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クラヴィコード徒然草ーLife with Clavichord

チェンバロ、クラヴィコード製作家 高橋靖志のブログ
製作にまつわるあれこれや猫との暮らし、趣味のオーディオについて

フーベルト Hubert について

2013-05-01 16:33:20 | Instruments
Christian Gottlob Hubert(1714-1793)はよくコピーされる製作家ですが、彼の生涯についてはあまり知られていないようです。Koen Vermeij The Hubert Clavichord Data Book に彼の小伝が載っていたのでかいつまんで紹介します。

 1714年、フラウシュタット(Fraustadt)、現在はポーランドのフスホヴァ(Wschowa)で、パン屋を営んでいたChristian Hubertの二男として出生。幼少時や受けた教育については知られていない。1740年にバイロイトに出たとされている。1748年に結婚。クラヴィコードのラベルの記述から、1756年以降バイロイト辺境伯の宮廷と公式の関係があったと判断できる。1772年のラベルにはまだバイロイトの文字があることから、1769年に宮廷がアンスバッハへ移転した後も数年間はバイロイトにとどまったと推測される。またこのことから、彼が宮廷専属として宮殿内に居住していたのではなく、フリーの事業者として街の中に工房を構えていたと推察される。1776年にアンスバッハへ移り、1793年の死までそこに居住した。
 最初に彼が製作した楽器は、1748年の5ストップのオルガンで、これは彼の結婚の年でもある。1749年に同業であった2人のオルガン製作者とオルガンの修理をめぐって衝突し、それによって彼の法的権利が危機に瀕したことが、この時期以降フーベルトが有弦鍵盤楽器の製作に集中していった理由と考えられる。
 彼の後継者であったホフマン(Johann Wilhelm Hofmann 1764-1809)によれば、フーベルトはクラヴィコード以外にもハープシコードとピアノフォルテも作っていた。ピアノフォルテは2台が彼の作として現存してる。一方クラヴィコードは80台が現存している。このことが、私たちが彼を主としてクラヴィコード製作者と見なす理由となっている。彼が実際に作ったクラヴィコードの数は推測するしかないが、最初のクラヴィコードが作られた1756年から最後の1789年までの間に、少なく見積もって約200台のクラヴィコードが作られた。彼は晩年まで製作を続け、80台のうち12台が80年代の作であり、さらに複数のピアノフォルテとオルガン1台もこの時期に製作されている。この頃彼は70歳の老人だった!ホフマンは、1789年から彼を手伝っていたと語っている。
 フーベルトは生前には限られた地域でしか知られていなかったように思われる。彼の名前は、ジルバーマンやシュタインのように、C. Ph. E. バッハやW. A. モーツァルトのような有名な音楽家の書いたもののなかには出てこない。
 フーベルトの名前は、J. G. Meusel Miscellaneen artistischen Inhalts (1786)と、E. L. Gerber Lexicon der Tonkünstler (1790) に見ることができる。
(Vermeijの引用によればこの二つの資料には、フーベルトがすぐれた楽器製作者として有名であること、彼のピアノフォルテがフランス、イギリス、オランダに送られていること、彼は小男で控えめで品のある性格だが、わずかに短気で頑固なところもあること、にもかかわらず仕事においては彼は非常に正確で精密なこと、などが書かれています)
 フーベルトの生涯についてのこれ以上の情報が出てくる可能性はないだろう。というのも、重要な情報源となったであろうアンスバッハ辺境伯の公的記録が失われてしまったからだ。これらの記録は、ナポレオン時代にミュンヘンへ移されそこで破棄されてしまった。

fretted or unfretted

2013-04-05 10:04:07 | Instruments
Silbermannクラヴィコードを納品してきました。これまでfretted 5オクターブの楽器を使ってもらっていたので、2台並べて弾き比べてみました。そもそも設計や響板の削り方などもかなり違っているので、音色や響きについてfrettedとunfrettedとの違いを単純に比較できないのですが、感じたことを書きたいと思います。
同じ5オクターブの音域ですが、弦の数はfrettedは90本、unfrettedは122本、張力はそれぞれ約400kgと約500kgです。張力は25%増えています。そもそもクラヴィコードは響板の面積がチェンバロに比べて小さく、短いブリッジに弦が密集して張られているので、単位面積あたりの響板を押さえつけるようにかかる弦の圧力は大きくなります。この圧力が響板の振動を抑えるので、弦の数が少なく張力が低いほど楽器としては鳴りやすい、という主張があります(例えば、渡辺順生チェンバロ・フォルテピアノ p.499)。イタリアン・チェンバロの弦を細めに張り替えたことでより開放的な鳴り方に変化した経験がありますので、クラヴィコードもにそれがあてはまることは十分に考えられます。
一方で、中高音のレストプランクが斜めに設置されたタイプの楽器で試すことができますが、弦の圧力のかかった部分の響板を指で軽く弾くと、いかにも楽器らしい気持ちのいい音がしますが、張力のかかっていないレストプランクで区切られた右奥の三角形の部分は、ただの板を叩いたつまらない音しかしません。ピアノでは「クラウン」という響板の盛り上がりを意図的につけて響板に弦の圧力がかかるようにしますが、それと同様の効果があるのかもしれません。そう考えると、弦の圧力が響板の振動を抑えるとは一概に言えないようにも思います。
前置きが長くなってしまいましたが、今回のunfrettedの楽器のa1からe2あたりの十分にレゾナンスのある濃厚な鳴り方は、弦の数が多いことが必ずしもマイナス要因にはなっていないことを示唆しています。Silbermannの響板の裏側には、ブリッジに直交して厚さ1mm幅25mmほどのブレイスが3本、というより3枚、ベリーレイルから手前側板にかけて両端を彫り込んで差し渡されたカットオフバーとレストプランクとの間に貼られていますが、これらは弦の圧力を支える意図がうかがえます。クラックの入りやすい響板手前の縁に薄い板を数枚貼った楽器は例がありますが、ブリッジの下に貼ったクラヴィコードの例はあるのでしょうか?

作者がJohann Heinrich Silbermannというのも推測の域を出ないもので、イギリスのクラヴィコード製作家Peter Bavingtonはこの説に異を唱えています(Five Identical Clavichords Attributed to Johann Heinrich Silbermann)。Johann Heinrichのサインのあるスピネットと同じデザインのローズが使われていることが有力な根拠となっているようですが、Bavingtonは明らかに異なる製作者の楽器に同じローズが使われている例があり、ローズ専門の職人の存在が考えられるとしています。そしてスピネットと同じラベルのあるfrettedクラヴィコードと、彼の作と言われる同じ設計の5台の楽器との、スタイルや材料、モールディングの違いを指摘しています。
弦の張力を響板全体に分散させて伝えることでより響きやすい響板を作っているとすると、この楽器のどことなくフォルテピアノ的な鳴り方を説明できるかもしれません。たとえばシュタインのような、フォルテピアノやタンジェントピアノなどより張力の高い楽器の製作にも精通した製作者だったのではないかという気もします。

unfretted クラヴィコード

2013-04-04 00:56:55 | Instruments
ようやく完成しました。
モデルはJohann Heinrich Silbermannの1775年ころの作とされている楽器ですが、Silbermannというのはあくまで推測で、それに対する異論もあります。




全体に柔らかい音色で、最高音までよく伸びます。低音は少し弦が細かったようで、響板の反応はいいもののちょっと弱いかもしれません。張力を4kgまでに抑えたのですが、5kgくらいは必要だったようです。
タッチの均質感はunfrettedならではのもので、とても気持ちのいいものです。