今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

心が折れそうな・・・

2013-10-29 13:39:36 | 生きて行くこと


しんどいな~

気力がない、出ない

ふと、もういいかな~

生きることを諦めてもいいような気がする

しんどくて、苦しくて、そして不安

なのもかもが面倒になる

歩くのもつらいと雨上がりの風景がうらめしい

きらきらと雨粒のダイヤモンドが光る

私はなんのために生きてる

雨上がりのさんぽみちで自問自答する

私は生かされてる

この命がつきるまで

苦しみもがき、そして、生かされてることに

何か意味があるのだと悟る

まだ誰かの心に私がいる限り

しんどくて、悲しくて、さびしくても

生きて行くことを諦めてはいけない

この命あることに感謝




懐かしい写真をもう一枚

2013-10-25 15:50:36 | 山、人、幸せな出会い


何度目かの脳梗塞がおきてしまい眼の焦点があわず、距離感がつかめなくて物によくぶつかる。
私の場合、1度目がひどくて右眼が失明状態に左耳の聴力がほとんどダメになった、そして右半身がまひになり、言語障害、記憶障害がかなりひどくて、けれどリハビリによって杖に頼りながらでも歩けるようになったし、言語障害も自分なりの方法でほとんど不便なく話せる、記憶障害はまだまだかな?
それから何度か軽い脳梗塞がおきてしまうけれど、いつも治療の時期を逃してしまい、今回のように眼の焦点が合わないなどの軽い障害が出る、そのたびにドクターは言います「今度、脳梗塞やくも膜下出血がおきたら、死ぬ事もありますと!」
そして、今年に春、生死も危うい「心筋梗塞」で入院、手術、幸いにも生き延びられた。
けれど、命をつなぐ注射を打ち、その痛さに耐えて生きてる・・・
このしぶとい生命力に感謝しなくてはと思いながら・・・

懐かしい写真をもう一枚のせてみようか、もう20年も前のものなのでこの子らも今は立派な大人になっているだろう、幸せに暮らせているだろうか・・・
<パキスタン,フンザにて>


山、人、そして幸せだった日々

2013-10-23 23:50:25 | 山、人、幸せな出会い

あれから、もう20年ちかく時が過ぎて行った。
今思うとあのころの私はひたすら走りつづけた日々だった、ただ、山の魅力にひかれてのめりこんでいた、おそらくは家族もかえりみず、山に登りたくて、岩壁に張り付き、そして雪山にとりつかれた想い!
健康で元気だったあの頃!
幸せな日々だった・・・

<以前に載せた記事だけれど懐かしいのでのせてみました!>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今、私の見える世界は、小さな我が家の庭、そこに咲くいくつかの花たちが、私を慰めてくれる。
いつまでも、あの頃を忘れられずに、思い出にすがる、生き方は、すこし、情けなく思うけれど、確かに、山に魅せられていた日々は、私の輝ける日々だった。

特に、2度のパキスタン行は、命のキケンさえ感じる山旅であったけれど、何ものにも変えがたい、大切な思い出だ。

山の師である、長谷川恒男氏にお別れのために登った、ウルタルのベースでのあの体験は、今も不思議な、天上の世界を見た気がしたし・・・

4000mの高地を、落石を避けながら、走る、苦しくて、足がもつれてもなお、力走しなければ、絶え間なくおきる落石が肩越しに死がせまる、怖さ・・・

ナンガ・バルバットのベースでは現地のスタッフを信じすぎて、私自身の装備不足!零下の寒さに薄い毛布一枚で耐え、高山病で幻覚を見ながらの幾夜・・・

ギルギットでの朝の散歩で、出会った地元の女達に「口紅」がほしいとねだられたが、断ったら、石をぶつけられた、ちょっと、怖かった事。

ひとつの思い出をたぐれば、まるで、じゅずつながりのように、次々と浮かぶ思い出や体験は一冊の本が書けるほどの、楽しく、そして、耐えられないほどの、暑さと寒さを、思い出す・・・

2005年秋にパキスタンでも、7万以上の人が犠牲になった大地震が起きています、今、どうなっているのか、あまり情報がなく、気になっていますが、私には、ただ、祈る事しか出来ませんが、政情不安もあります、私は、あの瞳の美しい子供たちが、平和で、穏やかに暮らせる事、ただそれだけが、願いです。

まだまだ、たくさんの体験談や不思議、又切ない感情もありますが、写真の保存があまりなくて、今更ながら、捨ててしまった事が残念です。

又、いつか、思い出のひとつ、ひとつを、書けたらと願っています。

自己満足の世界ですが、見ていただけて、本当に、ありがとうございました。

ぷ~4兄弟?変な人が混ざってますが・・・
20年くらい前の私がいました!、今はかなり美変身?してますのでまぁ~いいかな・・・

想い、惑いながらもやはり好きだから・・・

2013-10-20 10:51:33 | 「美しき人」からのおくりもの

心におちつかぬものがあったけれど、何とか小説「逢いたくて<永遠>」を載せる事が出来、ほっとしています、眼の痛みに耐えられたのも「美しき人」のエネルギーを頂けたのかも、やっぱり私は貴方が好きです、ファンでいたいから・・・

<月の光>

ひとすじの輝きに導かれて
深い森に眠れる美しき肉体
海の中のただよいのように

永遠に近づける事のない
気高くて狂おしいまでの愛
私の魂を響かせて

壮大な宇宙をもこえて
幾千年も輝ける星のように
愛しい人の姿に

炎のように熱い恋を夢見て
今天の星たちが奏でる
優しくも激しいリズム

この心をかき乱しては
強すぎる思いに我を忘れて
胸をときめかせた少女のように

美しき愛しい人に
その肉体に触れる事など
許されない永遠に輝ける人



逢いたくて<永遠> 1 (小説)

2013-10-20 10:20:53 | 逢いたくて<永遠> (小説)

この小説<逢いたくて、永遠>は以前、もう何年も前に書いたものを何度も手直しして、けれど最近では眼がよく見えないのでここに載せる事を諦めていましたが家人の手助けをありがたく、出来るだけ頑張ろうと、生きがい、生きて行く力にしたいと思い載せてみました。
この小説を書くきっかけを頂いた「美しき人ビョンホン」さんのあるインタービューを受けているときの姿があまりにも印象が深く感動的オーラがすごくて!その印象をもとにイメージを膨らませて書いてみました。
(眼がダメなので読み返ししてない為?変なこともあるかも、ごめんなさい。)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

逢いたくて<永遠>

★突然の出逢い★

恋愛とは無縁だと決めていたし、実際のところ世間で言ういい歳をした女が今の今まで恋する出逢いも異性から 愛される方法を知らなかった私だけれど,私は大切なあの人いつも純ちゃんと呼んで、傍にいない時は心の中で叫ぶように、祈るように・・・

ながく虚しい時間を病室で過ごす私を不安と絶望が際限なく広がる、そんな時、私はきまって、この指は純ちゃんの名前をなぞりながら・・・

「今、何処にいるの?」

「何をしているのかしら?」

そんな時、純ちゃんの足音が遠くから聞こえてくる、私はひたすら耳をすませて、だんだん純ちゃんの足音が近づいてくるのと同じくらいにこの胸の鼓動が苦しいほど早打ちするのを私は幸せで恋する感情だと思いながら・・・


私は少しだけ歳を重ねた幼稚で可愛い女!

私はひそかに、人には好かれるほうだと思ってる、今、世の中で言う「イケメン」な男、たった一人だけど、あの彼が私を好いてくれてるし!

でも、幸せなはずなのになんだか最近はちょっとだけ不安な気持ちなの、三十歳を過ぎた頃に、私の体にすみついた「悪しき物がいるみたいなの!」

それは、時として、この私に、とんでもなく悪さをして、暴れまわり、痛めつけて私を泣かせるのよね、ほんと、困った奴だわ!

でも私には、とても素敵でカッコイイ、守護天使がついていてね、とっても、とっても、優しくて私を包んでくれる!

口下手で、お上手なんて言えない、真面目人間だけれど、ただそばにいてくれるだけで、私はとっても元気になれるし、体が辛い時も我慢できるし、夢も希望も持てちゃうの!

彼にはね、不思議なパワーがあるの、まるで魔法使いのようにね!

まわりの人がうらやむほど、ハンサムで素敵な男性!

彼の名前は「李 純輔」 三十七歳 職業はまだ有名ではないけれど、「俳優」

そして私の名前は「カコ」本名は「杉本夏湖」私も駆け出しのと言うか、うれない俳優をしていたの!

私の生まれ育った家は、東京から少し離れた、埼玉県の飯能、父は小さな印刷工場を経営していたけれど、どうも、商売上手とは言えない人だったようで、細々と、数人の従業員を使いながら真面目に仕事をしていたので、私は幸いな事に、特に生活が苦しくて大変だったとは感じないで、でも、贅沢はさせてもらえなかったは!

おこずかいも、大切に考えながら使ったものよ!

時には少し高い素敵なお洋服を買って!とおねだりしても、たいていはすぐには許してはもらえないし、買って貰えた時と、ダメで、あきらめる事も多かった気がするわ~

けれど、私は、そんなことも直ぐに忘れていたから、本当は、一時的な欲望だったのでしょうね・・・

そうそう、素敵な彼との出逢いをお話しするわね!

今でも、彼、純ちゃんとの出逢いは不思議に思えるほど、奇跡的に思えてしまうの・・・

だって、私は、どちらかと言えば、愚図で、のろまで、ダメ人間だと自分では思っていたわ!

その上、体が弱かったから、病院通いも多かったし、何事にも自信が持てなくて、いつもオドオドしてた。

そんな時、病院の出入り口で、私はぼんやりと、のろのろと歩いていて、上手く、自動ドアの開くタイミングをあわせられずによたよたしてたみたい!

その時、突然、私の手を取って、一緒に歩いてくれたのが彼、純ちゃんなの!

本当に突然に現われて、まるで、天使のように、光り輝いていたは!

私は、ただ、驚きと、恥ずかしさと嬉しさで、混乱して、ちゃんと御礼さえも言えなかった。

その時の彼は、私の安全を確かめて、風のように去って行った。

その時の純ちゃんの姿は、言葉では表せないほどの素敵さと輝きのオーラが渦の中に私をを巻き導くように私には見えていた。

私はその輝きのオーラの渦の中に吸い込まれそうだったの・・・

不思議な事に、私の次の診療日にも同じ場所で、彼、純ちゃんに出逢ったの!

あの大きく、巨大な、病院の、同じ場所で再会したのよ、これって、絶対、神様が私につかわして下さった奇跡!

私には本当に奇跡にしか思えなかったは!

その後の事は、後で又、つづきを書きますね、少し疲れたのでやすみます。

世の中は、今日から、五連休中だというのに、この私は、病室のベットの中・・・

彼、純ちゃんは今頃、何をしてるのかしら?

寝つきの悪い私は、朝方にならないと眠れずに、いつも寝不足状態のように頭が重い状態だ。

彼に、奇跡のように、二度目に出逢った時も、私は情けない状態で、ぼんやりとして歩いていて、あの病院の出入り口で、いきなり彼から声をかけられた。

「今日は、大丈夫、だったね!」

「ドアーにキスされずに?」

「抜けられたね・・・」

病院のドアーを出た瞬間に、彼が、私に話しかけて来た!

「僕を覚えてくれたかな~、この前、君と腕を組んで、あのドアーを通り抜けた事!」

こんにちは!、今日は、絶対、君に逢えると思っていたけど、会えて嬉しいよ!

そう言って、彼は、微笑みながら、ペコリと頭を下げた。

私は嬉しさと気恥ずかしさと驚きで、混乱して、又しても言葉が出てこなかた、喉の奥から苦しさがじっくりと呼吸を止めてしまうほどしめつけて来るように、そして、頭の中がまるでぐるぐると勝手に振り回されるように、言葉が何にひとつ、まともに浮かんでこない・・・

今まで、三十年生きていて、初めて体験した感情と感覚だった。

その時、純ちゃんは、ちょっとした気まずさを感じたようで・・・

「ごめんなさい、失礼しました!」

そう言って、立ち去ろうとした時、私はやっとの思いで、ひと言、言葉が出て来た。

「あ・の・時は・・・」

ありがとうございました!そう言えただけで、私は精一杯の力だった。

私がそう言った、姿をみて、彼は、ひとりで先に歩いて行く事が出来ないほど、緊張した状態だったと、だいぶ後になってから、純ちゃんはその時の事を話してくれた事がある。

そのあと、タクシー乗り場まで私について来てくれて、私がタクシーに乗り込んだ時、急ぎ、なぐり書きした、自分の携帯電話の番号のメモを私に手渡ししながら・・・

「しばらくは、この病院に来るから、又逢いましょう!」

「もう一度、話がしたいから・・・」

その言葉が聞き終えた頃、私を乗せたタクシーは走り出した。

あの日から、もう、五年が過ぎようとしている・・・


★逢いたい気持ち・・・★

連休が終わって、もう三日も過ぎているのに、純ちゃんはどうして私に逢いに来てくれないのかしら・・・

「いくら、元気印の純ちゃんだからって、顔くらい、私に見せてくれてもいいじゃないの~」

「純ちゃんって、そんなに薄情もんだったわけ!」

体のあちこちが疼き、痛む、そんな時はいつも私は、わがままで、情けないブスな心がどんどん、エスカレートして行く、しまいには、自分でも思ってもいない言葉を、眼につくものすべてに、当り散らして、時には、カレンダーの美しき人(私の大好きな映画俳優だ!)にまで、恨み事を言っては、泣きわめいてる!

ひとしきり、この儀式が終わって、我に返った時、私は途方もなく、落ち込んで、自分が嫌で、身ぶるいするほど、全身を傷つけたくなってくる気持ちをどうする事も出来ない!

自分の顔を誰かに見られたくなくて、布団を頭から覆いかぶり、徹底して、ダメ人間になるのが、入院して、しばらくは続く、いつものブスな心の私の姿・・・

今回の入院でもう何度目になるのかしら、かぞえるのも嫌だし、おっくうだわ~

いつもの事だけれど、私の腕はどうしてこんなに、注射針を拒否するのかしら、優しい看護士さんのいつものお話だと、私の血管はとても細いのだとか、朝に夕に、点滴をして下さる、看護士さんのほとんどの方が苦労して、二~三度針を射しては抜き、又、射して、試し打ちをするたびに、痛いのよ、痛いのよ!

もう、その頃は、純ちゃんを恨んでいるは!

なぜ、今、ここにいて、優しくしてくれないのよ,薄情者!

ブスな私の心は、勝手に純ちゃんを独占してしまうの・・・

ハンサムで素敵な彼は、誰からも愛されて、好かれて、頼りになる人!

だから、私は、自分が情けなくて、苦しい!

独り占めしたい気持ち、ジュラシーがどんどん膨らんでしまう!

そして、私はベットの中で、少しだけ泣くの、いえ、大泣きしてるは心の中でね、でも、音もなく、近づいて来て、そーと、私のおでこにキスをしてくれる人!

それが、優しすぎる彼!

「李 純輔」

連絡もなく、突然、私のそばに来てくれる人!

言葉少なに、優しい微笑みで、私をつつんでくれる人!


★初めての体験★

私は我儘で、束縛される事が、幼い頃から大嫌いだった、だから、学校での授業もたまらなく嫌いだった、体が小さくて、運動が苦手だったから、体育の授業が特に大嫌いだったし、病弱で運動も出来ない事も多くて、私ひとり教室で自習したり、他の子は、体育の授業でみんなが楽しそうにドッチボールをしているのを、ただぼんやりと見学したり、時には、ふと、授業を抜け出しては、学校の裏山へひとりで登っては、学校でみんなが元気に運動している姿を、少し後ろめたい気持ちと、元気に走れる子たちが羨ましい気持ちとでゆれる思いで眺めていた。

病院での生活は、限られた空間で、まさに自由を奪われる不自由さが、私にはたまらなく嫌だった。

病気なのだから仕方の無い事だけれど、何度も繰り返している入退院で、私の青春は奪われて来たように感じていた。

あの時、彼、純ちゃんと奇跡の出逢いをした時も確か、退院後の検診での帰りだった、けれど、あまりの突然の出逢いだったから、今でもあの時の事は夢の中での事のように思えてしまう!

「だって、あの、美しき微笑みは・・・」

私の生きて来た、短い生涯の中で、あまりにも素敵過ぎる出来事だったのですもの・・・

彼「李 純輔」は私が診察を受けている担当医の知人だったという事もしばらくして分かり、その後は、私たちふたりは急速に恋人同士にかわって行ったの・・・

でも、私が、病気が治るまでは、心が通じあえるだけの関係なのよ!

もう、お互い、三十歳を過ぎた大人同士なのだから、たぶん、健康で元気な人間だったら、どんな事も希望が持てる恋愛が出来たのだろう・・・

健康に自信のない私は、純ちゃんに申し訳ない思いになっちゃうけれど、純ちゃんは、今の関係を大切にしてくれている事が、私は分かるから、そんな時は、胸が張り裂けそうに苦しいけれど、とても嬉しい!

恋をするって、こんなに素敵な気持ちになれて、幸せだったなんて!、私は純ちゃんとお付き合いしてから、毎日がちがった感情を体験し、感動する事もとても多くなったわ!

それまで、私は映画もあまり観る機会もなかったの、人が多く集まる場所へは、さける生活だったから、もちろん、コンサートへも一度も行った事がなかった。

学生の頃、女の子同士で、アイドル歌手のコンサートに何度か誘われたけれど、いつも、体調が悪くて、出かけられなかった。

けれど、純ちゃんは、私の体調を良く見ていて、今日なら、大丈夫!

そう言って、強引に、連れて行ってくれた。

映画は『オータムイン・ニューヨーク』そう、テレビ放送では、なんとなく映画を観ていたけれど、音響の凄さにまずびっくり!

画面の大きさ、迫力が凄い!、美しい風景!、美しい音楽!

はじめて見る、俳優の姿!恋物語!

すべてが驚きと感激と言葉に出来ない幸せな感情を体験した、瞬間だった!

はじめての映画鑑賞は、純ちゃんと私自身の恋模様を重ねあわせてしまう、まるで夢一夜の美しき時間を過ごして、ふたりは(少なくとも私は)生涯でも最大の思い出のひとときだったわ~

そして、確かに記憶の中にあった、ニューヨークの街の風景がより身近に感じて、いつか、純ちゃんとふたりで歩く夢を持ち、リチャード・ギアという、俳優をはじめて意識した。

もうだいぶ前だったが、純ちゃんが、目標にしている、憧れの俳優がいるんだと話した事があった、私は、芸能界や映画の世界にその頃は興味もなかったし、疎かったから、たぶん、あの時に話していた、憧れの俳優が、「リチャード・ギア」だった。

もちろん、その頃は、私はまだ、俳優になる!などとは考えてもいなかったし、この私が、愚図でのろまで、恥ずかしがりやのこの私が、俳優になれるとは思ってもいなかった!

私は、まだ、純ちゃんと奇跡の出逢いをして、間もない頃で、お互いの事を理解していなかった、ただ、私は、純ちゃんに一目ぼれだったから、純ちゃんのすべてが素敵で!美しかった!カッコ良かった!

私自身、何も無い、つまらない人間だと、思い込んでいた時期だったから・・・

純ちゃんから、誘われた仕事がなんなのか!

すぐには理解出来なかった!!!

「ちょっと、僕と、一緒に出てみないか!」

「今、僕が出演している映画に!」

「ただ、監督さんが、歩いて!」

「そういったら、歩けばいいから・・・」

「君は、何も考えずに、僕と一緒にね!」

「カメラの前を僕と腕を組んで歩けばいいんだ!」

「何も心配せずにね!」

「ただ、僕のそばにいてくれればいいよ!」

純ちゃんはそう言って、映画の撮影場所へ案内してくれた、私は何も分からないまま無我夢中で、今もあの時の事はよく覚えてはいないけれど、何とか、私の映画初出演は、監督さんのオーケーを頂いた。

この私が、映画の中のワンシーンを、純ちゃんと恋人同士でデートしてる姿を、映画の中で、映像に映し出された時、私は、言葉もなく、驚きと感動で、涙が止まらなかった。

その映像と同じく、その後は、毎日の生活の中で、自然なかたちで、腕を組み、寄り添いながら歩けるふたりになって行く事に時間は必要なく、同時進行で、心を通わせて、愛を感じられるふたりになれた。

あれから、五年の歳月は、一瞬に過ぎてしまったようにも思えるし、ひとつ、ひとつの思い出をたどれば、長い時間であった気もする。

今、病院のベットの中で、まるで、夢を見ていたような時間だったけれど、あれは現実の事、純ちゃんが、私をすべての愛で支えてくれた日々だった!

今、純ちゃんは、ハリウッドを目指して、トレーニングに励む日々!

だから、もう三日も私は純ちゃんの顔も見れていないけれど、寂しくはないわ~

きっと、オーデションに受かってくれると私は信じているから・・・


                   次回につづく






逢いたくて<永遠> 2 (小説)   

2013-10-20 10:17:53 | 逢いたくて<永遠> (小説)

         <美しき人のイメージで書いてみました>

逢いたくて<永遠>

★彼と私の・・・★
いつもの事だけれど、純ちゃんは物音も立てずに、私の前に来てくれる!
私は、何度目かの入院中で、体調も気分も落ち込みがちになるけれど、今は、純ちゃ
んが俳優として一番大切な時期!、どんなに逢いたくても、我慢するのよ!と、自分
に言い聞かせてはいても、やはり、逢えない事が寂しい!

私の病院での一日は、ほとんどが点滴に左手を繋がれての暮しだ!
点滴液が漏れてむくみやアザだらけの、お世辞にも、美しい手とは無縁な、醜い姿に
なってしまった。

限られた行動の中で、たいていはベットの中で過ごしている。
私は気づかぬうちに少し眠っていたようだ、眠りから覚め、ふと、眼を開けると、私
のおでこにキスをしようと、純ちゃんの美しい顔が、私の顔に重りあって、驚くほど、近かった!

それはまるで,夢のつづきのように・・・

「純ちゃんの唇が、素早く、私のおでこに触れた!」
「ごめん、起こしてしまったね!」

そう言って、照れくさそうに、純ちゃんは笑った、そして、「カコ」はもう、とっくに
お昼を済ませたよね!僕はちょっと、撮影がおしてしまって、時間がずれて、空腹で
お腹が変になりそうだよ!ちょっとここで、食べてもいい?そう言い終わらないうちに、用意してきた、「ゆで卵の白身だけ」を、口に放り込むように食べている彼のほっぺのふくらみがたまらなく愛しくて私の胸は高鳴り涙ぐむ、そんな私の気持ちを察しての純ちゃんのしぐさが可笑しくて愛しい!

