★愛と熱情★
いくら、口下手な、純ちゃんでも、カコが何の答えも出さずにいる事に心が乱れて、気持ちの抑えようがなく、不安とはやる想いでもう限界だったようで!
「カコ、この前、渡した指輪を返してくれないか!」
「カコは、ぜんぜん、返事してくれないから・・・」
「僕が決めるよ!」
そう言って、病室の窓べに立って、純ちゃんは、大きく深呼吸してから、私が手渡した、指輪を受け取った。
その次の瞬間!、純ちゃんは、いきなり、私の左手を握り!
「薬指に、僕が指輪をはめて上げる!」
「これが、僕の、君への想いだから!」
「僕は、何があっても、カコと結婚する!」
「だから、カコはそのつもりでいて・・・」
「絶対に、この指輪をはずさない事!」
「僕とカコの約束だからね!」
そう言って、私を抱きしめて、そして、頬にキスをして、静かにそっと、ふたりは、
唇を合わせた。
その瞬間、ふたりの真実の愛を確かめあった!
純ちゃんは、私にひとことの言いわけの言葉をする事も許さずに、優しく、抱きしめ
たままで・・・
「もう、何も心配せずに、僕に任せてくれるね!」
「これからはいつも、一緒にいよう!」
「辛い時も、君の痛さを受け止めてあげるから・・・」
「苦しい時、悲しい時、我慢せずに、僕の胸で泣いていいんだよ!」
「カコと僕とですべてを支えあえばいい!」
抱きしめてくれる、純ちゃんの美しく鍛え挙げた厚い胸の力強さ、すこし痩せたのか、ふと、見てしまった、隆起した太い喉仏がまれに見る男性の肉体の美!今の私には、眩しくて、少し苦しかったけれど、何か不思議な力が、私の体に伝わって来たように、何もかも忘れられた、幸せと喜びに涙があふれて止められない、純ちゃんに気づかれないようにうつむきながら、すこし、恥ずかしい想いと女としての喜びを感じて・・・
私のみじかい生涯の中で一番幸福で、心が喜びにあふれて、今、見えている世界が美しくて、虹を描くように、こんなにも素晴らしく素敵に感動出来る瞬間があった、あの時間を忘れる事が出来ない!
私の感情と体と血潮は燃えるように熱い流れを感じた。
純ちゃんの行為は、私に強引なまでのプロポーズをしてくれる情熱!
どんな病でも純ちゃんの熱情とエネルギーによって、退散せざるを得ず、あの日、純ちゃんから受けた不思議な力は、しばらくして、私の体調はどんどん快復して病院を退院する事が出来た!!!
それはまるで、純ちゃんからの愛のエネルギーが私の体に注入されたように、不思議なほ
ど元気に、心も体も健康になったと実感出来る、そう感じる事でした。
あんなに、体じゅうが重くて、痛くて、鉛が私の全身を覆い尽していたように、なんの感覚も無い、もう、これ以上は吐き出す物がないと思うほどの苦痛や疼きと全身を這い歩く痒みが不快感で気が狂いそうなほどの辛さが無い!
「やはり純ちゃんは、私の守護天使なのでしょうか~」
そんなふうに思えるほど、私「杉本夏湖」には心にも体にもたくさんの奇跡を与えてくれる特別で素敵な人なのです。
いつだって私を守ってくれる守護天使、その人の名前は『李 純輔』
けれど、直ぐには、結婚出来るほど、今の私にはたやすい事ではなくいくつもの問題をかかえていた。
純ちゃんは、男一生をかけられる仕事として俳優を選んだ、だから、その為の大きな目標である、ハリウッド映画出演の為の書類審査が通り、ロサンゼルスで、一次,二次、の、オーデションがあり、アメリカへ行く予定が近づいていた、その為の滞在期間が、果たしてどの位になるのかが、はっきりしていなかった。
もちろん、純ちゃんは、海外で仕事をする為の契約している選任のマネージャがいるわけではなく、アメリカでの予定はすべて、純輔自身が進めていく事になる。
日本での仕事であれば、契約しているプロダクションがあるけれど、友人の俳優が、社長兼俳優という、小さな事務所だから、もちろん、ハリウッドへの挑戦は、賛成はしてくれていても、現実に、純ちゃんの手助けを出来るほどの組織ではなかったし、経済的にも、事務所がすべて応援できるほどの良い経営状態ではない事が、純ちゃん自身が良くわかっていた。
純ちゃんが、所属している事務所の社長は、純ちゃんが新人の時に、出演した映画
『美しき人の海』で演じた、「純朴で平凡な田舎の青年」小さな役だったが、俳優としての才能にほれ込んでいた。
純ちゃんが所属している事務所の社長は、昔の演劇仲間であるけれど、物事の考え方や価値観が似ていて、そして時には意見の食い違えで口論、議論することもあるけれど、互いの人格を認め合えるそんな演劇仲間だ、少しだけ、俳優としてのデビューが早く出来た友人の「佐木優作」が立ち上げた事務所で、純ちゃんを支援してくれている、男気のある豪快な人だった!
