にわとりのにわ a hen's little garden

歌うたい時々クラリネット吹きの日高由貴のblog。
ちいさなこころのにわの風景をすこしずつ書きとめていきたいです。

Cathy Segal Garicia's workshop vol.7

2013年01月03日 | 2012 Cathy's workshop rep
キャシーさんのワークショップレポートの続きです。


♪~Honeysuckle Rose~♪


――参加者が2コーラス歌う。


(Cathy)
まあ。あなたはかっこいいスタイルをもっているわね!
長いこと歌っているの?

(参加者)はい。

(Cathy)
いいわね。
ひとつ、あなたの発声(voice production)について気になったのですが・・・。
すこし、緊張して、疲れているように聴こえました。
ちなみにわたしも疲れています(笑)
かならずしも、大きな声を出す必要はないのですが、
もうすこし、喉と声をうまく連携させて(connect)、強い声を出せるかしら?

(参加者)
はい。とても緊張していて、すこし疲れてもいます。

(Cathy)
緊張すると、声がうまく出なくなりますよね。
声帯はバルブのようなものです。
緊張した時にうまく声が出ないのは、息の問題というよりは、
声帯の問題であることが多いのです。

(参加者)
はい。緊張するとよく声が出なくなります。

(Cathy)
ためしに、最初の部分を、ゆっくり歌ってもらえるかしら?


――Cathyさんのあとについて、参加者がゆっくり歌う。


(Cathy)
いま、さっきより、喉と声がうまく連携していますね。

(参加者)
はい。

(Cathy)
重要なのは響きなのです。
もし毎日すこしずつでもウォームアップをすれば、
身体が、響いた状態を覚えるのに役立つと思います。

大切なのは、「毎日」というところで、それをすることによって、
身体が覚えてくれるのです。

もっとゆっくり、ひとつひとつの音を意識しながら歌ってもらえますか?

そして、ここ(喉の、声をだすと震えるところ)に手をあてて、
震えているのを感じてみてください。
低い音も、高い音もです。


――参加者がゆっくり一音一音歌う。


(Cathy)
声帯は、ヴァイオリンの弓と弦の関係に似ています。
弦が能率的に動けば気持ちがいいはずですが、もしそうでなく、
痛みを感じたり、ぎこちなく感じる場合は、何かを改善する必要があります。

それでは、次は3回歌ってみて、できればスキャットもしてくださいね。

(参加者)
はい。スキャットの音遣いについてお聞きしたいです。
スキャットをすると、音が日本語の響きになってしまって、英語のように聴こえないのです。

(Cathy)
それは問題ないわ。
アメリカ人のミュージシャンは、日本語のような響きのスキャットを「魅力的だね」というでしょう。
他の言語を話すひとの音遣いは魅力的です。

昔、エラやカーメンやサラはいろんな音を使っていましたね。
「ビー、ブァオ、」などなど。。
最近では、多くの歌手が、もうすこしソフトな音を使う傾向にあります。

ずっと「ウー」や「ブビブビ」と言い続けるのでなければ(笑)、
好きな音を使ってかまわないと思いますよ。
あなた自身の言葉を話すように、スキャットをしてみてください。


――参加者が歌う。


(Cathy)
かっこいいですし、とてもいいスタイルを持っていますね。
楽しくて、幸せな感じがします。
あなたが歌っているところを見るのは楽しいわ。
スキャットの音遣いも、いいと思います。
続けていけば、もっともっとよくなると思いますよ。
アイデアがどんどん浮かんできて、音楽的になると思います。

(参加者)
はい。ありがとうございます。
いつもとても緊張して、なかなか思ったことができないんです。

(Cathy)
もっとすごい緊張をしているひとを見たことがありますよ(笑)
歌うことは楽しいことだということを覚えていてくださいね。

その気持ちを大切にして、前に進むのです(go forward)。
瞬間を楽しんで、全てのものはその一瞬にある(in the moment)ということを覚えていてください。
そして、集中をきらさずに、動き続けること(keep focusing and keep moving).
そうすると、緊張はどこかに消えてしまいます。

