得ない。

 2度にわたる消費増税の延期で、目標達成は絶望的だったが、昨秋、総選挙を前に唐突に打ち出した「消費増税の使途変更」で、「目標断念」を言わざるを得なくなった。

 19年10月の消費増税時で得られる増収分のうち、借金返済(国債償還)に回すはずだった1.7兆円分を、選挙を意識して急遽、「教育無償化」などに使うことを決めたことで、健全化シナリオの帳尻が合わなくなったからだ。

 その末の今回の計画の作り直しだ。

 安倍政権が心機一転、自らの責任で財政健全化に取り組む姿勢をどこまで示せるのか、が注目される。

「中長期財政試算」は示されたが
非現実的な前提残る

 1月下旬、その議論の出発点となる「中長期の経済財政に関する試算」(中長期試算)が経済財政諮問会議の場で示された。

 健全化計画作りの土台になるもので、内閣府が年2回、高い成長が実現した場合の「経済再生ケース」と足元と同程度の成長が続くとする「ベースラインケース」に分けて、「改定値」を公表してきた。

 今回は、前回の17年7月の試算前提に大きく変更が加えられるとともに、「経済再生ケース」の名称も「成長実現ケース」に改められた(図2)。

 前提の変更点の一つは、先に述べた19年の消費増税時の増収分の、使途変更に伴う財政収支への影響を盛り込んだことだ。

 二つ目の変更点は、「成長実現ケース」の経済前提の見直しだ。

 従来は、成長率見通しなどの前提になる質的な生産性の向上を示す全要素生産性(TFP)の値を2.2%としていたが、今回は1.5%に引き下げた。

 経済財政諮問会議の議員らからも、従来の成長率見通しなどの試算は、経済の実績と合っていないとして、「現実的なシナリオを示すように」との意見が出ていたことを反映したものだ。

 一方で、「ベースラインケース」では、足元で潜在成長率が上昇していることを織り込み、成長率の見通しを従来の実質0%台後半から今回は1%強に引き上げた。

 この結果、「成長実現ケース」では、20年度の名目成長率は、前回試算での3.9%から今回は3.1%に低下し、成長ペースはゆるやかになった。

 それに伴い、20年度のPB赤字額は、前回試算時の8.2兆円から今回は10.8兆円に拡大した。

 歳出削減などの改革を行わず、経済成長のみでPBを黒字化しようとすると、達成時期は従来の25年度から27年度に2年後ろにずれることになる。

 また「ベースラインケース」では、20年度のPB赤字額は11兆円。27年度までには黒字化のめどが立たず、同年度で8.5兆円の赤字が残る(図3)。

 この試算の公表を終えた後の記者会見で、茂木敏充経済再生相は「現実的な前提で策定された。民間議員からも極めて適切なものであると評価された」と胸を張った。

 だが、民間エコノミストらからは新たな試算に対しても「非現実的だ」との声が上がっている。

「試算はフィクションの世界」
都合よく見通し作り、歳出抑制は緩む

 例えば、今回の試算の前提になったTFPは、日本経済がバブルに向かって景気が拡大を続けた82~87年度並みで上昇すると仮定した値だ。

 その結果、名目成長率は22~27年度の間、3.4%~3.5%の高水準で推移すると見込む。

 しかし、日本経済はバブル期以降、名目3%超の成長を何年にもわたって続けたことはない。

 しかも逆に、20年の東京五輪・パラリンピック後には、景気減速の懸念もある。楽観的な想定だと言わざるを得ない。

 民間以上に冷めた目で試算を見ているのが、実は霞が関の官庁エコノミストだ。

 人気映画「スター・ウォーズ」になぞらえて「内閣府は暗黒面に落ちている」とのつぶやきも聞こえてくる。

 官庁エコノミスト集団として政治からは一定の距離を保っていた旧経済企画庁時代と比べると、今の内閣府は、政権を支える役割が増す中で、官邸の意向に沿い、積極的に政権の片棒を担ぐ存在になっているというのだ。

「現実的に修正した」とはいえ、そこそこの「高め」の成長率見通しを出すことで税収増が見込まれるようにし、アベノミクスのもとで財政健全化も着実に進むという、官邸が望むようなシナリオを描かざるを得ない、というわけだ。

「現実的な『ベースラインケース』も示すことで、官庁エコノミストとしての矜持を保っていると思ってほしい」と、微妙な胸の内を語る人もいた。

 そもそもなぜこうした成長見通しの「上げ底」が行われるのか。

「成長実現ケース」は、政府の成長戦略が首尾よくうまくいったシナリオを描く、「夢の姿」だといってもいい。

 ある経済官庁幹部は「中長期試算自体が、実態とは異なるフィクションの世界だ」と切って捨てた。

 確かに、中長期試算と日本経済の実績を見比べてみると、奇妙な姿が浮かび上がる。

 例えば、第2次安倍政権の発足後、初めて公表された中長期試算(13年8月)と、その後の実績を比較してみると、決算が出ている13~16年度では、「経済再生ケース」の場合、国の税収は、円高で企業業績が急激に悪化するなどした16年度を除き、実績が試算を上回っている。

 名目成長率は、実績が試算を下回っているにもかかわらずだ。

 つまり、高い成長が実現できていなくても、実績では、試算以上の税収を確保できていたことになる。

 PBを大きく左右するのは、政策経費と税収の額だ。

 政策経費がある程度一定ならば、税収が多いほどPBは改善しやすくなる。にもかかわらず、16年度のPBの赤字額は13年試算の13.9兆円に対して、実際は16兆円に増えている。

 結局、このことは何を意味するのか。

 税収は上ぶれしていたのに、歳出の抑制が十分に行われなかったことと、消費増税の延期でPBの赤字幅が拡大してしまったということだ。

「PB黒字化時期」前倒しの
具体策をどれだけ盛り込めるか

 今回の新しい財政健全化計画作りでも、こうした「上げ底」によって、歳出抑制が緩くなることはないのか。

 そのためには、財政試算で示された、歳出の抑制策を講じなければ27年度になるとされたPB黒字化の時期を、どれだけ前倒しできるかということと、その実現のために、歳出抑制や増税などの具体策を打ち出すかが、焦点となる。

 財政健全化を進めたい財務省は、最大の歳出項目である社会保障費については、高齢化に伴い毎年度増える自然増分を抑えるなど、「歳出抑制の目安」を計画の中に盛り込みたい考えで、まずは、安倍首相が今年秋の自民党総裁選に3選した場合の任期である21年までの3年間で、「財政規律確立」の軌道の敷くことをもくろむ。

 しかし、与党議員らの間には「目安のせいで歳出が抑制され、思い切った予算編成ができない」といった怨嗟がうずまく。

 安倍首相に近い内閣府参与の藤井聡・京大大学院教授ら経済ブレーンからも、予算にキャップ(上限)をはめることや、さらにはPBの黒字化を目標に掲げること自体に批判的な声が出ている。

 藤井氏は昨年5月、「プライマリー・バランス亡国論」と題した本を出版。この主張が反映されたかのように、昨年夏に策定された「骨太の方針(2017年)」では、従来のPB目標に加え、「同時」に、より成長を重視する「債務残高対GDP」を安定的に引き下げるという新目標が加えられた。新目標は、今後のPB目標の撤回に向けた布石ではないかとの疑念がくすぶる。

 日銀の「異次元緩和」の限界がはっきりしてきた中で、首相に影響力を持つとされる「リフレ派」の経済学者らが唱えるのは、財政出動を「脱デフレ」政策のメインに置こうというものだ。

 そして、首相自身も「私の基本的な考え方は、経済成長を実現して税収を上げることで、財政健全化を進めていくというものであります」(2月2日衆院予算委員会)と、経済成長を重視する考えを改めて示した。

 さまざまな「思惑」が入り混じるなかで、結局は、また「フィクションの世界」が、描き出されることにならないかどうか。

「2025年」を控えて
財政健全化のラストチャンス

 財政の新試算は公表されたものの、現時点ではまだ、表向き、新たな財政健全化計画の具体像は見えてこない。

「国会で新年度予算案の審議をしている間は、その先の財政健全化の話はできない」「19年の消費増税が実現するまでは、さらなる増税などの話は口にできない」などが、霞が関の関係府省幹部の多くの声だ。

 まずは、与党・自民党の財政再建特命委員会など、永田町の議論を先行させた形をとりながら、新年度予算案が成立した後の3月下旬以降、具体的な議論が進むとのスケジュールが描かれている。

 今回の財政健全化に向けた計画づくりは、団塊の世代が75歳以上になる「2025年」を前に、財政のあり方を変えることがきるラストチャンスといえる。

 急増が予想される医療費や介護費をどうのように抑制し、また財源を確保して、持続可能な社会保障制度にしていくか。

「成長」を唱え、円安にし「株価を上げれば経済も財政も回るということでやってきた「アベノミクス」。その限界がはっきりしてきたなかで、目先の「経済優先」を掲げてきた安倍政権が、将来にわたるこの国の持続性を確保し、不安のない未来を次世代に引き継いでいくことへの「本気度」が問われる局面だ。

(朝日新聞経済部記者 松浦裕子)


http://diamond.jp/articles/161873

 


森友問題、“昭恵夫人”削除の公文書改ざんでちらつく「官邸の影」

2018年03月26日 12時46分25秒 | Weblog

2018年3月26日 ダイヤモンド・オンライン編集部

 

大幅な値引きなどの不透明な国有地払い下げが疑われてきた学校法人「森友学園」(大阪市)との売却契約などの決裁文書を、財務省が改ざんした問題で、当時の理財局長、佐川宣寿・前国税庁長官の証人喚問が3月27日に行われることになった。公文書を改ざんしてまで隠さなければならなかった事情は何だったのか取材した。(ダイヤモンド・オンライン特任編集委員 西井泰之)

佐川局長の国会答弁に
合わせたのが「動機」と説明

 財務省による決裁文書の改ざんが明らかになったことで、「森友問題」は、新たな局面に入った。

 改ざんは、問題が表面化した直後の2017年2月下旬から4月に、本省の理財局が主導して行われたとされる。事前の価格協議を否定した佐川宣寿・理財局長(当時)の国会答弁と、決裁文書の内容に「齟齬があった。答弁に合わせ」(麻生財務相)たのが、その“動機”だったとされる。

「答弁」とは、「国有地の割安払い下げ」の疑惑を追及された昨年2月から3月にかけての衆院・財務金融合同委員会での発言。「記録は廃棄され残っていない」(2月24日)、「価格を(財務省から)提示したことはない」(3月15日)と、価格協議や本省の関与などを真っ向から否定するものだった。

 だが当時から、こうした「佐川答弁」に対し、財務省関係者の間でも「真意を図りかねる」との声があった。

「交渉記録が残っていないことはあり得ないし、こうした案件は、本省の判断や指示なしでやれるものではない」「国会答弁は、言質をとられないように、ぼやかして言うのが役人の心得。どう転ぶかわかならい段階で、あんなにはっきり否定して大丈夫なのかと思った」(財務省関係者)

安倍首相の「辞める」発言が
そもそものきっかけか

 佐川局長は、なぜ「全面否定」にまで踏み込んだのか。その理由として考えられているのが、その1週間前の2月17日、安倍晋三首相が予算委員会でこの問題を追及されて答えた発言だった。

「私や妻が関係していたことになれば、首相も国会議員も辞める」

 自らの「辞職」にまで踏み込んだ首相答弁は、与党や霞が関で話題になった。

 この首相答弁との関連を、ある財務省OBはこう話す。

「総理が『辞職』するとまで言って、国会審議を乗り切ろうとしている。佐川局長は、『総理案件』であることや、そうした政権の正面突破の姿勢を“忖度”して、便宜供与などの疑惑の要素が全くないかのように全面否定したのではないか」

 ところが、その後、近畿財務局の決裁文書に、安倍昭恵首相夫人に関する記述を始め、予想以上に詳細な経緯が記述されていたことが分かり、あわてて書き換えが行われたというのだ。

 だが、「局長である佐川氏が、誰の指示もなしに虚偽答弁や、文書改ざんをやったとは考えにくい」というのがもっぱらの見方だ。

 というのも、首相の国会答弁や、関連する各省の官僚の答弁は、官邸の首相秘書官らと、各省の文書課などの国会担当窓口、担当部局との間ですり合わせながら、内容が調整されるのが通例だからだ。

 そこで浮かび上がるのは、佐川局長が官邸の「指示」を受けたり、直接、受けなくても官邸の意向を“忖度”したりする形で、「全面否定の国会答弁」をし、つじつま合わせの文書改ざんに手を染めることになった可能性だ。

 野党の質問を突っぱねるような国会答弁が批判された中でも、官邸からは「佐川(局長)はよくやっている」といった声が上がっていたことも、こうした見方に現実味を持たせることになっている。

“正面突破”を演出したと
見られている今井首相秘書官

 こうした強気一辺倒の「答弁」で“正面突破”を演出したと見られているのが、これまでも、原発の再稼働や消費増税の先送りなど、重要政策が打ち出される局面を仕切ってきたあの人物。首相の最側近である経産省出身の今井尚哉・首相政務秘書官だ。

 秘書官経験もある省庁の幹部はこう話す。

「今井秘書官からは、政策のみならず、国会答弁に関しても、『これではだめだ』とか、『もっとはっきり言え』といった指示が飛んでくる。踏み込んだ総理発言に関しても、『疑惑がないのならはっきり否定した方がいい』と、総理にアドバイスをしたのだろうと、当時、霞が関で話題になった。その流れで、佐川局長にも、官邸から『はっきり否定しろ』と指示が伝えられたのではないか」

 もともと佐川氏と今井秘書官は省は違うが82年入省の同期。佐川氏は若いころは、経産省(旧通産省)に出向していたほか、予算編成をする主計局時代は、経産省担当の主計官や主査をやっており、今井氏を中心とした首相周辺の人脈に連なっていたと見られている。

 首相側近が、政権運営や個別問題の対応で、「総理の意向」を忖度して、事細かく指示を出し、各省が従う。何やら、加計学園の獣医学部新設問題で、首相補佐官らが文科省に早期認可を求めた疑惑と同じ構図だといえる。

経産省に追いやられていた
財務省の焦りも原因か

 では、3月27日に予定されている証人喚問で、佐川氏はどこまで口を開くのか。「真相」の解明はこれからだが、官邸への忖度が現実味をもって受け止められるのは、安倍政権のもとでの財務省の微妙な立場がある。

 首相の側近や政策ブレーンが、「成長戦略」を担ぐ経済産業省出身者とリフレ派の学者らで固められ、「アベノミクス」を推進してきた中で、財政健全化を進めようとする財務省は後ろに追いやられてきた。

 例えば、今井秘書官も経産省出身、森友学園との土地取引交渉の最中、財務省に問い合わせの文書を送るなどした首相夫人付き職員も、経産省からの出向のキャリアだった。

 支持率が低迷していた民主党政権末期、安倍政権誕生を見越して、経産省がアベノミクスの土台になる成長重視の政策作りで自民党に積極的にアプローチをしたのに対し、当時の野田佳彦首相が掲げていた消費増税による「税と社会保障の一体改革」を担いでいた財務省は出遅れた。

 かつては国会運営や与党との調整などを担う「黒子」として、政権運営の主導権を握っていた財務省には “焦り”があった。

 安倍政権が発足すると、第一次安倍政権の際、首相秘書官で仕えた田中一穂氏を財務次官に起用。同期入省の3人が三代、次官をするという異例の人事をしてまで、首相との距離を縮めようとした。

 だが、2014年春の消費税率の5%から8%への引き上げこそ実施されたものの、10%への税率引き上げは二度、先送りされ、2017年に入っても、政策運営で後ろに置かれる状況は続いていた。

佐川局長は栄達を考え
麻生財務相も禅譲を狙っていた?

 そうした中で、森友問題で官邸に“忠誠”を尽くすことで、安倍首相との距離を縮める好機だという空気が、財務省全体の中にあった可能性は否定できない。

 佐川局長自身も、こうした状況をうまく乗り切ることで、さらなる栄達を頭の中で考えたのかもしれない。理財局長というポストは、次官コースとされる本流の主計局長につながるポストでもあるからだ。

 一方で麻生財務相も、この事態をうまく収拾することで、首相に“貸し”を作り、場合によっては、将来の“政権禅譲”をという思惑が働いていた可能性もある。財務省にとっても、消費増税や日銀総裁人事などで、意向を主張してもらえる唯一のパイプだった麻生財務相の思惑を、おもんばかる空気も生まれていた。

 財務省幹部の一人は言う。

「安倍政権で、なかなか言うことを聞いてもらえないのは確かだが、言うべきことは総理にも言おうということでやってきた。しかも、増税や財政健全化の正面にいる主計局や主税局が政権をおもんばかるのは分かるが、理財局がそこまで忖度する必要はないはずなのだが…」

 このように見てくると、財務省が政権内での主導権争いに走ったことが、一連の「森友問題」の“一端”になっていたと思わざるを得ない。だが、そうした姿勢は、財務省の組織の末端にも大きな“ひずみ”を生んでしまっていた。

 今回、本省理財局から書き換えを指示されたとして、自殺した近畿財務局の職員は、森友学園への国有地払い下げを担当し、国会などで森友問題の疑惑追及が続いていた昨年、体調を壊して休職。「心と体がおかしくなった」「自分の常識が翻された」などと、知人らに漏らしていたと報道されている。

 本省の身勝手な理屈によって、末端の職員が振り回され、その結果、命を絶つまでに至った可能性が高い。

 政権へ忖度をする一方で、書き換えは現場に押しつけ、「組織防衛」と「自己保身」を図る姿に、エリート官僚たちのモラルハザードを感じざるを得ない。

 これも「安倍一強」の長期政権が続く中で、「政」と「官」のパワーバランスが大幅に崩れ、たがが外れてしまった異常な事態の現れだ。

 

http://diamond.jp/articles/-/164599?utm_source=daily&utm_medium=email&utm_campaign=doleditor

 

2018年3月15日 窪田順生 :ノンフィクションライター

大蔵省時代にも前科あり、「忖度と改ざん」は財務省伝統の悪癖だ

財務省が自ら改ざんするなんてあり得ない、首相や官邸の圧力があったはず――。そんな見方も多く出ているが、実は27年前に起きた証券スキャンダルでも、旧大蔵省はインチキ行為を行った。ズルをするというのは、財務省という組織に染み付いたカルチャーなのではないだろうか。(ノンフィクションライター 窪田順生)

マジメな財務官僚がなぜ暴挙に出たのか

 財務省の不正が次々と露呈して、安倍・麻生コンビが窮地に立たされている。

 財務官僚のように国を思い、規律を守るマジメな方たちが、自分から公文書の書き換えすることなどあり得ない。きっと首相や官邸がすさまじい圧力をかけて、改ざんをさせたに決まっている――。

 マスコミや野党のみなさんのロジックはざっとこんな感じだが、これまで多くの「不祥事企業」を間近で見てきた経験から言わせていただければ、かなりバイアスのかかったものの見方だと言わざるを得ない。

 断っておくと、安倍・麻生コンビをかばっているわけではない。ここまでくると、安倍首相が佐川宣寿氏を呼びつけて、「わかってるよね」などと忖度を要求した可能性もゼロではないので、ぜひ徹底的に調査をしていただき、もしそうならさっさと退陣に追い込んでいただきたい、と心から思っている。

 ただ、「ストーリーありき」の追及は問題の本質を見誤って危険だ、と申し上げているのだ。なぜかというと、マスコミが「不可解だ」と驚いている、マジメな人々がありえないような杜撰なインチキをおこなうという構造は、実は「組織不祥事」のお約束というか、定番パターンだからだ。

90年代の証券スキャンダルでも
大蔵省は虚偽答弁をした

 たとえば、少し前に話題になった三菱マテリアルや神戸製鋼などのデータ改ざん問題も、経営陣が「君たち、わかってるよね」といちいち現場に圧力をかけたわけではない。マジメな現場の技術者たちが、経営陣の思いを忖度して、作業量やコストを削減するため、自発的に不正に手を染めていたのだ。

「いや、民間と役所は違う」と言う人もいるが、定年まで骨をうずめる「ムラ社会」で、周囲と衝突せずに生き抜く人が「仕事ができる人」とされているという意味では、官僚もサラリーマンもそれほど大差はない。

 つまり、多くの企業不祥事が組織の「体質」によるものである以上、今回の「改ざん」も財務省の「体質」を考慮に入れなければ、感情的な責任の押し付け合いに終始し、根本的な問題解決に至らない恐れがあるのだ。

 なぜ筆者がそのような危機感を抱くのかというと、実は財務省の「体質」を考察していくと、「国会の答弁に合わせてズルする」というカルチャーが骨の髄まで染み込んでいることが、確認されるからだ。

 1991年6月、証券会社が大口顧客に対して総額約2164億円の損失補填を行っていたことが明らかになり、大きな社会問題となった。いわゆる証券スキャンダルの1つだ。当然、国会では大蔵省がどういう指導を行っていたのだと厳しい質問が浴びせられた。そのなかで、準大手の証券会社の補てんについて、大蔵省の担当者はこのように答弁をした。

「90年3月末までに自主的に報告をしていたのは6社」

 だが、これは今回の佐川氏の答弁と同じく、真っ赤な嘘だった。このうちの1社が報告したのは4月11日、もう1社も4月に入ってから数回に分けて報告をしていたのだ。

「規律を重んじればこそ」
インチキに手を染める

 のっぴきならない「虚偽答弁」をしたのだが、そこは霞が関最強のエリート集団である。虚偽にならぬよう答弁直前に、我々凡人ではとても思いつかないような「奇策」に出ていたことが、「日本経済新聞」の取材で明らかになっている。

「大蔵省はことし七月上旬に、この報告日時を同じ昨年の三月三十日付だったこととし、記者会見をする場合も三月中だったと説明するように指導していた」(日本経済新聞1991年10月2日)

 要するに、答弁が虚偽にならないようにうまく口裏を合わせておけよ、と証券会社に「忖度」を要求していたわけだ。

 そう聞くと、理解に苦しむ人も多いかもしれない。4月も3月もたいして違いはないじゃないか。国のために仕事がしたいという立派な志を抱き、規律を重んじるマジメな大蔵官僚が、なぜこんな危ない話を渡るのか、と。

 だが、筆者から言わせると、こういうインチキ行為に手を染めてしまうのは、「規律を重んじるマジメな官僚」だからなのだ。

http://diamond.jp/articles/-/163466

 そのあたりを端的に解説した「日本経済新聞」の解説を引用させていただこう。

『わずか二週間程度のことながら、三月末としていた報告のずれ込みを認めると、大蔵省の証券会社行政の甘さを指摘されかねない。「国会答弁との整合性をとるための指導だった」と関係者は受け止めている』(同上)

 我々一般人の感覚では、報告のずれ込みを叩かれることよりも、監督する民間企業に「嘘」を強要してバレることの方がはるかに大問題だが、当時の大蔵官僚からすれば、まったく真逆の発想だったのだ。

パワハラも改ざん体質も
上司から部下へ受け継がれる

「ミスの許されない組織」のピラミッドを駆け上がっていくはずの上司が、国会というアウェーな場所でボロカスに叩かれて失脚する、というのは、官僚人生の「死」を意味し、何をおいても避けるべき結末であると、官僚たちは捉える。それに比べれば、少しくらいの「嘘」の方がマシ。学歴エリートとして研鑽してきた事務処理能力と調整力でどうにか乗り切れる、とタカをくくっていたのだ。

 こういう大蔵省のカルチャーを知ると、今回の「改ざん」もマスコミで報道されていることとは、やや異なる見方にならないか。

 佐川氏の答弁に合うように理財局の一部職員が文書内容を変えていった、という麻生氏の説明では納得がいかない、と評論家やコメンテーターのみなさんは腹を立てるが、現に答弁に合わせて、民間企業に嘘をつけとまで言った過去がある。

 外部の人間にここまで無茶苦茶なオーダーをする組織なら、内部の人間、しかも本省が「下」に見ている地方支分部局の職員に「汚い仕事」を強いても、何の不思議もないのだ。

「いくら安倍や麻生をかばいたいからって、そんな昔の不正と結びつけるな!」という反安倍運動をされている方たちからの怒声が聞こえてきそうだが、三菱自動車のように何度も同じような不正を繰り返す企業があることからもわかるように、組織体質に「時間の経過」はあまり関係がない。

 パワハラ上司の自己正当化ロジックが、だいたい「俺の若い時はこれくらい当たり前だった」という類のものになることからもわかるように、組織人は往々にして、自分が若い時期に体得した仕事の進め方・慣習に固執し、それを良かれと思って自分の後継者たちへ伝承させていく。

 罵声を浴びながら一人前になった者は、かわいい後輩であればあるほど声を荒げる。不眠不休で働くことで組織内のポジションを得た者は、同様の苦労のできる後輩を見て誇らしげになる。これが日本企業でなかなかパワハラがなくならない理由である。

 このような負の連鎖は「不正」も同様だ。つまり、1991年当時、大蔵省内で当たり前のように蔓延していた「国会答弁に合わせてズルをする」というカルチャーも上司から部下へ、その部下が上司になって再び部下へというサイクルで、パワハラのように「悪しき伝統」として受け継がれている可能性があるのだ。

佐川氏は安倍首相に忖度し
部下たちが佐川氏に忖度した

 いずれにせよ「国会答弁に合わせてズルをする」という不正体質が大蔵省時代にもあったのはまぎれもない事実であり、1982年入省の佐川氏も、そのカルチャーの中で出世の階段を登っていった1人だ。

 そう見ていくと、今回の「改ざん」と「忖度」は“あり得ない話”には思えない。

 まず、安倍首相が昨年2月、森友学園を巡る土地売買に関して「私も妻も関与していない。関与していたら首相を辞める」と答弁をした。こうなると、若い時から「国会答弁に合わせてズルをする」というカルチャーが骨の髄まで染みついている佐川氏はどうするか。

 おわかりだろう、安倍首相の答弁に合わせて発言するという「ズル」をするのだ。

 部下たちは慌てたに違いない。局長が明らかに事実と異なることを言っている。しかし、先ほどの大蔵省時代の事例を見てもわかるように、局長に恥をかかせるのは、民間企業に「嘘」をつかせることよりも重い罪。持てる能力を総結集して避けなければいけない。

 では、どうするか。答弁はもう動かせないので、動かすのは「決裁文書」しかない。それは、文書作成にあたった近畿財務局の職員たちに「嘘」を強要するという意味でもある。

 つまり、26年前に大蔵省証券局が、証券会社らにおこなった強要とまったく同じことが、地方支分部局へ向けておこなわれた可能性があるのだ。

 ここまで述べた“前科”に加えてもう1つ、筆者は財務省に隠蔽体質をはびこらせている原因があると考えている。旧大蔵省という組織に骨の髄まで染み付いていた、「社会主義」である。

大蔵省時代に培われた
計画経済的発想が不正を招く

 実は戦後日本の金融政策は旧ソ連からモロに影響を受けた「計画経済」という考えに基づいて進められてきた。為替、税制、金融機関への厳しい統制、護送船団方式など、あらゆることが大蔵官僚の計画と統制のもとで進められなくてはいけなかったので、いつしか「金融社会主義」などと揶揄されるようになった。

 この構造が日本の金融をダメにしていると指摘してきた日本経済新聞も1990年代、「金融社会主義の罪と罰」「金融社会主義の罪をどう償うか」と社説などで厳しく批判した。この傾向は財務省となった今もまったく改まることはなかった。「とにかく我々の計画どおりに消費増税を実行せよ!」と突き進んでいるのがその証左である。

 こういう社会主義的な思想の強い組織は、不正や改ざんがはこびりやすい。

 以前、神戸製鋼の記事(「神戸製鋼『不正40年以上前から』証言で注目すべきソ連との関係」)で詳しく述べたが、社会主義的組織は何事も「計画経済」という目標ありきで物事を進める。そして、ちょっとでも計画と実態の齟齬が生まれることを極度に恐れ、経済統計の操作や、文書改ざんなどの「辻褄合わせ」が常態化して、「大義の前には不正もやむなし」というモラルハザードが引き起こされるのだ。

 そんな馬鹿な話があるかと思うかもしれないが、旧ソ連の流れをくむロシア社会の最近の「改ざん」に対する意識をみれば笑っていられない。

「独立系の調査会社による4月の世論調査では、7割近くが国益や安全保障のための報道規制は必要と答え、3割が情報改ざんもやむなしと回答した」(日本経済新聞2015年9月20日)

 ソ連が崩壊したのは1991年だ。あれから24年も経過しているのに、ロシア社会には社会主義国家時代の「辻褄合わせ文化」が今も受け継がれている。「金融社会主義」を実践していた大蔵省の流れを汲む財務省という組織の構成員たちの間に「辻褄合わせ文化」が継承されていても、何の不思議もないのだ。

 ならば、財務省に「国益のためなら改ざんやむなし」という思想が根付いてしまったのは、大蔵省時代に「金融社会主義」に傾倒したことの「副作用」という側面はないだろうか。

 今回の「国会答弁に合わせた改ざん」は、26年前の「国会答弁に合わせたズル」のリバイバルなのか。それとも、野党やマスコミの主張するように、ヒトラー安倍による恐怖政治の産物か。今後の調査報道に注目したい。

 http://diamond.jp/articles/-/163466

 

 

以下、参照

NEWSポストセブン© Shogakukan Inc.

安倍首相の「悪だくみ人脈」 始まりは昭恵さんだった

  • 昭恵さんに呆れる安倍首相「離婚できるならとっくにしてる」

    (http://www.news-postseven.com/archives/20180401_663320.html)


第2のパナマ文書か 「パラダイス文書」首脳ら120人 タックスヘイブンへの関与に批判必至

2017年11月08日 01時54分33秒 | Weblog

第2のパナマ文書か 「パラダイス文書」首脳ら120人
タックスヘイブンへの関与に批判必至


ヨーロッパ
2017/11/6 18:43

 大手法律事務所アップルビーから流出した「パラダイス文書」は、世界の首脳や閣僚、王室関係者がタックスヘイブン(租税回避地)に関与していた実態を浮き彫りにした。文書には著名人約120人の名があがった。タックスヘイブンの利用は違法ではないが、意図的な税逃れとの批判は避けられない。各国の首脳や閣僚を辞任に追い込んだ「パナマ文書」の再来となる可能性がある。

 

 パラダイス文書は国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が5日(日本時間6日未明)に公開した。英領バミューダ発祥の法律事務所アップルビーの内部文書など合計1340万件の文書で構成する。ICIJは分析を通じ、世界の首脳、閣僚ら120人がタックスヘイブンの企業に関与したと指摘した。

 米国ではロス商務長官の関連企業が米政府による経済制裁対象のロシア企業と取引していると名指しした。新たなロシア疑惑に発展する可能性が指摘されている。

 清潔なイメージが売り物のカナダのトルドー首相の盟友の名前も挙がった。同首相の資金集めを担当していたステファン・ブロンフマン氏が英領ケイマン諸島の信託会社に巨額の資金を移していたと指摘。専門家によると、カナダ、米国、イスラエルで課税を逃れた可能性があるという。

 王室では英国のエリザベス女王の個人資産がケイマン諸島のファンドに投資されたことが分かった。ヨルダンの前国王の妻、ヌール妃もジャージー島にある信託会社2社の受益者になっていたことが判明した。そのうちの1つは2015年時点で4千万ドル(約45億円)の価値があり、収入はヌール妃に支払われることになっていた。

 名前が挙がった著名人にはノーベル平和賞受賞者も含まれる。11年に受賞したリベリアのサーリーフ大統領は、01~12年までバミューダ企業の役員として登録されていた。コロンビアのサントス大統領(16年受賞)は、01年までバルバドスに設立された保険会社の役員を務めていた。

 100を超す多国籍企業の名も挙がった。ICIJの資料によると、米アップルの顧問弁護士がメールでアップルビーにタックスヘイブンでの子会社設立を相談していた。ナイキはロゴの商標権を持つペーパーカンパニーを設立し、課税逃れをしていたとしている。

 世界のリーダーや大手企業は高い倫理観やルールの順守が求められる。タックスヘイブンを使った税逃れが事実なら、有権者や消費者の反発を招くのは必至だ。

 (国際アジア部 松本史)

日本経済新聞 電子版

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23150440W7A101C1FF2000/


記者爆殺、揺れるマルタ 「パナマ文書」報道、疑惑追及

バレッタ=喜田尚 軽部理人

2017年11月6日11時43分

 10月、調査報道に携わる記者の車が爆弾で吹き飛ばされ、殺害される事件が起きた地中海の島国マルタ。彼女は国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によって昨年公表された「パナマ文書」に基づいて、政府の腐敗を追及していた。背後には組織暴力の影もちらつく。「言論の自由を守れ」。マルタの人々は連帯して声を上げている。

 「悪党だらけ。状況は絶望的だ」。マルタの調査報道ジャーナリスト、ダフネ・カルアナガリチアさん(53)が自らの人気ブログに書き込んだのは、10月16日午後だった。直後にレンタカーで自宅を出たところ、車に仕掛けられた爆弾が爆発した。即死だった。

 パナマ文書をもとに政府の疑惑を追及した彼女は、欧州では知られた存在だった。政府の重要閣僚やムスカット首相の妻が中米パナマに会社を置き、マルタにエネルギー輸出を図るアゼルバイジャンの大統領の家族の会社から大金を受け取っていたと指摘。追い詰められたムスカット首相は今年6月、批判をかわすために前倒し総選挙に踏み切った。

 政権は前倒し選挙で過半数を確保し、「再出発」が軌道に乗り始めた矢先だった。ムスカット氏は事件の打撃を抑えようと、米国連邦捜査局(FBI)やオランダの鑑識チームを招き、徹底捜査を誓った。

 与党・労働党のアレアンデル・バルザン報道官は「政府は言論の自由の保障に力を尽くしてきた」と強調する。だが選挙の勝利で疑惑のみそぎを済ませたとする政府への批判が、事件で一気に噴き出した。

 主要紙「マルタ・インディペンデント」のラチェル・アタルド編集長は「疑惑に対して首相がすべきだったのは、関係者に責任をとらせること。選挙を前倒しすることではなかった」と言う。

 マルタは人口わずか42万。欧州連合(EU)内でも治安の良さを誇り、記者が殺されたのも初めてだ。

 首都バレッタ周辺では、記者殺害や政府の対応に抗議する集会が2度開かれ、いずれも1万人近くが集まった。10月29日の集会では、若者からお年寄りまでが彼女がブログに残した最後の言葉を染めたTシャツを着て、「我々は黙らない」と訴えた。

ログイン前の続き■「外国マネーが腐敗招く」

 知人によると、カルアナガリチアさんは学生時代の1980年代、反政府活動で逮捕された経験をバネに記者を志した。主な執筆の舞台はブログだ。大手メディアに属さず、腐敗を追及する特ダネを連発した。

 マルタは二大政党制。一緒に仕事をしたカメラマンは、「人も企業も二つに分かれ、両方の内部に不満を持つ人がいる。そんな『ネタ元』が電話する先が、彼女だった」と明かす。

 マルタを経由してリビアから石油を密輸する犯罪グループの動きも書いた。今回の事件の後、イタリア南部シチリアの検察当局は記事に登場した人物が捜査対象になっていたことを明かした。マルタでは最近2年、それまで例のなかった車爆弾事件が5回も起きていた。イタリアのマフィアが使う手法だ。

 地元の弁護士、アンドレウ・ボルグカルドナ氏は「事件が起きる環境を作ったのは政府だ」と話す。

 マルタは大幅な税還付制度で法人税の負担を軽くして、外国投資を呼び込んでいる。2013年に発足した現政権は、投資した人に国籍を与える優遇制度を作り、EU市民の権利を望む域外投資家を引きつけてきた。

 政府は「競争力を高める手段。すべてEUの規則に沿っている」とするが、事件に抗議する人々には、外国マネーが腐敗を招き、言論の自由が脅かされていると映っている。

 懸念は欧州全体にも広がる。EUの行政機関である欧州委員会は3日、記者の調査報道を「我々の価値の核心」とする声明を発表。欧州刑事警察機構(ユーロポール)も、マルタで捜査に加わることになった。

 3日、彼女の葬儀には千数百人が集まった。シクルーナ大司教は訓話で「記者のみなさん、人々の目、耳、口となる使命を続けてください」と訴えた。(バレッタ=喜田尚)

北朝鮮実業家、マルタに企業

 「パラダイス文書」にも、マルタに本拠を置く企業の名があった。北朝鮮の実業家が設立した法人で、識者は「北朝鮮タックスヘイブン租税回避地)を税逃れではなく、経済制裁逃れに使っている可能性がある」と指摘する。

 韓国の調査報道機関「ニュースタパ」がマルタの記者の協力を得て取材した。

 記載があったのは「コーマル商社」。社長は女性のソン・ソンヒ氏だ。同氏の父は故金日成主席から「愛国心あるビジネスマン」とたたえられたことがあるとされ、ソン氏の一族は北朝鮮の体制と強く結びついているとみられる。

 資料によると、同社は2011年、ソン氏とマルタ人実業家が共同で設立した。主な業務内容は、輸出入のほか、料理の仕出しや医療対応となっている。会社住所はマルタ人実業家の自宅だ。

 北朝鮮の外貨獲得の重要な手段の一つが、外国への労働者派遣だ。マルタは、北朝鮮労働者が働く国の一つとして知られる。

 ソウルの北韓大学院大学のヤン・ムジン教授は、コーマル商社について「マルタに派遣された建設労働者の支援のために設立された可能性もある」と指摘する。一方で、ニュースタパは、北朝鮮タックスヘイブンに設立したペーパーカンパニーの存在を報じてきた。ヤン教授は「北朝鮮人が体制の許可なしに、タックスヘイブンにペーパーカンパニーを作れるとは思えない。国家と党のバックアップがあってのことだろう」とも話す。(軽部理人)

朝日新聞デジタル

http://digital.asahi.com/articles/ASKC240Z7KC2UHBI016.html?_requesturl=articles%2FASKC240Z7KC2UHBI016.html&rm=878


朝日新聞デジタル

パナマ文書の衝撃から1年半あまり。新たな秘密が再び、世界で一斉に報じられた。「パラダイス文書」。世界67カ国の記者たちが加わる国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)はこの1年、文書をもとに取材を重ね、タックスヘイブン(租税回避地)に隠された事実に迫ってきた。

ニューヨークから飛行機で2時間。窓の下には青い海が広がっていた。北大西洋に浮かぶ英領バミューダ諸島。「ようこそパラダイスへ」。タクシー運転手は、こんな言葉で観光客を歓待する。ここバミューダ諸島と米フロリダ半島の先端、大西洋のプエルトリコを結ぶ三角形の海域は、「バミューダトライアングル」と呼ばれる。飛行機や船が消える魔の伝説は日本でも有名だ。

 

10月上旬。正午すぎの気温は26度。中心都市ハミルトンの港には無数の白いクルーザーが浮かぶ。ピンク色の砂浜、薄いパステルカラーの家々、柔らかい風……。 米ドルが広く流通し、米国人の避寒地として人気だ。ニューヨークやアトランタなど各地から1日10便以上が降り立つ。日本人にとっての米領グアム島のような存在だろうか。

 

我々がこの島々を訪れたのには、理由がある。138の島から成るこの地域の総面積は、東京都足立区とほぼ同じ53平方キロメートル。だが、この小さな島々には別の顔がある。所得税や法人税、キャピタルゲイン(金融資産の値上がり益)への課税がない「タックスヘイブン」。多くの多国籍企業がここに拠点を構え、本国の利益を移転するなどして、その恩恵に浴しているとみられている。中心都市ハミルトンの海岸から徒歩数分の金融街。司法省や金融庁と並んでガラス張り4階建ての近代的な建物が立つ。ここが今回の取材のターゲット。パラダイス文書の主な流出元である法律事務所「アップルビー」だ。


今回、アップルビーから流出した文書は680万点に及ぶ。少なくとも2万5千の法人や組合に関する情報があり、契約書や銀行口座、Eメールなどが含まれる。膨大なデータは、パナマ文書の時と同じく、南ドイツ新聞の記者が入手した。入手経路や時期は極秘。ICIJ内の記者も知らされていない。データは何を語るのか。それはアップルビーが通常は決して明かすことのない「人」「企業」「カネ」のつながりだ。

 

流出した文書について報じるにあたって、当事者の取材は必須だ。直接取材の予定日は10月10日。我々はそれまでに、同事務所に9月から3度にわたって書面で取材を申し入れていた。だが具体的な回答は得られていなかった。直接取材は、世界各国のメディアによる異例の協働作業となった。現地入りしたメディアは7社、約20人。日本の朝日新聞とNHK、調査報道で知られる米新興メディアVICE(バイス)、オーストラリアの公共放送ABCなどだ。


