如く、六には舌軟らかにして面(おもて)を覆いかつ耳の際に至る、七つには咽中二所(のどのところふたとこ
ろ)より津液(しんえき)流れ、八には味(み)中味を得、九には方頬車(ほおぼね)獅子の如く、十には四牙(よつが
おくば)最(いと)白く大いに、十一には歯白く斉密(さいみつ)にして根深く、十二には口中四十歯あり、十三
には肩好く圓く、十四には身廣く端正、十五には獅子王の如く、十六には両腋下満ちて广尼珠(まにし
ゅ)のごとし、十七には両足下両腋下両肩上項の中皆満字の相あり、十八には皮薄く滑らかにして垢
を受けず、十九には身の色微妙にて閻浮檀金(えんぶだんごん)に勝り、二十には毛上に向かい靡(なび)き青
色にして右に旋(めぐ)り、廿一には摠身の毛孔より悉く一毛生じ輭(やわらか)に、廿二には身の縱横等し
く泥俱盧樹(でぐるじゅ)の如し、廿三には陰蔵相(陰部相)象王馬王の如く、廿四には平住(へいじゅう)両手膝を
摩(すり)、廿五には脚の腨繊好(かたちほそく)伊泥延鹿王(いでえんろうおう)の如く、廿六には足の趺(こう)高く平
にして好踵(きびす)と合称(かない)、廿七には足の指合縵網(あしのゆびあいまんもう)余人に勝れ、廿八には足の
裏廣く具足満好(ぐそくよくみち)、廿九には手足柔輭(やわらか)に余人身分に勝り、三十には手足指長く、
三十一には足の下千幅網轉輪相(せんぷくもうりんそう)を具え、三十二には足下(足裏)安下(やすく)奩(れん)底の
如しと、逐一指し示しければ淨飯王感伏したまい、亦、問いたまわく。朕が太子已に斯くの如くの
好相あれば福(さいわい)是に過ぎず。然りと雖も世にあらば轉輪王となり出家せば一切種智をなすべし
と、此の両端雲壌の違いあり。朕、衰老に及んで後は国土を太子に譲り身歯山林に
閑居して風月を玩(もてあそ)ばんとす。然るに若し太子、出家学道せば誰にか大位を譲るべき。願わ
くは神仙両端の内、いずれか是なる精しく考えて示したまえと仰せける。阿私陀打ち笑い天機漏ら
すべからず。遂に知るべきのみと答え、袖を払い坐を起ち右手もて雲を招き発(おこ)し、是に乗て虚
空に上り香山をさして飛び去りにけり。
悉逹太子 提婆逹多と技を競う
淨飯王は、阿私陀仙人が飛び去りしを見たまいて心中疑惑を生じ、昔日(むかし)摩耶夫人胎孕(こもり)三
年に及びし時、百人が中に一人の相者。胎内の太子かならず成道正覚して衆生を済度せんと云しを
思えば、もしこの太子、朕を捨て出家得道すべきにやと頗る叡慮を煩いしたまい、五百人の乙女の
容貌端麗なる者を撰み太子の左右に侍らしめ、其の遊戯(あそび)の玩物(もてあそ)具えずという事なく、
且暮(あけくれ)歌舞吹弾して太子の心を慰めたまう。是ぞ娯楽(たのしみ)をもて厭離の心を消せしめん御
心なり。斯くて太子十歳に成りたもう春正月、恒例にて小弓はじめの式あり。淨飯王、諸釋種の貴
冑(だち)をめし其の役を定めたまう。東方の対象を悉逹太子とし、副将を甘露飯王の皇子廣耶(こうや)
太子とし、その余百人の童子の俊才を撰び従わしめ、西方の大將を斛飯(こくはん)王の皇子提婆太子と
し、副将を白飯王の皇子㫋陀(せんだ)太子とし、同じく百人の童子の竒才を撰びて従わせ、偖、城
中に射場を構え警固の官人四方を守り楼上に淨飯王出御
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