(Phillip)
ほんとうにそうです。
僕がキャシーを好きなのは、普段の生活のなかから音楽が出てきているところです。
特別なステージというよりも、普段の生活という感じなんです。
普通の服、普通の雰囲気だから、緊張していなくて、音楽のクオリティがいい。
いっぱい緊張してだめになってしまうと、その演奏の意味がなくなってしまうと思います。

それから、この曲については、ビバップの伝統があります。
3小節目と4小節目で半音上げるんですが、それをどこかでするかな~といつも様子を見ています。
人によって、するひととしないひと、全部するひとと、一部だけするひとがいますが、
もしするなら、歌う人が自分で転調すれば伴奏者はついていきます。

「これをやったら変かなあ?」となにかを思いついたとき、
僕は間違いなくそのアイデアを実行します。
だって遊びたいから(笑)
遊びに集中すると、緊張がなくなります。


(Cathy)
そうね(笑)
お疲れ様でした!



(一同拍手)


(筆者)
ちなみに、この参加者はわたしでした。
自分でずっと課題にしている、発声について、具体的な練習法を教えていただけて勉強になりました。

今年は、もっと声を滑らかに出せるようになること、
ピッチのコントロールをできるようになること、
表現の引き出しを増やすことが目標です。

「楽しみながら」が大切ですね♪



~♪Honeysuckle Rose♪~

lyrics:Andy Razaf
music:Thomas ‘Fats’ Waller








Cathy Segal Garicia's workshop vol.6

2012年12月15日 | 2012 Cathy's workshop rep
♪~In the wee small hours of the morning~♪



次の方は、In the wee small hours of the morningというバラードを歌われました。

夜明け前にひとりでベッドに横になり、誰かを想う切ない孤独感が綴られている歌です。
抑制された感情表現が胸を打つ、美しい歌でした。


(Cathy)
素晴らしいわ。
とても美しいです。


(参加者)
ありがとうございます。
わたしは普段はピアノを弾いています。
いつもピアノを弾きながら歌っていて、時々フィリップさんと一緒に演奏しています。


(Cathy)
それではきょう立って歌うのはいつもとはちょっと違う感じだったんですね。


(参加者)
はい。


(Cathy)
あなたのフレイジングはとっても美しかったです。


(参加者)
ありがとうございます。
ただ、時々お客様がグラスを割ったり、いろいろなノイズがあるときに、集中することができないんです。どんなときにも集中したいのですが、何曲か歌っていると、ある瞬間、別のことが頭をよぎって、集中できなくなるのです。
どんなときにも、なにがあっても自分の世界に集中するにはどうすればいいか、教えていただきたいです。


(Cathy)
わかりました。

ちょっとしたお話があるので、聞いてくださいね。

昔、ハリウッドでライブの予定があって、そこは、モータウン(アメリカ、デトロイト発祥のレコードレーベル)のビルのすぐ近くだったの。
黒人のピアニストとの演奏でした。

そのバーには、モータウンのひとたちがたくさんいて、リラックスして、お酒を飲んで大声でしゃべっていたわ。バンドのところまで、ノイズがたくさん届いていたの。

そして、わたしは、たくさんの黒人たちがわたしを見て、「ふん。白人の女がなにをするつもりだ?」と思っているような空気を感じていました。
とにかくとてもうるさいの(笑)

わたしの最初の夫は、とても聡明でスピリチュアルなひとでした。

家に帰ったわたしは、へとへとになっていて、ほんとうに疲れきった大変な気持ちでいたんだけど、
彼がこう言ってくれたの。

「オーケー。
僕が、君とピアニストのまわりに、想像の結界(imaginary boundary)をはってあげる。
なにも結界のなかには流れてこない。
だけど、内側から外側には流れることができるんだ。」

そして、その考えは、次のステージで、完璧にうまくいったんです。
観客は静かになって、音楽を聴いてくれ、楽しんでくれました。


(参加者)
あるとき、ひとりの男の人がお酒を飲んでさわいでいたんです。
さわいでいるのはそのひとひとりだけだったんですけど、でも、ステージにいてそのひとを無視するのもどうなのかと思って、気にしてしまうんです。
それは無視してもいいんでしょうか?


