今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

逢いたくて<永遠> 10 (小説)

2013-10-20 10:10:32 | 逢いたくて<永遠> (小説)


★愛、偽りの言葉、そして決意★

今、このベットに横たわる人間が現実の私なのか、そのことさえ理解出来ない精神が定かではない、そんな状態と全身の痛みは同時進行で、私をいたぶり続ける!

もうだいぶ前から、あの身体中が痛かったのは、こんな悪い物が私の体に棲みついたずらしていたからだったのかと思うと、今更ながら、つねに病弱な体だったから痛みや体調の悪さに慣れさせられていた?鈍感な自分が嫌になって来る・・・

あの衝撃を受けた告知を受けた時から、どの位の日々が過ぎたのか、相変わらず、私の体は、つねに点滴のチューブにがんじがらめになって生きていた。

はっきりしない意識の中で、ふと、純ちゃんは今どうしているのだろうかと考えて、私はうなされるように、突然、両親に問いただしたが、しばらくの間、ふたりは黙ったままだった。
そして、父と母は覚悟をして思いつめたように・・・

「純輔君、まだ、あの時のまま、両方とも眼は見えないんだ!」
「左目もまだ、視力は快復してないんだよ!」
「御医者さんは、もう、とっくに、左目は見えるはずだと言ってるけどね!」
「もう、眼の怪我は綺麗に治っているけれどね!」
「どうしてなのか、不思議な事だそうだよ!」

両親の話す言葉がだんだんと私の意識から遠のいて行く、ただ、純ちゃんの顔が浮かんで来た!
あの美しく、微笑んでくれた笑顔と私をあの凄いオーラエネルギーの渦の中に巻き込んでしまいそうな素敵さで・・・

時にみせる、うつむきの愁いを!
純ちゃんにしか存在しない、あの『潤んだ美しき瞳』

ただ、あの『美しき姿』を、私は今、はっきりと思い出していた。

その時、なんだか分からない感情と感覚で、自分の体が宙に浮かぶように軽くなったように、そして、何の痛みも無いようなそんな気がした。

私は無我夢中で、自分でベットから起き上がろうとしたがやはり力がなかった、そして母に手伝って貰い、車椅子に座った。

そして、とっさに、今、純ちゃんに逢いに行こう!母にすがるように言い、願い出た。

「純ちゃんに逢わせて!」
「純ちゃんに話さなくては!」
「きっと、眼は大丈夫だからと!」
「純ちゃんに伝えなくては!」
「私は純ちゃんの奥さんになるのだもの・・・」
「きっと、待ちくたびれているはずだから!」
「逢いに行かなくては・・・」
「伝えなくては、純ちゃんの眼は、大丈夫だと!」

私は全身の力で母に訴えるように言って、母とふたりで純ちゃんの部屋に急いだ!

病室の純ちゃんはひとりでぼんやりと何をするでもなく、見えない目で窓の外を見ていた、私はそっと純ちゃんに近づいて・・・

深く深呼吸して渾身の力をこめて、元気なふりして、純ちゃんに声をかけた!

「純ちゃん、お待たせ!」
「ずい分長く待たせて、ごめんなさい!」
「私、やっと外出が出来るようになったの!」

それだけ言って、純ちゃんの手を握って・・・

「本当は、ハグしたいけど!」
「ごめんなさい、今、ちょっと、飲んでる薬のせいでね!
「体が匂うから、ダメね!」
「純ちゃんが良くても、私が恥ずかしいからダメなの・・・」
「今日は、やめてね!」
「明日はきっと、大丈夫よ!」

そんな、出来るはずもない、当てのない約束を言ってしまった。

私の体は確かに薬焼けとでも言おうか、自分でも気になる嫌なにおいがする、けれど、もっと、辛いのは、私の体がげき痩せしている事を、純ちゃんに知られたくなかった。

本当に短い、純ちゃんとの母親同伴のデートだった、あまり、長い時間は、純ちゃんの感のよさで、私の変化を感づいてしまう事を避けた。

その帰りに、純ちゃんの担当医を尋ねて、純ちゃんの今後どのような治療が必要かを聞いて確かめてみた!

