かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 290

2024-07-30 11:09:10 | 短歌の鑑賞
  2024年度版 渡辺松男研究36(16年3月実施)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)120頁~
     参加者:S・I、泉真帆、M・S、曽我亮子、船水映子、渡部慧子
     レポーター:鈴木 良明 司会とテープ起こし:泉 真帆

◆文中※印の(事前意見)は、鹿取が当日発言する為に事前にメモしていたもの
  ですが、当日急用で欠席したためレポートや当日発言とは対応していません。
     
290 ポケットベルに拘束さるるわれの目に鬱々として巨大春月

         (レポート)
 ポケットベルを配られる職場は、オフの日や休憩時間帯にも緊急の対応が迫られるセクション。九〇年代頃からこのような緊急連絡手段は必要な職場から徐々に広がり、今なら携帯やスマホでの対応が一般化している。本歌では、四月の人事異動で、当時にしては数少ないこのような職場に異動したのであろうか。常にポケベル(他人)に拘束されてオフの日にも気を抜けない作者の目には、おぼろ月夜も鬱陶しい「巨大春月」に映るのだ。(鈴木)


       (当日発言)
★朧月夜って、本当は人の心をなごませるような、ぼわ〜んとした感じのものなのに、
 怪物的な大きなものというか、襲われるようなそんな怖れのようなものを感じるほど
 巨大に見える、というように私は受け止めました。(M・S)
★面白いなーと思って。きっと人間っていろんなキャラクターがあるんでしょうね。仕
 事をしている人の厳しさみたいな、かなりカルチャーショックを受けて読みました。
   (船水)
★おそらく、夕方っていうのはお仕事を引けて、普通なら寛ぐ、家に帰って、そいうい
 う時間帯なんですね。本来ならその時間帯に見るお月様は、なぐさめであったり、情
 緒が豊かになるようなものであったりするんですけれども、なんかそんなふうには見
 えない。やはり鬱々としてしまう、巨大春月そいう表現でされていますね、そういう
 ところが上手いなと思いました。(S・I)
★私が前やったときの巨大な茶碗だったかな。(慧子)
★あー、渡辺巳作氏の巨大茶碗ですかね。(鈴木)
 「商工会会長渡辺巳作氏が巨大茶碗で茶を飲む朝」      
★ちょっと好きな言葉でしょうかねエ「巨大」っていうのは。(S・I)
★自分以外を巨大なものとされているんでしょうかねえ。(慧子)
★異質なものを巨大と捉えているんでしょうね。(S・I)
★自分を脅かすものとか。(船水)
★自分の自由を奪うものというか、拘束するというか。泉さんなんかどうなんですか?
 若いひとはこういう環境にないんですか今は。(鈴木)
★常に付け回されている、拘束されているような感じはありますけれど。(真帆)
★これ時代なんですよね。あのころはもうポケベルしかなかったんですよ。その前は何
 もなかったですね。(一同笑)だから安心していられたんですよ。ところがポケベル
 とか配られちゃうと、出勤しなくちゃいけない訳でしょう。今はもうこういうのは
 日常化してしまっているので、若い人は当たり前と思っているかもしれないけど、
 私達のころからなんか比べると、やってられないって感じですよね。それで残業は
 日常化していますから。役所でさえこうなって来たって、私も一応公務員だから同
 じ立場なんで良く分るんですよ。病んでしまいますよ。だからもういま本当に病気
 になる方も多いと思います。一億総活躍社会なんてカッコイイこと言ってますけど、
 ほんと、あんな言葉を言うこと自体ね…。(鈴木)
★ポケベルを配られる職場には二通りあって、上司が自分では対応できないからやると
 いうのと、それから職場自体がね、例えば病院とかそういう緊急を要する場所とか
 ね、二通りあるんですよ。おそらくこの場合はね、前の方じゃないかという感じが
 しますよね。後の方に出て来ますけれど、その上司とかの様子は。だからその余計
 「巨大春月」というのは、上司のね、もやもやとしたね、鬱陶しい影かもしれない
 んですよ。(鈴木)

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