(Cathy)
まあ。そういうことってあるわよね(笑)
そういうときは、「ハーイ。ごきげんいかが?」と話しかけたらいいんじゃないかしら?

状況にもよるけれど、わたしが好きなやり方は、そのひとを無視するのではなくて、そのひとも包み込んだ上で音楽をつくることです。

まあ、ほんとうに状況によりますけれどもね。


(Phillip)
ほんとに状況によるよね。
たぶんよっぱらいは何をしてもかわらないんじゃないかな(笑)


(Cathy)
そうね(笑)

話したり、歌ったりする音は、空気(air)です。
それは、音へと変換(translate)されます。

あなたの身体を通して、空気と音を送り、放ちます。

みんな、深呼吸をしてみましょう。


― 一同深呼吸。


(Cathy)
それから、空気に音をのせて旅をするようなつもりで、音をつくってみましょう。


― 一同、「アーーーーーーーーー」と何度か声を出してみる。


(Cathy)
そういう感じで歌ってみるといいです。
ときどき、いい音がつくれないときがあります。
疲れていたり、ほかにもいろいろな理由がありますね。
理由がなんであるにせよ、うまく声がでないとき、深呼吸をして、息をはいてみるのは、
ひとつのアイデアです。

あなたは、空気とうまく調和しているとき、とても美しい声を持っています。


(参加者)
ときどき声がかすれるんですが、どうしたらいいですか?


(Cathy)
わたしも、とても深刻な問題を抱えています。
ここ数年間、咳がとまらないのです。
病気ではなく、アレルギーの一種なの。
それから鼻炎もあります。

だから、食事や生活習慣に気をつけているの。
辛いものやジュースをさけて、お水を飲んでいます。
ときどき紅茶もだめなの。コーヒーも。

だからあなたも、一番あなたに効果のある方法を見つけないといけません。

昨晩も、バラードを歌っている途中で咳がでました。
鼻炎には、レモンが効くみたいです。それから、たっぷりのお水ね。




―最後に、参加者の方がもう一度歌って終わりました。
先ほどよりも、さらに静かになり、細部にわたるまで声の色の幅がひろがり、豊かになったようでした。




(vol.7に続く)


~In the wee small hours of the morning~
Music by David Mann
Lyrics by Bob Hilliard







Cathy Segal Garicia's workshop vol.5

2012年11月18日 | 2012 Cathy's workshop rep
♪~Everytime we say good-bye~♪

次は、男性ヴォーカリストの登場です。

Cole Porterの美しいバラード、"Everytime we say good-bye"を歌われました。
歌のあと、一同の拍手に包まれました。

(Cathy)
とても詩的(poetic)で美しかったわ。
それじゃあ、もう一度歌ってもらえるかしら?
最初はとても緊張したと思いますから。

(参加者)
はい。
とても緊張しました。

(Cathy)
少ない観客の前で歌うのは、とっても難しいわよね。

(Phillip)
ほんとうにそうだよね。
みんながこっちを見ていて・・・。
でも、結局みんな楽しみたいだけなんだ。

素晴らしかったです。
ピアノの立場から言わせてもらうと、僕は、男性ヴォーカルの伴奏をするのが大好きです。
女性ヴォーカルとは音域が違うから、演奏のしかたを変えないといけない。
それはとっても面白いです。

(Cathy)
それはとっても興味深いわ。
あなたはテナー、それともバリトンですか?

(参加者)
たぶんテナーだと思います。

(Cathy)
あなたはこの曲のキー(音域)が気に入っていますか?

(参加者)
はい。

(Cathy)
あなたは最初の部分のメロディーを把握してますか?

