映画館で役所広司主演の「PERFECT DAYS」を観てきました。
隣の駅前にある映画館は以前と全く変わらない空気が漂い、
それだけでコロナ以降引き籠もっていた私はほっとしたのです。
「PERFECT DAYS」は寡黙な映画でした。
だからでしょうか、映画を観た後、実にさまざまな思いが巡りました。
また、主人公の平山(役所広司)が自前の清掃用具を積んだ車で現場に移動する際、
カセットテープでかける曲が
これまた私の人生にとって思い出のページに刻まれたものばかりで、
何一つ身構えることなくこの映画の醸し出す雰囲気に包まれたのです。
まず、♪朝日の当たる家♪(The Animals)、
それから、♪Dock of the Bay♪(Otis Redding)、
さらにLou Reed、Rolling Stones、Patti Smith・・・(思い出すままなので順番は違っているかも)
最後にこれでもかとばかりにNina Simonの♪Feeling Good♪です。
圧巻でした。
映画は都内でトイレ掃除に従事する初老の男の日々のルーティンを淡々と映しています。
主人公(平山)は元いいとこのお坊ちゃんだったようですが、何かの事情でドロップアウトし、
ボロアパートに独りで暮らしています。
・毎朝早く、近所の人が外の落ち葉を掃く音で目覚める。
・身支度を整えて、植物に霧を吹き、安アパートのドアを開けて仕事に出る。
・開けたとき、毎日、空を見上げ、風を、空気を感じる。
(この場面、♪It's a new day, It's a new life♪~ニーナ・シモンの歌にぴったり)
・アパート横の自販機で缶コーヒーを買い、車で現場に向かう。
・トイレを丹念にきれいにする。
・神社の境内でサンドイッチと飲み物の昼食を取り、木漏れ日に目を細め、時に写真を撮る。
・仕事の後の風呂屋、一杯呑み屋、休みの日のコインランドリー、行きつけのバー。
・・・・・・
こんな日常が繰り返し、繰り返し、スクリーンに映し出されます。
姪が家出して転がり込んだり、
行きつけのバーのママ(石川さゆり)の元夫(三浦友和)と短い友情の時間を持ったり、
心にさざ波が立ちますが、
また翌日は、身支度を整えて植物に霧を吹き、アパートのドアを開けます。
眩しそうに空を見上げて……。
It's a new day, It's a new life...と歌うニーナ・シモンの深い哀しみに満ちた声が
役所広司の泣き笑いの表情に重なる印象的な最後でした。
映画館からの帰り途、
ふと、今年一月に他界した桐島聡さんのことが心に浮かび、
彼のドロップアウトの人生が思われてなりませんでした。
彼の最期の表情も平山と通じるものがあったのではないか、と。
東アジア反日武装戦線の複数グループのうち、「さそり」に属した彼は
韓国産業経済研究所だか、はざま組だかの入り口を壊しただけで
人が傷ついたり死んだりすることはなかったそうです。
無期懲役になり今も服役している
「さそり」の先輩(同志?)への義理立てがあったのか分かりませんが、
48年間アウトサイダーの人生を歩きました。
自首すればとっくに市民社会に復帰できたであろう量刑だったと推察します。
私はこれからも何度も桐島さんのことを思い出すでしょう。
彼の人のせめて彼岸に幸あれと。
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