梅の香庵~うめのかあん~

梅の香堂別館喫茶スペース*梅の香庵*
とりとめないことをとりとめなく・・・

「描く」までの道のり

2012-01-21 00:50:43 | イラスト
最近更新頻度が下がっているのは、本業と副業がちょいと多忙だったからであって、
決してブログに飽きた、とかではないのであしからず。

さて。


絵を描いててよく聞かれる質問の一つに、
「これ描くのにどれぐらいかかってるんですか?」
というのがあります。

正直いつも悩んでしまう。

「描く」とは、どの工程を指しているのか。

例えば、
本番の画面にうりゃ!っと描き始めてからならば5日間だけど、
下書きからならば1週間で、
構図を練るところからならば10日間だし、
題材が決まって資料探しを始めてからは2週間、
いっちばん最初の「何を描こうか」と考える所からならば一カ月。

こんな具合に、何を以て「描く」という作業を定義するのか難しい。
そして、実際描き始めるまでが長い。


そんなわけで、今日は一つ、一枚の絵を「描き始めるまで」の一例をご紹介しましょう。

友人にポストカード用のイラストを依頼されたのは去年の暮。
リクエストは、
・灯台を描いてほしい
・切り絵
この2点。

灯台かぁ。
灯台だけがどーんと立っててもつまんないなー・・・・・。
そうだ!
鳥を入れたらどうだろう。
遠景に灯台。
近景にそれを眺める鳥。木の枝にとまらせたらいい感じじゃん。
あーいいかもいいかも!それで行こう!

こうして大まかな構図は決まりました。

鳥は・・・海辺っつったらやっぱりカモメかな。
今回はさすがにスズメの出番じゃないし。
木の枝にとまるカモメ・・・・・
ん?
なんかあんまり見たことない気がするけど、
でも海辺だって木が生えてるんだから、とまるだろカモメも。

そこで資料探し開始。
見栄えのいい灯台を探し、
次にカモメ探し。
準備が出来たらまずスケッチをするのが私のいつもの手順です。

カモメはユリカモメにしましょう。
カモメの中で唯一と言っていいほど目が可愛いし、白い羽根に赤いクチバシがキュート。


スケッチしてみると気付くことが色々あるものです。
あーけっこう足長いんだなぁ。
やっぱ水辺にいるから体が無駄に濡れないようにか。
そして水かき。
ふむふむ。

こうしてカモメの全体像をざっとつかんだところで、さて下書き開始。

遠景に灯台。水平線。
そして近景に大きく木の枝。
そこにカモメを、
カモメを・・・・
カモメを・・・・・・・・・・・木の・・・枝に・・・・



Σ(-口-;っあー!!

そこでようやく私は気付きました。


カモメは枝にとまれない。


この長い足では、バランス悪くてグラグラするし、
そもそもこの水かきのついた足で、どーやって細い枝にとまれるのさ~
あたしってばか~~~~~~~~~~~~~~

参考までにスズメさんの足を見てみましょう。

これこそ木の枝にとまる用の足ですね。
指が前に3本後に1本で細い枝にもがっちりですよ。
カモメにゃ無理だ。

今までの構想が一瞬で崩壊。

えーと
どうする?
選択肢は二つだ。
カモメを止めるか、木の枝を止めるか。

ここまで資料探しやスケッチしたのに、カモメをキャンセルするのは正直もったいない。
じゃあカモメのとまれる足場に変更か。
テトラポット、手すり、街灯、船・・・・・・・・・・
色々考えてみたけれど、どうも無機質だ。
ただでさえ灯台と水平線っていう直線の多い画面なのに、そこへきて手すりとかじゃあねぇ・・・
じゃあ傍らに何か植物でも?
ポストカードという画面上、あんまりあれこれ詰め込めない。
うーん。

さんざん悩んだ挙句、泣く泣くカモメを別の鳥に差し替えることに決定。

じゃあ何の鳥だ。

ここにきてスズメやカラスってわけにいかんだろ。
でも海辺にいる鳥って、水鳥が多いし、そうするとまた水かき付きだし、私そんなに鳥に詳しくないし・・・

うんうん唸っているときに、下絵の灯台に目がいった。
灯台。
何故に鳥は灯台を見ているのか?
目印、なんじゃない?

ひらめきました。

渡り鳥。
海を旅する渡り鳥はどうだろう。
旅路の途中、一晩羽根を休めた木の枝から、朝焼けを見る。
さてまた今日も飛ぶのだと、灯りの消える前の灯台を眺める。

渡り鳥って、何がいる?
検索検索。
そこで見つけたのがこの子。
ツグミ。

冬になると日本に渡ってくる彼らは、遠く中国やシベリアから飛んでくるそうな。
すごいなー。
そしてスズメの仲間ということで、枝にもばっちりとまれます!

よっしゃーツグミを主役にお絵かき再開だー!


こうして、
紆余曲折をしながら完成したのがこちら。


この一枚の絵の裏には私の苦悩とお蔵入りになったカモメさんが隠れているわけですよ。


いつか使ってよね~。


ちなみに、
一枚描いたらついてくる一つの無駄知識。
「ツグミ」の名の由来は、
冬の間聞こえていた鳥の声が、春になるとぱったり聞こえなくなる(シベリアに帰ったからね)。
そんな様子を、
「あの鳥、口をつぐんだぞ」
と思ったことから、
「ツグミ」というのだそうな。
あくまで一説ですが。