(参加者)
はい。ただ、最初のうち、コードがわからなくて自分の音をさがしていました。

(Phillip)
最初のうち、僕は歌を聴きながら自分の演奏を調整していました。
この楽譜は違うけど、ときどきひどい楽譜もあります。
その場合、最初のうち、なかなか歌とうまく調和しないこともあります。

(Cathy)
これはわたしの経験からいうのですが・・・最初の音というのは、なかなかわかりにくいことも多いですよね。
もし、自分の歌おうとするメロディーの最初の音がよくわからないときは、演奏に入る前に、ピアニストに「最初の音を弾いてもらえませんか」とお願いしてもいいと思います。

(Phillip)
そう。いろんなやりかたがあります。
曲によっては、最初の音を見つけるのがとってもむずかしい。
たとえば、「いそしぎ」なんかは、最初の音は調の半音下の音で・・・コードのなかの13度目の音だから、音をとるのがすごく難しいんです。

それじゃあもう一度歌ってみましょう。

――参加者がもう一度歌う。
一同拍手。

(Cathy)
素晴らしいわ。
自分でもわかっているとおもいますが、あなたはすべての音を正確に歌ったわけではないけれど、感情(emotion)が素晴らしくて、さらにそれを表現する方法が素晴らしかったです。
とても感動的だったわ。
選んだ音も、タイミングもとてもよかったです。

この歌に関して、なにか質問はありますか?

(参加者)
歌の全体をつかむのにはどうしたらいいですか?
たとえば、A、Bなどの形式の中で、一部は歌えるけど、
ある部分についてはうまく歌えないんです。

(Cathy)
わたしには質問の意味がよくわからないのだけれど・・・
聴いていると、ひとつの完全な歌として聴こえましたが・・・。

(Phillip)
たとえばクラッシック音楽だったら、同じ形式が繰り返される時に、
二回目に繰り返す時の効果を高めるために、意図的に一回目を静かに演奏したりする。
彼はそういうことについて質問したいんじゃないかな。

(参加者)
そうです。

(Cathy)
わたし自身は、あまりそういうことは考えてないわ。
あなたの歌は素晴らしかったですし、音楽はそのときにつくられるものですから(In the moment)。

たとえば、明日、あなたの気持ちは変わっているでしょう?
恋人は明日になればたぶんまた戻ってきますからね(笑)

(このうたは、「あなたに『さよなら』というとき、いつも自分の一部が死んでしまう気がする。神様はどうしてあなたを行かせるんだろう。さよならを言うときはいつも、長調の調べは、哀しい短調の調べになる。」という内容の歌詞です――筆者注)。

ジャズが、特別で素晴らしいところは、毎回違う演奏をすることを許されているところです。
ブリッジ(サビの部分)から始めたり、終わりの部分から始めるなど、いくつかアレンジ(編曲)をほどこすこともできますが、この曲に関しては、このままがいいと思います。曲自体がとてもシンプルで美しいからです。

(Phillip)
歌と伴奏の関係について、芸術的な観点から言うと、時々ピアノを弾くのをやめて、声だけを響かせる箇所をつくりたいと思っています。
一番大切な気持ちが出ているところで、伴奏なしで声だけになれば、声が完全に聴こえる。一番微妙なところまで完全に聴こえる。それは、とてもかっこいいと思うんです。
だから、できればそのチャンスをつくりたい。
それはまるであらかじめアレンジしていたように聴こえるかもしれませんが、実際はアドリブです。
歌と伴奏の対話ですね。

(Cathy)
この曲、とてもあなたに合っていますね!
素晴らしかったです。


(vol.6に続く)

~Everytime we say good-bye~
lyrics&music by Cole Porter


Cathy Segal Garcia's workshop report vol.4

2012年11月05日 | 2012 Cathy's workshop rep
♪~Lullaby of birdland~♪


次のかたは「バードランドの子守唄」を歌われました。

「歌うと思っていなかったので、下手だと思います。すみません。」と恐縮されていましたが、とっても素敵な歌でした。

(Cathy)
なんて素敵なの。あなたはとっても魅力的な声(interesting voice)を持っていますね!

