お釈迦さまは極楽の蓮池のふちに立って、
しばらくじっと見ていらっしゃいましたが、
極楽の蜘蛛の糸は、きらきらと細く光りながら揺れもせず、
地獄の底まで長く垂れているばかりでございます。
やがてお釈迦さまは蜘蛛の糸をそっとお手からお放しになり、
悲しそうなお顔をなさりながら、
またぶらぶらお歩きになりはじめました。
千載一遇の機会を目前にしても、
その情報の真偽を自らの手で確かめることなく、
ただ黙って座っている無気力な罪人たちが、
お釈迦さまのお目から見ると、
なんともあわれにおぼしめされたのでございましょう。
しかし極楽の蓮池の蓮は、
少しもそんなことには頓着いたしません。
その玉のような白い花は、
お釈迦さまのおみあしのまわりに、
ゆらゆらうてなを動かして、
そのまん中にある金色のずいからは、
なんともいえないよいにおいが、
たえまなくあたりへあふれております。
極楽はまたひるに近くなったのでございましょう。