もう十年以上も前の事だけれど、純ちゃんが俳優としてデビューしても直ぐに多くの仕事があったわけではなかった、経済的に難しい時でも、純ちゃんの才能を認めてくれていたので、よほどの事が無ければ、アルバイトをせずに、俳優としての準備をするようにと言って、最低限の生活の保障をしてくれた事で、贅沢は出来なかったけれど、つつましい生活の中で、たくさんの演劇や芸術の本を買い、読んでいた。
時には、アパートの大家さんが、冗談のように言ってた!
「全く、この部屋は、本の重みで、かたむいちゃうよ!」
「早く、引越しするか!」
「純輔クンが大スターになって、このボロアパートを買い取ってくれなきゃね!」
「それを、楽しみに待ってるんだから!」
「この家を大豪邸に建て替えておくれよ!」
気さくで、粋な、女主人の大家さんのいつもの口癖だったそうだ!
私と出会ってからは、所沢の小さなマンションに越して来る時も、とても、寂しいと言いながら、「応援してるよ!」、見守ってるから、頑張るんだよと、何度も言って、名残惜しそうだったと聞いている。
純ちゃんは、自分の家族の事や故郷の事をなぜか、あまり話そうとしなかった、けれど、その心の中では寂しさを隠しているように思えてカコは気になっていた。
だから、私の両親は、少しでも、純ちゃんの寂しさがまぎれるのであれば、親代わりになりたいと、言葉には出さなかったけれど、私の両親は気づかっていた。
ただ、時々、極まれに、実家があると聞いている、住所から、心温まる贈り物が届いていた、私はまだ、一度も、ご両親に会わせてはもらえなかった、けれど、あえて、純ちゃん
は言葉にして、私に説明があったわけではない!、私は純ちゃんがご両親の事を自分から話してくれる時期がいつか来るだろうと思っている。
今は、純ちゃんの愛を信じて、私はすべてをゆだねたいけれど・・・
★ ★ ★
私自身が、純ちゃんと結婚なんて無理、結婚出来る人間ではないと心の中で、いつも、思っていた事だから、純ちゃんのご両親やご家族に会えなくて、当然なのだと思っていた。
純ちゃん自身から、故郷の実家に帰るとか、帰郷したと言う話は、私とのお付き合いを始めてからは、聞いた記憶が無かった。
けれど、純ちゃんと私がもし結婚する事になれば、否応無くご実家との連絡やご家族とお会いせずにはいられない現実がある。
その事で、純ちゃんの「結婚相手」が、こんな私で良いだろうかと!、漠然とした不
安が際限なく広がって行った私は見えない不安におびえて・・・
そんな頃、純ちゃんは、今、ハリウッドへの出発準備と国内での仕事のスケジュールが一杯で忙しい状態だった、毎日、必ず、時間を見つけては、電話をしてくれて、声だけは聴いていても、結婚への準備を始める事が私は出来なかった、だから、私は、純ちゃんに提案した!
「純ちゃんとの結婚をお受けします!」
「けれど、今は、純ちゃんは、ハリウッドへの準備を優先しましょう」
「ハリウッドでの出演が決まった時に!」
「私も一緒に行けるように!」
「元気で、健康な体になれるようにします。」
「だから、今は、私の事を考えずに!
「仕事やハリウッドへの準備に専念してください!」
そう言って、純ちゃんに納得してもらいながらも、気持ちの何処かで、純ちゃんへの裏切りのような、不安と居心地の悪い、不思議な感情が、常に私につきまとっていた。
なんとか退院は出来たけれど、私の体のどこかで、嫌な何かが棲みついているような気分がいつもしていて、落ち着かない感情が揺れ動いてしまう!
まるで、私の心と体がガラス細工の置物のように不用意に触れてはいけないような危険感があるように思える嫌な感情だった。
相変わらず、純ちゃんからは定期便のように電話は、何度もある!
