今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

逢いたくて<永遠> 9 (小説)

2013-10-20 10:11:18 | 逢いたくて<永遠> (小説)


★迫りくる不幸★

三島さんは、人としての信頼感の持てるからいつのまにか周りの人たちを大好きにさせる名人です、殆どの人が、直ぐに好感を持って付き合いたくなる人、優しさと強さを持った女性なのです。

普段の生活では、ジョージ君はアンカレジに住んでいて、彼が時間が出来た時だけ、ここに来て母の手助けをしていた。

その自然な親子関係がとても素敵だったし、誰もが心地よい好感を持てる母と子の姿だった。

やっと、ジョージのお勧めのフィッシングポイントに着き、釣り糸を流し、何度と、サーモンは食いつくけれど、その度に、あっさり、逃げられてしまう!かなり、悔しくなって、純輔は、持ち前の負けん気をむくむくと、気持ちが荒くなってしまった!

この時点で、釣り人としては失格だったのでしょうね!

純輔は今までに、何の魚釣りも経験のない、全くの素人だった!

だから、最初は、ジョージがアドバイスを送る事に従っていた、けれども、何度もサーモンにだまされて、逃げられるとだんだん意地になっていらだって来る・・・

「今度、ヒットしたら、絶対に逃さぬぞ!」
「自分に気合を入れ、念じて!、肝に銘じた!」

そんな純輔の苛立つ姿を見て、ジョージはすこしポイントを変えてくれて!
「ここ、ナイス、ポイント!、」
「絶対ね!」
そう言って、ボートを停めた。

しばらくは、嘘だ!、何の魚の姿も見えないではないかと思った瞬間!
『私の体を大きく引きずられるように、強い感触の「引き」が感じた』

それと同時に、これは、大きいぞ!、もうこれ以上逃すものか!
私は身体中のエネルギーをひとつに集めて、「念力」をこめた!
ジョージが、大声で、アドバイスするが・・・

「引いて!」「ゆるめて」と何度も言いますが、もう、私の耳には届かない、いえ、何を言ってるのか、理解など出来ないし、理解しようと思わえなかった!

私の全体重をかけて、一本の釣り竿を握りしめ、絶対に逃さぬぞ!サーモンの逃げようとするエネルギーはすざましいものだった!

この釣りボートを私たち三人、高津さん、私、ジョージを乗せたまま引きずりながら、暴れ回る・・・もう、ただ、ただ、逃したくない!と、私は必死で、サーモンと大格闘した。

その時間は、一時間はゆうに越えただろうか、やっと、私の粘り勝ちの勝利だった。

サーモンの大きさは180cmの大物、巨大な、キングサーモンだった!

このサーモンは、純輔に釣り上げられた事がよほど、悔しかったのか、釣り上げられた瞬間に!!!

『私に、最後の抵抗をして、サーモンの体をピンク色に染めて!』
『そしては紅い血色の尾びれをおもいきり、私の顔に、一撃を与えて、こときれた』

その瞬間、私の右眼が、まるで、炎で焼かれるような、強烈な熱い痛さを感じて、失神して倒れこんでしまった。

「その瞬間、私は、すべての光が消えて、真っ暗な闇の世界に入ってしまった!」

純輔はその時、何が起きたのか自分が何をしたのか?どうなってしまったのか、何も覚えてはいない!、意識を取り戻した時、純輔は、アンカレジの病院の治療室のベットの上だった。

医師の診断の結果、左目はすこし傷ついただけで、時期が来れば快復して、見えるようになるが、問題は右の目だ!右の眼球が酷く傷がつき、右眼の視力はもう、快復が難しいだろうとの診断だった!!!

