今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

逢いたくて<永遠> 最終回 (小説)

2013-10-20 10:09:32 | 逢いたくて<永遠> (小説)


★愛、永遠に★

突然、私の前に現れた純ちゃんは笑顔で、いつもと変わらずに、いや、いつも以上に優しく、そして強い言葉と表現が違う気がして、けれど、今日は!「そ・の・前・に」君との約束を果たす日だよ!

「今日は、何も言わずに!」
「僕の後について来てくれるね!」

私は返事をしたいけれど、声が出ないようで、言葉にならないから、心で答えた。

「純ちゃん!、それは無理よ!」
「だって、私、純ちゃんに、抱っこされたままだから・・・」
「純ちゃんの後ろからは、ついて行けないわ~」

そんな会話をお互いの心で話している時、街角の小さな教会の前で、純ちゃんは、立ち止まり、教会の扉が自然に開いて、たくさんの美しいお花に飾られた、バージンロードが遠くまで広がっていく・・・

純ちゃんは私を抱きかかえたまま、バージンロードを進み、十字架の前で!

『カコ、約束だよ!』
『頑張って、ふたりで生きて行こうね!』
『今日が、ふたりの生活がはじまる日だよ!』
『ずっと、ずっと、毎日、毎日、君を愛して行くよ!』
『だから、君も約束してほしい!』
『僕をいつまでも愛していると言ってほしい!』
『愛してると!言ってほしい、まだ、聴いていないんだ!』
『君からの愛してるの、言葉を!』

「たった今、この教会で純ちゃんと私は永遠の愛を誓い合った!!!」

私の微かな意識の中で、純ちゃんとふたりだけの試写会場に居るようだった。

純ちゃんの出演したハリウッド映画『遠い祖国』を観ている、大きなスクリーンが、何度も、何度も、純ちゃんのあの愁いのある瞳をクローズアップを映していた!

他に誰もいない、たったふたりだけの公開初日を!
純ちゃんと私は公開日とヒットを願いながら、お祝して、ワインを酌み交わしている!

もちろん、カコは飲めるはずも無いけれど、口の中でわずかにワインのかおりで潤った。
そして、カコは、純ちゃんにつたえた!

『純ちゃん、おめでとう!』
『とても、素晴らしい演技でした!』
『とても素敵な感動をありがとう!』
『これからもず~と、素敵な人でいて!』
『私に感動を届けてね!』
『私の大好きな俳優でいてね!』

そう伝えるのがやっとだった!カコは本当に幸せだった!

私は確かに、三十数年のあまりにも短い生涯ではあっても、こんなに素敵な「純輔」という男性にこんなにも深く愛されて過ごした私の人生は幸福な日々だった・・・

「夏湖」はもう何も想い残す事も、悔いも無い喜びに満たされていた・・・」

「いつかふたりは別の世界で寄り添いながら比翼の鳥に生まれかわり天高く舞う事を願いながら・・・」

カコは、純ちゃんの胸の中で抱かれたまま、幸せな心で、ゆっくりと瞳をとじて、意識がかすかに、かすかに、薄れて行く・・・

★ ★ ★

純輔は夏湖をしっかりと胸に抱きしめたまま、しばらくはそこを動こうとはしなかった!

人は誰でもがかぎりある命、私のその命の一部が純ちゃんの中で生きつづけられる喜びにあふれて私は旅立つ!

いつの日かきっと又出逢えると約束を交わして・・・

純輔は、夏湖がなくなってから、すべてを知った!!!

純輔はあまりにも衝撃が大きくて、混乱と苦悩する日々を、しばらくの間、アラスカで暮した、俳優としての仕事を一切止めて、まるで、世の中から自分の姿を消してしまいたいように思いながら暮していた。

夏湖の純輔への特別な遺言と言うべき物はなかった、ただ夏湖の両親から渡されたいくつかの遺品をまだ純輔は開けて見る事が出来なかった。

夏湖は生前に純輔へすべての想いを伝えていた事で、遺言書は書いていなかった。

純輔は傷心の中、アラスカで暮していて、高津さんや伊達聡介さんの心遣いに救われる思いだった。

お二人との年齢も近い事もあり、さりげない気遣いが嬉しかった、また、釣りを進めたばかりに、事故にあった事に責任を感じていた、あの女性、三島美佐子さんが、純輔の面倒を見てくれていた、自分の家からすこし離れた場所にある、作業所を、純輔が住めるように改造してくれて、何くれとなく世話をしてくれた。