「当日は何時に行く?」「正午だと遅すぎるし、午前10時は早すぎる」「地元警察を呼ばれないか?」「事務所をきょう見てきた。1階の受付は行っても大丈夫だろう」我々は前々夜から計3時間以上かけて綿密に打ち合わせした。最も避けたいのは取材拒否とともに、記者やカメラマンが当局に拘束されることだ。「ジェントル(穏やか)であろう」と、互いに声を掛け合った。取材ルールも各国で異なる。一般人に迷惑をかけたり、取材相手を刺激したりしないよう、どう担当者と接触するか、テレビカメラはどのタイミングで建物に入るかを詰めた。


10月10日午前10時53分。質問状送付などを担ってきたICIJ記者のウィル・フィッツギボン(31)と、一番のベテランである米テレビ局「ユニビジョン」上級編集者のデイビッド・アダムス(56)がドアを開け、各社の記者とカメラクルーが続いた。「メディア担当の方につないでいただけますか?」。アダムスは受付カウンターの女性職員に丁重に依頼した。ICIJの正式名称を告げると、受付職員は「インターナショナル……?」と聞き直した後、入り口近くのソファで待つよう我々に指示をした。対応したのはメディア担当ではなく、施設責任者の男性だった。ひざよりやや短い半ズボン「バミューダパンツ」をはいている。この島では正装だ。アダムスが、流出文書に関する取材であることや質問状を送付したことを説明した。

 

30分後、上階から戻ってきた男性の回答は、「今日は対応できる人がいない」というものだった。わずか1分足らずの、事実上のゼロ回答。タックスヘイブンの実態を正面から暴くことの難しさを実感させるものだった。

 

いかなる疑惑にも反論する

直撃取材から半月後、アップルビーはホームページ上に相次いで声明を掲載した。「我々が不正行為をしたという証拠は何もない。いかなる疑惑にも反論するし、当局の適切な調査には全面的に協力する」「我々は合法なビジネスのアドバイスを提供しており、違法行為は容認していない」「違法なハッキングで文書が流出したと考えられる」

 

パナマ文書には、ロシア・プーチン大統領の友人や中国・習近平国家主席の義兄の名前があり、世界を驚かせた。だがパラダイス文書も、それに勝るとも劣らぬ内容だ。税逃れへの取り締まりを公約に掲げるカナダ・トルドー首相の資金調達者が、巨額資金をタックスヘイブンに移し、課税を逃れていた疑いが浮上した。英国のエリザベス女王や、日本の鳩山由紀夫元首相の名前もあった。ICIJによると、文書に登場する各国の政治家・君主らの名前は、47カ国127人。

http://www.asahi.com/special/paradise-paper/?iref=pc_extlink



「「パナマ文書」公開で発覚!税金を払わない日本人「大金持ち」リスト

 講談社雑誌週刊現代

2016.05.17

セコム創業者,UCC代表の他にもいた

税率が著しく低いタックスヘイブン。存在は知られていたが、内情は長らくブラックボックスのままだった。そこから飛び出た、膨大な内部機密文書。ついにパンドラの箱が開く—。

資産家しかできない超節税術

兵庫県芦屋市六麓荘町。関西を代表する超高級住宅地だ。そんな中でも高台に位置する一等地に、要塞のような豪邸がそびえている。

鉄筋コンクリート3階建てで、延べ床面積750m2。裏には1000m2を超す庭が広がっている。そんな大豪邸に住む人物に「疑惑の目」が向けられている。UCCホールディングス社長でUCC上島珈琲グループCEO(最高経営責任者)の上島豪太氏(47歳)だ。

パナマにある法律事務所「モサック・フォンセカ」の機密文書が大量に流出。タックスヘイブン(租税回避地)を「活用」した課税逃れの実態を、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が調査してきた。そして5月10日、パナマ文書がついに公開される。その中には上島氏の名前もあり、タックスヘイブンにあるペーパーカンパニーを用いて、「行き過ぎた節税」を行ったのではないか、という疑惑が持たれているのだ。

パナマ文書によると、タックスヘイブンである英領バージン諸島に'00年に設立された2法人の唯一の株主で役員として、上島氏の名前が登場するという。ただし、この2法人の事業目的や活動はわかっていない。

上島氏はUCC上島珈琲創業者の孫で、3代目社長。売上高1385億円('15年3月期・単体)の大手コーヒー飲料メーカーの舵取りを託された若きリーダーだ。

「上島氏は甲南大学卒で、学生時代は少林寺拳法部の主将を務めるなど、体育会系の経営者です。若い頃から帝王学を授けられ、'09年に40歳の若さでUCC上島珈琲社長に就任しました。現在はUCCグループCEOで、社長職は弟の昌佐郎氏に譲っています。会長である父・達司氏とともに3人でがっちり経営をグリップしています。

持ち株会社であるUCCホールディングスは非上場ですから、実態は不透明ですが、上島一族がほとんどすべての株を握っているはずです。会社の利益は株式への配当という形で創業一族に入りますから、溜まりに溜まった個人資産を資産管理会社によって管理し、少しでも節税しようと考えるのは当然のことでしょう」(上島家を知る経済ジャーナリスト)

仮に父親の達司氏が亡くなれば、上島氏は株式を相続することになる。いくら非上場とはいえ、国税当局に時価換算をされ、莫大な相続税を要求されることは想像に難くない。その課税を少しでも小さくするためにタックスヘイブンの法人を利用したのではないか、というわけだ。

UCCホールディングス広報室は、

「会社設立はビジネス目的であって、租税回避や節税が目的ではございません。税務当局にも情報開示をしており、合法的に納税をしております」

と答え、あくまでも合法だと強調する。

しかし、税金がほとんど掛からないタックスヘイブンに事業目的が不明なペーパーカンパニーを設立すること自体、倫理的に問題があると考えるのが普通だ。

一般の納税者は、海外の、しかもタックスヘイブンに資産を移すことなど考えたこともないだろう。知識もないし、専門家に頼むような財力もない。そのため、何ら節税の手立てを講じることなく、国の要求するままに税金を納めている。

ところが、一部の富裕層は潤沢な資金で専門家を雇い、自分たちだけが少しでも税金が安くなるように対策を打つ。

パナマ文書によって名前が公開された政治家や官僚、俳優、有名スポーツ選手が非難を浴びるのは、まさにこれが原因なのだ(名前の挙がっている世界の主な著名人は次ページ表参照)。

自分たちだけがタックスヘイブンという「隠れ蓑」を利用して節税し、合法だと言い張る。その姿に一般の納税者は強烈な「不公平感」を抱いているのである。

最大の関心は「相続税逃れ」

パナマ文書の中には、セコム創業者で最高顧問の飯田亮氏(83歳)の実名も挙がっている。

「若い頃の飯田さんはケチで有名で、セコムじゃなくて『セコく』やってあそこまで会社を大きくしたと揶揄されることもありました。今となっては、カネは腐るほどあるでしょうから、自宅や別荘に惜しみなく金銭をつぎ込んでいます。ただ、相続税で国に持っていかれるのを嫌い、専門家に任せて、タックスヘイブンに会社を設立したのでしょう」(ベテラン経済ジャーナリスト)

セコムのコーポレート広報部は、課税回避をこう言って否定する。

「本件については、日本の税務当局から求められた必要な情報を開示するとともに、法律専門家から税務を含む適法性についての意見を聞いた上で、正しく納税済みであると聞いています」

パナマ文書にはまだ他にも日本人や日本企業の名前が含まれている。ICIJに参加している朝日新聞によれば、パナマ文書に名前の挙がった「大金持ち」のリストは以下のとおり。

・英領バージン諸島に会社を所有する貿易会社社長(44歳)
・家具を輸入販売していた西日本の男性(62歳)
・関西の自営業の男性(64歳)
・関西でアパレル会社を父から継いだ男性(56歳)
・都内でアパレル会社を営む男性(60歳)
・都内でFX仲介業を営む男性(50歳)

富裕層の資産運用に詳しい経営コンサルタントの加谷珪一氏が、彼らの特徴を分析する。

「共通するのは、いずれも企業の創業者や創業一族ということ。資産家にとって最大の関心事は相続税と言っていいでしょう。自分が親からどのように相続するか、もしくは自分の子供にどう相続させるか。その際には、できるだけ相続税を軽くしたい。金融資産が数十億円ある場合は、タックスヘイブンに移せば大きな節税効果を得られる場合があります。

とはいえ、資産を移す際に日本国内で譲渡税を支払っているはずなので、その事自体に犯罪性はほとんどないのです」

伊藤忠商事や丸紅といった大手商社も、タックスヘイブンの会社に出資していることが判明した。両社の広報部は「ビジネス目的であって、租税回避の目的はない」と口を揃える。だが、日本の商社が税金を安くしようとタックスヘイブンを活用してきたのは、業界では常識だ。

「かつてタックスヘイブンに関連会社を設立して、商品ファンドの運用に携わったことがあります。機関投資家である大手生命保険会社から依頼されて、資金の一部を商品ファンドで運用することになったのです。

タックスヘイブンで運用すれば利益に課税されませんから、それを再び投資に回すことができる。それだけ大きなリターンが見込めるということです。運用は専門の海外企業に任せていましたが、彼らにとっても税金を安く抑えることができる。これは合法的な節税です」(元大手商社幹部)

日本勢はケイマンに63兆円

近年、多国籍企業によるタックスヘイブンを悪用した課税逃れの手口は狡猾になっていく一方だ。複数のタックスヘイブンのペーパーカンパニーを経由して、税金をほとんど納めない巨大企業の存在が世界的に問題視され始めている。

たとえば、英国では'12年にスターバックス社が3年間で約2000億円もの売り上げがありながら、法人税を一銭も納付していなかったことが指摘され、英国民の怒りが爆発した。

昨年は米アップルが海外で1811億ドル(約19兆円)を稼いでいるにもかかわらず、米国内でそれに見合った額の納税を行っていないと厳しく批判された。

今回、パナマ文書で明らかになった事例は氷山の一角。日本企業はタックスヘイブンとして有名なケイマン諸島に多額の資産を溜め込んでおり、その実態はいまだ謎のベールに包まれたままだ。

日本共産党の参議院議員、大門実紀史氏がこう指摘する。

「日本銀行の調べでは、日本企業が'14年末の時点でケイマン諸島に総額で約63兆円の投資を行っています。1位の米国の約149兆円に次いで、堂々の2位です。カリブ海に浮かぶ小さな島への投資額は突出していると言わざるをえない。

内訳を見ると、その多くをファンドが投資しているようなのですが、タックスヘイブンでは出資者を匿名にする手続きも可能ですから、詳細はわかりません。わかっているのは投資収益が2兆8000億円あるにもかかわらず、課税対象が1755億円と微々たるものであることだけです」

資産移転は超富裕層にも顕著だ。国税庁は課税逃れを取り締まるため、5000万円以上の海外資産については報告するよう「国外財産調書」の提出を義務付けている。

ところが、これが機能していないと指摘するのは、政治経済研究所理事で『タックスヘイブンに迫る』著者の合田寛氏だ。

「野村総合研究所の調べでは、日本国内で1億円以上の金融資産を保有する資産家は約100万人いるとされています。国税庁は、そのうち10%前後(約10万人)は国外に財産を保有していると見ている。

ところが、国外財産調書の提出者は8184件('14年度)にすぎません。9割以上の資産家はタックスヘイブンを利用するなどして、名前を隠して海外に資産を保有しているのです」

税収ロスは「消費税2%」分

こうした手法が跋扈することによって、今やタックスヘイブンには巨額の資産が溜め込まれている。合田氏が続ける。

「『21世紀の資本』著者、トマ・ピケティの弟子、ガブリエル・ズックマンが試算しています。彼によれば、タックスヘイブンにある金融資産は控えめに見ても7兆6000億ドル(約813兆円)に達していて、その結果、徴税を逃れている金額は1900億ドル(約20兆円)に上るといいます。

多国籍企業の課税逃れによる税収ロスを足せば、最大で50兆円くらいはあるのではないか。そのうちの1割が日本の税収ロスとすると、日本政府が徴収できていない税金は5兆円。これは消費税を2%上げて増える税収と同じです」

大企業や富裕層による「節税・逃税」のしわ寄せは、一般の納税者に向かう。弁護士の宇都宮健児氏が総括する。

「タックスヘイブンを利用することは『脱税』のような違法行為ではないかもしれません。しかし、大企業や富裕層が課税逃れをしているから、政府は一般の企業や国民から税金を巻き上げて、それらを社会保障の財源として使っているんです。

本来、税収を上げるなら、庶民から取るのではなく、タックスヘイブンを利用するような人たちにきっちり納税させるべきだと思うのですが」

課税を逃れる巨大企業や超富裕層をこのまま野放しにしておいていいのか—。パナマ文書公開の衝撃は、すぐに収まりそうにない。

「週刊現代」2016年5月21日号より

 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48640


 

「パラダイス文書」にエリザベス女王やマドンナ、ボノの名前も

ローマ・カトリック教会の聖職者がバミューダ諸島に会社を持っていたことも判明

2017年11月06日 11時47分 JST


 英女王・マドンナ・中東の王妃... 「税の楽園」集う大物

 大手法律事務所「アップルビー」などから流出した膨大な「パラダイス文書」には、英国のエリザベス女王といった数々の著名人や、米アップル社など世界的に事業を展開する多国籍企業の名が載っていた。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の取材で、タックスヘイブン(租税回避地)での経済活動の一端が明らかになった。(疋田多揚、軽部理人)

 「分配金の詳細」

 

 パラダイス文書の一つに、こう題された文書があった。日付は2008年6月12日。本文はこう続く。「みなさまに3千万ドル(約34億円)の分配金をお知らせいたします」

 受益者の中には、エリザベス英女王の個人資産を表す名称があった。

 それによると、女王は05年、タックスヘイブンで有名な英領ケイマン諸島のファンドに750万ドル(約8億6千万円)の個人資産を投資。3年後に36万ドル(約4100万円)の分配金の知らせを受け取った。

 

 女王のお金はこのファンドを通じ、別の会社へ投資された。英国の家具レンタル・販売会社「ブライトハウス」を支配下に置く会社だ。ブライト社は、一括払いができない客に年率99・9%の高利を求める手法が、英国議会や消費者団体から批判を浴びていた。

 女王の資産は、英国内での運用は一部が明らかになっているが、英国外での運用は知られてこなかった。女王の広報担当はICIJに「ブライト社へ投資されたことは知らなかった。女王は個人資産やその運用で得た所得税を納めている」とコメントした。

 

 

朝日新聞社 エリザベス英女王の個人資産をめぐる構図

 ローマ・カトリック教会の聖職者がバミューダ諸島に会社を持っていたことも文書でわかった。メキシコ出身の故マルシアル・マシエル神父。「キリスト軍団」という修道会を創設し、「カトリック最大の資金貢献者」と称される一方で、神学生への性的虐待容疑で告発された人物だ。カトリック教会は、その資産を運用する団体がマネーロンダリング(資金洗浄)などの不正に長年かかわってきたと指摘されている。

 

 またヨルダン前国王の妻ヌール王妃は、英王室属領のジャージー島にある二つの信託会社から利益を得ていた。ブラジルの中央銀行総裁も務めたメイレレス財務相は、「慈善目的」でバミューダ諸島に財団を設立していた。約30年の独裁体制を強いたインドネシアのスハルト元大統領の2人の子どもも、アップルビーの顧客リストに載っていた。

 文書からは「セレブ」の資産運用も垣間見える。米歌手のマドンナ氏は医療用品販売会社の株を持っているほか、ロック歌手ボノ氏は、マルタに登録された会社の株を所有していた。

 米投資家で、ICIJに慈善団体を通じて寄付しているジョージ・ソロス氏もタックスヘイブンに置いた組織の運営に関し、アップルビーを利用していた。

 世界最大規模の米ネットオークションサイト「eBay(イーベイ)」創設者のピエール・オミディア氏がケイマン諸島の金融商品を所有していることもわかった。

(朝日新聞デジタル 2017年11月06日 07時02分


朝日新聞社説

2017年11月03日 22時30分50秒 | Weblog

(社説)がん基本計画 めざす目標をはっきり

2017年10月29日05時00分

 必要な措置はひととおり盛り込まれた。だが、具体的な数値目標や水準が示されない項目が多いのは、どうしたことか。

 閣議決定された第3期がん対策推進基本計画のことだ。

 今後6年間の施策の指針となるもので、小児や働く世代に加え、思春期や若年成人、高齢者への支援・診療体制をつくる必要性が明記された。また、遺伝情報をもとに治療方針を決める「ゲノム医療」の推進をうたうなど、これまでの計画以上に手厚い内容になっている。

 しかし各施策の個別目標を見ると、「検討する」「進める」などの表現が多い。これでは実現への道筋が見えず、将来、成果を分析し、評価・検証する作業が難しくなりかねない。

 たとえば、どこまで治療するのが患者本人のためになるか、判断が難しい高齢者について、「診療ガイドラインを策定した上で、拠点病院等に普及することを検討する」とある。

 大切なのは、普及でも検討でもない。患者の要求にかない、生活の質の向上につながる診療が、現場でどれだけ行われるかだ。その視点で目標を設定するべきではなかったか。

 第2期までの計画にあった、75歳未満のがん死亡率(10万人あたりの死亡人数)を「10年間で20%減らす」という目標も、今回なくなった。15年までの10年間の実績は16%の減少。「死亡率にばかりこだわるべきではない」との考えはあるものの、再び目標を達成できなかったときの批判を恐れたとすれば、本末転倒ではないか。

 数値目標がなくなると知り、「対策の評価が難しくなる」などとして、独自に目標を設けることを決めた県もある。

 一方、がんの早期発見に関しては、検診の受診率を50%(現在30~40%台)に、そこで異常が見つかったときの精密検査の受診率を90%に、それぞれ引きあげることが設定された。

 人々に検診の重要性が伝わっていないのか。仕事を休めないなどの事情があるのか。好成績の自治体はどんな工夫をしているか。原因を分析し、効果的な対策につなげてもらいたい。

 焦点だった受動喫煙対策は、法律でどんな規制をするか、政府と与党の調整がついていないため、先送りとなった。

 社説でくり返し主張してきたように、職場や家庭、飲食店での受動喫煙をすべてゼロにするとの考えを、計画にはっきり書くべきだ。周知や準備の期間を考えると、東京五輪・パラリンピックの20年まで猶予はない。これ以上の遅れは許されない。

(社説)指導死 教室を地獄にしない

2017年10月29日05時00分

 子どもたちの可能性を伸ばすべき学校が、逆に未来を奪う。そんな過ちを、これ以上くり返してはならない。

 教師のいきすぎた指導が生徒を死に追いやる。遺族たちはそれを「指導死」と呼ぶ。

 福井県の中学校で今年3月、2年生の男子生徒が自死した。宿題の提出や生徒会活動の準備の遅れを、何度も強く叱られた末のことだった。

 有識者による調査報告書を読むと、学校側の対応には明らかに大きな問題があった。

 周囲が身震いするほど大声でどなる。副会長としてがんばっていた生徒会活動を「辞めてもいいよ」と突き放す。担任と副担任の双方が叱責(しっせき)一辺倒で、励まし役がいなかった。

 生徒は逃げ場を失った。どれだけ自尊心を踏みにじられ、無力感にさいなまれただろう。

 管理職や同僚の教員は、うすうす問題に気づきながら、自ら進んで解決に動かなかった。肝心な情報の共有も欠いていた。追いつめられた生徒が過呼吸状態になっても、「早退したい」と保健室を訪ねても、校長らに報告は届かなかった。

 生徒が身を置いていたのは、教室という名の地獄だったというほかない。

 だがこうしたゆがみは、この学校特有の問題ではない。「指導死」親の会などによると、この約30年間で、報道で確認できるだけで未遂9件を含めて約70件の指導死があり、いくつかの共通点があるという。

 本人に事実を確かめたり、言い分を聞いたりする手続きを踏まない。長い時間拘束する。複数で取り囲んで問い詰める。冤罪(えんざい)を生む取調室さながらだ。

 大半は、身体ではなく言葉による心への暴力だ。それは、教師ならだれでも加害者になりうることを物語る。

 文部科学省や各教育委員会は教員研修などを通じて、他の学校や地域にも事例を周知し、教訓の共有を図るべきだ。

 その際、遺族の理解を得る必要があるのは言うまでもない。調査報告書には、通常、被害生徒の名誉やプライバシーにかかわる要素が含まれる。遺族の声にしっかり耳を傾け、信頼関係を築くことが不可欠だ。

 文科省は、いじめを始めとする様々な問題に対応するため、スクールロイヤー(学校弁護士)の導入を検討している。

 求められるのは、学校の防波堤になることではない。家庭・地域と学校現場とを結ぶ架け橋としての役割だ。事実に迫り、それに基づいて、最良の解決策を探ることに徹してほしい。

(社説)規制委5年 対話通じて安全高めよ

2017年10月30日05時00分

 原子力規制委員会の2代目委員長に更田豊志(ふけたとよし)氏が就いて、1カ月がすぎた。

 発足から5年率いた田中俊一前委員長のもとで、更田氏は委員や委員長代理を務めてきた。田中氏と二人三脚で築いた土台をもとに、積み残された課題への取り組みが問われる。

 東京電力福島第一原発の事故後、原子力安全行政の刷新を担った規制委は、「透明性と独立性」を目標に掲げてきた。

 透明性についてはかなり徹底されている。テロ対策などを除いて会議はほとんど公開され、資料や審議内容はウェブサイトで確認できる。毎週の委員長会見は動画や速記録でたどれ、他省庁が見習うべき水準にある。

 独立性も、電力会社とのなれ合いが批判された以前の態勢と比べて改善されたと言える。

 ただ、新規制基準に照らして原発再稼働の是非を判断する適合性審査には問題が残る。評価の対象が機器などに偏り、電力会社の組織運営や職員の意識に対する審査が不十分だからだ。

 再稼働した原発の運転中の管理もまったなしの課題である。

 事故防止の第一の責任は電力会社にあるが、規制委やその実動部隊である原子力規制庁は、安全軽視の姿勢や訓練不足といった問題がないか、目を光らせる役目を負う。

 カギになるのは、電力事業者との「対話」だろう。現場への訪問などで意思疎通を図りながら、安全文化の劣化の兆候を探る。ごまかしを見抜く技術を磨くことが不可欠になる。

 世界の潮流だが、日本では手つかずだ。抜き打ち検査など緊張感を保つ手法も組み合わせ、安全を高めていけるか。更田氏は規制庁職員を米国で研修させ、検査業務に明るい米コンサルタント会社も使う考えだ。先達の知恵を生かしてほしい。

 規制委の対話力は、地震や火山噴火など人知が十分でない分野でも試される。専門の学者らと交流を重ね、最新の知見に基づく規制をめざしたい。

 柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原発(新潟県)の再稼働について「適合」判断を示したことでは、米山隆一新潟県知事から説明を求められている。原発を抱える自治体には、規制委との距離を感じているところが少なくない。

 現地に足を運び、意見に耳を傾けて、自らの仕事を見つめ直す。そうした機会をもっと増やしてはどうか。

 独立性を追求し続けることは大切だが、孤立や独善に陥っては元も子もない。さまざまな対話を重ねて、安全性の向上につなげるべきである。

(社説)「慰安婦」裁判 韓国の自由が揺らぐ

2017年10月31日05時00分

 自由であるべき学問の営みに検察が介入し、裁判所が有罪判決を出す。韓国の民主主義にとって不幸というほかない。

 朴裕河(パクユハ)・世宗大学教授の著書「帝国の慰安婦」をめぐる刑事裁判で、ソウル高裁が有罪の判決を出した。

 著書には多くの虚偽が記されていると認定し、元慰安婦らの名誉が傷つけられたと結論づけた。朴教授には罰金約100万円を言い渡した。

 虚偽とされたのは、戦時中の元慰安婦の集め方に関する記述などだ。研究の対象である史実をめぐり公権力が独自に真否を断じるのは尋常ではない。

 一審は、大半の記述について著者の意見にすぎないとして、無罪としていた。高裁は一転、有罪としながら、学問や表現の自由は萎縮させてはならないと指摘したが、筋が通らない。

 学問の自由が守られるべき研究の領域に踏み込んで刑事罰を決める司法を前に、学者や市民が萎縮しないはずがない。

 韓国では、植民地時代に関する問題はデリケートで、メディアの報道や司法判断にも国民感情が影響すると言われる。

 そんな中で朴教授は、日本の官憲が幼い少女らを暴力的に連れ去った、といった韓国内の根強いイメージに疑問を呈した。物理的な連行の必要すらなかった構造的な問題を指摘した。

 社会に浸透した「記憶」であっても、学問上の「正しさ」とは必ずしも一致しない。あえて事実の多様さに光を当てることで、植民地支配のゆがみを追及しようとしたのである。

 朝鮮半島では暴力的な連行は一般的ではなかったという見方は、最近の韓国側の研究成果にも出ている。そうした事実にも考慮を加えず、虚偽と断じた司法判断は理解に苦しむ。

 韓国では、民意重視を看板に掲げる文在寅(ムンジェイン)政権が発足して、もうすぐ半年になる。政権は、歴史問題で日本に責任を問うべきだと唱える団体にも支えられている。もし高裁がそれに影響されたのなら論外だろう。

 日韓の近年の歩みを振り返れば、歴史問題の政治利用は厳禁だ。和解のための交流と理解の深化をすすめ、自由な研究や調査活動による史実の探求を促すことが大切である。

 その意味で日本政府は、旧軍の関与の下で、つらい体験を強いられた女性たちの存在を隠してはならず、情報を不断に公開していく必要がある。

 日韓の関係改善のためにも、息苦しく固定化された歴史観をできるだけ払拭(ふっしょく)し、自由な研究を尊ぶ価値観を強めたい。

(社説)イラン核合意 問われる米外交の信頼

2017年10月31日05時00分

 国際社会が積み上げた合意を一方的にないがしろにする。そんな大国の「自国第一主義」が世界を不安に陥れている。

 トランプ米大統領の対イラン政策である。核開発をめぐる合意について、意義を認めないとし、修正ができなければ「合意を終わらせる」と表明した。

 合意は、米国が中ロ英仏独などと共に2年前、イランと交わした行動計画だ。イランが核開発を制限する見返りに、米欧が一部の経済制裁を解いた。

 かねてイスラエルによる軍事攻撃も取りざたされた中、外交交渉によって戦争の危機を防いだ歴史的な合意である。

 トランプ氏の表明を、どの当事国も冷ややかに突き放したのは当然だ。合意は今も、中東と世界の安定をめざすために肝要な枠組みの一つである。

 トランプ氏の主張はこうだ。イランは各地でテロを支援し、ミサイル開発を続け、中東を不安定にしている。だから合意の「精神」に反している――。

 イランが各地で反米を掲げる組織を支えているのは事実だ。しかしそれは、イスラエルへのアラブの反発という地域事情が絡む中東全体の問題でもある。

 そこに核合意を結びつけて、イランとの対立をあおるのは、それこそ中東を不安定化させる無責任な姿勢だ。

 イランを29日訪れた国際原子力機関の天野之弥事務局長は、イランは合意を守っていると確認した。ロハニ大統領は「こちらからは合意を破棄しない」と辛抱の態度をみせている。

 トランプ氏は、イランに新たな条件を課すため、米国の国内法を改正するよう米議会に求めた。だが議会では合意を維持すべきだとの声が大勢だという。冷静な判断を期待したい。

 心配なのは北朝鮮問題への影響だ。米国は強い威嚇の一方で対話も探っているとされる。しかし、一度合意した約束を理不尽にたがえるようでは、話し合いなど真剣に考えていないと思われても仕方あるまい。

 安倍首相は9月にロハニ氏と会談した際、イラン核合意への支持を表明し、「すべての当事国による順守が重要だ」と強調した。ならば近く来日するトランプ氏に釘をさすべきだ。

 身勝手なトランプ外交の弊害は広がっている。気候変動をめぐるパリ協定からの離脱や、自由貿易協定の見直し要求などで多くの国を悩ませている。

 独りよがりの外交は、米国の信頼を傷つけるだけでなく、世界秩序の土台を揺るがす。その国際社会の懸念を、安倍首相は本人に直言すべきである。

(社説)野党質問削減 立法府が空洞化する

2017年11月1日05時00分

 またも「数の力」を振り回す安倍政権の立法府軽視である。

 政府・自民党が、国会での野党の質問時間を削ろうとしている。議席の割合より野党に手厚い現状を見直すというのだ。

 衆院選での大勝を受けて、安倍首相が「これだけの民意をいただいた。我々の発言内容にも国民が注目している」と自民党幹部に指示したという。

 決して容認できない。

 国会議員は全国民の代表であり、質問の機会もできる限り均等に与えられるべきではある。

 ただ、自民、公明の与党は政府が法案や予算案を国会に出す前に説明を受け、了承する。その過程で意見は反映されるので、質問は政府を後押しするものがほとんどだ。

 だからこそ、法案や予算案を厳しくチェックするのは野党の大事な役割だ。その質問時間を大幅に削れば、国会審議は骨抜きになりかねない。

 たとえば、ことしの「共謀罪」法の審議はどうだったか。

 政府は「成案が得られていない」と野党の質疑をはねつけたまま、与党と対象犯罪を絞り込むなどの実質的な修正をし、法案を閣議決定した。野党も加わった質疑は2カ月ほどで、参院では委員会審議を打ち切る不正常な状態で強行成立させた。

 昨年のカジノ法審議では、質問時間の余った自民党議員が般若心経を唱える場面もあった。

 こんな状況のまま、議員数に応じた時間配分にすればどうなるのか。衆院予算委員会の質問時間は、近年一般的とされる「与党2対野党8」が、「7対3」へと逆転する。

 そうなれば、法案や予算案の問題点をただし、広く国民に知らせる立法府の機能は確実に低下し、空洞化するだろう。

 森友・加計学園問題のような野党による疑惑追及の場も、限定されるに違いない。それが首相の狙いにも見える。

 首相に問う。

 加計問題で国会での説明を求められると、「国会が決めること」とかわしてきた。なのになぜ、まさに国会が決めるべき質問時間の配分に口を出すのか。

 行政府の長として三権分立への理解を欠いたふるまいと言うほかない。最後は多数決で決めるにしても、少数者の声にも耳を傾ける。議会制民主主義のあるべき姿からも程遠い。

 安倍政権はきょう召集する特別国会で実質審議に応じるのかどうかさえ、明確にしない。

 「いままで以上に謙虚な姿勢で真摯(しんし)な政権運営に努める」

 選挙後、そう誓った首相の言葉は何だったのか。

(社説)安倍新内閣 謙虚というなら行動で

2017年11月2日05時00分

第4次安倍内閣が発足した。

 全閣僚を再任。主要メンバーが続投する自民党執行部とあわせ、顔ぶれは変わらない。

 無理もない。首相が「仕事人内閣」と称した前内閣の発足から3カ月。目に見える「仕事」はほとんどしていない。

 その代わり、首相は何をしたか。憲法に基づく野党の臨時国会召集要求を無視したあげく、一切の国会審議を拒んだままの衆院解散である。

 衆院選で自民党は大勝した。来秋の党総裁選で首相が3選すれば、憲政史上最長の首相在任も視野に入る。だが、首相に向けられる国民の目は厳しい。

 衆院選直後の本紙の世論調査で、安倍首相に今後も首相を「続けてほしい」は37%、「そうは思わない」は47%。

 自民党大勝の理由については「首相の政策が評価されたから」が26%、「そうは思わない」が65%。首相が進める政策に対しては「期待の方が大きい」の29%に対し、「不安の方が大きい」は54%だった。

 こうした民意を意識すればこそ、首相は選挙後、「謙虚で真摯(しんし)な政権運営に努める」と誓ったのではなかったか。

 だが残念ながら、首相の本気度を疑わざるを得ない出来事が相次いでいる。

 きのう召集された特別国会を政府・与党は当初、数日間で閉じる方針だった。野党の批判を受け、会期を12月9日までとしたが、議論を避けようとする姿勢が改めてあらわになった。

 国会での野党の質問時間を削ろうとする動きも続く。実現すれば、行政府をチェックし、疑惑をただす立法府の機能が弱まる。数の横暴にほかならない。

 森友・加計学園の問題への野党の追及を何とかかわしたい。そんな狙いもうかがえる。

 だがいま、首相がなすべきことはそんなことではない。国民に約束した「謙虚」を、具体的な行動で示すことである。

 国会での野党との議論に、真正面から臨む。当たり前のことが第一歩になる。

 質問をはぐらかしたり、自らの言い分を一方的に主張したりするのはもうやめる。

 最後は多数決で結論を出すにしても、少数派の意見にも丁寧に耳を傾け、合意を探るプロセスを大事にする。

 特別国会で論じるべきは森友・加計問題だけではない。自ら「国難」と強調した北朝鮮情勢や少子化問題についても、十分な議論が欠かせない。

 国会でまともな論戦を実現する。首相の姿勢が問われる新内閣の船出である。

(社説)補正予算 また「抜け道」なのか

2017年11月3日05時00分

 状況に応じて当初予算を補うという本来の役割を超え、抜け道に使う愚をまた重ねるのか。

 安倍首相が第4次内閣発足後の初閣議で、補正予算の編成を指示した。新しい看板政策である「生産性革命」と「人づくり革命」を柱とする2兆円規模の政策をまとめ、可能なものから実行する。そのための補正予算だという。

 景気対策が必要な経済情勢ではない。にもかかわらず、与党内では夏ごろから補正による歳出拡大を求める声が出ていた。

 それに応えるということか。対象として挙がる事業には、疑問符がつくものが目立つ。

 代表例が、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)に備えた農業対策だ。

 EUとのEPAは年内の最終合意を目指し、まだ調整中だ。「先行して国内の基盤を強化する」というが、2年前に合意した環太平洋経済連携協定(TPP)でも補正を組んで対策費をばらまいた。TPPは米国の離脱で未発効のままだが、対策の効果の検証すらせずに同じことを繰り返すのか。

 生産性を高める政策は今後1カ月でまとめ、一部を補正に盛り込むという。

 そもそも生産性の向上を、「革命」のように一気に実現することは難しい。首相自身がよくわかっているはずだ。この5年間、成長戦略として様々な施策を並べてきたが、経済の実力を示す潜在成長率はわずかに高まっただけだ。

 まずは、これまでの対策が成果を生んでいない理由を考えるべきだ。「経済優先」をアピールしようと、中身を吟味せず付け焼き刃で政策を実施しても、予算の無駄遣いになるだけだ。

 昨年度の第3次補正には、弾道ミサイル迎撃態勢の調査研究費など防衛費1700億円を計上した。当初予算での防衛費の伸びを抑える狙いが透ける。補正予算は、政府内でのチェックも国会審議も甘くなりがちだ。補正を抜け道として便利に使ってきたことが財政悪化の一因であることを忘れてはならない。

 今回の補正の財源には、16年度決算の剰余金や、低金利で使い残す国債の利払い費を充てつつ、建設国債を追加発行するようだ。20年度に基礎的財政収支を黒字化する目標を先送りしたばかりであり、「財政再建の旗は降ろさない」という首相の本気度が問われる局面である。

 九州北部豪雨などの災害復旧をはじめ、緊急度の高い事業はある。金額ありきでなく、不可欠の事業を積み上げる。それが補正予算である。


朝日新聞2017年10月1日

2017年11月03日 21時44分09秒 | Weblog

(社説)衆院選 社会保障の将来 甘い言葉で「安心」得られぬ

2017年10月1日05時00分

 「社会保障制度を全世代型へと転換する。急速に少子高齢化が進む中、決意しました」

 衆院解散を表明した記者会見で、安倍首相はそう強調した。「全世代型」への柱として「子育て世代への投資の拡充」を唱え、2年後に予定する消費増税分から財源を確保するとした。その是非を国民に問うという。

 だが、深刻な少子高齢化も、高齢者向けと比べて手薄な現役世代への支援の必要性も、以前から指摘されてきたことだ。

 8年前には麻生内閣の「安心社会実現会議」が「全世代を通じての切れ目のない安心保障」を打ち出した。政権交代を経てもこの考えは引き継がれ、旧民主党政権は社会保障・税一体改革大綱で「社会保障を全世代対応型へ転換」すると掲げた。安倍内閣のもとでも、「社会保障制度改革国民会議」が4年前に「全世代型の社会保障」を提言している。

 方向に異を唱える人はいないだろう。政治の怠慢で進まなかったのが実態である。

 ■繰り返される議論

 首相官邸が主導し、社会保障を議論する有識者会議が設けられるようになったのは、2000年代に入ってからだ。

 高齢化で年金や医療などの給付が膨らむ一方、少子化で支え手は減っていく。制度を維持していくには、給付を見直しながら、負担についても保険料や自己負担に加えて税制も一体で考え、縦割りを排して政府全体で検討する必要がある。そうした問題意識が背景にある。

 以来、内閣が代わるたびに「国民」や「安心」「改革」といった言葉をちりばめた会議ができ、提言がまとめられた。

 その内容は、多くの部分で重なり合う。「女性、高齢者、障害者が働きやすい環境を整え支え手を増やす」「高齢者であっても負担可能な人には負担を分かち合ってもらう」「子育て世代への支援、若者の雇用不安への対策の強化」……。

 取り組むべき課題は十数年の議論で出尽くしている。必要なのは、具体策をまとめて実行に移す、政治の意思と覚悟だ。とりわけ、給付の充実と表裏であるはずの負担増を正直に語れるかどうかが試金石となる。

 ■負担増こそが論点

 安倍首相は、消費増税分のうち、国の借金減らしに充てる分の一部を新たな施策に回し、安定した財源にするとしている。

 だが、この考え方は危うさをはらむ。

 日本は「中福祉」の社会保障と言われるが、それに見合う財源が確保されておらず、国債の発行という将来世代へのつけ回しに頼っている。消費税率を10%にしても、不足分の解消にはほど遠い。高齢化などに伴う社会保障費の自然増を毎年5千億円に抑えるやりくりでしのいでいるのが近年の状況だ。

 消費増税の使途を変えるとなると、社会保障費の伸びを今以上に抑えるのか。あるいは、国債発行に頼ってさらにつけ回しを増やすのか。そうした点も一緒に示さなければ、国民は是非を判断しようがない。

 給付の充実だけを言い、社会保障制度への影響には触れず、財政再建への見取り図も示さない。そうした態度では、単なる人気取り政策と言うしかない。

 そもそも、給付が負担を大きく上回る構造を抜本的に改めていくことが問われ続けているのだ。今後、高齢者でも所得や資産に余裕のある人には負担を求めることや、医療・介護の給付範囲と負担のあり方なども検討課題としていかざるを得ないだろう。

 そうした痛みを伴う改革や負担増の具体案と道筋を示し、将来の社会保障の姿を描く。それこそが政治の役割であり、国民に信を問うべきテーマである。

 ■一体改革をどうする

 消費税収の使途変更を打ち出した与党に対し、「希望の党」代表の小池百合子・東京都知事は消費増税の凍結を語る。

 与党との対立の構図を作る狙いのようだが、では社会保障についてどのようなビジョンを持っているのか。

 希望の党への合流を掲げた民進党の前原誠司代表は、消費税を増税した上で教育や社会保障の充実に充てると訴えていた。統一した見解を早急に明らかにするべきだ。

 国民のニーズの変化に対応して社会保障の仕組みを見直し、少子高齢社会のもとでも安定した制度にしていく――。誰が政権についても避けて通ることのできない課題である。人口減や財政難の深刻さを考えれば、とりうる政策の幅はそれほど大きくはない。

 5年前、民主(現民進)と自民、公明の与野党3党が決めた社会保障と税の一体改革は、社会保障とそのための負担を政争の具にしないという、政治の知恵だと言える。

 風前のともしびの一体改革の精神を大切にするか。目先の甘い話を競い合うか。すべての政党が問われている。

(社説)衆院選 自民改憲公約 国民には語らないのか

2017年10月3日05時00分

 自民党がきのう、衆院選の政権公約を発表した。

 憲法改正については、5月の憲法記念日に安倍首相が提案した「自衛隊の明記」を盛り込んだ。教育の無償化・充実強化▽緊急事態対応▽参議院の合区解消もあわせた4項目を中心に、「初の憲法改正を目指す」としている。

 自衛隊明記を含めた具体的な項目を公約に掲げるのは初めてだ。改憲に意欲的な首相としては、選挙戦で国民に明確に改憲を問うのかと思いきや、実はそうでもない。

 首相は衆院解散を表明した記者会見で、改憲には一切ふれなかった。これまでの街頭演説でも改憲は語らず、自ら「国難」と位置づけた北朝鮮情勢への対応や、少子高齢化対策の重要性を主に訴えている。