腰に手をおき、左足を少し前開きにおどけながら、シェークしたプロテインを噛むようにしてゴクリ、ゴクリとのど仏を動かしながら飲む姿に愛しさと可笑しさの感情が苦しくなる。

いつもながら、純ちゃんの食事は、まるで、スポーツ選手の肉体をつくる為のような、筋肉質な、それでいて、ムキムキな筋肉ではなく、美しい肉体美を保つ為の食事!
体に必要のない脂肪を燃やし、良い筋肉を付ける、「プロテイン、ミルク、野菜ジュース、きな粉やすりゴマ、そして、お酢、少量を」加えて、シェイカーで飲む前に良くシェイクして、ゆっくりと、噛むようにしてのんでいた。

他に、果物、そして、オイルの入っていない、シーチキン一缶に玉ねぎと人参のきざ
んだ物を塩もみし、水洗いして、塩分を取り除いた物を混ぜて食べる!
炭水化物はほとんど食べない食事!

食事の不満さや欲望を抑える為なのか、純ちゃんは、いつも食べながら、おどけて、
マジックをするように・・・
たまごの白身だけを上手く舌で動かして遊ぶ仕草が、私はいつもなんの手助けも出来ない今が切なく、それでいて、とても可笑しくて、笑いながらも辛くて、複雑な想いになる!

本当は純ちゃんは、パンもごはんも大好き、少し塩をつけたおにぎりや焼き立てのパンをどんなにか、食べたい事だろう!いつだったか、思わずつぶやいたことがある!
「お肉だって大好物、焼肉大好き人間だ!」
「けれど、炭水化物を我慢するのは辛いよ!」

私は、純ちゃんの心情をおもうと、涙が出て、こんな言葉を心でつぶやく・・・

そのしぐさが危うい
少年のようなあどけなさが誘う刺激
モノクロームの情景が
大人の男をひきたてる
ほの暗いパリの空に
にあい過ぎるほど物憂い
その唇に懸想する白身遊戯
「俺は白い色が好きです」
私は貴方が大好きです
パリィの恋人達を物語る
理性を忘れた私がいる

ある写真集のパリェの風景の中に純ちゃんを重ね合わせて・・・


毎日のトレーニングは、純ちゃんにとって、決して、らくで楽しい事ではないはずだ
けれど、本当に、純ちゃんは凄い精神力で頑張っている!

まだ、正式に、ハリウッド映画に出演出来ると決まったわけではなく、もし、純ちゃ
んの素晴らしい才能が認められて、ハリウッド映画の小さな役であっても、決まって
から、仕事として、活動が始まるのは、たぶん、二年位先の話だ!

けれど、純ちゃんは、今、そのハリウッド映画出演のオーデションを受ける予定でいる!自分の俳優としてのこれからの生き方を賭けてみようと決心しての事だった!

国内では、さほど、俳優として名の知れた存在ではないけれど、以前、ある映画祭で
出会った、ハリウッド映画のプロデューサーに声をかけられた事が、今の純ちゃんの頑張
りをささえているようだった。

私は、今、純ちゃんの為に役にたつ事が何も出来ない!、それどころか、むしろ、純
ちゃんの足を引っ張っているように思えて、つい、思い悩んでしまうけれど・・・

純ちゃんは、私の病室に来ては、小さなソファーに、純ちゃんの長い足を折り曲げて
丸めて寝ている姿を見ていて、私は、切なさと愛おしさで、心が揺れるけれど、この
瞬間がとても大切で、特別に幸せな時間だった!
「ここでの短い眠りが僕の楽しみなのだから、許してくれ!」

そう言って、私を見つめては、ちょっと、照れ笑いをする、笑顔がたまらなく美しきオーラに私は巻き込まれそうにさせてしまう人だ!
その表情が、人間の心や感性の奥深さを感じさせて、私は、又いちだんと、純ちゃん
の魅力に魅せられて、虜になってしまう!

あまり、仕事の事やトレーニングや体つくりの事は、純ちゃんはあまり詳しくは話してはくれないけれど、照れくささ、そして私に対しての心配をかけたくない気配りだと、私は自分の都合よく考えてる事が心を曇らせもするけれど、私も、純ちゃんの薦めで、俳優(とは言っても、主に通行人の役ばかりだけど)ただ、純ちゃんのそばにいられることが、私には嬉しくて、重要な事だった。


今の「カコ」の大切な事は、病気を治す事だよ!
仕事は元気になればいつだって出来るから・・・
いつも、そう言って、私を元気づけて、励ましてくれる・・・

俳優なのに、純ちゃんは、私の前ではとても口下手になる、特に私の病気の事を話す
時は、とても不安な表情になるのが、私にはとても辛い事だった。
けれどあの奇跡的な出会いから、純ちゃんとのお付き合いは、私に不思議なエネルギーを与えてくれて、とても元気になり、体調もとても良くなっていた。

ふたりで観た映画『オータムイン・ニューヨーク』は私にとっては思い出の深い特別
の日になった。

以後も、度々、映画を観たり、日帰りの旅行をしたり、音楽会にも出かけた!
純ちゃんは、友人や知人が多く、そのほとんどの方が芸術家だから、いろんなお誘い
を頂くようで、その中から、私にあうものを選んで、いつも突然、私を連れ出す!

それは、常に私の体調を考えての決断だと言う事を、私は気づいているから、ただ、
純ちゃんに申し訳なく、悪いと思いながらも、嬉しく、感謝していた。
今日は、純ちゃんの友人で、ピアニストのK子さんのコンサートにふたりで出かけた、K子さんは、純ちゃんの高校の時の同級生だとか・・・

演奏された曲は、ショパンのノクターンを始め、ほとんどの曲が、私の大好きな曲ば
かりで、純ちゃんは、その辺を考えてくれて、今日も強引に、私を連れ出して来てく
れたのだと分かり、胸が熱くなって、演奏も素晴らしかったけれど、私は、純ちゃん
の心配りが切ないほど、嬉しくて感動し、感謝していた。

けれど、その、帰りのタクシーの中で、私の右胸が、しびれるような痛さを感じて、
不安がよぎって、私はその怖さに耐えていた、やはり、その時が来たのだろうか・・・

★ ★ ★

純ちゃんとの奇跡的な出逢いから、私は恋におちて!、すべてが変わって、毎日が幸
せだった!三十五年生きて来て、純ちゃんは、私のすべての価値感を変えてくれて、
どんな小さくて、つまらない事であっても意味があり、その事をどう自分に活かせれ
ば良いかをなにげなく教えてくれて私の心や感性を成長させてくれたのだと思える。

私は幼い時から、病弱だった事で、ある意味、我がままに育ってしまったのかもしれない、又、成長する過程でのその時、その時の年齢にあった、世の中での、知りえる常識的な事にも疎かったし、どちらかと言えば、面倒で嫌な事を避けるような性格で、人間関係のトラブルなどは極端に避けて生きて来たのかも知れない・・・

純ちゃんの話す事がらは私にはとても新鮮に感じ、そして、私には初めて知る物事や関心事もとても多かった。

だから私は、益々、純ちゃんを頼りにして信じて疑う事知らない純粋な想いと恋心で素敵さに魅せられて行った。

私は純ちゃんに逢うたびごとに、私自身も洗練された人間になれるような気持ちにさせてくれる人なのだった!

それは時に、感動的な喜びであり、又、自分の今まで、あまりにも常識はずれな人間であったのだと、恥ずかしくなる事でもあった。

けれど、そんな時ほど、純ちゃんは、私を傷つけるような事のない、気づかい、心配りが感じられて、かえって落ち込む事もあったけれど、それまでの私とは違って、直ぐに、前向きな考えになれる事が不思議だった。

「カコ」は長く病気をしていたのだから、知らなくても、恥ずかしくない!!!
これから、少しずつ、一緒に考えたり、覚えたりして行けるんだからね!!!
僕が少しだけ、早く生まれて、ちょっとだけしなくてもいい苦労したからさぁ~

「しなくてもいい?苦労をした?」

純ちゃんの事、何でも知ってるつもりになっていたけれど、又しても、はじめて聴く事だった、いったいどんな苦労してるのだろう・・・

純ちゃんは、俳優としての仕事の時の集中力は他の俳優さんよりも優れていて素晴らしいと私は思う、たぶん、並外れた気力と集中力は他の俳優の誰にも負けてはいないと私はいつも感動している。

けれど、時には、少年のような、あどけなさを持ち合わせていて、誰にも注目されていない時など、自然体で、素の純ちゃんは、何処か、不思議なほど、落ち着きの無い仕草をしている時がある、その姿は、たぶん、純ちゃんの心がどこか異次元の世界を一瞬に旅をしているのかも知れない。

ふと、私は、そんな事を思ってしまう、不思議人!
『李 純輔』と言う、素敵で特別な人だ!

たった今、純ちゃんは、どこを旅したのかしら、心の旅を・・・

何も無い空間をみつめて、物思いながら、頬に美しい手を添えている、その姿が、私は大好き!そして私は世界一幸せな女性だと、勝手に思っていた!
すぐそこに、悪魔が潜んでいた事も知らず・・・

私、カコは、今年の夏頃から、体調が悪くて入院したけれど、もうひと月が過ぎても、いっこうに快復しない、私の病気は、子供の頃から、原因が分からないけれど、あるとき、極端に免疫力が低下する、主に初夏の頃に起きる事が多かった。

体全身の働きが悪くなる、アレルギー性の痒みがひどくなり、風邪を引きやすくなり又、よく熱を出しては中々下がらない、胃や腸の働きが悪くて、胃もたれや不快感に悩まされる、食欲も無くなり、食べられない為に、体力が無くて、結局は病院に入院して、点滴をする事になる、何度も、この繰り返しで、私は三十五年生きて来た人生だった。

けれど、純ちゃんと奇跡的に出会って、恋をして、私はこの五年間はほとんど、入院せずにいられた、確かに、体調の悪い時もあったけれど、不思議なほど、直ぐに元気になり、父の営む、印刷工場の事務を手伝いながら、純ちゃんの誘いで、俳優と言うのには気恥ずかしいけれど、何度か、映画に出演した。

けれど、私の名前は、誰も気づいてくれるような場所にはなく、いつも、その他大勢の中に、小さく載っている、そんな位置だったけれど、私は本当には、特別に幸せな五年間の日々だった。

仕事のない日は、純ちゃんと、ドライブをしたり、又、時には、自転車ロードを風を切って走る事もあった。

私は、生まれてから、ずーと、埼玉県の飯能に住んでいた、だから、純ちゃんも、所沢に越して来てくれた、そのほうが、ふたりのデートには、都合がよかったし、仕事にも、ほど、不便さを感じなくて暮せていた。

時には、純ちゃんは、脇役であっても、とても重要な役を演じたり、又、地方への長期のロケがある映画にも出たりと、純ちゃんは、派手なスターと言われる、俳優ではなかったが、仕事は切れ目なく、続けられる幸運さがある人だ!
それは、紛れも無く、純ちゃんの日々の努力のたまものであった。

時には、ストイックなまでに、役柄を研究して、役柄の人物になりきる努力、そして、その人物に徹底して、感情移入できる集中力は本当に凄いものだと、私はいつも感動して観ていた。
私は、そんな純ちゃんの努力し、研鑽する姿を見ていると、自分の甘さや我がままで、努力の足りなさを痛切に感じながらも、自分では、どうする事も出来ない事がはがゆい思いと、才能の違いを見る思いで、やはり、落ち込んだりもするが、ある部分で、純ちゃんのそばにいられて、素晴らしい才能の輝きを観ていられる事に感謝せずにはいられない思いになった。

私が入院して、ひと月が過ぎ、九月の大型連休、「シルバーウイーク」も過ぎた、ある日、純ちゃんは、私に何か言いたげなそぶりをするけれど、落ち着かない仕草をしては・・・
「カコ、病院暮らしは、辛いよね!」
「カコは、偉いよね、毎日、毎日、点滴に繋がれての生活だもの・・・」
「カコ、あのね!カコ!ちょっとね!」
そう言ったまましばらく黙ってから、今から、仕事だから行くね・・・

なんとも、気になる、純ちゃんの様子!、同じような事が二~三度繰り返しあって・・・
「カコ、いつ頃、退院出来るのかな~」
「一緒には無理でも・・・」
私は、純ちゃんが、何か、いけない事!、私に対しての裏切り!、何をしたのかしらと、邪推して自らの想いを汚してる・・・


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逢いたくて<永遠> 3 (小説)

2013-10-20 10:16:53 | 逢いたくて<永遠> (小説)


★不安な想い★

純ちゃんは、至極健康で、今、男ざかりのイケメンな男性、憧れる女性がいて、彼にちかずいて来ても不思議なことではない、誰が見ても、私のようなブス女を恋人にしていては、不平、不満や、やっかみごころを抱いても当然だと思うけれど、やはり不安!

純ちゃんはとても素敵な男性で!あの美しく微笑む姿は嫌味のないセクシーさに魅せられてしまう女性が多く、黙っているわけも無く、きっとほおってはおかないだろうし、誘惑も多いはず!私は、いやな醜い、ジィラシーが、どんどん、悪い方向に膨らんで行く事の自分の心のいやしさに耐えられずに、気分が悪くなって来た。

純ちゃんは、何か言い出しにくそうに、落ち着かないそぶりが、よけいに、私をブスな心のみにくい女にして、私は、勝手な思い込みをしている。
「純ちゃんの裏切りだと決め付けて、ベットで寝たふりをして、純ちゃんに背中に向けて、すねていた!」しばらく、純ちゃんは黙ったままだったが!
「カコ、こっちを向いて!」
「カコに大事な話をしたいから・・・」
「僕さ、ちょっと、言い難くて、ちょっと恥ずかしいけど!」
「しばらく、旅に出ようと・・・」
「だから、カコ、ちゃんと聴いてくれる!」

私は、益々、不機嫌になり、純ちゃんの顔を見たくないと思った。

たった数分の沈黙でも重苦しい、とても長く感じた時が過ぎ頃、純ちゃんは、そっと、私に触れて、優しく、私を、自分のいる方へ体のむきを変えてくれて・・・
「ゴメンね、驚かせて!」
「今度、仕事で、ひと月ほど、アラスカに行く事になったよ!」
「カコは気に添わぬだろうけど、僕はとてもやってみたい仕事なんだ!」
「ある、写真家の、生き方や考え方を追いながら、私なりの彼の魅力を紹介する、ド
キュメンタリー番組の企画で、私も企画者のひとりなのだよ!」

「長く、アラスカ大自然に惹かれて、アラスカに住んでいる日本人でね!」
「アラスカの原住民と生活を共にしながら、動物の写真を撮影しているけれど!」
「アラスカの大自然を純粋に愛している人で、私はその人を、とても尊敬している!」
「だから、どうしても、会ってみたい人なんだよ!!!」

私の知らない純ちゃんの優れた人間性を見た気がして、とても嬉しかった、改めて、まだ、まだ、私の気づかなかった素敵な純ちゃんが、今、私の目の前で、あの素敵オーラの渦が虹色に輝いていた。

そして、私の体をそっと抱き起こして、私の両手をとり、指輪と薔薇の小さな花束を手渡して・・・
「ぼくが、アラスカから帰る時までに、考えてほしい!」
「こんな僕でよかったら、結婚してほしい!」
「僕は、たぶん、大スターと言われるような俳優には成れないと思うけれど!」
「カコ、君が、居てくれたら、俳優という仕事を、一生努力して、やって行けそうよ!」
「この、僕には、どうしても、カコが支えてくれる力が必要なのだよ!」
「僕は、意思が弱いから、カコが励まして、背中を押してくれないとダメなんだよ!」
そんなふうに、一方的に、話して!
「今日、まだ仕事があるから、行ってくるね!」

と、私は、話も出来ない!何も答えられない!そんな時間さえ与えずに、急ぎ足で、出か
けてしまった・・・

そのあつく熱せられた純ちゃんエネルギーでこの部屋の空間の中に、ひとり残された私に、今、何が起きたのか、直ぐには理解出来ないほど、混乱して、胸の鼓動が苦しくなるほど、驚きと喜びに、ベットの上で飛び上がりたいほどの、気持ちになっていた!

★ ★ ★

純ちゃんの突然の告白が、夢の中の出来事だったのではないかと、信じられない思いに不安になっては、純ちゃんの話してくれた言葉を、ひと言、ひと言、思い出し、確かめながらもなを、気持ちは喜びと混乱した想いが不安がよぎる。

私は世間で言う「コンカツ」を急がなくては!のお歳頃なのだが、幼い頃から、病気ばかりして来た事で、見てくれがこどもぽっくて、頼りない人間だ!

こんな私の何処を純ちゃんは好いてくれるのだろうか?、美人でスタイルも良いというのであれば・・・そんな自信のない自分の心がうろたえている、あの告白した日から、う、三日も、純ちゃんは、来てくれない・・・

病室の無機質な空間が、突然、嫌で嫌で、たまらなく何処かへ行きたくなる感情を抑えて、気持ちを落ちつかせることは結構大変で苦しいもの、眼に見えない鎖で繋がれているような、閉塞感の囚われるびと的な気持ちになる!

そんな、ある日、実家の両親が、仕事を休み珍しくふたりそろって、病室に現われた、私は何度も入院していることや、今は両親ふたりだけで印刷工場をやっているような状態で、仕事もあまり多くないし、たまに頼むアルバイトの学生も、休みがちだから、時間が取れないと、笑いながら、母は言ってごまかしていた。

やはり仕事が少なくて、経済的にも大変なのだろうと思うと入院費の事では迷惑をかけている事が心苦しい、そんな気持ちを隠して、私は、可笑しくも無い下手な冗談を言っては、親子で会ってもお互いが気まずく苦笑いしていた。

両親の様子から、そんな、冗談めいた話で来たのではない事が、私には、分かっていた。
たぶん、入院費がかさむ為に、そろそろ、退院して欲しい!そう言われるのだとばかり、思っていたら・・・
「あなたは、純ちゃんと結婚する気持ちがあるの?!」

いきなり、びっくりする言葉で、一瞬、私はうろたえたけれど、このような問いを心のどこかで期待していたような気持ちがあった。
「え!、何!、誰から、聞いたの!」その事を言うのに精一杯の気力だった。

両親の話だと、純ちゃんは、五日ほど前に、突然、家を訪ねて来て・・・
挨拶もそこそこに、いきなり、言ったそうだ!!!

「夏湖さんと結婚させて下さい!」
「僕には、夏湖さんが、これからの生活でどうしても必要な人です・・・」
「結婚する事を許してくださいますか?」
「病気の事も体の事もすべて、私が全力を尽して、頑張るつもりです!」
「不安に思われるでしょうね、私の仕事や、収入も不規則だし!」
「家に居られない事も多いですが!」
「もし、もし、許して頂けるのであれば・・・」
「ご両親と一緒に住んでも良いかと考えています!」
「そう計画しているのですが・・・」

やはり、私に言った時と同じように、純ちゃんは、父と母に、伝える事だけ話して、
さっと、急ぎ足で帰ってしまったと、両親は私にその時の純ちゃんの様子がとても可
笑しくて、かわいい笑顔だったと言って笑って、両親は機嫌が良かった。

純ちゃんは、本当はとても照れ屋さんで、自分のことになると極端に口下手になるところが私は好感を持てる存在だ、映画やドラマでの役の上ではどんな恥ずかしい言葉も言える人ですが、いざ自分の事になると、俳優ではなく、極めて、生真面目な人間として、あまりのギャップがあることが不思議だった。

私は、病気がちな体だから、両親が心配する事は充分理解出来る、私自身が結婚を現実の事として考える事ができない戸惑う気持ちがあったけれど、ただ、純ちゃんの言葉が嬉しくて、幸せだった!

★ ★ ★

私の体は、いつ、どんな風に体調が悪くなってしまい、純ちゃんに迷惑をかけてしまうのかが、まず、最初に浮かんで来て、確かに、純ちゃんとの夢として、ふたりで愛し合いながら、一緒に暮せたら、どんなに幸せで素敵な事だろうと、思い、夢見た事も何度かあったけれど、それはあくまでも、夢の中での事なのだと、無理やり、知らず、知らずに、自分に言い聞かせていた事だった。

三十五年生きて来た私の人生の中で、何度、病院へ通い、入院生活をして来ただろうか、
かぞえる気にもなれないほど多かった、確かに、幼かった頃と比べれば、成長と共に
体も元気になって、それほどの欠席もせずに、短大を何とか卒業出来た。

そして、外の会社へ就職こそしなかったけれど、父が営んでいる印刷工場の事務を手伝いながら、やってみたい事や学びたいと思う希望や目的が出来た時は気楽に始めた英会話教室や習い事など体調の悪さを理由にしてやめてしまい学費を無駄にしてしまう事もあったりと、そんなふうにして、三十歳近くまで、なんとなく、病気の事以外はたいした苦労もせずに、ひとりっ子の私は両親の保護のもとで大事にされて生きて来たような気がする。

そして、純ちゃんとの奇跡的な出会いが私『杉本夏湖』のすべての価値観や物事、生きる世界が変わって、感情が豊かになり喜びも悲しみもより深く受け止められるような人間に成長させてくれたのが純ちゃんの存在だと思えるのだった。

純ちゃんとの恋する日々は、私の体の中で、息づき始めた、魔物さえも、戸惑わせる
エネルギーや細胞が活発に働き、私は、一時期は本当に健康そのもの、楽しくて、幸せな時間を過ごしていた。

この五年間は、免疫力も高まり普通の人と変わりのない日常が送れていた、確かに、少しだけ体調を崩しても、入院する事も無く過ごせていた、今年の夏の終わりまでは・・・

純ちゃんはアラスカへ取材の仕事で出かける前に映画出演の仕事を数日で済ませて、帰って来て、真っ直ぐに、私の病室に来てくれて・・・
「カコに、おみやげだよ!」

純ちゃんは仕事がら、地方へ出かける事も多いので、おみやげを買って来るのは「私がやめて!」と言って、「純ちゃんが無事に帰って来てくれる」ことが、一番嬉しいのだからとお願いしていた事だった。

純ちゃんと私は心の駆け引きなどする必要の無い間柄で、常に本心で話す約束しての事だから、おみやげを買って来てくれる事は珍しい事だった。

小さな木彫りでひまわりの花の形のブローチだった、私の手に渡しながら・・・
「もう、北海道の山は、雪が降ったよ!」
「初雪だと、地元の人が言ってた!・・・」
「いつも年よりもかなり早いそうで、今年の冬は寒さが厳しいそうだよ・・・」

アラスカから帰ったら、直ぐに又、今撮影してる映画のつづきで、北海道に行くけど、なんか、忙しいな~、純ちゃんは、独り言のようにつぶやいていた。

その数日後、あわただしく、純ちゃんは一人で、アラスカへ出かけて行った。

九月の中旬だというのに、アラスカはすでに秋も深まっていて、アンカレジの町では雪景色になっていたが、元々、夏の季節でさえも、一日のうちに四季があるほど、天候がめまぐるしく変わるところで、今の時期に降る雪はさすがに、冬の根雪ではない為に、街中では雪は直ぐに消えていた、夕暮れもとても早い!