(参加者)
ありがとうございます!とっても緊張しました。


―――ここで、参加者の方が、「So 緊張しました。」と英語と日本語をまぜて言ったので一同大爆笑になりました。


(Cathy)
あなたはよくライブで歌っているの?

(参加者)
いいえ。時々・・・年に一回か二回です。

(Cathy)
歌うのってとってもいい気持ちじゃない?楽しいわよね。
すごくいい演奏でしたよ。
最初は緊張していたと思うから、次は3回歌ってみてくれないかしら?
そうしたらどうなるか見てみましょう。


―――参加者の方が、今度は3回続けて歌われました。
音も、リズムも、一回目とすこしずつ変化しているのがわかります。
いいフレーズが出たり、チャレンジングな音で歌われた時には、ところどころで、Cathyさんから”Hey”と励ましの声がかかりました。
参加者のかたが、最後のほうでスキャットをされ、
演奏が終わると、みんなの拍手に包まれました。


(参加者)
すみません。スキャットってやったことがなくて、今日初めてだったんです。

(Cathy)
素晴らしいわ!
なにが素晴らしかったのか伝えさせてくださいね。
まず、なによりもあなたが勇敢(brave)だったこと。
それから、ふたつめは、とてもよくフィリップの音を聴いていたこと。
これは歌を聴くとよくわかりました。
フィリップの演奏によって、あなたの歌は変化していましたね。
それは、とても素晴らしいことです。
声が綺麗で、ピッチ(音程)もいいです。
それから感情表現も豊かでしたね。
たとえば”kiss"というときなんか・・・わたしはあの歌い方、とっても気に入ったわ!
(この参加者の方は、kissという単語を歌うときに、ささやくように歌っておられて、とてもセクシーで印象的でした――筆者注)。


(Cathy)
それから、あなたはスキャットをしましたね。
いま、フィリップはVamp(*1)と呼ばれる演奏をしていましたが、通常スキャットをするときは、曲の一番はじめの部分にもどって、新しいメロディーをつくりますよね(You are rewriting melody)。
もちろん、曲の半分だけスキャットするときもありますけれども――ピアニストは、あなたが新しいメロディーをつくっている間、コードを演奏します。
でも今回彼が演奏したのは、2種類のコードだけでしたね。

(Phillip)
そう。いま弾いたのは3―6―2―5(*2)です。


(Cathy)
それは、曲の一番最後に使われる、演奏パターンなのです。
これをVampといいます。
フィリップ、もう一度演奏してもらえるかしら?

(Phillip)
もちろん。
この曲のキーはDbですから、3-6-2-5は、F―Bb―Eb―Abになります。
まあいまは2-5-3-6となっていますが。


―――フィリップさんが、2-5-3-6といいながら、しばらくの間Vampを演奏してくださいました。


(Cathy)
さっき何が起こったかというと、フィリップは、あなたが演奏を終えようとしているということがわかって、Vampを演奏したんですね。
あなたはそれを聴いてスキャットを始めましたね。
そしてフィリップはそれを聴きながら、ここで終わり、と決めてエンディングを演奏した。
あなたはそれを聴いて、自分も一緒に終わったんですよね。
それはすごいことなんですよ。
音楽的なタイミングがあうって、ほんとに楽しいことですからね!
素晴らしかったですよ。


―――キャシーさんのお褒めの言葉のなか、参加者のかたはしきりに照れておられました。
大きな拍手のなか、参加者のかたが席に戻られると、キャシーさんがVampについての説明を続けられました。


(Cathy)
Vampにはいくつか種類があって、よく曲の最後に演奏されますが、時々、曲の途中でソロの代わりに演奏されることもあります。
ドラム奏者がソロをしているときにピアノ奏者がVampを演奏すると、ソロが面白くなるんです。
ハーモニーができますからね。

