第3274話 令和版 蜘蛛の糸(後編)

2022年03月21日 10時00分00秒 | 創る(フィクション・ノンフィクション)

お釈迦さまは極楽の蓮池のふちに立って、

しばらくじっと見ていらっしゃいましたが、

極楽の蜘蛛の糸は、きらきらと細く光りながら揺れもせず、

地獄の底まで長く垂れているばかりでございます。

やがてお釈迦さまは蜘蛛の糸をそっとお手からお放しになり、

悲しそうなお顔をなさりながら、

またぶらぶらお歩きになりはじめました。

千載一遇の機会を目前にしても、

その情報の真偽を自らの手で確かめることなく、

ただ黙って座っている無気力な罪人たちが、

お釈迦さまのお目から見ると、

なんともあわれにおぼしめされたのでございましょう。


しかし極楽の蓮池の蓮は、

少しもそんなことには頓着いたしません。

その玉のような白い花は、

お釈迦さまのおみあしのまわりに、

ゆらゆらうてなを動かして、

そのまん中にある金色のずいからは、

なんともいえないよいにおいが、

たえまなくあたりへあふれております。

極楽はまたひるに近くなったのでございましょう。


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