「李 純輔」ははじめてのアラスカにいても、心の片すみでいつも「杉本夏湖」を感
じながら・・・

けれど、ひとたび、仕事に熱中し、集中力を高めた時、すべてのエネルギーを注ぎ仕事に取り組んで忙しく時間が過ぎて行くのがとても早かった。
「カコ、ゆっくりとお休みして僕の帰りを待っていてくれ!」

★ ★ ★

アラスカの季節は秋から冬にかけてのこの時期、特に天候が悪い日が多いのだと、アンカレジの空港まで向かいに来てくれた、これからアラスカの地で何かとお世話をしてくださる日本人で、アンカレジの大学院で「極地気象学」を長い間研究をしている「伊達聡介」さんがそう説明してくれた。

伊達さんは、この取材の為にとても多くの助言や手助けをしてくださり、素晴らしい方にめぐり会えた幸運に感謝したい、予定していた、極北の町、バローへは飛行機が飛べなくて、諦めなくてはならず、とても残念だったが、純輔の尊敬を抱く人と共に過ごせる事が、大きな喜びだった。

「李 純輔」の敬愛する「高津紳一郎」さんはは医師でもあった!」

もちろん、動物写真家としての活躍は、誰もが知る事だけれど、長いアラスカでの生
活の中で、多くの矛盾を感じている事もあるとも話してくれた。

アメリカ合衆国の中で、アラスカ州は、石油が出るために、多くの土地を、理不尽な
開発を進めて、「エスキモーの人たちやアラスカインディアンの人たちなど」大昔から
そこに住み、生きて来た人たちを立ち退かせて開発を進めた。

その事で生活を保障する為、アメリカ政府は、そこに住んでいた人たちにお金を渡す
事になり、その保証金によって、仕事をする事を忘れてしまい、アルコール中毒や麻
薬に手を染めてしまう者が多くいる事が、心が痛むのだと語った。

確かに、アメリカと言う国は、自由で、恵まれた国だ!
純輔のアラスカでの取材は限られたわずかな期間で進めなければならず、だが、アラスカの大自然が相手だ、予定や計画などに振り回されては何の取材も出来ないし進められない
けれど、大自然の美しさや厳しさを改めて知った、この地の繁栄の影に、又、世界一の経済大国の今を守る為に、光り輝く裏側には、救いようの無い犠牲者の姿が隠されていた事を知って、純輔は複雑な思いになった。

高津さんは、アラスカエスキモーや現地の人々の生きる場所と引き換えに受け取った保証金を使い果たし、生きる事の迷いから、薬物やアルコールに依存して、行き場をなくした人々を救うボランテア団体の手助けを医師として出来る事をしていると話していた。

アラスカに憧れて、大好きなアラスカに住んでいながらも、矛盾を感じて心が痛む事多くもあり、人が生きて行く難しさを感じているとも語っていた。

アラスカでの最後の日は高津さんのお宅にご招待を頂き、フェアバンクスの町から少し離れた、静かで、深い森の中に、たった一軒だけのお宅で、アラスカインディアンの原地の女性とご結婚されて、おふたりで暮していた。

奥様の手料理をいただきながら、二人で、お酒を酌み交わしながら、たくさんの貴重な話を聞かせて頂けた事が、純輔は、とても感動し、言い知れぬ思いになった。

特に、今、現在も、人のすむ街から遠く離れた森の奥に住んでいる、一人の日本人女性の開拓者精神を貫きながら、ある意味、冒険的な暮しをしてる五十代の女性いて、とても素敵な生き方の話を聞いてみて、とても驚きと感動でお会いしたい人だと強く感じた、素晴らしい話だった。
<この女性が純輔ののちの人生に大きくかかわりを持つことになるなど思いもよらぬことだった>

今頃の時期は夕暮れも早く、ここの森は街明かりの届かない、暗く深い森の中にある!
だから家の庭からでも、オーロラを観る事が出来るのだが、今年は天候が不順で、とても寒い日があったり、そうかと思えば真夏のような暑さと長雨で、生活が大変だよ!と高津さんは笑いながら・・・「オーロラ、観せてあげたかったな~、本当に残念だよ!」
といいながら、高津さんの写したオーロラの写真をプレゼントしてくれた。

「オーロラ銀色の虹 天空をうねりながら」
「君のいる街へ届け 光の橋をわたる彩りの舞」

★ ★ ★

取材と与えられた時間の中で忙しく過ごしたが、高津さんや伊達さんと過ごせた、アラスカでの日々が、忘れられない貴重で、純輔のこれからの生き方に大きく影響を与えてくれる、素晴らしい体験が出来たと感じ、感謝の気持ちで純ちゃんは日本に帰国した。

だが、この高津さんとの出会いが、純ちゃんの人生が大きく変わってしまうほどの大変な出来事が待っているとは、その時の純ちゃんにも、私、カコにも、全く、気づいてはいなかったし、予測も出来るような簡単な事ではなかった。

純輔の大きな目的だった、アラスカの極北の町、バローをたずねる事が出来なかった残念さは残ったが大きな心の財産が得られたと思える旅だったと、純ちゃんは、少年のような純粋さを見せて、興奮気味で、次々と私に話している姿を、私は新鮮な気持ちで新たな感覚を発見して純ちゃん別の才能を観ていた。

アラスカから帰って直ぐに、北海道へのロケに出かけて数日後、やっと、時間が出来
たと言って、嬉しそうに、私の病室を尋ねて来てくれた純ちゃんはまだ、アラスカでの体験した感動が覚めやらぬかのように、珍しいほど、饒舌に、ひとしきり話して、気持ちが落ち着いたのか、又、旅の疲れなのか、いつものように、この病室の小さなソファーに、純ちゃんの長い足を折りまげて、丸くなって寝ている姿、純ちゃんの無防備さは香しさと愛しさと切なさを感じて、その純ちゃんのどんな演技よりも、カッコイイ姿だと思える私の大好きな姿だ!

強い愛情と幸福感はすべての考えや現実を見ない盲目的なまでに狂おしい感情の高まりを抑えられずに、私の動きの悪い体で、嬉しさと安堵感と切ないほどの感情が揺れ動いて、そして悲しみ広がっていく心を包んで涙が流れた。

いつの間にか、私が気づかぬうちに、純ちゃんは目覚めていた。
純ちゃんは、落ち着かない雰囲気で、私の顔を節目がちの美しい瞳で微笑みながら私を見ては、次の動きをどうして良いのかが、分からない!、そんなふうに、無意味にからだを動かしては・・・突然!

「カコ!どうする!、」 
「僕を拒否しないよね!」
「僕には、カコ!絶対に、必要なんだよ!」
「カコがそばにいてくれるだけでいいんだ!」
「僕~さあ~もうこれ以上は~待つのは嫌だよ!」

まるで、照れ隠しのように、そう言って、すぐに、忙しく、病室を出て行ってしまった。
私は、何も話せず、応えようがない、ただ、理解出来ない不安が、体の奥のほうから感じた気がした。

それから、毎日のように、純ちゃんは、私のそばに来てくれる、仕事が終わると、どんなに遅い時間であっても、ナースセンターを避けて、誰にも見つからないように、そーと、部屋に入り、音も無く、私のベットの脇で、しばらく私の顔を見ていて声もかけずに又そーと帰って行く・・・ただ、私のそばにいて、私の顔をみつめる!

時には、そっと、私のおでこにくちづけをして、そして、私に唇を重ねて、耳元で言葉を囁き去って行く純ちゃんのカッコ良さで私は体を熱くする・・・
私は、今、病気でこんな状態だから、自分からは、どう返事をして良いのか分からないのが、不安で真実の気持ちだった。

結婚を夢見る事は、とても幸せな気持ちだけれど、健康で、非のうちどころのない男性の純ちゃんの妻として、私は、ふさわしい人間ではない事が、誰が見ても分かる事だった。
私の両親も同じ考えだったから、こちらから、どうすればいい・・・

「結婚」

私はこの言葉を言い出せず、想いだけが深くなり、時間だけ虚しくが過ぎて行った。


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逢いたくて<永遠> 4 (小説)

2013-10-20 10:15:53 | 逢いたくて<永遠> (小説)


★愛と熱情★

いくら、口下手な、純ちゃんでも、カコが何の答えも出さずにいる事に心が乱れて、気持ちの抑えようがなく、不安とはやる想いでもう限界だったようで!
「カコ、この前、渡した指輪を返してくれないか!」
「カコは、ぜんぜん、返事してくれないから・・・」
「僕が決めるよ!」

そう言って、病室の窓べに立って、純ちゃんは、大きく深呼吸してから、私が手渡した、指輪を受け取った。

その次の瞬間!、純ちゃんは、いきなり、私の左手を握り!
「薬指に、僕が指輪をはめて上げる!」
「これが、僕の、君への想いだから!」
「僕は、何があっても、カコと結婚する!」
「だから、カコはそのつもりでいて・・・」
「絶対に、この指輪をはずさない事!」
「僕とカコの約束だからね!」

そう言って、私を抱きしめて、そして、頬にキスをして、静かにそっと、ふたりは、
唇を合わせた。

その瞬間、ふたりの真実の愛を確かめあった!

純ちゃんは、私にひとことの言いわけの言葉をする事も許さずに、優しく、抱きしめ
たままで・・・
「もう、何も心配せずに、僕に任せてくれるね!」
「これからはいつも、一緒にいよう!」
「辛い時も、君の痛さを受け止めてあげるから・・・」
「苦しい時、悲しい時、我慢せずに、僕の胸で泣いていいんだよ!」
「カコと僕とですべてを支えあえばいい!」

抱きしめてくれる、純ちゃんの美しく鍛え挙げた厚い胸の力強さ、すこし痩せたのか、ふと、見てしまった、隆起した太い喉仏がまれに見る男性の肉体の美!今の私には、眩しくて、少し苦しかったけれど、何か不思議な力が、私の体に伝わって来たように、何もかも忘れられた、幸せと喜びに涙があふれて止められない、純ちゃんに気づかれないようにうつむきながら、すこし、恥ずかしい想いと女としての喜びを感じて・・・

私のみじかい生涯の中で一番幸福で、心が喜びにあふれて、今、見えている世界が美しくて、虹を描くように、こんなにも素晴らしく素敵に感動出来る瞬間があった、あの時間を忘れる事が出来ない!

私の感情と体と血潮は燃えるように熱い流れを感じた。
純ちゃんの行為は、私に強引なまでのプロポーズをしてくれる情熱!

どんな病でも純ちゃんの熱情とエネルギーによって、退散せざるを得ず、あの日、純ちゃんから受けた不思議な力は、しばらくして、私の体調はどんどん快復して病院を退院する事が出来た!!!

それはまるで、純ちゃんからの愛のエネルギーが私の体に注入されたように、不思議なほ
ど元気に、心も体も健康になったと実感出来る、そう感じる事でした。

あんなに、体じゅうが重くて、痛くて、鉛が私の全身を覆い尽していたように、なんの感覚も無い、もう、これ以上は吐き出す物がないと思うほどの苦痛や疼きと全身を這い歩く痒みが不快感で気が狂いそうなほどの辛さが無い!
「やはり純ちゃんは、私の守護天使なのでしょうか~」

そんなふうに思えるほど、私「杉本夏湖」には心にも体にもたくさんの奇跡を与えてくれる特別で素敵な人なのです。

いつだって私を守ってくれる守護天使、その人の名前は『李 純輔』

けれど、直ぐには、結婚出来るほど、今の私にはたやすい事ではなくいくつもの問題をかかえていた。

純ちゃんは、男一生をかけられる仕事として俳優を選んだ、だから、その為の大きな目標である、ハリウッド映画出演の為の書類審査が通り、ロサンゼルスで、一次,二次、の、オーデションがあり、アメリカへ行く予定が近づいていた、その為の滞在期間が、果たしてどの位になるのかが、はっきりしていなかった。

もちろん、純ちゃんは、海外で仕事をする為の契約している選任のマネージャがいるわけではなく、アメリカでの予定はすべて、純輔自身が進めていく事になる。
日本での仕事であれば、契約しているプロダクションがあるけれど、友人の俳優が、社長兼俳優という、小さな事務所だから、もちろん、ハリウッドへの挑戦は、賛成はしてくれていても、現実に、純ちゃんの手助けを出来るほどの組織ではなかったし、経済的にも、事務所がすべて応援できるほどの良い経営状態ではない事が、純ちゃん自身が良くわかっていた。

純ちゃんが、所属している事務所の社長は、純ちゃんが新人の時に、出演した映画
『美しき人の海』で演じた、「純朴で平凡な田舎の青年」小さな役だったが、俳優としての才能にほれ込んでいた。

純ちゃんが所属している事務所の社長は、昔の演劇仲間であるけれど、物事の考え方や価値観が似ていて、そして時には意見の食い違えで口論、議論することもあるけれど、互いの人格を認め合えるそんな演劇仲間だ、少しだけ、俳優としてのデビューが早く出来た友人の「佐木優作」が立ち上げた事務所で、純ちゃんを支援してくれている、男気のある豪快な人だった!

もう十年以上も前の事だけれど、純ちゃんが俳優としてデビューしても直ぐに多くの仕事があったわけではなかった、経済的に難しい時でも、純ちゃんの才能を認めてくれていたので、よほどの事が無ければ、アルバイトをせずに、俳優としての準備をするようにと言って、最低限の生活の保障をしてくれた事で、贅沢は出来なかったけれど、つつましい生活の中で、たくさんの演劇や芸術の本を買い、読んでいた。

時には、アパートの大家さんが、冗談のように言ってた!
「全く、この部屋は、本の重みで、かたむいちゃうよ!」
「早く、引越しするか!」
「純輔クンが大スターになって、このボロアパートを買い取ってくれなきゃね!」
「それを、楽しみに待ってるんだから!」
「この家を大豪邸に建て替えておくれよ!」
気さくで、粋な、女主人の大家さんのいつもの口癖だったそうだ!

私と出会ってからは、所沢の小さなマンションに越して来る時も、とても、寂しいと言いながら、「応援してるよ!」、見守ってるから、頑張るんだよと、何度も言って、名残惜しそうだったと聞いている。

純ちゃんは、自分の家族の事や故郷の事をなぜか、あまり話そうとしなかった、けれど、その心の中では寂しさを隠しているように思えてカコは気になっていた。

だから、私の両親は、少しでも、純ちゃんの寂しさがまぎれるのであれば、親代わりになりたいと、言葉には出さなかったけれど、私の両親は気づかっていた。

ただ、時々、極まれに、実家があると聞いている、住所から、心温まる贈り物が届いていた、私はまだ、一度も、ご両親に会わせてはもらえなかった、けれど、あえて、純ちゃん
は言葉にして、私に説明があったわけではない!、私は純ちゃんがご両親の事を自分から話してくれる時期がいつか来るだろうと思っている。
今は、純ちゃんの愛を信じて、私はすべてをゆだねたいけれど・・・

★ ★ ★

私自身が、純ちゃんと結婚なんて無理、結婚出来る人間ではないと心の中で、いつも、思っていた事だから、純ちゃんのご両親やご家族に会えなくて、当然なのだと思っていた。

純ちゃん自身から、故郷の実家に帰るとか、帰郷したと言う話は、私とのお付き合いを始めてからは、聞いた記憶が無かった。

けれど、純ちゃんと私がもし結婚する事になれば、否応無くご実家との連絡やご家族とお会いせずにはいられない現実がある。

その事で、純ちゃんの「結婚相手」が、こんな私で良いだろうかと!、漠然とした不
安が際限なく広がって行った私は見えない不安におびえて・・・

そんな頃、純ちゃんは、今、ハリウッドへの出発準備と国内での仕事のスケジュールが一杯で忙しい状態だった、毎日、必ず、時間を見つけては、電話をしてくれて、声だけは聴いていても、結婚への準備を始める事が私は出来なかった、だから、私は、純ちゃんに提案した!
「純ちゃんとの結婚をお受けします!」
「けれど、今は、純ちゃんは、ハリウッドへの準備を優先しましょう」
「ハリウッドでの出演が決まった時に!」
「私も一緒に行けるように!」
「元気で、健康な体になれるようにします。」
「だから、今は、私の事を考えずに!
「仕事やハリウッドへの準備に専念してください!」

そう言って、純ちゃんに納得してもらいながらも、気持ちの何処かで、純ちゃんへの裏切りのような、不安と居心地の悪い、不思議な感情が、常に私につきまとっていた。

なんとか退院は出来たけれど、私の体のどこかで、嫌な何かが棲みついているような気分がいつもしていて、落ち着かない感情が揺れ動いてしまう!

まるで、私の心と体がガラス細工の置物のように不用意に触れてはいけないような危険感があるように思える嫌な感情だった。

相変わらず、純ちゃんからは定期便のように電話は、何度もある!
ひとりで旅立つ事の不安感があるのか?・・・
「カコも一緒だったらいいんだけどな~」

純ちゃんにしては珍しく、愚痴も言ったりして・・・

もう何年も前から、英会話を話す機会を多く取り入れるなどして準備していたが、やはり、すべてが英語で話し通す事はかなり苦労があるようだった、英語から母国語である日本語に置き換えるのではなく受けた言葉を直で英語を理解し、英語で話す、頭では分かっていても幼児期から身についてしまった母国語の言葉の感性を入れ替える事はそうたやすい事ではない!

そんな時、私が健康で元気な体であったなら、何かしら手助けが出来るのだろうと考えては、悲しい思いで苦しく、申し訳なさで、気が滅入る自分が又なさけなくなる。
そんなある日、純ちゃんからの電話で!

「今、飯能の駅に着いたけれど、迎えに行くから、時間が無いので、出かける支度を
して待っていて!」

「ごめん!、いつも急がせてばかりで!」
「今日は、カコのご両親はいる!」

そう言って、純ちゃんからの電話は切れてしまった、何があったのかしら?
今から我が家に来て、直ぐに出かける?

行き先も言わずに、切れた電話を手にしたまま、しばらくは何をどう準備して良いのか、鈍感な私は思いつかなかった。

ふと、純ちゃんの御両親に!そんな思いもしたけれど、その事であれば、きちんと話してくれるはずだし・・・
「出かけるから!」

確か、そう言ってた!じゃ~何処へ行くの?、着ていく服をどうすればいいの・・・

短い間に、思い悩んでいても、考えがまとまらず、時間はあっという間に過ぎて行く、気ばかりが焦って、何も決まらない!愚図な私の情けない姿に、母はただ、急いで、急いでと急かせるばかりで、どうしてこうも親子でダメな女なのかしら・・・

そして、純ちゃんは十分くらい過ぎた頃、家の前まで走ってきたようで、息を弾ませながら、玄関の扉を開けた、そして、真剣な眼差しで!私の両親の前で正座をして、挨拶をしてから、急に改まった表情で・・・

「お父さんお母さんにお願いがあります!」
「すみませんが、今日は、夏湖さんを、責任もって、お預かりしたいので、お許しく
ださい!」
「あす、僕、アメリカに行きますので、今日は夏湖さんと一緒に過ごしたいのです!」
「ただ、一緒にいたいだけです!」
「気をつけて、大切にしますから!」
「今日、泊まる場所は、所沢の駅前のパレスホテルです」
「あすの朝には、家にお送りしますから・・・」
「あすは、成田までは、僕ひとりで行きますから、もう、荷物も送りましたので・・・」
そう、一方的に話して、両親が何も答えられずに混乱した、落ち着かないようすで、いると、
「すみません!、すみません!驚かせてしまいますが!」

そう言って、はにかむような、微笑む笑顔が、とても美しいと私は、ただ、純ちゃんをみつめていた!

これから過ごすだろう時間は純ちゃんにすべてをゆだねて!!!

どんふうに純ちゃんが私に接してくれるのか、まるでぼんやりとした絵画を見るような?、それでいて、瞬間的に想い描くふたりの姿!はっきりとした何かを考えられるほどの恋愛経験の無い私は、純ちゃんのこんな表情をする姿が、私はたまらなく好きで、恋しくて愛しさを強く感じてしまう、そんな瞬間だった!!!

「純ちゃん!、私、貴方の奥さんになれたら、どんなに幸せな事でしょう・・・」

そんな想いを心で伝えながらも、私のこの胸の奥で疼く痛みがなんなのか・・・
今、私はこんなにも幸せで心が震えてしまうほどなのに・・・

両親は、「ダメだ!そんな、非常識な事!、を許せると思うか!」

たぶん、心の中では、そんなふうに言っていたと思うけれど、私や淳ちゃんに対して、何も言わずに、嫌な顔もせずに私を送り出してくれた、私は純ちゃんの励ましで体調が良くなって、退院したとはいえ、病気が治ったわけではない!

又いつ、体調が悪くなるか分からない、不安な私の気持ちを察してくれた両親の配慮が嬉しかった,純ちゃんは、自分の車を持たないから、殆どが、電車やバスを使うけれど、今日は私の事を気づかい、私の家から、所沢のホテルまでタクシーを使った、今は、少しでも
節約し、アメリカ滞在に備えが必要な時だから、私の為だと言う、申し訳ない気持ちとありがたい思いで揺れていた。

純ちゃんは、今、ハリウッド映画のオーデションを受ける為にアメリカへ行く!お金はとても大切に使わなくてはいけないのに、アメリカ滞在が果たして、どの位の期間になるのか?二次、三次と、そして、最終に残れる自信はあるのだろうか、大体の計画つくりを考
えて、国内の仕事を入れずに、一定期間は無収入になるわけだから・・・

そんな事を私は、ちまちまと考えていたし、アメリカでの生活がどんなものになるのかが、私には想像もつかなかった、ただ、不安な気持ちと、混乱する今、現在の状況が、わけの分からない興奮と、緊張した感情が小刻みに揺れている自分の心がと体が緊張して、ふらついてしまい、めまいがする、胃の痛みがすこし、痙攣してるように・・・

どうしてこんな時に、こんなに幸せな時間だというのに、私の体は無慈悲にも私の心情とは裏腹な動きをして、私に意地悪してる!
「ごめんなさい、純ちゃん、こんな私を愛してくださり・・・」
「とても嬉しいし、幸せなのよ、貴方について行きたいわ~」
「何処までも、貴方の心が、嬉しい!!!」
そんな想いが繰り返し、繰り返し、浮かんでは、揺れ動く心・・・

★ ★ ★

通り過ぎて行く街の風景も、私にはただの風の中に消えて行く景色にしか見えないし、眼にとめられないほど、緊張と混乱の中で、車窓を見て、何かを考える気持ちの余裕さえなかったのだと思う。

家を出て、どの位の時間をタクシーが走ったのかさえも分からないままで、ホテルに着いた、気がついた時、私は、純ちゃんの後をよろけそうになりながら、ついて歩いていた、
私のそんな姿を見て、純ちゃんは私に駆け寄って来て私を支えながら・・・
「ごめん!驚かせてしまったね!、」
「今日一日は、僕にすべてを任せて!」
「僕に甘えてほしいんだよ!」

エレベータを降りてからも、ゆっくりと歩きながらそんな言葉で話しかけてくれた、そして、いきなり私の腕を取り!部屋の扉を開けて、私を抱き上げるようにベットの上に運んでくれて、そっと寝かせてくれて、そして私の耳もとで囁いた!
「疲れただろう!」
「すこし、お休み、僕は隣の部屋に行ってるから・・・」

そう言い、部屋を出て行った、純ちゃんの後姿はなぜか寂しげに見えて、私は心が痛かったけれど、私の気持ちは少しだけ気が楽になり、ベットを這うようにして、靴を脱ぎ、少し、眼をとじて、からだを休めるしかなかった。

隣の部屋でしずかに待っている純ちゃんは、何度か、音を立てずに、そっとドアーを開けて、私の寝顔を見ていたようだったけれど、どの位の時間、私は休んでいたのか、やっと浅い眠りから覚めると、純ちゃんは、私が寝ているベットの横で微笑みながら・・・
「姫はお目覚めでしょうか!」
「僕はとてもお腹がすきましたが!」
「姫は大丈夫でしょうか?」
「そろそろ、起きていただけましょうや、姫!」
「お出かけのお時間でございますが・・・」

純ちゃんはそんなふうに、おどけた口調で、私の心と体の緊張をほぐしてくれた。
お昼の食事のはずが、お昼の時間をかなり過ぎてしまったけれど、純ちゃんは、ニコニコと笑顔で、私の手を握りながら歩いて、ホテルからさほど遠くない場所にあるレストランに案内してくれた。

その、純ちゃんの横顔があまりにも美しくて、私は、又、胸が高鳴り苦しくなるほど、嬉しさと、幸せな想いと緊張した心が・・・

普通なら、この時間は、お店の昼の営業時間過ぎているのだろうか・・・
「準備中」の看板が出ていた!