(Phillip)
そう。よくドラム奏者が「なんでみんなのソロのときにはちゃんと伴奏があるのに、僕のソロのときだけ僕独りなんだ?」と言うので、その気持ちを直してあげるためにVampをいれます(笑)
ピアノで静かにVampを演奏しながらベースにも入ってもらって、ドラムソロをやると、けっこうエキサイティングになります。

(Cathy)
そう。エキサイティングね。

(Phillip)
それからイントロ(*3)でやるときもある。

(Cathy)
そうね。そうそう、イントロについてもうひとつ話したいわ。
わたしは、イントロは長めが好きよ。短いイントロって、ちょっとせわしないでしょう?
イントロを演奏している間、バンドはなにかをつくりだして(create something)いますよね。
そこにわたしは自然に入っていきたいの。
だから、ちょっと長めのイントロが好きなんです。

では次のかたに歌ってもらいましょうか。


(vol.5に続く)

~Lullaby of birdland~
lyrics by George David Weiss
music by George Shearing


*1)Vamp:種類のコードを繰り返すこと。Bossa Novaのエンディングなどによく使われる。

*2)3625:4度ずつ動くコード進行のこと。

*3)イントロダクションintroductionの略。前奏のこと。


Cathy Segal Garcia's workshop report vol.3

2012年11月02日 | 2012 Cathy's workshop rep
♪~Shiny Stokings~ ♪

まず、キャシーさんに指名されたはじめのかたが、”Shiny Stokings”という曲を歌われました。

一回目は歌詞を歌い、二回目はスキャット(scat:歌詞ではなく、適当な音をあてて声で即興演奏をすること)をされました。
スキャットが終わると、ピアノのソロに入る前にキャシーさんが指示を出していったん演奏をとめ、アドバイスをされました。

(Cathy)
とっても素敵。あなたの歌が聴けてうれしいわ。
それに、一番初めに歌うというのは大変な状況よね。すごく緊張したと思うわ。

(参加者)
はい(笑)

(Cathy)
まず、フィリップの音をよく聴いてみて(Keep focus)みてください。フィリップのグルーヴ(groove=リズムのうねり)をよく聴いてみて。
わたしには、あなたがとってもいいグルーヴ感を持っているのがわかります。
ただ、緊張すると、それが出せないのよね。

(参加者)
そうなんです。

(Cathy)
それでは、フィリップのすることをよく聴いてみたら、なにが起こるかみてみましょう。
スキャットをするときも――それにしてもあなたのスキャットは素晴らしかったわ――同じです。
フィリップのピアノを聴いて、歌を考えて、また聴いて・・・というふうにしてみてください。
それでは何度か歌って、心地よくなってからスキャットをしてみましょう。

―――キャシーさんのアドバイスを聴いてから、参加者の方がもう一度歌われました。
さっきよりもリラックスして、表現の幅が広くなり、のびやかになっているのがわかりました。
参加者の方の歌をふくらませるように、フィリップさんの美しい音がよりそっていきます。

(Cathy)
とっても素敵よ。
最初にうたったときとは感情表現が違っていましたね。
この曲の歌詞が悲しい内容(恋人がほかのひとに心を移してしまった)というのもあるけれど、最初はちょっと悲しい感じがしたわ。
でも、二回目は、フィリップ、彼女があなたをとってもよく聴いているのがわかったでしょう?
最初と全然違っていたわよね。

そしてスキャットはほんとにかっこよかったわね!
あなたはとてもいいダイナミクス(強弱の表現)を持っている。強弱の変化がないととても退屈になってしまいますから、ダイナミクスは大切です。
面白い音を選んで、とっても面白いハーモニーをつくっていましたね。

それから、モチーフ(いくつかの音符からなる連なり)をくりかえしくりかえし発展させていましたね。とっても面白かったわ。
途中でハプニングが起こって、「わたしはどこかしら?」と思った時に、とても勇敢に前に進みましたね。
そしてとってもうまくそのハプニングを使いました。
とっても楽しそうに歌って、ほんとに素晴らしかったわ!!