ひとりで旅立つ事の不安感があるのか?・・・
「カコも一緒だったらいいんだけどな~」
純ちゃんにしては珍しく、愚痴も言ったりして・・・
もう何年も前から、英会話を話す機会を多く取り入れるなどして準備していたが、やはり、すべてが英語で話し通す事はかなり苦労があるようだった、英語から母国語である日本語に置き換えるのではなく受けた言葉を直で英語を理解し、英語で話す、頭では分かっていても幼児期から身についてしまった母国語の言葉の感性を入れ替える事はそうたやすい事ではない!
そんな時、私が健康で元気な体であったなら、何かしら手助けが出来るのだろうと考えては、悲しい思いで苦しく、申し訳なさで、気が滅入る自分が又なさけなくなる。
そんなある日、純ちゃんからの電話で!
「今、飯能の駅に着いたけれど、迎えに行くから、時間が無いので、出かける支度を
して待っていて!」
「ごめん!、いつも急がせてばかりで!」
「今日は、カコのご両親はいる!」
そう言って、純ちゃんからの電話は切れてしまった、何があったのかしら?
今から我が家に来て、直ぐに出かける?
行き先も言わずに、切れた電話を手にしたまま、しばらくは何をどう準備して良いのか、鈍感な私は思いつかなかった。
ふと、純ちゃんの御両親に!そんな思いもしたけれど、その事であれば、きちんと話してくれるはずだし・・・
「出かけるから!」
確か、そう言ってた!じゃ~何処へ行くの?、着ていく服をどうすればいいの・・・
短い間に、思い悩んでいても、考えがまとまらず、時間はあっという間に過ぎて行く、気ばかりが焦って、何も決まらない!愚図な私の情けない姿に、母はただ、急いで、急いでと急かせるばかりで、どうしてこうも親子でダメな女なのかしら・・・
そして、純ちゃんは十分くらい過ぎた頃、家の前まで走ってきたようで、息を弾ませながら、玄関の扉を開けた、そして、真剣な眼差しで!私の両親の前で正座をして、挨拶をしてから、急に改まった表情で・・・
「お父さんお母さんにお願いがあります!」
「すみませんが、今日は、夏湖さんを、責任もって、お預かりしたいので、お許しく
ださい!」
「あす、僕、アメリカに行きますので、今日は夏湖さんと一緒に過ごしたいのです!」
「ただ、一緒にいたいだけです!」
「気をつけて、大切にしますから!」
「今日、泊まる場所は、所沢の駅前のパレスホテルです」
「あすの朝には、家にお送りしますから・・・」
「あすは、成田までは、僕ひとりで行きますから、もう、荷物も送りましたので・・・」
そう、一方的に話して、両親が何も答えられずに混乱した、落ち着かないようすで、いると、
「すみません!、すみません!驚かせてしまいますが!」
そう言って、はにかむような、微笑む笑顔が、とても美しいと私は、ただ、純ちゃんをみつめていた!
これから過ごすだろう時間は純ちゃんにすべてをゆだねて!!!
どんふうに純ちゃんが私に接してくれるのか、まるでぼんやりとした絵画を見るような?、それでいて、瞬間的に想い描くふたりの姿!はっきりとした何かを考えられるほどの恋愛経験の無い私は、純ちゃんのこんな表情をする姿が、私はたまらなく好きで、恋しくて愛しさを強く感じてしまう、そんな瞬間だった!!!
「純ちゃん!、私、貴方の奥さんになれたら、どんなに幸せな事でしょう・・・」
そんな想いを心で伝えながらも、私のこの胸の奥で疼く痛みがなんなのか・・・
今、私はこんなにも幸せで心が震えてしまうほどなのに・・・
両親は、「ダメだ!そんな、非常識な事!、を許せると思うか!」
たぶん、心の中では、そんなふうに言っていたと思うけれど、私や淳ちゃんに対して、何も言わずに、嫌な顔もせずに私を送り出してくれた、私は純ちゃんの励ましで体調が良くなって、退院したとはいえ、病気が治ったわけではない!
又いつ、体調が悪くなるか分からない、不安な私の気持ちを察してくれた両親の配慮が嬉しかった,純ちゃんは、自分の車を持たないから、殆どが、電車やバスを使うけれど、今日は私の事を気づかい、私の家から、所沢のホテルまでタクシーを使った、今は、少しでも
節約し、アメリカ滞在に備えが必要な時だから、私の為だと言う、申し訳ない気持ちとありがたい思いで揺れていた。
純ちゃんは、今、ハリウッド映画のオーデションを受ける為にアメリカへ行く!お金はとても大切に使わなくてはいけないのに、アメリカ滞在が果たして、どの位の期間になるのか?二次、三次と、そして、最終に残れる自信はあるのだろうか、大体の計画つくりを考
えて、国内の仕事を入れずに、一定期間は無収入になるわけだから・・・
そんな事を私は、ちまちまと考えていたし、アメリカでの生活がどんなものになるのかが、私には想像もつかなかった、ただ、不安な気持ちと、混乱する今、現在の状況が、わけの分からない興奮と、緊張した感情が小刻みに揺れている自分の心がと体が緊張して、ふらついてしまい、めまいがする、胃の痛みがすこし、痙攣してるように・・・
どうしてこんな時に、こんなに幸せな時間だというのに、私の体は無慈悲にも私の心情とは裏腹な動きをして、私に意地悪してる!
