Brexitのディールがどうなるのかでゆれるイギリスですが、ひょっとして本当にきっちりした合意なしでEU離脱になるという経済界的には悪夢のシナリオもあり得る成り行きになってきた。
それでも離脱すべきだという人は別に減ってないというところがこの話の核心でもありますね。
イギリスは他人には経済こそすべて教を200年この方布教してまわったが、実は自分たちは主権に拘る人たちだったというオチこそ、最近の世界情勢を物語るキーかもしれない。
そこで、確かにイギリスは混乱しているしまだするのだが、ではEUが無事かというとそんなわけもない。イギリスはEU内の大国なのでここが減った分、予算にも影響する。
興味関心としては東方拡大のための様々な、うんざりするほどたくさんあったプロジェクトも予算カットが見込まれるらしいというあたり。
これがNATOの東方拡大と同じ軌道なわけですね。経済を建てなおしましょう、人権がどうしたこうしたというソフト方面をEUが担い、EUに入ったからにはNATOだからねと軍事方面の米英が入りこんで、あっという間に国の主権を失うというのがいわばEU/NATO侵略モデル。
そのモデルは方向性を持ち、東方に侵略行動をしているのだと広く人々が知るようになったのは2008年のグルジアでの短い戦争だったと思う。思えばあの時、アメリカのパット・ブキャナンが当時できたてのロシアRTに出て、大騒ぎをしていたのが懐かしい。また、イギリスの右派も、なんでグルジアが北大西洋の同盟に入らないとならないんだ、やりすぎだと憤慨し始めたことも思い出される。
■ 邪悪と憎悪をまき散らす人々との闘い
というわけで2011年ごろから2014年の、シリア、リビア、ウクライナ、シリアという一連の出来事が来て、2015年9月28日のプーチンの国連演説、ロシア軍の軍事介入が続き、今に至る。
国連総会70: プーチンのスピーチ
こうやって眺めてみればずっと、強硬な人々 vs この組み方は不幸な帰結をもたらすからやめるべきだ派が暗闘を繰り返していたということなんだと思う。
そして、プーチンは9月28日演説の中で、イスラム国を倒す試みを、かつてのナチに対するもののように描き、ナチを、「人間の邪悪さと憎悪」をまき散らす人たちとたとえてる。
just like the Nazis, sow evil and hatred of humankind.
これは、問題はドイツ人なんじゃない、ナチなんだというソ連以来の解釈を踏襲しているし、それは実際そうなんだろうと思いますね。
さらに、そこに続けて、イスラム諸国のリーダーたちの役割は大事だ、イスラム国はイスラム教を曲解して、そしてイスラム諸国の若者がリクルートされている、そこをなんとか防ぐためにはリーダーたちが大事でしょ、とも言ってる。
で、再々書いてますが、ナチ関連の話題がここ数年いろいろ出て来るのは偶然ではないわけですね。主にアメリカ、カナダで「囲われてた」、過去に邪悪な行動に使われていたグループが表面に出てきているからこそ、ナチ関連の話が出て来る。
「西側ではナチズムが生きている」カナダ編
イスラムのリーダーたちとロシアが表だって対話機会を増やし、会合を設定することで引き上げているのも重要な動き。(西側はイラン、トルコみたいな大国を大国扱いしない)
そして、トルコが様々な局面で、実のところ、とても正直というか、勇気があるというか、とんでもないというか、物凄く面白いことを言いまくってるしやりまくってる。トルコの国会議員なんか、テレビでこんなことを言っちゃう。
「NATOは常にトルコにおいて汚い、血塗られた行動をしてきました。1960年の軍事クーデターはイギリスが仕掛けたものですし、1971年のクーデターはCIAが、1980年のそれはNATOが仕掛けました。」
宴の始末-II (1): 「NATOはテロ組織をひろげてる」by トルコの国会議員
さらに、ナチとの関連で実は非常に強い影響があったであろう一つの勢力にも果敢にいどんでる。
正教会&カトリック教会
実はこの関係が最も大きな地殻変動のようにもみえる。でもまぁ、静かにやるんだろうが。
NATOとカトリックの勢力拡大の方向が一緒ってどういうことですかって話ですよ。
■ 邪悪集団と一般人の闘いは多分難しい
で、並べてみて思うのは、CIAと後のNATOって、自分で組織を作ることもあるだろうけど、各地の既存の邪悪ネットワークを買ったり、取り込んだりしていって収集つかなくなってたりするんだろうな、みたいなこと。
ウクライナの現状が良い例だけど、一体全体、どういう頭だったら、ナチズムを焦げ付かせたみたいな手ひどい暴力集団のバンデラ主義者をいまさら顕彰して政治に使おうという気になるの???