純輔は夏湖が亡くなった事も認められず、夏湖のいないこの世界で自分がなぜ生きているのかが不思議だった。

なぜ又、ここ、アラスカに来たのかも考えずに、無意識に体だけが行動させてここに来てしまった気がする・・・

そしてどのくらいの日々をアラスカで暮していたのか・・・

何をして暮していたのかも、しばらくは純輔の記憶の中には消えていて無かった!
ただ時間だけが過ぎて行った。

そんな中で純輔は生まれ持った生命力の強さから、少しずつ、自分を取り戻して、やがて、精神的に不安定ながら、純輔自身に戻って行った。

そのきっかけは、純輔と夏湖がふたりで良く見た映画のポスターだった!

純輔がその時生活していた作業小屋には、三島美佐子、彼女が若い頃大切にしていた記念の品がまとめられていた。

その中にあった!
映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の古いポスターだった!

純輔と夏湖はこの映画が本当に大好きだった、だからこの長い映画を観られる時間がある時は、どちらかともなく、選んで、DVDを手に取り・・・

「ねぇ~これでしょう!」
「また、観たい気がしない、純ちゃん!」

そんなふうに「夏湖」は言って、純輔にねだるのが得意だった!

この映画を観ては、ワンシーン、ワンシーン、お互いの好きな場面を競い合いながら、常にふたりは新しい発見を語り合い楽しんでいた。

そんな思い出が、純輔は悲しみと苦悩の中から、這い上がる力を、いつも、「夏湖」が語りかけているように、感じて、日本へ帰国する事になった。

純輔は日本に帰国しても、カコの死後、仕事の関係者とは連絡を断ち切っていた為、しばらくは、仕事もなかったが、純輔は焦らずに、仕事の以来を待っていた。

そして、又、脇役からの再出発だけれど、俳優として演じられる事の喜びを純輔は感謝していた。

俳優としていろいろな役柄を丁寧に演じながら、時はゆっくりと過ぎて行った。

そんな日々の中でいつしか純輔も今は50歳を過ぎて、中堅の俳優として、認められて、今は、主役を演じてはある演技賞に輝いて、又、脇役でもあっても純輔の感性のうごく作品には迷うことなく出演し、高評を受けていた。

夏湖がなくなってからは、仕事も前のように、忙しくて困るほどはせずに、時には演出を手がける事もある、有意義な生き方で、自分の感性が求める仕事を選べる立場にもなれていた。

★ ★ ★

純輔は、ふと、自分が生まれ、育った、故郷を訪れてみようと思えるのだった、今まで心の奥に閉じ込めていた「故郷」

高校を卒業と同時に、故郷を逃げ出すような思いで、家を出た、故郷!

純輔の父の家は日本海に鳥海山の長い影を映す秋田県のある町!、鳥海山の山すそが広がる場所にあった。

大きな町の郊外に秋田杉の製材工場と販売を手広く取り扱う会社を営む古くから代々引き継がれた家だった。

純輔の父はどちらかと言えば、材木商よりは、とてもワインに興味を持ち、研究しワイン作りの夢を持つ人だった!

又、絵画にも精通していた人で、特に、セザンヌやモネ、シャーガールなどの絵画を数点所蔵していて、自宅の隣に小さな美術館を開いた事をだいぶ以前に、純輔に知らせて来た事があった。

純輔が家を出たのち、数年が過ぎた頃に秋田杉の商いをやめて会社を父の友人に任せて、純輔の父はワイン作りに取り組みだした。

住まいも母と純輔が過ごしていた、田沢湖畔の家を小さなホテルとレストランに変えて、そしてワイナリーを経営して成功していた。

現在では味と香しい香りのワインで知られたワイナリーとして、地元やワイン好きの人であれば、一度や二度は聞いた事のある銘柄で「ときの翼」の醸造元だった。

母は純輔がまだ幼かった頃から病弱で、病気治療の為に田沢湖畔にあった別宅で母とお手伝いさんに育てられた。

純輔が幼かった頃は秋田杉の製材工場が忙しくて、父はたまに母の見舞いに来る程度でしか父に会うこともなく成長した為にどうしても何処か馴染めない他人のような感覚で接していた。
母は純輔が中学2年生になったばかりのあの日、真冬の寒さが厳しい日に突然なくなった。

母は純輔にとって、特別な存在だった!