純ちゃんは、そんな事も気にもせずに、扉を開けて店の中へ私を案内してくれた、午後の光が眩しいほどの街の空気とは別世界の静けさがそこにはあった。
『今日一日だけは、僕の奥さんなのだから、ちゃんと、腕を取り、歩こうよ!』
『いつか、本当に僕の奥さんになった時の練習だと思えばいいよ!』

そっと、けれど大胆に、私の耳元で、囁いた。
私はもう、声も出ないほどの緊張と感情の昂ぶりで、倒れてしまうのではないかと思うほどの状態だった。

純ちゃんはゆっくりと私にあわせて歩いてくれているのが分かるけれど、私はどうしても足がもつれてしまい、上手く歩けない!

やっと、案内されたテーブルに着き、ウエイターさんがほんのすこしの時間、私たちから離れた瞬間、純ちゃんは、私の手にキスをして、微笑んだ!

純ちゃんの私に対しての接し方が今までになく大胆で、いつもの純ちゃんとは違う事が私を益々緊張させて、私の取るべき態度に戸惑いながらも、幸せな想いは胸を高鳴らせて苦しいほどだった。

やはり、そこには若く端正で、はつらつとして健康な男性の姿の純ちゃんがいた。

お店の広さは小さめだけれど、ほど良い空間が広がる、センスの良いヨーロッパ的な雰囲気を取り入れたインテリアが、落ち着いた色彩で、適当に光を抑えていて気分の良い雰囲気は少しだけ私の気持ちを楽にしてくれた。

私たち以外は、お客さんがいない!、静かで他人に対して気兼ねする事の無い店内は、純ちゃんと私だけの空間!

低く抑え気味に話す声だけが広がって行った、もっとも、殆どは純ちゃんが話し、私はあいづちを打つ程度の会話で、たぶん、純ちゃんは、こんな私が不満だったろうと思う、けれど、私には不慣れな場所で、純ちゃんとの今までのデートを出来る場所は、いつも私の家か、公園のような落ち着いた、広い場所!そして一番多く、ふたりで過ごせたのは、私の入院していた病室、確かに、体調が良くて、小旅行として日帰りのドライブも一~二時間で行ける近い場所だった。

それも、渋滞時間を避けた平日に純ちゃんの仕事がない日に出かけていた。
そんな時の会話もたいていは純ちゃんが話し、私は聴く側にいる事が多かった、私はそんな情熱的に話す純ちゃんの姿がとても大好きで幸せなひと時だった。
いつだったかだいぶ以前の事、純ちゃんが何気なく言った一言を思い出していた・・・
「カコの夢を僕に話してくれないか?」
「僕はカコがどんな夢を持っているのか聴いてみたい!」
「その夢に向かってカコと僕とふたりで頑張るんだよ!」

そんな話を今思い出して、改めて自分の置かれている状況が悲しかった、もう、あの頃に戻れないのではないかと不安がつのる・・・
食事の前に、純ちゃんから、何気なく聴いた事だったが・・・
「ホテルで、カコがよく眠っていたので、予約時間をずらして貰っらったよ!」
「店が準備時間になってしまうけれど、心良く、引き受けてくれたのだよ!」

そう言いながら、純ちゃんは、かなり空腹を我慢していたようで、思わず、お腹の虫が鳴いた気がした。
「ゴメンナサイね、いつも、私の我儘につき合わせてしまい!」
「これでは、純ちゃんの奥さんの役が務まらないはね!」

と言おうとして、私は言葉を飲み込んだ!

ふたりでの食事はランチコースメニューだったが、私は、正直、緊張していたのと体調が少し変だった事で、出てきたお料理の半分も食べれずに、申し訳ない思いで、純ちゃんに食べてもらって、最後のデザートのアイスクリームは美味しく頂き、やっと、純ちゃんの安心した笑顔をみる事が出来た。

食事が済んで、ゆっくりと歩いてホテルまで戻って、何をするでもなく、時間だけは過ぎていたが、純ちゃんが突然、私の手をとり・・・
「ちょっとだけ、僕とダンスをして!」
「カコは僕にからだを預けるだけでいいから・・・」
「疲れないように、僕に寄り添っていてくれればいいよ!」

そう言って、ダウンロードして来ていた音楽を、イヤホーンの片方を私の耳に優しくつけてくれて、私の両手を静かに自分の肩に回してくれて・・・

あの懐かしい曲『she』を純ちゃんのリードに合わせて何度も踊った。

ダンスの後、私ひとりをベットで休ませてくれて、純ちゃんは少しの時間、ベットの脇にいて、アメリカでの生活の事を少しだけ話して、照れながら、純ちゃんは、英語の台詞を言って聞かせてくれてる、この大切な時期に何の力にもなれなくてごめんなさい!

私も、ほんの少しだけ、純ちゃんのセリフを理解出来たけれど元々、英語に通じていたわけではない、短大時代に少しだけ、英会話を勉強したが殆ど身についてはいなかった。

その事を思っただけでも、純ちゃんの頑張りは、本当に凄いと、改めて感動し、尊敬していた、夕食は、軽い物を部屋に届けて貰い、ふたりで、ワインでカンパイしたが、私はグラスに口をつけただけで、飲むことは出来なかった。

シャワーをそれぞれが済ませて、私は髪を乾かして終わって、イスを立った時、いきなり私を抱き上げて、ベットに運んでくれた!

私は、一緒に、ホテルに泊まるわけだから、ある意味、覚悟はしていた事だったけれど!
純ちゃんは、私をベットに寝かせてから、静かに、私を引き寄せて自分の胸の中へ招き入れた!
そして、私に、唇を重ねて、キスを、何度も・・・
でも、それ以上の事はせずに、私を抱き寄せただけで・・・


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逢いたくて<永遠> 5 (小説)

2013-10-20 10:15:03 | 逢いたくて<永遠> (小説)

 ★愛の時間★

ふたりだけの世界、閉ざされた空間、聞こえるのは二人の胸の鼓動だけが波打つ、しばらくはふたり、みつめ合いながら、時には彼の唇が私の唇を覆い包み込んで長いキスをして、彼は私の体のすべてを胸の中で抱きしめながらも・・・

純ちゃんは、私に対して、それ以上の行為はせずに、抱きしめてお互いの鼓動をきく、私は苦しいほどの息遣いを純ちゃんに悟られないように、でもそれは無理なことだった,私は純ちゃんにすべての自由をゆれされないほど、純ちゃんの胸の中に抱けれてる・・・

彼の愛情表現は健康的な欲望も抑えているように、一瞬、苦しげな厳しい顔になって、静かに、私から離れて行った。

そして、まるで、嘘のような、冗談のような言葉で!
「姫!、もうしわけございません!」
「大変失礼な事を致しました!」
「この上はどのようなご処分を受けましても・・・」
「甘んじて、お受けいたしますので、・・・」
「どうぞ、充分なご処置を、お授けくださいませ!」

純ちゃんのそうな冗談めいて言葉は照れからくる言葉だけではない苦しみと私への優しさから出た事は鈍な私でも気づいてる、けれどそんな姿が可笑しくもあり、切なくて悲しくもあり、私は、どんな言葉で返事すればよいのか?

世間で言う、三十七歳、男盛りの健康な肉体の純ちゃんのこのようなしぐさは、すべて私の体を気づかう愛情の深さだと、私は分かっていたから、こんな時、切なさと申し訳ない気持ちでつらかった。

私は純ちゃんにどう接し、言葉を交せば良いのか、とっさの言葉も考えも浮かんでこないふたりのぎこちない空気だけがこの部屋に漂う・・・

その時、もう二度とこんな辛い思いを純ちゃんにさせてはいけない!私は固く決心してわたしはどんな事をしても、健康な体になって、純ちゃんの本当のお嫁さんになり、私のすべてを捧げたい!!!
『何の気遣いも無く愛し合えるふたりになりたい!』

その願いが叶う時は、きっと、純ちゃんのアメリカから帰国した時なのだと、純ちゃんの心に添う事が出来るように私、頑張るからね!
『純ちゃん、その時まで、待っていてね!』

そう、心で、約束した時、不思議なほど、純ちゃんから、力強い元気さが私に伝わって来た、そんな気持ちがして、心も体も強くなったように感じた!

次の日、私を家に送り届けてから、純ちゃんはひとりで、アメリカへ旅立った。
アメリカ合衆国、ロスアンゼルスは、初めての地であっても、純輔は観光などするどころではなかった,ロスについて直ぐに、緊張の続く中で、二次、三次と、オーデションが進み、純輔は幸運にも最終のオーデションにも、合格出来た。

映画の主役ではないが、とても重要な役を引き受ける事になった。
ハリウッド映画「遠い祖国」は、ある、有名な監督のもとで、多国籍の俳優が出演する作品だ!
主役は、日本からアメリカへの移民2世の女性と白人男性とのラブロマンスを軸に、太平洋戦争によって愛を引き裂かれる苦難の日々を描くものだった。
「李 純輔」が演じるのは、主役の女性の兄の役だった。

子供時代は、在米日本人の子供が演じ、純輔は太平洋戦争前のボストンで大学に通う大学生からの出演だった,三十七歳の純輔ではあったが、さほど気にならない大学生の姿であった。

もちろん、その頃の日本の大学生のように学生服を着るわけではないので、一九三〇年頃のアメリカの大学生の生活を描き、大学を卒業し、父が営む、工場を継ぎながら、戦争によって、強制収容所での暮らしで、家族を守るために、自分の考えや思想とは裏腹な生き方を強いられて、アメリカ人として、戦場に向かい、又、間接的ではあるが、長崎に落とされた核爆弾の移送にも関わり、その事で多くの同じ民族である日本人を殺してしまった事を苦しみながら、アメリカで戦後を生きる人間を演じた。

精神的にも本当のアメリカ人としてもなじめず、日本人としても生きられない事の苦しみ、戦争での死への慄然とした恐怖や心の葛藤、混乱する精神状態を描く、二十代から、五十代までを演じた、純ちゃんの素晴らしい演技は、映画の公開前から、アメリカは元より、日本のマスコミの話題になって広く伝わって行った。

純輔の出演する映画『遠い祖国』の企画進行がとても特殊な進め方だった。
ハリウッド映画ではとても珍しい事だけれど、純輔はオーデションに受かって直ぐに出演契約を交わし、その後直ぐに撮影が始まるという、異例な事つづきで、当然の事ながら、純輔は日本へ一時帰国する事も出来ずに、1年以上、準備期間や撮影が続き、とにかく過密スケジュールで,映画「遠い祖国」の撮影が終わり日本へ帰国するという事態をのりこえて純ちゃんは日本へ帰国できた。

言葉や生活習慣そして、映画撮影の進め方の違いに戸惑いながら、その繊細な精神性から、人づきあいの苦手な、純輔は、いくつもの、神経ハゲが出来て、神経性の胃炎を何度も繰り返しながらも、強い精神力と集中力で乗り越えて行った。

演技者として素晴らしさと人間性を認められて、少しずつ周りの人たちが味方になってくれる事も増えて、長い一年の日々に最善を尽して、純輔が出演する場面の撮影が終了して、ひとまずは帰国する事が出来た。

帰国しても、一年以上、日本での仕事をやっていなかった分、日本で努力をしなければならず、又、ハリウット映画に挑戦した事を、マスコミにもかなり知られて行き、インタビューなどを受ける回数もだんだん多く成って行き、過密なスケジュールでの日々は、さすがの純ちゃんも体力、気力共にぎりぎりの状態だった。

純ちゃんの帰国を待ちわびていた私は、純ちゃんのいない間に、自分ではとても頑張ったと思うけれど、相変わらずの体力のない、やせっぽちの体だった。
純ちゃんがアメリカに行く前に心で約束した事!
「本当の純ちゃんのお嫁さんになる為の努力!!!」

約束を守るために、プールへ通い、プールの中を歩いたり、自宅の近くをゆっくりと走ってみたり、時には母とふたりで電車で高麗まで行き、日和田山を少し登った、胸の苦しさも母がとても嬉しそうな笑顔と「もう少しよ、頑張って!」と、かけてくれるひと言が私を勇気づけてくれた。

私は、幼い頃から病弱で母に心配ばかりかけて来た、それが、純ちゃんに恋した事で、どんな事でも、前向きに物事を考えられる娘の姿が輝いて見えると言って、父も母も喜んでくれていた。
母はどんなに自分が大変な時も明るく笑顔でいてくれる人だ!

私は本当によく運動をした、又、基礎体力のつく、漢方薬を飲み、食事に気をつけて、健康に良いと考えられる事すべてにトライして頑張って来た一年間だった。
純ちゃんに逢えない寂しさを体を動かす事でながく感じる時間をやり過ごすことが出来た。

だが、私の体は、ひどく免疫力が低下している為に、紫外線にとても弱くて、完全防備の厚化粧をしての外出であっても、時には、紫外線火傷をして、特に顔が、お岩さん状態になって辛い事も何度かあった。

けれど、辛く、苦しい時はいつも、純ちゃんの頑張る姿を想いながら、切り抜けられる自分が不思議なくらいにどんな事も耐えられた、その成果が出て来たのか、食事も少しは多く食べられるし、体調が悪くて寝込む事も少なくなって来ていたと自分では思っていた。

純ちゃんは帰国してからも、電話で話す以外には会えずに、テレビの芸能ニュースなどで、インタビューを受けている姿を観られるだけだった。

けれど、やはり、純ちゃんの素敵さと共に、健康的で男性としての魅力と共に男としての本能を垣間見る瞬間が、何度もあって、私の心が複雑に絡み合う、これが嫉妬する気持ちなのだろうか、美しい女性インタビュアーとの会話は、私といる時の表情とは少し違っている純ちゃんの姿にどうしても感じてしまう自分の惨めさとジェラシーを感じる自分の狭い心が悲しかった。

おそらく純ちゃん自身が気づいてはいない、男としての本能がそうさせる動きや感情のあらわれなのだろう・・・

純ちゃんの、ほんの一瞬だが、野獣のような目を輝かせて、私には見せた事のない輝く瞳を見た時、女としての性を嫌と言うほど感じてしまう・・・

純ちゃんの少年のような無防備な眼差しと大人の男の本能がよび覚ます感情から!私は純ちゃんの心の中をのぞいてしまった気がした。

純ちゃんは、自分自身も戸惑いを感じても立場上なれぬ日常に追われる、ともすれば自分を見失うほどの精神状態を必死で目の前にある仕事をこなしていた。

時には疲労感から、私の知っていた優しい彼の姿ではなくなったような厳しい顔になる、忙しくスケジュールに追われた生活だった。

そんな状況の中でも私に逢う時間をなんとか作ってくれて、我が家に来てくれて、両親に帰国の挨拶をしてくれた。

いちだんと素敵さ、かっこ良さ、洗練された人間として、やはり、純ちゃんを眼の前で見て、言葉が出ないほど心が弾んで、感情が昂ぶる想いで嬉しかったけれど、一年ぶりに逢えたふたりにとってあまりにも切ないほどの短い時間だった。

ほんの一年前まで国内で、さほど有名でなかった目立たない映画俳優が、ハリウッド映画に出演して、しかも、準主役級であることが、芸能界やマスコミがほおって置かなかった、某、国営放送までが純ちゃんを取材して、ミニ特集を組むほどの扱いだったから、そう言った点からも、私の存在は隠された立場になるしかなかった。

まだ、純ちゃんが出演した、ハリウッド映画「遠い祖国」は日本での公開も決まってはいない現実とのギャップが、純ちゃんの忙しさと、精神的な苦痛だけが、攻めているように、純ちゃんの姿を見ていなくても辛さが分かって重くなる心が苦しかった。

逢えないけれど純ちゃんとの電話だけを頼りに、ひと月が過ぎた頃、やっと、純ちゃんから、デートのお誘いの連絡があって、アメリカへ出発する前の日に二人で泊まったホテルへタクシーで駆けつけたが、まだ、純ちゃんは、来ていなかった、私は、ひとりで、待ち合わせ場所である、このホテルのティルームで、待っていても、純ちゃんは、中々、来てくれなかった。

どの位の時間が過ぎただろうか、ひとりで不安な気持ちと、逢える喜びの感情が複雑に絡み合って来る!

芸能界で、知られる存在になった純ちゃんのキラキラ輝く姿はやはり何処かで、私の知らない人間に成ってしまったような思いが私の心の片隅でもやもやと曇らせて行く・・・

どう頑張っても、純ちゃんのような健康で元気な心や体にはなれなかった悔しさと惨めさもまた、不安感を大きくして行った。

突然、穏やかな音楽が流れる店内に私を呼ぶアナンウスが流れて、私は、急ぎ、ホテルのフロントに行った、私宛の純ちゃんからのメッセージが届いていた。
「急に仕事が入ってしまい、時間が少し掛かりそうなので・・・」
「予約してある、この前の部屋で、待っていて・・・」
「すこし、部屋で休んでいて欲しいと書かれていた!」

私は確かに、精神的に疲れていた!純ちゃんからの突然の呼び出しで慌てて家を出て来た事や待っている時間の中で、いろんな思いに至って、緊張感からの疲れや不安感が、私をすこし体調を悪くしていた。

純ちゃんの何気ないこうした気使いが、なお辛く心穏やかではいられない惨めさをつのらせて悲しい気持ちになる!

いつか見たあの、美人インタビュアーへ向けられた純ちゃんの無防備で本能的な男を魅せつける姿や感情の純ちゃんが恨めしいと思うし、あの女性に嫉妬している自分が嫌でたまらない思いにしていった。

いつしか、私はベットに横になり眠ってしまったのだろうか?
何処か暗闇の中をひとりで歩いていて、遠くで、純ちゃんの声が微かに聴こえる!

体が冷えて寒い、全身が硬直しているように動かないもどかしさで、私は純ちゃんを必死で追い求めても届かない・・・

私を呼んでいるような声がしても私には純ちゃんの姿が見えない、一生懸命に眼をあけようとしても、まぶたが重くて眼が開かないし、身動きが出来ない!
悲しさで胸が苦しくて、痛い!

やっとの思いで声を出して純ちゃんを呼んだその時に、あれほど体が冷たく、重く、身動きの出来なかったからだが少し暖かくなったように私の唇がほのかなぬくもりを感じて私は静かに眼を開けたと同時に、純ちゃんの香しきにおいに包まれて、私と彼!純ちゃんの唇が重なりあった・・・
そして、ふたりの、ながく、甘いキスがつづいた。

純ちゃんは優しく私を抱き上げて、ソファーまで運んでくれて、座らせてくれた。そしておでこに、キスをしてくれて、私は、立ち上がろうとしても、すぐに、抱きしめられて、動けない!
耳元で、優しく囁く!
「ゴメンね、長く待たせてしまって!」
「辛かっただろうね!」
「僕も、本当は仕事に中々集中できなくて、困ったよ!」
「ああ~やっと、逢えたね!」
『もう一度、抱きしめさせて!!!』

そう言って、しばらく、私を抱きしめたままで離そうとしなかった。
私はすこし苦しかった!、純ちゃんの力強さと、自分の心の中で喜びと混乱する感情が、揺れ動いて乱れた!
「今日、すべてをゆだねよう!」

そう思った時、純ちゃんは、私をソファーに座らせた隣に座って私の両手を取りながら、何から話せばいいんだろうね・・・あまりにも多くの事があったし、長かったアメリカでの撮影で貴重な多くの体験をして、忙しすぎて、今、私は自分が誰なのか分からないような気持ちがするよ!

正直に言えば、とても、混乱している精神状態なんだよ!、誰を信じてよいのか分からない時があるんだ、そんな時、とても「カコ」に逢いたくて、そばにいてほしいけれど、現実は、僕の方がカコに逢えずにいるんだよね!
「カコ、本当にゴメンね!」
「いちばん大切なカコを遠ざける事になってしまい!」
「許せないだろう・・・」
「ぜんぶ、僕が悪いんだよ!」
「カコを悲しい思いにさせた事!」
「許して、せめて、今だけは!」
「今、僕は、どうかしてるんだね!」
「誰かに操られている人形のようだよ!」
「本来の自分を取り戻すためにも!」
「今度の企画を引き受ける事にしたんだ!」

そう言いながら、私の肩を抱き寄せて、話し始めた!
又、直ぐに、アラスカに行く事になってね、今度のアラスカの取材は二ヶ月以上になると思う!

今度は、高津さんや伊達さんの事!アラスカの大自然の映像をもっと大胆に取材してとその世界に住んでいる人たちについて、この前のアラスカの取材企画を、特別番組として、深く掘り下げた「大自然の中で生きる人間がテーマ」で、もっと大きく広く取り上げる事が本格的に決まって、僕はその番組のキャスター兼プロデューサーを任された、とても大きな企画、特別番組なんだ!

