梅の香庵~うめのかあん~

梅の香堂別館喫茶スペース*梅の香庵*
とりとめないことをとりとめなく・・・

のんのんの女王

2013-04-28 16:46:11 | 読書
ありがたく3連休を頂戴しております本日その中日。
出かけた所と言えばはスーパーと文房具屋ですが何か?


さて久しぶりに最近読んだ本をご紹介。

杉浦日向子 
新装版「東京イワシ頭
新装版「呑々草子」
新装版「入浴の女王」


文字通り新装版が最近出たということで書店に並んでいるのをたまたま見かけて購入。
こちら3冊でひとつのシリーズになっております。

杉浦さんの著作はかたっぱしから読んでいた時期がありまして、
多分、漫画は全て制覇。
一方活字の方は、まだ読み残したものがあるままちょっとブームが去ってしまっていました。
杉浦さんが亡くなって8年。
最近は、書店で見けることも少なくなったし。

そこへこの新装版。
そういや読んでなかったぞってことで内容もよく知らず読み始めました。


今まで読んだ杉浦さんの本といえば、
言わずと知れた江戸モノ。
少数派ですが小説。

そして今回の3部作。
これらは(私にとって)今までにないジャンル。
体験型エッセイ、でした。

杉浦さんと編集担当者が、二人で「今回はコレやろう」っていう企画を実行し、
その体験をエッセイにする。

これは非常に新鮮でした。
なぜなら、文章に杉浦さん本人が登場するから!

江戸モノや小説には、登場人物に書き手が登場しない。
でもこのエッセイは、
書き手である杉浦さんが、何をしてこう言ってどう思ったっていうのが書かれているわけですよ。


これがもう驚愕です。
何がって、
酒豪だと聞いてはいたけど、
本当にとんでもなく呑んでる。何杯ってレベルじゃない。何本も。
呑まない回はなかったんじゃないかな。
毎回毎回、どこへ行っても呑んでます。
そんで悪酔い二日酔いしたことないってんだから奇跡の肝臓の持ち主ですよ。うらやましい。


そんでどんな体験かというと、
「酉年だから鳥取で鶏を食べよう」とか、
「高速バスで鹿児島まで行って、すぐさま帰りのバスにのる『バスに乗るだけの旅』」とか、
「北へ帰る人の群れは誰も無口なのか?を検証しに津軽海峡を越えてみる」とか。
えええー!?てな企画のオンパレード。
なんてゆーか、
ヒマと体力を持て余してる大学生がやりそうなバカバカしいことを本気でやってます。
うん。
こういうの真剣にやるのって、楽しいよね。
そういえば昔私らも「素通り帰省ツアー」やったなー。
大学生の頃、
県外出身者の地元へみんなで車で行くの。
で、「あれが小学校、これが実家!」ってみんなに紹介して通り過ぎるだけですぐさまUターン。
だってこんなバカバカしいことしてるんだもん。とても親になんぞ会えないじゃない。
でもこれけっこう楽しいっすよ。

そんな時代を思い出しつつ、オトナがやる本気のバカバカしさを堪能。

これは「東京イワシ頭」と「呑々草子」の内容ですが、
正直、
「東京イワシ頭」の頃はまだ杉浦さんの本領発揮されてない感がありまして、
ぶっちゃけいまひとつ。
これが2冊目の「呑々・・」になると、一気に筆がノってきて、
体験と関係ない話とか、超辛口コメントとか盛りだくさんで読み応え十分。

だから「イワシ」を読んでう~んと思ってもそこでやめないで次行ってみてください。
もしくは2冊目から読んでもいい。


で、3冊目の「入浴の女王」は少し趣が変わりまして、
「銭湯を通して、その町をリポートする」というもの。

これがね、
まさしくこのシリーズの集大成と言っても過言ではないくらい、洗練されているんです。
更に筆の冴えを増して、しかし辛さの中に優しさを携えて、
その町を慈しむように紹介してくれます。
もちろん、脱線トークも盛りだくさん。

そしてそして、文章が美しい。
独自の情景描写は芸術的。
タメイキが出ます。

少し引用すると、
新潟県ののどかな村での夜の描写。

旅だ。
棲家からずいぶん遠いところにいる。
蛙の声が夕暮れを満たし、天井の木目をせせらぎと洗う。



コレ読んでぞくっとしました。
なんと美しい。
私は米どころの生まれ。
夏の夜の蛙の合唱が脳裏に鮮明に蘇った。
そうまさに空間に蛙の声が満ちているあの感じ。思い出した。

ただし蛙は死ぬほどニガテ。


そしてけっこう衝撃なのが、
銭湯での女体レポート。

みなさん。見られてますよ!
そんなもんに地域差ってあんの?と思うけど、
ボディラインはもとより、
乳輪の大きさから色からアンダーヘアの濃淡まで。
細かにチェックされてますぞよ。
ただしエロスはあんま無いぞ!そこは期待すんな。

これちょっとかつてないエッセイ。


時折はさまる得意の江戸話は、
ドラ焼き食べたら栗入りだった時みたいに、お得感満載。


「入浴の女王」は特におすすめです。


しかしですよ。
この連載が始まってまもなく、彼女は「隠居」をしているのです。
つまりは、すでに病を患っていたはず。
文章にも、病院に通っているとかいう記述がちらほら。
自分は忘れっぽいという話の中で、
「医者から薬をもらってもよく飲み忘れる」とかあるもんだから、
お願いだからちゃんと治療してー!!とか思ってしまう。
つーかこんなにあちこち旅行いったり飲み食いして大丈夫なのか?
心配でならないよ日向子さん!

そして、つい考えてしまう。
この十数年後に、彼女はこの世を去る。

この頃果たして、それを予見していたのか、
まだまだ大丈夫と思っていたのか。

連載の後半で、
「生まれ変わったら何になりたいか」とか、
「最期はこういきたい」みたいな記述があって、
どきんとしてしまう。
言葉の重みが半端ない。



そういえば、同じく旅ものエッセイであろ「ソ連」(ソビエト連邦に非ず。ソバ連の略だそうな。杉浦さんは無類のソバ好き)シリーズも未読だった。
こっちも読んでおこうかな。


そして、久しぶりに銭湯行こうかな。