父が仕事が忙しくて、一緒に生活していない事で、馴染めない存在だったから、純輔にとっては母はすべてにおいて特別な存在だった気がしていた。

そんな大切な母が亡くなって一年も経たない頃に、父は再婚した!

しかも、その人は、純輔が初恋ともいえるひと、淡い想いを抱いてた女性で、まだ、二十歳を少し過ぎたばかりの眩しいほど美しい人だった!

純輔の母方の遠い親戚筋に当たる女性で、時々、純輔の勉強を見てくれる、母代わりであり姉のような、又、思春期の純輔にとって、異性として始めて意識した女性だった!

純輔の未成熟な精神と肉体のぎこちない想いで、彼女の美しさが眩しくて、ときめき、胸が苦しくなるほど大好きな女性だった。

母が亡くなって、父とこの女性が結婚して、純輔は田沢湖畔の家を離れて、父の住む家に越してから、広い大きな家の中で、純輔と新しい母はふたりきりになる事が多くなった。

そんなある日、純輔は新しく母になった憧れの人に恋しさと、思春期の胸の苦しさから、たった、一度、恋しさを告白して、手に触れ、握ってしまった!

そして、思わず、自分の胸に義理の母の手を押し付けて、こんなに苦しいのにと、自分の想いを打ちあけてしまったが、何も変わらない現実!その後の、義母との一緒の生活の日々は、純輔とって、地獄だった。

だから、高校を卒業したその日に、純輔は家を出たのだった。

その後は、故郷秋田での自分の存在を忘れる努力をしてながい歳月を生きて来て、故郷へも、実家にも、それ以来一度も帰っていなかった。

父はもうすでになくなっていて、母の違う妹がいるはずだけれど、その妹にも一度も会ったことがない!

父が亡くなった時に実家から連絡をして来たけれど、純輔は、父に別れを言う気持ちにはなれず、葬儀にも出ていなかった!

父が亡くなった時は、純輔にとって、一番大切な、「カコ」が亡くなって、すこしの時期が過ぎた頃の事で純輔は混乱と絶望の中でもがき苦しんでいて父を思うことも出来なかったのかもしれない・・・

そして故郷を離れてもう四十年近い歳月が過ぎて行った!!!

純輔は、過ぎ去った歳月の思い出がまるで、映画のシーンを早回しするように次々と浮かんでは消えて行く・・・

ながい時が過ぎて、今、田沢湖畔の家に向かう車窓から見る風景はあの「秋田駒が岳」のうっすらと雪をつけた美しい姿をみた時、不思議なほど胸の鼓動が早打ちする、懐かしさと喜びに似た緊張感に酔うような思いになった・・・

そして田沢湖を左に見て少し車を走らせた場所に黒い土塀が眼に入って来た、あの懐かしい故郷、大切な母と過ごした場所、純輔が育った家の前に立った!

門の扉は心地よい音で開き、誰も拒むことなく、むしろ歓迎されているような気持にさせてくれる風景と空気感で純輔を迎えてくれた、今、目の前に立つ若い女性の手に引かれた小さな女の子を見た時!

あまりにも「カコ」の面影に似た、幼い姿に衝撃をうけて、心はさわぐ不思議さを感じた。

この愛くるしい笑顔、幼さの微笑み!、小さな女の子の雰囲気があまりにも、純輔の愛した人!
「杉本夏湖」によく似ていた・・・

「だが、この子は、純輔の姪の梨沙ちゃんだった。」

お互いの挨拶を済ませて、純輔この幼い女の子を抱き上げた時、長く心の片すみにある、不思議な感覚の疑問が消えて行ったような思いになった。

『ああ~この出逢いがあったから、私はどんなに望んでも『カコ』とは男と女の契りを交わすことに踏み込めなかったのだろうか!!!』

輪廻転生、人は何度も生まれ変わり出逢うだろう・・・

『ねぇ~純ちゃん、可愛いでしょう・・・』
『私たちには叶わなかったけれど!』
『今、目の前の姿が、本当に可愛い!』
『純ちゃんと私の夢と希望が実現したように想うの、そんな気がしない!』
『命は永遠に引き継がれて行くのね~~~』
『私、きっと又出逢えるわ、純ちゃんにね~~~』

ふと、純輔の心に「カコ」の話す、囁く声が聴こえたように純輔は感じて・・・

『日々の命の営みが時に貴方を欺いたとて』
『悲しみを又いきどおりを抱いてはいけない』
         「プーシキン詩集より」


                      『完了』


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