やはり、純ちゃんは仕事が好きなんだ!
私が知る純ちゃんとはちがう、人間性が大きく成長したのだろうか、何処かで、今までの俳優としての価値観だけでは満足出来ない、感動と探究心がそうさせているのだろうか・・・

アメリカでの体験とその後の立場が純ちゃんの別の感性を目覚めさせて、あれほど、俳優としての生き方にこだわっていたけれど、何かが純ちゃんの中で変わったのだと思った。

私は純ちゃんのひと回り大きくなった、男の輝きに抱かれながら、私との距離を感じずにはいられない、寂しさと悲しみが・・・

★ ★ ★

今、純ちゃんは、新たに飛躍して飛び立とうとしている!
たぶん、自分の中の秘められた可能性を確かめてみたいのだろう、男として、健康な体でエネルギーに満ちている今、一生の内で一番能力を発揮できる時期だろうと考えた時、体の弱い私がそばに付いていては、純ちゃんが気の毒なだけだと強く感じた。
『今日、私のすべてをゆだねて!』
『大切な思い出をつくり、私の大切な宝物に出来る日にしよう・・・』
『この日が始まりで、終りであっても!』

私は、密かに思った。
「純ちゃん、今日は?」

そう決心はしたけれど、私が言葉に出来るのは、そこまでだった。
その時すでに、純ちゃんはもう、仕事の方に気持ちを切り替えていたのか・・・
「今夜も、人と会う約束があって、長くいられないだよ!」
「カコには、どうお詫びしたらいいんだろう・・・」
「こんど、アラスカから帰ったら、結婚式をあげよう!」
「僕は、仕事関係の人には知らせないから!」
「君のご両親と友人の前で!」
「君への愛を誓うよ!」
「式場を決めておいてね!」
「僕は、カコとカコのご家族だけに誓えればいいんだ!」

純ちゃんはあえて、自分の家族の事を言わないようで、私はすこし気になったが、あらためて、ご家族の事を聞いてはいけない気がして、黙ってしまった。

早めの夕食をホテルの部屋でふたりでして、純ちゃんは忙しく、タクシーで家まで私を送って来てくれたが、時間が無くて、両親とは、玄関で挨拶を交わしただけで、慌てて、帰ってしまった。

忙しすぎる純ちゃんの体が心配で気になって、不安でたまらない!だから、わざと純ちゃんには、私は今とても元気になったから大丈夫!、私から何処へでもたずねて行けるから・・・
「もちろん、東京の何処へでも行けるのよ!」
「なんだったら、ふたりで旅行だって出来るんだから・・・」
「アラスカへだって、私、ついて行けるくらい元気よ!」

そう言って、淳ちゃんを安心させてあげたかった、その言葉を聞いて、純ちゃんは、本当だね、全部の日程は無理でも、アンカレジに一緒に行けたら最高だね・・・

私のから元気な嘘を気づいているようでもあったけれど、純ちゃんの素直に喜ぶ声が弾んでいたことで、私は嘘をついてしまった事が、なんだか申し訳なさと、後ろめたい思いがした。
けれど、「現実の私は難しい状態だった!」
私には、両親にさえ知らせていない、秘密があった!

胸の痛みが気になって、定期健診の時に胸部検査をした、その結果は、私から、すべての望みを奪ってしまう、現実があった。

現実には、私は、結婚を夢見れるほどの時間も心の余裕さえなかった。

あれほど、この私を、大切にして、愛してくれる純ちゃんにそんな残酷な私の現実を話せない!
私はどうすればいいのだろうか、不安だけが大きく広がる絶望だけが、私の目の前にあった。

けれど、私は常にこの事を覚悟していたような、不思議なほど気持ちは落ち着いて、自分がこれからどうすれば良いのか心で探り当てようとしている。

特に、純ちゃんの前にいる時は、元気で本当に健康な体なのだと思えて、純ちゃんが私に望む事すべてが叶うようにさえ思えて体がとても軽く気分も良くて幸せでいられると感じられた。

これから、純ちゃんが旅立つ、アラスカがどれほどの遠い距離で、私には見知らぬ地であっても、私の眼には見えているような錯覚さえして、ほんの一瞬、純ちゃんとふたりで深い森の中を歩き、白夜の光がふりそそいだ気がした・・・

純ちゃんは、本当に申し訳ないほど良く私に気づかってくれた、やる事の多い忙しい身で、アラスカ取材へ出発までの日々、今の自分の立場やの仕事を考えると私の事など思う時間さえないはずなのに、わずかの時間をつくっては電話をして来てくれた。

俳優として引き受けた映画の出演をこなし、時にはハリウッドでの体験を雑誌への文章記事を書きと!本当は寝る時間も無いほどの忙しさだった。

そんな中で、純ちゃんから「カコ、時間が出来た!今から逢えないか?」と連絡を受けると、それがわずかな時間であっても私は急ぎ出かけて行き、純ちゃんとふたりでの時間を大切に過ごせることが嬉しかった。

たとえ、それが、お茶を飲むだけの時間であっても、今のふたりにはとても大切な時間であって、幸せなひと時だから・・・そして、純ちゃんは、アラスカへ旅立って行った。

今度のアラスカの旅は多人数の取材チームであって、取材に使える予算もかなり高額で満足出来る額を用意された、それだけでも、今の純ちゃんの立場が変わったことを示していた。

純ちゃんは心の中で、私を気にしながらも、今はこのアラスカの取材企画に気持ちを集中させての出発だった。

その事が、ふたりの運命の大きな分岐点だとはお互いがまだ知らずに、又、再会を喜び、純ちゃんに逢えると私は信じたかった。

ふたりの運命は神だけが知る、特権を持つものなのだろうか!

その時の私は底知れぬ不安におびえながらも、わずかな期待と、望みを持ち、純ちゃんに出来るだけ明るい笑顔で接し成田空港から見送った。

ただ、私だけが、残酷な運命にさらされているのかも知れないと思いながら・・・

純ちゃんは、アラスカについて直ぐに、敬愛する高津さんに、そして伊達さんに会い、取材計画を話して、今度こそ、アラスカ最北の地!
「シシュマレフ」へ行く事を願い出た。

高津さんは、細かな予定は組まずに、自然の成り行きを見届けた行動をする事を進めてくれ、まずは、高津さんの写真撮影のカメラクルー達と、同行する事になって、今は6月のはじめなので、アラスカ南部のグレイシャーベイ国立公園の巨大氷河や海の動物の写真を撮影する高津さんの姿の取材から始まった。

純ちゃんはアラスカのすべてを撮影したいと思い込むほどの熱の入った、意気込みで、この取材企画は始まった、何しろ広い、広い、アラスカの大自然の事、セスナ機がタクシー代わりに、目的地に運んでくれる!純輔は、一瞬、一瞬が、新鮮で、感動的な体験の連続だった!!!
あの有名な、ラッコにも出会い!

ザトウクジラが潮を吹き、巨大な体で海面高く飛ぶ姿は、純輔の体のすべての血が逆流するほどの感激だ!とにかく、取材チームはみな、我を忘れての興奮した感情を抑えられない!、連日の
高津さんの大自然をカメラで切り取る映像美を追う取材に明け暮れて、興奮状態がつづいた。

そして、好天の日だと高津さんの見定めた時、巨大な、マッキンリー登山のベースキャンプに、登山隊を尋ねて行き、次々と、マッキンリーの山頂を目指して歩き出す姿を追いながら・・・

ふと、複雑な感情になって、思い出していた、面識こそ無かったけれど、純輔の少年の日に読んだ、冒険記を!、この場所から、あの植村直巳さん、山田昇さんが真冬のある日、この場所から、一歩踏み出して、そして帰っては来なかった事を思い出した。

次次と姿を現す、このあまりにも美しく壮大な風景!信じがたいほどの緊張感みなぎる風景!山や切り立った岩峰、そして白銀の世界を眼の前にして、言葉に出来ない感動の連続で鳥肌が何度も立つほど興奮した感情だった!!!

人はなぜ、山へ向かうのかを少しだけ理解できた気がした。
この宇宙感を感じとり魅かれ苦痛と幸せ感のせめぎあいに打ち勝つ・・・

                          次回につづく

逢いたくて<永遠> 6 (小説)

2013-10-20 10:13:50 | 逢いたくて<永遠> (小説)

★遠く離れて★

純輔と取材チームは広大なアラスカの大自然の中で毎日が感動の連続、時には大自然の驚異に出会いながらもその大自然が牙をむく!けれど幸運と自然との折り合いにめぐまれ取材は大満足してその後の取材も進んでいた。

そしてあの、日本人女性!、たったひとりで豪快に勇敢に、アラスカの大地のひとつの生き物と
して、大自然に溶け込んだ生き方をしている場所へセスナ機が純輔たちを運んでくれた。

セスナ機が飛びたつのも、着地するのも、湖や川の中がほとんどで、アラスカのセスナ機は、水陸両方使えるように、タイヤとスキー板の大きくしたような物が着いているのが不思議に感じていたが何度も乗りなれているうちに頼もしくも感じるようになっていた。

その女性は、もう、五十歳は過ぎているだろうか、深い森の中にたった一軒、粗末なつくりだがどっしりとした安心感がある家だ、私たちが、訪れる事は、すでに無線で知らせていたようで、セスナ機が河に着水して、ただ、粗く削った丸太を何本か並べただけの粗末な桟橋にはもう、両手を大きく振って、私たちを迎えて、歓迎してくれた。

このアラスカのうす暗く深い森をひとりで切り開いた凄い女性だ!20数年前に、まずは森林伐採の許可をとり、一本、一本、自分で木を切り、一間とキッチンだけの小屋を建て、そこに住み始めたのだそうだ。

アラスカの森は、普通に街で生活している人間には、想像もつかないほどの過酷な大自然の驚異がある!六月だというのに、一日のうちに四季があるほどの天候の変化で、現に純輔たちは、何度も天候の急変に脅威を感じた。

彼女は今、五十歳を過ぎていると思うけれど、これまでに、何度も、何度も、命の危険を感じた事があっただろうかと思う、電話も通じない、ましてや、滅多に人に出会う事の無い原生林の森の中で、ビックベアーが襲い来る危険やそのほかの獣がたくさんいる中で、一瞬の気を許す事も出来ない緊張感が必要だ!

ある時は、夜寝ていて、この家を狼や熊が襲う「がりがり」と爪を立てる音に目覚める時の恐怖は、さすがの私も恐怖感と緊張感で、銃持った手や体の震えが止まらなかったと笑いながら話してくれた。

大怪我をしても、誰も助けてはくれないので、怪我や病気は自然に治るのを待つしかなく、ただひとり不安に耐えて、寝ているしかない日々も何度も体験し、あったと、にこやかに平然と話す、あまりにも毅然とした姿に圧倒されるような気迫さえを感じて、純輔は人の生きるエネルギーの強さがとても美しく感じた。

けれど、この女性、「三島美佐子」さんに、純輔はこの取材旅行の最後に大きな関わりを持つ大事件あう事になるとは、その時は考えもつかないほど、満足で感動的な時間だった、それまで純輔の生きた世界で知る人々の中でもっとも刺激的で、魅力ある女性だった。

純輔たち、アラスカ取材チームは、すこしの時間も惜しむように、高津さんを中心に追いながら、アラスカ中をセスナ機で飛び回り、次々と、素晴らしい映像を撮影し、取材して、時間があまりにも早く過ぎて行った。

★ ★ ★

私、カコは、純ちゃんを成田に送ったその足で、両親にも、誰にも、何も言わずに、ひとりで病院へ入って行った、これから、どうすれば良いのか、担当医との今後の治療方法について相談があった。

もう、だいぶ前から、右の胸が痛くて、時には腕を上げるのさえも辛い時があった、何度も、こんな症状があって、その度に、乳がんの検査をしても、見つけることが出来なかった、ただ、私は、赤ちゃんを産んだ経験が無いのになぜか、いつも、「慢性の乳腺炎」だと診断されて、治療の方法がないと言われるのが不思議だった。

「ホルモンバランスがくずれているから、痛いのでしょう!」
いつも、ドクターにはそんな風に言われては、痛さと不安に耐えて来たのだが・・・

純ちゃんとの恋!、純ちゃんに愛されている!、その想いが、私の体に変化が現わしてくれていた、以前の私の体調を考えた時、私は不思議なほど、元気になれたと思っていた。

とても気分の良い日が多くて、胸の痛みもさほど気にならなかった事も事実だった。けれど、ある日、とても胸が苦しくて、痛さが今までとは違うように感じて、先日、純ちゃんにも、家族にも、誰にも秘密で、胸の検査をして、分かった事は、乳がんである事を診断された。

純ちゃんがハリウッドから帰って、逢いたい想いと不安がごちゃ混ぜの揺れ動く中で、過ごしていても、純ちゃんへの想いが強い分だけ胸の痛さにも耐えられたし、乳がんと診断された事も忘れられた気がしていた。

純ちゃんのアラスカ行きを見送った後の病院で改めて精密検査をして、その結果をきく私は、担当医の説明をまるで、他人事のように、何の感情も無いままに聞き、ドクターの言葉だけが自分の体を通り抜けて行くような気がしていた。

これから、自分の身に起きる、重大な事だとは、すこしも考えが行かなかった気がする!

ましてや、純ちゃんはハリウッドから日本へ帰国して、突然、注目された忙しい身になり、世間から見られる特別な存在になって、その事が、少なからず、私は行動や感情が制限された日々がつづいて、自分の体の事を考えないように、その不安を遠ざけていた気がする。

今、私はたったひとり!、取り残された気持ちと、純ちゃんのいる世界が、あまりにも遠くなってしまったように思えて、むしろ、病気の事よりも、純ちゃんとの遠く離れてしまったと感じる隔たりの大きさが悲しかった。

幸いにも、まだ乳がんは、手術によって、治せると医師は言ったけれど、私は、今、自分の中で時間が止まってしまった気がする、なぜか、病気の事は深刻に考えられず、悩む事もせず、この乳がんと言う病気は自然な状態で何処かに消えてしまうとさえ思えるのだった。

純ちゃんは、アンカレジやフェアバンクスに滞在している時だけ、電話してきた!
『ハーイ、ハニー、元気にしているのかな?』

かなり、興奮しているのか、とんでもなく、上機嫌で話す声が弾んでいた!
いつもながら、一方的に話しては、私の声が聞きたいから、何か言って!と・・・
でも、いつだって、純ちゃんは、自分が伝えたい事がたくさんあるのよね!、仕事での感動が大きくて・・・私は益々、寂しさと不安が募るばかり・・・
『私!純ちゃんにとても逢いたいの!』
『今すぐに、飛んで逢いに行きたいの!』

そう伝えたいけれど、言葉が体のどこかで固まってしまったように出てこなくて悲しかった。
だから、私の口から出る言葉、純ちゃんに伝える言葉は、無理に強がって、元気なふりをする!ぎこちないまでに弱さを悟られまいと・・・
「私は益々元気で、もっと、健康になる為にね!」
「ビューティー、ヨガを始めたのよ!」
「純ちゃんがアラスカから、帰国できる頃にはね!」
「見違っちゃうほど、綺麗になっているわ~」
「成田で逢った時、驚かないでね!」

そんな心にも無い嘘を、声を弾ませて言いながら、突然涙が流れて止まらなくなって・・・
純ちゃんは、私との電話を切ってから、どんなふうに感じたかしら?今は純ちゃんにとって、すべてが大切な時、純ちゃんに絶対、私の病気の事を気づかれないようにしなくてはいけないのだから!

純ちゃんの仕事に余計な煩わしさがあってはいけない!今が一番の勝負の時ですもの・・・
けれど、私の胸の痛みは激しく、意識さえもが薄れて行く、見知らぬ街で私は倒れても、なお、純ちゃんのあの微笑に逢いたい!!!

「悲しい愛」
貴方の瞳に映る愛はこんな悲しい愛でしょうか
あの微笑に酔いしれたあの頃ただ愛してると言って
貴方がいつもそばにいてくれた頃運命は残酷に静かに密やかに
悲しい愛をもって来るただ貴方に逢いたくて
幾千距離が遠く離れて悲しい愛が私をつつむ

★ ★ ★

アラスカと日本、純ちゃんと私は遠く離れた場所で、日常を必死で生きていた。
何度かの純ちゃんからの電話での会話で、私は、感の鋭い純ちゃんだから、私に何か変化があった事を感づいていると思った!

私はこれからどうすればいいの?、私は乳がんになってしまい、手術が必要な事を隠してはおけないと思い決心して、ある日の純ちゃんの電話で打ち明けた!
「私の体に!乳がんが棲みついちゃったの!!!」
「だから、少しだけ、手術が必要なそうなの!!!」

だけど、ほんの初期で、乳がんの組織だけを取り除く、手術をする事になったと純ちゃんにストレートに伝えたけれど、言葉ひとつ、ひとつが、まとまりの無いぎこちなさを隠せなかった、果たして、純ちゃんはどんな風に受け止めたのだろうか・・・

純ちゃんは、しばらく、黙ったまま、電話の向こうで、微かに聞こえた!うめき声をあげているように私には感じた!!!そして、純ちゃんは、深呼吸してから・・・
「カコ、ゴメンね!」
「僕がそばにいてあげられなくて!」
「カコの、体の事、気にしてないよ!」
「直ぐに、又、元気になるものね!」
「今は、素晴らしい医学の発達で乳がんもそれほど怖くないのだよ!」
「初期だと言う事は、ほんのすこし、傷をつけるだけ!」
「でもね、もしもだよ!」
「もしも、片方の胸があれば!」
「僕は、充分だよ!・・・」
「僕は、カコが元気になってくれるほうが嬉しいから・・・」
「僕は、カコのどんな姿も大好きだよ!」
「今すぐに、カコのそばへ行きたいよ!」

そう言いながら、純ちゃんは、言葉にならない、言葉で、何かを言いながら・・・
「今、とにかく、少しでも、早く帰れるように、仕事を頑張るからね!」
「僕を、待っていて・・・」

そう言うのがせいいっぱいの、苦しそうで辛そうな、純ちゃんの息づかいが聴こえた。
まだ、アラスカでの取材が半分も進んでいない状態の、この時期に、純ちゃんに知らせる事がどれほどの苦痛になる事か!、わかっていながらも、私の心が不安で純ちゃんにしがみつきたかった。

私は早急に手術をしなくていけない!手術日も決まっているために、黙って手術をする事が純ちゃんへの裏切りになるような気にもなっていたし、辛すぎて話さずにはいられないほど、私の心が弱くなっていた。

純輔は、予定されたアラスカでの取材期間が伸びて、帰国が遅くなる事を、カコには伝える事が出来なかった、仕事を優先して、そばにいてあげる事が難しいから!

今回の取材は、同行スタッフも多く、純輔がこの仕事の一番の責任者である事で、一時帰国など許されるはずも無く、又、今、スタッフ、そして、アラスカでの取材協力者全員が一丸と成って、気持ちが盛り上がっている時に、自分の個人的な事情を純ちゃんの性格からして、たぶん、誰にも話さずに、ひとりで、苦しみに耐え、私を、私の体を、純ちゃんは胸が張り裂けるような思いで、心配し、気づかっている事が分かる私は、辛く、寂しくて、不安が大きいけれど、耐えるしかなかった。

純ちゃんは、前にも益して、電話が通じる場所からは、頻繁に電話をして来ては・・・
「ごめん!」「カコ、ゴメン!許して!」
「きっと、大丈夫だから・・・」

いつも、自分がそばにいてあげる事が出来ない事を気にしていて、心配をしている事が、私には良く分かっていた。

純ちゃんは、予定された取材期間が長くなる事で日本への帰国が今、予定する事が出来ない!、その事をどうしてもカコには話せずに辛い日々を、過ごしながらも、その事を周りの人たちには気づかれないように、仕事に集中するしかなかった。

私は純ちゃんからの遠く離れて伝わり来る電話の声が聴き、純ちゃんのその声を聴くだけでも、勇気がもらえているような気がして嬉しかった。

純ちゃんの為、いや、私自身が少しでも健康な体になり永く生きていたい!

そのためにも一日でも早く、手術をしなければと思い、手術日を決めたけれど、いざとなると、今まで、両親へ心配させたくない為に言えなかった事実を伝え、やはり両親はショックが大きくて、オロオロするばかりだったけれど、私は手術の前にしておく事が多い、いろんな雑用があった。

もしもの時に、純ちゃんに迷惑がかからないように、純ちゃんとの繋がりを消す努力も必要だった!

担当医は、カコの幼い頃からの長い付き合いから、手術日をカコに優先的に組んでくれてはいても、やはり、ひと月先まで手術スケジュールは一杯で、カコの手術は出来なかった。

今は、それほどまでに、乳がんの患者が多いということなのだろう、担当医は、無表情、無感情に言った!
「君よりも、もっと、深刻な患者さんがいる!」
「でも、君はまだ、手術で治せる時期なのだから!」
「まだ、不幸だとは思わず!」
「あまり、深刻に考えないように!」

そう、言ってはくれるが、私は、何を言われても、気分が晴れる事は無かった。
「ただ、純ちゃんに、逢いたい!」
「無理だとわかっていても、心はわがままになる!」
「時には、行き交う見知らぬ人にまで、怒りの眼差しを向けてしまう・・・」

今の体の状態は、もう、右の肩に重い石を乗せているように腕が重くてあがらない、時には、耐えがたい痛みが背中を突き抜けるような感覚で暴れているような・・・

私の場合、痛みが激しい!、私の知る知識で、不確かな事だが、乳がんは、殆どの人が痛みがないために、気づかない事が多いのだと聞くが、私はもう10年以上前から気になっていた、不快感と痛みがあった。

けれど、純ちゃんの仕事の事や純ちゃんからのプロポーズが嬉しくて、自分の体の事は考えや思いから意識的に遠ざけていたのかもしれない!
それは女として、純ちゃんから感じる熱い眼差しの恋する想いが幸せすぎたから・・・

私には、純ちゃんがあまりにも大きな存在であり、ある意味では私のすべてのような気もしていたから、確かに、純ちゃんは、ハリウッド映画に出演した事で、少しだけ、純ちゃんは自分自身が持つ価値感や性格が変化した気もするが、本質的には変わっていないと思いたい!

前のように頻繁に気やすくは逢えないけれど、私を変わりなく大切に想ってくれている事が何より感じているし、ただ、今は、あまりの忙しさに、純ちゃん自身をその時間の流れに飲み込まれまいと必死で自分の居場所を確保している。

自分をその場所に馴染ませる努力をして、今までには考えていなかった事でも、純ちゃんの信じる道の中のひとつなのだと思えるように少しだけ、気持ちや物の見方の巾を広げている時期なのだろう・・・

そんな純ちゃんにとって、今は一番大切な時期なのに、私の事を思いながら、日々の仕事を頑張っているだろうと思っただけで、私は苦しかった。

やはり、病気の事は伝えるべきではなかったのだ、後悔の気持ちが大きくなって行ってきもちが落ち込みがちになる、そして入院の日が近づいて来たある日、突然、純ちゃんが私の目の前に立っていた。

私は、夢の中で純ちゃんに逢えたのだと錯覚していた、数日前から、風邪の症状があり、熱が三十八度五分ほどある、私は平熱が低く三十五度くらいだから、やはり体が辛くて、家で寝ていたもつねに夢を見ているような現実離れした状態が続いていた。

私の部屋のベットの脇で純ちゃんは黙って、私の顔をみていてびっくりした。
そして、いきなり、私を抱きしめてくれた!
「どうしても、カコの顔が見たくて、ちょっとだけ、帰ってきた!」

そう言って、又、私を抱きしめた。
その時に聞こえてきた、場違いな声!家の脇の路地を行く、今年はじめて聞く・・・

「焼き芋~、焼き芋~、や~き~い~も、美味しいよ~」
「なんと場違いな、やきいも屋さんだこと!」

母がいらだつように、私たちの事を気遣いながら言ってるのが聴こえた。
我が家は、小さな住まいだから、外の物音が良く聞こえてしまう!

