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今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

愛をこう人 29 (小説)改編版

2016-12-12 14:02:53 | 小説 愛をこう人 改編後版

 (29)
はじめて逢った、叔父である春馬に対して、むしろ、男性としての魅力に初めから久美子は、自分では気づかぬうちに、引き寄せられてしまったのだろうか。

子づれの歳の離れた大人の男に、なぜか、久美子は、心を許してしまったのだ!春馬も又、久美子に対して、同じ気持ちだった!

久美子は姪なのだと自分の心に言い聞かせても、感情が一人歩きして、男として、みる細胞が動き出す。どうしようもなく惹かれて行く、ふたりだった!

感情のコントロールが聞かなくなってしまう、男と女になってしまう苦しみをお互いに告げぬまま、複雑な感情を消すことも出来ない事を共に感じていた。

久美子を女としてみてしまう自分が、ひどく、卑しさとあさましさで、苦しくなる、春馬、
絵を描く事も、同じように、感情が同化して行くふたりの見えない糸で巻きつけられるような感覚だった、あの頃から、すでに、三十数年の歳月が過ぎていた。

久美子を取り巻く環境も、劇的に変わってしまった。
「突然の春馬との別れ!」
「人知れず、生み!」
「他人へ託すしかなかった、わが子の存在!」
「消しようの無い、罪意識に、悩む日々!」
「そして、父の死!」
「春馬の息子、匠との、偽りのやすらぎの暮らし!」
「そして、匠の告白と別れ!」

そのどれもが、久美子を、追い詰めて行き、孤独感だけが増して行った日々。

久美子は仕事もまた、流れに身を任せた生き方であっても、勤め先が商社という事もあり、男女雇用均等法に伴い久美子自身がさほど望まなかったけれど、気まぐれに受けた営業職に受かって、男性社員と共に働く中で、出張や海外への転勤も幾たびか、あったけれど、
久美子の転勤先はなぜか、主にアジア圏だった。

それほど長い期間ではなかったが、もろ手を挙げて、喜べる良い思い出はない、時には一人歩きの出来ないほど、怖い思いをした経験もあった。

だが「男女雇用機会均等法」が定められても、依然として、男性社員の意識は、ほとんど変わってはいなかった、いや、むしろ、苦々しく思う男性社員も多かったのが現状だった。

男優位主義の意識の中で、久美子は手ひどい扱いを何度も受けた、時には出張での宿で、セクハラ的扱いをされる事もあり、やりきれない感情や思いと又、久美子の精神の中で、退廃的に生きていた部分があった事は久美子自身も反省すべき点だった。

だから、「どうにでもなれ!」という気持ちになったことも事実あった。
久美子の人格の中で、春馬との恋や別れは現実逃避しても、どうにもならない感情があった。

傲慢さと退廃的な、自分を侮蔑する思いに悩む!

だが、そのもう一方の意識は凛とした久美子がいて、いつの時も、淫らで、退廃的な精神を払拭した人間としての振る舞いが出来ていた。

時には侮辱的な扱いを受けても、抗議する事さえ、面倒に思えて来る、無意志の作用が久美子の中で勝手に作用していた。

久美子はそんな危険な誘惑の多い、虚無的な中で生きていた。

久美子は、男社会がまかり通る、名ばかりの、男女雇用均等法であっても、悲観的な考えはあまり持たなかった。

久美子は自分が心から望んだわけではなかったけれど、あの時代の先端を生きて行く事の見せかけの優越感が久美子の見栄っ張りな気持ちを満足させていたのかも知れない!
だが、現実の仕事は、たやすい事ではなかった!

けれど、久美子のその時まで見えていなかった、潜在能力を久美子自身が引き出して、厳しい中でも、営業職をこなして行った。

久美子が仕事に打ち込んでいた時代は、戦後のアメリカの資本主義的価値感を無理やりに押し付けられていた時代だった。

うわべだけの、きらびやかさで、華やかな面しか、見ようとせず、いや、見えてはいなかったのかも知れない・・・

久美子は、一方では、キャリアウーマンとしての仕事の頑張りは、眼に見えた輝きがあった。

だが、一方では、満たされぬ肉体の悩みを持ち、女としての苦しみをあがく恥部も持ち合わせていた。

「満たされぬ愛を求める女になる恥部!」
それは、春馬によって刻まれた、
「あの幻の想いがうずく・・・」

その事が、久美子を生涯苦しめる現実があった!

清純な想いと歪んで膨らむ幻影がなおいっそう、久美子を狂わせてしまう春馬への愛、孤独に過ごす、胸の寒さがやるせなくて、人を恋しがらせる時間が身もだえする。

久美子はふと自分を取り戻した時、そんな自分を、際限なく軽蔑し侮蔑して、吐き気がする。

そんな事を何度夢の中で見たことだろうか・・・

確かに、久美子はひとりで暮した長い時間を、純粋な想いで、春馬以外の男性を愛した事も何度かあったが、いつも最後の一歩へ、踏み込む事が出来なかった、遠い過去に囚われた意識がうずきだして、なにもかもが虚しくなる。

久美子に刻まれた記憶の中でよみがえる鮮やかな愛を!