あまりにも、一瞬の出来事で、純輔は混乱して、今の自分の状況を理解出来なかった。

まるで、映画の中での撮影のような錯覚だとさえ思えた、そのような撮影場面を演じている長いシーンのつづきのような錯覚に思いたかった。

監督からいつかは「カット」の声がかかり、暗闇は、光が射し、眩しいほどの、輝く世界に戻れると何度も思えた混乱する精神状態のだった。

病室の中で、純輔はベットに横たわりながら、少しずつ、少しずつ、夢だったのか現実に起きた事だったのかを思い起こして行った。

幸いにも、仕事は、大半が終わっていたので、純輔が立ち会わなくても、高津さんや伊達さんが手助けをしてくれた事で、十月入ってすぐに、アラスカのドキュメンタリー映像取材は完了した。

後は、日本へ帰国してからの編集作業があるだけになって、純輔はまだ眼の視力が快復していないまま、帰国してそのまま、カコの入院している、同じ病院の眼科に入院した。カコへはまだ、純輔が事故にあった事は知らされてはいなかった。

★ ★ ★

相変わらず、カコの病状は悪くて、時折意識を無くしては両親はその度に、緊張して不安が募る辛い状態だったがカコの両親のできることは担当医を信じて待つしかなかった。

けれど、純輔の所属事務所から、カコの両親へは、連絡があり、純輔がアラスカで大事故にあった事を知らされた。

帰国と同時に、カコの入院してる同じ病院の眼科に入院した事も伝えられた!

その時、純輔の右眼は失明して光を取り戻す事がないだろうと、知らされていたが、カコの両親は一途の望みを持って、祈るしか方法はなかった。
今の日本の医学は、世界のどの国よりもすぐれている!

きっと、最先端の医学を持って、もう一度、眼の手術をすればきっと、視力は快復して、光を取り戻してくれると、思いたかった。

いつかは、自分たちの息子として、カコと幸せに暮してほしいと願っている!
「愛する義理の息子、純輔だ!」

純輔の姿を見たカコの両親は、変わりはて、憔悴しきった純輔の無気力な姿!

やはり、純輔は日本に帰国しても、思うような視力の快復が得られず、又、愛するカコがなぜ、自分を避けているのだろうか!

なぜ、カコは私のそばに来てくれないのかが、気になって仕方なかった。

カコの胸の手術の結果も聞かされていない中で、起きてしまった純輔の事故により今は暗闇の中で手探りで生きているふたりを結び繋げる糸は切れてしまったのだろうか・・・

純輔はひどく混乱していた、突然の闇の世界に閉じ込められて、心が惨めだった、寂しさでカコに思い切り抱きしめて欲しかった!

そう思う気持ちとは裏腹に、心の何処かでは、このような弱い姿、惨めな姿を、カコに見せたくない思いも確かにあった。

けれど、どうしても聞かずにはいられない、純輔は、思い切って、カコの事を、たずねた!
けれど、カコの両親は、しばらく沈黙の後、深呼吸するように・・・

「せっかく、純輔さんが、アラスカから帰国できたのに、すみませんね!」
「軽い感染症にかかってしまって・・・」
「今、カコは、すこし、熱が出てね!」
「ドクターに病室を出る事を止められているのよ!」
「もう少し快復するまで待っていてくださいね!」
「私たちも、カコに中々あえない状態なのよ・・・」

そう言うだけが、精一杯の両親の言葉だった。

カコの両親は、とても、今のカコの状態を純輔に話す事は出来なかった。
純輔が今どんな状況であれ、カコが乳がんの手術をする事だけアラスカへ戻る前につたえていたが、今、肺への転移とおそらくは、胃や脊髄へも、転移の疑いもを考えられるとの診断されていた!

カコの体力の快復を待って、急ぎ、改めて肺の手術が待っていた!

けれど、カコの乳がんはもう、乳房の摘出だけでは、手の施しようも無いほどのがんの進行が早く、絶望的な状態だった!