もう信じられないほど酷い。
しかし、アレッポ陥落の時に、イギリスのジャーナリストや外交官の一部が、ジハード主義者に脅かされるから、ついついそっちに流れてしまって・・・みたいなことを言っていたことがあったけど、そういう具合なんだろうと思うんですよね。つまり、ジャーナリストだって一般人なんだから、日常に現れる暴力が怖いわけですよ。
だから、戦えるのは結局、もっと強い集団、つまりKGB後継とかGRUとか、あるいはトルコ諜報、イラン諜報 etc.とかいう人たちになっちゃうんだろうな、などと思う。
アメリカの動きの一部はロシア諜報に支えられてる、と誰かが言い出しても私はまったく驚かない。逆だってあると思う。
しかし、そういうことを聞きつけると、主権が~とか、ヒューミントが~とかスパイが~とかいう幼稚な人たちが書き物のネタにしちゃうから困っちゃう、と。
で、思うに、どこの国でも、大方の政府関係者は「邪悪」に首までつかってはいないんだろうと思いますよ。どうしようもないと思っても、もし良い方向に行けると思うのならそっちを支持したい、と考えて行動している人は大勢いると思う。
■ 西ヨーロッパは揺れる
で、総合して考えるとヨーロッパ、特に西ヨーロッパはこれから大変だと思いますね。それは中国、南アジアの勃興による経済的主軸の移動に伴うものだけではなくて、ストーリーラインを自由に支配できなくなるからです。
歴史修正主義はけしからん、というのは様々な局面で、まぁそれはそうなんだけど、世界で最も歴史修正的なのはそもそも西ヨーロッパだと思う。
過去100年ぐらいかけて、西ヨーロッパ中心主義を言語上こさえてそれを世界の教育機関を通して「布教」していったわけだけど、その主たる意図はどこにあるかというと、東ローマ教会の影響の忘却と、そこと重なる現在のいわゆる中東地域の歴史性の忘却だと思うな。
その端緒は、ロシアを通すとわりとわかりやすい。例えばこれ。
ヨーロッパ1000年のロシア恐怖症
簡単にいえば、西ローマ教会(いわゆるカトリックとその派生のプロテスタント)は、一体だったキリスト教からのスピンオフなわけですよ。スピンオフして、フランク族の世俗統治と合体して大きくなっていった。その間、故地に残っていたのがオーソドックス、すなわち正統、すなわち正教会、すなわち東方教会ということ。
だから、ヨーロッパが持つキリスト教文明が、といった文を見たら、その時どこが中心だったかを考えてみないとならない。キリスト教が、という文言で記される数多くのことは、ギリシャの海域の目の前の東地中海にとどまった正教が、ギリシャ文明と融合しながら保存し、発展させてきたもの。そして、コンスタンチノープルは場所的にメソポタミア、イランと直接に影響しあう場所なので、東方の交易民からの示唆も受ける。つまり、ここらが文明ハイブリッド地域だったという話。
個人的には、東西の交易によって生まれるアイデアがビザンチンのやたらに形式ばった、ロジックばった(だって神学だから)入れ物の中で整理された、といった感じで理解するといいんじゃないかと思ってる。
そしてこの整理された学術、文明が、東ローマ帝国滅亡と共に西ヨーロッパに大量にもたらされ、それを受けて西ヨーロッパは「ルネサンス」する。
■ オマケ
EUが、経済的にはまったく不利益なのにギリシャを入れたことは、この修正史観の故だろうと思うわけですよ。
「我々」は、ギリシャ、ローマに基盤を置く西欧文明だ、みたいなことをよく言ってるでしょ。しかし、ギリシャ世界は海に向かって開かれ、その知恵は東の交易明との文明の交差の中で主に正教を通して生き延びたわけですよ。
オランダ人だのイギリス人だのドイツ人が「我々」だとしたら、それは話の半分でしかない。
また、フランスが主体となってリビアを潰したことも、地中海の意味を作り替えようとしているんじゃないとも思ってる。ここは、「我々」の海だと言いたいわけ。だからそういうことに乗らないガーダッフィ―みたいな人が邪魔なの。
邪魔だからと殺して話を書き替えても、それは文言上の真実であって、地上の事実ではない。
西側という宗教
西側という宗教 (2)
イギリス、アメリカは情報戦の上流にいる人たちですから、考える人が出やすい。これは絶対違う!みたいな人が簡単に出る。
対して、仏独あたりは100年前と異なり下流で情報を「受けてる」立場に立たされたことが、この鈍さにつながるんじゃないかと思ってみてます。
日本はそのさらに下流の植民地仕様で150年やってますから、当分どうしようもない。
万博が大阪に決まってしまいましたが、あれもロシア嫌いの国がまだ多いせいなのでしょうか。日本に比べると経済が発展途上なので伸び代がある分ロシア・アゼルバイジャンが有利と思っていたのですが。
カソリックの権力構造がバチカンを頂点とする厳格なヒエラルキーであるのに対し、正教は、地域ごとの融合体であって、ロシアといえどもバチカンのように正教全体を代表するものではい、というのは知りませんでした。この違いは大変大きいように思う。
そういえば、法王がその影響力を十分承知しながら、しばしば政治的発言をするのに対し、ロシア総主教がああ言った、こう言ったというのは聞いたことがない。
民主的という語が適切かはわかりませんが、法王というスーパーな地位がある方とない方、というのは実際とっても重要ですね。
正教会のリーダーからの発言を聞かないのは、私たちが「西」の世界に属しているからにすぎないでしょう。
イランのハメネイさんが重要なところで発言するように、ロシアのモスクワ総主教も発言します。それがどう届くかは受け手の自由だけど(国教ではないから)重要な示唆を投げかけてくれる役割になってると思います。