若く、純粋な心と愛が、久美子はあの頃にとどまったままでいた、そのあざやかさは、比べようの無い、久美子の純粋で、絶対的な愛の記憶だった!
その記憶の中で、揺れ動く、春馬から贈られたあの絵!

『春の幻影』

春馬の絵の中で、久美子の姿が揺れるのだった。
春馬の魂が久美子を呼んでいるように・・・
やはり、久美子には、消す事の出来な記憶だった。

何かに懇願する私と
清貧な暮らしを懐かしむ私と
隠し切れない情愛に溺れる私と
いくつもの顔に刃を向ける
異国の地で見た毒花の
おどろおどろしき姿
否応もなく
自分をかさね見る姿


                 つづく


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

眼の痛さに耐えて、カテゴリーをかえてみました、つたない私の小説ですが、今はこんな時もあった(書けた)と読み返したいけど、眼が痛さに負けてしまう・・・


愛をこう人 28 (小説) 改編版

2016-12-11 19:56:03 | 小説 愛をこう人 改編後版

 (28)
久美子は、ただ、期待感と不安で、怖くて、息もまともに出来ないほどで、気分が悪くなるほどだった。

そんな、久美子にとっては長い時間が過ぎて、緊張のあまり、疲れて、体がくずれ落ちそうになって、座ったまま、動けずにいた。

気がつくと、久美子の前に、年老いたお坊さんが立っていて、声をかけてくれた。

久美子は、なぜか、すべての事に安心出来る、ほっとしたような気持ちになって、言葉が出てこないまま、お坊さんの顔をぼんやりと眺めていた。

力のない挨拶して、立とうとしたが、体が動かない!
お坊さんに助けられて、本堂の中へ入った。
「ここで、少し体を休めなさい!」

お坊さんは、優しい口調で言ってくれた。

畳の敷いてある大きな部屋で休ませていただいて、しばらくして、お坊さんは白湯を持って来てくれて、
「ひとくちでも、お飲みなさい!」
とすすめてくださった。

しばらくの間、久美子をひとりにしてくれて、落ち着いた頃に、久美子のそばにお坊さんは来た。

「遠いところから、来られたようですが!」
「ご苦労なされました事でしょうな~」
「どなたか、尋ね人が、おるのですね!」
「この寺には、私のほかに、もうひとりいますが!」
「その人は、今は、ここにはいませんが!」

そう言って、久美子がたずねようとする事を、すでに、知っているような、心を読み取られているような思いがした。

春馬が、ここにいるかどうか、言い出せぬまま、時間が過ぎて行った。

次に何をするにも、すでに夕暮れ時、その夜はこのお寺さんで休ませて頂き、次の日に少し、世間話をした後!

お坊さんは、貴方の悩みがどんなものか分かりませんが、この話を聞いて、貴方の心が休まればよいのですが・・・

そう言って、お坊さんは話し始めた。
「少し前に、大変な戦争があって、人間の心を無くした者が多かった」

ある少年は、ある少女に、淡い恋心を抱いたまま、少年兵として志願して行った、あの戦争、その少年に強く少年兵に志願する事を、ある教師がすすめ、少年はそのすすめを信じて、少年兵に志願して軍に入隊した。

少年が配属された部隊は、毎日、毎日、お国の為に死ぬ事が美徳だと教え込んだ!

少年に入隊をすすめた、教師にも同じ事をおしえられた少年は国の為に死ぬのだと思いつめて信じていた。

そして、戦場に行き、現実の戦争のあまりにもひどい、人間の醜さを知った!
地獄の苦しみの中で、生き残る為に人間として、最悪の行為をして、生き延びた。

そして、戦争が終り、家に帰れたが、戦場での悪夢が消えず、少年は大人になって、悪の限りをつくし、他人を痛めつけて、周りの者を泣かせても、何の悔いも、痛みも感じない人間になっていた。

昔、恋心を抱いた少女だった女性に、男としての欲望を満たすだけの行為!
肉欲を満足させるだけの為に、酷い乱暴な行為で、汚して犯してしまった。
大切な女性だったはずの人を!

その女性は、男が純粋だった頃、国の為に死ぬ事が美徳だと教え続けた教師の年の離れた妻になっていた。

その事が、男を狂わせて、悪に走り、他人をいたぶる事でしか、生きる意味を見出せずにいた、だが、男の汚した女性といつしか心を通じ合う仲になった時、人間の心を取り戻したが、それからの苦しみに耐えられずに、仏門に入って、逃げたけれど、いまだに、その男は、誰からも、何からも、逃げる事は出来ずに、仏さまに祈りを捧げる生活がつづけている。

人が生きると言う事は罪をおかしながら、くい改めながら、この世を生きる事なのかも知れない、そう言って、お坊さんは、にこやかに、微笑んだ!