純輔もまた精密検査の結果、やはり、アラスカの病院での診断と同じく、左眼は、視力の快復が望めるが、右眼は視力快復が望めない事がはっきりと診断された。

人の運命は、明日の事も予想がつかないし、分からないと、良く、聞く事だけれど、まさか、自分の身に起きるとは、純輔は思ってもいなかった。

純輔は待っても、待っても、カコは逢いに来てくれない事の不安と自分自身の暗闇の恐怖でかなり苦しく、混乱の日々がつづいてるが、だが、純輔の持ち合わせている、本来の精神力で、片目でも、確かに、不自由ではあるが、生きて行く自信を取り戻し始めていた。

純輔の正式な、検査結果では、右の眼を移植手術によって、以前のような、健康な眼を取り戻す事も出来るとも、説明されていた。

その事を、純輔は、すべてにおいて、まるで、純ちゃんと私の両親は、実の親子のように、話し合い、相談しあっていながらも、私の両親はカコの現実を隠したままで、純輔へのかりそめの喜びを分かち合った。

その事は、私の現実を、純ちゃんへ話す事は!『絶対にダメ!』

私は、この先の事を思うと、少しでも、純ちゃんが希望を持って生きていて欲しかった、辛くて、悲しみの現実を知る事は、後からでも間にあうし、現実を知る事は、たとえ一日でも先であって欲しかった。

「眼球の提供者は、中々出てはこないと思うけれど!」
「僕は、まず、左目の治療に専念して!」
「右目の提供者が現れた時には!」
「ありがたく、感謝して頂き、その人の分も眼を大切にして!」
「すこしでも長く、生きて行くつもりだ!」
「たぶん、提供者の方は!」
「たくさんの思いを残しての人生が終わるわけだろうからね・・・」

両親から、純ちゃんのようすを聞きながら、やはり、彼は精神的にもとても強い人だと確信した!

★ ★ ★

カコは純輔の姿を想いながら、両親の話を聞き、まだ、両目とも、何も見えてはいない状態でも、希望が持てる純輔の姿を思い浮かべて少し眩しく感じた。
カコは今すぐにでも、純ちゃんに逢いたかった!

「声を聴きたいし!」
「抱きしめて欲しい!」

そう願いながらも、カコはベットから起き上がる力も無いほど急激に体が弱っていた。

カコは両親から、純ちゃんのようすを残さずどんな些細な事でも聞いてはいても、姿を観て確かめたかったが、その勇気が出てこないし、体が動いてはくれない!

あの感の鋭い純ちゃんのことだから、すぐに私の変化に気づいてしまう、たとえ、今は何も見えなくても、私の今の状態を見抜いてしまう、私は、ベットから出てはいけないとも思った。

純ちゃんの眼が、左目だけでも、視力を快復するまでには、私自身の今の状況を改善させなくてはいけないと、かたく決心した。

必死で体力をつける努力をして、やっと何とか体を動かせるまでに快復して時、母に頼み、起こしてもらい、車椅子に乗せて貰って、純ちゃんの姿をそっと遠くからみて純ちゃんの痛々しい姿を確かめるしかなかった。

声もかけられず、お互いを励ます事も出来ずに、じっと、その場所から、自分が耐えられる間をぎりぎりまで、純ちゃんの姿を見ていた。

純ちゃんは一人でぽつんとイスに座ったまま、窓の方を向いたまま動かずにその場所にいた。
すこし時をおいて、私の父が純ちゃんのそばに行った!

純ちゃんに何か、話しかけて、窓際から、ベットの内側に、父に手を取られながら純ちゃんは移動した、私が純ちゃんを寄りはっきりと見れる位置の場所へ、父と共に移動してくれた。

しばらく、私は呼吸さえも抑え気味にして、純ちゃんが私に気づく事を心配した。

母と私は、声を出さずに、うなずきあいして、その場所を離れた、何度も振り返りながら、純ちゃんの姿を追って、見ていたけれど、やがて、エレベーターが私を運んでくれて、私のいる部屋、5階についてしまった。

純ちゃんが入院している眼科病棟は7階だった、わずかの位置に純ちゃんはいても、私に逢えない事が不振感を募らせて、純ちゃんは今まで私たちに見せた事のない我儘な言葉で、父に何度も問い、聞こうと、父を呼び出す!