(vol.4に続く)


~Shiny Stokings~
music by Frank Foster
lyrics by Ella Fitzgerald(*1)

*1)ジョン・ヘンドリックスの歌詞もありますが、今回はEllaのヴァーションです。







Cathy Segal Garcia's workshop report vol.2

2012年11月02日 | 2012 Cathy's workshop rep
♪~You'd be so nice to come home to~♪



まず初めに、キャシーさんとフィリップさんが演奏してくださいました。

曲は、"You'd be so nice to come home to"でした。

初めに、「みんなが知っていると思うので、この曲にしますね。キーはDmで、ゆっくりとグルーブする感じ(リズムがうねる感じ)でやろうと思うの」とキャシーさんがフィリップさんに伝え、演奏がはじまりました。

キャシーさんの声は、肩の力がぬけていて、決して声をはりあげるわけではないのに、艶があり、遠くまで響く声でした。一つ一つの音がニュアンスに満ちていて、対話をするように、音が紡がれていきます。

歌詞のなかの”August moon(8月の月)"という箇所を”April moon(4月の月)"に変えてうたっておられたので、演奏が終わったあと、質問の時間に「歌詞を4月にかえられたのには、4月に特別な意味がありますか?」とお尋ねしたところ、「いいえ。歌詞を忘れちゃったんです」と笑いながらおっしゃいました。

そして、「集中するにはどうすればいいですか」という質問に対しては、
「集中できないのにはいろいろな理由があるので、その理由にもよりますが・・・わたしのやり方は、静かにすることです」とおっしゃいました。

「ひとつは、頭のなかを静かにすること。考えるのをすこしやめて、静かになるのを待ちます。
それから、演奏もシンプルにして、休みをたくさんとるのです。」

そして、Vol.1でもご紹介したように、不安をコントロールするためのひとつのアイデアとして、キャシーさんが使っている方法を紹介してくださいました。

加えて、不安になっているときは自分のことで頭がいっぱいになっているので、周りのミュージシャンの音をよく聴いてみる。そうすれば、自然に集中できると思う、とおっしゃっていました。

それから、ある歌手のお話をしてくださいました。
そのかたはスキャットをするわけではなく、キャシーさんは、最初の3曲くらいを聴いたとき、普通歌われるものと歌詞が違うのが分かりましたが、それが即興なのかどうかわからなかったそうです。

ただ、聴いているうちに、その歌手のかたが、即興をしていることがわかったとのことでした。

大きなビジョンに向かって構築していくのではなく、ほんのすこし歌詞を変えることによって、まるで日本の庭園のように、限られた小さなスペースのなかで即興をしていたのだそうです。

彼女のようなスタイルもいいと思う、とキャシーさんはいい、いろいろな歌い方があることの例としてお話をしてくださいました。


さて、次はいよいよ参加者のひとが実際に歌っていきます。


(vol.3に続く)


~You'd be so nice to come home to~
music&lyrics by Cole Porter

Cathy Segal Garcia's workshop report vol.1

2012年10月31日 | 2012 Cathy's workshop rep
30th, Oct. 2012 19:00~ 定員10名
Cathy Segal Garcia(vocal)
Phillip Strange(piano) at studio Azul


素晴らしい歌手、キャシー・シーガル・ガルシアさんのワークショップに参加してきました。
ワークショップの内容を、キャシーさんの承諾を得てすこしずつ紹介していきたいと思います。
はじめに、参加者の自己紹介(名前だけ)と、キャシーさんのお話があり、そのあと、ひとりひとりについて、実際に歌を聴いてアドバイスをくださいました。

できるだけ忠実に内容をお伝えしたいと思いますが、英語力の問題もありますし、あくまでもわたしの解釈ですので、その点はご了承ください。

キャシーさんのお話は、音楽を演奏する際の、精神のあり方とでもいうべきものについてでした。


一番大切なことだとおっしゃっていたのは、「自分を信じること(Trust yourself)」と、「共演するミュージシャンを尊敬すること(Respect the musicians)」でした。