 首相をはじめ自民党の候補者に問う。なぜいま改憲が必要なのか。公約に掲げた以上、国民に持論を語るべきだ。

 振り返れば、自民党が圧勝した過去の衆参両院選挙でも首相のふるまいは似ていた。選挙前は「経済優先」を強調し、選挙で得た数の力で「安倍カラー」の政策を強引に進める。

 特定秘密保護法、安全保障関連法、「共謀罪」法を成立させたのは、いずれも経済を前面にたてた選挙の後だった。

 9条1項、2項を維持し、自衛隊を明記する改憲を2020年までに実現したい。首相が5月に明らかにした構想だ。

 党内での議論もないままに、国会の頭越しに自らの首相在任中の改憲に向けて、期限を切って持論を持ち出す――行政府の長としての法(のり)を越えた、首相の暴走だった。

 7月の東京都議選で自民党が惨敗したのも、そうした首相のおごりが一因ではなかったか。

 都議選後、「党に任せる」と改憲論議から一歩引く構えに転じたのは当然だろう。

 今回、公約に掲げたことで、選挙後に改憲論議を進める布石を打とうとしたのか。しかし、選挙前は身を低くして、選挙に勝てば「信を得た」と突き進むのは許されない。

 衆院選の結果次第では、憲法改正に向けた国会の動きの分水嶺(ぶんすいれい)となる可能性がある。

 「希望の党」代表の小池百合子・東京都知事は自衛隊明記には慎重な姿勢だが、憲法改正自体には前向きな立場だ。

 言うまでもなく、憲法改正の発議権は国会にある。衆参の憲法審査会での与野党の丁寧な議論の積み上げが大前提だ。選挙結果を問わず、十分な国民的議論も欠かせない。

(社説)東電の原発再稼働 国は自らの無責任を正せ

2017年10月5日05時00分

 福島第一原発で未曽有の事故を起こし、今も後始末に追われる東京電力に対し、原発を動かすことを認めてよいのか。

 国民に説明し、理解を得る責任が政府にはある。それを果たさないまま、なし崩しに再稼働を進めることは許されない。

 東電が再稼働をめざす柏崎刈羽原発(新潟県)について、原子力規制委員会が技術面で基準を満たすとする審査結果をまとめた。国の手続きは山場を越え、「原発回帰」の加速につながる節目である。

 ■「丸投げ」姿勢の政権

 安倍政権は「規制基準への適合を規制委が認めれば、その判断を尊重し、地元の理解を得て、再稼働する」との姿勢だ。

 だが、この進め方は、大切なことが抜け落ちている。再稼働は本来、規制委や自治体に判断を丸投げするのではなく、事故のリスクや安全対策、社会的な必要性などを踏まえて、国が総合的に判断すべきものだ。

 東電の柏崎刈羽は、全国の原発の中でもとりわけ、検討するべき課題が多く、重い。

 事故の被害者が納得するか。避難計画も含めて安全を確保し、周辺住民の不安を拭えるか。事故処理費用をまかなう目的ばかりが強調されるが、電力供給や電気料金面の対策として不可欠なのか。そして、事故の反省に立ち、原発への依存度をどう下げていくのか。

 こうした疑問を、福島や新潟をはじめ多くの国民が抱く。政府は答えなければならない。

 規制委は、原発施設の安全性を専門家が技術的にチェックする役回りにすぎない。今回、東電だけの特例として、原発を動かす資格を見極めようとした。それ自体が、再稼働手続きに不備があることを表している。

 規制委が議論したのは、東電は安全文化や閉鎖的な体質を十分改善できたか、福島第一の廃炉に人手や資金を取られる中、柏崎刈羽で安全対策がおろそかにならないか、といった点だ。

 その姿勢は妥当だが、経営体制や組織運営に十分踏み込まないまま、「安全に責任を持つ」という東電社長の決意表明をもとに「合格」とした。拙速な判断と言わざるを得ない。

 ■手続き全体見直しを

 今の再稼働手続きは、規制委任せ、自治体任せ、電力会社任せになっている。全体を見直し、国がしっかり責任を持つ仕組みにすることが不可欠だ。

 規制委の審査基準について、政権は「世界でもっとも厳しい」と強調するが、規制委自身は「最低限の要求でしかない」と繰り返す。政権はまず、規制委が安全を全面的に保証したかのように印象づける姿勢を改めなければならない。

 事故時の避難計画は規制委の審査対象になっておらず、政府としての対応が求められる。

 自治体との関係も課題だ。

 規制委の手続きが終わると、県や立地市町村の同意が焦点になるが、電力会社との安全協定に基づく手順にすぎない。ひとたび過酷事故が起きた時の被害の深刻さを考えれば、同意手続きを法的に位置づけた上で、国が直接関与するべきだ。

 避難計画の策定を義務づけられた原発30キロ圏内のすべての自治体と政府が一緒に協議する。計画の実効性や再稼働の必要性などを幅広く検討し、運転を認めるかを判断する。そんな仕組みが必要ではないか。

 個々の原発を動かすかどうかについて、政府は電力各社の経営判断の問題だとし、前面に出るのを避けてきた。だが、原発をさまざまな政策で支える「国策民営」を続けており、事業者任せではすまされない。

 ましてや東電は、事故に伴う賠償や除染を自前でできず、実質国有化された。経営方針を差配しているのは経済産業省だ。再稼働への疑問や不安に答える責任を、政府は東電とともに果たすべきである。

 ■原発問い直す契機に

 柏崎刈羽の審査合格は、日本の原発の今後に大きな影響を及ぼす。

 これまでに規制委の審査を通った12基は西日本にある「加圧水型」で、福島第一と同じ「沸騰水型」では柏崎刈羽が第1号となる。これが呼び水となり、今後は東日本でも再稼働の流れが強まりそうだ。

 柏崎刈羽が再び動けば、地方に原発のリスクを背負わせ、電気の大消費地が恩恵を受ける「3・11」前の構図が首都圏で復活することにもなる。

 福島の事故から6年が過ぎても、被害は癒えない。原発に批判的な世論が多数を占める状況も変わらない。その陰で、国が果たすべき責任をあいまいにしたまま、再稼働の既成事実が積み重ねられていく。

 そんな状況を見過ごすわけにはいかない。原発問題には社会全体で向き合う必要がある。

 衆院選では、各党は考えを明確に示し、国会での議論につなげる。国民も改めて考える。

 柏崎刈羽の再稼働問題を、その契機としなければならない。

(社説)衆院選 森友・加計 「丁寧な説明」どこへ

2017年10月6日05時00分

 「謙虚に丁寧に、国民の負託に応えるために全力を尽くす」

 安倍首相は8月の内閣改造後、森友・加計学園の問題で不信を招いたと国民に陳謝した。

 だがその後の行動は、謙虚さからも丁寧さからも縁遠い。

 象徴的なのは、憲法53条に基づく野党の臨時国会の召集要求を、3カ月もたなざらしにしたあげく、一切の審議もせぬまま衆院解散の挙に出たことだ。

 首相やその妻に近い人に便宜を図るために、行政がゆがめられたのではないか。森友・加計問題がまず問うのは、行政の公平性、公正性である。

 もう一つ問われているのは、「丁寧な説明」を口では約束しながら、いっこうに実行しない首相の姿勢だ。

 安倍首相は7月の東京都議選での自民党惨敗を受け、衆参両院の閉会中審査に出席した。

 そして、この場の質疑で疑問はさらに膨らんだ。

 たとえば、加計学園による愛媛県今治市の国家戦略特区での獣医学部の新設計画を、ことし1月20日まで知らなかった、という首相の答弁である。

 首相は、同市の計画は2年前から知っていたが、事業者が加計学園に決まったと知ったのは決定当日の「1月20日の諮問会議の直前」だと述べた。

 だが、県と市は10年前から加計学園による学部新設を訴えており、関係者の間では「今治=加計」は共通認識だった。

 さらに農林水産相と地方創生相は、昨年8~9月に加計孝太郎理事長から直接、話を聞いていた。加計氏と頻繁にゴルフや会食をする首相だけは耳にしていなかったのか。

 首相の説明は不自然さがぬぐえない。

 朝日新聞の9月の世論調査でも、森友・加計問題のこれまでの首相の説明が「十分でない」が79%に達している。

 それでも首相は説明責任を果たしたと言いたいようだ。9月の解散表明の記者会見では「私自身、丁寧な説明を積み重ねてきた。今後ともその考えに変わりはない」と繰り返した。

 ならばなぜ、選挙戦より丁寧な議論ができる国会召集を拒んだのか。「疑惑隠し解散」との批判にどう反論するのか。

 首相は「国民の皆さんにご説明をしながら選挙を行う」ともいう。けれど解散後の街頭演説で、この問題を語らない。

 首相は「総選挙は私自身への信任を問うもの」とも付け加えた。与党が勝てば、問題は一件落着と言いたいのだろうか。

 説明責任に背を向ける首相の政治姿勢こそ、選挙の争点だ。

(社説)核廃絶運動 世界に新たなうねりを

2017年10月7日05時00分

 今年のノーベル平和賞が、国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN〈アイキャン〉)に贈られる。122カ国の賛同でこの夏に採択された核兵器禁止条約への貢献が評価された。

 国連が71年前の最初の総会決議で掲げた核廃絶へ向け、ICANが機運を復活させた。ノーベル委員会はそう称賛し、世界のすべての反核運動への表彰でもある、と強調した。

 核兵器の非人道性を訴えるICANの主張を支えたのは、広島、長崎で原爆に遭った被爆者たちである。国際会議やネットを通じ、生々しい声が国際世論を揺さぶった。

 画期的な条約の成立に続く、ICANへの平和賞決定を、被爆者、日本のNGOなどすべての関係者とともに歓迎したい。「核なき世界」をめざす国際機運をいっそう高める節目とするべきだろう。

 ICANは、核戦争の防止に取り組む医師らのNGOを起点に、100カ国超にまたがる500近い団体の連合体だ。多彩な分野でそれぞれの強みを発揮する特長がある。

 医師や科学者は核戦争の被害を科学的に示し、法律家は条約の案文を作った。軍需産業の監視団体は、核関連企業への資金の流れを明らかにした。政治家や元外交官らも含め、多面的な働きかけを積み上げたことが条約成立の下地を作った。

 だが、それでも核廃絶に向けた潮流は滞っている。先月に始まった条約の署名では53カ国が応じたが、核保有国はゼロ。米国の「核の傘」の下にある日本も不参加を表明した。

 トランプ氏とプーチン氏の米ロ両首脳とも核軍拡に前向きであるうえ、北朝鮮の核開発の脅威はきわめて深刻だ。

 ただ、核が再び使われれば、人類に破滅的な影響が避けられない。その危機感がICANや被爆者らの努力で世界に浸透した意義は大きい。核に依存する政治家らの考えを変えるには、引きつづき市民社会に働きかけていくしかない。

 日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)は昨春、「ヒバクシャ国際署名」の運動を始めた。9月末までに515万の署名を得た。20年までに世界で数億人まで増やすのが目標だ。

 多くの市民が廃絶の意思を共有し、「核兵器ノー」の包囲網を築いていく。ICANの受賞決定を、世界的なうねりへとつなげるきっかけにしたい。

 被爆国でありながら、ICANや被爆者の願いに背を向けたままの日本政府は、その姿勢が改めて問われることになろう。

(社説)中国の歴史観 政治利用の不毛な動き

2017年10月9日05時00分

 日本と中国が全面戦争に突入した起点は今から80年前、1937年7月の盧溝橋事件である。中国では45年までの8年を抗日戦の期間とする見方がこれまで定着していた。

 ところが最近、習近平(シーチンピン)政権は31年9月18日に起きた満州事変・柳条湖事件を抗日戦の起点と唱えるようになった。戦いの期間は6年延びて14年となる。

 習氏自身が、14年間を一貫したものと捉えるよう求めた、とされている。その狙いは、自らが率いる共産党政権の正統性を強めることにあるようだ。

 満州事変以降、日本の侵略が断続的に進んだのは事実だ。反省すべき戦争を長い視点で考える意味も込めて、日本でも同様の見方をすることがある。

 不幸な日中関係の歴史に光をあてて教訓をくみ、いまの政治の戒めとすることは必要な営みであろう。しかし、習政権の動きは、そのようには見えない。むしろ、時の最高指導者が自らの都合に合わせて歴史観を定めているというのが実態だ。

 当時の日中関係を、14年戦争とだけ捉えると全体像を見落としがちだ。その間には関係改善を探り合った時期があり、全面衝突を避ける選択肢はあり得た。また当時の中国は内戦状態で、単純な日中対立の構図ではない。そもそも、共産党の抗日戦への貢献度は大きくない。

 それでもあえて抗日戦の期間を長くすることで、中国の戦後国際秩序形成への貢献と、共産党の主導ぶりを浸透させたいのだろう。

 中国で問題なのは、ひとたび政権が見解を出せば、その歴史観に社会全体が縛られる点だ。すでに教科書の改訂が進み、異論を唱えた歴史学者の文章はネットから削除されている。自由であるべき歴史研究が妨げられているのは憂うべき事態だ。

 中国と違い、日本には言論や学問の自由がある。しかし、政治家が、いびつで不誠実な歴史認識を語る現実もある。

 記憶の風化に伴い、戦前戦中の不名誉な史実を拒むような政治家の言動が続くのは、懸念すべき風潮だ。かつて国民に忠君愛国を植えつけ、戦時動員の下地をつくった教育勅語を肯定する政治家まで出ている。

 中国での歴史の政治利用と、日本の政治家による偏狭な歴史観の摩擦が、両国の互恵関係づくりの足かせになりかねない。

 自由な歴史研究と交流をもっと広げるべきだ。当時の指導者が何を考え、どこで道を誤り、何が欠けていたのか。その謙虚な模索があってこそ、歴史は今の指針を探る源泉となる。

(社説)衆院選 安倍政権への審判 民意こそ、政治を動かす

2017年10月11日05時00分

近年まれにみる混沌(こんとん)とした幕開けである。

 衆院選が公示され、22日の投開票に向けた論戦が始まった。

 発端は、安倍首相による唐突な臨時国会冒頭解散だった。

 選挙準備が整わない野党の隙をつくとともに、森友学園・加計学園問題の追及の場を消し去る。憲法53条に基づく野党の臨時国会召集要求を無視した「自己都合解散」である。

 だが解散は、思わぬ野党再編の引き金をひいた。民進党の崩壊と、小池百合子・東京都知事率いる希望の党の誕生だ。

 ■「1強政治」こそ争点

 選挙戦の構図を不鮮明にしているのは、その小池氏の分かりにくい態度である。

 「安倍1強政治にNO」と言いながら、選挙後の首相指名投票への対応は「選挙結果を見て考える」。9条を含む憲法改正や安全保障政策をめぐる主張は安倍政権とほぼ重なる。

 固まったかに見えた「自民・公明」「希望・維新」「立憲民主・共産・社民」の3極構図は今やあやふやだ。

 むしろ政策面では、安保関連法を違憲だと批判し、首相が進める改憲阻止を掲げる「立憲民主・共産など」と「自民・希望など」の対立軸が見えてきた。

 野党なのか与党なのか。自民党に次ぐ規模である希望の党の姿勢があいまいでは、政権選択選挙になりようがない。戸惑う有権者も多いだろう。

 だからこそ、確認したい。

 この衆院選の最大の争点は、約5年の「安倍1強政治」への審判である。そして、それをさらに4年続けるかどうかだと。

 この5年、安倍政権が見せつけたものは何か。

 経済を前面に立てて選挙を戦い、選挙後は「安倍カラー」の政策を押し通す政治手法だ。

 景気と雇用の安定を背景に選挙に大勝する一方で、圧倒的な数の力で特定秘密保護法、安保法、「共謀罪」法など国論を二分する法律を次々と成立させてきた。

 ■一票が生む緊張感

 ことし前半の通常国会では、数の力を振り回す政権の体質がむき出しになった。

 加計学園に絡む「総理のご意向」文書、財務省と森友学園の交渉記録……。国会で存在を追及されても「記憶がない」「記録がない」で押し切る。政権にとって不都合な証言者には容赦なく人格攻撃を加える。

 国会最終盤には「共謀罪」法案の委員会審議を打ち切って採決を強行する挙に出た。1強のおごりの極みである。

 行政府とその長である首相を監視し、問題があればただす。国会の機能がないがしろにされている。三権分立が危機に瀕(ひん)しているとも言える。

 そんな1強政治を前にして、一票をどう行使すべきか。考え込む人も多いかもしれない。

 自分の一票があってもなくても政治は変わらない。政党の離合集散にはうんざりだ。だから選挙には行かない――。

 しかしそれは、政治の現状をよしとする白紙委任に等しい。

 7月の東京都議選最終盤の一場面を思い起こしたい。

 「こんな人たちに負けるわけにはいかない」。東京・秋葉原でわき上がる「辞めろ」コールに、首相は声を強めたが、自民党は歴史的敗北を喫した。

 選挙後、首相は「謙虚に、丁寧に、国民の負託にこたえる」と述べたが、その低姿勢は長くは続かなかった。内閣改造をへて内閣支持率が上向いたと見るや、国会審議を一切せずに冒頭解散に踏み切った。

 それでも、都議選で示された民意が政治に一定の緊張感をもたらしたのは間違いない。

 ■無関心が政権支える

 1強政治は、どれほどの「民意」に支えられているのか。

 首相は政権に復帰した2012年の衆院選をはじめ、国政選挙に4連勝中だ。

 最近の国政選挙は低投票率が続く。前回14年の衆院選の投票率は戦後最低の52・66%で、自民党の小選挙区での得票率は48・1%だ。つまり、有権者の4分の1程度の支持でしかない。

 そして衆院選小選挙区の自民党の得票総数は、05年の「郵政選挙」以降、減り続けている。有権者の選挙への関心の低さが1強を支えている。

 一票は、確かに一票に過ぎない。だがその一票が積み重なって民意ができる。そこに政治を変える可能性が生まれる。

 政治家は一票の重みを熟知している。だから民意の動向に神経をとがらせる。

 日本は今、岐路に立つ。

 少子高齢化への対応は。米国や近隣国とどう向き合うか。原発政策は……。各党が何を語るかに耳を澄まし、語らない本音にも目をこらしたい。

 納得できる選択肢がないという人もいるだろう。それでも緊張感ある政治を取り戻す力は、有権者の一票にこそある。

 自分のためだけではない。投票は、子どもたちや将来の世代への責任でもある。

(社説)衆院選 安倍首相 説明になっていない

2017年10月12日05時00分

 安倍政権の5年が問われる衆院選である。

 安全保障関連法やアベノミクス、原発政策など大事な政策論議の前にまず、指摘しておかねばならないことがある。

 森友学園・加計学園をめぐる首相の説明責任のあり方だ。

 首相やその妻に近い人が優遇されたのではないか。行政は公平・公正に運営されているか。

 一連の問題は、政権の姿勢を問う重要な争点である。

 党首討論やインタビューで「森友・加計隠し解散だ」と批判されるたびに、首相はほぼ同じ言い回しで切り返す。

 首相の友人が理事長の加計学園の獣医学部新設問題では「一番大切なのは私が指示したかどうか」「国会審議のなかで私から指示や依頼を受けたと言った方は1人もいない」という。

 首相自身の指示がなければ問題ないと言いたいのだろう。

 だが、それでは説明になっていない。

 首相に近い人物が指示したり、官僚が忖度(そんたく)したりした可能性を否定できないからだ。

 実際に、「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」と記された文書が文部科学省に残っている。

 首相は、愛媛県の加戸守行・前知事が国会で「ゆがめられた行政が正されたというのが正しい」と述べたことも強調する。

 しかし加戸氏の発言は、長年にわたって要望してきた学部設置が認められたことを評価したものだ。選定過程の正当性を語ったものではない。

 そもそも加戸氏は2年前の国家戦略特区の申請時には知事を引退していた。省庁間の調整作業や特区をめぐる議論の内実を知る立場にない。

 森友学園に関しては、妻昭恵氏と親交があった籠池泰典・前理事長とは面識がないことと、「籠池さんは詐欺罪で刑事被告人になった」ことを指摘する。

 そのうえで、昭恵氏の説明責任については「私が何回も説明してきた」と言うばかり。

 昭恵氏にからむ疑問に対して、首相から説得力ある答えはない。

 昭恵氏はなぜ学園の小学校の名誉校長に就いたのか。8億円以上値引きされた国有地払い下げに関与したのか。昭恵氏が渡したとされる「100万円の寄付」の真相は――。

 事実関係の解明にはやはり、昭恵氏自身が語るべきだ。

 首相が国民に繰り返し約束した「丁寧な説明」はまだない。首相はどのように説明責任を果たすのか。それは、選挙戦の大きな争点である。

(社説)衆院選 安保法と憲法9条 さらなる逸脱を許すのか

2017年10月13日05時00分

 「憲法違反」の反対論のうねりを押し切り、安倍政権が安全保障関連法を強行成立させてから、初めての衆院選である。

 安倍首相は、安保法によって「はるかに日米同盟の絆は強くなった」「選挙で勝って、その力を背景に強い外交力を展開する」と強調する。

 安保法に基づく自衛隊の任務拡大と、同盟強化に前のめりの姿勢が鮮明だ。

 混沌(こんとん)とした与野党の対決構図のなかで、安保法をめぐる対立軸は明確である。

 ■「国難」あおる首相

 希望の党は公約に「現行の安保法制は憲法に則(のっと)り適切に運用する」と掲げた。

 同法の白紙撤回を主張してきた民進党の前議員らに配慮し、「憲法に則り」の前置きはつけた。ただ、小池百合子代表は自民、公明の与党と同じ安保法容認の立場だ。

 これに対し立憲民主、共産、社民の3党は同法は「違憲」だとして撤回を求める。

 首相は、北朝鮮の脅威を「国難」と位置づけ、「国際社会と連携して最大限まで圧力を高めていく。あらゆる手段で圧力を高めていく」と力を込める。

 たしかに、核・ミサイル開発をやめない北朝鮮に対し、一定の圧力は必要だろう。だからといって軍事力の行使に至れば、日本を含む周辺国の甚大な被害は避けられない。

 平和的な解決の重要性は、首相自身が認めている。

 それでも「国難」を強調し、危機をあおるような言動を続けるのは、北朝鮮の脅威を自らへの求心力につなげ、さらなる自衛隊と同盟の強化につなげる狙いがあるのではないか。

 安倍政権は、歴代内閣が「違憲」としてきた集団的自衛権を「合憲」に一変させた。根拠としたのは、集団的自衛権について判断していない砂川事件の最高裁判決と、集団的自衛権の行使を違憲とした政府見解だ。まさに詭弁(きべん)というほかない。

 ■枠を越える自衛隊

 その結果、自衛隊は専守防衛の枠を越え、日本に対する攻撃がなくても、日本の領域の外に出て行って米軍とともに武力行使ができるようになった。

 その判断は首相や一握りの閣僚らの裁量に委ねられ、国民の代表である国会の関与も十分に担保されていない。

 安保法の問題は、北朝鮮への対応にとどまらない。

 国民の目と耳の届かない地球のどこかで、政府の恣意(しい)的な判断によって、自衛隊の活動が広がる危うさをはらむ。

 しかも南スーダン国連平和維持活動(PKO)で起きた日報隠蔽(いんぺい)を見れば、政府による自衛隊への統制が機能不全を起こしているのは、明らかだ。

 来年にかけて、防衛大綱の見直しや、次の中期防衛力整備計画の議論が本格化していくだろう。自民党内では、大幅な防衛費の増額や敵基地攻撃能力の保有を求める声が強い。

 報道各社の情勢調査では、選挙後、自公に希望の党も加わって安保法容認派が国会の圧倒的多数を占める可能性がある。

 そうなれば、国会の関与がさらに後退し、政権の思うがままに自衛隊の役割が拡大する恐れが強まる。

 今回の衆院選は、安倍政権の5年間の安保政策を問い直す機会でもある。

 安保法や特定秘密保護法。武器輸出三原則の撤廃、途上国援助(ODA)大綱や宇宙基本計画の安保重視への衣替え……。

 一つひとつが、戦後日本の歩みを覆す転換である。

 次に首相がめざすものは、憲法への自衛隊明記だ。自民党は衆院選公約の重点項目に、自衛隊を明記する憲法改正を初めて盛り込んだ。

 安保法と、9条改正論は実は密接に絡んでいる。

 ■民主主義が問われる

 安保法で自衛隊の行動は変質している。その自衛隊を9条に明記すれば、安保法の「集団的自衛権の行使容認」を追認することになってしまう。

 「(安保法を)廃止すれば日米同盟に取り返しのつかない打撃を与えることになる」

 首相は主張するが、そうとは思えない。

 立憲民主党などが言う通り、安保法のかなりの部分は個別的自衛権で対応できる。米国の理解を得ながら、集団的自衛権に関する「違憲部分」を見直すことは可能なのではないか。

 衆院選で問われているのは、憲法の平和主義を逸脱した安倍政権の安保政策の是非だけではない。

 この5年間が置き去りにしてきたもの。それは、憲法や民主主義の手続きを重んじ、異論にも耳を傾けながら、丁寧に、幅広い合意を築いていく――。そんな政治の理性である。

 「数の力」で安保法や特定秘密法を成立させてきた安倍政権の政治手法を、さらに4年間続け、加速させるのか。

 日本の民主主義の行方を決めるのは、私たち有権者だ。

(社説)衆院選 アベノミクス論争 「つぎはぎ」の限界直視を

2017年10月14日05時00分

 第2次安倍政権の発足以来、「アベノミクス」をめぐる議論が間断なく繰り返されてきた。政権は成果を誇り、「加速」が必要だと主張する。一方、野党からは「実感がない」「失敗した」との声があがる。

 アベノミクスという言葉自体は「安倍政権の経済政策」という意味しかない。内容は多岐にわたり、力点の置き方も変わってきている。衆院選は、その内実を見極める機会でもある。

 ■当初目標は未達成

 2012年末の就任時、安倍首相は「強い経済を取り戻す」と訴え、「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略」を掲げた。この「3本の矢」自体は、不況時の標準的な政策といえる。

 その後の5年間、円安を起点にした企業の収益改善に加え、雇用も好転し失業率は大きく下がった。どこまでが政策の効果か、厳密な論証は難しいが、景気が回復したのは確かだ。

 ただ、賃金と消費の伸びはいまだに勢いを欠く。物価上昇率2%というデフレ脱却の目標は実現のメドがたたない。経済の実力を表す潜在成長率も、微増にとどまっているようだ。

 その結果、「10年間の平均で名目3%、実質2%」という当初の成長率目標の達成は見通せないままだ。

 一方で、異次元の金融緩和政策を担った日本銀行は、巨額の国債を抱え込み、将来の金利上昇時に大きな損失を抱えるリスクを膨らませている。

 国の財政も、赤字幅は一定の改善をみたが、基礎的収支の黒字化は先送りに追い込まれた。高齢化による負担増の加速が見込まれる25年以降の長期的な見通しもたっていない。

 政権は「アベノミクスは道半ば」と説明してきた。「新3本の矢」「働き方改革」などとスローガンを変え、自民党の選挙公約は「生産性革命」と「人づくり革命」を打ち出している。

 だが、足元の限界を直視せず、看板の掛け替えを繰り返しながら勇ましい表現を連ねるだけでは、進展は望めない。

 ■鈍い賃上げどうする

 企業が空前の利益をあげているのに、賃金は伸びない。それが経済の循環を滞らせているのなら、働き手への分配を渋る企業の判断が問われる。

 安倍政権は、法人税減税などを通じて経済界との蜜月を築いてきた。賃上げも求めたが、基本的には「アメ」の政策だ。それが十分な結果を出せていない現状を変えられるのか。

 政権は、企業の生産性向上を促すことで賃上げを後押しするというが、具体的な議論はこれからだ。しかも民間の取り組み次第の面が強く、時間もかかる。足元の分配不足の解決は、先送りされかねない。

 そもそもアベノミクスが掲げた経済再生は、成長の回復が主眼で、当初は分配の視点がほとんどなかった。次第に働き手や低所得者により配慮するような姿勢も見せ始めたが、成長力を高める一環といった位置づけが強く、分配面で社会的公正をめざす視点はいぜんとして弱い。理念を伴わず、野党の主張を横目に、政策をつぎはぎしているだけにみえる。

 例えば、税制である。

 政権は10%への消費増税を実施した上で、教育や社会保障分野に厚めに振り向ける方針を打ち出した。公正・公平を目指すなら、所得税や相続税の強化など再分配に関わる改革も欠かせないはずだ。しかし、本格的に取り組む姿勢は一向にうかがえない。

 ■大切な「分配」の視点

 最大野党の希望の党の公約も混沌(こんとん)としている。

 「民間活力を生かした経済の活性化」を前面に出す一方で、内部留保課税といった企業に厳しく見える提案も掲げる。企業にたまった資金の有効利用についての問題提起としては理解できる部分もあるが、今の大まかな提案では実現性や実効性は評価できず、働き手への分配増をめざしているのかも不明だ。

 また、消費増税凍結を主張しつつ金融・財政政策に「過度に依存しない」とも言うが、めざす方向性が読み取れない。

 共産党や立憲民主党は格差是正や社会保障の充実を掲げ、分配面重視の姿勢をとる。だが、逆に成長をどう維持するのかという視点は希薄だ。

 世界的に技術革新とグローバル化が進み、国内では未曽有の高齢化と人口減少に直面する。経済成長による「パイ」の拡大とともに、その分配の視点が一段と大事になってくる。

 雑多な政策を「○○ノミクス」という名ばかりの風呂敷でくるむだけでは、問題解決には力不足だ。

 個々の政策を貫く、経済社会についてのビジョンがなければ、何を優先するかが混乱したり、修正が必要なときに対応を誤ったりしかねない。

 成長と分配についてどんな見取り図を描いていくかが、何よりも問われている。

(社説)衆院選 沖縄の負担 悲鳴と怒り、耳澄ませ

2017年10月15日05時00分

 沖縄の悲鳴と怒りに、衆院選にのぞんでいる政党・候補者は改めて耳を傾け、それをわがこととしなければならない。

 米軍の大型輸送ヘリコプターが東村(ひがしそん)高江の民家近くに不時着して炎上した。13年前に沖縄国際大に墜落した同系機だ。

 翁長雄志知事や地元の住民は強く反発している。政府が米軍に対し、原因の究明や飛行停止を求めたのは当然である。

 だが安倍政権はこれまで、その「当然」の措置すら、しばしばうやむやにしてきた。

 オスプレイが普天間飛行場に配備されて今月で5年になる。24機体制に拡充されたうちの1機が昨年末に名護市の海岸で大破した時も、「機体に問題はない」との説明を受け入れ、飛行再開をあっさり容認した。そして先月、米軍が政府に示した最終報告書は、意見や提言の欄がすべて黒塗りになっていた。

 普天間のオスプレイは今年になってからも、豪州沖で墜落して3人が死亡したほか、奄美大島、大分、石垣島などで緊急着陸をくり返している。

 いったい何が起きているのか。原因は人為ミスとして処理されることが多い。ではなぜ、こうもミスが続くのか。

 徹底解明を米軍に働きかけ、納得できる回答を引き出し、住民の不安や疑問にこたえる。日本の当局による検証や捜査を阻む原因になっている、日米地位協定の見直しに全力をあげる。それが政府の使命だ。

 しかし政権が米国に本気で迫ることはなく、衆院選の自民党公約にも「地位協定はあるべき姿を目指します」という中身のない一文があるだけだ。

 墜落の恐怖ばかりではない。

 ヘリが炎上した高江には、米軍が北部訓練場の半分を返還する見返りとして、この数年の間にヘリパッドが6カ所造成された。オスプレイもたびたび飛来し、12年度に567回だった60デシベル以上の騒音は、昨年度は6887回と激増した。低周波騒音に頭痛を訴える人も多い。

 夜間訓練や飛行ルートに関する取りきめはあるが、一向に守られていない。これが、政府がとり組んできたと胸を張る「沖縄の負担軽減」の現実だ。

 首相は「この国を守り抜く」と力説するが、「この国」のなかに、沖縄の人々の平穏な生活は含まれているのだろうか。

 「したい放題の米軍」「もの言えぬ日本政府」が続けば、民心はさらに離れ、沖縄に多くを依存する安保政策は根底からゆらぐ。沖縄が背負う荷をいかにして、真に軽くするかは、まさに選挙で問うべき重い課題だ。

(社説)衆院選 憲法論議 国民主権の深化のために

2017年10月16日05時00分

 憲法改正の是非が衆院選の焦点のひとつになっている。

 自民党、希望の党などが公約に具体的な改憲項目を盛り込んだ。報道各社の情勢調査では、改憲に前向きな政党が、改憲の発議に必要な3分の2以上の議席を占める可能性がある。

 政党レベル、国会議員レベルの改憲志向は高まっている。

 同時に、忘れてはならないことがある。主権者である国民の意識とは、大きなズレがあることだ。

 ■政党と民意の落差

 民意は割れている。

 朝日新聞の今春の世論調査では、憲法を変える必要が「ない」と答えた人は50%、「ある」というのは41%だった。

 自民党は公約に、自衛隊の明記▽教育の無償化・充実強化▽緊急事態対応▽参議院の合区解消の4項目を記した。

 なかでも首相が意欲を見せるのが自衛隊の明記だ。5月の憲法記念日に構想を示し、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と語った。メディアの党首討論で問われれば、多くの憲法学者に残る自衛隊違憲論を拭いたいと語る。

 一方で首相は、街頭演説では改憲を口にしない。訴えるのはもっぱら北朝鮮情勢やアベノミクスの「成果」である。

 首相はこれまでの選挙でも経済を前面に掲げ、そこで得た数の力で、選挙戦で強く訴えなかった特定秘密保護法や安全保障関連法、「共謀罪」法など民意を二分する政策を進めてきた。

 同じ手法で首相が次に狙うのは9条改正だろう。

 だが、改憲には前向きな政党も、首相の狙いに協力するかどうかは分からない。

 希望の党は「9条を含め憲法改正論議を進める」と公約に掲げたが、小池百合子代表は自衛隊明記には「もともと合憲と言ってきた。大いに疑問がある」と距離を置く。

 連立パートナーの公明党は「多くの国民は自衛隊の活動を支持し、憲法違反の存在とは考えていない」と慎重姿勢だ。

 ■必要性と優先順位と

 時代の変化にあわせて、憲法のあり方を問い直す議論は必要だろう。

 ただ、それには前提がある。

 憲法は国家権力の行使を規制し、国民の人権を保障するための規範だ。だからこそ、その改正には普通の法律以上に厳しい手続きが定められている。他の措置ではどうしても対処できない現実があって初めて、改正すべきものだ。

 自衛隊については、安倍内閣を含む歴代内閣が「合憲」と位置づけてきた。教育無償化も、予算措置や立法で対応可能だろう。自民党の公約に並ぶ4項目には、改憲しないと対応できないものは見当たらない。

 少子高齢化をはじめ喫緊の課題が山積するなか、改憲にどの程度の政治エネルギーを割くべきかも重要な論点だ。

 朝日新聞の5月の世論調査で首相に一番力を入れてほしい政策を聞くと、「憲法改正」は5%。29%の「社会保障」や22%の「景気・雇用」に比べて国民の期待は低かった。

 公約全体で改憲にどの程度の優先順位をおくか。各党は立場を明確にすべきだ。

 安倍首相は、なぜ改憲にこだわるのか。

 首相はかつて憲法を「みっともない」と表現した。背景には占領期に米国に押しつけられたとの歴史観がある。

 「われわれの手で新しい憲法をつくっていこう」という精神こそが新しい時代を切り開いていく、と述べたこともある。

 ■最後は国民が決める

 そこには必要性や優先順位の議論はない。首相個人の情念に由来する改憲論だろう。

 憲法を軽んじる首相のふるまいは、そうした持論の反映のように見える。

 象徴的なのは、歴代内閣が「違憲」としてきた集団的自衛権を、一内閣の閣議決定で「合憲」と一変させたことだ。

 今回の解散も、憲法53条に基づいて野党が要求した臨時国会召集要求を3カ月もたなざらしにしたあげく、一切の審議を拒んだまま踏み切った。

 憲法をないがしろにする首相が、変える必要のない条文を変えようとする。しかも自らの首相在任中の施行を視野に、2020年と期限を区切って。改憲を自己目的化する議論に与(くみ)することはできない。

 憲法改正は権力の強化が目的であってはならない。

 必要なのは、国民主権や人権の尊重、民主主義など憲法の原則をより深化させるための議論である。

 その意味で、立憲民主党が公約に、首相による衆院解散権の制約や「知る権利」の論議を掲げたことに注目する。権力を縛るこうした方向性こそ大切にすべきだ。

 改憲は政権の都合や、政党の数合わせでは実現できない。

 その是非に最後に判断を下すのは、私たち国民なのだから。

(社説)衆院選 知る権利 民主主義の明日を占う

2017年10月17日05時00分

 安倍政権がないがしろにしてきたもの。そのひとつに、国民の「知る権利」がある。

 政府がもつ情報の公開を求める権利は、国民主権の理念を実現し、民主主義を築いていくうえで欠かすことができない。

 だが政権は、森友・加計学園問題で、政府の記録を公開する考えはない、破棄済みで手元にない、そもそも作成していないの「ないない尽くし」に終始した。PKO日報をめぐっても重大な隠蔽(いんぺい)があった。

 自民党が5年前に発表した憲法改正草案は、「知る権利」について「まだ熟していない」として条文に盛りこむのを見送った。後ろ向きの姿勢には疑問があるが、一方で「国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う」との規定を、新たに設ける考えを示している。

 この草案に照らしても、政権の行いは厳しい非難に値する。

 情報公開法の制定から18年になる。熟したか熟していないかの議論はともかく、大切なのは知る権利が確実に保障される社会をつくること。具体的には、情報隠しができないように法令を整備し、制度をみがき、行政にたずさわる人々の意識と行動を変えていくことだ。

 だが、自民党の衆院選公約には「行政文書の適正な管理に努める」とあるだけだ。公明党も同様で、与党として、一連の問題に対する深い反省も、改革への決意もうかがえない。

 希望の党は、知る権利を憲法に明確に定めることを公約にかかげる。しかしこれも、同党を率いる小池百合子・東京都知事が五輪会場の見直しや築地市場の移転をめぐって見せた行動を思いおこすと、眉につばを塗る必要がある。

 「敵」と位置づけた元知事らにとって都合の悪い情報は、たしかに公開した。だが自らの判断については、そこに至った根拠や検討の経過、描く将来像などの説明に応じなかった。

 市民が情報にアクセスし、それを手がかりに行政を監視し、考えを深めて、より良い政治を実現する――。そんな知る権利の意義を本当に理解しているのか。政略の道具にただ利用しただけではないのか。

 旧民主党政権のとき、知る権利を明記し、開示の範囲を広げる情報公開法の改正案が閣議決定されたが、成立に至らなかった。その流れをくむ立憲民主党や、「抜本改革が必要」と唱える共産党は、実現に向けてどんな道筋を描いているのか。

 各党の主張や姿勢を見極め、投票の判断材料にしたい。民主主義の明日がかかっている。

(社説)衆院選 財政再建 将来世代への責務だ

2017年10月18日05時00分

 消費増税と財政再建の議論が、いっこうに深まらない。

 安倍首相は衆院解散の理由として、消費増税分の使途変更を挙げた。19年10月に税率を10%に上げることで新たに得られる年間5兆円余りのうち、借金減らしに充てる分を減らし、子育て支援などに回す。「国民と約束していた税の使い道を変える以上、信を問わなければならない」というのが首相の説明だ。

 しかし、高齢者向けと比べて手薄な現役世代への支援が必要であることは、この十年来、繰り返し指摘されてきた。野党も子育て支援の充実などには反対していない。

 国民に問うべきなのは、使途変更の是非ではない。

 首相は基礎的財政収支を20年度に黒字化する目標を同時に先送りした。「財政再建の旗は降ろさない」と言うなら、使途変更によって生じる財政の穴をどう埋めて、いつごろ黒字化するのか。そして、全世代型に転換するという社会保障を財政でどう支えていくのか。

 そうした点が関心事なのに、首相は口をつぐんだままだ。

 先進国の中で最悪の水準にある財政状況を考えれば、将来世代へのつけ回しを抑えるためにも、国民全体で広く負担する消費税の増税が避けられない。そう正面から訴えることが、増税に対する国民の理解を深めることにつながる。

 しかし首相は増税自体については詳しくは語らず、もっぱら子育て支援などの充実を強調している。解散表明後のテレビ番組で、消費増税を先送りする可能性に触れたこともある。既に2度増税を延期してきただけに、本気度が疑われかねない。

 野党各党も、財政再建については「現実的な目標に訂正する」(希望の党)などとしている程度で、どんな道筋を考えているのかはっきりしない。消費増税の凍結や反対を唱えながら、それに代わる財源は「大企業の内部留保への課税検討」(希望)、「国会議員の定数・歳費の3割カット」(維新)など、実現性や財源としての規模に疑問符がつくものが目立つ。

 超高齢化と少子化が同時に進む中で、社会保障と財政の展望を示すことこそが、政治に課された責務だ。10%への消費増税や基礎的財政収支の黒字化も、小さな一歩に過ぎない。

 所得税や相続税、法人税も含めて今後の税制を描く。予算を見直し、非効率な支出をなくしながら配分を変えていく。

 与野党ともに、将来の世代まで見すえて、負担と給付の全体像を語るべきだ。

(社説)中国共産党 疑問尽きぬ「強国」構想

2017年10月19日05時00分

 30年かけて強国を築き上げる――。きのう始まった中国共産党大会で習近平(シーチンピン)・党総書記(国家主席)が、そう宣言した。2千人余りの党代表を前に、自信に満ちているように見えた。