「ごめんなさい、純ちゃん、こんな私を愛してくださり・・・」
「とても嬉しいし、幸せなのよ、貴方について行きたいわ~」
「何処までも、貴方の心が、嬉しい!!!」
そんな想いが繰り返し、繰り返し、浮かんでは、揺れ動く心・・・
★ ★ ★
通り過ぎて行く街の風景も、私にはただの風の中に消えて行く景色にしか見えないし、眼にとめられないほど、緊張と混乱の中で、車窓を見て、何かを考える気持ちの余裕さえなかったのだと思う。
家を出て、どの位の時間をタクシーが走ったのかさえも分からないままで、ホテルに着いた、気がついた時、私は、純ちゃんの後をよろけそうになりながら、ついて歩いていた、
私のそんな姿を見て、純ちゃんは私に駆け寄って来て私を支えながら・・・
「ごめん!驚かせてしまったね!、」
「今日一日は、僕にすべてを任せて!」
「僕に甘えてほしいんだよ!」
エレベータを降りてからも、ゆっくりと歩きながらそんな言葉で話しかけてくれた、そして、いきなり私の腕を取り!部屋の扉を開けて、私を抱き上げるようにベットの上に運んでくれて、そっと寝かせてくれて、そして私の耳もとで囁いた!
「疲れただろう!」
「すこし、お休み、僕は隣の部屋に行ってるから・・・」
そう言い、部屋を出て行った、純ちゃんの後姿はなぜか寂しげに見えて、私は心が痛かったけれど、私の気持ちは少しだけ気が楽になり、ベットを這うようにして、靴を脱ぎ、少し、眼をとじて、からだを休めるしかなかった。
隣の部屋でしずかに待っている純ちゃんは、何度か、音を立てずに、そっとドアーを開けて、私の寝顔を見ていたようだったけれど、どの位の時間、私は休んでいたのか、やっと浅い眠りから覚めると、純ちゃんは、私が寝ているベットの横で微笑みながら・・・
「姫はお目覚めでしょうか!」
「僕はとてもお腹がすきましたが!」
「姫は大丈夫でしょうか?」
「そろそろ、起きていただけましょうや、姫!」
「お出かけのお時間でございますが・・・」
純ちゃんはそんなふうに、おどけた口調で、私の心と体の緊張をほぐしてくれた。
お昼の食事のはずが、お昼の時間をかなり過ぎてしまったけれど、純ちゃんは、ニコニコと笑顔で、私の手を握りながら歩いて、ホテルからさほど遠くない場所にあるレストランに案内してくれた。
その、純ちゃんの横顔があまりにも美しくて、私は、又、胸が高鳴り苦しくなるほど、嬉しさと、幸せな想いと緊張した心が・・・
普通なら、この時間は、お店の昼の営業時間過ぎているのだろうか・・・
「準備中」の看板が出ていた!
純ちゃんは、そんな事も気にもせずに、扉を開けて店の中へ私を案内してくれた、午後の光が眩しいほどの街の空気とは別世界の静けさがそこにはあった。
『今日一日だけは、僕の奥さんなのだから、ちゃんと、腕を取り、歩こうよ!』
『いつか、本当に僕の奥さんになった時の練習だと思えばいいよ!』
そっと、けれど大胆に、私の耳元で、囁いた。
私はもう、声も出ないほどの緊張と感情の昂ぶりで、倒れてしまうのではないかと思うほどの状態だった。
純ちゃんはゆっくりと私にあわせて歩いてくれているのが分かるけれど、私はどうしても足がもつれてしまい、上手く歩けない!
やっと、案内されたテーブルに着き、ウエイターさんがほんのすこしの時間、私たちから離れた瞬間、純ちゃんは、私の手にキスをして、微笑んだ!