私が元気な時であれば、母は喜び勇んですぐに飛んで行って買うのがいつものこの時期の行事だ!、その事を焼き芋やさんは覚えていて、少し大きな声を出して、伝えたかったのでしょう。
そんな、外の風景も気づかないように、純ちゃんは私を抱きしめて・・・

どうしても君に逢いたくて、今回のアラスカの取材企画の打ち合わせを、急ぎつくって、二日だけ戻って来たと言った。

純ちゃんは、自分のおでこを、私のおでこにつけてみて!
「カコ、やっぱり、熱があるんだね!」
「僕の顔を見て、急に熱が出たのかな・・・」

純ちゃんは無理にジョークを言っては、少しでも私に心配な気持ちを見せないように純ちゃんのオーバーな仕草が夢の中で観ているような気もして可笑しかったし、嬉しかった・・・
私の熱い体は、純ちゃんの冷えた、冷たい頬がとても気持ちが良い感触・・・
私はながい夢を見ているように、純ちゃんの幻を見ているような・・・


                         次回につづく

逢いたくて<永遠> 7 (小説)

2013-10-20 10:12:53 | 逢いたくて<永遠> (小説)



★突然の再会そして別れ★

純ちゃんは、つぶやくように言った!
「日本を離れていると、季節感が分からなくなるな~」

少し照れながら、体調が悪い私をきつく抱きしめた事が、気まずく思ったようで・・・
「もう、焼き芋やさんが来る季節なんだね!」
「カコ、おいも、食べてみる!」

突拍子もなく、照れ隠しのように、そう純ちゃんがすすめてくれると、私は不思議に、なんとなく、食べたいような気がした。

私はもう何日も、あまり、食欲がなくて、口の中がかさつき、食べ物の味がしない、ただ苦味があるだけで食べ物が喉を通らなくて困っていた。

私が返事をする間もなく、部屋を出て行ったが、母が直ぐに気付き!
「もう、買いに行っても、間に合わないから・・・」

玄関で、止められたと言って、私の部屋に戻って来た。
「アラスカはもう雪が降る日もあるけど!」
「8月の末になったばかりだから、日本はまだ夏だったね!」
「ここの焼き芋やさんは、変な時期に来るんだね!」

確かに、世間一般的では、この時期に焼き芋屋さんは似合わないけれど、なぜか、この土地、我が家では、不思議な事ではなかった。

純ちゃんは、突然、仕事の話をはじめた、「カリブーやビックベアー(グリズリー)」にすぐ近くで遭遇したよ!、しかも何度もだよ!

そうかと思うと、明日、一日だけ何もしなくていい時間があるから、何処か、行きたい所につれて行ってあげる!
「何処にする!」

私は今、外出が出来る状態でない事を純ちゃんは充分にわかっていながらも私の為に何か役立ちたかった!

けれど、純ちゃんは、日本にいられる時間がない事で焦って落ち着けないようだった。
実際に明日、純ちゃんが使える時間はは半日だけだ、どんな短い時間であっても、一緒にいられる事がふたりは幸せだった。
両親はふたりに気を使い・・・
「今夜は、泊まってくださいね!」
「カコのそばにいてあげてください、お願いします!」

私の両親はいつになく、特に母は強い口調で、純ちゃんにお願いしていた。

私は、やはり、夜になって、39度に熱があがってしまい、意識も途切れがちだったけれど、純ちゃんは、一睡もせずに、私のそばにいて、私の高熱を下げようと、介抱してくれている事をおぼろげに感じていた。
私は夢を何度も見ながら・・・

夢の中で、ふたりは、旅をして、楽しく笑いながら、寄り添いながら・・・

そして、私の体は、なぜか、何処か、恐ろしく暗闇の深い谷底へ落ちて行く瞬間に眼を覚まし、震えながら、涙を流して・・・

そんな時はいつも、そばで、純ちゃんは私の手を握っていてくれた。
次々とみる夢の中で純ちゃんと私は、以前から約束していながら、叶わずにいた海を見に来ている!
「そしてふたりは手をつなぎ砂浜を元気に走っていたいた!」

今まで一度も海へ行った事がなかったけれど、とても鮮明に浮かぶ、夢の中で!

誰ひとりとして、人の姿がみえない広い砂浜に座り、波静かな海!大海原をたったふたりだけでいつまでも眺めていた。

カコは高い熱に意識がもうろうとして定かでない!夢をたくさんみた夢の中で、純ちゃんとふたりが砂浜で海を眺めている季節は春なのだろうか?とても明るい陽ざしだ!

太陽が優しく私たちを照らしてくれて、とても気持ちが良くて、でも、私は耐えられないほど陽ざしが眩しくて眼を閉じてしまう!すると、柔らかに細い光は揺らぎながら、私の眼の奥へ、奥へ、そして、私の体のすべてを揺らぐ光で包んでくれていた。

純ちゃんは何処にいるの?、私のそばで声がしてるのに・・・
「カコ、そっちは危ないからダメだよ!」
「向こうへ一緒に走ってみようか!」

と言ってる声の人は純ちゃんのはずなのに、その人の顔が見えない!

気がつくと純ちゃんは私の手を取って、ゆっくりと走ってくれる、まるで、碧い空へふたりで飛んで行くように・・・

私と純ちゃんは、海の波うちぎわに裸足になって立っている!

いつの間にか、私の両足の下の砂は足の周りから音もなく崩れて行く、足の指先から砂が崩れて行く、少しずつ小さな波が崩して行く!

私はすべて波に包み込まれて体ごと海にのみ込まれてしまうように・・・

そんな怖い夢を何度も繰り返しみて、私はすこし泣いていたのだろうか、純ちゃんは、やさしく私の顔をつめたいタオルで、おでこを冷やしながらも、眼の涙をも拭いてくれていた。

その冷たさがとても気持ちが良くて、私は又、夢の中へ入って行くようだった、明け方になって、私は、意識もはっきりとした、どうやら、熱もだいぶ下がったようで、目覚めると、母が笑顔で私に話しかけた。
「すこしは、気分が良くなったかしら!」
「熱は三十六度までさがってるわ~」

もう少し、ゆっくりとおやすみなさいね!そう言って、洗面器やタオルを持って、部屋を出て行った。

昨日、確かに、純ちゃんがいてくれたのに、どうしたのかしら、姿が見えないけれど、あれはすべて夢の中での事だったのかしら・・・

確かに、私を、抱きしめてくれて、あの頬の冷たさの感触があるのに!あの感覚は幻だったの・・・又、母が部屋に入って来た!
「なぜ、純ちゃんは私のそばにいてくれないの?」

どうして母は何も話してくれないのかしら、まるで私に意地悪してるように!、いつもの優しい母ではないは、なぜ?!私はもうこれ以上、我慢できない!
「ママ!純ちゃんは、何処にいるの!」

いきなり、私は、もう長い間、使っていなかった「ママ」と言う呼び方がなぜか出てきた!

カコが幼かった頃に良く使った、母への一種の甘えたい時の呼び方だったので、母はびっくりしたように、しばらく、私の顔を見てから・・・
「あなたのそばで、熱が下がるまで!
「朝方まで、ず~と!」
「純輔さんは、貴方の看病をしてくれたのよ!」
「ここに、いられる時間のぎりぎりまでね!」
「すこし、休んで、私が替わるからと、何度も言っても、聞かずにね!
「本当に、一睡もせずに、氷水でタオルをゆすぎながら変えてね!」
「あなたの額のタオルを必死で取り替えてくれたのよ!」
「朝方に、あなたが熱が下がってから!」
「カコが落ち着いたことを確かめてから・・・」
「どうか、カコさんをよろしくお願いします!」

まるで、私たち、親よりも、必死になって看病してくださって、ありがたいけれど、純輔さんも忙しい体で疲れているだろうに・・・
「純輔さんは本当に優しい人ね!」

母は、急に呼び方まで変えて、感激していた、純ちゃんに対しての嬉しさと感謝する気持ちから、母はすこし、涙ぐんでいたようだった。
「今日、アラスカへ戻りますが!」
「カコさんには、又、時間をつくって、必ず来るからと、伝えてください!」

そう言って、今朝の5時過ぎに純輔さんは出かけたのよ!
私は何処へもぶつけようの無い、寂しさと怒りのような感情が、弱った体で震えながら言った!
「どうして、私を、おこしてくれなかったの!」
「純ちゃんが、帰るからって一言、いってくれれば・・・」

母が困っているのは分かっていた、私の我がままだと言う事も、充分に理解していた!
けれど、心が許せない怒る気持ちになる!

それは、自分自身へ情けない思いと怒りと寂しさで悲しみである事を私が一番良く知っていた。
ベットで横になっていても、気持ちが暗くなるばかりだった。
しばらくして、耳障りの良い、聞きなれた、音楽!
「サイダーハウス・ルームのメインテーマ」

純ちゃんとふたりで何度となく見た韓国のドラマ「遠い路」に使われていて、私の大好きな、憧れの俳優「美しき人」が演じている主人公が、とても、純ちゃんの雰囲気と似ていた。

いつかこんな風な役で主役を演じて見たいと言った、その時の純ちゃんの眼がキラキラと輝いていたのを私は忘れられない!
ふたりの大好きな曲だ!!!

私は病弱な体だから、友人や世間とはつながりが少ない為、あまり使う事のない携帯電話!
まるで純ちゃんと私との専用の電話のような!ベットの横においてある携帯電話からあの懐かしい曲が流れた。
「今、僕は成田でございますが!」
「どうでしょうか、姫のお体のお具合は・・・」
「姫がお元気でいてくださらないと僕はとても悲しいです・・・」

純ちゃんのそんなジョークも寂しさを隠しての言葉で、私を元気づけてくれる為の精一杯の純ちゃんの優しい気づかいが私には辛かった。

私の部屋で、一晩中、私の高熱を下げる為に、冷たい氷水に手をつけて、看病して、寝ずに又、アラスカへ向かった。

シアトル経由でも、殆ど一日がかりだ!飛行機の中で少しでも、寝られたら良いのだけれど、日本から持ち込む、いろんな資料に眼を通さなくてはいけない仕事を山ほど抱えているのだろう・・・

私のところによったばかりに、三日三晩寝ずでの行程は、いくら良く鍛えた体であってもきつい事だろうと、私は気が気じゃなかった。
「じゃ、行ってくるね!」
「今度、逢う時は、ちゃんと僕を成田に迎えに来てね!」
「アンカレジに着いたら又、電話するから・・・」

そう言って、アラスカに戻った純ちゃんからの電話は切れた、けれど、アンカレジからはなぜか、純ちゃんから電話は無かった!

そんな純ちゃんからの約束を心待ちにしていて、連絡が無い事が気になり、不安がよぎりながらも・・・

私は、純ちゃんがアラスカに戻った、数日後に、やっと体を動かせるまでに快復して病院に入院した、今度の入院は、今までの入院とは違って、体にメスを入れる手術!、しかも、女性としての象徴のような『右乳房を取る』

両親にも、純ちゃんにも、右の乳房を取る事を私はは言えなかった!
だが、他への転移を防ぐ為にも、乳房を取る方法しか、私の場合は外に治療法がなかったのだった。
純ちゃんは、感のいい人だから、ある程度、感づいていたようで・・・
「もしも、もしもの時だよ!」
「君の胸が片方だけでも、僕は充分だと、思うよ!」

そんな、気休めを、さりげなく言ってくれる人だ!
私の両親は、かなりのショックだったようで、ただ無言で、部屋に入って来た。
両親は、担当医からの説明を受けて分かったのだった、乳房を取り除く手術だという事を・・・

私はあえて、両親へも純ちゃんにも知らせずに、私ひとりで決めての入院だった。
私の大切な人たちに何度も辛い話を聞かせたくなかった。
確かに、両親のショックは大きいけれど、これからの日々、どんなに辛くて、苦しむ事には変わりなかった。

相変わらず、入院と同時に、私の腕は、点滴の手ぐさりに繋がれた日々の始まりだった。
血管が細くて、注射針が上手く刺さらないのも同じだ!
いや、前よりも、もっと、試し打ち回数が多くなった気がする。
「痛いの、痛いの、何処かへ、飛んで行け・・・」

幼かった日、母がよく私に言ってくれたおまじないが懐かしく、虚しくも心をよぎって行く。
たちまち、点滴液が漏れて、私の腕には、いくつもの黒いあざで膨れ上がってきた、この状態も、同じように何度も繰り返した事だった。

看護士さんの中には、さりげない言葉で・・・
「カコさんは痛がりやさんだからと笑いながら言う人もいた」

私はそんなに、わがままで、大げさに騒ぎ立てる人間なのだろうか?
もう、自分がどんな人間なのか、分からなくなって来た。
私には拷問のような辛い日々がつづく・・・

そのころ、純輔は、精一杯、渾身的に取材撮影進めて、アラスカでの取材も終盤を迎えて、久しぶりに、フェアバンクスの郊外、深い森の中にある、高津さんの家で、しばしの休息を楽しんでいた。

九月中旬でも、ここは時々雪が降る冬を迎える時期だった。
家の中は暖炉を焚いて暖かく、快適に過ごせているが、いざ、一歩外に出れば、直ぐにからだごと凍りつくほどの寒さだ。

フェアバンクスは、北極圏からすこし南に位置している、アラスカでは第2の大都会だけれど、高津さんの住む、この森は、広大なアラスカでの事、お隣の家が果てしなく遠い、森の中の一軒家だ。

必要最小限の家具があるだけのこじんまりとした家だ、ご夫婦が寝る、寝室があるが、後は大きな書棚のある二十畳ほどの広さの中心に暖炉が置かれていて、食べ物やその他の煮炊きする物は、すべて、この暖炉の上に置くだけで、出来上がっていた。

純輔は、このリビングのソファーに寝かせて貰った。
何時間か寝た頃に、高津さんにいきなり起こされた!
「李さん、今、素晴らしいのが出てます!」
「外に、急いで出てください!」

そうせかされて純輔はダウンジャケットを急いではおり、慌てて外へ出てみた!
その世界は、あまりにも、あまりにも、大きな空!!!

いや、大宇宙のうねる音がするように、青黒い虹と、簡単な言葉では表現をしてはいけないほどの気高さと神秘の世界がひろがっていた!!!

それは「光のロンド」「天空からの光のメッセージを伝えるのように!」
ダイナミックに揺れ動く、大宇宙から聴え届く音楽のように・・・

純輔はあまりに美しくて、感動と共に震えるような恐怖感さえ覚えるのでした。

私は、純ちゃんが、終盤の仕事に集中出来るようにと思い、私は、入院後に純ちゃんから電話があっても勤めて明るい声で話す努力をし、手術日を純ちゃんに言わずに・・・

「今ね、私よりも、もっと、大変な患者さんが多いらしいのよ!」
「私は、ちょっと、待たされてるようなの!」

そんなふうに言ったり、時にはどうしても気分が悪くて辛い時などには私の変わりに母に電話に出てもらう時もある!

「今、検査に行って、ここにいないのよ!」
そんなへたな嘘でごまかしの言葉が私をなを苦しめていた。


                         次回につづく

逢いたくて<永遠> 8 (小説)

2013-10-20 10:11:55 | 逢いたくて<永遠> (小説)


★運命,記憶の中の海★

私はもう、すべて、検査は済んでいて、手術日は三日後に決まっていたが自分の運命がどんどん私の望まぬ方へ進んでしまいそうで怖い!!!

今、純ちゃんのいる遥かに遠い地、アラスカがまるで、宇宙の彼方にあるような気がして、もう、電話さえ出来ないのだと思い悲しかった。

眠れない夜が幾日もつづき、手術日の前々日夜明け前に、私は、誰にも言わずに、病室を出て、ただ、ぼんやりと、行き先も決めてなく、無意識に電車に乗った・・・

ふと気がつくと、何処かの海の見える場所を歩いていた、この前、純ちゃんが来てくれた時に見た夢のつづき?今まで訪れたことのない場所?けれど記憶されてる心の中の風景のようだった。

ぼんやりとして、たださ迷い歩く、突然母の顔を思い出して、又、母に心配をかけてしまった事に、申し訳ない気持ちとは裏腹に、ただ私を知る人のいない場所、何処かに行ってしまたい、消えてしまいたい思いになっていた。

でも、もう一方の私がいて、やはり、まだ、まだ生きていたい!

こんな形での別れは両親も純ちゃんも許してはくれないと囁いていた、私と言う存在は私だけの意志で終りにしてはいけないのだと気づいた。

「ママ、ごめんなさい!」
「心配しないで、直ぐに戻るから・・・」
「たぶん、今、湘南の海辺にいると思うけれど!」
「もう少し、海を見たら、帰るから・・・」
「ママ、今朝のご飯は何を食べたの?」
「ママの作ってくれるオムレツが食べたい!」
「私、とても、おなかすいたわ~」
「今からここで、何か食べたら、帰るね!」

不思議な事に、自分の心の中で母に語りかけていた、思ってもいなかった言葉が、すらすらと出て来て、自分でも驚いていたが、見ている海の風景は、夢の中で見た!記憶の中にある場所だと思った。

入院前に突然アラスカから戻ってきてくれて、純ちゃんが私を寝ずに看病してくれていた時に見た夢の中の海が今、目の前に広がっていて、エメラルド色の美しい波が揺れていた。

海べの波打ち際を、私はひとりで歩く、初秋の海べは、少し肌寒い!

まだ、朝早い時間だからか、朝焼けの青黒い海につづく広い海岸には人影は無く、誰もいない遠浅の砂浜がつづいていた、私は裸足になりひとりでゆっくりと歩いて、海水に足をつけて立ち止まる!

私を支えていた砂を、すこし緩やかな波が次々と打ち寄せるたびに削られて採られていく、それは、あの夢の中で見た風景そのものだった!!!

「まるで、私の命を削り取るかのように怖さを感じた。」

海水の冷たさと青黒く、深い緑色の波が私の身体中を染めて行くように、ぞくぞくした悪寒を感じて我に返った気がした。

正気を取り戻した私の足元の砂はすっかり波に削り取られて、海にのみこまれて、いつのまにか海水はひざ上にまで来ていた。

気づかぬままに私はいつしか海の中へ誰かに置き去りにされたように茫然として立っていたのだった!

ふと、私はなぜ!、何を求めて、そして誰かにしがみつきたい、そんな思いでここまで来たのだろうかと、自分の心に問いかけてみた!

明日の手術が不安だったのかもしれない、孤独さに負けそうな自分を振るい立つ気力が欲しかったのかもしれない、そんな答えの無い心の葛藤が、ただ、寂しさや悔しさと悲しみをごちゃ混ぜになって、心の中で、純ちゃんを呼び続けていたのかもしれない!!!

★ ★ ★

私は現実をしっかりと受け止めようと決心して、病院に戻った、やはり、体温が三十九度もあり、血圧も異常に高く、私の体調は最悪になっていた!

私は平熱が三十五度くらいだし、血圧も低い方で高いくても100~60が普通だったが、今、手術の前だというのに、血圧が150もあり、担当医は、明日の手術は難しいと、告げに来て、投げやりな言葉を発した!

現実、そのご、手術日がどの位の期間、先送りになるか、予想がつかなかった。
「とにかく、血圧を下げて、体温を下げて、それからの事です!」

手術予定日前日に逃げ出したと思った担当医師は、きつい口調で言った!今は私が悪いのだから、何も言えない!

私はただ担当医師の指示に従うしかないのだと思い、父も母も、オロオロとして、何も手につかぬ様子だった。

私は高い熱のために、ベットから見える目の前の誰かの姿、純ちゃんの幻をみる、そんな錯覚をしながら、何度も、何度も、苦しさと胸の痛さで、失神しては目覚めての繰り返しだった。

そして、たくさんの夢を見ていたが、その殆どは、覚えていなかった。
なぜか、山登りなど、体験も記憶もないのに、何度も何度も、何処かの谷底へ、体が、一瞬に落ちて行く!その感覚だけは、不思議に覚えていた。

やっと体調も快復して、いよいよ、私の手術の計画が本決まりとなり、体調は万全とは言えない状態だけれど、もう、これ以上、先へは伸ばす事が出来ないのだった。

微熱が中々下がらずに、手術をのばせるだけのばしたが、担当医の決断を信じるしかないと、両親も改めて承諾書にサインをした。
「右乳房の全摘出手術だ!」

私は手術の最中の事は何も分からなかった、全身麻酔によるものだったから、幼い頃から、病弱ではあったが、私の体にメスが入るのはやはり、緊張と恐怖感を無くす事は出来なかった。
五時間以上の大手術は、両親も予想していなかった。

手術室から、集中治療室に入っても、私は気づかない、眠ったままだった。
だが、両親は、手術の結果の報告を受けて、あまりの残酷なことを告げられて愕然として、言葉も出なかったようだった。

「がん細胞が、肺と胃へ転移していた事を告げられた!」

その病状は、もう、手術は出来ないほどのがん細胞の広がりだと、伝えられた。
「肺の組織検査をしたけれど、悪性のがん細胞が確認されました!」
「けれど今回の手術では肺のがん細胞を取り除く事はしていない!」
「又、数日後に、胃や脊髄の検査が必要な事を伝えられた。」

あまりの残酷な結果報告に、母は、気絶して倒れてしまい、そのまましばらくの間寝付いてしまった事を、父から、だいぶ後になってから、自分の病気の事、母が倒れた事を聞かされた。

カコは自分が生まれて来たことを恨みたくなるほど、何処までも、両親を苦しめて、悲しませて、親不孝ばかりしか出来ない娘だと思う!

つくづく嫌になる悲しみと苦しみの中で、私は両親に対して申し訳なさと自分自身の不安感で心も体も混乱して、ただ、ベットに寝ているしか、今は、何も出来ない絶望的な思いが募るばかりだった。

その頃、遠く離れたアラスカの地にいる純ちゃんの身にも、大変な事態が起きようとしていたけれど、この惨劇を誰が予測できようか、そんなことは神さえも予測できない事だろう・・・

アラスカでの映像取材も、チームが一丸となって努力した事でとても良い物が出来あがる予感でチーム全体が浮き足立った状態で、興奮気味だった。

仕事も殆ど終わりに近く、取材チームも、気持ちが楽になり、安堵感が大きくなって、その日の取材予定が終わると夜は連日の酒盛り宴会が続いた。

純輔はカコの病気の事が気になる現実もあり、どちらかと言えば、高津さんも、純輔もアルコールには弱かったし、宴会の雰囲気の騒がしさが連日続いて、すこし気疲れしていた時期だった。

残りの取材は、他のプロデューサーでも、大丈夫だと、高津さんも純輔の苦悩を察した事と、純輔のもう一度お会いしたい思いもあって、ふたりで三島さんの所に行く事なった。

あの女性「三島美佐子さん」の姿を見ているだけで純輔は勇気をもらえるような気がしていたので、彼女の家を訪ねて行く事なった。

次の日、出発前に純輔は、カコに何度電話しても繋がらない事がとても気になりながらも、セスナ機に乗り、アラスカの深い森の中へ飛んで行った。

カコの両親は、娘の非常事態を受け止めることが出来ずに、毎日、不安と混乱する思いで虚しく、落胆し、どうする事も出来ない怒りがこみあげて来る、両親の心をずたずたにしてせめつづける、拷問のような胸の痛さに耐えながら、時間だけが過ぎて行った。

カコは、手術後の経過が悪く、快復が思うように進まずに、油断の出来ない状態が続いていた。
意識も精神状態もはっきりと快復しない状態がつづいていた・・・

もちろん、そのような状態であることをアラスカにいる、純輔へ知らせる事など、出来るはずも無く、お互いの連絡が途絶えてしまった。

そして、純輔はカコの事が気なって仕方なかったが、まだ、仕事は終りではなかったけれど、どうしても、あの素敵な生き方の「三島美佐子」さんに、純輔は不思議に、母のような、姉のような親しみを感じていて、もう一度お会いして、話を聞いてみたかった。

無線で三島さんの所へ連絡しても、どうやら外に出ているようで、夏の時期は、とにかく忙しい!アラスカのダイナミックな、フィッシングを楽しむお客さんが日本など外の世界から来る事で、三島さんは自然なかたちで釣り宿の役目を担う事になって、今では、皮肉にも三島さんの生活を支える大きな資金になっていた。

元々ご自分から望んではじめた事ではないが、どうしても断れない、知り合いの旅行社から頼まれて、釣りのポイントへ案内した事がきっかけだった!