確かに、純ちゃんの左目はもう、完治しているので、事故のショック、精神的なもので、見えていないが、たぶん、右目の眼球移植をした時に、おそらくは、両目、同じように見えてくるだろうと言われて、私は、決心した!!!

『先生、この私の眼を、純ちゃんにあげてください!』
『私のこの眼は、まだ、がん細胞に侵されてはいません!』
『とても綺麗で視力も良い状態だと、保障されています!』
『今の私の状況から考えても!』
『不思議なくらい、なんの病気にも侵されてはいない!』
『とても綺麗な、眼だとドクターに言われています!』

純ちゃんの担当の眼科の医師は、一瞬、驚いたようだったが・・・
「落ち着いて!、落ち着いて!」と、言いながら・・・

まるで、慌てているのは、医師のほうだった。
「まあ~座ってください!」

もうその時には、私はすでにイスに座っていた。
そして、まだ、脊髄には奇跡的に転移していなかった事や私の今のがんの進行状況を話し、少しでも早く!おそらくは、近い内に、私は命の終りの時期が来る事を覚悟している!!!

だからせめて、この眼だけでも健康な内に、純ちゃんに移植して頂き、私の命が終わった後も、せめて眼だけでも生きたい!私は純ちゃんの体の中で生きて、この世界を見ていたい!!!

私は真剣だった!本気で純ちゃんに眼の移植手術をしたい事を話しても、眼科の医師は簡単には納得してくれなかった。

もちろん、私の両親も最初はとても驚き、反対だったけれど、何度も、何度も、私は倒れてしまうほど真剣な思いで両親に話して・・・

「もう私には残された時間がないの!」
「この方法しか、私は純ちゃんのこれまでの深い愛情に応える事が出来ない!」
「だから、パパもママも、私の気持ちを理解して!」

私は必死だった、純ちゃんに私の命を託したい想いがあった!
この方法が、すべてに、最良の事だと、私の決心は変えようが無い事だった!
私の意志の固さを知った両親と私の担当医が純ちゃんの担当医に状況を説明して・・・

「私の存在が消えてしまっても、私は純ちゃんの光の中に存在する!」
「純ちゃんと共に生きられると思えた!」
「私は死で終るのではなく永遠に純ちゃんの中で生きられる!」
「姿こそ消えても、純ちゃんの光になれる事が幸せだった!」
「こんな素晴らしくて、幸せな事は他にない!、私は揺るぎのない決意だと確信していた!」

私の周りにいる、ひとたちに分かって欲しい!
そう、説明する事しか出来ない!

もし、奇跡的に私の命が守られたとしても左の眼が生きたいと願いつづけ努力するだろうと、医師をまた両親に理解してもらった。

ただ、純ちゃんが事の真実を知った時のショックが大きい事は予想がついたので、両親にも、もちろん、医療関係者にも、純ちゃんには秘密にして貰う事を、硬く約束して頂き、私の眼を純ちゃんの右眼に移植手術される事が決定した。

私の体はもう、猶予のない!時間との勝負だった。
私は、がんの治療はもうだいぶ前にやめていた、ただ、痛み止めだけは使わずに入られなかった。

だから、眼に対しての副作用がとても気になるけれど、強い痛みには、耐える事が出来ない!

「そして、純ちゃんへの眼の移植手術は、突然のように、始まって、私の右眼は純ちゃんの中で、生き始めていた。」

私の中にある右眼は当然、義眼だけれど、今の医学技術は、本当に素晴らしい!誰が見ても、義眼だとは疑う人はいない!

