かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 171

2022-11-14 11:58:52 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の23(2019年4月28日実施)
     Ⅲ【交通論】『泡宇宙の蛙』(1999年)P109~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、T・S、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


171 地に落ちて弾むどんぐりたのしいか一万人の交通事故死

       (レポート)
 どんぐりが地に累々と落ちているさまは、どんぐりの実のふっくらとした胴体や艶を帯びたさまから人間の死体をも思わせる。年間一万人もおこる交通事故死の原因はどこにあるのだろう。交通論に欠陥があるのではないか、作者はそう感じているのだろう。交通論の歌(交通論前方のみをかがやかせ国道は永久にあざむかぬとぞ)が一連の歌の最後に詠まれている。(真帆)


       (当日意見)
★「たのしいか」と「交通事故死」が相反するようで、どういうふうに解釈したらいいか迷います。
   (岡東)
★上手いですよね。一方で「たのしいか」「うん、たのしいよ」、そして片方で「一万人の交通事
 故死」、パンパンと置いている。置いているだけだけど深いですよね。どんぐりって年齢に関係
 なく愛らしくて人の心を動かせる。しかし片方で「一万人の交通事故死」がある。世の中ってそ
 ういうものが共存してあるんだよねって。ただ、たのしいかの「か」が難しい。たのしい「よ」
 ではないんですね。詠嘆の「か」ではなく、これ疑問ですよね。(A・K)
★反語?(真帆)
★楽しいか、いいや楽しくないだろう。反語ってあった?「か」は詠嘆と疑問でしょう。(A・K)
★いや、反語もあると思うけど、これを反語と解釈するときつすぎるでしょう。あくまでどんぐり
 は転がって楽しい。そこに軽い疑問が入って、転がったどんぐりは池にはまることも車にひかれ
 ることもある。さりげなく二つの事柄をつないでいる。(鹿取)
★技を感じる歌です。弾むの動詞も上手いし。上の句はひらがな、下の句は漢字で。ぽーんと投げ
 出すだけで余計な解釈を歌に入れない。それらの技を、いかにもやっていまと分からないように
 やっている。(A・K)
★天然で、できるんですね。(鹿取)
    

     (後日意見) 
 古語文法で助詞の「か」は二種類ある。①種々の語に付く係助詞…意味は「疑問」と「反語」。②体言、連体形などに付く終助詞…意味は「詠嘆」。この歌の意味からいくとやはり軽い疑問だろう。
   (鹿取)


コメント
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