言葉の面でやはり日本語や英語をフランス語を話せる事で、フィッシング客を託されて、釣り舟を出し、少数の人の宿泊を引き受けた事で自然に今の状態になってしまったと、三島さんが豪快に笑って話していた姿を純輔は思い出していた。

★ ★ ★

ほとんど自給自足のアラスカの深い森の中での事、時には、三島さん自身がボートを動かしてお客さんを案内して、フィッシングポイントまで行くもある!

アラスカは魚や動植物の保護基準がとても厳しく制限されていて、ワンシーズンに現地の人でさえ、ひとりが釣れる魚の数が決まっている。

たとえば、キングサーモンなどは、ワンシーズンに確か、2本までと決められていて(もちろん漁業を生活の糧としている人は、捕れる数量は違うけれど)、でも、そうたやすくつれるわけでもなく、確か、つりの出来る日程も厳しく決められていたように聞いていた。

だから、日本から来て、ここに何日か滞在しても、キングサーモンを釣りあげる事がたやすく出来る事ではなく・・・

三島さんは、わざわざ、遠いところに来てくれるのだからと、心からのもてなしをして歓迎してくれる、何も、お金を儲けようなどとは、到底考える事もなく!!!

だから、評判の良い事が新たに人を呼び寄せて、お断りするのにも難しいほどの人気の場所になってしまった。

高津さんと純輔は、三島さんとの連絡がつかぬままに、セスナ機を飛ばして、あの懐かしい場所へ着いた!相変わらず、丸太を並べただけの桟橋は今にもくずれそうに見えるが、どっこい、セスナ機が巻きおこす大波にもびくともせずに、しっかりと建っていた。

ふたりがセスナ機を降りると、家の扉が開き、三島さんが私たちに駆け寄って来た。

「お待していましたよ!」
「もう、そろそろ、着くかしらと思ってね!」
「今日は、もう、どなたも、来ませんから~」
「もう、嫌になってね、ちょっとずるしたのよ私!」

そう言いながら、にこにこと笑顔で私たちを迎えてくれた。
「今年は、夏から、秋になっても、困った事に!」
「天候が不順で、サーモンが全くのぼってこないの!」
「他のお魚も殆ど遡上してこなくてぜんぜん釣れないのよ!」
「秋が過ぎて、もう直ぐ冬が来てしまうのに・・・」
「だから、お客さんの機嫌が悪くてね、気が休まらないのよ!」

そう言って、頭をかしげて、手を大きく広げた仕草をしてみせた。
「今日から一週間ほど、私は病気になるつもり!」
「だから、気を使わずに、ここで過ごしてちょうだいな!」
「もしなんでしたら、お熱も出してもいいわ~~~」
「自分のやりたい事がたくさん溜まってしまっていてね!」
「何もおかまい出来ないけれど、その辺にある物を食べてくださいなぁ~」

そういいながらも、美味しい日本茶と、どら焼きを手早く出してくれた。
「お客さんのお土産ですけれど、食べてみて!」
「李さんは、そろそろ、こんなのが恋しい頃でしょう・・・」

そういいながらいつの間にか、本当に、三島さんは、何処かに消えていなくなった!

外は気がつかないうちに、稲妻が走り、途轍もなく大きい雷が鳴って、この家が揺れ動くほどのすさましい爆音のように響き渡っていた。

窓から外を見ると純輔が今まで見たことの無い、物凄い大雨が降っていた!
三島さんはどうしたのかと思っていたら、雨に濡れて戻って来て・・・

「もう少しで、ボートが流されるところだったわ~」
「間にあって良かった、今日はいきなり来たわね!」
「おふたりが着いてからで、カミナリと大雨に出あわなかった事!」
「幸運だったわね・・・」
「ここのところ、毎日、こんな感じなの、天候が予測できないのよ!」
「突然、嵐になったり、吹雪になったり!」
「そうかと思えば、とても、暑くて、一時的に、真夏になったりするのよ!」
「確かに昔から、アラスカは一日のうちに四季があると言われているけれど!」
「なにか、変なのね!最近のアラスカは!」
「だから、サーモンもここまでのぼってこられずにいるのかしら~~~」
「もう秋も過ぎて、冬が来るという時期なのに~」

三島さんは濡れた体や衣服を手馴れたようすでふきながら、そんな事を言っていた。

そんな、ふと、思いついた事を誰かに聞かせるでもなく、お互いに話しながら、時に、ふいっと、いなくなる三島さんの不思議な姿や行動を見ていて、高津さんは、純輔に、何気なくつぶやくように・・・

「ここは気兼ねと時間は必要ないところなんだ!」
「自分が過ごしやすいようにしていれば!」
「何かが分かって来て、気分が良くなる場所だろう!」

確かに、そうだと、純輔も少しずつ感じてはいたが!
この二日ほど、何もせずに、寝て起きて、食べて、話をして、森を少し歩き、河を眺めて、ゆったりとした時間が過ぎて行ったけれど、純輔には心からこの自然とゆったりとした世界には浸りきれずにいた!

どうしてもふとした瞬間に「カコ」を想い、恋しさと不安な気持ちになって来る事を抑えられなかった。

「三島さんが、突然、声をかけて来た!」

「どうやら、やっと今頃に、サーモンが上がって来たから!」
「釣りをしてみては、いかがかしら?」そう言ってすすめてくれた。

以前から、純輔も、サーモン釣りをしてみたいと思っていた事で、さっそく実行する事になって・・・九月の終りになる今頃になって、ほんの数匹、、サーモンが河を遡上している姿を確か
にみられた。

生まれ故郷を目指し、勢い良く、力づよく、ただ、サーモンの姿は小さめで数も少ない、いつもの年よりも、かなりおそい遡上だった。

サーモンの姿が、小さく、数が少ないとぼやきながらも、ボートを操る、若いひげ面のたくましい青年「ジョージ」君は、得意げに、ボートを右へ左へと、巧みにあやつり、フィッシングポイントへ案内してくれた。

エンジン音を響かせ、どのくらい、河をさかのぼったのだろうか、河幅は海のように広くなったり、又、大きなボートでは通り抜けられないほどの狭い場所を次々と走って行く・・・

少し寒さが気になるけれど、気持ちの良い、川風を受けて、時には、波しぶきをかぶる事もあり、突然驚かせては、ジョージは、にやりと薄笑いして、でも、その表情が少しも嫌味には感じないおおらかさがある青年だ!

ジョージ君は、まだ、ハタチ前だとか?三島さんの息子で、アラスカ大学の学生だった。

だが、誰も、三島さんの本当の子供か、養子なのか、分からないが、そんなことは誰も気にしてはいない、ここではどうでもよい事、小さな事だ!

                        次回につづく


逢いたくて<永遠> 9 (小説)

2013-10-20 10:11:18 | 逢いたくて<永遠> (小説)


★迫りくる不幸★

三島さんは、人としての信頼感の持てるからいつのまにか周りの人たちを大好きにさせる名人です、殆どの人が、直ぐに好感を持って付き合いたくなる人、優しさと強さを持った女性なのです。

普段の生活では、ジョージ君はアンカレジに住んでいて、彼が時間が出来た時だけ、ここに来て母の手助けをしていた。

その自然な親子関係がとても素敵だったし、誰もが心地よい好感を持てる母と子の姿だった。

やっと、ジョージのお勧めのフィッシングポイントに着き、釣り糸を流し、何度と、サーモンは食いつくけれど、その度に、あっさり、逃げられてしまう!かなり、悔しくなって、純輔は、持ち前の負けん気をむくむくと、気持ちが荒くなってしまった!

この時点で、釣り人としては失格だったのでしょうね!

純輔は今までに、何の魚釣りも経験のない、全くの素人だった!

だから、最初は、ジョージがアドバイスを送る事に従っていた、けれども、何度もサーモンにだまされて、逃げられるとだんだん意地になっていらだって来る・・・

「今度、ヒットしたら、絶対に逃さぬぞ!」
「自分に気合を入れ、念じて!、肝に銘じた!」

そんな純輔の苛立つ姿を見て、ジョージはすこしポイントを変えてくれて!
「ここ、ナイス、ポイント!、」
「絶対ね!」
そう言って、ボートを停めた。

しばらくは、嘘だ!、何の魚の姿も見えないではないかと思った瞬間!
『私の体を大きく引きずられるように、強い感触の「引き」が感じた』

それと同時に、これは、大きいぞ!、もうこれ以上逃すものか!
私は身体中のエネルギーをひとつに集めて、「念力」をこめた!
ジョージが、大声で、アドバイスするが・・・

「引いて!」「ゆるめて」と何度も言いますが、もう、私の耳には届かない、いえ、何を言ってるのか、理解など出来ないし、理解しようと思わえなかった!

私の全体重をかけて、一本の釣り竿を握りしめ、絶対に逃さぬぞ!サーモンの逃げようとするエネルギーはすざましいものだった!

この釣りボートを私たち三人、高津さん、私、ジョージを乗せたまま引きずりながら、暴れ回る・・・もう、ただ、ただ、逃したくない!と、私は必死で、サーモンと大格闘した。

その時間は、一時間はゆうに越えただろうか、やっと、私の粘り勝ちの勝利だった。

サーモンの大きさは180cmの大物、巨大な、キングサーモンだった!

このサーモンは、純輔に釣り上げられた事がよほど、悔しかったのか、釣り上げられた瞬間に!!!

『私に、最後の抵抗をして、サーモンの体をピンク色に染めて!』
『そしては紅い血色の尾びれをおもいきり、私の顔に、一撃を与えて、こときれた』

その瞬間、私の右眼が、まるで、炎で焼かれるような、強烈な熱い痛さを感じて、失神して倒れこんでしまった。

「その瞬間、私は、すべての光が消えて、真っ暗な闇の世界に入ってしまった!」

純輔はその時、何が起きたのか自分が何をしたのか?どうなってしまったのか、何も覚えてはいない!、意識を取り戻した時、純輔は、アンカレジの病院の治療室のベットの上だった。

医師の診断の結果、左目はすこし傷ついただけで、時期が来れば快復して、見えるようになるが、問題は右の目だ!右の眼球が酷く傷がつき、右眼の視力はもう、快復が難しいだろうとの診断だった!!!

あまりにも、一瞬の出来事で、純輔は混乱して、今の自分の状況を理解出来なかった。

まるで、映画の中での撮影のような錯覚だとさえ思えた、そのような撮影場面を演じている長いシーンのつづきのような錯覚に思いたかった。

監督からいつかは「カット」の声がかかり、暗闇は、光が射し、眩しいほどの、輝く世界に戻れると何度も思えた混乱する精神状態のだった。

病室の中で、純輔はベットに横たわりながら、少しずつ、少しずつ、夢だったのか現実に起きた事だったのかを思い起こして行った。

幸いにも、仕事は、大半が終わっていたので、純輔が立ち会わなくても、高津さんや伊達さんが手助けをしてくれた事で、十月入ってすぐに、アラスカのドキュメンタリー映像取材は完了した。

後は、日本へ帰国してからの編集作業があるだけになって、純輔はまだ眼の視力が快復していないまま、帰国してそのまま、カコの入院している、同じ病院の眼科に入院した。カコへはまだ、純輔が事故にあった事は知らされてはいなかった。

★ ★ ★

相変わらず、カコの病状は悪くて、時折意識を無くしては両親はその度に、緊張して不安が募る辛い状態だったがカコの両親のできることは担当医を信じて待つしかなかった。

けれど、純輔の所属事務所から、カコの両親へは、連絡があり、純輔がアラスカで大事故にあった事を知らされた。

帰国と同時に、カコの入院してる同じ病院の眼科に入院した事も伝えられた!

その時、純輔の右眼は失明して光を取り戻す事がないだろうと、知らされていたが、カコの両親は一途の望みを持って、祈るしか方法はなかった。
今の日本の医学は、世界のどの国よりもすぐれている!

きっと、最先端の医学を持って、もう一度、眼の手術をすればきっと、視力は快復して、光を取り戻してくれると、思いたかった。

いつかは、自分たちの息子として、カコと幸せに暮してほしいと願っている!
「愛する義理の息子、純輔だ!」

純輔の姿を見たカコの両親は、変わりはて、憔悴しきった純輔の無気力な姿!

やはり、純輔は日本に帰国しても、思うような視力の快復が得られず、又、愛するカコがなぜ、自分を避けているのだろうか!

なぜ、カコは私のそばに来てくれないのかが、気になって仕方なかった。

カコの胸の手術の結果も聞かされていない中で、起きてしまった純輔の事故により今は暗闇の中で手探りで生きているふたりを結び繋げる糸は切れてしまったのだろうか・・・

純輔はひどく混乱していた、突然の闇の世界に閉じ込められて、心が惨めだった、寂しさでカコに思い切り抱きしめて欲しかった!

そう思う気持ちとは裏腹に、心の何処かでは、このような弱い姿、惨めな姿を、カコに見せたくない思いも確かにあった。

けれど、どうしても聞かずにはいられない、純輔は、思い切って、カコの事を、たずねた!
けれど、カコの両親は、しばらく沈黙の後、深呼吸するように・・・

「せっかく、純輔さんが、アラスカから帰国できたのに、すみませんね!」
「軽い感染症にかかってしまって・・・」
「今、カコは、すこし、熱が出てね!」
「ドクターに病室を出る事を止められているのよ!」
「もう少し快復するまで待っていてくださいね!」
「私たちも、カコに中々あえない状態なのよ・・・」

そう言うだけが、精一杯の両親の言葉だった。

カコの両親は、とても、今のカコの状態を純輔に話す事は出来なかった。
純輔が今どんな状況であれ、カコが乳がんの手術をする事だけアラスカへ戻る前につたえていたが、今、肺への転移とおそらくは、胃や脊髄へも、転移の疑いもを考えられるとの診断されていた!

カコの体力の快復を待って、急ぎ、改めて肺の手術が待っていた!

けれど、カコの乳がんはもう、乳房の摘出だけでは、手の施しようも無いほどのがんの進行が早く、絶望的な状態だった!

純輔もまた精密検査の結果、やはり、アラスカの病院での診断と同じく、左眼は、視力の快復が望めるが、右眼は視力快復が望めない事がはっきりと診断された。

人の運命は、明日の事も予想がつかないし、分からないと、良く、聞く事だけれど、まさか、自分の身に起きるとは、純輔は思ってもいなかった。

純輔は待っても、待っても、カコは逢いに来てくれない事の不安と自分自身の暗闇の恐怖でかなり苦しく、混乱の日々がつづいてるが、だが、純輔の持ち合わせている、本来の精神力で、片目でも、確かに、不自由ではあるが、生きて行く自信を取り戻し始めていた。

純輔の正式な、検査結果では、右の眼を移植手術によって、以前のような、健康な眼を取り戻す事も出来るとも、説明されていた。

その事を、純輔は、すべてにおいて、まるで、純ちゃんと私の両親は、実の親子のように、話し合い、相談しあっていながらも、私の両親はカコの現実を隠したままで、純輔へのかりそめの喜びを分かち合った。

その事は、私の現実を、純ちゃんへ話す事は!『絶対にダメ!』

私は、この先の事を思うと、少しでも、純ちゃんが希望を持って生きていて欲しかった、辛くて、悲しみの現実を知る事は、後からでも間にあうし、現実を知る事は、たとえ一日でも先であって欲しかった。

「眼球の提供者は、中々出てはこないと思うけれど!」
「僕は、まず、左目の治療に専念して!」
「右目の提供者が現れた時には!」
「ありがたく、感謝して頂き、その人の分も眼を大切にして!」
「すこしでも長く、生きて行くつもりだ!」
「たぶん、提供者の方は!」
「たくさんの思いを残しての人生が終わるわけだろうからね・・・」

両親から、純ちゃんのようすを聞きながら、やはり、彼は精神的にもとても強い人だと確信した!

★ ★ ★

カコは純輔の姿を想いながら、両親の話を聞き、まだ、両目とも、何も見えてはいない状態でも、希望が持てる純輔の姿を思い浮かべて少し眩しく感じた。
カコは今すぐにでも、純ちゃんに逢いたかった!

「声を聴きたいし!」
「抱きしめて欲しい!」

そう願いながらも、カコはベットから起き上がる力も無いほど急激に体が弱っていた。

カコは両親から、純ちゃんのようすを残さずどんな些細な事でも聞いてはいても、姿を観て確かめたかったが、その勇気が出てこないし、体が動いてはくれない!

あの感の鋭い純ちゃんのことだから、すぐに私の変化に気づいてしまう、たとえ、今は何も見えなくても、私の今の状態を見抜いてしまう、私は、ベットから出てはいけないとも思った。

純ちゃんの眼が、左目だけでも、視力を快復するまでには、私自身の今の状況を改善させなくてはいけないと、かたく決心した。

必死で体力をつける努力をして、やっと何とか体を動かせるまでに快復して時、母に頼み、起こしてもらい、車椅子に乗せて貰って、純ちゃんの姿をそっと遠くからみて純ちゃんの痛々しい姿を確かめるしかなかった。

声もかけられず、お互いを励ます事も出来ずに、じっと、その場所から、自分が耐えられる間をぎりぎりまで、純ちゃんの姿を見ていた。

純ちゃんは一人でぽつんとイスに座ったまま、窓の方を向いたまま動かずにその場所にいた。
すこし時をおいて、私の父が純ちゃんのそばに行った!

純ちゃんに何か、話しかけて、窓際から、ベットの内側に、父に手を取られながら純ちゃんは移動した、私が純ちゃんを寄りはっきりと見れる位置の場所へ、父と共に移動してくれた。

しばらく、私は呼吸さえも抑え気味にして、純ちゃんが私に気づく事を心配した。

母と私は、声を出さずに、うなずきあいして、その場所を離れた、何度も振り返りながら、純ちゃんの姿を追って、見ていたけれど、やがて、エレベーターが私を運んでくれて、私のいる部屋、5階についてしまった。

純ちゃんが入院している眼科病棟は7階だった、わずかの位置に純ちゃんはいても、私に逢えない事が不振感を募らせて、純ちゃんは今まで私たちに見せた事のない我儘な言葉で、父に何度も問い、聞こうと、父を呼び出す!

私の電話には繋がらない事が、とても気がかりのようで、時には・・・
「なぜ、カコに逢わせてくれないのかと詰め寄り、いらだつ様子だと・・・」

父は、そんな時、「カコは体調がすこし悪いので、家にいる!」
「君の事故の事は、カコにはまだ話していない!」
「君の今の状態を見たら、きっと、驚くし!」
「心配して、カコの体によくないからね!」
「せっかく、退院出来たばかりだから・・・」
「もう少し、待ってくれないか?」

そうなのです、純ちゃんには、私は、退院した事になっていたのです!!!

私の病気は、乳がんの初期だったと、両親から、純ちゃんに伝えられていたのです。

純ちゃんには、私は乳がんの手術も成功したが、すこし、快復が遅くて、大事を取って、退院後も家で静養していると伝えられていた。
「元々の持病である、免疫の低下もひどく!」
「今は感染症に気をつけて生活しなくてはいけないから!」
「カコは外出をドクターからとめられていてね~」

父は純ちゃんに対してつらい嘘を重ねるしか方法がなかった。

今、純ちゃんの眼が見えない事が私はとても心配だけれど、私は、乳がんだけではなく、すでに肺に転移していて、おそらくは脊髄と胃にも転移の兆候があり、体力の快復を待って、検査をするのだとは、純ちゃんに正直に言えない事だった!

純ちゃんの左目がある程度視力が戻ってきた時に話せば、きっと、純ちゃんは、分かってくれるはずだと、私が判断して、両親に頼んで、固く口止めをしていた。

けれど私の体はそう簡単に体力が快復するほどの病状ではなかった。

それでも、ひと目、純ちゃんの姿を見た事で、私は不思議と気力が出て来て、奇跡的に、検査を受けられる状態に体力が快復した。

その絶好の機会を逃さずに、私は検査を実行した、ベットからひとりで起き上がれないほどの衰弱した私の体は、又しても、純ちゃんからの元気エネルギーを少しだけ分けてもらったように思えた。

まず、急を要する脊髄の検査と胃の検査を受けて、その後に全身の検査がおこなわれた。
その結果は、あまり時間を置かずに結果はわかった。
が、あまりにも、ショッキングな結果が報告された!!!

肺への転移はすでに、乳がんの手術で分かっていたが、もう、手術出来る状態ではなく、脊髄にはまだ転移はしていなかったが、胃への転移は、間違いのない状況だった。

しかも、進行の早い「スキルス性胃がん」で、手術は難しい段階だとはっきりと検査結果が出た!

ドクターの話す言葉が、何処か遠い異国から来た、ロボットの機械音のように聴こえて、私は、自分の事として、直ぐには受け止められなかった。

ただ、体の中を通り過ぎて行く言葉なのか、不思議で無機質な機械音声のようにこの耳に聞こえていた!

私のいる病室の窓から眺める景色は、昨日と何も変わっていないのに、なぜか、どの樹木も赤茶けて光もなく、薄黒く見えて、とても不気味で、美しいなどとは言えない色彩だった。

そうかと思えば、誰かが何の為なのか?私に拍手を贈っているような錯覚がして、怒りがこみ上げてくる!

そして、その日を境に、病院での治療も私に接するすべての人々の態度も急に粗末で不親切になった気がした!

ただ、点滴を絶え間無く打ち、私の体に毒物を注入しているような悪意さえ感じてしまう!

ベットから起き上がれない体が疎ましくて、怒りといらだち、誰、かれ、かまわずに八つ当たりして見たりと、自分がだんだん惨めで、嫌な人間に変わっていく姿を、私自身は体からはなれた場所で自分の姿を見ているような感覚だった。

                       次回につづく

逢いたくて<永遠> 10 (小説)

2013-10-20 10:10:32 | 逢いたくて<永遠> (小説)


★愛、偽りの言葉、そして決意★

今、このベットに横たわる人間が現実の私なのか、そのことさえ理解出来ない精神が定かではない、そんな状態と全身の痛みは同時進行で、私をいたぶり続ける!