 それは豊かで調和のとれた「社会主義現代化強国」だという。崇高な目標にも聞こえるが、そこには共産党の一党支配を強めるという大前提がある。そのうえで経済を発展させ、公正な社会をつくることが果たして可能なのか。

 確かにこの5年間、習氏はめざましい実行力をみせた。

 汚職の摘発で党や軍の首脳級に切り込んだ。軍の組織改革も進めている。党内部からの腐敗への危機感ゆえだが、権力固めに利用した面も否めない。摘発の矛先は習氏に近い人々には決して向けられなかった。

 国力を背に積極外交に打って出たのも、習政権の特徴だ。アジアインフラ投資銀行を設け、中央アジア、欧州と結ぶ「一帯一路」構想が前進している。強引な海洋進出も目立った。

 こうした急速な動きと対照的なのが経済改革だ。4年前の党の会議で「近代的市場体系の形成を急ぐ」としたものの、現実は逆行している。

 合併を通じて国有企業をさらに大型化し、経済の命脈を握らせている。そのうえ、党の指示を各企業の経営判断に反映させる制度を新たに導入した。

 一部の国有企業に民間から出資させる動きはあるが、民営化にはほど遠い。民間企業は、これまで雇用の伸びを支えてきたというのに、政府支援や融資の面で公平に扱われない。

 中国は、中所得国水準から抜け出せない段階で急速に高齢化が進む。そんな危機を目前に、民間の活力をそいででも経済に対する党・政府の管理統制を優先する姿勢は大いに疑問だ。

 それにも増して不当なのは、社会全般に対する統制の強まりである。習政権のもと、NGO活動の管理、弁護士の摘発、メディアの監視、大学の統制を厳しく進めた。ネット上のちょっとした政権批判めいた言葉も許されない。これまで残っていた市民的自由の空間は、いよいよ狭まってきた感がある。

 目標とする30年後は、中国建国からほぼ100年にあたる。そのころ習氏が「世界一流」と自称する軍は、周辺国からどう見られているだろうか。

 そもそも一党支配のままで、「強国」になることはありうるのか。もしなったとしても、それは中国の人々にとっても他国にとっても、決して歓迎されるものではないだろう。

(社説)核禁止条約 背を向けず参加模索を

2017年10月25日05時00分

 被爆国に対する国際社会の期待を裏切る行動だ。

 日本政府が国連に提出した核兵器廃絶決議案が波紋を呼んでいる。7月に122カ国の賛同で採択された核兵器禁止条約に触れず、核保有国に核軍縮を求める文言も弱くなったためだ。

 日本は24年連続で決議案を出しており、昨年は167カ国が賛成した。だが、今回の案には、条約を推進した非核保有国から強い不満の声が出ている。

 条約づくりに尽力したNGO・核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN〈アイキャン〉)がノーベル平和賞に決まった際も、外務省が談話を出したのは2日後。「日本のアプローチとは異なる」とし、やはり条約に触れなかった。

 条約の意義を改めて確認したい。核兵器を「絶対悪」と位置づけ、「決して使われてはならない」という規範を国際法として打ち立てたことだ。

 72年前、米軍が広島、長崎に投下した原爆で、人類は核兵器の圧倒的な非人道性を知った。

 だが戦後、米国や旧ソ連をはじめとする大国は「核兵器を持つことで、他国からの攻撃を未然に防ぐ」という核抑止論を持ち出し、核軍拡に走った。

 ICANや広島、長崎の被爆者らの努力で生まれた核兵器禁止条約は、非人道性という原点に立ち返り、核抑止論を否定しようとしている。「核兵器のない世界」の実現に向けた着実な一歩であることは確かだ。

 この流れになぜ被爆国があらがうのか。

 安倍首相は8月に条約への不参加を明言した。河野太郎外相は「北朝鮮や中国が核兵器を放棄する前に核兵器を禁止すれば、抑止力に問題が出る」との見解を表明した。米国の「核の傘」に頼る安全保障政策が、最大のネックになっている。

 北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返し、核の傘の役割は増しているとの見方さえある。トランプ米大統領は米国の核戦力を増強する考えを再三表明し、緊張に拍車をかけている。

 だが、「核には核を」の悪循環は、偶発的に核が使われる危険性を高めるばかりだ。すぐには困難だとしても、核の傘からの脱却と、条約参加への道筋を真剣に模索するのが、被爆国としての日本の責務だろう。

 9月以降、53カ国が条約に署名したが、核保有国や核の傘の下にある国はまだ一つもない。日本が参加の意思を示せば、インパクトは計り知れない。核保有国と非核保有国の橋渡し役を自任するなら、国際社会の多数が支持する条約に背を向け続けるべきではない。

(社説)習近平新体制 個人独裁へ歩むのか

2017年10月26日05時00分

 これは新たな個人独裁ではないのか。おととい閉幕した中国共産党大会と、きのう発足した党指導部の人事から、そんな疑念が湧いてくる。

 5年前、党トップの総書記に就いた習近平(シーチンピン)氏は一貫して権力集中を進め、今回、党規約に自らの名を冠した「思想」を書き込んだ。この短期間で毛沢東、トウ小平に並ぶかのような権威づけがされるのは異例だ。

 最高指導部である常務委員や政治局員の人事でも習氏に近い人物が要所に配された。

 習氏にとっては党の立て直しのつもりなのだろうが、これほどの力の集中は、危うい。

 かつて独裁者の毛沢東が「大躍進」「文化大革命」の名の下で過ちを犯し、数千万人規模の命を奪う災難をおこした。毛の死去後に集団指導体制に転じたのは重い教訓ゆえでもある。

 ところがその後は集団指導下での市場経済化に伴い、各指導者のもとでの利権構造が生じ、腐敗が深まった。国有石油企業を通じて蓄財していた周永康氏の事件は記憶に新しい。

 そうした構造に切り込むためにも、習氏はトップである自身の権限を強め、一党支配の安定化を図ろうとしている。

 だが、腐敗をただすのは当然だとしても、まるで毛時代に戻るような方向は間違っている。どんな権力であれ、批判や牽制(けんせい)を受け、説明責任を果たす仕組みが欠かせない。

 メディアによるチェック機能を高め、政策決定過程の透明化を求める議論は、もともと共産党の内外にあった。しかし今では、こうした改革派の影が薄くなったことが懸念される。

 新しい常務委員にも、5年後に習氏を継ぐべき次世代の顔ぶれが入らなかった。習氏は2期10年という従来のルールを変えて3期目以降も続けるつもりなのか。長期院政を敷くつもりなのか。権力集中の果てにはそんな可能性も見える。

 世界的には、グローバル化の波の中で欧米の自由民主主義の政治が混迷していることから、中国の一党支配による安定は、皮肉な強みとみられることもある。しかし、今の時代、どんな独裁も決して国の持続的な長期安定はもたらさない。

 北京では習氏をたたえる報道ばかりだ。この5年、生活水準の底上げが進み、習体制への支持は確かに厚い。それでも、毛沢東時代のような熱狂からは程遠く、多くの市民は冷静だ。

 飢える心配がなくなり、外の世界を広く知り始めた人々が、いつまでこの体制を容認し続けるか、やがて問われるだろう。

(社説)商工中金不正 政策金融の失敗だ

2017年10月27日05時00分

 民業の補完という原則を踏み外し、不正を重ねて民業を圧迫していた。言語道断の、政策金融の失敗である。

 商工組合中央金庫(商工中金)で、国の予算を利用した不正がほぼすべての店舗に広がっていた。全職員の2割が処分されるという前代未聞の事態だ。

 所管する経済産業省の責任も厳しく問われる。政策金融のあり方について、踏み込んだ点検が急務である。

 不正の舞台になった「危機対応業務」は、災害や経済危機時に中小企業が資金を借りやすくするための公的金融制度だ。担い手の商工中金には国の予算から利子などが補填(ほてん)される。

 商工中金は、この仕組みを融資先獲得の武器に使って業績拡大を図った。経営陣が営業現場にプレッシャーをかけ、書類の改ざんなど不正に行き着いた。

 再発防止策として、公的金融と通常業務の峻別(しゅんべつ)や法令順守意識の立て直し、企業統治の見直しなどを打ち出した。早急に対応しなければ、政策を担う資格はない。

 安達健祐社長は辞意を表明した。安達氏と、その前任の杉山秀二氏は元経産次官である。経産省は、中小企業金融の政策を所管すると同時に、商工中金を監督する立場にもあった。

 大臣や次官が給与を返上するが、何の責任をとったのかがあいまいだ。政策の実績づくりや天下り先を温存したいという意識が不正を許す土壌にならなかったか、検証が不可欠だ。

 商工中金の経営陣には財務省出身者もいる。官庁出身者の登用はやめるのが当然だろう。

 経産省は有識者会議を設け、商工中金のあり方について年内にも結果をまとめるという。原点に立ち返った議論を求める。

 危機対応業務は、リーマン・ショックや東日本大震災といった本来の危機時には、一定の役割がある。しかし、景気回復が続く現時点でも「デフレ脱却」などを理由に危機と認定されていた。行き過ぎを防ぐために、基準を明確にする必要がある。

 商工中金は当初、2015年までに完全民営化すると決まっていた。だが、危機対応業務を担わせることを理由に、無期限で先送りされている。

 民間の地域金融機関は過当競争に苦しんでいる。国の後ろ盾がある商工中金による民業圧迫には、不満の声が強い。

 真の危機時に民間金融機関が「貸しはがし」に走らないような仕組みを整えつつ、平時の政策介入は控え、商工中金は完全民営化を急ぐ。政府はそうした検討を急ぐべきだ。

(社説)国会軽視再び 「国難」をなぜ論じない

2017年10月27日05時00分

勝てば官軍ということか。

 政府・自民党は、首相指名選挙を行う特別国会を11月1日~8日に開いた後、臨時国会は開かない方向で調整を始めた。

 憲法53条に基づき、野党が臨時国会を要求してから4カ月。安倍政権は今回もまた、本格審議を逃れようとしている。

 衆院選の大勝後、首相や閣僚が口々に誓った「謙虚」はどうなったのか。巨大与党のおごりが早速、頭をもたげている。

 国会を軽んじる安倍政権の姿勢は、歴代政権でも際立つ。

 通常国会の1月召集が定着した1992年以降、秋の臨時国会がなかったのは、小泉政権の2005年と安倍政権の15年だけだ。ただ05年は特別国会が9月~11月に開かれ、所信表明演説や予算委員会も行われた。

 安倍政権は15年秋も、野党の臨時国会召集要求に応じなかった。閣僚らのスキャンダルが相次いだことが背景にあった。

 今回は野党の要求があれば、予算委員会の閉会中審査には応じる考えという。だが、わずか1日か2日の審査では議論を深めようにも限界がある。

 審議すべきは森友・加計問題だけではない。首相みずから「国難」と強調した北朝鮮情勢や消費増税の使途変更についても、国会で論じあうことが欠かせない。

 だが臨時国会がなくなれば、6月に通常国会を閉じて年明けまで約半年も、本格論戦が行われないことになる。言論の府の存在が問われる異常事態だ。

 ここは野党の出番である。だが、その野党が心もとない。

 民進党は四分五裂し、立憲民主党は55年体制以降、獲得議席が最少の野党第1党だ。

 それでも、安倍政権の憲法無視をこのまま見過ごすことは、あってはならない。

 同党の枝野幸男代表は「永田町の数合わせに我々もコミットしていると誤解されれば、今回頂いた期待はあっという間にどこかにいってしまう」と述べ、野党再編論に距離を置く。

 それはその通りだろう。ただ民主主義や立憲主義が問われるこの局面では、臨時国会を求める一点で野党は連携すべきだ。

 自民党は野党時代の2012年、要求後20日以内の臨時国会召集を義務づける改憲草案をまとめた。それにならって、今度は「20日以内」の期限を付けて改めて要求してはどうか。

 「憲法というルールに基づいて権力を使う。まっとうな政治を取り戻す」。枝野氏は衆院選でそう訴えた。その約束を果たすためにも、野党協力への指導力を期待する。

 


朝日新聞 社説 2017年9月

2017年11月03日 20時58分38秒 | Weblog

(社説)南海トラフ 「突然」を前提に対策を

2017年8月26日05時00分

 現在の科学的知見では地震の直前予知はできない――。ほとんどの専門家が同意するであろう「地震学の実力」が、今後の対策の出発点になる。

 静岡沖から九州沖に延びる南海トラフ沿いでは、巨大地震が繰り返されてきた。そして今、トラフ全体で大規模地震の切迫性が高いと考えられている。

 このうち東海地震については、約40年前に制定された大規模地震対策特別措置法(大震法)で、地震予知を受けて首相が警戒宣言を出し、鉄道を止めるなどの応急対策をとる仕組みがつくられてきた。

 しかし国の中央防災会議の作業部会はきのう、前提を「予知は不可能」に転換し、大震法に基づく応急対策も見直す必要があるとの最終報告をまとめた。

 警戒宣言を聞いて身構えることは期待できない。日常生活を送るなかで突然襲ってくると考えておこう、という意味だ。

 想定震源域が近く、揺れが大きいうえに、地震発生から数分間で津波が到達すると予想される地域もある。建物の耐震化を進め、津波からすぐに逃げる手立てを常に考えておくことが、何より求められる。

 個人、家族、企業、自治体。それぞれがそれぞれの立場で、日ごろから主体的に検討し、決められることは決めておく。それが重要だ。むろん、政府の責任は引き続き重い。

 南海トラフ沿いの大地震は様々な発生の仕方がありうる。過去の例を見ると、連動して起きる可能性もある。一部の地域で先に大地震が起きたとき、残りの地域はどうするか。被災地の救援と続発への警戒とを、どうやって両立させるか。

 生産や流通が複雑に絡みあう社会だ。政府、自治体と主な事業者で対応策をできるだけ整合させておかないと、救援物資を用意したのに届ける手段がないとか、逆に交通は確保したが生産ラインは止まったままだとかの不都合が生じかねない。

 難題ではあるが、政府が音頭をとって生産、物流、医療など公共性の高い機関に呼びかけ、想定されるシナリオごとに計画をつくっておくことが欠かせない。官民合同で問題点を洗い出し、解決策を探り、結果を市民と共有するようにしたい。

 警戒態勢をとった後、それをどんなタイミングで、どう緩めていくかも重要な宿題だ。

 自治体の中には政府で決めて欲しいとの声もあるが、政府頼みは疑問だ。専門家を擁する政府と、住民の生命を預かる自治体が対話し、適切な役割分担の答えを見つけていくしかない。

(社説)米の通商政策 「米国第一」を見直せ

2017年8月27日05時00分

 米国のトランプ政権が通商の世界をかき回している。カナダ、メキシコと北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に入り、FTAを結んでいる韓国とも協議。中国に対しては制裁措置も視野に、知的財産侵害に関する調査を始めた。

 環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を決めたのに続く動きである。

 政権が掲げる「米国第一」を貫き、自らを大統領に押し上げた、ラストベルト(さびついた工業地帯)の支持者らにアピールする狙いだろう。しかし自国の利益のみを追う姿勢では、不毛な対立をまき散らすだけだ。世界の貿易や投資にも悪影響を及ぼしかねない。トランプ政権は考えを改めるべきだ。

 NAFTAや米韓FTAの再交渉では、米国は自らの貿易赤字の削減にこだわる。しかし貿易収支は各国の産業構造や経済状況などに左右され、貿易協定で決まるものではない。

 NAFTAを巡って特に問題なのは、域内の部品をどれほど使えば関税撤廃の対象にするかを決める原産地規則を見直し、自動車について米国製の割合だけを引き上げようとしていることだ。米国製部品をより多く使った自動車の輸出を増やしたいようだが、無理な注文である。

 NAFTAは発効から20年が過ぎ、そのルールを前提に世界の自動車メーカーは北米での生産体制を築いてきた。人件費が相対的に安いメキシコに工場を移し、米国に輸出している。トランプ政権の主張には、メキシコやカナダだけでなく、当の米自動車業界も反発する。

 中国については、米国企業の知的財産を侵害している疑いがあるとして、通商法301条に基づく調査を通商代表部が始めた。「クロ」と判断すれば、関税引き上げなどの制裁措置に踏み切る可能性がある。

 中国に対しては、進出する外資に地元企業と合弁を組ませ、技術移転を強いているといった批判が日欧にもある。だからといって、国際ルールで認められない一方的な制裁措置を発動すれば、国際社会の批判は中国ではなく米国に向かう。日欧と協調して中国に政策変更を迫るのが、米国のとるべき対応だ。

 NAFTAにしても、電子商取引をはじめ新たに盛り込むべきテーマがある。米国が独善的な主張を続ければ、そうした前向きの議論にならない。

 近視眼的な「米国第一」主義を捨てることが、結局は米国の利益になる。日本政府も、日米経済対話などを通じて、繰り返し説くべきだ。

(社説)労基法改正 働き過ぎ是正が優先だ

2017年8月31日05時00分

 長時間労働をただす規制の強化と、一部の働き手を規制の対象外にする制度をつくることが、どう整合するというのか。政府に再考を求める。

 秋の臨時国会に提出が予定される「働き方改革」法案をめぐり、厚生労働省の審議会の議論が大詰めだ。

 労働基準法の改正では、働き過ぎを防ぐ新たな残業時間の上限規制と、既に国会に提出されている労働分野の規制緩和策を一緒にして、法案を出し直す方針を政府は示した。一定年収以上の専門職を労働時間の規制からはずし、残業や深夜・休日労働をしても割増賃金を支払わない「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の新設と裁量労働制の拡大である。

 だが、二つのテーマは背景や目指す方向が異なる。長時間労働の是正が喫緊の課題である一方、高プロは「残業代ゼロ」との批判が強く、2年前に関連法案が国会に提出されて以来、一度も審議されずにたなざらしにされてきた。

 働く人が望む改革と一緒にすれば押し通せる。政府がそう考えているのなら言語道断だ。一本化で議論が紛糾し、残業規制まで滞る事態は許されない。二つを切り離し、まずは長時間労働の是正を急ぐべきだ。

 そもそも安倍政権の目指す「働き方改革」とは何なのか。

 正規・非正規といった働き方の違いによる賃金などの格差を是正し、底上げをはからなければ消費の回復もおぼつかない。出産や子育てがしやすく、家族の介護をしながら働き続けられる環境を整えないと、少子高齢化社会を乗り切れない。そんな問題意識が出発点で、安倍首相も「働く人の視点に立った改革」を強調してきたはずだ。

 一方、高プロ創設などの規制緩和は経済界が要望してきた。首相が「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げるなか、労働者代表のいない産業競争力会議が主導し、審議会での労働側の反対を押し切って法案化された。いわば「働かせる側の視点に立った改革」だ。

 高プロは、時間でなく成果で働きぶりを評価する仕組みとされるが、成果で評価する賃金体系は今でもある。必要な制度なのか、説明は十分ではない。残業代の負担という歯止めがなくなり、長時間労働が助長されないか。いったん導入されたら対象が広がらないか。疑問や懸念は根強く、徹底的に議論することが不可欠だ。

 「働く人の視点に立った改革」を進める気があるのか。政権の姿勢が問われる。

(社説)麻生副総理 あまりにも言葉が軽い

2017年8月31日05時00分

 首相や外相を歴任した政治家として、あまりにも軽すぎる発言である。

 麻生副総理兼財務相がおととい、自らの自民党派閥の研修会でこう語った。

 「(政治家になる)動機は私は問わない。結果が大事だ。いくら動機が正しくても、何百万人も殺しちゃったヒトラーは、やっぱりいくら動機が正しくてもダメなんですよ」

 何が言いたいのかよくわからないが、ヒトラーが率いたナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)に、正当な動機があったとの考えを示したとも受け取られかねない。

 麻生氏はきのう「ヒトラーを例示としてあげたことは不適切であり撤回したい」とするコメントを出した。「私がヒトラーについて、極めて否定的にとらえていることは発言の全体から明らかであり、ヒトラーは動機においても誤っていたことも明らか」としている。

 理解不能である。

 ならばなぜ「動機が正しくても」と2度も繰り返したのか。

 ナチスは強制収容所にユダヤ人を移送し、ガス室などで殺害し、数百万人が犠牲になった。残虐極まる蛮行に正しい動機などありえるはずがない。

 欧米では、ナチスやヒトラーを肯定するような閣僚の発言は直ちに進退問題につながる。安倍政権の重鎮である麻生氏が、このような発言を国内外に発信した責任は重い。

 ナチスを引き合いに出した麻生氏の発言は、今回が初めてではない。

 2013年には憲法改正をめぐり、「ある日気づいたら、ワイマール憲法がナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね」と発言。批判を浴びると、「誤解を招く結果となった」と撤回した。

 麻生氏はきのうのコメントでも「私の発言が誤解を招いたことは遺憾だ」と釈明した。

 発言が問題視されると、誤解だとして撤回し、とりあえず批判をかわす。自らの発した言葉への反省は置き去りにし、また過ちを重ねる……。

 麻生氏に限らず、そんな軽々しい政治家の言動を何度、見せつけられてきたことか。

 政治家にとって言葉は命である。人びとを動かすのも、失望させるのも言葉によってだ。

 その言葉がこれほどまでに無神経に使い捨てられている。

 そんなものかと、この状況を見過ごすことは、この国の政治と社会の基盤を掘り崩すことにつながる。

(社説)震災とデマ 偏見と善意の落とし穴

2017年9月1日05時00分

 94年前の惨事に、あらためて注目が集まっている。

 関東大震災の混乱のなか、官憲や市民の「自警団」の手で、多くの朝鮮人や中国人が殺された。その追悼式に追悼文を送るのを、小池百合子都知事がとりやめると表明したからだ。

 真意ははっきりしない。会見では「震災に続く様々な事情で亡くなった」などと、あいまいな物言いに終始した。

 これでは、事件の本質とそこから学ぶべき教訓がかき消されてしまう。リーダーとしての適格性が疑われる行いである。

 「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」といったデマを信じた人々によって虐殺があったのは、動かしようのない事実だ。

 16歳だった社会学者の故清水幾太郎も、兵隊らが銃剣の血を洗うのを目撃した。一人が得意そうに「朝鮮人の血さ」と教えてくれたと書き残している。

 同じ社会に生きる少数者に、差別意識や漠とした不安感を抱いている状態で、震災のような異変が起き、そこに日ごろの偏見と重なる話が流れてくると、あっさりのみ込まれてしまう。人間にはそんな一面がある。

 東日本大震災でも「被災地で外国人窃盗団が横行している」といったデマが流布した。

 在日コリアンたちへのヘイト行為が公然となされ、ネット上で「関東大震災での虐殺は、朝鮮人が起こした暴動への正当防衛だった」などの虚説が飛びかうのを見ると、災害時の流言飛語がはらむ危うさは、決して過去の話ではない。

 多くのデマは「真実の仮面」をかぶって現れ、必ずしも悪意によって広がるのではないことを知っておきたい。

 LINEやツイッターなどSNSが発達し、だれもが情報を発信する手立てをもった。

 治安の悪化や買い占めなどの話を耳にした。内容は不確かかも。でも万が一のこともある。みんなで共有しておこう――。そんな「善意」や「正義感」もデマ拡散の原因になりうる。

 防ぐ特効薬はない。

 正確な情報で正していくしかないが、ある考えが一度植えつけられ、偏見の「鋳型」ができてしまうと、後から本当のことを示されても容易に受け入れられない。それも人間の特性で、米大統領選ではフェイクニュースが広がり続けた。

 だからこそ、日ごろ知識を蓄え、デマの特徴や過去の例を知り、早めに誤りの芽を摘むことが大切だ。SNSを賢く使いこなす能力も求められよう。

 きょうは防災の日。関東大震災の教訓を胸に刻む日である。

(社説)防衛概算要求 「限界」見据えた議論を

2017年9月1日05時00分

 日本にとって適正な防衛力とはどの程度なのか。臨時国会での冷静な議論を求めたい。

 防衛省が来年度予算案の概算要求を公表した。総額は過去最大の5兆2551億円。今年度当初予算に比べ2・5%増で、要求増は6年連続だ。

 北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、中国の強引な海洋進出が続く。自衛隊の能力を不断に見直し、防衛力の整備を進める必要があるのは確かだ。

 ただ、自衛隊ができることには、法的にも能力的にも限界がある。未曽有の財政難のなか、国家予算から防衛費にあてられる額には限りがあるし、過度の軍拡競争はかえって地域の安定を乱しかねない。

 こうした条件のもとで、適正な防衛力の規模を、費用対効果を踏まえて論じ合うのは国会の重要な使命である。

 焦点のひとつは、陸上配備型の米国製迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入だ。金額は明示せず、年末までに確定する形をとった。

 弾道ミサイルの脅威に対応するため、自衛隊は、イージス艦が発射する迎撃ミサイル「SM3」と、地対空誘導弾「PAC3」の二段構えの体制をとっている。さらに「万全を期す意味で」(小野寺防衛相)導入するという。

 8月に開かれた日米の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で、日本側が導入を対米公約した。しかし国内、とりわけ国会の議論が全く不十分だ。

 ミサイル防衛には、相手に発射をためらわせる抑止効果や、国民に安心をもたらす効果もあるとされるが、導入にかかる費用は1基800億円と巨額だ。1基あたり100人程度の要員も必要で、維持コストは重い。

 一方で、北朝鮮がミサイルを同時に多数発射したり、複数の弾頭を搭載したりすれば、実際には迎撃は困難だ。

 いま直ちに北朝鮮の脅威に対応できるわけでもない。配備先の決定に必要な地元との調整や、住民への影響調査を考えると、運用が始まるまでに5年以上かかるとの見通しもある。

 概算要求では尖閣など離島防衛の強化に向け、新型の高速滑空弾の研究費100億円、長射程の新対艦誘導弾の研究費に77億円を要求したが、あれもこれもでは際限がない。他の装備に比べ、ミサイル防衛をどこまで優先するかも重要な論点だ。

 様々な制約を抱えるなか、日本の安全をどう守り、地域の緊張緩和につなげるか。軍事だけでなく、外交努力とあわせた骨太な議論が欠かせない。

(社説)100兆円予算 「歳出改革」やれるのか

2017年9月3日05時00分

 国の来年度の予算編成に向けて、各省庁の概算要求が出そろった。総額は約101兆円で4年続けて100兆円を超えた。

 財務省は査定を通じて3兆円分を削り、総額を98兆円程度にする方針だ。とはいえ、税収は今年度に見込む57兆円余から大きな伸びは期待できず、多額の国債発行が避けられない。

 必要な事業を見極め、将来世代へのつけ回しを少しでも減らせるか。安倍政権は「歳出改革の取り組みを強化する」と強調するが、かけ声だけで終わらせてはならない。

 概算要求の総額は前年度よりやや少ないが、各省庁が要求を絞ったからではない。借金(過去に発行した国債)の元利払いに充てる国債費を少なく見積もったことが最大の要因だ。超低金利に合わせて想定金利を下げ、8千億円近く減った。

 それ以外では、むしろ締まりのなさが目につく。

 象徴的なのが約4兆円の「特別枠」だ。公共事業など政策判断で増減させやすい分野について、要求額を今年度予算から1割減らす代わりに、政権が重視する施策に関する事業を特別枠で優先的に認める。

 硬直的になりがちな配分にメリハリを付けるのが本来の狙いだが、「抜け道」になりやすい。特別枠の対象が「人材投資」「地域経済・中小企業・サービス業の生産性向上」などと幅広いためだ。「1割減」ルールで要求を見送った分を特別枠に回し、合計すると増額要求になっているという例もある。

 金額を明示していない「事項要求」も心配だ。幼稚園や保育園の無償化など、どこまで具体化するかを今後詰める項目についてとられる手法だが、各省庁にいくつもある。軒並み予算計上を認めていけば、総額が膨らみかねない。

 医療や介護などの社会保障費も焦点だ。高齢化に伴って膨らむ「自然増」について、政府は年間5千億円に抑える目標を掲げる。来年度は6300億円の増加が見込まれ、診療報酬や介護報酬の改定などで圧縮する方針だが、調整は容易ではない。

 安倍政権は毎年度、100兆円近い過去最大規模の予算を組んできた。しかし16年度の税収が7年ぶりに減少するなど、経済成長をあてにした予算編成を続けられないのは明らかだ。

 与党議員からは、内閣支持率の低下とともに歳出増を求める声が強まっている。ばらまきを排し、政策ごとに必要性を突き詰める「歳出改革」の重みがこれまでになく増していることを、政権は肝に銘じてほしい。

(社説)尖閣問題5年 日中互恵の歩を進めよ

2017年9月10日05時00分

 沖縄県尖閣諸島の3島を日本政府が国有化してから、5年になる。

 領有権を主張する中国が反発し、日中関係は一時最悪の状況に陥ったが、このところ停滞の中にも改善傾向がみられる。

 だが、安倍政権と習近平(シーチンピン)政権の間では、信頼関係ができたと言うにはほど遠いようだ。

 日中にとって、東アジア地域の平和と繁栄は共通の利益である。それが今、北朝鮮のミサイル発射と核実験によって脅かされている。にもかかわらず、両首脳間で直接の意思疎通がないのは異様というべきだ。

 尖閣の国有化後、中国の国家主席も首相も来日していない。首脳会談は国際会議のときに、短時間できただけだ。関係改善の余地はまだまだ大きい。

 尖閣周辺海域の状況も依然、厳しい。中国の公船による日本領海への侵入が繰り返されている。中国漁船とともに近づき、「公務執行」の事実を積み重ねているようにみえる。

 こうした緊張を高める不毛な行動を中国はやめるべきだ。

 問題は尖閣にとどまらない。中国軍の海洋進出が強まっている。艦船による日本の海峡などの航行や、航空機の接近が目立つようになった。

 日本側も、この5年で変わった。集団的自衛権の行使を含む安保関連法を施行したほか、南西諸島の防衛を強化している。中国がそれも意識しつつ、さらなる軍拡を進めている。

 そもそも両国の間には、自由民主主義と共産党支配という根本的な体制の違いがある。だが一方で、長年にわたる貿易と投資、人的交流の太い結びつきがあり、相互依存は強固だ。

 新興大国・中国に対しては、どの国も協力と対抗の両面を抱えざるをえない。ただ、日本の外交は後者に偏りがちだった。

 その意味では最近、習政権の「一帯一路」構想に日本政府が示した協力姿勢はバランスの修正を図ったものといえる。

 尖閣国有化からさらに5年前は07年。第1次安倍政権の下で日中関係が改善し、温家宝首相が来日した。その翌年には胡錦濤国家主席が訪れ、相互信頼をうたう共同声明をまとめた。

 ついこの間まで、そんな関係だったことを思い出したい。

 安保面では、偶発的な衝突を防ぐ連絡態勢作りを急ぎたい。経済や環境ではもっと互恵関係を広げたい。地道な努力で関係の再構築を図るほかない。

 まずは延期されている日本での日中韓サミットの開催をめざし、日本政府が中国に働きかけを強めてはどうか。

(社説)森友学園問題 国会は矛盾をただせ

2017年9月13日05時00分

 学校法人・森友学園の前理事長、籠池泰典と妻諄子(じゅんこ)の両被告が、大阪府、大阪市の補助金を詐取した詐欺罪などで、大阪地検特捜部に起訴された。

 国の補助金を含めた詐取総額は1億7千万円にのぼる。補助金不正の捜査はこれで終結した。だが、特捜部は、学園に国有地を大幅値引きして売った財務省職員らの背任容疑については、捜査を続けるという。

 繰り返すが、問題の核心は、国有地がなぜ8億円余りも値引きされたかだ。この点が解明されなければ、国民の納得は得られまい。捜査を見守りたい。

 この問題で新たな音声データの存在も明らかになった。

 財務省近畿財務局の職員が、学園側の希望する金額に近づけるために「努力している」と伝えていたことを示す内容だ。

 朝日新聞の取材によると、昨年5月、財務局の職員2人が学園の幼稚園を訪問し、「来月には金額を提示する」と説明。前理事長夫妻は、すでに国に伝えていた新たなごみに加え、「ダイオキシンが出た」と述べ、「0円に近い形で払い下げを」などと迫っている。

 財務局職員は汚染土の除去費の立て替え分としてすでに国が学園に約1億3200万円を払っており、「それを下回る金額はない」と理解を求め、10年の分割払いも提案し、「ご負担も減る」と説明した。

 翌月、土地は1億3400万円で、分割払いでの売却が決まった。国有財産の処分が、相手の要望に沿って決まったとすれば驚くほかない。国有地は一括売却が原則だ。「新たなごみ」が出たというなら地中を掘削して調べ直せばいい。国の立て替え分は売値とは別の話だ。

 このやりとりの前にも、財務局が「いくらなら買えるのか」と学園側にたずね、学園側が「1億6千万円まで」と答えたという関係者証言もある。

 音声データは特捜部も入手している。価格決定までの国の内部のやりとりについて、捜査を尽くしてほしい。

 焦点は、学園の小学校の名誉校長に安倍首相の妻の昭恵氏が就任していたこととの関係だ。

 国会も事実関係の確認に乗り出すべきだ。

 財務省理財局長だった佐川宣寿(のぶひさ)・国税庁長官は3月、国会で「(価格を)提示したこともないし、先方からいくらで買いたいと希望があったこともない」と述べた。分割払いも、学園の「要望」と答弁している。明らかに矛盾する交渉経緯が浮上している以上、臨時国会で真相を明らかにする必要がある。

(社説)憲法70年 まっとうな筋道に戻せ

2017年9月14日05時00分

 憲法は、一人ひとりの人権を守り、権力のあり方を規定する最高法規である。その改正をめぐる議論は、国民と与野党の多くが納得して初めて、前に進めるべきものだ。

 このまっとうな筋道に、自民党は立ち戻るべきだ。

 同党の憲法改正推進本部が一昨日、9条1項、2項を維持しつつ自衛隊の存在を明記する安倍首相の案について、条文の形の試案を示す方針を確認した。

 「2020年を新しい憲法が施行される年に」。首相がそう語ったのは5月だった。

 それが森友、加計学園問題などで「1強のおごり」への批判が高まり、7月初めの東京都議選で惨敗すると、「スケジュールありきではない」と軌道修正したはずだった。

 だが結局、首相が描いた日程は変えたくないらしい。同本部の特別顧問である高村正彦副総裁は、秋の臨時国会で自民党案を「たたき台」として各党に示し、来年の通常国会で発議をめざす考えを示している。

 背景には、最近の内閣支持率の持ち直し傾向があるようだ。北朝鮮情勢の緊迫や民進党の混迷も一因だろう。それ以上に、野党が憲法に基づき要求した臨時国会召集を拒み、一連の疑惑の追及を避けていることも支持率上昇の理由ではないか。

 国会での圧倒的な数の力があるうちに、自らの首相在任中に改憲に突き進む。そんな強引な姿勢も世論の批判を招いていたのではなかったか。そのことを忘れたのだろうか。

 一昨日の自民党の会合では、首相の9条改正案に同調する意見と、国防軍保持を明記した2012年の党改憲草案を支持する意見が対立した。

 石破茂元防衛相は会合で「いまでも自民党の党議決定は草案だ。それを掲げて、国民の支持を得てきた」と指摘した。

 連立を組む公明党の山口那津男代表は、安全保障関連法が施行されたことを理由に、9条改正には否定的な立場だ。

 改憲論議には積極的な前原誠司・民進党代表も「少なくとも年単位の議論が必要だ。拙速な安倍さんのスケジュール感にはくみしない」と距離をおく。

 民意も二分されている。本紙の5月の世論調査で首相の9条改正案について「必要ない」が44%、「必要」は41%だった。

 憲法改正は、与野党の意見も民意も割れるなかで強引に進めるべきものではない。

 党派を超えて、幅広い合意づくりを心がける。衆参の憲法審査会が培ってきた原点に戻らなければならない。

(社説)東電と原発 規制委の容認は尚早だ

2017年9月14日05時00分

 福島第一原発事故を起こした東京電力に、原発を動かす資格はあるのか。

 原子力規制委員会が、柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原発6、7号機(新潟県)の再稼働への審査で、安全文化が社内に根付いているかなど「適格性」を条件付きで認めた。

 「経済性より安全性追求を優先する」などと東電社長が表明した決意を原発の保安規定に盛り込み、重大な違反があれば運転停止や許可の取り消しもできるようにするという。

 しかし、今後のチェック体制を整えることと、現状を評価することは全く別の話だ。適格性を十分確認したとは言えないのに、なぜ結論を急ぐのか。近く5年の任期を終える田中俊一委員長に、自身の任期中に決着をつけたいとの思いがあるのか。

 規制委の姿勢には前のめり感が否めない。今回の判断は時期尚早である。

 安全文化は「過信」から「慢心」、「無視」「危険」「崩壊」へと5段階で劣化していくが、福島の事故前から原発のトラブル隠しやデータ改ざんで既に「崩壊」していた。東電は2013年、事故をそう総括した。改善に向けて、社外のメンバーをまじえた委員会に定期的に報告する態勢を整え、成果を誇る自己評価書も公表済みだ。

 ところが、第一原発事故で当時の社長が「炉心溶融」の言葉を使わないよう指示していたことは、昨年まで明るみに出なかった。柏崎刈羽原発では、重要施設の耐震性不足を行政に報告していなかったことが発覚。今年8月、第一原発の地下水くみ上げで水位低下の警報が鳴った際は公表が大幅に遅れ、規制委は「都合の悪い部分を隠し、人をだまそうとしているとしか思えない」と厳しく批判した。

 それなのに、規制委はなぜ、適格性について「ないとする理由はない」と判断したのか。

 福島の事故後、日本の原発について、事業者も規制当局も設備などのハード面に関心が偏っているとの指摘が内外から相次いだ。安全文化の醸成と定着へ組織運営や職員の意識を改めていくソフト面の取り組みは、東電以外の事業者にも共通する課題であり、事故後の新規制基準でも不十分なままだ。

 規制委にとって、適格性の審査は新しい取り組みだ。専門のチームで検討を始めたのは今年7月で、年内に中間まとめを出す予定という。

 まずは適格性に関する指針を固める。その上で、個々の原発の再稼働審査にあてはめ、安全文化を徹底させる。それが、規制委が踏むべき手順である。

(社説)旧姓使用拡大 小手先対応では済まぬ

2017年9月16日05時00分

 国家公務員が仕事をする際、結婚前の旧姓を使うことを原則として認める。各府省庁がそんな申し合わせをした。

 職場での呼び名や出勤簿などの内部文書などについては、2001年から使用を認めてきたが、これを対外的な行為にも広げる。すでに裁判所では、今月から判決などを旧姓で言いわたせるようになっている。

 結構な話ではある。だが、旧姓の使用がいわば恩恵として与えられることと、法律上も正式な姓と位置づけられ、当たり前に名乗ることとの間には本質的な違いがある。長年議論されてきた夫婦別姓の問題が、これで決着するわけではない。

 何よりこの措置は国家公務員に限った話で、民間や自治体には及ばない。内閣府の昨秋の調査では、「条件つきで」を含めても旧姓使用を認めている企業は半分にとどまる。規模が大きくなるほど容認の割合は高くなるが、現時点で認めていない1千人以上の企業の35%は「今後も予定はない」と答えた。

 人事や給与支払いの手続きが煩雑になってコストの上昇につながることが、導入を渋らせる一因としても、要は経営者や上司の判断と、その裏にある価値観によるところが大きい。

 結婚のときに姓を変えるのは女性が圧倒的に多い。政府が「女性活躍」を唱え、担当大臣を置いても、取り残される大勢の人がいる。

 やはり法律を改めて、同じ姓にしたいカップルは結婚のときに同姓を選び、互いに旧姓を名乗り続けたい者はその旨を届け出る「選択的夫婦別姓」にしなければ、解決にならない。

 氏名は、人が個人として尊重される基礎であり、人格の象徴だ。不本意な改姓によって、結婚前に努力して築いた信用や評価が途切れてしまったり、「自分らしさ」や誇りを見失ってしまったりする人をなくす。この原点に立って、施策を展開しなければならない。

 だが安倍政権の発想は違う。旧姓使用の拡大は「国の持続的成長を実現し、社会の活力を維持していくため」の方策のひとつとされる。人口減少社会で経済成長を果たすという目標がまずあり、そのために女性を活用する。仕事をするうえで不都合があるなら、旧姓を使うことも認める。そんな考えだ。

 倒錯した姿勢というほかない。姓は道具ではないし、人は国を成長・発展させるために生きているのではない。

 「すべて国民は、個人として尊重される」。日本国憲法第13条は、そう定めている。

(社説)年内解散検討 透ける疑惑隠しの思惑

2017年9月18日05時00分

 安倍首相が年内に衆院を解散する検討に入った。28日召集予定の臨時国会冒頭に踏み切ることも視野に入れているという。

 衆院議員の任期は来年12月半ばまで。1年2カ月以上の任期を残すなかで、解散を検討する首相の意図は明らかだ。

 小学校の名誉校長に首相の妻昭恵氏が就いていた森友学園の問題。首相の友人が理事長を務める加計学園の問題……。

 臨時国会で野党は、これらの疑惑を引き続きただす構えだ。冒頭解散に踏み切れば首相としては当面、野党の追及を逃れることができるが、国民が求める真相究明はさらに遠のく。そうなれば「森友・加計隠し解散」と言われても仕方がない。