純ちゃんの私に対しての接し方が今までになく大胆で、いつもの純ちゃんとは違う事が私を益々緊張させて、私の取るべき態度に戸惑いながらも、幸せな想いは胸を高鳴らせて苦しいほどだった。
やはり、そこには若く端正で、はつらつとして健康な男性の姿の純ちゃんがいた。
お店の広さは小さめだけれど、ほど良い空間が広がる、センスの良いヨーロッパ的な雰囲気を取り入れたインテリアが、落ち着いた色彩で、適当に光を抑えていて気分の良い雰囲気は少しだけ私の気持ちを楽にしてくれた。
私たち以外は、お客さんがいない!、静かで他人に対して気兼ねする事の無い店内は、純ちゃんと私だけの空間!
低く抑え気味に話す声だけが広がって行った、もっとも、殆どは純ちゃんが話し、私はあいづちを打つ程度の会話で、たぶん、純ちゃんは、こんな私が不満だったろうと思う、けれど、私には不慣れな場所で、純ちゃんとの今までのデートを出来る場所は、いつも私の家か、公園のような落ち着いた、広い場所!そして一番多く、ふたりで過ごせたのは、私の入院していた病室、確かに、体調が良くて、小旅行として日帰りのドライブも一~二時間で行ける近い場所だった。
それも、渋滞時間を避けた平日に純ちゃんの仕事がない日に出かけていた。
そんな時の会話もたいていは純ちゃんが話し、私は聴く側にいる事が多かった、私はそんな情熱的に話す純ちゃんの姿がとても大好きで幸せなひと時だった。
いつだったかだいぶ以前の事、純ちゃんが何気なく言った一言を思い出していた・・・
「カコの夢を僕に話してくれないか?」
「僕はカコがどんな夢を持っているのか聴いてみたい!」
「その夢に向かってカコと僕とふたりで頑張るんだよ!」
そんな話を今思い出して、改めて自分の置かれている状況が悲しかった、もう、あの頃に戻れないのではないかと不安がつのる・・・
食事の前に、純ちゃんから、何気なく聴いた事だったが・・・
「ホテルで、カコがよく眠っていたので、予約時間をずらして貰っらったよ!」
「店が準備時間になってしまうけれど、心良く、引き受けてくれたのだよ!」
そう言いながら、純ちゃんは、かなり空腹を我慢していたようで、思わず、お腹の虫が鳴いた気がした。
「ゴメンナサイね、いつも、私の我儘につき合わせてしまい!」
「これでは、純ちゃんの奥さんの役が務まらないはね!」
と言おうとして、私は言葉を飲み込んだ!
ふたりでの食事はランチコースメニューだったが、私は、正直、緊張していたのと体調が少し変だった事で、出てきたお料理の半分も食べれずに、申し訳ない思いで、純ちゃんに食べてもらって、最後のデザートのアイスクリームは美味しく頂き、やっと、純ちゃんの安心した笑顔をみる事が出来た。
食事が済んで、ゆっくりと歩いてホテルまで戻って、何をするでもなく、時間だけは過ぎていたが、純ちゃんが突然、私の手をとり・・・
「ちょっとだけ、僕とダンスをして!」
「カコは僕にからだを預けるだけでいいから・・・」
「疲れないように、僕に寄り添っていてくれればいいよ!」
そう言って、ダウンロードして来ていた音楽を、イヤホーンの片方を私の耳に優しくつけてくれて、私の両手を静かに自分の肩に回してくれて・・・
あの懐かしい曲『she』を純ちゃんのリードに合わせて何度も踊った。
ダンスの後、私ひとりをベットで休ませてくれて、純ちゃんは少しの時間、ベットの脇にいて、アメリカでの生活の事を少しだけ話して、照れながら、純ちゃんは、英語の台詞を言って聞かせてくれてる、この大切な時期に何の力にもなれなくてごめんなさい!
私も、ほんの少しだけ、純ちゃんのセリフを理解出来たけれど元々、英語に通じていたわけではない、短大時代に少しだけ、英会話を勉強したが殆ど身についてはいなかった。
その事を思っただけでも、純ちゃんの頑張りは、本当に凄いと、改めて感動し、尊敬していた、夕食は、軽い物を部屋に届けて貰い、ふたりで、ワインでカンパイしたが、私はグラスに口をつけただけで、飲むことは出来なかった。
シャワーをそれぞれが済ませて、私は髪を乾かして終わって、イスを立った時、いきなり私を抱き上げて、ベットに運んでくれた!
私は、一緒に、ホテルに泊まるわけだから、ある意味、覚悟はしていた事だったけれど!
純ちゃんは、私をベットに寝かせてから、静かに、私を引き寄せて自分の胸の中へ招き入れた!
そして、私に、唇を重ねて、キスを、何度も・・・
でも、それ以上の事はせずに、私を抱き寄せただけで・・・
次回につづく