被災地のがれきの広域処理が問題となっている。愛知県の大村知事は、中部電力やトヨタ自動車の敷地、名古屋港などの臨海部に新たに焼却施設や灰の埋立処分場を建設して、宮城県、岩手県のがれきを受け入れる構想を発表し、また県内の市町村に対し、がれきの焼却を受け入れる意向があるかどうかを調査している。
被災地に積み上げられたがれきは、一刻も早く片付けることが大切と私は思う。それは被災地の住民の心のケアといえるだろう。そう考えるならば、どのようにそれを実行するか、合理的で実際的なやり方を考えればよい。これは倫理の問題ではなく、たかだか技術と政策の問題である。
ただ、現状では、この課題の認識において、さまざまな混乱があるように思う。
まず、被災地のがれきの処理がなかなか進まないのは、広域処理が進まないからであるとする認識はまちがいだろう。そもそも広域処理で計画されているのは、全体の2割程度であり、8割をしめる地域内処理が進んでいないのが、がれき処理がなかなか進まない主な理由と考えるべきであろう。
また市町村ごとに事情は異なるようで、女川町や石巻市のように、がれきが片付かないと町の復興にとりかかれないような緊急性の高い所もあれば、比較的場所に余裕があるところもあるようだ。場所と時間に余裕があるならば、現地に中間処理施設、焼却施設、最終処分場を建設して処理する方が合理的である。地域の雇用も創出できる。このあたりは、現地に行って状況を見て話を聞いてみないと、何とも言えない。
もちろん、今回のがれき処理を難しくしているのは、それに福島第一原発から放出された放射性物質が含まれているからである。がれきを燃やした場合に、放射性物質は焼却炉の中で煙の方に入る分と、灰の方に入る分がある。煙に含まれるものが煙突から出て行ってしまうと、周囲に放射性物質をばらまいてしまう。これは決してあってはならない。また、灰には高濃度の放射性物質が含まれることになり、これをどう処分するかが問題となる。
環境省は、焼却炉のバグフィルターで放射性セシウムはすべて回収できるとしている。ただ、カタログ値、理想値としてはそうだとしても、実際の焼却炉の状況で本当に理想的な性能が発揮されているか、よくよく検証をすべきだと思う。実際の焼却炉に放射性でないセシウムを投入して、回収率を計測するなどの実験が必要だと思う。
がれきを焼却してその灰に放射性セシウムや放射性ストロンチウムが濃縮されるのは、環境にばらまかれた放射性物質を回収する手段としては有効だと私は思う。問題は灰の処分方法である。セシウムは土壌中にあるときは、粘土粒子や有機物に吸着されていて、なかなか水に溶け出して来ないけれども、焼却灰の中ではセシウム酸化物という形で入っていると思われるので、これは水に溶けやすい。
普通に灰を最終処分場に埋め立てると、浸透した雨水に溶け出して、処分場の排水に放射性セシウムが出てくると思われる。管理型最終処分場では、排水の処理をしているけれども、水に溶けたイオンを取り除くような設備は備わっておらず、現状では、そのまま河川に流れ出してしまう。
がれきを焼却するのならば、灰は、原発から排出される低レベル放射性廃棄物と同じく、ドラム缶に詰めるなどして、雨水や地下水に触れないよう保管するか、管理型処分場に埋め立てるならば、排水処理施設に、水に溶けているセシウムとストロンチウムを完璧に回収する設備を導入するというやり方だろう。
また、焼却せずに、がれきをそのまま埋め立てるというのも、ひとつのやり方だと思う。その場合は放射性セシウムを回収できないけれども、土を混ぜて埋め立て、その場所から放射性セシウムが動かないようにして時間の経過を待つというやり方である。
さて、次に広域処理の問題である。ここで問題をややこしくしていると思うのは、関東地方より東側では、がれき処理の話に行く前に、普通の廃棄物に放射性物質が含まれており、すでにその焼却灰に高濃度の放射性セシウムが検出されているということである。環境省は8000Bq/kgまでのものは普通に処分してよいとしているが、そのような灰を埋め立てた最終処分場の排水に放射性セシウムが検出されている。(那須塩原市の例: http://www.city.nasushiobara.lg.jp/2083/3501/002091.html http://www.city.nasushiobara.lg.jp/2083/3501/004032.html)
したがって上で述べたようなバグフィルターの性能の検証や、灰の処分方法の変更、排水処理の高度化などは、がれき処理の問題以前に、一般廃棄物、産業廃棄物の処理の課題として、早急に行われなければならない、ということである。これはたいへんなコストがかかることなので、事業者は「触れないようにしている」状況だと思われるが、がれきの広域処理の問題がこの課題をあぶり出した形である。
それらの対策が行われた上で、関東以東の地域において、岩手、宮城のがれきを受け入れるのは可能だし合理的だと思う。
一方、中部地方より西では、現状で廃棄物処理において顕著な放射性物質の混入はないと思われる。そこにわざわざ放射性物質が含まれたがれきを持ってきて処分しようとするのは、私にはその意図がよく理解できない。
愛知県の大村知事の構想では、灰の処分は、臨海部の埋立地で行うとのことである。これでは、灰に含まれる放射性セシウムが海に流出する危険性が高いと思う。また新たに焼却施設を建設するというのは、広域処理の概念に反する。つまり、新たに施設を建設するのならば、被災地に作るのがスジだろう。
ということで、現状で合理的で実際的なやり方は、以下のようなものであろう。まず、がれきを焼却せずに埋立ることができる場所があれば、そういうやり方を採用すべきだろう。焼却するのならば、バグフィルターの性能検証をやった上で、灰は管理型処分場に埋め立て、排水処理施設に水に溶けたセシウムとストロンチウムを回収する設備を導入することが必要と思う。まずは被災3県内での処理をすすめ、準備ができたところから関東地方にまで広げるということではないだろうか。
コメントありがとうございます。
ただ、怒ってもよいですが、
それを誰かにぶつけないでくださいね。
二つ前の記事もぜひいっしょに
ごらんください。
http://blog.goo.ne.jp/daizusensei/e/ab92ecb15c3f3e9a7414ff5e2091c064
東北被災地域の農産物を(放射能測定もろくに実施しないまま)買って食べて被災地の復興を応援しようという政府省庁、財界のキャンペーンと、やみくもに放射能汚染瓦礫を日本列島全域へ押し広げてしまおうという強引な施策は全く同じパターンでしかありませんね。
そして最後は全ての瓦礫と放射能を日本列島沿岸から暗黙の内に沿海へ捨て流してしまおうとしているに違いないと思われます。
本当にひど過ぎる話です。