 野党は憲法53条に基づく正当な手順を踏んで、首相に早期の臨時国会召集を要求してきた。冒頭解散となれば、これを約3カ月もたなざらしにしたあげく葬り去ることになる。憲法の規定に背く行為である。

 そもそも解散・総選挙で国民に何を問うのか。

 首相は8月の内閣改造で「仕事人内閣で政治を前に進める」と強調したが、目に見える成果は何も出ていない。

 首相側近の萩生田光一・自民党幹事長代行は衆院選の争点を問われ、「目の前で安全保障上の危機が迫っている中で、安保法制が実際にどう機能するかも含めて国民に理解をいただくことが必要だ」と語った。

 だが北朝鮮がミサイル発射や核実験をやめないなか、衆院議員を不在にする解散に大義があるとは到底、思えない。

 むしろ首相の狙いは、混迷する野党の隙を突くことだろう。

 野党第1党の民進党は、前原誠司新代表の就任後も離党騒ぎに歯止めがかからず、ほかの野党とどう共闘するのか方針が定まらない。7月の東京都議選で政権批判の受け皿になった小池百合子知事が事実上率いる都民ファーストの会は、小池氏の側近らが新党結成の動きを見せるが、先行きは不透明だ。

 都議選での自民党大敗後、雲行きが怪しくなっている憲法改正で、主導権を取り戻したい狙いもありそうだ。

 自民党内で首相が唱える9条改正案に異論が噴出し、公明党は改憲論議に慎重姿勢を強めている。一方、民進党からの離党組や小池氏周辺には改憲に前向きな議員もいる。

 北朝鮮情勢が緊迫化するなかで、政治空白を招く解散には明確な大義がいる。その十分な説明がないまま、疑惑隠しや党利党略を優先するようなら、解散権の乱用というほかない。

(社説)安保法2年 政府任せにはできない

2017年9月19日05時00分

 多くの反対を押し切って、安倍政権が安全保障関連法を成立させてから、きょうで2年。

 かねて指摘されてきた懸念が次々と現実になっている。

 自衛隊の活動が政府の幅広い裁量に委ねられ、国民や国会の目の届かないところで、米軍と自衛隊の運用の一体化が進んでいく。

 その一端を示す事実が、また報道で明らかになった。

 日本海などで北朝鮮の弾道ミサイル発射の警戒にあたる米海軍のイージス艦に、海上自衛隊の補給艦が5月以降、数回にわたって燃料を補給していた。

 安保法施行を受けて日米物品役務相互提供協定(ACSA)が改正され、可能になった兵站(へいたん)(後方支援)だ。法制上は日本有事を含め、世界中で米軍に給油や弾薬の提供ができる。

 問題は、今回の給油について政府が公式な発表をしていないことだ。菅官房長官は「自衛隊や米軍の運用の詳細が明らかになる恐れがある」からだとしているが、このままでは国民も国会も、政府の判断の当否をチェックしようがない。

 やはり安保法に基づき、米軍艦船を海自が守る「米艦防護」も、初めて実施された事実が5月に報道されたが、政府は今に至るも公表していない。

 忘れてならないのは、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)で起きた日報隠蔽(いんぺい)だ。

 「戦闘」と記述された陸上自衛隊の日報をなぜ隠したのか。背景には、駆けつけ警護など安保法による新任務の付与を急ぐ安倍政権の思惑があった。

 政府の隠蔽体質は明らかだ。であれば文民統制上、国会の役割がいっそう重要だ。政府の恣意(しい)的な判断に歯止めのない現状を、早急に正す必要がある。

 一方、政府による拡大解釈の可能性を改めて示したのは、小野寺防衛相の次の発言だ。

 8月の閉会中審査で、グアムが北朝鮮のミサイル攻撃を受けた場合、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」にあたりうるとの考えを示したのだ。

 グアムの米軍基地が攻撃を受けたとしても「日本の存立が脅かされる明白な危険がある」と言えるはずがない。ミサイルの迎撃が念頭にあるようだが、現時点では自衛隊にその能力はなく、実態とかけ離れている。

 安保法は、歴代内閣の憲法解釈を一変させ、集団的自衛権の行使容認に踏み込んだ。その違憲性はいまも変わらない。

 2年間で見えた安保法の問題点を洗い出し、「違憲」法制の欠陥を正す。与野党の徹底した議論が必要だ。

(社説)10月衆院選へ 大義なき「身勝手解散」

2017年9月20日05時00分

 安倍首相による、安倍首相のための、大義なき解散である。

 衆院総選挙が10月10日公示、22日投開票の日程で検討されている。首相は、9月28日に召集予定の臨時国会の冒頭、解散に踏み切る公算が大きい。

 重ねて記す。野党は6月、憲法53条に基づく正当な手続きを踏んで、臨時国会の早期召集を要求した。これを3カ月以上もたなざらしにした揚げ句、やっと迎えるはずだった国会論戦の場を消し去ってしまう。

 まさに国会軽視である。そればかりか、憲法をないがしろにする行為でもある。

 首相は、8月の内閣改造後、「働き方改革」のための法案などを準備したうえで、召集時期を決めたいと語っていた。

 だが解散すれば、肝いりの働き方改革は後回しになる。首相が「仕事人内閣」と強調した閣僚メンバーの多くは、まだほとんど仕事をしていない。目につく動きと言えば、「人生100年時代構想会議」を1度開いたくらいだろう。

 首相は、衆院選で掲げる公約の案を自民党幹部に伝えた。

 2019年秋の消費税率引き上げは予定通り行ったうえで、税収増の大半を国の借金の穴埋めに使う今の計画を変え、教育の無償化など「人づくり革命」の財源とする構想だ。

 しかし、消費増税の使途見直しは与党内の議論を経ていない。民進党の前原誠司代表の主張に近く、争点をつぶす狙いがうかがえる。いま総選挙で有権者に問うにふさわしいテーマとは言えない。

 さらに理解できないのは、北朝鮮情勢が緊張感を増すさなかに、政権与党の力を衆院選に注ぎ込もうとする判断である。

 自民党内では、有事や災害に備えて憲法を改正し、緊急事態条項や衆院議員の任期延長の特例新設を求める声が根強い。その一方で、衆院議員を全員不在にするリスクを生む解散をなぜあえてこの時期に選ぶのか。ご都合主義にもほどがある。

 与党は予算案や法案を通す圧倒的な数をもつ。国民の信を問うべき差し迫った政策的な緊迫があるわけでもない。総選挙が必要な大義は見当たらない。

 なのになぜ、首相は解散を急ぐのか。自身や妻昭恵氏の関与の有無が問われる森友学園や加計学園の問題をめぐる「疑惑隠し」の意図があると断じざるを得ない。

 それでも首相はこの身勝手な解散に打って出るのか。そうだとすれば、保身のために解散権を私物化する、あしき例を歴史に刻むことになる。

(社説)森友・加計 どこが「小さな問題」か

2017年9月21日05時00分

 「国民から疑念の目を向けられるのはもっとも。その観点が欠けていた」「丁寧に説明を重ねる努力を続けたい」

 2カ月足らず前、加計学園問題をめぐる衆参予算委員会の閉会中審査にのぞんだ安倍首相は、おわびの言葉を重ねた。

 あれは口先だけだったのか。政権全体の姿勢を疑わざるをえない発言が飛び出した。

 臨時国会の冒頭で衆院を解散するというのは、森友・加計学園の「疑惑隠し」ではないか。だれもが抱く思いに対し、自民党の二階俊博幹事長が記者会見でこう答えたのだ。

 「我々はそんな小さな、小さなというか、そういうものを、問題を隠したりなどは考えていない」

 言いたいことが二つある。

 まず、森友・加計問題は「小さな問題」などではない。

 行政は手続きにのっとり、公平・公正に行われているか。権力者である首相との距離によって、分け隔てがあるのではないか。正確に記録を残し、適切に開示して説明責任を果たすという務めを理解しているか。

 両学園をめぐって国民から噴き出したこれらの疑問は、民主主義と法治国家の根幹にかかわる、極めて重いテーマだ。

 だからこそ、政権の不誠実な対応に国民は怒り、落胆した。それは7月の東京都議選で自民党の大敗をもたらし、内閣支持率の低下を招いた。

 そのことを早くも忘れ、おごりに転じたと見るほかない。

 「隠したりなどは考えていない」が真実ならば、堂々と国会審議に応じよ。これが言いたいことの二つ目だ。

 憲法に基づく野党の臨時国会の召集要求を3カ月も放置した末に、衆院解散によって状況のリセットを図る。政権のふるまいと二階氏の発言は、まるでつじつまが合わない。

 真相解明の鍵を握るとみられながら口を閉ざしたままの人がまだまだいる。首相の「腹心の友」で加計学園理事長の加計孝太郎氏、森友学園の小学校の名誉校長を引き受け、講演もしてきた首相の妻昭恵氏らだ。国会で話を聴く必要がある。

 記録の開示もまったく不十分だ。内閣府や財務省は「文書はない」「廃棄した」をくり返し、恥じるそぶりも見せない。この国の行政はそんないい加減な官僚によって担われているのか。本当ならば、その弊をただすために審議を尽くし、手立てを講じるのが、与野党を超えた立法府の責務ではないか。

 このままでは「疑惑隠し」の汚名が消えることはない。

(社説)公文書管理 法の原点に立ち返れ

2017年9月25日05時00分

 公の文書をどう管理し、国民に対する説明責任を果たすか。近づく衆院選でも、しっかり議論すべきテーマである。

 政府が先ごろ管理方法の見直し策を示した。だが森友・加計学園問題やPKO日報の隠蔽(いんぺい)で明らかになった、ずさんな取り扱いを改めさせることに、どこまでつながるだろうか。

 内閣官房の検討チームが打ち出した柱の一つは、政策立案や事業の実施に「影響を及ぼす打ち合わせ」については、相手が行政機関か民間かを問わず、文書を作成するというものだ。

 当然の話だ。作らなくても問題にならない現状がおかしい。だが、打ち合わせた相手の発言を記録する際は、できるだけその相手に内容を確認するとした点には疑問がある。政府の狙いが透けて見えるからだ。

 加計学園の獣医学部新設をめぐり、文科省には、内閣府から「(開学時期は)総理のご意向だ」と伝えられたとする文書などが残っていた。検討チームの方針にそのまま従えば、こうした発言は確認を拒まれ、当たり障りのない「きれいな記録」しか作られなくなるだろう。

 相手の確認を必要とする理由は「正確性の確保」だという。だが求められる正確性とは、省庁間の意見の違いや政治家の指示など、意思決定過程をありのまま残すことだ。加計問題の教訓をとり違え、悪用し、真相を隠す方向に働きかねないルールを設けるべきではない。

 これとは別に、有識者でつくる内閣府の公文書管理委員会も文書管理に関するガイドラインの改訂にとり組んでいる。

 森友問題で財務省が、国有地の売却記録を「保存期間1年未満」に分類し廃棄したと説明したことなどを受け、役所に勝手をさせず、保存範囲を広げる方向で議論は進んでいる。

 それでも、長期保存の要件とされる「重要」「異例」などを判断するのは官僚だ。自分らに都合よく解釈して廃棄してしまうおそれは消えない。また、時間が経ち、政策が動き出したところで重要性が認識されても、それまでの記録は処分済みという事態も考えられる。

 多くの文書が電子化され、紙に比べてコストがかからないことを踏まえ、長期保存を原則とする。重要か否かの判断を役所任せにせず、第三者の専門家や国民の意見を聞く――。そんな方策も考えてはどうか。

 何より大事なのは公務員の自覚だ。公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と定める法の趣旨を、いま一度かみしめるべきだ。

(社説)衆院選 大義なき解散 「首相の姿勢」こそ争点だ

2017年9月26日05時00分

 安倍首相が衆院の解散を表明した。10月10日公示、22日投開票で行われる方向の衆院選の最大の「争点」は何か。

 民主主義の根幹である国会の議論を軽んじ、憲法と立憲主義をないがしろにする。そんな首相の政治姿勢にほかならない。

 きのうの記者会見で首相は、少子高齢化と北朝鮮情勢への対応について国民に信を問いたいと訴えた。

 少子高齢化をめぐっては、消費税率の10%への引き上げを予定通り2019年10月に行い、借金返済にあてることになっている分から、新たに教育無償化などに回す。その是非を問いたいという。

 だが、この使途変更は政府・与党内でまともに議論されていない。そればかりか、民進党の前原誠司代表が以前から似た政策を主張してきた。争点にすると言うより、争点からはずす狙いすらうかがえる。国民に問う前に、まずは国会で十分な議論をすべきテーマだ。

 核・ミサイル開発をやめない北朝鮮にどう向き合うか。首相は会見で「選挙で信任を得て力強い外交を進めていく」と強調したが、衆院議員を不在にする解散より、与野党による国会審議こそ必要ではないのか。

 首相にとって今回の解散の眼目は、むしろ国会での議論の機会を奪うことにある。

 ■国会無視のふるまい

 首相は28日に召集される臨時国会の冒頭、所信表明演説にも代表質問にも応じずに、解散に踏み切る意向だ。

 6月に野党が憲法53条に基づいて要求した臨時国会召集の要求を、3カ月余りも放置した揚げ句、審議自体を葬り去る。憲法無視というほかない。

 いま国会で腰を落ち着けて論ずべき課題は多い。首相や妻昭恵氏の関与の有無が問われる森友・加計学園をめぐる疑惑もそのひとつだ。首相は会見で「丁寧に説明する努力を重ねてきた。今後ともその考えに変わりはない」と語ったが、解散によって国会での真相究明は再び先送りされる。

 国会を軽視し、憲法をあなどる政治姿勢は、安倍政権の体質と言える。

 その象徴は、一昨年に成立させた安全保障関連法だ。

 憲法のもとで集団的自衛権の行使は許されない。歴代の自民党内閣が堅持してきた憲法解釈を閣議決定で覆し、十分な議論を求める民意を無視して採決を強行した。

 今年前半の国会でも数の力を振り回す政治が繰り返された。

 森友問題では昭恵氏の国会招致を拒み続ける一方で、加計問題では「総理のご意向」文書の真実性を証言した前文部科学次官に対して、露骨な人格攻撃もためらわない。

 ■議論からの逃走

 極め付きは、「共謀罪」法案の委員会審議を打ち切る「中間報告」を繰り出しての採決強行である。都合の悪い議論から逃げる政権の姿勢は、今回の解散にも重なる。

 北朝鮮の脅威などで地域情勢が緊迫化すれば、政権与党への支持が広がりやすい。選挙準備が整っていない野党の隙もつける。7月の東京都議選の大敗後、与党内から異論が公然と出始めた首相主導の憲法改正論議の局面も、立て直せるかもしれない。タイミングを逃し、内閣支持率が再び低下に転じ、「選挙の顔」の役割を果たせなくなれば、来秋の自民党総裁選での3選がおぼつかなくなる……。そんな政略が透けて見える。

 森友・加計問題とあわせ、首相にとって不都合な状況をリセットする意図は明らかだ。

 もはや党利党略を通り越し、首相の個利個略による解散といっても過言ではない。

 森友・加計問題については、自民党の二階幹事長から信じられない発言が飛び出した。「我々はそんな小さな、小さなというか、そういうものを、問題を隠したりなどは考えていない」

 だがふたつの問題が問うているのは、行政手続きが公平・公正に行われているのかという、法治国家の根幹だ。真相究明を求める国民の声は、安倍政権に届いているようには見えない。

 ■数の力におごる政治

 安倍政権は12年末に政権に復帰した際の衆院選を含め、国政選挙で4連勝中だ。

 これまでの選挙では特定秘密法も安保法も「共謀罪」法も、主な争点に掲げることはなかった。なのに選挙で多数の議席を得るや、民意を明確に問うていないこれらの法案を国会に提出し、強行成立させてきた。

 きのうの会見で首相は、持論の憲法9条の改正に触れなかったが、選挙結果次第では実現に動き出すだろう。

 もう一度、言う。

 今回の衆院選の最大の「争点」は何か。少数派の声に耳を傾けず、数におごった5年間の安倍政権の政治を、このまま続けるのかどうか。

 民主主義と立憲主義を軽んじる首相の姿勢が問われている。

(社説)メルケル首相 欧州統合の推進堅持を

2017年9月27日05時00分

 「自国第一」を叫ぶ政党が、ついにドイツでも躍進した。

 24日の総選挙で、新興の右翼政党「ドイツのための選択肢」が、初めて国政の壁を破った。しかも、旧来の2大政党に次ぐ第3の勢力になった。

 反難民・反イスラムを掲げ、大衆の不満をあおる。その手法は、フランスやオランダなどのポピュリズム勢力と同じだ。

 欧州に蔓延(まんえん)する自国主義を戒めてきた大国ドイツが、足元の政治異変に揺れている。

 欧州連合(EU)加盟国で最長の4期目に臨むメルケル首相は、正念場を迎える。欧州統合の流れを守り、自由・人権の原則を掲げる旗手としての存在感を保つよう望みたい。

 今回の選挙結果には、さまざまな要因がある。この2年間で100万人超の難民申請者を受け入れた人道的措置が、国内に不満を生んだのは確かだ。

 格差への反発もある。ドイツ経済は欧州で一人勝ちといわれるほど好調だが、特に旧東独圏が置き去りにされていた。

 政党との距離感や経済格差が既成政治への不信を広げ、大衆扇動の声が勢いづく。先進国に共通するあしき潮流が、ドイツにも表れたと言えよう。

 懸念されるのは、一つの欧州をめざす理念の揺らぎだ。英国はEUからの離脱を決め、東欧諸国も難民問題に揺れる。ここでドイツとフランスまでも自国の利益を囲い込む考え方を強めれば、統合深化は失速する。

 そんな事態に陥らぬよう、メルケル氏は、まず新たな連立政権づくりに向けて、原則を見失わずにいてもらいたい。

 連立交渉の相手は、富裕層が支持する中道右派から、環境保護の中道左派まで幅広い。欧州全体の浮揚こそがドイツの長期的な国益にかなうという大局観を粘り強く説くべきだろう。

 ギリシャなどユーロ圏内の弱者をドイツ経済の強さですくいあげる努力が求められている。現実的な合意形成を築くメルケル氏の能力を生かし、マクロン仏大統領とも協力しながら、民主主義と多様性を重んじるEUの価値観を堅持してほしい。

 これまで世界を牽引(けんいん)してきた米国の信頼性が揺らぐ時代でもある。EUに限らず、地球温暖化をめぐるパリ協定など地球規模の問題についても、メルケル氏への期待は高い。

 日本にとってドイツは価値観を共有するパートナーである。同じ貿易大国でもあり、日本とEUの経済連携協定(EPA)の最終合意を急ぎたい。それが自由貿易の原則を守る姿勢を世界に示すことにもなろう。

(社説)衆院選 対北朝鮮政策 「国難」あおる政治の危うさ

2017年9月30日05時00分

 安倍首相は目下の北朝鮮情勢を「国難だ」という。

 だとすればなぜ、衆院議員全員を不在にする解散に踏み切ったのか。その根本的な疑問に、説得力ある答えはない。

 「国難」を強調しながら、臨時国会の審議をすべて吹き飛ばし、1カ月もの期間を選挙に費やす「政治空白」を招く。

 まさに本末転倒である。

 「国難」の政治利用、選挙利用と言うほかない。

 ■政治空白の本末転倒

 首相は言う。

 「民主主義の原点である選挙が、北朝鮮の脅かしによって左右されることがあってはならない」「この国難とも呼ぶべき問題を、私は全身全霊を傾け、突破していく」

 朝鮮半島有事という事態になれば、日本は甚大な被害を受ける。北朝鮮にどう向き合うかは重要だ。

 論点はいくつもある。圧力をかけたうえで、事態をどう収拾すべきか。圧力が軍事衝突に発展する事態をどう防ぐか。

 その議論を行う場は選挙なのか。そうではあるまい。大事なのは関係国との外交であり、国会での議論のはずである。

 首相はこうも言う。「国民の信任なくして毅然(きぜん)とした外交は進められない」

 ならば問いたい。

 いくつもの選挙で明確に示された「辺野古移設NO」の沖縄県民の民意を無視し、日米合意を盾に、強引に埋め立て工事を進めているのは安倍政権である。なのになぜ、北朝鮮問題では「国民の信任」がなければ外交ができないのか。ご都合主義が過ぎないか。

 一昨年の安全保障関連法の国会論議で、安倍政権は、集団的自衛権の行使が認められる存立危機事態や、重要影響事態の認定に際しては「原則、事前の国会承認が必要」と国会の関与を強調していた。

 なのにいざ衆院解散となると「事後承認制度がある」(小野寺防衛相)という。「国難」というならむしろ、いつでも国会の事前承認ができるよう解散を避けるのが当然ではないのか。

 ■力任せの解決は幻想

 自民党内では、有事に備えて憲法を改正し、緊急事態条項や衆院議員の任期延長の特例新設を求める声が強い。それなのに、解散による政治空白のリスクをなぜいまあえてとるのか。整合性がまるでない。

 首相はさらにこう語る。

 「ただ対話のための対話には意味はない」「あらゆる手段による圧力を最大限まで高めていくほかに道はない」

 前のめりの声は自民党からも聞こえてくる。

 「北朝鮮への新たな国連制裁に船舶検査が入れば、安保法に基づき、海上自衛隊の艦艇が対応すべきだ」「敵基地攻撃能力の保有や防衛費の拡大も進めなければならない」

 今回の選挙で安倍政権が「信任」されれば、日本の軍事的な対応を強めるべきだという声は党内で一層力をもつだろう。

 だが、力任せに押し続ければ事態が解決するというのは、幻想に過ぎない。逆に地域の緊張を高める恐れもある。力に過度に傾斜すれば後戻りできなくなり、日本外交の選択肢を狭めることにもなりかねない。

 「解散風」のなか、朝鮮半島有事に伴う大量避難民対策をめぐって、麻生副総理・財務相から耳を疑う発言が飛び出した。

 「武装難民かもしれない。警察で対応するのか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えなければならない」

 ■出口描く外交努力を

 93~94年の第1次北朝鮮核危機以来、避難民の保護や上陸手続き、収容施設の設置・運営などの省庁間協力のあり方が政府内で検討されてきた。

 避難民をどう保護するかが問われているのに、国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合の一員である麻生氏が「射殺」に言及する。危機をあおりかねないのみならず、人道上も許されない発言である。

 永田町では、北朝鮮がミサイルを発射するたびに「北風が吹いた」とささやかれる。国民の危機感が、内閣支持率の上昇につながるとの見方だ。

 危機をあおって敵味方の区別を強調し、強い指導者像を演出する。危機の政治利用は権力者の常套(じょうとう)手段である。安倍政権の5年間にもそうした傾向は見て取れるが、厳に慎むべきだ。

 北朝鮮との間で、戦争に突入する選択肢は論外だ。圧力強化にもおのずと限界がある。

 大事なのは、米国と韓国、さらに中国、ロシアとの間で問題の解決に向けた共通認識を築くことだ。日本はそのための外交努力を尽くさねばならない。

 希望の党は「現実的な外交・安全保障政策」を掲げるが、北朝鮮にどう向き合うか、具体的に説明すべきだ。

 問題の「出口」も見えないまま、危機をあおることは、日本の平和と安定に決してつながらない。

 

 

 

 


朝日新聞 社説 2017年8月

2017年11月03日 18時08分58秒 | Weblog

(社説)原爆投下72年 原点見据え核兵器禁止を

2017年8月6日05時00分

 核兵器使用の犠牲者(ヒバクシャ)の「受け入れがたい苦痛と被害」を心に留める。先月、国連で採択された核兵器禁止条約の前文はこううたう。

 「母や妹を含め、たくさんの人たちの犠牲が無駄にならなかった」。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)顧問の岩佐幹三(みきそう)さん(88)は感激した。

 72年前のきょう、米国は広島へ原爆を投下した。立ち上るキノコ雲の下で、16歳の岩佐さんは母と妹を奪われた。

 3日後、長崎にも原爆が投下された。両被爆地でその年のうちに21万人が死亡した。生き延びた人々も放射線の後遺症に脅かされ、被爆者(ひばくしゃ)と呼ばれた。

 ■世界に響く被爆者の声

 「早(はよ)う逃げんさい」。72年前の8月6日、広島の爆心地から1・2キロ。倒壊した家の下敷きになった母の清子(きよこ)さんは、助けようと躍起になる岩佐さんに告げた。猛火が迫っていた。

 数日後、自宅の跡を掘り起こし、清子さんの遺体を見つけた。むごたらしく焼けただれ、人の姿をとどめていなかった。

 12歳の妹、好子(よしこ)さんは朝から女学校の同級生たちと屋外作業に動員されていた。どこで亡くなったのか、今もわからない。

 「原爆は人間らしく生きることも、人間として死ぬことも許さない」。その憤りが岩佐さんを被爆者運動に駆り立てた。

 多くの市民が味わわされた「苦痛と被害」はやがて、世界を動かす力になった。

 2010年以降、国際社会では「核兵器の非人道性」への関心が高まった。日本被団協は、関連の国際会議に被爆者を派遣し続けた。核兵器が人間にどんな被害をもたらすか。体験に根差した被爆者の訴えは、各国の参加者に強烈な印象を与えた。

 条約は核兵器の使用だけでなく、保有や実験、使用をちらつかせた脅しなどを、「いかなる場合も」禁じるとした。交渉に参加した各国代表は「ヒバクシャに感謝したい」と口をそろえた。被爆者の切なる願いが、国際法となって結実した。

 ■核保有国動かすには

 条約の採択には国連加盟国の6割を超す122カ国が賛成した。9月から署名が始まり、50カ国の批准で発効する。

 実効性を疑問視する声は強い。核保有国や北朝鮮は採択に加わらず、当面、署名・批准もしないとみられるためだ。

 「核兵器のない世界」と逆行するような動きも目立つ。

 今年就任したトランプ米大統領は、核戦力の増強に意欲的だ。ロシアや中国も核戦力の強化に巨費を投じているとされる。北朝鮮は公然と核開発を続け、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を2度発射した。

 核保有国に共通するのは「核兵器は抑止力であり、安全保障の根幹だ」との思想だ。だが、抑止が破れ、核が使われた場合の被害は破滅的だ。事故やテロのリスクもある。安定的な安全保障とはとうてい言えない。

 カギを握るのは世論だ。原爆投下正当化論が根強い米国をはじめ、核保有国では核の非人道性はあまり知られていない。

 昨年5月にオバマ米大統領が訪れた広島平和記念資料館は昨年度の外国人入館者が36万人を超え、過去最多を更新した。キノコ雲の下で起きた「苦痛と被害」のむごさは、核保有国の人々の心にも響かぬはずはない。

 非人道性の認識を市民レベルで広げ、核に依存する自国の政策転換を求める世論へと変える。被爆国として、そういう働きかけを強めていきたい。

 ■「核の傘」依存脱却を

 日本政府は条約交渉をボイコットし、被爆者を失望させた。安倍政権は署名しない方針だ。

 日本は、米国の核で他国の攻撃を抑止する「核の傘」を安全保障の基軸とする。安倍首相は2月のトランプ氏との首脳会談で核の傘の提供を確認した。北朝鮮や中国の脅威を背景に、核への依存を強めている。

 だが核抑止論は、相手との軍拡競争に陥るリスクがある。現に北朝鮮は核・ミサイル開発を米国への対抗策だと主張する。

 核の傘の本質は「有事では核攻撃もありうる」との脅しだ。政府は米国が核を使う可能性を否定しないが、深刻な「苦痛と被害」の再現は確実だ。被爆国として道義的にも許されまい。

 日本政府は、核兵器禁止条約への参加を目標とし、核の傘を脱却する道筋を探るべきだ。

 米国の群を抜く通常戦力だけで北朝鮮や中国への抑止は十分との見方もある。安全保障上どこまで核兵器が必要か。役割を下げる努力を日米に求めたい。

 オバマ前政権は、相手の核攻撃がない限り核を使わない「先制不使用」を検討したという。軍事偏重の懸念があるトランプ政権への牽制(けんせい)としても、日本側から再検討を求めてはどうか。

 安倍首相は今年も広島、長崎を訪れる。同行する河野太郎外相は核軍縮の問題に熱心に取り組んできた。ともに被爆国のリーダーとして、被爆者の願いを実現する決意を示してほしい。

(社説)元号と公文書 西暦併記の義務づけを

2017年8月7日05時00分

 政府は来月にも皇室会議を開き、天皇陛下の退位と改元の日取りを決めるという。新しい元号の発表はこの手続きとは切り離され、来年になる見通しだ。

 代替わりは多くの関心事であり、日常のくらしにも少なからぬ影響が及ぶ。「来年夏ごろまで」とされていた改元時期の決定が早まるのは歓迎したい。

 1年前の陛下のビデオメッセージは、象徴天皇のありようや国民との関係について議論を深める良い機会となった。今後の作業においても、常に主権者である国民の視点に立って考えることが欠かせない。

 中国で始まった元号は皇帝による時の支配という考えに源があり、民主主義の原理と本来相いれないと言われる。一方で長い定着の歴史があり、1979年に元号法が制定された。

 この法律に基づき、新元号は内閣が政令で定める。意見公募をしないことが退位特例法で決まっており、一般の国民がかかわる余地がないのは残念だ。

 改元の時期は「2019年元日」と「同4月1日」が検討されている。朝日新聞の世論調査では前者を支持する人が70%で、後者の16%を圧倒する。

 政府はこうした意見を踏まえて、適切に判断すべきだ。

 4月案は、年始は祝賀行事や宮中祭祀(さいし)が重なり、皇室が多忙なことから浮上した。しかし言うまでもなく、優先すべきは市民の日々の生活である。

 年の途中で元号が変わるのは不便で、無用の混乱をもたらす。あえて世論に反する措置をとる必要はあるまい。

 あわせて人々の便宜を考え、公的機関の文書について、元号と西暦双方の記載の義務づけを検討するよう求めたい。

 既に併記している自治体は多いが、公の文書は事務処理の統一などを理由に元号使用が原則とされる。国民への強制はないものの、西暦に換算する手間を強いられることが少なくない。

 併記の必要性は平成への代替わりの際も指摘された。国際化の進展に伴い、公的サービスの対象となる外国人もますます増えている。改元の日をあらかじめ決めることのできる今回は、運用を見直す良い機会だ。

 利便性の問題だけではない。政策の目標時期や長期計画に元号が使われる例は多い。国民が国の進路や権力行使のあり方を理解し監視する観点からも、わかりやすい表記は不可欠だ。

 事務作業が繁雑になるとの反論が予想される。だが、公的機関は誰のために、何のためにあるのかという原点に立てば、答えはおのずと導き出されよう。

(社説)核廃絶と医師 命を原点に運動広がれ

2017年8月9日05時00分

 72年前の9月、赤十字国際委員会から派遣されたスイス人医師ジュノー博士は、医薬品15トンをもって原爆投下1カ月後の広島に入り、みずから治療にもあたった。帰任後は、機会あるごとに核廃絶を訴えた。

 同委員会のケレンバーガー委員長は2010年、博士による「世界初の広島の惨状に関する証言」にふれ、「核兵器の使用はいかなる場合であっても、国際人道法に合致するとみなすことはできない」と述べた。

 この声明は核兵器禁止の流れを大きく加速した。非人道性を医療の観点から裏づけ、議論を主導したのが、党派色をもたず中立的な核戦争防止国際医師会議(IPPNW)だった。

 核兵器禁止条約が先月、国連で採択された。ここに至るまでに、国際舞台で医師が果たした貢献は計り知れない。

 ところが国内に目を転じるとさびしい現実がある。85年にノーベル平和賞を受賞したIPPNWの会員は数十万人いるといわれるが、日本支部は3千人ほどにとどまる。

 広島、長崎の医師による発信は被爆直後からあった。だが十分な広がりにならないまま、会員の高齢化が進む。後輩に参加を呼びかけてきた故河合達雄・岐阜県医師会長は、被爆国にもかかわらず活動が弱いことを嘆き、世界から「異様に思われている」と書き残している。

 そんな日本支部で5月、注目すべき動きがあった。代表支部長のポストを新設し、秋から世界医師会長を兼ねる日本医師会の横倉義武会長が就いたのだ。

 横倉氏は8月9日生まれ。72年前、1歳の誕生日を迎えたその日に、長崎のいとこが被爆して亡くなったことを後に知り、核の問題はずっと心にかかってきた。「核戦争防止の推進役を担いたい。国民の健康をあずかる医師として、世界にも強く主張していく」と話す。

 さっそく都道府県支部の拡充を図り、先月、7年ぶりに12番目の新支部が佐賀にできた。

 学生・若手医師部会の内田直子さん(長崎大医学部3年)は、大学で被爆70年の企画展にかかわり、被爆者に話を聴いたのが縁で活動に加わった。

 昨年、アジア8カ国の仲間が集まったインドで、「原爆や被爆者のことをさらに知りたい」「日本、もっと発信してよ」と迫られ、責任を痛感した。

 非人道的な核兵器から人命を守るには核廃絶しかない。そんな認識が世界に広がるいま、日本の医師は、何を考え、どう行動していくのか。これからの歩みに、世界の目が集まる。

(社説)防衛白書 また隠すのですか

2017年8月9日05時00分

 1年間の防衛省・自衛隊をめぐるできごとや日本の防衛政策の方向性を国内外に示す。それが防衛白書の目的である。

 ところが驚いたことに、きのうの閣議で報告された2017年版の防衛白書からは、重大な事案が抜け落ちている。

 南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣した陸上自衛隊の「日報」についての記述が一切ないのだ。

 白書の対象期間が昨年7月から今年6月末までだから。防衛省はそう説明する。

 確かに特別防衛監察の結果が発表され、稲田前防衛相らが辞任したのは7月末のことだ。

 だが、自衛隊の海外での運用に関する文書管理と文民統制の機能不全が問われた重い案件である。昨秋の情報公開請求に対し、防衛省が日報を廃棄したとして12月に非開示にし、一転して今年2月に公表した経緯や、稲田氏が3月に特別防衛監察を指示した事実をなぜ書かないのか、理解できない。

 防衛省は来年の白書に監察結果を書くというが、今年の白書にも追加できたはずだ。実際、稲田氏の「巻頭言」は、後任の小野寺防衛相のものに差し替えた。7月上旬の北朝鮮のミサイル発射も盛り込まれている。

 そもそも日報隠蔽(いんぺい)の狙いは何だったか。日報は昨年7月、首都ジュバでの激しい「戦闘」を生々しく報告していた。だが、稲田氏らはこれを「衝突」と言い換え、PKO参加5原則は維持されていると強弁した。

 陸自派遣を継続し、安全保障関連法に基づく「駆けつけ警護」などの新任務を付与したい――。日報隠蔽の背景には、そんな政権の思惑があった。

 白書は当時のジュバで「発砲事案」「激しい銃撃戦」が発生したと記した。一方で「戦闘」の記述はなく、日報の存在にもふれていない。

 やはり安保法に基づく米艦防護についても、5月に初めて実施された事実を安倍政権は公表せず、白書にも言及はない。

 自衛隊の活動の幅も、政府の裁量も大きく広がった安保法の運用には、これまで以上の透明性が求められる。それなのに、現実は逆行している。

 白書は北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威や、中国の海洋進出の活発化への懸念を強調した。自衛隊の任務遂行には国民の理解と信頼が欠かせないという指摘はその通りだ。

 ならばこそ、不都合な事実を隠しているとの疑念を招いてはならない。白書だけでなく、防衛省・自衛隊に対する国民の信頼を傷つける。

(社説)慰安婦問題 救済の努力を着実に

2017年8月10日05時00分

 今月初めに外相に就いた河野太郎氏と、韓国の康京和(カンギョンファ)外相がマニラで会談した。

 河野氏が、慰安婦問題をめぐる日韓合意の着実な履行を求めたのに対し、康氏は合意の過程などを検討する特別チームを発足させたことを説明した。

 2年前の合意の主眼の一つは元慰安婦らの心の傷をいやすための支援にある。そのため発足した財団に、日本政府は10億円を送り、元慰安婦らの7割以上が現金を受ける意思を示した。

 そこまで事業は進んできたが、韓国の世論は否定的だ。財団は理事長が辞任し、存続を危ぶむ声も出ている。

 文在寅(ムンジェイン)大統領にすれば、この合意は前政権によるものだ。しかし、政府間で公式に交わした合意である。高齢化が進む元慰安婦らの救済を履行せねばならない。それが日韓関係の発展にも資する賢明な道である。

 大統領は、国内の反対世論を強調するのではなく、この問題をどう着地させるのかを語り、指導力を発揮するべきだ。

 韓国政府の中には特別チームの性格について「問題をただす検証ではなく、過程をチェックする検討だ」との指摘があるが、どんな結論が出ても国際的合意と「民意」の板挟みになりかねない。

 安倍政権も、元慰安婦らへのおわびと反省を表明した1993年の「河野談話」の作成過程を、3年前に検証した。安倍氏自身が談話を疑問視していたうえ、一部の政治勢力におされて「検証」に踏み切った。

 だが、大きな問題は見つからず、安倍政権は談話の継承を改めて確認しただけだった。

 歴代政権が積み上げた対外的な談話や合意を、政治の思惑で安易に蒸し返すのは不毛というべきだ。文政権は、そんな過ちを繰り返してはならない。

 一方、韓国側の不信の背景には、日本政府の謝罪と反省の真意に対する疑念がある。

 河野談話は、歴史の真実を直視する、と表明した。政府は96年、慰安婦問題の資料が見つかれば直ちに報告するよう求める通知を各省庁に出した。

 だが、その努力は乏しい。今のインドネシアで、旧日本軍の部隊の命令で女性を連れ込んだとの証言資料が法務省にあったが、市民団体の指摘で内閣官房に提出されたのは今年2月だ。

 この資料は十数年前には法務省にあることが知られていた。こんな後ろ向きな動きも日韓の負の連鎖が続く一因である。

 日韓両政府は、約束を一つずつ守り、感情の対立をあおらない最善の努力を尽くすべきだ。

(社説)麻生財務相 「森友」巡る混乱収めよ

2017年8月10日05時00分

 7月に国税庁長官に就いた佐川宣寿氏が、慣例の記者会見を開かないことになった。

 国民から税金を徴収するという絶大な権力を持つ国税庁は、他の役所にもまして説明責任を求められる。トップが自ら納税の意義を語り、国民に協力をお願いする。就任会見はその貴重な機会であり、少なくともここ十数年、新長官は臨んできた。見送りは異例の事態だ。

 国税庁は「諸般の事情」としか説明していないが、理由は明らかだ。

 佐川氏は先の通常国会で、財務省理財局長として、森友学園への国有地売却問題で何度も答弁に立ち、事実確認や記録提出を拒み続けた。いま、会見を開けば、森友問題に質問が集中するのは必至だ。佐川氏が回答を拒否すれば、その様子が国民に伝えられる。

 自身への直接の批判を免れるのに加え、支持率低迷に直面する安倍政権への悪影響を防ぐ。「会見なし」を誰が決めたのかは定かでないが、そうした思惑があるのだろう。

 国会で国民への説明を拒絶する役回りだった人物を、国会が閉じたとたん、とりわけ説明責任が重い役職に就ける。入省年次といった身内の論理に基づく決定の結果が「会見なし」だ。人事を決めた麻生財務相と承認した官邸の責任は重い。

 長官の沈黙が国税庁への不信の広がりを招けば、徴税の業務に影響が出かねない。国民・納税者との関係を築き直すには、森友問題の真相解明に一貫して後ろ向きだった財務省自身が態度を改めるしかない。

 ここは、財務省を率い、副総理として安倍政権を支える麻生財務相が、混乱収拾に向けて職員に徹底調査を指示するべきではないか。

 大阪府豊中市の国有地を、財務省はなぜ、鑑定価格より8億円余りも安く森友学園に売ったのか。財務省と学園との間でどんなやりとりがあったのか。その土地に建設予定だったのが、安倍首相の妻昭恵氏を名誉校長とする小学校だったため、対応が変わったのではないか。

 森友問題を巡る疑問は数多い。その一つひとつに具体的な証言と資料で答えなければ、税務行政、そして財務省への国民の不信感はぬぐえない。

 安倍首相は内閣改造後の記者会見の冒頭、森友問題にも触れたうえで、「大きな不信を招く結果となった」と反省を口にした。「謙虚に、丁寧に、国民の負託に応える」という首相の言葉が本物かどうか。政権としての姿勢が問われている。

(社説)陸自日報問題 引き継がれた隠蔽体質

2017年8月11日05時00分

 防衛相は代わったが、防衛省・自衛隊、さらには安倍政権の隠蔽(いんぺい)体質は引き継がれた。そう断じざるをえない。

 南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊の日報隠蔽をめぐり、きのう開かれた衆参の閉会中審査では、結局、事実関係の解明は進まなかった。