私の電話には繋がらない事が、とても気がかりのようで、時には・・・
「なぜ、カコに逢わせてくれないのかと詰め寄り、いらだつ様子だと・・・」

父は、そんな時、「カコは体調がすこし悪いので、家にいる!」
「君の事故の事は、カコにはまだ話していない!」
「君の今の状態を見たら、きっと、驚くし!」
「心配して、カコの体によくないからね!」
「せっかく、退院出来たばかりだから・・・」
「もう少し、待ってくれないか?」

そうなのです、純ちゃんには、私は、退院した事になっていたのです!!!

私の病気は、乳がんの初期だったと、両親から、純ちゃんに伝えられていたのです。

純ちゃんには、私は乳がんの手術も成功したが、すこし、快復が遅くて、大事を取って、退院後も家で静養していると伝えられていた。
「元々の持病である、免疫の低下もひどく!」
「今は感染症に気をつけて生活しなくてはいけないから!」
「カコは外出をドクターからとめられていてね~」

父は純ちゃんに対してつらい嘘を重ねるしか方法がなかった。

今、純ちゃんの眼が見えない事が私はとても心配だけれど、私は、乳がんだけではなく、すでに肺に転移していて、おそらくは脊髄と胃にも転移の兆候があり、体力の快復を待って、検査をするのだとは、純ちゃんに正直に言えない事だった!

純ちゃんの左目がある程度視力が戻ってきた時に話せば、きっと、純ちゃんは、分かってくれるはずだと、私が判断して、両親に頼んで、固く口止めをしていた。

けれど私の体はそう簡単に体力が快復するほどの病状ではなかった。

それでも、ひと目、純ちゃんの姿を見た事で、私は不思議と気力が出て来て、奇跡的に、検査を受けられる状態に体力が快復した。

その絶好の機会を逃さずに、私は検査を実行した、ベットからひとりで起き上がれないほどの衰弱した私の体は、又しても、純ちゃんからの元気エネルギーを少しだけ分けてもらったように思えた。

まず、急を要する脊髄の検査と胃の検査を受けて、その後に全身の検査がおこなわれた。
その結果は、あまり時間を置かずに結果はわかった。
が、あまりにも、ショッキングな結果が報告された!!!

肺への転移はすでに、乳がんの手術で分かっていたが、もう、手術出来る状態ではなく、脊髄にはまだ転移はしていなかったが、胃への転移は、間違いのない状況だった。

しかも、進行の早い「スキルス性胃がん」で、手術は難しい段階だとはっきりと検査結果が出た!

ドクターの話す言葉が、何処か遠い異国から来た、ロボットの機械音のように聴こえて、私は、自分の事として、直ぐには受け止められなかった。

ただ、体の中を通り過ぎて行く言葉なのか、不思議で無機質な機械音声のようにこの耳に聞こえていた!

私のいる病室の窓から眺める景色は、昨日と何も変わっていないのに、なぜか、どの樹木も赤茶けて光もなく、薄黒く見えて、とても不気味で、美しいなどとは言えない色彩だった。

そうかと思えば、誰かが何の為なのか?私に拍手を贈っているような錯覚がして、怒りがこみ上げてくる!

そして、その日を境に、病院での治療も私に接するすべての人々の態度も急に粗末で不親切になった気がした!

ただ、点滴を絶え間無く打ち、私の体に毒物を注入しているような悪意さえ感じてしまう!

ベットから起き上がれない体が疎ましくて、怒りといらだち、誰、かれ、かまわずに八つ当たりして見たりと、自分がだんだん惨めで、嫌な人間に変わっていく姿を、私自身は体からはなれた場所で自分の姿を見ているような感覚だった。

                       次回につづく


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