渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 ― 第12回 5億円のギャンブルはなぜ成功したのか 「鋼の錬金術師」プロデューサー、次の狙いは?【前編】 という記事を読んだ。
内容は昨年のヒットアニメ「鋼の錬金術師」のプロデューサーである田口出版事業部長が「ハガレン」についてクリエイティブとビジネスの両面から語った記事だ。内容は、この連載の他の記事と違って、ビジネスマンが読んでも内容に共感できるものなので、ぜひお読みいただけばいい。
マンガからアニメ化していくビジネスを具体的に語ってくれているので参考になるだろう。
ということで、この記事の中に書かれている「ハガレン」というビジネスについて、簡単にイラストに起こしてみた。
ハガレンにおいては、アニメ化というのは、コミックを売るための販売促進的な位置づけだ、という。とは言っても、すごいのは、その決断力だ。ハガレンのアニメ化を決めたタイミングでの「鋼の錬金術師」の売上は第1巻で 15万部 (0.6億円)。仮に、このとき発売されていた 5巻すべてが同じ部数売れていても、3億円強の「売上」しかない。そこへ、5億円の投資を行ったという。(一見 CM収入が還元されそうだが、この場合、スクウェア・エニックスが自社スポンサーで提供したので、アニメ放映単体では、すべてが投資になっている。)
その結果、第1期のアニメ放映終了時には、8巻累計が 1,080万部に拡大。45億円のビジネスに拡大した。インタビュー記事の中にでてくる「5億円の投資を回収するためには、330万部必要」という発言から計算すると、コミックの利益率は約36%。結果として、45億円のビジネスになったということは、利益が 16億円。アニメ化のコスト 5億円を差し引いても 11億円。合計の利益率にして、約 24% 。
そして、2009年からの第2期アニメ化。
ここでの投資額は不明だが、製作がすべてハイビジョンに変更になり、回数も全64回に拡大された。CM もほとんどが自社のガンガンなどの宣伝だったことを考えると、こちらもやはりすべてが投資。其の回収は、コミックや DVDの販売によって回収されるモデルを描いたと考えられる。
得られた売上は合計 300億円 (推計)。
DVD の利益率もコミックと同じと仮定すると、約110億円の利益があったことになり、ここから第1期のアニメ化 5億円をひいても、105億円。仮に第2期アニメ化に 30億円を投じたとしても 70億円の利益があったことになる。
これは大成功した事例だから、コミック、アニメ化が常にこれだけの成功を生むわけではない。
田口氏の場合、出版部門の売上が 100億円から 50億円に減少する中、何かバクチを打たなくては、会社としての業績が回復できない。そのバクチを選ぶのに、クリエイティブな面から、「鋼の錬金術師」に賭けた。ここからはあくまで運や、作品そのものの力もあって、成功につながったわけだ。
以上、こんな風に数字を明確に語ってくれる「アニメ作品」のインタビューというのも珍しいなあということで、ちょっと自分で数字を補足しながら、紹介してみました。
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