 責任は政府与党にある。

 自民党は、稲田元防衛相はもとより、前防衛事務次官や前陸上幕僚長ら疑惑の真相を知る関係者の招致を軒並み拒んだ。安倍首相もそれを追認した。

 何度でも言う。この問題は、自衛隊の海外活動にからむ文書管理と文民統制の機能不全が問われた重い案件である。

 それなのに、特別防衛監察の結果は極めて不十分だった。2月の幹部会議で稲田氏に日報データの存在が報告されたのか。最大の焦点について「何らかの発言があった可能性は否定できない」と、あいまいな事実認定にとどまった。

 真相解明がうやむやでは再発防止はおぼつかない。防衛省・自衛隊に自浄能力がないのなら、国会による文民統制を機能させねばならない。

 稲田氏ら関係者を国会に呼んで説明を求め、食い違いがあればただす。そんな議論こそ国会の使命なのに、「稲田氏隠し」で真相究明の機会を失わせた政府与党の罪は重い。

 小野寺防衛相の後ろ向きの姿勢も際だった。

 そもそも特別防衛監察を命じた側の稲田氏は監察の対象外だ。「身内」による調査に限界があるのも結果が示す通りだ。ところが小野寺氏は監察結果について「しっかり報告された内容と承知している」と述べ、野党が求める再調査を拒否した。

 幹部会議の出席者のなかで唯一、閉会中審査に呼ばれた前統合幕僚監部総括官も、野党の追及に「事実関係は監察結果に記述されている通り」と繰り返した。あいまいな監察結果を「隠れみの」に真相究明を阻む。まさに本末転倒である。

 自衛隊の最高指揮官である安倍首相の出席も、自民党は拒んだ。森友、加計学園の問題にも通じる安倍政権の隠蔽体質は変わっていない。

 監察結果をうけて首相は「説明責任が欠けていたという問題点があった。意識を変え、再発防止を進めていくことが私たちの責任だ」と語っていた。

 ならばその言葉を実行してもらおう。憲法にもとづき野党が求める臨時国会をすみやかに開き、今度こそ十分な説明責任を果たすことを強く求める。

(社説)加計学園問題 「記憶ない」は通じない

2017年8月11日05時00分

新たな事実が、また明らかになった。

 加計学園の獣医学部新設問題で、学園の事務局長が愛媛県今治市の課長らとともに15年4月に首相官邸を訪れ、国家戦略特区を担当する柳瀬唯夫・首相秘書官(当時)に面会していた。朝日新聞の取材に関係者が認めた。県と市が特区に手をあげる2カ月も前のことだ。

 秘書官は各省庁から選ばれた官僚で、一番近いところで首相を支える。その人物が、構想が正式に提案される以前に、市の職員らにわざわざ時間を割く。この特別扱いは何ゆえか。

 柳瀬氏は先月の参院予算委員会で、面会について「記憶にない」をくり返した。納得する人がどれだけいるだろう。

 あわせて浮上するのは、安倍首相の答弁に対する疑念だ。

 首相は、加計学園が戦略特区にかかわっているのを知ったのは、事業主体に決まった17年1月だという。柳瀬氏は面会した時点で「今治と加計は一体」と認識したと見るのが自然だが、それから1年9カ月もの間、情報は首相と共有されなかったのか。改めて説明を求める。

 新事実はこれだけではない。今治市が名乗りをあげた15年6月、別の学園幹部が特区ワーキンググループ(WG)による同市へのヒアリングに出席し、発言していたことがわかった。

 しかし、公表された議事要旨にその記載はない。より詳しい議事録が後日公表されると言われていたが、両者はほぼ同じものだという。

 「議論はすべてオープン」で「一点の曇りもない」――。首相とWGがしてきた説明に、いくつもの疑問符がついた。

 信じられないのは、15年4月の官邸の入館記録も、6月のWGの議事要旨の元になった速記録も、いずれも「廃棄した」と政府が説明し、平然としていることだ。真相を解明するカギになりそうな物証は、官邸にも内閣府にも一切残っていない。何ともおかしな話である。

 他にも、競合相手を押しのけ「今治―加計」に決着するまでの関係大臣の協議内容なども判然とせず、行政の意思決定の道筋をたどることは、極めて難しくなっている。透明さを欠き、国民の知る権利を踏みにじる行いと言わなければならない。

 支持率が急落し、東京都議選で大敗して以降、首相はしきりに「反省」を口にし、辞を低くする。だが、加計学園が選ばれるまでに実際に何があったのかを、包み隠さず明らかにしなければ、国民の信頼を取り戻すことなど望むべくもない。

(社説)南シナ海問題 有効な規範へ結束を

2017年8月12日05時00分

 島の領有権や漁業をめぐる争いが絶えない南シナ海を、何とか穏やかな海にできないか。

 その一歩をめざす「行動規範」の枠組みについて、東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国が合意に達した。

 マニラであった外相会議での進展である。地域の緊張緩和に前向きな動きではあるが、具体的な条文作りはこれからだ。

 今回はあいまいにされた法的拘束力を、きちんと定めることが必要だ。国の大小を問わず、一方的な現状変更を封じる規範をめざすべきである。

 ルール制定への機運は90年代からあった。02年には、緩やかな「行動宣言」でいったん合意し、その後、規範づくりが模索されて今日に至った。

 近年、多くの国が抱く懸案は明らかに中国の行動である。

 スプラトリー(南沙)諸島で岩礁を埋め立てて軍事拠点化を進め、フィリピン沖のスカボロー礁に公船を居座らせるなど、身勝手な行動を重ねてきた。

 今回の会議で露呈した問題は、その中国が主導権をとった点に由来する。

 合意した枠組みには「国際法の原則に従う」など差し障りのない項目が並び、法的拘束力を示す内容がない。行動を縛られたくない中国による骨抜きがなされたとみるべきだろう。

 このまま中国の思惑で条文作りが進められるようでは、効果的な規範はつくれまい。ASEAN諸国は今後、結束して中国との交渉にあたってほしい。

 忘れてならないのは、昨夏、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が下した判決である。南シナ海の大半に歴史的権利があるとの中国の主張を全面否定し、岩礁埋め立てを非難した。

 規範をめぐる協議は、判決で形勢不利となった中国側の巻き返しの舞台だったのだろう。しかし判決は今も有効であり、中国が国際法に違反している状態は変わっていない。

 ASEANは今年で創設50周年。多国間協力の仕組みとして地域の安定に役立ってきたが、今後、中国が強引な介入を続ければ機能が弱まりかねない。

 トランプ政権下で米国外交の存在感が薄くなっていることも背景にある。東アジア地域の安定を図るうえで、米国や日本の建設的な関与がやはり必要だ。

 現状ではまだ、中国といえどもASEAN諸国を無視することはできない。加盟国の協調による外交力は発揮できる。

 南シナ海を開かれた平和の海とする規範に中国を引き込み、次世代に引き継ぐ。そのための創意と努力を各国に望む。

(社説)エネルギー基本計画 「脱原発」土台に再構築を

2017年8月13日05時00分

 電気や熱などのエネルギーをどう使い、まかなっていくか。その大枠を示す国のエネルギー基本計画について、経済産業省が見直し論議を始めた。

 世耕弘成経産相は「基本的に骨格は変えない」と語った。しかし、小幅な手直しで済む状況ではない。

 今の計画は、国民の多くが再稼働に反対する原発を基幹電源とするなど、疑問が多い。世界に目を向けると、先進国を中心とした原子力離れに加え、地球温暖化対策のパリ協定発効に伴う脱石炭火力の動き、風力・太陽光など再生可能エネルギーの急速な普及といった変化の大きな波が起きている。

 日本でも将来像を描き直す必要がある。まず土台に据えるべきは脱原発だ。温暖化防止との両立はたやすくはないが、省エネ・再エネの進化でハードルは下がってきた。経済性や安定供給にも目配りしながら、道筋を探らなくてはならない。

 ■偽りの「原発低減」

 14年に閣議決定された今の計画にはまやかしがある。福島第一原発の事故を受けて、「原発依存度を可能な限り低減する」との表現を盛り込んだが、一方で原発を「重要なベースロード電源」と位置づけた。新規制基準に沿って再稼働を進める方針も明記し、実際に各地で再稼働が進んでいる。

 計画をもとに経産省が15年にまとめたエネルギー需給見通しは、原発回帰の姿勢がさらに鮮明だ。30年度に発電量の2割を原発でまかなうと想定する。30基ほどが動く計算で、再稼働だけでなく古い原発の運転延長か建て替えも多く必要になる。

 だが、原発政策に中立的な専門家からも「現実からかけ離れている」と批判が出ている。事故後、原発に懐疑的な世論や安全対策のコスト増など、内外で逆風が強まっているからだ。原発から出る「核のごみ」の処分も依然、日本を含め大半の国で解決のめどが立たない。先進国を中心に原発の全廃や大幅削減をめざす動きが広がっている。

 次の基本計画では、原発を基幹電源とするのをやめるべきだ。「依存度低減」を空証文にせず、優先課題に据える。そして、どんな取り組みが必要かを検討し、行程を具体的に示さねばならない。

 ■温暖化防止と両立を

 脱原発と温暖化対策を同時に進めるには、省エネを徹底し、再エネを大幅に増やすことが解になる。コストの高さなどが課題とされてきたが、最近は可能性が開けつつある。

 省エネでは、経済成長を追求しつつエネルギー消費を抑えるのが先進国の主流だ。ITを使った機器の効率的な制御や電力の需要調整など、技術革新が起きている。かつて石油危機を克服した時のように、政策支援と規制で民間の対応を強く促す必要がある。

 再エネについては、現計画も「導入を最大限加速」とうたう。ここ数年で太陽光は急増したが、風力は伸び悩む。発電量に占める再エネの割合は1割台半ばで、欧州諸国に水をあけられている。

 本格的な普及には障害の解消が急務だ。たとえば、送電線の容量に余裕がない地域でも、再エネで作った電気をもっと流せるように、設備の運用改善や、必要な増強投資を促す費用負担ルールが求められる。

 世界では風力や太陽光は発電コストが大きく下がり、火力や原子力と対等に競争できる地域が広がっている。日本はまだ割高で、設置から運用まで効率化に知恵を絞らねばならない。再エネは発電費用を電気料金に上乗せする制度によって普及してきたが、今後は国民負担を抑える仕組みづくりも大切になる。

 一方、福島の事故後に止まった原発の代役として急増した火力発電は、再エネ拡大に合わせて着実に減らしていくべきだ。

 現計画は、低コストの石炭火力を原発と並ぶ基幹電源と位置づけ、民間の新設計画も目白押しだ。しかし、二酸化炭素の排出が特に多いため、海外では依存度を下げる動きが急だ。火力では環境性に優れる天然ガスを優先する必要がある。

 ■世界の潮流見誤るな

 今回の計画見直しでは、議論の進め方にも問題がある。

 経産省は審議会に加え、長期戦略を話し合う有識者会議を設ける。二つの会議の顔ぶれは、今の政策を支持する識者や企業幹部らが並び、脱原発や再エネの徹底を唱える人は一握りだ。これで実のある議論になるだろうか。海外の動向や技術、経済性に詳しい専門家を交え、幅広い観点での検討が欠かせない。

 資源に乏しい日本では、エネルギーの安定供給を重視してきた。その視点は必要だが、原発を軸に政策を組み立てる硬直的な姿勢につながった面がある。

 世界の電力投資先は、すでに火力や原子力から再エネに主役が交代した。国際的な潮流に背を向けず、エネルギー政策の転換を急がなくてはならない。

(社説)72年目の8月15日 色あせぬ歴史の教訓

2017年8月15日05時00分

 あの戦争のころ、世の中はどんな色をしていたのか。

 世界のすべてがモノクロームだったようなイメージがある。そう話す若者たちがいる。目にする空襲や戦地の映像はどれもモノクロだから、と。

 「『戦時下』って、自分とは別次元のまったく違う世界だと感じていた」

 戦中の暮らしを描いたアニメ映画『この世界の片隅に』で主人公の声を演じた、いま24歳ののんさんもそう語っていた。

 今年も8月15日を迎えた。

 「不戦の誓いとか戦争体験の継承とか言われても、時代が違うのだから」。若い世代からそんな戸惑いが聞こえてくる。

 たしかに同じ歴史がくり返されることはない。戦争の形も時代に応じて変わる。だが、その土台を支える社会のありように共通するものを見ることができる。そこに歴史の教訓がある。

 ■戦時下のにぎわい

 日中戦争が始まった翌月の1937年8月。作家の永井荷風は日記に書いた。「この頃東京住民の生活を見るに、彼らは相応に満足と喜悦とを覚ゆるものの如(ごと)く、軍国政治に対しても更に不安を抱かず、戦争についても更に恐怖せず、むしろこれを喜べるが如き状況なり」

 軍需産業の隆盛で日本はこの年、23%という経済成長率を記録。世は好景気にわいた。

 戦線が中国奥地に広がり、泥沼化した2年後の東京・銀座の情景もさほど変わらない。

 映画館を囲む人々の行列。女性たちは短いスカートでおしゃれを楽しむ。流行は、ぼたんの花のようなえんじ色とやわらかい青竹色。夜になればサラリーマンはネオンの街に酔った。

 戦地はあくまでも海の向こう。都会に住む人の間には「どこに戦争があるのか」という、ひとごとのような気分があったと当時の記録にある。

 どこに、の答えが見つかった時にはもう遅い。〈戦争が廊下の奥に立つてゐた〉。この年そう詠んだ新興俳句の渡辺白泉は、翌年、創作活動を理由に治安維持法違反の疑いで逮捕される。白泉が言い当てたように、時代は日常と非日常とを混在させながら流れていった。

 ■いまを見る歴史の目

 社会が息苦しさを増す過程で最初にあらわれ、後戻りすることがなかったのは、多様性の否定だった。朝鮮、台湾の植民地や沖縄で日本への同化教育が行われ、国内でも天皇機関説事件などによって、学問や言論の自由が急速に失われていく。

 享受している生活が、そうした価値と引き換えであることに気がつかなかった人、気づいたけれども声に出さなかった人。その後の日本にどんな運命が待ち受けていたかを、後の世代は知っている。

 歴史の高みから「分岐点」を探し、論じるのはたやすい。ではいまの社会は、数十年後の日本人からどんな評価を受けるのだろうか。

 作家の半藤一利さんは、近代以降の日本は40年ごとに興亡の波を迎えてきたと説く。

 幕末から日露戦争まで。そこから先の大戦に敗れるまで。次は焼け跡からバブル経済まで。興隆と衰退が交互にあり、いまは再び衰退期にあると見る。

 「人々は約40年たつと、以前の歴史を忘れてしまう。日中戦争や太平洋戦争の頃のリーダーで日露戦争の惨状をわかっていた人は、ほぼいない。いまの政治家も同じことです」

 ■「似た空気」危ぶむ声

 半藤さんも、ほかの学者や研究者と同様、「歴史はくり返す」と安易に口にすることはしない。歴史という大河をつくるひとつひとつの小さな事実や偶然、その背後にある時代背景の複雑さを知るからだ。

 それでも近年、そうした歴史に通じた人々から「戦前と似た空気」を指摘する声が相次ぐ。

 安保法制や「共謀罪」法が象徴のように言われるが、それだけでない。もっと奥底にあるもの、いきすぎた自国第一主義、他国や他民族を蔑視する言動、「個」よりも「公の秩序」を優先すべきだという考え、権力が設定した国益や価値観に異を唱えることを許さない風潮など、危うさが社会を覆う。

 「歴史をつくる人間の考え方や精神はそうそう変わらない」と、半藤さんは警告する。

 一方で、かつての日本と明らかに違う点があるのも確かだ。

 表現、思想、学問などの自由を保障した憲法をもち、育ててきたこと。軍を保有しないこと。そして何より、政治の行方を決める力を、主権者である国民が持っていることだ。

 72年前に破局を迎えた日本と地続きの社会に生きている己を自覚し、再び破局をもたらさぬよう足元を点検し、おかしな動きがあれば声を上げ、ただす。

 それが、いまを生きる市民に、そしてメディアに課せられた未来への責務だと考える。

 1945年8月15日。空はモノクロだったわけではない。夏の青空が列島に広がっていた。

(社説)憲法70年 学びの保障、広く早く

2017年8月16日05時00分

 多くの人が大学や短大、専門学校で学ぶことにはいかなる意義があり、コストを社会全体でどう分かち合うべきか。そんな議論が活発になっている。

 安倍首相が改憲項目の一つとして「高等教育の無償化」の方針を打ち出したからだ。

 もっとも、先んじて提唱した日本維新の会に同調するための提案との見方がもっぱらで、自民党内もまとまっていない。

 無償化は法律を改めれば実現できる。わざわざ改憲を持ちだすまでもない。ただ「高等教育を万人に開かれたものに」という考え自体は正しく、その重要性はますます高まっている。

 憲法26条は「能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利」を保障し、これを受けて教育基本法は、人種や信条などに加え、経済的地位によっても教育上差別されないと定めている。

 国は教育の機会均等の実現に努める責務がある。改憲に政治のエネルギーを費やすよりも、この現憲法の精神を、確実に実践していくことが肝要だ。

 東大の小林雅之教授らの調査では、年収400万円以下と1千万円超の家庭では、私大への進学率に倍に近い開きがある。国立大に進んでも授業料は年間約54万円とかなりの負担だ。

 資格や収入の形で恩恵を受けるのだから、学費は本人や家庭が負担するのが当たり前だという考えが、根強くある。だが技術革新や国際化に伴い、仕事に求められる知識や技能のレベルは上がっている。いまや高等教育はぜいたく品ではない。

 貧富による進学格差を放置するとどうなるか。

 貧困が再生産され、社会に分断をもたらし、国の根幹をきしませる。逆に、大学や専門学校で学び、安定した収入を得る層が厚くなれば、税収が増えて社会保障などを支える。お金の問題で高等教育をあきらめる人がいるのは、日本全体の損失だという認識を共有したい。

 一律無償化には3・7兆円の財源が必要で、ただちに実現するのは難しい。まずは奨学金制度の改善を急ぐべきだ。

 日本の奨学金は貸与型が人数で9割近くを占め、かつ利息のあるタイプが主体だ。返済の不要な国の給付型奨学金がやっと段階的に始まったが、対象は1学年2万人と極めて少ない。

 有利子型を無利子型に置き換えてゆき、給付型も広げる。授業料減免も組み合わせ、負担軽減を進める必要がある。

 放課後の学習支援など、大学進学前の小中高段階からの支援も重要だ。手を尽くして、26条が真に息づく社会を築きたい。

(社説)新専門医制度 「患者本位」を忘れずに

2017年8月17日05時00分

 内科や外科、小児科などの「専門医」を育てる新たな研修制度が来年4月に始まる。

 国家試験に合格したあと、2年間の初期研修を終えた医師が対象だ。3年程度、研修先として複数の病院を回りながら知識や技術を現場で学び、試験に合格すると認定される。

 「専門医」という肩書・名称はすでにあるが、様々な学会が独自に認定しており、100種類を超えて乱立状態にある。名称も「専門医」「認定医」などが混在し、患者にはわかりにくい。新制度では全体を19の基本診療科に分け、統一した基準で認定するのが目標だ。

 患者本位の制度にするには、医療の質を高める機会とするだけでなく、患者が病院や医師を選ぶときの客観的な目安にできる仕組みが必要だ。専門性を重視するあまり、医師が自分の分野以外の患者は診察しない、ということになっても困る。専門医を認定する第三者機関「日本専門医機構」は、研修プログラムづくりを学会任せにせず、かじ取り役を担ってほしい。

 避けなければならないのは、新制度に伴う研修や指導のため、医師が大学病院や都市部の大病院に集中する事態だ。

 医師の数は04年の約27万人から14年には約31万人に増えた。ただ、研修先を選べるいまの初期研修が04年に始まってから、地方の大学を卒業した医師が大都市圏に流れ、偏在の一因になったと指摘される。

 専門医制度をめぐっても、地方の病院や自治体からは地元の医師不足の悪化を心配する声が強く、今年度の開始予定が1年間先送りされた経緯がある。

 機構は、(1)大都市圏の定員に一部上限を設ける(2)研修施設を地域の中核病院にも広げる(3)都道府県ごとに置く協議会を通じて地元から意見を聞いて研修プログラムを改善する、といった措置をとった。

 とはいえ、不安は解消されていない。自治体や厚生労働省と、研修で中心的な役割を果たす大学病院は、新制度がもたらす影響を注視してほしい。

 「総合診療専門医」の新設も、新制度の特徴だ。

 地域の病院や診療所で患者に対応するだけでなく、在宅医療や介護、みとりまで担うことが期待されている。人生の最後を住み慣れた地域や自宅で暮らすことを目指す「地域包括ケアシステム」に欠かせない存在だ。

 総合性と専門性をどう両立させるか。まずは、果たすべき役割をもっと明確にしたうえで、実践的な研修プログラムづくりに努めることが求められる。

(社説)国際化と司法 権力抑止は置き去りか

2017年8月19日05時00分

 国連の国際組織犯罪防止条約への加盟手続きが終了し、今月10日に効力が発生した。

 政府が条約を結ぶために必要だと唱え、その主張の当否も含め、各方面から寄せられた数々の疑問を封じて成立させたのが「共謀罪」法である。

 実際に行われた犯罪に対し罰を科すのが、日本の刑事法の原則だ。だがこの法律は、はるか手前の計画の段階から幅広く処罰の網をかける。薬物・銃器取引やテロなどの組織犯罪を防ぐには、摘発の時期を前倒ししなければならず、国際社会もそれを求めているというのが、この間の政府の説明だった。

 他国との協調が大切であることに異論はない。伝統的な刑事司法の世界を墨守していては、時代の変化に対応できないという指摘には一理ある。

 では政府は、国際社会の要請や潮流を常に真摯(しんし)に受けとめ、対応しているか。都合のいい点だけを拾い出し、つまみ食いしているのが実態ではないか。

 たとえば今回、条約に加わる利点として、逃亡犯罪人の引き渡しが円滑になる可能性があると説明された。しかし引き渡しを阻む大きな理由としてかねて言われているのは、日本が死刑制度を維持していることだ。

 91年に国連で死刑廃止条約が結ばれ、取りやめた国は140を超す。欧州などでは「死刑を続ける日本には犯罪人を引き渡せない」との声が広がる。ところが政府は、こうした世界の声には耳を傾けようとしない。

 公務員による虐待や差別を防ぐために、政府から独立した救済機関をもうけるべきだという指摘に対しても、馬耳東風を決めこむ。国際規約にもとづき、人権を侵害された人が国連機関などに助けを直接求める「個人通報制度」についても、導入に動く気配はない。

 権力のゆきすぎにブレーキをかける方策には手をつけず、犯罪摘発のアクセルだけ踏みこむ。そんなご都合主義が国内外の不信を招いている。

 何を罪とし、どんな手続きを経て、どの程度の罰を科すか。それは、その国の歴史や文化にかかわり、国際的な統一にはなじまないとされてきた。

 だが協調の流れは、より太く確かなものになっている。その認識に立ち、犯罪の摘発と人権擁護の間で、公正で均衡のとれたシステムを築く必要がある。

 作業にあたっては、国民への丁寧な説明と十分な議論が不可欠だ。その営み抜きに、政権が強権で押し通した共謀罪法は、内容、手順とも、改めて厳しく批判されなければならない。

 (社説)憲法70年 沖縄から地方自治を問う

2017年8月21日05時00分

 

 日本国憲法から最も遠い地。それは間違いなく沖縄だ。

 「憲法施行70年」の最初の25年間、沖縄はその憲法の効力が及ばない米軍統治下にあった。沖縄戦を生き抜き、6月に亡くなった元知事の大田昌秀氏は、戦後の苦難の日々、憲法の条文を書き写して希望をつないだ。

 それほどにあこがれた「平和憲法のある日本」。だが本土復帰から45年が経ったいま、沖縄と憲法との間の距離は、どこまで縮まっただろうか。

 ■重なりあう不条理

 米軍嘉手納基地で今年4月と5月に、パラシュート降下訓練が強行された。過去に住民を巻き込む死亡事故があり、訓練は別の基地に集約されたはずだった。米軍は嘉手納での訓練を例外だというが、何がどう例外なのか納得ゆく説明は一切ない。

 同じ4月、恩納村キャンプ・ハンセン内の洪水調整ダム建設現場で、民間業者の車に米軍の流れ弾が当たる事故が起きた。演習で木々は倒れ、山火事も頻発して森の保水力が低下。近くの集落でしばしば川が氾濫(はんらん)するため始まった工事だった。

 航空機の騒音、墜落の恐怖、米軍関係者による犯罪、不十分な処罰、環境破壊と、これほどの不条理にさらされているところは、沖縄の他にない。

 普天間飛行場の移設問題でも、本土ではおよそ考えられない事態が続く。一連の選挙で県民がくり返し「辺野古ノー」の意思を表明しても、政府は一向に立ち止まろうとしない。

 平和のうちに生存する権利、法の下の平等、地方自治――。憲法の理念はかき消され、代わりに背負いきれないほどの荷が、沖縄に重くのしかかる。

 ■制定時からかやの外

 敗戦直後の1945年12月の帝国議会で、当時の衆院議員選挙法が改正された。女性の参政権を認める一方で、沖縄県民の選挙権を剥奪(はくだつ)する内容だった。交通の途絶を理由に「勅令を以(もつ)て定める」まで選挙をしないとする政府に、沖縄選出の漢那憲和(かんなけんわ)議員は「沖縄県に対する主権の放棄だ」と激しく反発した。

 だが、連合国軍総司令部の同意が得られないとして、異議は通らなかった。翌年、沖縄選出の議員がいない国会で、憲法草案が審議され成立した。

 52年4月には、サンフランシスコ講和条約の発効により沖縄は本土から切り離される。「銃剣とブルドーザー」で強制接収した土地に、米軍は広大な基地を造った。日本国憲法下であれば許されない行為である。

 そして72年の復帰後も基地を存続できるよう、国は5年間の時限つきで「沖縄における公用地暫定使用法」を制定(その後5年延長)。続いて、本土では61年以降適用されず死文化していた駐留軍用地特別措置法を沖縄だけに発動し、さらに収用を強化する立法をくり返した。

 「特定の自治体のみに適用される特別法は、その自治体の住民投票で過半数の同意を得なければ、制定できない」

 憲法95条はそう定める。ある自治体を国が狙い撃ちし、不利益な扱いをしたり、自治権に介入したりするのを防ぐ規定だ。

 この条文に基づき、住民投票が行われてしかるべきだった。だが国は「ここでいう特別法にあたらない」「沖縄だけに適用されるものではない」として、民意を問うのを避け続けた。

 復帰後も沖縄は憲法の枠外なのか。そう言わざるを得ない、理不尽な行いだった。

 軍用地の使用が憲法に違反するかが争われた96年の代理署名訴訟で、最高裁が国側の主張をあっさり追認したのも、歴史に刻まれた汚点である。

 ■フロンティアに挑む

 それでも95条、そして「自治体の運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて法律で定める」とする92条をてこに、沖縄が直面する課題に答えを見いだそうという提案がある。

 基地の存立は国政の重要事項であるとともに、住民の権利を脅かし、立地自治体の自治権を大幅に制限する。まさに「自治体の運営」に深くかかわるのだから、自治権を制限される範囲や代償措置を「法律で定める」必要がある。辺野古についても立法と住民投票の手続きを踏むべきだ――という議論だ。

 状況によっては、原発や放射性廃棄物処理施設などの立地に通じる可能性もある話で、国会でも質疑がかわされた。

 憲法の地方自治の規定に関しては、人権をめぐる条項などと違って、学説や裁判例の積みあげが十分とはいえない。見方を変えれば、70年の歩みを重ねた憲法の前に広がるフロンティア(未開拓地)ともいえる。

 憲法から長い間取り残されてきた沖縄が、いまこの国に突きつけている問題を正面から受けとめ、それを手がかりに、憲法の新たな可能性を探りたい。

 その営みは、沖縄にとどまらず、中央と地方の関係を憲法の視点からとらえ直し、あすの日本を切りひらく契機にもなるだろう。

(社説)医師過労防止 地域医療と両立めざせ

2017年8月23日05時00分

 

 東京都内の病院で働いていた研修医が、長時間労働が原因で自殺したとして、7月に労災認定された。5月にも新潟市民病院で同様の労災が認められたばかりだ。

 医師は、正当な理由がなければ診察や治療を拒めない。とりわけ病院の勤務医の多忙さはよく知られる。総務省の就業構造基本調査では週の労働時間が60時間を超える人の割合は医師が42%と職種別でもっとも高い。

 だが、勤務医も労働者だ。過労で心身の健康がおびやかされれば、手術ミスなど医療の質の低下にもつながりかねない。患者の命と健康を守るためにも、勤務医の働き過ぎを改めていくべきだ。

 政府は働き方改革として、秋の臨時国会に「最長で月100時間未満」などと残業を規制する法案を提出し、長時間労働の是正に取り組む方針だ。

 ただ、医師については、画一的な規制が地域医療を崩壊させかねないとする医療側に配慮し、適用を5年間猶予して、これから残業規制のあり方を議論することになっている。

 実際、労働基準監督署から長時間労働の是正を求められた病院で、外来の診療時間や診療科目を縮小する動きがある。医師の過労防止で必要な医療が受けられなくなる事態は避けねばならない。

 そのためには、残業規制の強化を実行できる態勢を、同時に作っていく必要がある。

 まずは、病院の勤務医の仕事の量を減らすことだ。医師でなければできないことばかりなのか。看護師や事務職など、他の職種と仕事をもっと分かち合う余地はあるはずだ。

 初期の診療は地域の開業医に担ってもらうなど、病院と診療所の役割分担を進めていくことも重要だ。

 医師不足の背景には、地域や診療科ごとの医師の偏りという問題もある。実情に合わせて正す方策を考えたい。地域によっては、病院を再編し医師を必要なところに集中させることが適当なケースもあるだろう。

 様々な取り組みを進めたうえで、それでも全体として医師が足りないようなら、いまの計画より医師を増やすことも考えねばなるまい。

 そうした議論が、働き方を巡る規制の検討会、医師の需給見通しの審議会など政府内でバラバラに進むことのないよう、横断的・一体的に検討すべきだ。

 地域医療との両立をはかりながら、医師の働き方の見直しに道筋をつける。難題だが、避けては通れない。

(社説)森友学園問題 これで適正な処理か

2017年8月23日05時00分

 学校法人・森友学園への国有地売却問題で、財務省近畿財務局が学園側に「いくらなら買えるのか」と、支払い可能額をたずねていた――。複数の関係者が朝日新聞にそう証言した。

 財務省の佐川宣寿(のぶひさ)・前理財局長は国会で「(価格を)提示したこともないし、先方からいくらで買いたいと希望があったこともない」と述べたが、虚偽答弁だった可能性が出てきた。

 意図的なうそであれば国民を愚弄(ぐろう)する話で、隠蔽(いんぺい)にも等しい。説明が事実と違う疑いが浮上した以上、同省は交渉の詳細を示し、価格決定にいたる経緯を説明する責任がある。

 問題のやりとりは、学園の前理事長の籠池泰典(やすのり)容疑者が土地購入を申し入れ、代理人弁護士を通して近畿財務局などと去年3月に協議した際のものだ。

 学園側は「新たなごみが見つかった」とし、「できるだけ安く買いたい」と伝えた。これに対し財務局は地中の埋設物の除去費として、国費で1億3千万円をすでに負担しており、「それより安くはならない」と説明、学園側は「払えるのは1億6千万円まで」と具体的な希望額を明示していた。

 約3カ月後に売却された価格は1億3400万円。学園側の希望をかなえ、財務局の示した「下限」に近い額だった。

 改めて指摘しておきたい。

 この土地の更地の鑑定価格は9億5600万円。財務局はここから、ごみ撤去費として8億1900万円などを値引いた。

 国民の共有財産である国有地を処分する場合、厳正な手続きや審査を経て契約内容を決めるのが筋だ。今回、借地契約から売買に切り替え、10年の分割払いを認めたのも異例だった。

 国は「適正に処理された」と説明し、学園への「特別な便宜」を否定する。ならば、誰がいつ、どんな交渉をして決めたのか、つまびらかにしてもらいたい。

 値引きの根拠になったとされる21枚の現場写真によると、「新たなごみ」の判別が困難なばかりか、国が国会で説明した「深さ3・8メートル」まで大量のごみが埋まっている状況は、とても確認できない。価格の目安を先に決めた上で、それに合わせるようにごみ撤去費を積算した疑いがぬぐえない。

 安倍首相は今月の内閣改造後、「謙虚に、丁寧に、国民の負託に応える」と述べたが、野党の求める国会の早期召集には応じていない。一日も早く国会を開き、佐川氏や、学園の小学校の名誉校長を務めた首相の妻の昭恵氏らを招致すべきだ。

(社説)国会先送り 許されぬ憲法無視だ

2017年8月24日05時00分

 憲法に背く行為である。決して容認できない。

 自民、公明両党の幹事長らがきのう、臨時国会を9月末に召集する方針で一致した。

 憲法53条に基づき、野党が召集を要求したのは6月末。すでに2カ月経つのに、さらに1カ月以上も臨時国会を開かないことになる。こんな国会対応がまかり通っていいわけがない。

 改めて確認しておく。憲法53条は臨時国会について、衆参いずれかの総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集しなければならないと定める。

 立法府における少数派の発言権を保障するための規定であり、首相や与党の都合で可否を決めていい問題ではない。

 確かに召集時期を決めるのは内閣だ。だが「召集のために必要な合理的な期間を超えない期間内に召集を行うことを決定しなければならない」という内閣法制局長官の国会答弁がある。

 「3カ月以上」は「合理的な期間」だ――。そう言う人がどれほどいるだろう。

 とくに自民党は言えないはずだ。なぜなら野党だった5年前にまとめた憲法改正草案で、少数会派の権利を生かすとの趣旨で、要求から「20日以内」の召集を義務づけているからだ。

 安倍首相は今月初めの記者会見で、「働き方改革」のための法案などを準備したうえで召集時期を決めたい、と語った。

 しかし野党や国民がいま求めているのは、法案審議の場ではない。一連の疑惑の真相を究明し、再発防止策を考える。そのための国会である。

 加計学園の獣医学部新設の背景に首相の意向があったのか否か、関係者の証言は食い違っている。森友学園への国有地売却をめぐっては、格安価格の決定過程について、政府側に虚偽答弁の疑いが新たに浮上した。陸上自衛隊の「日報」隠蔽(いんぺい)疑惑については、稲田元防衛相の関与の有無はあいまいなままだ。

 この間、衆参で計4日間の閉会中審査が開かれたが、真相解明には程遠かった。短時間のうえ、野党が求めた関係者の招致を与党が拒むケースが相次いだためだ。

 そのうえ、臨時国会の召集を先延ばしする与党や首相の姿勢は、疑惑追及の機会を遅らせ、国民の怒りが鎮まるのを待っているようにしか見えない。

 7月の東京都議選での自民党惨敗を受け、首相は「謙虚に、丁寧に、国民の負託に応える」と誓ったはずだ。

 それで、この対応である。政治全体への国民の不信がいっそう募ることを憂える。

(社説)米政権の混迷 分断抑え現実を見よ

2017年8月25日05時00分

 この大国を率いる資質があるのだろうか。トランプ大統領が就任して7カ月、米国の政界と多くの国民が悩んでいる。

 「この国を偉大にしてきたものが何だったか、それは今日でも何なのか、彼は理解しているように見えない」

 与党共和党の上院外交委員長コーカー氏はそう語り、大統領としての能力に疑問を呈した。

 「米国を再び偉大にする」という政権の看板と裏腹に、政治の混迷は深まるばかりだ。

 与党からも苦言が出たのは、トランプ氏がとりわけ重大な過ちを犯したからだ。米国の難題である人種差別をめぐり、社会の分断を再燃させたのだ。

 発端は、バージニア州であった白人至上主義団体の集会だ。反対した市民との衝突で死傷者が出た事態について、トランプ氏は「双方」に非があるとし、差別団体と抗議の市民を同列視するような認識を示した。

 移民国家米国が誇るべき価値とは、民族や文化の多様性であり、それを認めあう寛容さだろう。特定の民族が優越するとの考え方は、米国にも国際社会にも、認める余地は全くない。

 米国の経済が大きく発展したのも、自由と平等という建前で世界の頭脳と活力を吸い寄せてきたからだ。人種差別に対する公の拒否は、公民権闘争など苦難の歴史を経て築いた米社会の共通ルールのはずだ。

 それを大統領自らが揺るがすのは愚行というほかない。今からでも、差別思想への拒絶と、平等の原則の厳守を明確な公式見解として言明すべきだ。

 財界と軍は敏感だった。主要企業の首脳らでつくる政策助言機関は抗議の辞任が相次ぎ、解散した。陸海空軍の制服組トップは「人種差別、過激主義、憎悪を許容しない」と表明した。

 米政権への不安な視線は、国際社会も共有している。米国第一主義を推進した首席戦略官バノン氏が突然更迭されたが、それを機にトランプ外交は変わるのか。北朝鮮問題などを抱える日本も注視せざるをえない。

 トランプ氏は今週、アフガニスタンを支える目的などで米軍の駐留継続を明言した。撤退の主張からの転換だが、「大統領としての判断は当初の直感とは違うものだ」と釈明した。

 ならばこの際、もっと国内外の現実を直視してもらいたい。温暖化対策、移民政策、通商政策などでの一方的な変更や主張が招いている混乱は、米国と世界の信頼関係を損ねている。

 トランプ氏が今すべきは、米社会の亀裂の修復と、現実的な政策を真剣に練ることだ。

 

 


日本国憲法は「みっともない憲法」なのか

2017年10月24日 14時26分37秒 | Weblog

2017.10.20 PRESIDENT Online

衆院選の争点のひとつに「憲法改正」がある。自民、公明のほか、希望の党、日本維新の会が改憲に前向きだ。安倍晋三首相は、かつて憲法を「みっともない」と表現した。この表現をめぐり朝日新聞は社説で強く反発している。一方、改憲派の読売新聞は「一度も改正されたことがない」と論陣を張る。説得力があるのは、どちらか――。

同じ改憲項目でも食い違いが目立つ

衆院選の争点のひとつに「憲法改正」がある。各政党の選挙公約を見ると、自民、公明のほか、希望の党、日本維新の会が憲法改正に前向きだ。このため、選挙後はかなりの確率で改憲論議が活発化し、憲法改正が現実的になるだろう。

ただ各党が挙げる改憲項目にはばらつきがあるうえ、同じ改憲項目でも食い違いが目立つ。その代表的なのが、自衛隊の扱いにつながる第9条の「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」である。

各党は選挙戦を通じ、党の憲法に対する考え方や立場を分かりやすく有権者に伝えてほしい。有権者も新聞やテレビ、インターネットを利用して、各党の立場を把握しておくべきだろう。

今回は護憲派の朝日新聞と改憲派の読売新聞、それぞれの社説を読み解きながら憲法論議を考えてみたい。

国民意識との間にある「大きなズレ」

10月16日付の朝日社説は、大きな1本社説で「憲法論議」をテーマにしている。難しい憲法論議にしてはかなり分かりやすい。朝日的いやらしさが多少あるものの、それでも十分評価できる。

「国民主権の深化のために」という見出しを掲げ、「憲法改正の是非が衆院選の焦点のひとつになっている」と書き出す。

「自民党、希望の党などが公約に具体的な改憲項目を盛り込んだ。報道各社の情勢調査では、改憲に前向きな政党が、改憲の発議に必要な3分の2以上の議席を占める可能性がある」と解説したうえでこう指摘する。

「政党レベル、国会議員レベルの改憲志向は高まっている。同時に、忘れてはならないことがある。主権者である国民の意識とは、大きなズレがあることだ」

「国民意識とのズレ」。朝日社説はいいところを取り上げていると思う。

「護憲50%」と「改憲41%」の差

朝日社説は続けて「民意は割れている」とズバリ断言する。

その根拠は何だろうか。そう考えて読み進むと、朝日社説は自社の今春の世論調査の結果をあげる。世論調査はどこの新聞社も、質問内容に社の色が付く。だからその点を差し引く必要はある。

その朝日の世論調査によると、憲法を変える必要が「ない」と答えた人は50%、「ある」というのは41%という。この11ポイントの差はかなり大きい。

それゆえ、朝日社説は「国民の意識との間に大きなズレがある」と指摘するのだ。

次に朝日社説は「自民党は公約に、自衛隊の明記▽教育の無償化・充実強化▽緊急事態対応▽参議院の合区解消の4項目を記した」と書いた後、安倍晋三首相の選挙戦略を分析してく。

安倍首相の手の内を推測する朝日社説

「首相は、街頭演説では改憲を口にしない。訴えるのはもっぱら北朝鮮情勢やアベノミクスの『成果』」である。首相はこれまでの選挙でも経済を前面に掲げ、そこで得た数の力で、選挙戦で強く訴えなかった特定秘密保護法や安全保障関連法、『共謀罪』法など民意を二分する政策を進めてきた」