もうだいぶ前から、あの身体中が痛かったのは、こんな悪い物が私の体に棲みついたずらしていたからだったのかと思うと、今更ながら、つねに病弱な体だったから痛みや体調の悪さに慣れさせられていた?鈍感な自分が嫌になって来る・・・

あの衝撃を受けた告知を受けた時から、どの位の日々が過ぎたのか、相変わらず、私の体は、つねに点滴のチューブにがんじがらめになって生きていた。

はっきりしない意識の中で、ふと、純ちゃんは今どうしているのだろうかと考えて、私はうなされるように、突然、両親に問いただしたが、しばらくの間、ふたりは黙ったままだった。
そして、父と母は覚悟をして思いつめたように・・・

「純輔君、まだ、あの時のまま、両方とも眼は見えないんだ!」
「左目もまだ、視力は快復してないんだよ!」
「御医者さんは、もう、とっくに、左目は見えるはずだと言ってるけどね!」
「もう、眼の怪我は綺麗に治っているけれどね!」
「どうしてなのか、不思議な事だそうだよ!」

両親の話す言葉がだんだんと私の意識から遠のいて行く、ただ、純ちゃんの顔が浮かんで来た!
あの美しく、微笑んでくれた笑顔と私をあの凄いオーラエネルギーの渦の中に巻き込んでしまいそうな素敵さで・・・

時にみせる、うつむきの愁いを!
純ちゃんにしか存在しない、あの『潤んだ美しき瞳』

ただ、あの『美しき姿』を、私は今、はっきりと思い出していた。

その時、なんだか分からない感情と感覚で、自分の体が宙に浮かぶように軽くなったように、そして、何の痛みも無いようなそんな気がした。

私は無我夢中で、自分でベットから起き上がろうとしたがやはり力がなかった、そして母に手伝って貰い、車椅子に座った。

そして、とっさに、今、純ちゃんに逢いに行こう!母にすがるように言い、願い出た。

「純ちゃんに逢わせて!」
「純ちゃんに話さなくては!」
「きっと、眼は大丈夫だからと!」
「純ちゃんに伝えなくては!」
「私は純ちゃんの奥さんになるのだもの・・・」
「きっと、待ちくたびれているはずだから!」
「逢いに行かなくては・・・」
「伝えなくては、純ちゃんの眼は、大丈夫だと!」

私は全身の力で母に訴えるように言って、母とふたりで純ちゃんの部屋に急いだ!

病室の純ちゃんはひとりでぼんやりと何をするでもなく、見えない目で窓の外を見ていた、私はそっと純ちゃんに近づいて・・・

深く深呼吸して渾身の力をこめて、元気なふりして、純ちゃんに声をかけた!

「純ちゃん、お待たせ!」
「ずい分長く待たせて、ごめんなさい!」
「私、やっと外出が出来るようになったの!」

それだけ言って、純ちゃんの手を握って・・・

「本当は、ハグしたいけど!」
「ごめんなさい、今、ちょっと、飲んでる薬のせいでね!
「体が匂うから、ダメね!」
「純ちゃんが良くても、私が恥ずかしいからダメなの・・・」
「今日は、やめてね!」
「明日はきっと、大丈夫よ!」

そんな、出来るはずもない、当てのない約束を言ってしまった。

私の体は確かに薬焼けとでも言おうか、自分でも気になる嫌なにおいがする、けれど、もっと、辛いのは、私の体がげき痩せしている事を、純ちゃんに知られたくなかった。

本当に短い、純ちゃんとの母親同伴のデートだった、あまり、長い時間は、純ちゃんの感のよさで、私の変化を感づいてしまう事を避けた。

その帰りに、純ちゃんの担当医を尋ねて、純ちゃんの今後どのような治療が必要かを聞いて確かめてみた!

確かに、純ちゃんの左目はもう、完治しているので、事故のショック、精神的なもので、見えていないが、たぶん、右目の眼球移植をした時に、おそらくは、両目、同じように見えてくるだろうと言われて、私は、決心した!!!

『先生、この私の眼を、純ちゃんにあげてください!』
『私のこの眼は、まだ、がん細胞に侵されてはいません!』
『とても綺麗で視力も良い状態だと、保障されています!』
『今の私の状況から考えても!』
『不思議なくらい、なんの病気にも侵されてはいない!』
『とても綺麗な、眼だとドクターに言われています!』

純ちゃんの担当の眼科の医師は、一瞬、驚いたようだったが・・・
「落ち着いて!、落ち着いて!」と、言いながら・・・

まるで、慌てているのは、医師のほうだった。
「まあ~座ってください!」

もうその時には、私はすでにイスに座っていた。
そして、まだ、脊髄には奇跡的に転移していなかった事や私の今のがんの進行状況を話し、少しでも早く!おそらくは、近い内に、私は命の終りの時期が来る事を覚悟している!!!

だからせめて、この眼だけでも健康な内に、純ちゃんに移植して頂き、私の命が終わった後も、せめて眼だけでも生きたい!私は純ちゃんの体の中で生きて、この世界を見ていたい!!!

私は真剣だった!本気で純ちゃんに眼の移植手術をしたい事を話しても、眼科の医師は簡単には納得してくれなかった。

もちろん、私の両親も最初はとても驚き、反対だったけれど、何度も、何度も、私は倒れてしまうほど真剣な思いで両親に話して・・・

「もう私には残された時間がないの!」
「この方法しか、私は純ちゃんのこれまでの深い愛情に応える事が出来ない!」
「だから、パパもママも、私の気持ちを理解して!」

私は必死だった、純ちゃんに私の命を託したい想いがあった!
この方法が、すべてに、最良の事だと、私の決心は変えようが無い事だった!
私の意志の固さを知った両親と私の担当医が純ちゃんの担当医に状況を説明して・・・

「私の存在が消えてしまっても、私は純ちゃんの光の中に存在する!」
「純ちゃんと共に生きられると思えた!」
「私は死で終るのではなく永遠に純ちゃんの中で生きられる!」
「姿こそ消えても、純ちゃんの光になれる事が幸せだった!」
「こんな素晴らしくて、幸せな事は他にない!、私は揺るぎのない決意だと確信していた!」

私の周りにいる、ひとたちに分かって欲しい!
そう、説明する事しか出来ない!

もし、奇跡的に私の命が守られたとしても左の眼が生きたいと願いつづけ努力するだろうと、医師をまた両親に理解してもらった。

ただ、純ちゃんが事の真実を知った時のショックが大きい事は予想がついたので、両親にも、もちろん、医療関係者にも、純ちゃんには秘密にして貰う事を、硬く約束して頂き、私の眼を純ちゃんの右眼に移植手術される事が決定した。

私の体はもう、猶予のない!時間との勝負だった。
私は、がんの治療はもうだいぶ前にやめていた、ただ、痛み止めだけは使わずに入られなかった。

だから、眼に対しての副作用がとても気になるけれど、強い痛みには、耐える事が出来ない!

「そして、純ちゃんへの眼の移植手術は、突然のように、始まって、私の右眼は純ちゃんの中で、生き始めていた。」

私の中にある右眼は当然、義眼だけれど、今の医学技術は、本当に素晴らしい!誰が見ても、義眼だとは疑う人はいない!

私の日常はもう自力では動けない為に、見えるのが左目だけであっても、さほどの不都合はなかった。

私の眼のかわりをしてくれる母は今まで見たこともない気丈な人間に変わっていた。

常に私に付き添い、疲れを見せずに、看病してくれて、たいていは、私は何が欲しいのかを伝える前に気づいてくれる母だった。

だから、純ちゃんの手術が成功だった事も直ぐに伝えてくれたが、その後の経過を中々話してくれない事が、私は気がかりだった。

私は自分から尋ねる勇気がなかった、こんな私の眼では、純ちゃんに悪い事が起きてしまうのではないかと、不安な気持ちが広がって行く・・・

するともう止めようのない恐怖感が私を包んでしまう・・・
両親の元には、連絡が来ていた!

純ちゃんの移植手術は成功したが、まだ、視力は回復せず何も見えないままだと言う事だった。

カコの両親は、純ちゃんの眼の状態が見えないいままで変わらない!その事を伝える事が出来ない!、娘の自分の命をかけて実行した事が、まだ、何の成果も見られぬ!
とても、そんなふうには、話せない、父と母の苦悩する思いだった。

両親の心の隅には、まだ、カコの行為が認められない、純ちゃんへの眼の移植手術に違和感があったのは確かだった。

淡い願いだけれど、娘の身に奇跡が起きて、がん細胞が消える事があるかもしれないと期待していた。

そして、娘カコに残された時間は特別な存在によって何かをもたらせてくれるのではないかと願う、信仰心の持たない親であっても、見えない存在に祈りを捧げたとしても当然の思いだった。
たとえ、完治する事が出来なくても、ベットから起き上がれて、もう一度、笑顔を見せてくれて、そうだ!、昔のように、家族で旅行が出来るかも知れない!

そんな、虚しい夢を見ていたから、純ちゃんへの移植手術は、親としては認めたくない、娘は自分から命の灯を消してしまうような行為にしか受け取れずに、両親は苦しんでいた。

カコはその事も充分に承知している事だし、何度も話しても、親としては理解出来ないだろうけれど、私の気持ちを優先させてくれた!無謀とも思える事に同意してくれた両親の愛情の深さに感謝していた。

カコはもう、一日の殆どを、ベットに横になる生活の中で、夢ばかり見ていた。
いつも、同じような夢ばかりだった。

カコは夢の中で自分の姿を見ていた、何処かの草原を裸足で走っては、遠くで誰かが私を呼んでいる、そんな、同じような夢だった。

そして、草や小さな花からの夜露に濡れた足の冷たさでいつも目覚めては悲しみだけではない、言い知れぬ幸福な感情にもなっていた。
そんな日々のある日、夢なのか現実なのか!突然、純ちゃんは、私の前に現れてあの力強い腕で、私を抱き起こしてくれた!

「カコ、何をぐずぐずしているんだよ!」
「いつまでも、寝てばかりいてはダメだよ!」
「さあ~急いで支度してよ!」
「どうしても君と一緒にいきたいところがあるんだ!」
「やっと、カコを迎えに来れたよ!」
「本当にながく待たせてしまったね!」
「もう、大丈夫だよ!」
「僕は元気だからね!」
「今日はふたりの特別な日だね!」
「いつまでも、寝てばかりいたら、僕は・・・」
「僕はどうすればいい・・」
「そうだよ!、起きてくれないと、怒っちゃうからね!」

そう言って、私を着替えさせてくれて、抱きかかえて歩き出した!

純ちゃんは、とても元気で、眼もよく見えているようだった。
「カコ、実はね、今日は、僕が、ハリウッド映画に出演した映画!」

『遠い祖国』

そう、そうだよ!、「遠い祖国」の日本公開の初日なのだよ!
だから、僕とカコは一緒じゃなきゃにダメなのだよ!
ふたりが一緒に観れなくちゃ、カコも悲しいだろう、怒っちゃうだろう・・・

                       次回につづく

逢いたくて<永遠> 最終回 (小説)

2013-10-20 10:09:32 | 逢いたくて<永遠> (小説)


★愛、永遠に★

突然、私の前に現れた純ちゃんは笑顔で、いつもと変わらずに、いや、いつも以上に優しく、そして強い言葉と表現が違う気がして、けれど、今日は!「そ・の・前・に」君との約束を果たす日だよ!

「今日は、何も言わずに!」
「僕の後について来てくれるね!」

私は返事をしたいけれど、声が出ないようで、言葉にならないから、心で答えた。

「純ちゃん!、それは無理よ!」
「だって、私、純ちゃんに、抱っこされたままだから・・・」
「純ちゃんの後ろからは、ついて行けないわ~」

そんな会話をお互いの心で話している時、街角の小さな教会の前で、純ちゃんは、立ち止まり、教会の扉が自然に開いて、たくさんの美しいお花に飾られた、バージンロードが遠くまで広がっていく・・・

純ちゃんは私を抱きかかえたまま、バージンロードを進み、十字架の前で!

『カコ、約束だよ!』
『頑張って、ふたりで生きて行こうね!』
『今日が、ふたりの生活がはじまる日だよ!』
『ずっと、ずっと、毎日、毎日、君を愛して行くよ!』
『だから、君も約束してほしい!』
『僕をいつまでも愛していると言ってほしい!』
『愛してると!言ってほしい、まだ、聴いていないんだ!』
『君からの愛してるの、言葉を!』

「たった今、この教会で純ちゃんと私は永遠の愛を誓い合った!!!」

私の微かな意識の中で、純ちゃんとふたりだけの試写会場に居るようだった。

純ちゃんの出演したハリウッド映画『遠い祖国』を観ている、大きなスクリーンが、何度も、何度も、純ちゃんのあの愁いのある瞳をクローズアップを映していた!

他に誰もいない、たったふたりだけの公開初日を!
純ちゃんと私は公開日とヒットを願いながら、お祝して、ワインを酌み交わしている!

もちろん、カコは飲めるはずも無いけれど、口の中でわずかにワインのかおりで潤った。
そして、カコは、純ちゃんにつたえた!

『純ちゃん、おめでとう!』
『とても、素晴らしい演技でした!』
『とても素敵な感動をありがとう!』
『これからもず~と、素敵な人でいて!』
『私に感動を届けてね!』
『私の大好きな俳優でいてね!』

そう伝えるのがやっとだった!カコは本当に幸せだった!

私は確かに、三十数年のあまりにも短い生涯ではあっても、こんなに素敵な「純輔」という男性にこんなにも深く愛されて過ごした私の人生は幸福な日々だった・・・

「夏湖」はもう何も想い残す事も、悔いも無い喜びに満たされていた・・・」

「いつかふたりは別の世界で寄り添いながら比翼の鳥に生まれかわり天高く舞う事を願いながら・・・」

カコは、純ちゃんの胸の中で抱かれたまま、幸せな心で、ゆっくりと瞳をとじて、意識がかすかに、かすかに、薄れて行く・・・

★ ★ ★

純輔は夏湖をしっかりと胸に抱きしめたまま、しばらくはそこを動こうとはしなかった!

人は誰でもがかぎりある命、私のその命の一部が純ちゃんの中で生きつづけられる喜びにあふれて私は旅立つ!

いつの日かきっと又出逢えると約束を交わして・・・

純輔は、夏湖がなくなってから、すべてを知った!!!

純輔はあまりにも衝撃が大きくて、混乱と苦悩する日々を、しばらくの間、アラスカで暮した、俳優としての仕事を一切止めて、まるで、世の中から自分の姿を消してしまいたいように思いながら暮していた。

夏湖の純輔への特別な遺言と言うべき物はなかった、ただ夏湖の両親から渡されたいくつかの遺品をまだ純輔は開けて見る事が出来なかった。

夏湖は生前に純輔へすべての想いを伝えていた事で、遺言書は書いていなかった。

純輔は傷心の中、アラスカで暮していて、高津さんや伊達聡介さんの心遣いに救われる思いだった。

お二人との年齢も近い事もあり、さりげない気遣いが嬉しかった、また、釣りを進めたばかりに、事故にあった事に責任を感じていた、あの女性、三島美佐子さんが、純輔の面倒を見てくれていた、自分の家からすこし離れた場所にある、作業所を、純輔が住めるように改造してくれて、何くれとなく世話をしてくれた。

純輔は夏湖が亡くなった事も認められず、夏湖のいないこの世界で自分がなぜ生きているのかが不思議だった。

なぜ又、ここ、アラスカに来たのかも考えずに、無意識に体だけが行動させてここに来てしまった気がする・・・

そしてどのくらいの日々をアラスカで暮していたのか・・・

何をして暮していたのかも、しばらくは純輔の記憶の中には消えていて無かった!
ただ時間だけが過ぎて行った。

そんな中で純輔は生まれ持った生命力の強さから、少しずつ、自分を取り戻して、やがて、精神的に不安定ながら、純輔自身に戻って行った。

そのきっかけは、純輔と夏湖がふたりで良く見た映画のポスターだった!

純輔がその時生活していた作業小屋には、三島美佐子、彼女が若い頃大切にしていた記念の品がまとめられていた。

その中にあった!
映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の古いポスターだった!

純輔と夏湖はこの映画が本当に大好きだった、だからこの長い映画を観られる時間がある時は、どちらかともなく、選んで、DVDを手に取り・・・

「ねぇ~これでしょう!」
「また、観たい気がしない、純ちゃん!」

そんなふうに「夏湖」は言って、純輔にねだるのが得意だった!

この映画を観ては、ワンシーン、ワンシーン、お互いの好きな場面を競い合いながら、常にふたりは新しい発見を語り合い楽しんでいた。

そんな思い出が、純輔は悲しみと苦悩の中から、這い上がる力を、いつも、「夏湖」が語りかけているように、感じて、日本へ帰国する事になった。

純輔は日本に帰国しても、カコの死後、仕事の関係者とは連絡を断ち切っていた為、しばらくは、仕事もなかったが、純輔は焦らずに、仕事の以来を待っていた。

そして、又、脇役からの再出発だけれど、俳優として演じられる事の喜びを純輔は感謝していた。

俳優としていろいろな役柄を丁寧に演じながら、時はゆっくりと過ぎて行った。

そんな日々の中でいつしか純輔も今は50歳を過ぎて、中堅の俳優として、認められて、今は、主役を演じてはある演技賞に輝いて、又、脇役でもあっても純輔の感性のうごく作品には迷うことなく出演し、高評を受けていた。

夏湖がなくなってからは、仕事も前のように、忙しくて困るほどはせずに、時には演出を手がける事もある、有意義な生き方で、自分の感性が求める仕事を選べる立場にもなれていた。

★ ★ ★

純輔は、ふと、自分が生まれ、育った、故郷を訪れてみようと思えるのだった、今まで心の奥に閉じ込めていた「故郷」

高校を卒業と同時に、故郷を逃げ出すような思いで、家を出た、故郷!

純輔の父の家は日本海に鳥海山の長い影を映す秋田県のある町!、鳥海山の山すそが広がる場所にあった。

大きな町の郊外に秋田杉の製材工場と販売を手広く取り扱う会社を営む古くから代々引き継がれた家だった。

純輔の父はどちらかと言えば、材木商よりは、とてもワインに興味を持ち、研究しワイン作りの夢を持つ人だった!

又、絵画にも精通していた人で、特に、セザンヌやモネ、シャーガールなどの絵画を数点所蔵していて、自宅の隣に小さな美術館を開いた事をだいぶ以前に、純輔に知らせて来た事があった。

純輔が家を出たのち、数年が過ぎた頃に秋田杉の商いをやめて会社を父の友人に任せて、純輔の父はワイン作りに取り組みだした。

住まいも母と純輔が過ごしていた、田沢湖畔の家を小さなホテルとレストランに変えて、そしてワイナリーを経営して成功していた。

現在では味と香しい香りのワインで知られたワイナリーとして、地元やワイン好きの人であれば、一度や二度は聞いた事のある銘柄で「ときの翼」の醸造元だった。

母は純輔がまだ幼かった頃から病弱で、病気治療の為に田沢湖畔にあった別宅で母とお手伝いさんに育てられた。

純輔が幼かった頃は秋田杉の製材工場が忙しくて、父はたまに母の見舞いに来る程度でしか父に会うこともなく成長した為にどうしても何処か馴染めない他人のような感覚で接していた。
母は純輔が中学2年生になったばかりのあの日、真冬の寒さが厳しい日に突然なくなった。

母は純輔にとって、特別な存在だった!

父が仕事が忙しくて、一緒に生活していない事で、馴染めない存在だったから、純輔にとっては母はすべてにおいて特別な存在だった気がしていた。

そんな大切な母が亡くなって一年も経たない頃に、父は再婚した!

しかも、その人は、純輔が初恋ともいえるひと、淡い想いを抱いてた女性で、まだ、二十歳を少し過ぎたばかりの眩しいほど美しい人だった!

純輔の母方の遠い親戚筋に当たる女性で、時々、純輔の勉強を見てくれる、母代わりであり姉のような、又、思春期の純輔にとって、異性として始めて意識した女性だった!

純輔の未成熟な精神と肉体のぎこちない想いで、彼女の美しさが眩しくて、ときめき、胸が苦しくなるほど大好きな女性だった。

母が亡くなって、父とこの女性が結婚して、純輔は田沢湖畔の家を離れて、父の住む家に越してから、広い大きな家の中で、純輔と新しい母はふたりきりになる事が多くなった。

そんなある日、純輔は新しく母になった憧れの人に恋しさと、思春期の胸の苦しさから、たった、一度、恋しさを告白して、手に触れ、握ってしまった!

そして、思わず、自分の胸に義理の母の手を押し付けて、こんなに苦しいのにと、自分の想いを打ちあけてしまったが、何も変わらない現実!その後の、義母との一緒の生活の日々は、純輔とって、地獄だった。

だから、高校を卒業したその日に、純輔は家を出たのだった。

その後は、故郷秋田での自分の存在を忘れる努力をしてながい歳月を生きて来て、故郷へも、実家にも、それ以来一度も帰っていなかった。

父はもうすでになくなっていて、母の違う妹がいるはずだけれど、その妹にも一度も会ったことがない!

父が亡くなった時に実家から連絡をして来たけれど、純輔は、父に別れを言う気持ちにはなれず、葬儀にも出ていなかった!

父が亡くなった時は、純輔にとって、一番大切な、「カコ」が亡くなって、すこしの時期が過ぎた頃の事で純輔は混乱と絶望の中でもがき苦しんでいて父を思うことも出来なかったのかもしれない・・・

そして故郷を離れてもう四十年近い歳月が過ぎて行った!!!

純輔は、過ぎ去った歳月の思い出がまるで、映画のシーンを早回しするように次々と浮かんでは消えて行く・・・

ながい時が過ぎて、今、田沢湖畔の家に向かう車窓から見る風景はあの「秋田駒が岳」のうっすらと雪をつけた美しい姿をみた時、不思議なほど胸の鼓動が早打ちする、懐かしさと喜びに似た緊張感に酔うような思いになった・・・

そして田沢湖を左に見て少し車を走らせた場所に黒い土塀が眼に入って来た、あの懐かしい故郷、大切な母と過ごした場所、純輔が育った家の前に立った!

門の扉は心地よい音で開き、誰も拒むことなく、むしろ歓迎されているような気持にさせてくれる風景と空気感で純輔を迎えてくれた、今、目の前に立つ若い女性の手に引かれた小さな女の子を見た時!

あまりにも「カコ」の面影に似た、幼い姿に衝撃をうけて、心はさわぐ不思議さを感じた。

この愛くるしい笑顔、幼さの微笑み!、小さな女の子の雰囲気があまりにも、純輔の愛した人!
「杉本夏湖」によく似ていた・・・

「だが、この子は、純輔の姪の梨沙ちゃんだった。」

お互いの挨拶を済ませて、純輔この幼い女の子を抱き上げた時、長く心の片すみにある、不思議な感覚の疑問が消えて行ったような思いになった。

『ああ~この出逢いがあったから、私はどんなに望んでも『カコ』とは男と女の契りを交わすことに踏み込めなかったのだろうか!!!』

輪廻転生、人は何度も生まれ変わり出逢うだろう・・・

『ねぇ~純ちゃん、可愛いでしょう・・・』
『私たちには叶わなかったけれど!』
『今、目の前の姿が、本当に可愛い!』
『純ちゃんと私の夢と希望が実現したように想うの、そんな気がしない!』
『命は永遠に引き継がれて行くのね~~~』
『私、きっと又出逢えるわ、純ちゃんにね~~~』

ふと、純輔の心に「カコ」の話す、囁く声が聴こえたように純輔は感じて・・・

『日々の命の営みが時に貴方を欺いたとて』
『悲しみを又いきどおりを抱いてはいけない』
         「プーシキン詩集より」


                      『完了』