------たくさんの人が、自分を十分に信じることができていないと感じます。
自分が信じられないから、やる前にとても怖くなりますね。

けれども、やってみなければできるかどうかわからないのです。
だから、やってみるしかありません。


「失敗はチャンス(Mistake is an opportunity.)」という言葉をみなさんも聞いたことがあると思います。

人間だから、当然失敗はする。
失敗をチャンスにかえて、学ぶ。これは人生そのものです。
だから、音楽で、人生を表現できるのです。

失敗したらどうしよう、とみな不安になりますが、失敗しても、それを糧にして次につなげて歌えば、聴く人はその歌から生きる勇気をもらえるでしょう。
ああ、わたしも失敗しても、次につなげればいいんだ、とね。

クラッシック音楽と違って、ジャズでは、毎回違う演奏をすることが許されています。
だからこそ、新しいことを恐れずに、どんどんチャレンジしてみてほしいのです。
わたしは年齢を重ねるにつれて、どんどん物忘れがひどくなっていますが・・・たとえば歌詞ね(笑)、でも失敗をうまくカバーする方法はどんどん上達しているんですよ。

歌手のみなさんは、よく「失敗したらミュージシャンに嫌われるのではないか」と怖がっていますが、実際には失敗したからといって嫌われるわけではありません。

98%のミュージシャンは、あなたが新しいことに挑戦しようとするのを喜び、失敗しても、それをどう展開するのか、楽しみにして、サポートしてくれるはずです。
(でも2%はそうじゃないかもしれませんけどね・・・笑)

ただ、共演するミュージシャンをあなたが尊敬(respect)することはとても大切です。
あなたが相手を尊敬しなければ、相手もあなたを尊敬することはありません。

悪い意味での自信(エゴego)が勝っている人がいますが、こういう人は、共演するミュージシャンに対して敬意を払っておらず、自分のことばかり考えています。
共演するミュージシャンに嫌われるのは、失敗したときではなくて、敬意を払わないときです。


-----それから、自分を信じようとすると、必ず邪魔してくる「声」がいますね。

その声は、なにかをしようとするあなたに対して、「お前はだめだ。」「あーひどいなその声。」「ほらみろ失敗しただろう。」「そんなことできるわけないよ」と耳元でさわぎ、ひっきりなしにあなたを不安に陥れようとします。

それは、誰もが聞いてしまう声なのです。
その声に対して、どう対処するか、その方法はひとりひとりが自分で見つけなくてはなりません。

ひとつの方法として、わたしは、この声を、こんなふうに考えることにしています。

小さなこどもがだだをこねて、仕事をしようとするあなたに、「かまって。かまって。」と腕にすがりついてきます。

あなたを不安にさせる声は、この小さなこどものようなものです。

「いまは仕事があるの。すこしだけ待っていてね。」と、むずかるこどもを優しく諭して、あなたは仕事を続けなくてはいけません。
諭したからといって、こどもはいなくなるわけではありません。

でも、そんなふうに、声に振り回されてしまうのではなく、上手に距離をとってつきあっていくことが大切なのです。

あるいは、スーツケースのなかに、演奏の間しまっておくという考えもありますよ(笑)。

歌っている途中で、「これで合っているのかしら」、「いま曲のどこにいるのかわからない」、と不安になることがあると思いますが、わからなくなれば、わかるところにくるまで待てばいいのです。

音楽は進んでいます。
だから、ストップするのではなく、リラックスして、自分を信じて待っていればいいんですよ。

それから、わたしは、自分の生徒に、自分のようになってほしいとは思いません。
わたしはすべての人に、「あなた」になってほしいのです。


                     ~♪~♪~

このお話のあと、ひとりひとりが自分の好きな曲を歌い、キャシーさんのアドバイスをいただきました。キャシーさんはほんとうに丁寧に指導してくださって、当初7時から9時の二時間の予定だったのですが、終わったのは11時過ぎでした。

でも、楽しくてあっという間でした。

次回は、具体的なアドバイスのご紹介をしたいと思います。