このお坊さんの事かどうかはわからないが、久美子は、ひとつの区切り、心の中にあった、重石が、軽くなったような、気持ちが楽になった気がした。

三日ほど、このお寺にお世話になって、お坊様の話された事が序じょに、わかりかけてきた、そんな思いになって行った、久美子が、この寺を立つ事を告げた時、お坊さんは、もう一人のお坊さんのいる事を話して、気が向いたのなら、「会ってみなさい!」
「貴方が捜し求めた者が居るかも知れない!」

そう言って、この寺の奥の院と言われた、場所をおしえてくれた。

険しい岩道をよじ登り、滝の音が聞こえてきた。
その滝つぼの脇の小高い場所に、やっと、人ひとりが、寝起き出来るのかと、思えるほどの、粗末な小屋があった!

その中で、ひとりの修行僧が、瞑想していた!

その姿は、久美子がたやすく声をかける事も、近づく事などしてはいけないのだと悟らせてくれた、久美子は立ち止まり、後姿を静かに見ていた、その、うしろ姿は!
『まさしく春馬!』

どんなに、風貌が変わってしまっても、見まちがう事のない人!

けれど、久美子を寄せ付けない、威厳を感じて!
又、久美子は、すべてを悟り、もう、罪意識や、苦しみから、解放してあげる為に、久美子は、春馬には、今、逢ってはいけないと、諦めて、その場を静かに離れた・・・

苦悩するしかばねの身の美しい魂
もはや私など近づいてはいけない
自然との会話に耳をかたむけて
木々の囁く声を友にして
月の光に夜の虹を描く

久美子にとって、無常なまでに時はゆっくりと流れたが、世間と言う世の中は動き、普通に過ぎて行く・・・

久美子の実家を守っていた、姉夫婦は、子供に縁が無かった、一人息子を幼くして、亡くしてからは、授からなかったようだ。

それでも、夫婦は穏やかに暮していたと思っていたが、義兄が突然、脳出血で、倒れて、不自由な体になってしまって、義兄の望みで、姉夫婦は久美子の実家のある、山里を離れた。

久美子は、確かに、父の甥や姪は、あの山里に住んではいたが、元々、親戚づきあいの無い血縁者であったから、心寂しさもなく、もう、他人も同然、むしろ、久美子は、姉夫婦が、実家をたたんでくれた事で、気持ちの整理が出来たように思った。

「もう、私には、帰る場所が無い!」
「心を残す、ふるさとが無いのだ!」

そう、改めて、覚悟が出来たような気がした。

数年が過ぎた、ある日、街の中を歩いていて、なにげなく、ある画廊に入り、飾られている絵を観て、久美子は衝撃を受けた!

あまりにも、春馬の描く絵の世界を思い出させる一枚の絵に出会ってしまった。
久美子は、身じろぎも出来ないほど、魅せられていた!長い時間、その絵から離れる事が出来なかった。

そして、その絵の展示会が終わる日まで、毎日その画廊に通って、何度でも、観ていたかった、観飽きる事は無かった。

最終日に画廊を訪ねると、もう何人かの他の画家は絵を取り外していた。

そして、久美子が、衝撃を受けた絵を取り外しに来ていたのは、美しい青年だった、おそらく、後ろで、声をかけて、指示しているふたりの男女が、あの青年の両親なのだろう、久美子はその姿を、仕草を、気づかれないように、静かに、いつまでも、作業が終わるまで、見ていた。

そして、あの絵を大切に抱えながら、久美子のすぐそばを通り過ぎて行った!

その時に、一瞬、見えた、左の耳のうしろに、かすかに見えた、ほくろの形を、久美子は見落とす事が出来なかった!

あの、狂おしいほど、愛し合った、「春馬」の耳の後ろの同じところに、確かに、同じ色の綺麗な小さなほくろがあった事を、今も、久美子は、忘れる事が出来ないでいた、けれど、久美子は直ぐに気持ちを切り替えた。

あの子が生れて、顔も見ることも出来ず、この胸に抱きしめてあげることも出来ず、産湯さえもつからぬままに、ひとに託したあの子の幸せを願いながら・・・

全てが、禁断の恋の残酷さを隠して、誕生した、いとし子への気使いだったはず!もう、これ以上近づいてはいけない事だった。

私は、あの時から、本当に、人格が変わってしまったと、思うのです、たぶん、昔の私は、こんなふうに、孤独に耐えて生きる事は出来なかったと思うのです。

まだ、幼さの残るあの頃、心のままに、情熱に任せて、禁断の愛に溺れてしまった事が、久美子の性格のすべてを入れ替えてしまったのだろうか・・・

姉ふたりとは歳も離れていたし、甘えっこで育ってしまった私は、母が亡くなってから、寂しさに耐えられず、偶然にも、心情の似た境遇の春馬に引き寄せられるように、心を許した春馬は血のつながった伯父だった!

けれど、久美子には、全く、伯父としての感情では無かった!

ある日、父が連れてきて、その日から、一緒に生活したけれど、久美子には、伯父だという親しみの感覚が無く、はじめから、不思議なほど、お互いが打ち解けられて、心を許せる人間として、久美子は好ましさを感じ取っていた。


            つづく