こう解説した後、「同じ手法で首相が次に狙うのは9条改正だろう」と指摘する。説得力のある指摘である。

朝日社説はその中盤で自らの憲法観をこうまとめている。

「憲法は国家権力の行使を規制し、国民の人権を保障するための規範だ。だからこそ、その改正には普通の法律以上に厳しい手続きが定められている。他の措置ではどうしても対処できない現実があって初めて、改正すべきものだ」

自衛隊については「安倍内閣を含む歴代内閣が『合憲』と位置づけてきた」と指摘し、他の改憲項目にも「教育無償化も、予算措置や立法で対応可能だろう。自民党の公約に並ぶ4項目には、改憲しないと対応できないものは見当たらない」と書き、護憲派の意地を見せる。

「安倍首相の個人の情念」という分析

今回の朝日社説の中で特に興味深いのは、安倍首相が改憲にこだわるその理由を思い切って推測した部分である。

「安倍首相は、なぜ改憲にこだわるのか。首相はかつて憲法を『みっともない』と表現した。背景には占領期に米国に押しつけられたとの歴史観がある。「われわれの手で新しい憲法をつくっていこう」という精神こそが新しい時代を切り開いていく、と述べたこともある。そこには必要性や優先順位の議論はない。首相個人の情念に由来する改憲論だろう。憲法を軽んじる首相のふるまいは、そうした持論の反映のように見える」

なるほど。護憲派の朝日新聞らしい主張ではあるが、「中道」を自称するこの沙鴎一歩にも、うなずけるところは多い。とりわけ「安倍首相個人の情念」という分析は、全くその通りだと思う。

朝日社説は最後に「憲法改正は権力の強化が目的であってはならない」と訴えるが、これもよく分かる。やはり「国民主権」「人権の尊重」「民主主義」の大原則を忘れずに憲法論議を進めることこそ、大切なのである。

朝日は「憲法論議」、読売は「憲法改正」

一方、改憲派の読売新聞の社説はどうだろうか。

10月14日付の読売社説(朝日と同じく大きな1本社説)の見出しは「憲法改正」「『国のあり方』広く論議したい」「自衛隊の位置付けへ理解深めよ」である。テーマ自体を「憲法論議」とする朝日社説と違って「憲法改正」としているところから、朝日と読売のスタンスが大きく違うことが分かる。

読売社説は前半で「自民党は公約に、(略)4項目の改正を目指す方針を明記した。抽象的な表現にとどめた前回衆院選と比べて大幅に踏み込んだ。政権党として、9条改正を主要公約に挙げたのは初めてである。高く評価したい」と書く。

9条改正の公約について「高く評価したい」と新聞の社説としては最高級の褒め言葉を贈っている点など、やはり安倍政権擁護の新聞社の体質がそのまま出ている。

読売も論旨展開は憲法の原則に基づく

読売社説はさらに「自衛隊の位置付けや緊急事態時の特例措置、政府と自治体の関係などは、国のあり方に関わる重要なテーマである」と指摘する。

そのうえで「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という現行憲法の3原則の堅持を前提に、大いに議論を深めてもらいたい」と主張する。この辺りは問題ないだろう。

朝日と反対のスタンスを取る改憲派の読売も「国民主権、人権の尊重…の憲法の原則」との言葉を使ってその論を展開しようとする。いつものことだが、読売と朝日を読み比べていると、頭の中が混乱することがある。

「自衛隊合憲」には一応の理解を示すが……

読売社説は「自衛隊の合憲」に理解を示したうえで、自衛隊の位置づけを次のように言及しながら、巧みに改憲論を主張していく。

「政府は長年、自衛隊は9条2項が保持を禁止する『戦力』ではなく、合憲とする憲法解釈を維持してきた。大多数の国民も、自衛隊の国防や災害派遣、国際協力活動を高く評価している」

「合憲」ならば改憲する必要はないだろうと読み進めると、読売社説は筆を反対方向に運ぶ。

「だが、自衛隊の存在は、70年以上、一度も改正されたことのない憲法と現実の乖離の象徴だ」

沙鴎一歩は「一度も改正されない」ことがそんなに問題なのか、と思うが、どうだろうか。

北朝鮮の脅威を改憲に結び付ける読売

次に北朝鮮問題を持ち出して脅威を強調し、改憲論を導き出そうとする。これでは安倍政権と同じである。

「北朝鮮の核ミサイルの脅威などで日本の安全保障環境が悪化し、自衛隊の役割は一段と重要になっている。一部の憲法学者が自衛隊を『違憲』と主張するような異常な現状は是正せねばならない」

読売社説は「憲法改正」に対する筆の運びが弱いと思う。なぜ弱くなるのか。社説を書いている論説委員が、「憲法改正」に対する強い信念を持っていないからではないか。

信念がないから、主見出しそのものが「『国のあり方』広く議論したい」と中途半端な主張になってしまう。仮にも憲法論議の社説である。読者としては泰然自若に構えた主張をしてほしいものである。


民進党は"9条"で分裂する必要はなかった 

2017.10.19 PRESIDENT Online

総選挙を前に「改憲派」(希望の党)と「護憲派」(立憲民主党)に分裂した旧民進党。その分裂を用意したのは2015年の安保法制をめぐる喧騒だったと、東京外国語大学の篠田英朗教授は指摘する。当時朝日新聞が行った憲法学者へのアンケートでは、集団的自衛権の行使は合憲だと答えた学者は122人中2人だけ。他のメディアの調査でもほぼ同様の結果だった。民進党の前身であった民主党もこの路線に沿った議論を展開したが、それでも篠田教授は「合憲」だという――。

憲法論議を歪めた「試験に出る憲法学」

2015年安保法制の喧噪は、結果的に、2017年選挙をめぐる民進党の分裂を用意した。集団的自衛権は違憲だ、と主張する憲法学者たちは、多くの野党議員たちに一瞬の高揚感を与えた。だが憲法学者などの権威を信じて、自分たちの政策の正統性を確信したのは、浅はかな火遊びでしかなかった。

公務員試験や司法試験の準備をしているだけなら、「迷ったら芦部説(*1)をとっておけ」、と指導する予備校講師にしたがえばいいのだろう。試験に通るという目標にそって、試験委員の面々を確認すれば、それは合理的な指導だ。今までもそうだったし、これからもそうだろう。

だが政策論は、試験対策とは異なる。それどころか、実際の日本国憲法典ですら、試験対策で語られる「憲法学」とは異なる。

大多数の憲法学者が集団的自衛権は違憲だと考えていることを示したアンケートがあった。違憲とは言えないと述べた少数の憲法学者のところには、脅迫状が届き、警察の保護が入った。「大多数の憲法学者」とは、日常的にはプライバシーの権利などを研究している方々である。自衛権の専門家ではない。

自衛権は、国際法上の概念である。日本国憲法には登場しない。しかしマスコミは国際法学者の専門家の意見を求めたりはしなかった。倒閣運動に結集した憲法学者たちの「集団的自衛権は違憲だ」という声だけを報道し続けた。ニュースバリューがある面白そうな場面だ、と思ったからだろう。だがそんなその場限りの面白味が、何年も続くはずはない。

集団的自衛権が「違憲」とされたのはいつからか

拙著『集団的自衛権の思想史』で明らかにしたように、集団的自衛権が違憲だという解釈が政府見解として固まったのは、1972年である。違憲論が政府答弁で目立つようになったのは、ようやく1960年代末のことである。なぜか。ベトナム戦争の最中に、アメリカに沖縄返還を譲歩させつつ、国内的には安保闘争後の高度経済成長時代の機運に乗っていくことが政策的な方向性だったからだ。

「政府統一見解ではない」と断って披露した1954年の下田武三条約局長の発言(*2)一つだけで、「政府」は一貫して集団的自衛権は違憲だと考えていた、などと主張する論者もいるが、歴史認識として間違っているというよりも、意図的な操作だろう。1940年代・50年代の政府関係者や言論人たちの発言を見ると、集団的自衛権が違憲だというコンセンサスがあったという形跡はない。国際社会への復帰を目指していた戦後初期の日本においては、国際法規範の受入れこそが問題であった。自衛隊は違憲か否かの争いがあったとしても、集団自衛権という権利の行使が違憲になるという認識はなかった。

一方、1960年代末の時代背景を考えれば、日本の集団的自衛権行使の否定は、つまり日本がベトナム戦争に参加する可能性を否定することであった。1969年以降の佐藤政権は、内閣法制局長官の高辻正己を通じて、憲法は集団的自衛権を認めていないという結論を強調していった。ベトナム戦争によって悪化した集団的自衛権のイメージと、反安保・反沖縄返還運動が交流して東大安田講堂事件が進行中であった当時の世情不穏を考えれば、まずは憲法が認める自衛権は個別的自衛権のみで集団的自衛権発動の可能性はない、と断言することに、大きな政治的意味があっただろう。佐藤首相は内閣法制局の憲法解釈を尊重するように振る舞ったが、それは法制局の法的見解を佐藤が政治的に欲していたことの裏返しでもあったはずだ。

佐藤栄作の「方便」が、なぜか金科玉条に

集団的自衛権違憲論は、アメリカが日本の共産化を恐れていた冷戦時代の産物である。密約を積み重ねて沖縄返還を達成した佐藤栄作に対して、アメリカ側が不満を持ちながらも怒りを爆発させなかったのは、自民党政権を追い詰めて日本に共産主義革命を起こしてしまうことを何よりも恐れていたからだ。そこにつけこんで、 ベトナム戦争においてアメリカの軍事行動を阻害はしないが、積極的には何もしないという姿勢を堅持しつつ、不可能と言われていた沖縄返還を達成した佐藤の狡猾さは、集団的自衛権を憲法が禁止していると信じる憲法学者たちを、後世に大量に作り出す結果をもたらした。

集団的自衛権はなぜ違憲だと言えるのか。それは自衛権を「例外」として認めるという独特の考え方の帰結である。憲法9条が全ての武力行使を全面的に禁止していると考える東大法学部系の憲法学の伝統では、自衛権は後から留保をかける程度のものでしかない。留保が、国連憲章51条(*3)そのままだとは言いたくないらしいので、個別的自衛権と集団的自衛権との間に超えられない一線があるといった、「ガラパゴス」自衛権論を掲げる。

個別的自衛権と総称される、憲法学者が例外として認める自衛権とは、いったいどんなものなのか。拙著『集団的自衛権の思想史』で論じたが、例外の設定にあたっては、プロセイン憲法を模倣して大日本帝国憲法が制定された際に、ドイツ留学者によって編成された沿革を持つ東大法学部の特徴が発揮される。ドイツ国法学の伝統では、国家は単に法人格を持っているだけではなく、実際に意思する実体であるかのように語られる。ヘーゲル流のドイツ観念論の強い影響下で、有機体的な国家観が、標準理論だとされる。

国際政治学者や国際法学者が、排するべき危険な邪説として警戒する「国内的類推(domestic analogy)」の純粋形態である。つまり国家を大真面目に、自然人と比較し得る人格を持ったものだと仮定する。その仮定を基盤にして、法体系を構築するのが、ドイツ観念論的な特有の発想法である。

自衛権をめぐる奇妙な「物語」

国家を生きる実体だと考えるから、憲法典に書かれていないが、国家が自分自身を守る自然権を持っていることは認められる、といった観念論的な発想が生まれる。国家が自分自身を守るという自衛権は、自然人が自分自身を守る正当防衛と、完全な相応関係にある、などとされてしまう。憲法典には書かれていないが、国家が自分自身の存在に内在する自然権を基本権として行使することは、憲法典も例外として認めるはずだ、というのが、自衛権を合憲とする憲法学者の論理構成である。

この発想を絶対視する学会にだけ属していると、「単なるドイツ観念論の発想」が、あたかも不変の絶対法則であるかのようなものとなる。「個別的自衛権は国家が自分自身を守る自然権的な基本権の行使と言える」「集団的自衛権は国家の自然権的な権利ではない」、といった、フィクションにフィクションを積み重ねるかのような物語が構築されていく。

石川健治・東京大学法学部教授によれば、国連憲章における集団的自衛権は、政治的に「自衛権」の規定に「潜り込ませ」られたに過ぎず、「国際法上の自衛権概念の方が異物を抱えているのであって、それが日本国憲法に照らして炙りだされた、というだけ」なのだという(*4)。つまり憲法学者の自衛権の理解によって国際法の自衛権の理解を制限すべきことを示唆するのである 。

国内法の正当防衛に集団的正当防衛がないのだから、本来は集団的自衛権は存在するべきではなかった、という一方的な推論で、国際法が否定される。異物を抱えているのが国際法で、純粋で美しいのが日本国憲法だ、といったガラパゴスなロマン主義が蔓延することになる。

最初から的外れの憲法解釈

憲法学者の問題性は、国際法の論理を理解しないということだけにとどまらない。初めの一歩のところから的外れである。国家は自然人と同様に意思する有機的実体、などではない。ほんらい日本国憲法が依拠している考え方では、国家とは一つの制度に過ぎない。国家の存在目的は、国家という制度を構成して運営している自然人たる人間である。

国際法ではどうだろうか。国家の基本権のようなものを認める国際法は、古い19世紀的な国際法である。現代国際法では、人権法や人道法も発達し、国家は自然人を守る制度として認識されている。

集団的自衛権が違憲となるのは、日本の「憲法学」の世界観である。現代国際法の世界観ではなく、国際協調主義を謳う日本国憲法典の世界観でもない。ほんとうの憲法は、国際社会の法秩序と協調して平和を達成していくことを宣言している。

(*1)日本の憲法学の代表的教科書である岩波書店『憲法』の著者、故・芦部信喜東京大学法学部第一憲法学講座担当教授(1923-1999)の憲法解釈。
(*2)第十九回国会 衆議院外務委員会議事録第57号(昭和29年6月3日)
(*3) 国際連合憲章第51条「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない」
(*4)「座談会 憲法インタビュー―安全保障法制の問題点を聞く―:第2石川健治先生に聞く」、『第一東京弁護士会会報』、2015年11月1日、No.512、5頁。

東京外国語大学教授 篠田英朗(しのだ・ひであき)
1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程修了、ロンドン大学(LSE)大学院にて国際関係学Ph.D取得。専門は国際関係論、平和構築学。著書に『国際紛争を読み解く五つの視座 現代世界の「戦争の構造」』(講談社選書メチエ)、『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保」(風行社)、『ほんとうの憲法 ―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)など。
 
 

社説 衆院選 安保法と憲法9条 さらなる逸脱を許すのか

朝日新聞デジタル  2017年10月13日05時00分

 「憲法違反」の反対論のうねりを押し切り、安倍政権安全保障関連法を強行成立させてから、初めての衆院選である。

 安倍首相は、安保法によって「はるかに日米同盟の絆は強くなった」「選挙で勝って、その力を背景に強い外交力を展開する」と強調する。

 安保法に基づく自衛隊の任務拡大と、同盟強化に前のめりの姿勢が鮮明だ。

 混沌(こんとん)とした与野党の対決構図のなかで、安保法をめぐる対立軸は明確である。

 ■「国難」あおる首相

 希望の党は公約に「現行の安保法制は憲法に則(のっと)り適切に運用する」と掲げた。

 同法の白紙撤回を主張してきた民進党の前議員らに配慮し、「憲法に則り」の前置きはつけた。ただ、小池百合子代表は自民、公明の与党と同じ安保法容認の立場だ。

 これに対し立憲民主、共産、社民の3党は同法は「違憲」だとして撤回を求める。

 首相は、北朝鮮の脅威を「国難」と位置づけ、「国際社会と連携して最大限まで圧力を高めていく。あらゆる手段で圧力を高めていく」と力を込める。

 たしかに、核・ミサイル開発をやめない北朝鮮に対し、一定の圧力は必要だろう。だからといって軍事力の行使に至れば、日本を含む周辺国の甚大な被害は避けられない。

 平和的な解決の重要性は、首相自身が認めている。

 それでも「国難」を強調し、危機をあおるような言動を続けるのは、北朝鮮の脅威を自らへの求心力につなげ、さらなる自衛隊と同盟の強化につなげる狙いがあるのではないか。

 安倍政権は、歴代内閣が「違憲」としてきた集団的自衛権を「合憲」に一変させた。根拠としたのは、集団的自衛権について判断していない砂川事件の最高裁判決と、集団的自衛権の行使を違憲とした政府見解だ。まさに詭弁(きべん)というほかない。

 ■枠を越える自衛隊

 その結果、自衛隊は専守防衛の枠を越え、日本に対する攻撃がなくても、日本の領域の外に出て行って米軍とともに武力行使ができるようになった。

 その判断は首相や一握りの閣僚らの裁量に委ねられ、国民の代表である国会の関与も十分に担保されていない。

 安保法の問題は、北朝鮮への対応にとどまらない。

 国民の目と耳の届かない地球のどこかで、政府の恣意(しい)的な判断によって、自衛隊の活動が広がる危うさをはらむ。

 しかも南スーダン国連平和維持活動(PKO)で起きた日報隠蔽(いんぺい)を見れば、政府による自衛隊への統制が機能不全を起こしているのは、明らかだ。

 来年にかけて、防衛大綱の見直しや、次の中期防衛力整備計画の議論が本格化していくだろう。自民党内では、大幅な防衛費の増額や敵基地攻撃能力の保有を求める声が強い。

 報道各社の情勢調査では、選挙後、自公に希望の党も加わって安保法容認派が国会の圧倒的多数を占める可能性がある。

 そうなれば、国会の関与がさらに後退し、政権の思うがままに自衛隊の役割が拡大する恐れが強まる。

 今回の衆院選は、安倍政権の5年間の安保政策を問い直す機会でもある。

 安保法や特定秘密保護法武器輸出三原則の撤廃、途上国援助(ODA)大綱や宇宙基本計画の安保重視への衣替え……。

 一つひとつが、戦後日本の歩みを覆す転換である。

 次に首相がめざすものは、憲法への自衛隊明記だ。自民党は衆院選公約の重点項目に、自衛隊を明記する憲法改正を初めて盛り込んだ。

 安保法と、9条改正論は実は密接に絡んでいる。

 ■民主主義が問われる

 安保法で自衛隊の行動は変質している。その自衛隊を9条に明記すれば、安保法の「集団的自衛権の行使容認」を追認することになってしまう。

 「(安保法を)廃止すれば日米同盟に取り返しのつかない打撃を与えることになる」

 首相は主張するが、そうとは思えない。

 立憲民主党などが言う通り、安保法のかなりの部分は個別的自衛権で対応できる。米国の理解を得ながら、集団的自衛権に関する「違憲部分」を見直すことは可能なのではないか。

 衆院選で問われているのは、憲法平和主義を逸脱した安倍政権の安保政策の是非だけではない。

 この5年間が置き去りにしてきたもの。それは、憲法や民主主義の手続きを重んじ、異論にも耳を傾けながら、丁寧に、幅広い合意を築いていく――。そんな政治の理性である。

 「数の力」で安保法や特定秘密法を成立させてきた安倍政権の政治手法を、さらに4年間続け、加速させるのか。

 日本の民主主義の行方を決めるのは、私たち有権者だ。

 



2017年10月23日 中国の次期最高指導部の有力候補者たち

2017年10月24日 13時28分39秒 | Weblog

BBC News 2017年10月23日

プラティク・ジャカール記者BBCモニタリング

5年に一度の中国共産党大会。24日の閉幕後、次世代の最高指導部、政治局常務委員が発表される。

党の最高指導部である政治局常務委員7人のうち、習近平国家主席と李克強首相を除く5人が今年中に引退するとみられている。

中国政治の不透明さから、誰が委員になるか言い当てるのは至難の業だが、習主席に近い人が委員になるのは確実だ。

BBCは、中国共産党の最高指導部を引き継ぐ有力候補者たちを調べてみた。


陳敏爾重慶市党委員会書記  習主席の「腹心」

陳敏爾氏(56)は7月15日、腐敗容疑で捜査を受けている前任者の孫政才氏に代わり、重慶市党委員会書記に任命された。

陳氏は若い頃に地元の浙江省で政治のキャリアを積んだ。2002年~07年まで習氏の下で浙江省の党宣伝部長を務め、習氏と強い関係を築いた。

香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは陳氏を習主席の「信頼する腹心」と呼び、陳氏が昇進したことで、党大会で「党の上層部に加わる有力候補者としての地位が確立された」と述べた。


胡春華広東省党委員会書記

胡春華氏(54)は、経済的に発展する南部・広東省のトップになるまで、チベット自治区や河北省、内モンゴル自治区でさまざまな役職を務めた。

また、2006年には共産党の青年団である中国共産主義青年団の第一書記に就任した。

胡氏は2012年、政治局常務委員会に次ぐ、25人で構成される中央政治局の最年少の委員に昇格した。

胡氏は「小さな胡」として知られ、胡錦濤・前国家主席の後ろ盾があるとされる。

独立系香港メディアによると、胡氏は陳敏爾氏と共に、1960年代以降に生まれたいわゆる「第6世代」の指導者たちで、習主席の有力な後継者の一人とみられている。


栗戦書・党中央弁公庁主任  習氏の「強力な味方」

栗戦書氏(67)は党中央弁公庁主任で、国家主席の最側近として、習氏の日々の活動を取りまとめている。

栗氏はしばしば、習主席の国内外の訪問に同行し、最近では習氏が7月にロシアを訪問した際にも同行していた。

有能で管理能力があると言われており、河北省や陝西省で役職を担った後、2012年に中央政治局に昇格した。

また栗氏は反腐敗運動を率いる王岐山・中央規律検査委員会書記に次いで、習主席の最も強力な味方で、1980年代始め以降、習氏の親しい友人でもある。


王滬寧・中央政策研究室主任 ― 「中国のキッシンジャー」

王滬寧氏(61)は中央政策研究室主任で、栗戦書氏と同じく習主席が海外を訪問する際の同行者の一人だ。

復旦大学の元学者で、政策立案の豊富な経験があり、江沢民・元国家主席や胡錦濤・元国家主席の顧問も務めた。

習主席の外交政策における最側近とされ、韓国の日刊紙ハンギョレは王氏を「中国のキッシンジャー」と呼んだ。

香港の独立系日刊紙「明報」によると、王氏は習主席に近いため政治局常務委員に加わる可能性が高いが、「控えめな人なので、昇進には興味がないと言われている」という。


汪洋副首相

汪洋氏は現在、現行政府の4人の副首相の内の一人で、二期目の中央政治局委員だ。

ベテランの政治家で、2007年から12年にかけて広東省党委書記を務め、習氏の野心的な「一帯一路」政策を支える中心人物だ。

胡春華氏同様、汪氏は党内の共青団出身者派閥で、政治局常務委員会入りを競う上位候補者の内の一人だと香港メディアは伝えている。

また汪氏は李克強首相の後任になるかもしれないという兆しが濃くなっており、中国首脳部は要職を二期務めるという慣例を破ることになるかもしれない。


韓正上海市書記

韓氏は現在、中国共産党高位の政治機関、中央政治局の委員で、以前は上海市長と上海市党副書記を務めた。

王岐山氏が務める強硬に反腐敗運動を率いる中央規律検査委員会書記の座を奪うかもしれないとの予想もある。

韓氏が昇進すれば、「63歳の粘り強さは報われるという証明になる。10年前に政治アナリストが中国本土の有望政治家のリストを作成していた時に、有力な穴場的候補の一人にも数えられていなかった」とサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙は指摘する。

2007年に政治局常務委員会入りする前に上海市党委書記を務めていた習氏を含め、上海は多くの指導者を輩出している。


他の候補者たち

  • 李鴻忠・港湾都市の天津市党委員会書記
  • 陳全国・新疆ウイグル自治区党委員会書記
  • 趙楽際・中央組織部部長。同部は職員の人事を監督する強力な組織
  • 劉鶴・中央財経指導小組弁公室主任

この候補者たち全員が限られた座を狙って、競い合っているかもしれない。複数のメディアによると、習主席は政治局常務委員の人数を現在の7人から5人にするとの情報がある。

(英語記事 China party congress: The rising stars of China's Communist Party

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-41718588


共産党大会 「社会主義強国」へ 新時代の国家像提示 習氏、改革開放の先見据え

共産党大会 「社会主義強国」へ 新時代の国家像提示 習氏、改革開放の先見据え
毎日新聞2017年10月19日 東京朝刊

毎日新聞2017年10月19日 東京朝刊

共産党大会 「社会主義強国」へ 新時代の国家像提示 習氏、改革開放の先見据え

 
 

 中国の習近平総書記(国家主席)は18日、第19回共産党大会の開会式の党中央委員会報告(政治報告)で、毛沢東、トウ小平の「偉業の継承者」として改革開放の先に見据える新時代の富強路線を宣言した。経済、外交戦略にとどまらず道徳などあらゆる分野の政策目標を設定。激化する地域・国家間の競争を勝ち抜き、世界をリードする地位を確立するための「国家総動員体制」を強く印象づけた。

 習氏は3時間半に及ぶ異例の長さの政治報告で「新時代」と何度も繰り返した。習氏の太い声と聴衆の拍手が響く会場の人民大会堂は「習時代」の本格到来を自ら告げる舞台となった。

 習氏は「中華民族は立ち上がり、豊かになり、強くなる」とも表明。中国の労働者、農民を立ち上がらせた建国の父である毛沢東、改革開放で経済成長を成し遂げたトウ小平に続き、自らが「富強」を実現するとの自負が伝わった。

 習氏は2049年の建国100周年に向けて「富強、民主、文明、和諧(調和)の社会主義現代化強国を建設する」と述べ、2段階の目標達成計画を初めて打ち出した。30年以上も先の国家目標の道筋を設定したのは、習氏が任期を終えても影響力を保持する布石とみられる。

 習氏は1期目の5年間で中国を、米国を意識した「責任ある大国」の地位に押し上げようとしてきた。「中華民族の偉大な復興という中国の夢」を掲げる習氏の念頭に、世界をけん引する未来図があるのは明らかだ。「我が国は世界の舞台の中央で、絶えず人類のために貢献する時代に近づいている」。習氏は中国の発展が国際社会に利益をもたらすと強調した。

 だが、政治報告からは、世界がかつて目にしたことがない国家像が浮かび上がる。習氏が語る「民主」「法治」は西側社会と異なる概念だ。「党が一切を指導する」と習氏が強調した通り、共産党支配の枠組みを絶対に越えてはならない。習指導部はインターネットや言論などの社会統制を徹底的に強化し、報告でも道徳やモラルなど国民生活の細部にまで言及した。中国では既に飛躍的な発展をみせるビッグデータや人工知能(AI)を駆使した監視システムが現実になっている。習氏が描く国家像は、党と、その「核心」である最高指導者がすべてを掌握する強力な管理国家の到来をも予感させた。【北京・河津啓介】

外交摩擦、懸念根強く

 「富強」を目指す中国と米国の摩擦が懸念されている。習氏は政治報告で、台湾問題に続けて「いかなる者も中国の利益を損ねる苦い果実を中国にのみこませようなどと幻想を抱かない方がいい」と警告した。

 また報告は「中国はどれほど発展しても永遠に覇権を唱えず、拡張をしない」とも述べているが、台湾や南シナ海など譲歩できない中国の「核心的利益」が国力の増大に伴って拡大しているとの懸念は周辺国や台湾に根強く残る。

 報告を受けて、台湾の李大維・外交部長は立法院(国会)答弁で「具体的な政策がしばらくしたら出てくるだろう。油断していない」と警戒感をあらわにした。党大会前の6月にもパナマが台湾と断交し、中国と国交を結ぶなど「圧力」は大きくなっている。

 中国は2020年代後半にも国内総生産総額で米国を抜くと予想するシンクタンクは多い。中国が「富強」実現の目標とする今世紀半ばとは、世界一の経済大国になってから約20年後の姿が想定されている。報告では軍の目標について「35年までに現代化を基本的に実現し、今世紀半ばまでに世界一流の軍隊を全面的に築き上げる」と明記、事実上、米軍を抜くと宣言した。

 台頭する新興国・中国と超大国・米国の衝突を避けようとする外交努力も始まっている。中国外務省によると、ティラーソン米国務長官は9月30日、王毅外相と会談した際に「トランプ大統領は習主席と共に今後数十年の米中関係の発展を計画することを期待している」と伝えた。11月8日から訪中するトランプ氏に「富強」の狙いを説明することが、習氏にとって党大会後の最初の課題になりそうだ。【北京・浦松丈二、台北・福岡静哉】

 

 PRESIDENTOnline   2017.10.18

習近平が恐れる「次期チャイナ7」の名前

10月18日から5年に1度の「中国共産党大会」が始まる。世界2位の経済大国の方向性を決める最高意思決定機関であり、世界の注目度は日本の総選挙の比ではない。どこに注目すればいいのか。2人の専門家に聞いたところ、共通するのは「王岐山氏の処遇」だという。どういう意味なのだろうか――。

指導者は選挙で選ばれるが……

共産党大会は同党の最高意思決定機関であり、5年に一度開催される。最も重要な役割の一つが党の指導者を決めることだ。法政大学・趙宏偉教授は「党指導部の任期は5年。ここで選ばれた人たちがこれからの5年間、党を支配し、全国を統治することになるので、大変重要だ」と説明する。

指導者選びのプロセスは次の通り。現在、共産党の党員数は約9000万人、14億人の国民に対して、15人に1人という割合を占める巨大組織だ。党大会は代表制で、全国の40の地域や組織から選挙で選ばれた2300人の党大会代表が、北京の自民大会堂に集まる。

大会では、党大会代表の投票で約200人の中央委員と約100人の中央委員補を選ぶ。そして党大会が閉会した翌日に開かれる「中央委員会全体会議(全会)」で、中央委員が25人の政治局員を選ぶ。この政治局員の中から、党の最高指導部である「政治局常務委員会委員(常務委員)」が選ばれる。現在の常務委員は7人のため、その権力の大きさからチャイナ7(セブン)と呼ばれている。

さらに、この7人の中から党のトップである総書記が選ばれる。総書記は国家主席と中国共産党軍事委員会主席を兼ねる。つまり総書記は党のトップ、行政のトップ(国家主席)、軍のトップ(最高司令官)を務めるわけで、その点では米国の大統領に近い。ちなみに行政と軍のトップの称号は「主席」で、党だけが「総書記」である。

あらかじめ結果は決まっている

面白いのは、一連の手続きで「選挙」という民主的な手続きをとっていることだ。党大会代表から中央委員、中央委員補まで定員を若干上回る候補者が立候補する。当然、落選者も出る。だが、だれが当選し、だれが落選するかは、各レベルで党が関与しており、詳しいリストが事前に作成されているという。

例えばエリート中のエリート集団である中央委員と中央委員補は、党大会代表による選挙で選ばれるが、候補者は党中央政治局とその常務委員会によって確定される。さらに指導部層である政治局員、政治局常務委員、総書記は、中央委員会による選挙だが、実際は常務委員会、政治局によって決定済みの同数の候補者に対して信任投票を行って選出する。この候補者をめぐって激しい権力闘争が繰り広げられている。

王氏が常務委員に残れば習氏の勝利

今回の党大会では、習近平総書記の権力基盤が一段と強固なものになるかどうかが注目されている。そのリトマス試験紙となるのが、「チャイナ7」の一人である王岐山常務委員の処遇である。王氏が常務委員に残れば習氏の勝利、外れれば反習近平派の巻き返し成功というのが、中国研究者の主な見方である。

王氏は過去5年間の習体制において、「党中央規律検査委員会書記」として腐敗撲滅運動の先頭に立ち、辣腕を振るってきた。その結果、かつては不可侵とされた政治局員以上の4人をはじめ、130万人以上の共産党員が処罰の対象になった。腐敗撲滅運動は習氏の権力基盤を固めるうえで貢献したばかりでなく、国民の習人気を支える原動力となっている。

こうした背景から、中国の最高指導部では「習・王連合」と「反習派」の対立構造があると理解されることが多い。だが、王氏は現在69歳。常務委員は68歳定年という慣例があり、慣例に従うのであれば再任は難しいとみられている。

毛沢東が晩年に個人崇拝の闇に陥り、文化大革命で中国を大混乱させた反省から、共産党の指導部は集団指導体制を採用してきた。前胡錦濤政権下では、政治局常務委員のメンバーは9人で、「9人の大統領がいる」と揶揄されるほど権力は分散していた。

慣例を破らずに済む奥の手

だが、現在、習氏は腐敗撲滅による国民的人気を背景に、独裁的な権力基盤を固めつつある。すでに習氏は9人だった常務委員を7人に減らしている。そのうえで、もし習氏が慣例を破り、王氏を常務委員に再任させることができれば、権力基盤の確立が確認できるといえる。

注目すべきひとつのポイントは「習氏が慣例を破って、王氏を再任するかどうか」だが、趙教授は慣例を破らずに、習・王連合を維持する方法があると指摘する。

「『国家副主席』というポストを復活させ、王氏を副主席に就任させるという手がある。これまで国家副主席は名誉職としての意味合いが強かったが、王氏には習氏の最重要課題の一つである『一帯一路』を担当させ、ナンバー2として遇するかもしれない」(趙教授)

習体制が抱える3つの不安要素

一方、日本総研の呉軍華・調査部理事は、趙教授とは違う見方を示す。呉氏は、メインシナリオは「習体制の強化」としつつも、「今回の党大会が終わっても、今後1~2年は権力闘争が続くこともありえる」と予想する。

呉理事によれば、習体制の不安定さを予感させる要素は3つある。1つ目は、習氏の個人崇拝ともとられかねないほど、習氏をほめたたえるプロパガンダが強烈なこと。「これは逆に権力基盤が固まっていないことを表しているのではないでしょうか」(呉理事)。

2つ目は、中国指導層の腐敗を指摘しつづける、米国在住の中国人実業家・郭文貴氏の存在だ。郭氏の情報はフェイクニュース扱いされることが多いものの、彼のバックに共産党の大物がついている可能性は否定できない。そうだとすれば、今後、習体制を揺るがすような腐敗が出てくるかもしれない。

3つ目が王岐山氏の存在そのものだ。「今や習氏に対抗できる力を持っているのは、王氏だけとなりました。もともと王氏は経済・金融には強い基盤を持っており、腐敗撲滅運動の過程で警察にも足場を築きました。影響力という点で習氏が王氏を凌駕しているのは、人民解放軍だけでしょう」(呉理事)。王氏が自らの去就をどう考えているのかによって、習氏が権力基盤を固められるかが左右される。

これからさまざまなメディアで共産党大会の様子が報道されるだろう。注目すべきは常務委員である王岐山氏の処遇にある。ポイントを絞ると、報道のリアリティも変わってくるだろう。ぜひ参考にしてほしい。

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【図解・国際】中国共産党政治局常務委員会の顔触れ(2017年10月)

 

 https://www.jiji.com/news2/graphics/images/20171025j-01-w470.gif

【北京時事】中国共産党の第19期中央委員会第1回総会(1中総会)が25日、北京で開かれ、習近平総書記(64)=国家主席=の2期目の指導部が正式に発足した。24日に閉幕した党大会で、習氏は、毛沢東、トウ小平と並ぶ形で党規約に名前を記し権威を高めた。権力基盤をさらに強化した習氏は、21世紀半ばの「社会主義現代化強国」建設を目標に掲げ、2期目を始動させた。
 最高指導部メンバーである政治局常務委員は、習氏と李克強首相(62)が留任。栗戦書党中央弁公庁主任(67)、汪洋副首相(62)、王滬寧中央政策研究室主任(62)、反腐敗闘争を指揮する党中央規律検査委員会書記に就任する趙楽際党中央組織部長(60)、韓正上海市党委書記(63)の5人が新たに選出された。
 昇格する5人のうち、栗、王、趙の3氏は習氏に近い。他の2氏も習氏との関係は良好とされ、習氏を支える体制は一層強固となる。
 胡錦濤前国家主席と習氏は、前任者が2期目に入る段階で政治局常務委員になり、後継者と位置付けられた。今回の人事では、後継者になる50歳代の若手指導者は最高指導部入りしなかった。習氏の後継者は不明確なままで、習氏は長期政権も視野に、後継候補を競わせ自らの求心力を維持する構えだ。 

◇政治局常務委員の略歴
 25日の中国共産党第19期中央委員会第1回総会(1中総会)で選出された最高指導部・政治局常務委員の略歴は次の通り。

 習 近平氏(国家主席、総書記、中央軍事委主席)清華大卒、法学博士。69年陝西省延川県の農村に下放。福建省長、浙江省党委書記、上海市党委書記などを経て07年党政治局常務委員、08年国家副主席、12年党総書記・党中央軍事委主席、13年国家主席。習仲勲元副首相の息子。64歳。陝西省出身。

 李 克強氏(首相)北京大卒、経済学博士。74年安徽省鳳陽県の人民公社生産大隊に下放。共青団中央第1書記、河南省党委書記、遼寧省党委書記を歴任。07年政治局常務委員に昇格、08年副首相。13年から現職。62歳。安徽省出身。

 栗 戦書氏(中央弁公庁主任)河北師範大卒。出身地の河北省で長く勤務し、同省の共青団トップなどを経験。陝西省西安市党委書記、同省党委副書記、黒竜江省長などを経て、10年貴州省党委書記。12年9月から現職。67歳。

 汪 洋氏(副首相)中央党校卒。72年安徽省の食品工場に勤め、共青団省委副書記、副省長を歴任。国務院副秘書長、重慶市党委書記を経て、07年党政治局員。07~12年広東省党委書記。13年から現職。62歳。安徽省出身。

 王 滬寧氏(中央政策研究室主任)上海師範大卒。復旦大大学院で国際政治を学び、同大教授、同大法学院長を経て、党中央政策研究室に勤務。02年から現職。07年党書記を兼務し、12年政治局員に。62歳。山東省出身。

 趙 楽際氏(中央組織部長)北京大卒。青海省で下放後、大学生活をはさんで再び同省に戻る。副省長、西寧市党委書記などを経て、省長、党委書記を歴任。07年陝西省党委書記。12年から現職。60歳。青海省出身。

 韓 正氏(上海市党委書記)華東師範大卒。75年、倉庫職員として就職して以来、一貫して上海でキャリアを重ねた。市共青団トップ、副市長などを経て03年、建国以来最年少で上海市長に就任。12年、上海市党委書記として政治局入りした。63歳。浙江省出身。

 
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_int_china20171025j-01-w470

共産党大会 「社会主義強国」へ 新時代の国家像提示 習氏、改革開放の先見据え


衆院選2017

2017年10月14日 20時45分51秒 | Weblog

 

衆院解散表明

「疑惑隠し」首相反論 幕引き狙う

毎日新聞2017年9月25日 21時53分(最終更新 9月26日 10時37分)

 「野党の批判が集中するかもしれない。厳しい選挙は覚悟の上だ」。森友学園、加計学園問題の「疑惑隠し解散では」という記者からの指摘に、安倍晋三首相は25日の記者会見で強気の姿勢をのぞかせた。

 紺色のスーツに、青いネクタイ姿。硬い表情で、首相官邸の会見場に姿を見せた。冒頭の20分は自身による解散理由の説明で、この間、両学園を巡る問題への言及はわずか1分。新たに打ち出した子育て支援策などは冗舌に語り、財源について問われると「私たちは『無駄遣いをなくせば2兆円が出てくる』と無責任なことは言わない」と旧民主党政権が掲げていた、事業仕分けなど無駄削減の政策を暗に批判。「繰り返しになりますが」と、もう一度同じ言葉を口にして、野党への敵意をにじませた。

 一方、小池百合子東京都知事が掲げた新党「希望の党」については「『希望』というのはいい響き。小池知事とは安全保障の基本的な理念は同じ」と秋波を送った。

 両学園の疑惑に対する安倍首相の姿勢は、上下する内閣支持率と共に大きく変わった。森友学園の問題が国会で初めて取り上げられた今年2月。学園前理事長と親しい妻昭恵氏に疑惑の目が向けられたが、50%を超えていた内閣支持率を背景に「(取引に)私や妻が関係していたということになれば議員辞職する」などと強気な発言を繰り返していた。

 しかし、森友学園や加計学園の問題への首相の説明に批判が高まると、6月には支持率が40%を割り込み、記者会見では「国民の理解が得られていないことを率直に認めなければならない」と反省を口にして「丁寧に説明する」と繰り返した。

 8月の内閣改造後の支持率回復を受け、この日の会見では一時の「低姿勢」は消え、これまでの対応を正当化した。「私自身も衆参の閉会中審査に出席するなど、丁寧な説明を積み重ねてきた」【杉本修作】

 

解散表明(その2止) 「疑惑隠し」反論 「丁寧な説明重ねた」

毎日新聞2017年9月26日 東京朝刊

 「野党の批判が集中するかもしれない。厳しい選挙は覚悟の上だ」。森友学園、加計学園問題の「疑惑隠し解散では」という記者からの指摘に、安倍晋三首相は25日の記者会見で強気の姿勢をのぞかせた。