私の日常はもう自力では動けない為に、見えるのが左目だけであっても、さほどの不都合はなかった。

私の眼のかわりをしてくれる母は今まで見たこともない気丈な人間に変わっていた。

常に私に付き添い、疲れを見せずに、看病してくれて、たいていは、私は何が欲しいのかを伝える前に気づいてくれる母だった。

だから、純ちゃんの手術が成功だった事も直ぐに伝えてくれたが、その後の経過を中々話してくれない事が、私は気がかりだった。

私は自分から尋ねる勇気がなかった、こんな私の眼では、純ちゃんに悪い事が起きてしまうのではないかと、不安な気持ちが広がって行く・・・

するともう止めようのない恐怖感が私を包んでしまう・・・
両親の元には、連絡が来ていた!

純ちゃんの移植手術は成功したが、まだ、視力は回復せず何も見えないままだと言う事だった。

カコの両親は、純ちゃんの眼の状態が見えないいままで変わらない!その事を伝える事が出来ない!、娘の自分の命をかけて実行した事が、まだ、何の成果も見られぬ!
とても、そんなふうには、話せない、父と母の苦悩する思いだった。

両親の心の隅には、まだ、カコの行為が認められない、純ちゃんへの眼の移植手術に違和感があったのは確かだった。

淡い願いだけれど、娘の身に奇跡が起きて、がん細胞が消える事があるかもしれないと期待していた。

そして、娘カコに残された時間は特別な存在によって何かをもたらせてくれるのではないかと願う、信仰心の持たない親であっても、見えない存在に祈りを捧げたとしても当然の思いだった。
たとえ、完治する事が出来なくても、ベットから起き上がれて、もう一度、笑顔を見せてくれて、そうだ!、昔のように、家族で旅行が出来るかも知れない!

そんな、虚しい夢を見ていたから、純ちゃんへの移植手術は、親としては認めたくない、娘は自分から命の灯を消してしまうような行為にしか受け取れずに、両親は苦しんでいた。

カコはその事も充分に承知している事だし、何度も話しても、親としては理解出来ないだろうけれど、私の気持ちを優先させてくれた!無謀とも思える事に同意してくれた両親の愛情の深さに感謝していた。

カコはもう、一日の殆どを、ベットに横になる生活の中で、夢ばかり見ていた。
いつも、同じような夢ばかりだった。

カコは夢の中で自分の姿を見ていた、何処かの草原を裸足で走っては、遠くで誰かが私を呼んでいる、そんな、同じような夢だった。

そして、草や小さな花からの夜露に濡れた足の冷たさでいつも目覚めては悲しみだけではない、言い知れぬ幸福な感情にもなっていた。
そんな日々のある日、夢なのか現実なのか!突然、純ちゃんは、私の前に現れてあの力強い腕で、私を抱き起こしてくれた!

「カコ、何をぐずぐずしているんだよ!」
「いつまでも、寝てばかりいてはダメだよ!」
「さあ~急いで支度してよ!」
「どうしても君と一緒にいきたいところがあるんだ!」
「やっと、カコを迎えに来れたよ!」
「本当にながく待たせてしまったね!」
「もう、大丈夫だよ!」
「僕は元気だからね!」
「今日はふたりの特別な日だね!」
「いつまでも、寝てばかりいたら、僕は・・・」
「僕はどうすればいい・・」
「そうだよ!、起きてくれないと、怒っちゃうからね!」

そう言って、私を着替えさせてくれて、抱きかかえて歩き出した!

純ちゃんは、とても元気で、眼もよく見えているようだった。
「カコ、実はね、今日は、僕が、ハリウッド映画に出演した映画!」

『遠い祖国』

そう、そうだよ!、「遠い祖国」の日本公開の初日なのだよ!
だから、僕とカコは一緒じゃなきゃにダメなのだよ!
ふたりが一緒に観れなくちゃ、カコも悲しいだろう、怒っちゃうだろう・・・

                       次回につづく


最新の画像もっと見る