 硬い表情で、首相官邸の会見場に姿を見せた。冒頭の20分は自身による解散理由の説明で、この間、両学園を巡る問題への言及はわずか1分。新たに打ち出した子育て支援策などは冗舌に語り、財源について問われると「私たちは『無駄遣いをなくせば2兆円が出てくる』と無責任なことは言わない」と旧民主党政権が掲げていた、事業仕分けなど無駄削減の政策を暗に批判。「繰り返しになりますが」と、もう一度同じ言葉を口にして、野党への敵意をにじませた。

 一方、小池百合子東京都知事が掲げた新党「希望の党」については「小池知事とは安全保障の基本的な理念は同じ」と秋波を送った。

 両学園の疑惑に対する安倍首相の姿勢は、上下する内閣支持率と共に大きく変わった。森友学園の問題が国会で初めて取り上げられた今年2月。学園前理事長と親しい妻昭恵氏に疑惑の目が向けられたが、50%を超えていた内閣支持率を背景に「(取引に)私や妻が関係していたということになれば議員辞職する」などと強気な発言を繰り返していた。

 しかし、森友学園や加計学園の問題への首相の説明に批判が高まると、6月には支持率が40%を割り込み、記者会見では反省を口にして「丁寧に説明する」と繰り返した。

 8月の内閣改造後の支持率回復を受け、この日の会見では「低姿勢」は消え、これまでの対応を正当化した。「私自身も衆参の閉会中審査に出席するなど、丁寧な説明を積み重ねてきた」【杉本修作】

ミサイルの不安「こんな時に」

 北朝鮮が発射した弾道ミサイルは先月と今月の2回、北海道上空を通過して太平洋上に落下。北海道から東日本までの広い範囲で全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じて発射情報が流れた。不安を募らせた住民は、衆院解散の理由に北朝鮮問題への対応を挙げた安倍晋三首相に、何を思うか。

 北海道滝川市の主婦(74)は「Jアラートやサイレンが鳴っても、数分で飛んできたらどこかに逃げるわけにはいかない。こんな不安定な時期に選挙をして、本当に大丈夫なのか」と首をかしげる。安倍政権や自民党の現状に疑問を抱く一方で「他の政党は頼りなく、危機に対応できないのではないか」と険しい表情を見せた。同市でスナック・軽食店を経営する竹内信恵さん(69)は「とにかく平和な、住みよい国になってほしい」と訴えた。

 北海道釧路市の漁港でマイワシの水揚げを終えたばかりの青森県八戸市の漁師の男性(38)は「北朝鮮のミサイルはいつどこに飛んでくるかわからない。ミサイル問題について、しっかり取り組んでほしい」と強調する一方、「政治家はスキャンダルばかりで信頼できない。こんな時に選挙をするなんておかしい」と憤った。

 3月に全国初のミサイル想定の住民避難訓練が行われた秋田県男鹿市の温泉旅館のおかみ、斉藤靖子さん(45)は「ミサイルが頻繁に飛んできている時期に解散していいのかと不安を感じる。しかし、解散を機に、ミサイル対策が議論されればいいと思う。有権者が判断する場を与えられたので、しっかり考えて投票したい」と話した。

 同県能代市の会社員の男性(49)は「どんな状況でもミサイルの危機から国民を守るのが国の仕事。解散だからといって有事への対応がおろそかになってはいけない」と注文をつけた。【渡部宏人、平山公崇、森口沙織】

「森友・加計から逃亡」

 森友学園、加計学園の問題を巡り野党は臨時国会で攻勢を強める構えだったが、審議されないまま総選挙に突入する。

 大阪市の学校法人「森友学園」への国有地売却問題を訴訟で追及する神戸学院大の上脇博之教授(憲法学)は「審議に応じない解散は憲法違反の可能性もある」と指摘。首相は消費税の使途変更を主な解散理由としたが、「『何をいまさら』と思う。大義はなく、森友・加計問題からの逃亡解散だ」と憤った。

 学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画を巡る問題は、文部科学省の審議会が新設認可の判断を10月以降に先送りし、校舎建設が進む愛媛県今治市の地元住民らは今回の衆院解散に揺れている。

 市内でホテルを経営する正岡重二さん(69)は「安倍首相の強気な国会答弁が個人的には好きだが、加計問題を巡る説明は歯切れが悪い。臨時国会で疑念を払拭(ふっしょく)してほしかっただけに残念で、『疑惑隠し解散』と批判されても仕方がない」と話した。

 今治市には、同市と広島県尾道市を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」など人気の観光スポットがある。

 飲食店経営の越智辰智さん(37)は加計問題が国会で取り上げられて以降、来店する観光客の客足が落ちたと感じる。「結論の出ない国会論戦は今治の印象を悪くするだけ。今回の衆院解散で問題が収束するならそれでいい」と語った。【服部陽、宮本翔平】

自衛隊家族「改憲語れ」

 安倍首相は自衛隊の存在を明記する憲法9条改正に意欲を示すが、記者会見では言及しなかった。

 首相のブレーンの一人、八木秀次・麗沢大教授(憲法学)は「憲法改正の発議は国会の役割なので、あえて首相としては述べなかったのだろう」と解説。「自民党の公約の中には入れるはずで、総裁として選挙戦では訴えるはずだ」と指摘する。

 これに対して、自身の息子が海上自衛隊大湊基地(青森県むつ市)に勤務する50代の男性は「首相としてあるまじき行為。憲法改正をやるなら争点として提示して、やらないなら争点にしないとはっきりすべきだ」と反発した。

 ある陸上自衛隊員の40代の妻は「憲法改正を前提に解散するのだろうからはっきり表明すべきだし、浴びるであろう反論も受け止めるべきだ」と訴えた。【佐藤裕太、北山夏帆、神足俊輔】

解散権の制約、専門家提案

 衆院解散の方針を表明した安倍晋三首相に対し、野党は「解散権の乱用」との批判を強めている。

 解散権の抑制策を公約に盛り込む動きがあるほか、専門家は解散に関する新たなルール作りを提案する。今回の衆院選では、解散権のあり方を巡って論戦になりそうだ。

 海外の議会政治に詳しい立命館大の小堀眞裕教授によると、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国で政権の自由裁量による議会解散が一般化しているのは日本を含めカナダ、デンマーク、ギリシャの4カ国。

 小堀教授は「野党の準備不足を見計らうような解散権の行使は、海外に比べても日本が際立っている」と指摘する。日本と同じ議院内閣制を採用する英国やドイツの解散権は、不信任決議案の可決などの場合に制限されている。

 近年では、小泉純一郎元首相による「郵政解散」(2005年)や前回の「アベノミクス解散」(14年)などで「解散権の乱用」との指摘が相次いだ。

 民進党など野党4党は今年の通常国会後、憲法の規定に基づき臨時国会の召集を要求していたが、放置されてきた。

 憲法学者で首都大学東京の木村草太教授は「臨時国会の冒頭解散は憲法違反という観点からも批判は免れない」と強調する。

 木村教授が提案するのは、与野党が国会で首相の解散理由を審議できるルール作りだ。「審議の場があれば、今回のように理由が不明確なまま衆院選に突入する事態を一定程度防ぎ、解散権の制約につながる。大義の有無も国民が判断できる」

 今回の衆院解散を巡っては、自民党内からも「何のための解散か明確にする必要がある」(石破茂元幹事長)との声が上がる。民進党は公約に「解散権の制約」を改憲項目として盛り込む方針だ。【服部陽】

 

平和を問う

衆院選2017/上 憲法上回る地位協定 米兵特権に父奪われ

毎日新聞2017年10月12日 西部朝刊

 「米兵たちは暗がりを探してここまで運転させ、突然父に襲いかかったんです」。沖縄市美原の住宅街の一角。沖縄県宜野湾市の宇良宗之さん(33)は9年前の事件現場で怒りをにじませた。

 2008年1月、タクシー運転手だった父宗一さん(当時59歳)は、乗客の在沖米海兵隊員2人から酒瓶や拳で前歯10本が折れるほど激しく殴られ、乗車賃を踏み倒された。事件後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、職場復帰できないまま、4年後にがんで亡くなった。

 「(安全保障上)基地があるのはやむを得ない。米軍にもいい人はいる」。そう考えていた宇良さんに、宗一さんは「甘く見るな」と言っていた。

 日米地位協定は、米軍人や軍属の公務中の犯罪について米側に優先的に裁判権を認め、公務外でも起訴時まで米側の身柄確保を認めており、この「特権」は長い間改定されないままだ。宗一さんはそれまで、米軍関係者に何度も釣り銭箱を奪われていたが、県警の捜査は進まず悔しさを募らせていた。

 そしてあの日、宗一さんは立ち向かった。殴られても釣り銭箱を離さなかった。草野球好きだった父の笑顔を奪われ、宇良さんの考えが変わった。「米軍はやりたい放題できるから沖縄にいる。『日本人を守ろう』という意識は感じられない」

 憲法が保障する主権や人権さえも在日米軍が侵害するのは、沖縄だけに限らない。

 最高裁は昨年12月、米空母艦載機などの騒音に悩む厚木基地(神奈川県)の周辺住民らの飛行差し止め請求を退けた。国の支配が及ばない第三者(米軍)の行為は差し止めることができないとする司法判断が定着している。原告団長の金子豊貴男(ときお)さん(67)は「住民の苦痛より、国家の米軍追従を固定化した」と批判する。

 艦載機の主力部隊は近く岩国基地(山口県岩国市)に移転する予定で、騒音被害の懸念が広がる。さらに、米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイは、機体の安全性に疑念が持たれたまま日本上空で飛行を継続し、奄美空港(鹿児島県)や大分空港(大分県)など民間空港への緊急着陸が続く。

 「在日米軍部隊は、他国での戦争や攻撃の訓練ばかりしている」と金子さんは言う。北朝鮮情勢の緊迫が続けば、在日米軍の活発化も懸念される。米軍が落とす不安の影は、基地の街以外も覆い始めている。

 一方、自民党は衆院選の公約で、憲法に自衛隊の明記を掲げた。安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使を容認する安全保障法制を整備。自衛隊と米軍の一体化を進め、日米同盟の強化を目指す。

 地位協定に詳しい前泊博盛・沖縄国際大教授は、日本国内での米軍の特権的地位を「国際的にも異例」と指摘しつつ「地位協定が憲法を上回っている問題を解決しない限り、国民主権を見失った極端な対米追従が続く」と懸念を深める。

     ◇

 改憲を争点の一つに、衆院選が始まった。憲法を論じるうえで大切な視点は何か。平和のあり方を問い続ける現場から考える

 

平和を問う

衆院選2017/中 地に足着かぬ国防論 陸自配備、与那国分断のまま

毎日新聞2017年10月13日 西部朝刊

 日本最西端の沖縄県・与那国島。迷彩服の自衛隊員がバイクで通勤する姿が国境の島の朝になじんでいた。陸上自衛隊の配備を巡る住民投票は2015年2月。賛成派が小差で上回り、昨年3月に沿岸監視部隊がやって来た。それから1年半あまり。島中にあった「自衛隊歓迎」や「配備反対」の看板はほとんどない。

 隊員と家族の約250人が移り住み、島の人口は11年ぶりに1700人を超えた。「おかげで大綱引きは盛り上がるよ」。島で生まれ育った女性(64)がほほ笑む。若い隊員が悪戦苦闘しながら綱を編んだのは今夏で2回目。台風の後片付けも買って出たりと、島に溶け込んできた。

 同時に、島を二分した陸自配備の賛否論はかすみ、改憲を視野に入れた国境の国防強化を説く声が、聞かれるようになった。

 飲食店経営の田島若代さん(60)は「日本は専守防衛しかできない国だからなめられる。憲法9条を変えて『目には目を、歯には歯を』の対応をするべきだ」と勇ましい。しかし、直接的な脅威を経験しているわけではない。聞こえてくるのは、北朝鮮情勢や中国の海洋進出問題。自衛隊の配備に理解を得るため、国がかつて島民に並べ立てた言葉だ。

 中国の海洋進出を警戒した米国の国防政策見直しに合わせるように、国は2010年12月に「防衛大綱」を改定し、南西地域の防衛力強化(南西シフト)を掲げた。中国や北朝鮮を意識した島しょ防衛の重視で与那国島への陸自配備はその一環だ。自民党は今回の衆院選でも南西シフトの強化を公約に盛り込んだ。

 配備撤回を訴え続ける農業、宮良正一さん(67)は「むしろ基地があるから狙われる」と不安を隠さない。ところが「狙われるリスク」は島民に浸透してはいない。反対派は地域の行事に誘われないこともある。隊員らの来島を巡って島は「分断」されたまま、地に足の着かない国防論議が飛び交っている。

 北朝鮮の弾道ミサイルの発射を想定した地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」(PAC3)の訓練が各地で実施されている。

 8月下旬、北九州市の陸自駐屯地での訓練後、指揮隊長は「態勢を整えて国民を安心させたい」と語った。一方、別の空自幹部は、北朝鮮情勢にあおられる形で国の防衛政策を国民が次々と追認する事態を想定し危機感を募らせる。「実際に危険な戦場に行く私たちが戦争が起こらないことを誰よりも望んでいる。国民には冷静な議論を求めたい」

 

平和を問う

衆院選2017/下 瀬戸際の憲法9条 語られない有事リスク

毎日新聞2017年10月14日 西部朝刊

 色とりどりの弁当が並び、利用者の笑みがこぼれる。精神障害者ら約30人がパウンドケーキを製造販売する熊本市の就労支援施設「ワークセンターやまびこ」のランチタイム。上野修一理事長(82)は無邪気に昼食をほおばる利用者らの姿に目を細めたが、不安も口にした。「有事になれば『役に立たない』と真っ先に差別されるのは障害者だ」

 昨年4月の熊本地震では「有事」の一端が垣間見えた。地震後、障害者のいる家族を訪ね回ると、家財道具が散乱し、ライフラインが途絶えたままの家屋で暮らし続けるケースが少なくなかった。「周りに迷惑をかけられないから」。避難所生活をためらっていた。

 「戦争になれば障害者はなおさら厳しい立場に置かれるだろう」。上野さんは史実を一つ胸に刻んでいる。太平洋戦争末期、東京の精神科病院で障害者の餓死が相次ぎ、患者の過半数の480人が死亡した。食糧難で食べ物が健常者に優先されたゆえの悲劇だった。

 2014年7月に集団的自衛権の行使容認が閣議決定されると、翌月に熊本県内の障害者施設職員らと護憲団体「くまもと・障害者9条の会」を結成した。上野さんは、憲法9条で日米の軍事一体化に歯止めをかけてきた防衛政策が「瀬戸際に立たされている」と懸念する。「軍事力を強化すれば緊張を高め、平和から遠ざかるだけだ」

 福岡市の自営業、富山正樹さん(53)は、任期付きで自衛隊に入った20代の息子が心配だ。自衛隊の任務拡大を図る安全保障関連法案が衆議院を通過した15年7月、法案廃止を訴える街頭活動を手探りで始めた。いつしか学生や主婦が賛同し、一時は約60人で駅前などで声を張り上げた。

 しかし、同年9月の法案成立後は「まだやってるの?」という通行人の視線を感じた。活動は自然消滅した。

 昨年、息子から任期の延長を告げられた。就職活動で苦しみ、自衛隊がようやく見つけた居場所だというのはよく分かる。だが、つい感情的になり「これから自衛隊は人を殺すかもしれんよ」と声を荒らげると、息子は「言い過ぎや」と怒り、口をきかなくなった。

 改憲を進める安倍政権は隊員が直面するリスクを語らない。それでも、護憲派が軍事に頼らずに平和を守る具体的な道筋を示せない限り、今後も自衛隊の任務拡大に歯止めはかけられないだろう。富山さんは衆院選での憲法論議の深まりに望みを懸ける。「リベラルは逃げないでほしい。息子のためにも」(この連載は比嘉洋、宮城裕也、井上卓也、松田栄二郎が担当しました)

 

解散総選挙の理由は「疑惑隠し」だけではない

 安倍首相が28日招集の臨時国会で衆議院を解散する可能性が高まっている。いわゆる冒頭解散だ。政府与党は、衆議院選挙について来月10月公示、22日投票の日程で調整しているという。

 

 確かに、自民党にとって今はチャンスである。安倍内閣支持率は、ここへ来て危険水域とされる30%を脱した。産経新聞とFNNが16、17両日に実施した世論調査での支持率は、50.3%まで回復した。読売新聞の調査では50%、日経新聞・テレビ東京は46%、朝日新聞は38%、毎日新聞は39%だ。

 さらに、今は野党が弱体化している。特に民進党は、次から次へと離党者が相次いでいて、まとまりようがない。山尾志桜里議員のスキャンダルも痛手になった。

 政治団体である「日本ファーストの会」も、まだ具体的な体制が整っていない。代表を務める若狭勝氏と細野豪志氏、小池百合子東京都知事はどのように連携していくのか。28日の臨時国会招集前には新党を結成すると言っているが、どうなるのか。

 野党がバラバラになっている今、安倍首相は「チャンスだ」と判断したのだろう。

 これに対し、野党や新聞、テレビは「全く大義のない解散」と非常に手厳しく批判している。共産党の小池晃書記局長は、衆議院解散について「安倍首相は仕事人内閣とか仕事師内閣とか言っているが、本当に『仕事しないかく』になっているんじゃないか」と主張した。

 さらに野党は、「これは森友・加計の疑惑隠しだ」と指摘している。臨時国会が始まれば、当然、森友・加計問題について野党から厳しく追及される。「その前に解散するのは、無責任そのものではないか」と民進党の前原誠司代表は強調した。

 共産党の志位和夫委員長は、「冒頭解散は、究極の党利党略、権力の私物化であり、憲法違反の暴挙だ」と痛烈に批判した。非常に厳しい言葉である。

 確かにそういう問題は多々ある。しかし、安倍首相が早々に解散する理由は、「今がチャンス」だけではないと僕は思う。

なぜ訪米後の意思決定なのか

 安倍首相は訪米直前の18日、衆議院の解散・総選挙について「帰国後に判断する」と述べた。

 これは一体、どういうことか。僕は、安倍首相はトランプ大統領の「本音」を確かめているのではないかと考えている。

 本音とは何か。

 ニッキー・ヘイリー米国連大使は、「北朝鮮は戦争を求めている。あらゆる外交努力を尽くすが、米国の忍耐にも限界がある」と発言した。さらにマティス米国防長官は、「韓国の首都ソウルを重大な危険にさらさずに北朝鮮に軍事力を行使する選択肢がある」と述べている。

 つまり米国は、北朝鮮への武力行使について本気で考え始めているのではないか。安倍首相も同様の疑いを抱いている。もし、米国の武力行使が現実となれば、韓国や日本にも被害が及ぶ可能性がある。これだけは避けなければならない。

 14日、トランプ大統領は、11月に日本、中国、韓国などを訪問する意向を明らかにした。中でも目玉となるのは、中国でのトランプ・習近平会談だ。米国は、この時までは武力行使に踏み切ることはないだろう。やるとすれば、12月以降だ。

 そこで安倍首相は、今回の訪米で、トランプ大統領に「武力行使を本気でやろうとしているのか」を確かめようとしているのではないか。

 もし、12月以降に武力行使の可能性があれば、有事の前に解散し、選挙をして体制を整えなければならない。安倍首相はそのように考えているのではないだろうか。

 自民党の萩生田光一幹事長代行は、「北朝鮮の脅威とどう向き合うかも含めて国民に説明する必要がある」と述べているが、これは米国による武力行使の意味も含まれている。

 逆に言えば、武力行使の恐れがないと判断すれば、選挙をしない可能性もある。

 

 

https://dot.asahi.com/wa/2017092800033.html

「森友&加計疑惑隠し解散」のツケ

 安倍首相の解散総選挙の本当の動機は何だったのか。

 やはり土俵際まで追い詰められた森友・加計疑惑からの〝逃亡〟だろう。

 森友学園問題では、大阪地検特捜部が9月11日に籠池泰典被告を詐欺罪などで起訴。一方で、籠池被告と財務省の職員が事前に国有地の「値引き交渉」をしていたことを示す音声データの存在も明らかとなり、財務省側にも背任容疑の捜査が及ぶとみられていた。

 22日には、財務省が国有地売却問題に関する電子データを完全消去するはずだった作業を止めていることがわかった。まさに捜査が本格化しようというこのタイミングでの選挙は、何を意味するのか。元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士がこう語る。

「検察は最初から財務省側を起訴するつもりはないが、さすがに世論の激しい反発が予想されるので、籠池氏側を悪党に仕立て、財務省側を被害者的に位置づけて不起訴を正当化しようとするつもりなのではないか。不起訴公表も総選挙後であれば、騒ぎもすぐに収まると思っているのでしょう」 一方の加計学園疑惑も、10月末に延期された学部設置認可の判断を前に、学園側に不利な情報が続出していたところだった。

 

 愛媛県今治市に建設予定だった岡山理科大学獣医学部の校舎の設計図には、なぜかワインセラーを備えた「パーティー会場」が描かれていたり、鳥インフルエンザなどの研究に必要な施設の安全対策が不十分との指摘があったりと問題点が続出。市や県の補助金が投入される建築費の坪単価が、同様の施設と比べて高すぎるとの疑惑も浮上した。

 今治市で加計学園問題を追及している「今治加計獣医学部問題を考える会」の黒川敦彦共同代表がこう語る。

「地元の愛媛2区には民進党は候補者すら立てられず、加計学園問題を争点化することすら難しい情勢。ここは市民が頑張るしかない。今後、建築単価の水増し問題で加計学園と安倍首相を刑事告発することを考えています」

(本誌取材班=小泉耕平)

週刊朝日 2017年10月6日号

 

 

記事田中龍作2017年09月23日 20:17  http://blogos.com/article/247958/

【今治発】「加計隠し解散は許さない」疑惑の本丸に市民がデモかける

 加計疑惑の震源地である今治。「かけかくしかいさんは許さない」。市民たちがきょう、獣医学部の建設現場にデモをかけた。

 森友問題を闇から外に出した豊中市議会の木村真議員、安倍政権にとって最も不都合な男である山本太郎参院議員が、今治に駆け付けた。

 地元今治はもとより東京、愛知、山口からも参加者があった。

 加計幹部を聴取した市議会の特別委員会で、市民が「インターネット中継させて下さい」と要望しただけなのに、委員長が「警察を呼びますよ」と言い、本当に警察が来る。今治市は超保守的な土地柄だ。

 警察の厳しい規制で、逮捕者が出るのではないかと心配したが、デモは穏やかに行われた。

 今治市は財政事情が厳しいにもかかわらず、アベ友学園に37億円相当の市有地を無償でくれてやり、建設費の半分にあたる96億円を愛媛県と共に負担する。

 誘致の決定過程も不透明で、加計学園自体が問題だらけだ。解散総選挙と共にウヤムヤにされたのでは、今治市民はたまったものではない。

 怒りのデモは2部制となった。1部に参加した山本議員は「獣医学部は今治市民の将来を食いつぶす。ここが加計解散の本丸だ。この声をどこかのタイミングで安倍さんにぶつけたい」と政権追及に意気込む。

 豊中市議会の木村真議員は、ユーモラスな大阪弁の中にも怒りをにじませた ―

 「値引きを持ち掛ける近畿財務局の音声データも出てきて『これは逃げられんやろ』と思っていたら、冒頭解散。アベシンゾー、ふざけんな。北朝鮮で煽り立てるのもいい加減にせい・・・』

 今治市片山の主婦(70代)は足腰が不自由なため、杖をつきながらデモコースを歩いた。

 「獣医学部で今治が発展するはずがない。市長や市議会は市民の声を聞いていない。子供たちが『今治に住んでいて良かった』という市にせなアカン」。彼女は肩で息をしながら切々と語った。

 震源地の怒りが総選挙投票日までに日本全土に広がれば、安倍政権は音を立てて倒れる。

 

 


誰が首相になっても、総選挙後に必ず起こる「2つの重大な出来事」 『知ってはいけない』著者の警告

2017年10月14日 20時09分49秒 | Weblog

★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK233 > 623.html  
http://www.asyura2.com/17/senkyo233/msg/623.html
投稿者 赤かぶ 日時 2017 年 10 月 08 日 15:50:05:

誰が首相になっても、総選挙後に必ず起こる「2つの重大な出来事」 『知ってはいけない』著者の警告
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53127
2017.10.08 矢部 宏治 現代ビジネス


<自民・公明><希望・維新><立憲民主・共産・社民>という、「3極」の構図で争うことになったと報道される今度の総選挙。しかしどのような経緯をたどるにせよ、選挙後に私たちの目の前に姿を表すのは、<自民・公明・希望・維新>による巨大な保守連合体制である可能性が極めて高い。その結果、どんな事態が想定されるのか。

「これから日本は非常に厳しい時代に入っていくが、たったひとつのことだけ守っていれば、充分に逆転のチャンスはある」――こう指摘するのは、ベストセラー『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』の著者・矢部宏治氏である。「戦後日本」最大の曲がり角に直面したいま、私たちが考えておくべきこととは。

あまりにも奇怪だった「前原民進党・解党事件」

最近、本のPRをかねて、ラジオやネット番組にいくつか出演した。すると各番組のディレクターたちが、みな口をそろえて同じことを聞いてくるのである。

「矢部さん、いまいったい何が起きてるんですか? まったくわけがわからないんですが」

もちろん、前原誠司代表が9月28日に起こした「民進党・解党事件」のことである。長い日本の戦後政治においても、これほど奇怪な事件はあまり見つからないだろう。なにしろ、豊富な資金と全国組織をもつ野党第一党の党首が、事実上独断で、

① 目前に迫った衆議院選挙での、自党の候補者の公認をすべて取り消し、
② できたばかりの小規模政党(希望の党)の党首(小池百合子氏)に、その候補者たちを自由に「選別」する権利を与え、
③ 事実上、党を消滅させてしまったにもかかわらず、自分は100億円以上の政党助成金の分配権を握ったまま、代表の座にとどまり続ける

ということを突然決めてしまったのだから。

この出来事を、たとえば国外のメディアや知人に向けて合理的に説明できる人が、はたしてどれほどいるだろうか。

「野田民主党・自爆解散事件」との共通点

けれども実を言えば、私自身はあまり驚かなかった。なぜならいまから5年前、民進党の前身である民主党のなかで、同じくらい奇怪な事件が起こったことをよく記憶していたからだ。それは2012年11月に、当時の野田佳彦首相が起こした「民主党・自爆解散事件」である。もう昔のことなので、忘れている人も多いと思うが、これは簡単に言えば、

① 当時、政権公約と真逆の政策(消費税増税)を「命をかけてやりとげる」と公言していた野田首相が、
② 自党の選挙準備がまったく整わない状況のなか※、野党の党首(安倍晋三・自民党総裁)との国会討論中突然解散に合意し、わずか2日後(11月16日)には本当に衆議院を解散して、230議席から57議席へという壊滅的な敗北を喫してしまった
③ そして政権を失ったにもかかわらず、野田氏はその後、政界から引退も離党もせず、そのまま党の実力者でありつづけた

という、きわめて不可解な事件である。そしてこの事件は、

○ 突然決まった衆議院選挙の混乱のなかで、
○ 最高責任者が意図的に党を壊滅させるような行動をしたにもかかわらず、
○ その後、議員辞職もせずに党内にとどまり、実力者としての地位を維持しつづけた

という点において、前述の「前原民進党・解党事件」と完全な相似形をなしている。


※註 この自爆解散事件の直前には、鳩山由紀夫元首相や、すでに離党していた小沢一郎元幹事長に対して、「いまは絶対に解散しない」という野田首相からのメッセージが民主党の主要幹部を介して伝えられていた。だからこそ、あの「ヤラセの党首討論」(=そこで突然解散が決まったというフィクション)が必要だったわけである。



2つの奇怪な事件は、なぜ起きたのか

ではこの2つの奇怪な事件は、いったいなぜ起きたのか。その理由については、私などよりもはるかにわかりやすく、しかも簡潔に説明している人物が存在する。元航空自衛隊のトップ(幕僚長)であり、対中国強硬派、核武装論者としても知られる右派の論客、田母神俊雄氏である。

彼は「前原民進党・解党事件」が起こった直後、自分のツイッターでこう述べている。

「希望の党ができて民進党は解散になる。小池さんも前原さんも、日本の左翼つぶしに是非とも頑張ってほしい。右と左の二大政党では、国がつねに不安定だ。保守の二大政党制になってこそ、安定した政治になる。〔現在の〕日本のおかれた状況で、憲法改正に反対しているような政治家には、国民生活を任せることはできない」(2017年10月1日、下線筆者=強調文字)

実にわかりやすい「解説」ではないか。つまり、安全保障の問題から左派(リベラル派)の影響力を完全に排除する――。それこそが今回の「前原民進党・解党事件」と、5年前の「野田民主党・自爆解散事件」のウラ側にあった本当の目的であり、グランド・デザインだったというわけだ。実際、この2度の自爆選挙によって、かつて旧民主党政権に結集したいわゆるリベラル派勢力は、ほとんど消滅寸前まで追い込まれてしまった。

「最悪の愚作」

そうした異常な行動を生みだした背景については、理解できないこともない。私が『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』で指摘したように、安保条約や地位協定にもとづく戦後の日米間の法的な関係は、独立の直前(1950年6月)に起こった朝鮮戦争のなかで生まれた「米軍への絶対従属体制」、いわゆる「朝鮮戦争レジーム」であり、そのなかで日本政府は米軍からの要求に対して、基本的に拒否する権利をもたないというつらい現実があるからだ。

けれども、そうした米軍支配の構造のなかで、反対勢力を非民主主義的な手段で壊滅させるのは、これ以上ないほど愚かな行為である。なぜなら日本の戦後政治には、ながらく、

① 自民党・右派          (安保賛成・改憲)
② 自民党・リベラル派(保守本流) (安保賛成・護憲
③ 社会党他の革新政党       (安保反対・護憲

という3つのグループが、それぞれ約3分の1ずつの議席をもつという構造のなかで、①と②が安保体制を維持しながらも、あまりにひどい要求に対しては、②と③があうんの呼吸で連携して、それを拒否するという政治的な知恵が存在したからである。

けれどもいま、この②と③の勢力の多くが、一度民主党(民進党)に集められたのち、野田・前原の2度の自爆選挙によって壊滅しようとしている。その結果、訪れるのは、「朝鮮戦争レジーム」の最終形態である「100パーセントの軍事従属体制」に他ならない。

枝野幸男氏が新たに立ち上げた立憲民主党をはじめ、選挙を戦うリベラル系の候補のみなさんに対しては心からのエールを送りたいと思うが、今回どのような選挙結果が出たとしても、選挙後に姿を表すのは、巨大な「自民・公明・希望・維新」による保守連合体制であり、その最終的な目的は、軍事問題についての「野党の消滅」または「大政翼賛体制の成立」なのである。

選挙後に必ず起こる2つのこと

では、具体的に、これから何が起こるのか。選挙後に誕生する巨大な保守連合の、新たな目標として設定されているのは、まちがいなく、

① 全自衛隊基地の米軍使用
② 核兵器の陸上配備

の2つである。いずれも以前からアメリカの軍産複合体のシンクタンクで、集団的自衛権とともに日本の課題とされてきたテーマだからだ。

今回の選挙結果がどうであれ、日本の首相に選ばれた人物には、この2つの課題を早急に実現せよという強烈な圧力がかかることになる。そのときわれわれ一般人は、いったいどう考え、行動していけばいいのか。その手がかりとなる情報を、以下、簡単にスケッチしておきたい。

「自衛隊基地の米軍使用」については、多くの人が知らないだけで、すでに進行中の現実である。たとえば下の図のように、現在、富士山の北側と東側には広大な自衛隊基地(富士演習場)が存在する。ところが現実には、これらはすべて事実上の米軍基地なのである。

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富士演習場の地図 (「赤旗」2013年8月26日)

http://www.asyura.us/imgup/img10/555.png 

富士演習場で実弾射撃訓練を行なう米軍(米海兵隊HP)

 

というのも、この広大な自衛隊基地は、当初は米軍基地だったものが、1950年代から60年代にかけて日本に返還されたことになっているのだが、なんとそのウラ側では、日米合同委員会での密約によって、米軍が「年間270日間の優先使用」をする権利が合意されているのである。年間270日、つまり1年の4分の3は優先使用できるのだから、これはどう考えても事実上の米軍基地なのだ。

普天間は一度日本へ返還後、また米軍基地になる?

なぜアメリカの軍産複合体がこうした「自衛隊基地の米軍使用」を、今後すべての基地に対して拡大しようとしているかと言えば、その理由は簡単だ。

① 「自衛隊基地」という隠れ蓑によって、基地の運用経費をすべて日本側に負担させることができる。
②「米軍基地」への反対運動を消滅させることができる。
③ 今後海外での戦争で自衛隊を指揮するための、合同軍事演習を常時行なうことができる。

米軍側にとって、いいことづくめなのである。

この「自衛隊基地の米軍使用」計画について考えるたび、私は非常に不吉な予感におそわれる。なぜなら現在、日本への返還が正式に決定していながら、そこで勤務する米軍の上級将校たちが、「いや、オレたちはここから出ていく予定はない」といっている、不思議な米軍基地がひとつあるからだ。

沖縄の普天間基地である。

これからやってくる「大政翼賛体制」のもとで、一度日本に返還された米軍・普天間基地が、民間利用ではなく自衛隊基地となり、さらには現在の地位協定と密約の組み合わせによって、事実上の米軍基地となる可能性は非常に高いと私は思う。

もし本当にそんな事態が起きたとき、われわれ本土の人間が沖縄と一緒になって、「そこまでバカにするのか!」と、真剣に怒ることができるのか。そうした事態についても、あらかじめ想定して準備しておく必要があるのである。

「核兵器の本質」とは?

そしてここからが、もっとも重要な問題だ。戦後日本の「国体」ともいえる「朝鮮戦争レジーム」は、いま最終局面を迎えている。このまま半永久的に続いてしまうのか。それとも解消へと向かうのか。実はこれまで、絶対に揺るがないように見えていたその体制が、終わりを告げる可能性が出てきているのだ。

そのことについて説明する前に、読者のみなさんには、ひとつだけおぼえておいてほしいことがある。それは「核兵器の本質」が、「置いた国と置いた国のあいだで撃ち合いの関係になる」ということだ。そして一発でも撃ち合えばその被害があまりにも大きいため、両者の間には「恐怖の均衡」が成立する。

アメリカとロシア・中国の間には、すでにこの「恐怖の均衡」が成立しており、両者が直接戦争する可能性が消滅して久しい。そしてさらにいま、少し前まで誰も予想しなかったことだが、北朝鮮とアメリカの間にも、この「恐怖の均衡」が成立(※)しつつあるのである。


※註 北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の急速な発展の背後には、ロシアからの技術流出(または技術協力)の存在が確実視されており、現在でも精度はともかくとして、距離的にはアメリカ本土に届く可能性が高いと考えられている。



バノンが明かしたアメリカ政府の本音

米軍にすっかり支配された日本の言論空間のなかでは、決して語られることのない多くの事実がある。「朝鮮戦争レジーム」の根幹である北朝鮮問題については、とくにその傾向が強い。だからわれわれ日本人の常識は、世界の常識とまったく違ってしまっているのだ。

その証拠に、たとえば今年の8月、トランプ政権の本音をバラしすぎて解任された、トランプ大統領の側近中の側近、スティーブン・バノン首席戦略官の問題の発言を見てみよう(いずれも2017年8月16日のニュースサイト「アメリカン・プロスペクト」より)。

「北朝鮮問題に軍事的解決などない。まったくない。開戦30分でソウルの市民1000万人が通常兵器で死亡するという問題を、少しでも解決しないかぎり、(軍事的解決など)意味不明だ」

これはアメリカの本音というよりも、世界の常識だと言えるだろう。1994年の第一次核危機で、「韓国側に50万人の死者が出る」という予測が出たために、北朝鮮への軍事攻撃を思いとどまったアメリカが、どうしていま、本格的な核の撃ち合いなど容認することができるだろう。トランプも、もちろん本当はそのことをよくわかっている。

メルケル首相やプーチン大統領が「北朝鮮問題に軍事的解決などない」とくり返し警告しているのは、トランプや金正恩に対してというよりも、むしろ自分たちが一番危険であるにもかかわらず、なぜか声高に強攻策を主張しつづける、理解不能な日本の首相へのメッセージなのである。

「中国が北朝鮮の核開発を凍結させ、きちんとした査察を受けさせるなら、米軍を朝鮮半島から撤退させるという交渉もありえる。もっとも、かなり先の話になるだろうが」

バノンのこの発言も、多くの日本人にとっては非常に意外かもしれない。米軍が日本や韓国から撤退することなど、絶対にありえないとほとんどの人が考えているからだ。

しかし国際的な常識からいえば、このバノンの発言は、ごく当然の話なのである。朝鮮戦争(※)を北朝鮮とともに戦った中国軍は、すでに1968年には朝鮮半島から完全に撤退している。休戦から64年もたつのだから、米軍も撤退するのが本来は当たり前なのである。


※註 このときの米軍は、国連安保理で「国連軍旗の使用」などを認められていたため「朝鮮国連軍」とよばれることもあるが、軍の指揮権は完全に米軍司令官がもっており、国連はいっさいそれに関与できなかったため、その実態が米軍であることは明らかである。



日本の未来を切り開くために

こうして生まれた新しい状況のなかで、私たち日本人が今後注意しておくべきことは、たったひとつしかない。それは総選挙後に始まる安全保障の議論のなかで、「核兵器の地上への配備だけは絶対に認めてはならない」ということである。

これから米軍、とくに日本と韓国に軍をおく米太平洋軍は、日韓両国に核兵器を地上配備させようと猛烈なプレッシャーをかけてくるだろう。もしもその圧力や巧妙な説得に負けて、日本と韓国が何百発、何千発もの核兵器を地上配備してしまえば、北朝鮮の攻撃対象は当然、日本と韓国へと向く。その結果、北朝鮮とアメリカの間の「恐怖の均衡」は崩れ、アメリカ本土は安全を回復する。結果として韓国からの米軍撤退の可能性も消え、日本における「朝鮮戦争レジーム」も永遠に続くことになるわけだ。

誰だって、自分が核攻撃の標的になどにはなりたくない。しかも日本は世界で唯一の被爆国なのだ。核兵器の地上配備など、認めるわけがないだろう。多くの人がそう思うかもしれない。

しかしそこには大きな落とし穴が隠されているのだ。というのも今後、核兵器の地上への配備がおおやけに議論されるようになったとき、それがいくら公平な議論のように見えても、結論はすでに決まっているからだ。

それは、核を地上配備するのは、沖縄の嘉手納と辺野古の弾薬庫だということだ。

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 辺野古の新基地のすぐ隣にある弾薬庫地区。広大な敷地に写真のような台形の弾薬庫が40以上あり、最大1000発以上の核弾頭が貯蔵できるようになっている(撮影/須田慎太郎)

本当の平和国家になるために

私も6年前から本に書いているように、本土への復帰前は沖縄に、最大1300発もの核兵器が地上配備されていた。

そして嘉手納と辺野古には当時それぞれ数百発の核兵器が貯蔵されていた巨大な弾薬庫がいまもあって、さらにはそれを「将来必要になったらいつでも使えるように維持しておく」という密約まで結ばれているのだ(1969年の佐藤・ニクソンによる「核密約」)。黙っていれば、自然にそういう流れができてしまうことは確実だ。

けれどもこの沖縄への核兵器の地上配備だけは、本土の人間も一体となって、日本人全員で絶対に食い止めなければならない。

おそらく身勝手な本土の人間たちは、「沖縄なら自分は安全だ。核兵器だろうと何だろうと、配備すればいいじゃないか。オレには関係ない」と考えるかもしれない。ところが、そうはいかない。

ここが問題の本質なのだが、北朝鮮対策という名目で沖縄に核が配備されたとき、それは自動的に、中国との間で核の撃ち合いの関係を生み出してしまう「恐怖の均衡」が成立するのである。そしていうまでもなく、中国のもつ核兵器は、日本列島全体を瞬時に壊滅させるだけの威力をもっている。

今回の「前原民進党・解党事件」でもよくたとえに登場した、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の教訓を思い出してほしい。「オレだけが助かればいい。ほかの奴らは地獄に落ちてもかまわない」と思った瞬間、われわれ日本人はみな、一体となって地獄へ落ちていくことになる。

同じように核兵器の配備について「沖縄ならいいか」と思った瞬間、「核大国・中国との間での、永遠につづく軍事的対立」=「永遠の朝鮮戦争レジーム」という、最悪の結果がそこには待ち受けているのだ。

けれども逆に、核の地上配備を沖縄と連帯する形で、日本人全体で拒否することができれば、北朝鮮とアメリカの間で「恐怖の均衡」が成立し、バノンが予言していたとおり、やがて北朝鮮の核開発の凍結とひきかえに、米軍は朝鮮半島から撤退し、日本の朝鮮戦争レジームも終わりを告げることになるだろう。

われわれ日本人が望んでやまない「みずからが主権をもち、憲法によって国民の人権が守られる、本当の平和国家としての日本」という輝ける未来は、その先に訪れることになるのである。